第2節 長期安定的な事業運営の確保

FIT法の施行から6年半が経過しましたが、FIT制度により参入が急速に拡大した太陽光発電のプレーヤーを中心に、設置工事・メンテナンスの不備等による安全面での不安や、景観や環境への影響等をめぐる地元との調整における課題などが顕在化してきています。これら「地域との共生」に向けた課題を克服するため、信頼ある発電事業者としての必要十分な規律や地元との円滑な調整の在り方について検討する必要があります。また、小規模な事業が多い中、FIT制度による買取期間が終了した後も再エネ発電事業が適正に継続され、更には将来的な再投資が行われるような事業環境を作り上げていくことも重要です。直近の災害により顕在化した再エネ発電事業への懸念等も踏まえ、再エネが責任ある長期安定的な電源として社会に安定的に定着するために必要な取組として、安全・保安面の規律強化、地域住民・自治体との調整円滑化、太陽光発電設備の廃棄対策、といった施策を総合的に進め、再エネ発電事業の長期安定的な事業運営を確保していく必要があります。

また、太陽光発電に偏重した導入が進む中、エネルギー安定供給の観点からは、洋上風力発電や地熱発電など立地制約による事業リスクが高い電源も含め、バランスの取れた導入を促進することも重要です。特に、我が国にとって洋上風力発電は、大きな導入ポテンシャルとコスト競争力を合わせ持ち、再エネの最大限の導入拡大と国民負担の抑制の両立において重要な電源として位置づけられます。洋上風力発電のための海域利用ルールの整備として、第197回国会に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下「再エネ海域利用法」という。)案」を提出し、成立に至りました。さらに2018年12月には、総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会の下部組織として、新たに洋上風力促進ワーキンググループを設置し、国土交通省と合同で具体的な運用方法の検討を開始したところであり、再エネ海域利用法の適切な運用を通じて、洋上風力発電の導入促進を図っていきます。

1.事業規律の確保

(1)安全の確保

①電気事業法に基づく技術基準の適合性確認(法規制の執行強化)

現行制度においては、50kW未満の太陽電池発電設備に対しては、電気事業法では技術基準への適合義務が課されておりますが、専門性のある者による確認は行っていない状況です。今般の災害による被害状況を踏まえると、一部の50kW未満の太陽電池発電設備において、安全上必要な性能を満たしていない懸念があります。

このため、50kW未満の太陽電池発電設備について、電気事業法に基づく技術基準の適合性に疑義があると思われる案件を特定した上で、電気事業法やFIT法に基づく報告徴収・立入検査を実施し、必要に応じて指導、改善命令、認定取消し等の厳格な対応を速やかに行うこととしています。

②技術基準が定めた「性能」を満たす「仕様」の設定・原則化

現状、電気事業法が定めた電気設備の技術基準は、安全上必要な「性能」を国が定めるものであり、これを満たす設備を、事業者の責任で設計・工事・確認し、設置することとなっています。

50kW未満の太陽電池発電設備については、その多くがFIT制度の創設以降、発電事業に参入した事業者であり、一部の事業者においては、電気保安に関する専門性を有していないために、構造強度が不十分な疑いのある設備を設置している可能性があります。そのため、50kW未満の太陽電池発電設備については、電気事業法に基づく技術基準が定めた「性能」を満たすために必要な部材・設計・設置方法等の「仕様」を定め、これを原則化していくことを検討しています。

③斜面等に設置する際の技術基準の見直し

傾斜地や土地改変された場所への太陽電池発電設備の設置は、平地への設置と比べてリスクが高く、十分な技術的検討を行った上で行う必要があります。このため、電気事業法においては、現行の技術基準においても、太陽電池発電設備を、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号。以下「急傾斜地法」という。)の指定する斜面(周辺に一定規模以上の人家や病院等の施設が存在するなど特別な要件を満たす場合)に設置する際には、当該区域内の急傾斜地の崩壊を助長するおそれがないように施設することと定められています。ただし、急傾斜地法の指定を受けていない斜面については、相対的にリスクが低いと考えられていたため、技術基準上特段の定めがありませんでした1

