第4節 対策を将来へ先送りせず、着実に進める取組
1.高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取組
(1)最終処分に向けた取組の見直し議論の開始
高レベル放射性廃棄物の処分については、2000年に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)」に基づき、処分事業の実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)が、2002年から調査受入れ自治体の公募を開始しましたが、現在に至るまで、法律に基づく最初の調査である文献調査を実施するに至っていません。
こうした状況を反省し、2013年5月、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会の下に放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)を設置し、最終処分に向けた取組の見直しについて議論を開始しました。本WGにおける議論を踏まえつつ、同年12月には最終処分関係閣僚会議を設置・開催し、①現世代の責任として地層処分を前提に取組を進めつつ、将来世代が最良の処分方法を再選択できるよう可逆性・回収可能性を担保する、②国が、科学的根拠に基づき、より適性が高いと考えられる地域(科学的有望地)を提示し、重点的な理解活動を行った上で、複数地域に対し申入れを実施する、等の基本的な取組の方向性を決定しました。こうした方向性については、2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画にも規定されました。
【第344-1-1】 高レベル放射性廃棄物の処分方法
(2)地層処分の技術的信頼性の再評価
東日本大震災を経験したことを踏まえ、地層処分の技術的信頼性について、最新の科学的な知見を反映して改めて評価を行うため、2013年10月、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会の下に地層処分技術WGを設置しました。本WGでは、地層処分を行う場として、地温が低いこと、地下水の流れが緩慢であること等が好ましい地質環境特性として整理されるとともに、各々の好ましい特性を有する地質環境が我が国に十分存在すると考えられると評価されました。また、これらの好ましい地質環境特性に著しい影響を及ぼすと考えられる火山活動、隆起・浸食、断層活動等の天然事象が整理され、段階的な処分地選定調査により、将来十万年程度の期間、好ましい地質環境が大きく変化する可能性が低い地域を選定できる見通しが得られたと評価されました。こうした評価は、2014年5月に「中間とりまとめ」として公表されました。
(3)科学的有望地要件・基準等に関する議論の開始
2014年9月に開催された第2回最終処分関係閣僚会議における決定を踏まえ、国が提示する予定の科学的有望地の要件・基準等について、地球科学的観点及び社会科学的観点の両面から、同年10月以降、放射性廃棄物WG及び地層処分技術WGにおいて専門家による議論を開始しました。
(4)全国での理解活動
2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画や、同年5月に公表された放射性廃棄物WGの「中間とりまとめ」を踏まえつつ、引き続き同WGにおいて個別論点の具体化を図り、2015年5月、最終処分法に基づく基本方針の改定(閣議決定)を7年ぶりに行いました。改定のポイントは以下のとおりです。
基本方針改定のポイント
①現世代の責任と将来世代の選択可能性
- 廃棄物を発生させてきた現世代の責任として将来世代に負担を先送りしないよう、地層処分に向けた対策を確実に進める。
- 基本的に可逆性・回収可能性を担保し、将来世代が最良の処分方法を選択可能にする。幅広い選択肢を確保するため代替オプションを含めた技術開発等を進める。
②全国的な国民理解、地域理解の醸成
- 最終処分事業の実現に貢献する地域に対する敬意や感謝の念や社会としての利益還元の必要性が広く国民に共有されることが重要。
- 国から全国の地方自治体に対する情報提供を緊密に行い、丁寧な対話を重ねる。
③国が前面に立った取組
- 国が科学的により適性が高いと考えられる地域(科学的有望地)を提示するとともに、理解活動の状況等を踏まえ、調査等への理解と協力について、関係地方自治体に申入れを行う。
④事業に貢献する地域に対する支援
- 地域の主体的な合意形成に向け、多様な住民が参画する「対話の場」の設置及び活動を支援する。
- 地域の持続的発展に資する総合的な支援措置を検討し講じていく。
⑤推進体制の改善等
- 事業主体であるNUMO(原子力発電環境整備機構)の体制を強化する。
- 信頼性確保のために、原子力委員会の関与を明確化し、継続的な評価を実施する。原子力規制委員会は、調査の進捗に応じ、安全確保上の考慮事項を順次提示する。
- 使用済燃料の貯蔵能力の拡大を進める。
【第344-1-2】 高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針の改定
(5) 放射性廃棄物の処分に関する調査・研究【2014年度当初:35.0億円】等
高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術の信頼性と安全性のより一層の向上を目指すため、海域における地質環境の評価技術開発や、深地層の研究施設等を活用した地質環境調査技術、操業技術等の工学技術及び安全評価技術の信頼性向上を図るとともに、TRU廃棄物処理・処分技術の高度化等を行いました。加えて、廃棄体の回収可能性の維持が安全性に与える影響調査や、直接処分における地下施設の設計技術の整備等を行いました。
また、原子力発電所の廃炉に伴い発生する低レベル放射性廃棄物の余裕深度処分について、実物大の地下空洞を利用して、埋戻し等の閉鎖技術に関わる施工試験を実施し、施工された埋戻し材の初期性能や埋戻しに伴う周辺の岩盤への影響等について評価・検討を行いました。
2.核燃料サイクル政策の推進
エネルギー基本計画において決定したとおり、我が国は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本方針としています。
