第2節 石油産業・LP ガス産業の事業基盤の再構築
1.石油産業(精製・元売)の事業再編・設備最適化
我が国の国内石油需要は2000年度に比べて2013年度では約2割程度減少しており、「2014年度~2018年度の石油製品需要見通し」によれば、向こう5年間は年平均で約2%の割合で需要が減少していく見込みです。こうした需要減少局面にある我が国の石油産業(精製・元売)の収益率は低迷しています(2013年度の売上高営業利益率は、13社平均で0.7%)。また、アジア新興国においては、輸出志向の大型で最新鋭の石油コンビナートが次々に建設されており、アジア地域全体で石油製品の輸出環境は厳しさを増しています。今後も国内石油需要が減少していく見通しの中、全国的な石油サプライチェーンを維持し、平時・危機時を問わずに石油安定供給を確保するためには、大胆な事業再編を進めて、経営基盤を強化していく必要があります。
具体的には、①石油・石油化学需要の増大が見込まれるアジア新興国における石油精製元売・石油化学事業への参画、②資源開発事業への参画、③国内の電力・ガスシステム改革に対応した電力・ガス事業強化・拡大等の事業戦略を展開していくことが期待されますが、そのためには、十分な投資体力を確保すべく、国内石油事業の収益性回復を図ることが必要です。
このため、石油コンビナートに立地する製油所・石油化学工場等について、「資本の壁」や「地理的な壁」を超えた統合運営・事業再編を通じ、石油製品と石油化学製品等の柔軟な生産体制の構築等による高付加価値化や、設備の共有化・廃棄等による設備最適化、製造原価の抑制に向けた取組を支援するなど、総合的かつ抜本的な生産性向上を進めるための施策を講じました。また、中長期的に原油調達の多様化が必要になることを想定し、非在来原油も含む重質原油の最適処理を可能にする技術開発も促進しました。
<具体的な主要施策>
(1) エネルギー供給構造高度化法(高度化法)による原油等の有効利用の促進【法律】
原油一単位あたりから精製されるガソリン等石油製品の得率を向上させ、余すところなく原油を利用する(原油の有効利用)体制を強化すべく、高度化法に基づく石油精製業者向け「判断基準」(2010年7月5日経済産業大臣告示)により、我が国製油所全体の「重質油分解装置の装備率(各石油精製業者が保有する重質油分解装置能力の、常圧蒸留装置(原油処理装置)能力に対する比率:重質油分解装置能力(分子)/原油処理装置能力(分母))」の向上を義務付けました。対象となる石油精製業者は、自社の装備率の向上に向け、常圧蒸留装置能力の削減(「分母」の減少)、重質油分解装置能力の新設・増設(「分子」の増加)、または、それらの組合せによる対応を進め、我が国製油所全体で重質油分解装置の装備率は10%程度(告示制定時)から13%程度(2013年度末)へと改善されました。結果としては、全ての石油精製業者が「常圧蒸留装置(分母)」の能力を削減したため、我が国の原油処理能力は、過去10年のピークである2008年4月上旬の能力(28製油所・約489万B/D)に比して、2014年4月上旬の能力(23製油所・約395万B/D)は約2割削減されました。
一方、2013年度の国内石油市場の状況や各石油精製・元売会社の業況を踏まえ、産業競争力強化法第50条に基づき、石油精製業の市場構造に関する調査(以下「50条調査」という。)を実施しました(2014年6月に公表)。この50条調査の結果、国内の需給バランスの見通しや産業競争力強化法の事業再編方針に照らしても、我が国の石油精製業は「概ね過剰供給構造にある」と認められ、今後、仮に現在の収益状況や精製能力が継続すれば、本格的な過剰供給構造に陥るおそれが大きい状況にあることが確認されました。こうした認識の上で、石油精製業にとっては製油所の①過剰精製能力の解消や②統合運営による設備最適化等が急務であり、石油産業は事業再編に自ら積極的に事業再編に取り組むことが期待され、そのための政府は必要な環境整備を行う、との結論を得ました。
この結果を踏まえ、高度化法の新たな「判断基準」(2014年7月31日経済産業大臣告示)を定め、我が国全体の残油処理装置の装備率(残油処理装置能力(分子)/常圧蒸留装置能力(分母))を45%程度から50%程度に向上させるべく、対象となる石油精製業者に対し、2017年度3月末を最終期限として、段階的な取組も含め可及的速やかに残油処理装置の装備率を改善させることを求めています。
各社は装備率を、①常圧蒸留装置の削減(「分母」の減少)、②残油処理装置の新設・増設(「分子」の増加)、③それらの組み合わせ、のいずれかの方法で対応することになりますが、仮に、各社がすべて常圧蒸留装置の能力削減で対応した場合には、日本全体としては約395万BD(2014年3月末時点)の精製能力から約40万BDの能力が削減されることになります。
新たな「判断基準」においては、旧判断基準とは異なり、複数の石油会社が連携して高度化法対応を行う場合に「分母」の減少、「分子」の増加について当該会社間で任意の割合で融通し合うことを明確に認める等の措置を講じたほか、「設備最適化の措置」と「事業再編の方針」を含む目標達成計画(原油等の有効利用目標達成計画)の提出を求め、2014年10月末までに全社から計画が提出されました。経済産業省としては、「設備最適化の措置」や「事業再編の方針」の検討状況について、定期的にフォローアップを行い、2017年3月末の最終期限を待たずに段階的対応を含めた早急な対応を求めました。
【第352-1-1】残油処理装置の装備率
- ※1
- JX日鉱日石エネルギーの数字には、鹿島石油、大阪国際石油精製を含む。
- ※2
- 昭和シェル石油の数字には、東亜石油、昭和四日市石油、西部石油を含む。
