ISO 50001 導入活用のポイント
ISO 50001は、PDCAプロセスの導入により、体系的なエネルギー管理を実現し、組織の事業活動を支援することができるツールです。
マネジメントシステム及びISO 50001の特徴及びその重要なポイントをよく理解しておくと、省エネ等のエネルギーパフォーマンスの向上や、CO2排出量の削減等を目指す中長期的なエネルギー戦略に一層活用することが可能となります。
ここでは、導入活用の2つのポイントをご紹介します。
・1つ目のポイントは、エネルギーの使用及び使用量を分析し、改善の機会を特定するエネルギーレビューのプロセスです。
・2つ目のポイントは、内部監査及びマネジメントレビュー等に代表されるエネルギーマネジメントシステム(EnMS)の適合性及び有効性の評価のプロセスです。

<ポイントその1>エネルギーレビューのプロセス
従来のISO 9001品質マネジメントシステムやISO 14001環境マネジメントシステムでは、継続的な改善に取り組む仕組みについて保証するものの、マネジメントシステムの成果であるパフォーマンスの改善については、十分な評価が行われない傾向にありました。ISO 9001, ISO 14001は、2015年版の改定から、パフォーマンス(実績)の改善に焦点が当てられるようになってきました。一方ISO 50001は、規格の発行当初から、マネジメントシステムの実績であるエネルギーパフォーマンスの改善に焦点を当てています。改善のための指標をどのように設定するかは、組織の自由ですが、エネルギー消費原単位、エネルギー効率、エネルギー消費量(総量)、エネルギー起源のCO2排出量等をエネルギーパフォーマンスとして捉えるケースが一般的です。このようなエネルギーパフォーマンスの改善は、コストダウン等、組織の事業戦略に直接的に貢献し、競争力強化、他社との差別化につながるものに成り得ます。ISO 50001では、このようなパフォーマンス(実績)の改善を見える化し、支援するための様々な仕組みを提供しています。その代表的な仕組みの一つが、エネルギーレビューといわれるエネルギーの使用状況及び使用量をデータに基づいて分析するプロセスです。
ISO 50001に基づく、エネルギーレビューのプロセスは、次のように構成されています。

図 ISO 50001 エネルギーレビュープロセス
既に省エネ法に基づく活動を十分に実施している組織においても、その取組みをISO 50001の要求事項に沿って補完することによって、事業活動と一体化したエネルギーマネジメントを実現し、一層のエネルギーパフォーマンスの改善を目指すことが可能になります。
<ポイントその2> エネルギーマネジメントシステム(EnMS)の適合性及び有効性の評価
適合性及び有効性評価の代表的なプロセスには、内部監査及びマネジメントレビューがあります。内部監査は、事業者自身が、自らの定めたルールにもとづき、エネルギーマネジメントに取り組んでいることを包括的かつ客観的に評価する機能です。
マネジメントレビューでは、内部監査の結果も含め、トップマネジメント(経営者)自らが、エネルギーマネジメントへの取組み状況及びその実績を評価し、改善の可能性や、新たな方向性について指示を行います。
内部監査で自らのエネルギーマネジメントへの取組みを客観的・包括的に評価し、その結果を含めて、トップマネジメント(経営者)自らがレビュー(評価)することによって、省エネ等のエネルギー管理の活動を経営上の一つの課題として捉え、組織全体でパフォーマンス(実績)の改善に向かう企業風土を作り上げることが可能となります。
ここでは、適合性及び有効性評価の基礎として、内部監査のプロセスを紹介します。
監査活動は、監査の開始 → 監査活動の準備 → 監査活動の実施 → 監査報告書の作成及び配付 → 監査の完了 → 監査のフォローアップの実施というステップで構成されています。(下表)
表 内部監査活動プロセスの概要
内部監査プロセス
|
活動内容
|
留意点
|
(1) 内部監査の開始 | 監査の目的、監査の範囲、監査の基準、 監査チームの選定 |
