電力の地産地消で新たな魅力を創出
深谷市が見つけた付加価値
埼玉県深谷市 | ふかやeパワー株式会社

2019年、台風の影響により千葉県をはじめ広い範囲で大規模な停電が起こった。生活インフラに大きな影響が出たことで、安定した電力供給の仕組みへの関心が各地で高まっている。こうした中、電力の地産地消に向けた動きが加速化している。災害に備える危機管理の視点はもちろん、取り組みを地域活性化に繋げようという自治体や、地域事業者が増えている。
埼玉県深谷市、“ふっかちゃんでんき”の愛称で地域に広がりはじめている「ふかやeパワー株式会社」は、自治体と地域の事業者がタッグを組んで地域の課題解決に挑む電力事業者の1つだ。地域で発電された電力を買い取り、地域内に供給する。電力サービスだけでなく、そこから派生して生み出される利益を地域内で循環させる仕組みづくりをはじめている。
県内3位の発電力を生かす
地元ゆかりの渋沢栄一の座右の銘である『順理則裕(じゅんりそくゆう)』【意味:道理に生きることが、すなわち繁栄につながる】を理念に掲げる同社は、官民が一体となって設立された会社だ。地元自治体である深谷市が資本金の55%を出資、商工会議所や商工会などからも出資を受けている。将来は、同市が保有する再生可能エネルギー設備などから電力を買い取り、地元で作られた電力を地元に供給する電力の地産地消を進めようとしている。


深谷市は平成25年に『新エネルギーの導入及び利活用施策基本方針』を策定して再生可能エネルギーの普及促進に取り組んできた。現在建設中の市役所新庁舎には、150kWの大規模な太陽光パネルを設置し、災害時に停電が起きた場合にも十分な電力を確保して庁舎機能を維持する。「地球温暖化対策として、環境保全の観点からはじまった再生可能エネルギーの導入ですが、普及促進の展望の中で市の財政の活性化に寄与する可能性に着目して、メガソーラー施設も建設しました。」と話すのは同市環境水道部環境課の前野武一氏だ。
ふかやeパワー代表取締役の髙丹秀篤氏は「深谷市域内における電力と電力料金の循環はいろいろな意味で地域に好影響を与える」のだと、力強く語る。多くの地方自治体同様、税収拡大もさることながら、電力にかかるコストの削減も課題と認識している深谷市。発電により公共施設の電力をカバーできれば、外部からの電力調達を抑えエネルギーコストの削減につながる。
また、安全で災害にも強い電力が使えるとなれば、企業誘致の観点からもプラスに作用することも考えられる。市内で作りだされた電力の活用について、後押しとなったのが2016年にはじまった電力の小売自由化だと前野氏は説明する。深谷市が保有するメガソーラーや卒FIT電源を市内で活用する新たな試みをはじめる。2018年にはふかやeパワーを設立、エコシティーとしての歩みを始めたのだ。
電力の地産地消がもたらす付加価値
土地柄を活かした再生可能エネルギー電力を地域外部の電力会社などへ売るのではなく、地域内の需要家に売電する仕組みを作ることで、災害時のライフライン確保のためのインフラ強化、電力の地産地消による地域内経済循環の活性化が期待できる。その結果、様々な産業が活性化し同市に企業の拠点が増えることによって、固定資産税などの増収、新たな雇用の創出にもさらに期待が膨らむ。

「市内にある小中学校等の電力を再生可能エネルギーで賄えないかと考えています。」ここでの目的は経費削減や税収というお金の話だけではない。教育資源としての活用を考えているという。「環境問題を考える授業へと繋げられると思っています。環境問題は次世代に引き継ぐテーマにおいて非常に重要性が高いものです。自分たちが日常的に使っている電気が太陽光発電などの再生可能エネルギーから供給されたものだと知れば、再生可能エネルギーをより身近なものに感じられるはず。環境を守ることは、子ども達にとっては自分が生きていく未来を守ることに繋がります(髙丹氏)。
また、髙丹氏は市内にある大学との連携により、地域外への貢献も考えられると話す。「100年に一度と言われてきた災害が、今後は頻繁に起こるようになると言われています。集中豪雨の被害も毎年のようにあります。深谷市はもともと災害の少ない地域ですが、非常事態の時に使える電力を蓄える方法については、多くの地域が苦慮しているところです。再生可能エネルギーの普及と共に、蓄電技術の開発が望まれています。市内にはこの蓄電池について研究を進める埼玉工業大学があります。各地が抱える蓄電問題に、深谷でつくられた電力を供給するという形で研究貢献し、深谷市のみならず地方の課題解決の一助となればという思いもあります。」
風土に合った形で実施
太陽光発電とバイオマス発電を軸に据えた同社だが、設立にあたっては他の新エネルギーの候補がなかったわけではないようだ。前野氏によれば、風力発電についても検討を重ねたという。「深谷は昔から赤城おろしと呼ばれる強い季節風が吹きつける地域です。これを生かした発電として、風力発電の案もあったのですが、赤城おろしがあるのは冬場だけのため、年間を通して安定した動力とは言い切れませんでした。しかし、日照時間は年間を通して長いです。すでに市が太陽光発電の設備を多く整えていたこともあり、太陽光発電を柱としました。」

深谷市の取り組みをいかに市民に周知し理解、浸透を得られるかについても課題として残っている。「仕組みはできましたから、次はいかに多くの市民の方に加入して頂き、取組の輪を拡大していくかが重要です。各家庭だけでなく、地元企業からの参加が増えればと思っています」と語るのは、ふかやeパワー管理本部長の柿澤孝一氏。
市から発行する広報誌にふかやeパワーの取り組みを紹介する記事を掲載するほか、地元イベントへの積極的な露出など、住民への呼びかけを行っている。「ふっかちゃんでんきに入っていただいた所には地元の人気キャラクターを使用したステッカーを配り、玄関先に貼ってもらうというPRもはじめています」(柿澤氏)。電力の地産地消や市民貢献のための一歩が、深谷市で踏み出されている。

深谷市 環境水道部環境課
前野 武一 (まえの たけいち)

ふかやeパワー株式会社
髙丹 秀篤 (たかに ひであつ)

ふかやeパワー株式会社
柿澤 孝一 (かきざわ こういち)