また、核燃料サイクルに関する諸課題については、原子力小委員会の中間整理において、「短期的に解決するものではなく、中長期的な対応を必要とする。また、技術の動向、エネルギー需給、国際情勢等の様々な不確実性に対応する必要性があることから、対応の柔軟性を持たせることが重要である。」とされています。
原子力小委員会の中間整理も踏まえて、今後、
- 競争環境下における核燃料サイクル事業について、各事業者からの資金拠出の在り方等を検証し、必要な措置を講じていく
- 使用済燃料の貯蔵施設は、各電気事業者の積極的な取組や、電気事業者間の共同・連携による事業推進、政府の取組強化について具体的に検討していく
- 使用済燃料対策については、国として、使用済燃料対策の強化の基本姿勢を示し、その具体策を盛り込んだ「アクションプラン」を策定し、使用済燃料の貯蔵能力の拡大に向けた取組を進めていく
など、所要の取組等を進めていくこととなります。
<具体的な主要施策>
(1) 次世代再処理ガラス固化技術基盤研究事業【2014年度当初:7.5億円】
原子力発電所等の操業・廃止時の除染等により発生する低レベル放射性廃液等の組成にあったガラス固化技術の確立を目指し、各々の組成に対応した「ガラス」及び「ガラス溶融炉の運転制御技術」に関する試験等を実施しました。
(2) 高速炉等技術開発委託費【2014年度当初:43.0億円】
高速炉の高い安全性実現のため、第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)の枠組みによる国際協力のもとでの国際的な安全設計基準の策定に向けた取組を実施しました。また、放射性廃棄物の有害度の低減及び減容化等に資する高速炉の研究開発を、日仏間の国際協力(ASTRID 開発協力)を活用して実施しました。
(3) 高速増殖炉サイクル技術の研究開発【2014年度当初:299.5億円】
高速増殖炉サイクル技術については、放射性廃棄物の減容・有害度低減に資するため、マイナーアクチニドの分離技術やマイナーアクチニド含有燃料製造技術等の基盤的な研究開発に取り組みました。また、これまでの「もんじゅ」の研究開発で得られた知見を生かし、ASTRID開発へ協力するとともに、米国やフランス等との国際協力を進め、GIFの枠組みにおいて、シビアアクシデント発生時の高速増殖炉の安全性向上に向けた研究開発等に取り組みました。「もんじゅ」については、エネルギー基本計画に定められた方針に従い、実施体制の再整備等を実施しました。
(4)日仏ASTRID開発協力
2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画においては、「米国や仏国等と国際協力を進めつつ、高速炉等の研究開発に取り組む」とされているところ、2014年5月の安倍総理訪仏の際に、日本側の経済産業省と文部科学省、仏側の原子力・代替エネルギー庁が、フランスのナトリウム冷却高速炉の実証炉開発計画である第4世代ナトリウム冷却高速炉実証炉(ASTRID)計画及びナトリウム冷却炉の開発に関する協力取決めに署名し、日仏間の研究開発協力を開始しました。
この日仏ASTRID開発協力に関しては、文部科学省、経済産業省、電気事業連合会、日本電機工業会、日本原子力研究開発機構(JAEA)の五者において、我が国の高速炉の実証技術の確立にも役立つような高速炉枢要技術開発の推進、国際的な動向を勘案した上でのタンク型炉の設計評価や技術的知見などの積極的な情報収集、高速炉開発の国際動向や耐震性・安全性・信頼性・出力規模、経済性などの技術的検討の実施、仏国との協力が効率的に進められる体制の整備、当面のASTRID開発協力の中心となるJAEAにおける国際協力体制の充実も含めた体制整備の検討の実施等を進めることとされました 。
(5) 高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発【2014年度当初:5.8億円】
水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する原子力技術の研究開発を推進しました。
具体的には、JAEAが所有する高温工学試験研究炉(HTTR)の運転再開に向けた準備を進めるとともに、水素製造に関する要素技術開発を推進しました。
また、IAEAの下で高温ガス炉の国際安全基準の策定に向けた協力研究計画を開始しました。
(6) ITER計画をはじめとする核融合に関する研究開発の推進(ITER計画及びBA活動に関する経費)【2014年度当初:251.5億円】
核融合エネルギーは、エネルギー問題と環境問題の根本的な解決をもたらす将来のエネルギー源として大いに期待されています。我が国の核融合研究開発は、国際協力を効率的に活用しながら、JAEA、核融合科学研究所、大学等が、相互に連携・協力して推進しています。
ITER計画は、核融合エネルギーの科学的及び技術的な実現可能性の実証を目指した国際共同研究開発プロジェクトであり、現在、日本、EU(ユーラトム:欧州原子力共同体)、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7つの国と地域によって進めています。また、ITER計画を補完・支援する先進的研究開発プロジェクトとして、幅広いアプローチ(BA)活動を日欧協力により、我が国で実施しています。
両事業において、我が国は調達を担当する機器の製作を進めるとともに、核融合の最先端研究開発などを本格的に進めています。
核融合分野における二国間協力では、米国、EU(ユーラトム)、韓国、中国と核融合研究協力実施取決めを結んでいます。また、多国間協力ではIEAにおいて8つの核融合協力実施取決めを結ぶとともにIAEAの核融合協力に関する活動にも積極的に参画する等、我が国は、世界そしてアジアの拠点として、研究協力や研究者の交流を実施しています。
(7) 再処理積立金法の運用【制度】
使用済燃料の再処理やこれに伴い発生する低レベル放射性廃棄物の処分等の事業は、長期にわたる事業であることから、これに必要な費用を計画的かつ確実に確保するため、「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律」(平成17年法律第48号)に基づき、電気事業者等が必要な費用を確保し、外部の資金管理法人に積み立てることとされました。同法に基づき、2014年度においても、必要な費用の積み立てが行われました。