・内部監査規定の活用 ・監査を受ける部門から独立し た監査員を選定 |
(2) 監査活動の準備 | 文書レビュー等による被監査組織の理 解、監査計画の作成、作業文書(チェック リスト)の作成 |
・重点を置くべき監査箇所の選定 ・監査項目やポイントを整理 |
(3) 監査活動の実施 | 情報の収集及び検証、 監査基準に基づく評価、 監査所見の作成、監査結論の決定 |
・重要度・リスクを考慮した サンプリングによる確認 ・本質的な証拠を見つけて評価 ・改善に向けたアドバイスの 実施も可能 |
(4) 監査報告書の作成、 及び配付 |
合意された監査結論、関連する 監査所見の文書化 |
・トップマネジメントに伝えるべき内容、 被監査部署の責任者に伝えるべき内容 を意識して記述 |
(5) 監査の完了 | - | - |
(6) 監査のフォローアップの実施 | 是正処置の完了と有効性の検証 | ・対応策の検討 ・改善の実施 ・改善結果の評価 |
(1) 内部監査の開始
年間の監査計画等のあらかじめ定められた監査プログラムに基づき、監査を開始します。
内部監査の責任者は、次の事項を明確にし、監査チームに監査の実施を指示します。
- 監査目的
- 監査範囲
- 監査基準
監査チームメンバーは、独立した立場から客観的に評価することができるように、被監査部署と利害関係のない者を選任します。
(2)監査活動の準備
現地監査に先立って、マネジメント文書、記録、過去の監査報告書のレビューを行い、被監査部署の特徴を把握し、以下のような文書を作成します。
- 監査計画書:誰がいつどこを監査するか。
- チェックリスト等の作業文書:監査の際に、誰にどの様な質問をするのか、何を見るのか。
(3)監査活動の実施
現場の監査では、得られた情報を評価し、監査所見を特定します。
1) 情報の収集及び検証:面談、活動観察、文書調査などサンプリングと監査証拠
一般的に、監査では、サンプリングに基づく評価を行います。合理的な結論を導くためには、サンプリングの対象を十分に吟味し、客観的な証拠に基づき、本質的な問題点を見つけて評価し、監査所見につなげるとよいでしょう。2) 監査所見の作成
監査では、監査中に得られた監査証拠を、事業者が自ら定めたルールや、ISO 50001の要求事項等の監査基準と比較、評価し、監査所見を導き出します。
認証のための外部監査と異なり、内部監査では改善に向けたコンサルティング的な行為も容認されています。監査員の力量・経験、事実に基づくアドバイスを行い、改善につなげることが肝要です。3) 監査結論の決定
ISO 50001 9.2内部監査では、内部監査の目的として以下を規定しています。
a) エネルギーパフォーマンスを改善している。
b) 次の事項に適合している。
c) 有効に実施され、維持されている。
- EnMSに関して、組織自体が規定した要求事項
- 組織によって確立されたエネルギー方針、目的、エネルギー目標
- この規格の要求事項
したがって監査結論では、監査中に得られた監査所見及び客観的証拠に基づき、以下に関する評価結果を明確にします。
・エネルギーパフォーマンスは改善されたか?
・取組み及びその実績は、事業者の計画及び関連する要求事項に適合しているか?
・エネルギーマネジメントシステムは期待通りの成果をあげているか?
(4)監査報告書の作成及び配付
監査中に発見された監査所見及び監査結論について正式な文書で報告を行います。
一般的なエネルギーマネジメントシステムの内部監査では、監査の当日最終会議において、監査所見及び監査結論に対する合意を得て、後日正式な文書で報告するケースが多いようです。
(5)監査の完了
正式な監査報告書が発行された時点で一連の監査活動は完了となります。
(6)監査のフォローアップの実施:是正処置の完了と有効性の検証
被監査者(監査を受けた者)は、監査中に検出された問題点に対して対応策を検討し、期間を決めて改善策を講じなければなりません。
監査員は、合意された方法によって、問題が改善されたことをフォローアップ(検証)します。