先に発生した平成30年7月豪雨“西日本豪雨”では、急傾斜地法の指定を受けていない斜面や切土、盛土等の土地改変された場所に設置された太陽電池発電設備が崩落したことを踏まえ、設置環境に応じた太陽電池発電設備に係る技術基準の見直しを検討しています。

(2)地域との共生

①FIT認定基準に基づく標識・柵塀設置義務違反案件の取締り

2017年4月に施行された改正FIT法では、FIT認定事業者に対し、発電設備への標識及び柵塀等の設置を義務付けたところであり、これを設置していない事業者に対し、これまで、必要に応じて口頭指導を行ってきました。しかしながら、改正FIT法の経過措置期間(標識及び柵塀等の設置について、改正FIT法施行以前(2017年3月31日以前)に旧認定を受けた発電設備については、改正後のFIT法の認定を受けたものとみなされた日から1年以内に設置することとされている)を超過した2018年度においても、標識や柵塀等が未設置の設備や柵塀の設置が不適切な設備の情報が引き続き寄せられていました。このため、FIT認定事業者に対し、標識及び柵塀等の設置義務について2018年11月に改めて注意喚起を実施しました。なお、注意喚起後も引き続き標識や柵塀等が未設置との情報が寄せられた案件については、必要に応じ口頭指導を実施しており、今後も、必要に応じて現場確認も行った上で、認定基準違反として、報告徴収、立入検査、指導、改善命令、認定取消し等の厳格な対応を速やかに行うこととしています。

②自治体の先進事例を共有する情報連絡会の設置

全国の各地域でトラブルになる再エネ発電設備が増加したことから、改正FIT法においては、条例も含めた関係法令の遵守を義務付け、関係法令遵守違反の場合には、指導及び助言、改善命令、認定取消し等の対応を行うこととしています。この仕組みを実効性あるものとするためには、自治体による条例策定等の自律的な制度整備が必要となりますが、国もそれを支援することが求められています。このため、条例策定など地域での再エネに係る理解促進のための先進的な取組を進めている自治体の事例等を全国に共有する場として、自治体と関係省庁を参加者とする連絡会を2018年10月に新たに設置しました。

(3)太陽光発電設備の廃棄対策

太陽光発電設備は、太陽光パネルの製品寿命(25~30年)を経て、事業が終了する2040年頃に、大量の廃棄物が排出される見込みです。こうした将来の太陽光パネルの大量廃棄をめぐって、様々な懸念が広がっており、特に事業の終了後に太陽光発電事業者の資力が不十分な場合や当該事業者が廃業してしまった場合、太陽光パネルが放置されてしまう、あるいは不法投棄されてしまうのではないかという懸念があります。こういった懸念を払拭するために、発電事業者による廃棄等費用の積立てを担保するために必要な施策について、検討を開始しました。検討の方向性としては、①廃棄等費用については、原則として発電事業者の売電収入から源泉徴収的に積立金を差し引く方法による外部積立を求めつつ、長期安定発電の責任・能力を担うことが可能と認められる事業者に対しては内部積立を認めることも検討し、②具体的な制度設計については、今後、専門的視点からの検討の場を設け、引き続き検討を行っていきます。並行して、すぐに出来ることから着手すべく、発電事業者に毎年度提出を義務付けている発電コスト等の定期報告において、廃棄等費用の積立計画と進捗状況の報告を義務化し、その実施状況を公表しました。

また、不適切な廃棄処理により、太陽光パネルに使用されている有害物質が流出・拡散されるのではないかという懸念があります。有害物質が適正に処理されるよう、2018年12月に太陽光発電協会が策定した「使用済太陽電池モジュールの適正処理に資する情報提供のガイドライン」に基づき、太陽光パネルメーカー及び輸入販売業者は産廃事業者に積極的に情報提供を行っていくこととしました。現在、23社2が対応しており、この23社で2017年の国内における太陽光パネル出荷量の約6~7割を占めます。