- ※3
- 東燃ゼネラル石油の数字には、極東石油工業を含む。
- ※4
- 装備率は、小数点第2位を四捨五入した数値。2014年3月31日時点の装備率の計算にあたっては、2010年に定めた判断基準に対応するために実施した能力変更を含む。
(2)精製機能集約強化事業【2014年度当初:47.0億円】
今後、国内石油製品の需要減退が予想される中、石油の安定供給確保の基盤である我が国石油精製業者のなお一層の国際競争力確保に向け、精製機能の集約強化を行う際の製油所の機能転換に係る取組を支援しました。
(3)石油産業構造改善事業【2014年度当初:35.0億円】
石油産業の供給構造改善を通じて石油コンビナートの国際競争力を強化するため、複数の製油所等が統合型運営によって進める設備最適化(地域・資本の壁を超えた石油精製・化学・用役等設備の増強・廃棄等)を支援しました。
(4) 石油コンビナート事業再編・強靱化等推進事業【2014年度補正:95.0億円の内数】
石油精製コストの低減や石油コンビナートの国際競争力強化に向け、複数の製油所・石油化学工場等の事業再編・統合運営に対する支援を措置しました。
(5) 重質油等高度対応処理技術開発委託費【2014年度当初:6.8億円】
石油精製プロセスにおける反応装置等の最適化のため、分子レベルでの詳細組成構造解析を行い、その結果をもとに石油成分の反応や分離挙動等をコンピュータによりシミュレーションするペトロリオミクス技術の開発を行いました。
(6) 重質油等高度対応処理技術開発費補助金【2014年度当初:7.5億円】
重質原油からガソリン等の高付加価値の石油製品を最大限に生産する究極の石油高度利用を実現すべく、重質原油を分解するプロセスを分子レベルで制御する技術の開発を行いました。
(7) 石油利用低炭素化分析評価事業【2014年度当初:3.5億円】
精製過程で生じる残渣油から再生した石油製品について、環境面・安全面において自動車で安心して使用できるよう分析・評価を行うことを通じ、原油から得られる各留分を余すことなく使用する取組に対する支援を行いました。
2.石油・LPガスの最終供給体制の確保
消費者に石油製品の供給を行うサービスステーション(SS)は、販売量の減少、それに伴う収益の悪化、さらには消防法の改正による地下タンク改修の義務化によるコスト増などの要因により、経営環境は厳しさを増しています。加えて、施設の老朽化、後継者難等も一因となり、1994年度に約60,000か所存在していたSSが、2013年度には約35,000か所にまで減少しています。
そのため、平時・緊急時を問わずに安定供給のための中核機能を将来にわたって担っていく意識と高い意欲のあるSSに対して高効率計量機や省エネ型洗車機等の設備投資支援を行うとともに電気自動車等の普及等を見据えた新たなビジネスモデルを支える人材の育成支援などを行いました。
またLPガスについては、その供給網は中山間地域も含め全国に拡がっており、その供給網を活かしたビジネス展開、例えば地方公共団体と連携し高齢者見守りサービス等の取組や地域における供給の拠点である充填所の統廃合を通じた経営基盤の強化等の取組に対する支援などを行いました。
<具体的な主要施策>
(1) 給油所次世代化対応支援事業【2014年度当初:4.5億円】
石油製品販売業の経営基盤を強化するため、電気自動車等の次世代自動車の普及等を見据えた新たなビジネスモデルを構築するとともに、新たなビジネスモデルを支える人材の育成を支援しました。
(2)石油製品供給安定化促進支援事業【2014年度補正:74.8億円】
石油製品の安定供給を確保するため、SSの経営安定化につながる高効率計量機や省エネ型洗車機等の設備の導入を支援しました。また、一定の地域におけるSSの在庫情報等を緊急時に網羅的かつ即時に把握するためのシステム構築等を支援しました。
(3) LPガス流通合理化対策調査【2014年度当初:1.7億円】
LPガスの流通実態・販売事業者の経営実態等を調査し、LPガス産業全体の流通機構の適正化、合理化策を検討するとともに、消費者等に対しLPガスに関する取引・価格等の情報を提供し、消費者意識の向上を図り、市場原理の一層の活性化を図るための調査等を実施しました。
(4)LPガス販売事業者構造改善支援事業【2014年度当初:7.9億円】
小規模事業者が大多数を占めるLPガス販売事業者の構造改善を促進し、LPガス販売業の体制強化を図るため、販売事業者団体が行う消費者相談事業の実施や販売事業者等が行う構造改善推進事業に係る費用に対し補助を行いました。
(5)国際交流事業【2014年度当初:0.2億円】
LPガスの産ガス国や消費国との協調と対話の促進を図るため、国内外のLPガス有識者を招聘し、LPガス国際セミナーを開催しました。
(6) LPガス配送合理化推進事業【2014年度当初:1.3億円】
充填所の稼働率を高めるとともに、LPガスの交錯輸送を解消するため、充填所の統廃合に伴う設備の新設及び増設等に対し補助を行いました。
3.公正かつ透明な石油製品取引構造の確立
<具体的な主要施策>
(1) 石油製品価格モニタリング事業【2014年度当初:2.4億円】
石油製品について、SS等を対象に卸価格や小売価格を調査し、流通マージン等を把握するとともに、必要に応じ公取委への情報提供や石油元売各社等への協力要請等を行いました。
(2) 石油製品品質確保事業費補助金【2014年度当初:15.0億円】
石油製品の適正な品質を確保するため、全国約35,000給油所においてサンプル(ガソリン等)を試買・分析する事業に対し支援を実施しました。また、分析技術レベルの向上を図るため、分析技術の研究開発等に対する支援を実施しました。