第2節 ガスシステム改革及び熱供給システム改革の推進

1.熱供給システム改革の実行

熱供給システム改革は、電力・ガスシステム改革とあいまって、熱電一体供給も含めたエネルギー供給を効率的に実施できるようにするため、2013年11月に総合エネルギー調査会基本政策分科会の下に設置された「ガスシステム小委員会」において熱供給事業の在り方などを検討・審議し、2015年6月の電気事業法等の一部を改正する等の法律の成立を受けた後は、熱供給システム改革を着実に進めていく上で必要な実務的な課題を含めた具体的な制度設計について議論を行いました。

2016年4月に実施された熱供給システム改革では、許可制としていた熱供給事業への参入規制を登録制とし、料金規制や供給義務などを撤廃し(ただし、他の熱源の選択が困難な地域では、経過措置として料金規制を継続)、熱供給事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課しました。

熱供給システム改革の実行により、事業環境の整備が行われ、エネルギー市場の垣根の撤廃や異業種からの参入が促進され、電力・ガスシステム改革が一体的に推進していくことが期待されています。

2.ガスシステム改革小委員会における議論

電力システム改革とあいまって、ガスが低廉・安全かつ安定的に供給され、消費者に新たなサービスなどの多様な選択肢が示されるガスシステムの構築に向け、小売の全面自由化、LNG基地の在り方も含めた天然ガスの導管などの供給インフラのアクセス向上と整備促進や、簡易ガス事業制度の在り方などについて検討するため、2013年11月に総合エネルギー調査会基本政策分科会の下に、「ガスシステム改革小委員会」を設置しました。2016年度は、ガスシステム改革を着実に進めていく上での実務的な課題を含めた具体的な制度設計に関する検討・審議を中心に、計3回にわたる議論を行いました。

3.ガスシステム改革後における保安の取組

ガスの小売全面自由化が行われ、新たなガス小売事業者の参入が開始されたことから、ガス小売事業者の保安水準の維持、向上を図る観点から、需要家にガス小売事業者の自主保安活動の特徴的な取組状況をホームページで分かりやすく紹介し、消費者が保安面で優れているガス小売事業者を選択することを支援する「見える化」制度を構築しました。

4.ガスの小売全面自由化の進捗状況

(1)ガス事業制度に係る制度設計

2015年6月に成立した電気事業法等の一部を改正する等の法律に基づき、2017年4月1日に小売全面自由化等のガスシステム改革が実施されました。ガスシステム改革の実施に当たっては、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会ガスシステム改革小委員会(2013年11月から2016年6月にかけて33回開催)、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会(2016年10月から2017年2月にかけて2回開催)、産業構造審議会保安分科会ガス安全小委員会(2014年6月から2017年3月にかけて16回開催)、同小委員会ガスシステム改革保安対策ワーキンググループ(2015年7月から2016年5月にかけて6回開催)及び電力・ガス取引監視等委員会(2016年4月より電力取引監視等委員会にガス・熱に関する業務が加わり発足。)等において、随時議論がなされてきました。

ガス小売全面自由化の進捗状況については、電力・ガス基本政策小委員会及び電力・ガス取引監視等委員会等において確認が進められています。

ガス小売全面自由化の進捗状況の検証、検証結果を踏まえて必要と認められる措置の検討、2022年4月1日に予定される大手ガス事業者の導管部門の法的分離等に関する制度設計については、引き続き、総合資源エネルギー調査会等での議論を踏まえ、政府として検討を進めます。

(2)ガス小売事業者の登録

ガス小売事業者については、2016年8月の事前登録申請の受付開始から12月7日時点までに、51者が登録されました。ガス小売事業者の登録に当たっては、資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会が、「ガスの使用者の利益の保護のために適切でないと認められる者」に該当しないか、法令に則りそれぞれ審査を行っています。なお、電気事業法等の一部を改正する等の法律の経過措置により、旧一般ガス事業者からガス小売事業者となった事業者が203者、旧簡易ガス事業者からガス小売事業者となった事業者が1174者存在します。

家庭用のガス小売事業について事業者の新規参入があった地域は関東、中部、近畿、九州地方の特に都市部に集中しており、その地域数は2017年10月末時点で全国の約9%に留まるものの、新規参入のあった地域における全都市ガス販売量の規模は、全国の約78%に達しています。

【第362-4-1】新規ガス小売事業者の登録状況

(3)経過措置料金規制の対象地域の指定と指定の解除

ガス小売全面自由化に伴い、ガスの小売供給に関する料金規制は原則撤廃されましたが、LPガス、オール電化等との競争が不十分であると認められた地域については、需要家利益の保護の観点から経済産業大臣が指定を行い、経過措置として料金規制を継続しています。2016年11月には、ガスシステム改革小委員会等の議論を受けて策定された指定基準に基づき、旧一般ガス事業者の供給区域等では12区域等、旧簡易ガス事業者の供給地点では1730供給地点群を経済産業大臣が指定しました。

また、指定を受けた地域の競争状況は、経済産業大臣が3か月に一度の事業者報告により継続して把握し、競争が十分であると認められた地域については指定を解除することとしています。2018年3月には、ガスシステム改革小委員会の議論を受けて策定された指定解除基準に基づき、旧一般ガス事業者の供給区域では3地域、旧簡易ガス事業者の供給地点では246団地の指定を経済産業大臣が解除しました。2018年3月現在、旧一般ガス事業者の供給区域では9地域、旧簡易ガス事業者の供給地点では1484団地の指定が継続中です。