さらに、産業廃棄物の最終処分場のひっ迫を解消し、資源の有効利用を図るためには、太陽光パネルのリユース・リサイクルを促進することが必要です。他方、太陽光パネルについては、大量廃棄は足下で現実には発生していないこともあり、リユース・リサイクル・処分の実態把握が進んでおりません。そのため、正確な実態把握を基にした政策検討を行うため、環境省・経済産業省共同で、まずはコストも含めた基礎的・包括的な実態調査を行いつつ、義務的なリサイクル制度の必要性について検討していきます。資源エネルギー庁では、当該調査の1つとして、将来の想定パネル排出量のモデルについて、i) 出力低下に起因して排出される場合、ii) FIT買取期間終了後も一定期間発電事業が継続されてから排出される場合など、より現実に即した仮定の下で、推計の精緻化を図りました。本推計によると、太陽光パネルの年間排出量のピークは2035~2037年頃であり、年間約17~28万トン程度、産業廃棄物の最終処分量の1.7~2.7%3に相当する量となります。

【第332-1-1】太陽光パネルの排出見込量

出典:
NEDO推計

2.立地制約のある電源の導入促進(洋上風力のための海域利用ルールの整備)

(1)洋上風力をめぐる世界の動き

洋上風力発電には陸上風力発電と比較して次の特徴があります。まずは、陸上と比較して風況が優れているため設備利用率を高めることが可能(世界平均では陸上約30%、洋上約40%)で、また輸送制約等が小さいため大型風車の設置が可能であり建設コスト等を抑えることができるので、コスト競争力のある再エネ電源と言えます。さらに、事業規模は数千億円に至る場合もあり、また1~2万点と部品数が多いため、部品調達・建設・保守点検等を通じて地元産業を含めた関連産業への波及効果が期待できます。

このような洋上風力発電は、現在世界で最も飛躍的に導入が拡大している再エネ電源の一つです。国際エネルギー機関(IEA)によると、2017年は世界全体で再エネの導入容量は前年比約8%増加しましたが、洋上風力発電だけを見ると前年比約30%も増加しています。また、2017年末時点で洋上風力発電の累積導入量の多い上位5か国は、イギリス、ドイツ、中国、デンマーク、オランダ、となっており、欧州を中心に導入が進んできたことがわかります。

欧州では、1990年にスウェーデンで世界初の洋上風力発電所の実証試験が開始されたのを皮切りに、デンマークやオランダ等で次々に実証試験が行われました。2000年頃からデンマークを中心として事業化を目指した洋上ウィンドファームの建設が始まり、2000年代半ば頃からはイギリス、ベルギー、ドイツ等の参入が進み、欧州全体の導入量は2017年末時点で1,578万kWにまで達しています。このように欧州で洋上風力発電の導入が進んだ背景にはいくつか要因があります。

まず、北海などの欧州の海は風況が良く、また海岸から100kmにわたって水深20~40mの遠浅の軟弱地盤の地形が続くなど自然的条件に恵まれているのです。加えて、2000年代後半以降、洋上風力発電についてのルール整備が進められ、設置のための調査や、事業を実施する区域の選定、電力系統の確保などについて政府の役割が増しており、これによって事業者の開発リスクが低減されてきたことも大きな要因です。また、入札制度も導入され、事業者間の競争が促されることで、価格が急速に低下している点も重要です。例えば、2015年以降の入札では、落札額が10円/kWhを切る事例や市場価格(補助金ゼロ)の事例も生まれています。

アジアでも、例えば中国は2020年に累積導入量を500万kWにする目標をたてており、2017年末時点で導入量は280万kWに達しています。また、2018年には台湾で洋上風力発電の大規模な入札が行われ、2025年までに稼働予定の550万kWが落札される等、洋上風力発電の導入拡大に向けた動きが活発化しています。