【第362-4-2】指定対象事業者一覧(旧一般ガス事業)

2018年3月に経過措置対象の指定解除

(4)スイッチング件数及び新規参入者の販売シェア

ガス取引報によると、ガスの小売全面自由化で新たに自由化された市場において、都市ガス小売事業者間のスイッチングは近畿、中部・北陸、九州・沖縄、関東で発生しているものの、北海道、東北、中国・四国では2017年10月時点で見られません。

【第362-4-3】月間切替え(スイッチング)実績(2017年10月)

また、経過措置料金規制が課された地域において生じた契約の累計切替え件数は、2017年10月末時点で約125万件であり、2017年4月時点における規制料金の契約件数に占める割合は8.5%に達しました。切替え件数の88%は既存事業者の経過措置料金メニューから自由料金メニューへの切替え、12%は既存事業者から新規参入者への切替えとなっています。

新規参入者の全需要種に占めるガス販売量は、2017年4月から10月にかけて増加傾向にあり、全体の約12%となっています。家庭用のガス販売量に占める新規参入者のシェアは全国で1.6%、特に近畿地方で高く3.6%となっています。

【第362-4-4】指定旧供給区域内における累積契約変更件数(2017年4月~10月)

(5)メニューの多様化

ガス小売全面自由化を契機に、全国各地のガス小売事業者が新たな料金・サービスメニューの提供に取り組んでおり、料金・サービスの多様化が進んでいます。各事業者が提案する新メニューでは、ガス料金の割引を行うもの、電力や通信といった他のサービスとのセット割引を行うもの、料金支払いに対しポイントを付与するもの、顧客の見守りサービスを提供するもの、トラブル時の駆けつけサービスを提供するもの、ガスの使用量や料金の見える化サービスを提供するもの、といった類型が見られます。新たな料金・サービスメニューを選択可能な地域の需要家件数は、2018年1月時点で全体の約9割に達しています。

また、特に経過措置料金規制の対象とされている関東、中部、近畿の3大都市圏では、ガス小売全面自由化を契機に、新規参入者・既存事業者のいずれもが、経過措置料金メニューに比べて割安な新メニューを提供しています。

【第362-4-5】ガス事業者のサービス向上に向けた新たな取組み

(注)
2018年1月10日時点
出典:
各社プレスリリース・HP等より資源エネルギー庁が作成

【第362-4-6】ガス事業者のサービス向上に向けた新たな取組みの類型表

出典:
各社プレスリリース・HP等より資源エネルギー庁が作成

【第362-4-7】大手3事業者の地域の料金比較

出典:
ガス取引報より電力・ガス取引監視等委員会が作成(2017年11月28日第24回制度設計専門会合資料)

(6)適正な取引確保のための厳正な監視

① ガス小売事業者に対する指導など

2017年4月にはガスの小売事業への参入が全面自由化され、家庭を含む全ての需要家がガス会社や料金メニューを自由に選択できることとなりました。こうした中、ガスの小売供給に関する取引の適正化を図るため、「ガスの小売営業に関する指針」を踏まえ、需要家への情報提供や契約の形態・内容などについて、ガス事業法上問題となる行為を行っている事業者に対して指導を行うなど、事業者の営業活動の監視などを行いました。また、電力・ガス取引監視等委員会の相談窓口などに寄せられた不適切な営業活動などについて、事実関係の確認や指導を行うとともに、独立行政法人国民生活センターと共同し、2016年12月~2017年8月の間に相談事例の紹介及びアドバイスについてプレスリリースを3回行い、情報提供しました。

(参考)プレスリリースの実施状況

  • 第1回 2016年12月15日 連携協定締結について
  • 第2回 2017年3月30日 2017年2月までの相談内容について
  • 第3回 2017年4月28日 2017年4月までの相談内容について
  • 第4回 2017年11月30日 2017年10月までの相談内容について

② 一般ガス導管事業者に対する指導など

(ア)託送供給申込みに対する不適切な対応問題①

ガス小売事業者A社は、一般ガス導管事業者B社に対して、複数の託送供給検討申込みを行ったところ、B社は、当該申込みについて検討した結果、「受入不可」などの回答をA社に対して行いました。A社は、当該回答及びB社からの説明について、納得できるものではないとのことから、委員会に対し、B社の回答及び説明が合理的かつ適切なものであったか検証して欲しいとの相談を行いました。

委員会は、A社からの相談を受けて検討を行った結果、B社の説明は託送供給を拒否する「正当な理由」に該当するものではないと判断したため、B社に対し、委員会の指摘を踏まえた再回答などを行うよう指導を行いました。

(イ)託送供給申込みに対する不適切な対応問題②

ガス小売事業者C社は、一般ガス導管事業者D社に対して、託送供給検討申込を行ったところ、D社は、当該申込みについて検討した結果、一定の前提条件を付した上で「受入可」の回答をC社に対して行いました。C社は、当該回答及び説明について、納得できるものではないとのことから、委員会に対し、D社の回答及び説明が合理的かつ適切なものなのか検証して欲しいとの相談を行いました。

委員会は、C社からの相談を受けて検討を行った結果、D社の説明は合理的でないと懸念される部分があり、その点を指摘したところ、D社からC社に対して再回答が行われました。C社は、当該再回答を合理的な内容と評価し、その内容で合意し協議も終了しました。

【第362-4-8】消費者からの相談状況

【第362-4-8】消費者からの相談状況(ppt/pptx形式:147KB)