【第332-2-1】欧州における最近の洋上風力発電の入札の動向

出典:
資源エネルギー庁作成

(2)日本の状況と再エネ海域利用法の成立

周囲を海に囲まれた日本にとって洋上風力発電の導入はきわめて重要です。2018年に閣議決定されたエネルギー基本計画の中でも「陸上風力の導入可能な適地が限定的な我が国において、洋上風力発電の導入拡大は不可欠である」と位置づけられています。

2000年代後半から、海底地形が急峻で、また台風や地震が多いといった厳しい自然環境への適応やコスト削減を図るための実証事業が国主導のもと行われており、現在の導入量約2万kWはすべて国による実証事業です。こうした実証事業の成果の蓄積やFIT制度の導入、世界の導入実績の増加等を背景に、現在日本でも積極的に商用運転を目指す事業者の動きが活発化しており、環境アセスメント手続き中の案件は約540万kWに達しています。こうした中で、次の2つの課題が事業化への大きな障害として顕在化しました。

1つは、「海域の占用に関する統一的なルールがない」ことです。従来、海域の大半を占める一般海域は占用の統一ルールがなく、都道府県が条例に基づき通常3~5年の占用許可を出す運用がなされていました。FIT買取期間の20年と比較して短期の占用許可しか得ることができないため、中長期的な事業予見性が低くなり、資金調達が困難になっていました。

もう1つは、「先行利用者との調整の枠組みが不明確」という課題です。海域を新たに利用するにあたっては、海運業や漁業等の地域の先行利用者との調整が不可欠ですが、調整のための枠組みが存在せず、事業者には大きな負担となっていました。

これらの課題の解決に向けて、2017年に内閣府・経済産業省・国土交通省の三省連携の下で検討チームが立ちあがり、第197回国会に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下「再エネ海域利用法」という。)案」を提出し、成立に至りました。

本法律においては図【第332-2-3】で示す手続きの流れに基づき、事前調査の実施、先行利用者等をメンバーに含む協議会の設置、促進区域の指定、事業者選定のための公募実施、海域占用の許可、等を国が主導することで、洋上風力発電事業を行いやすい環境が整備されます。

促進区域とは、自然的条件が適当であること、漁業や海運業などの先行利用に支障を及ぼさないこと、系統接続が適切に確保されること、等の要件に適合した一般海域内の区域のことで、洋上風力発電事業の実施のために指定され、その区域内では最大30年間の占用許可を事業者は得ることができます。また、事業者選定のための公募では、長期的・安定的・効率的な事業実施の観点から最も優れた事業者を選定することで、責任ある長期安定的な電源かつコスト競争力のある電源として洋上風力発電の導入を促進する仕組みとなっています。具体的な運用方法については、2018年12月に経済産業省と国土交通省が立ち上げた合同の審議会にて検討が進められているところです。

再エネ海域利用法が施行される2019年は「洋上風力元年」とも言えます。法律の運用はもちろんのこと、浮体式をはじめとした技術開発、系統制約の克服、環境アセスメントの短縮化、基地港湾の整備、等に関係省庁一丸となって取り組み、洋上風力発電の導入拡大を推進していくことが重要になります。

【第332-2-2】日本における洋上風力発電の導入状況及び計画

出典:
資源エネルギー庁作成

【第332-2-3】再エネ海域利用法の手続きの流れ

出典:
資源エネルギー庁作成
1
ガイドラインに基づき自社Webサイトに情報提供を行っている旨を太陽光発電協会宛に連絡した企業数(2019年2月時点)
2
資源総合システム調べ(一部推計)
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排出太陽電池モジュールを仮に全量埋め立てたと仮定した場合、平成27年度の産業廃棄物の最終処分量に占める太陽電池パネル割合を示します。出典:環境省「産業廃棄物の排出及び処理状況等(平成27年度実績)」を基に算出