「オール大分」の新電力が臨む地方創生
大分県由布市 | 新電力おおいた株式会社

顧客の声に応えた電力サービスのみならず、地元の自治体や企業と提携したユニークな電力プランやサービスの提供を通じ、電力の地産地消に取り組んでいる会社がある。大分県由布市に本社を置く、新電力おおいた株式会社だ。電力の全面自由化をきっかけとした電力事業への参入には、「エネルギー事業で地域を活性化したい」という強い意志が根底にあった。
地場メーカーが仕掛けた新電力
温泉の源泉数・湧出量ともに日本一を誇る大分。県内には国内最大規模の発電量を持つ地熱発電所があり、再生可能エネルギーの自給率は全国1位だ。しかし、それらの発電所の多くは、県外の企業が運用している。「大分県内の電力使用料は年間約1000億円にのぼり、そのほとんどが県外の企業へと支払われている状況でした」と由布市総合政策課課長補佐の米津康広氏は語る。


そうした中、2015年8月に、電力の地産地消の促進を目指して設立されたのが新電力おおいただった。親会社は半導体検査装置の製造や電子応用機器の研究・開発を手がける株式会社デンケン。事業の多角化の一つとして太陽光発電所の企画・建設・運営を始め、電力の全面自由化をきっかけに電力事業に本格的に乗り出したのだ。
新電力おおいたが契約する太陽光発電所は、デンケンが建設した大分県内5カ所、熊本県内2カ所の7カ所だ。合計約11MWの発電量で、これは新電力おおいたの電源構成のうち、約3割を占めている。ほかは約3割が火力、原子力、水力、FIT電気、再生可能エネルギーなどからの発電が含まれる卸電力取引所で、約4割が大手電力会社からの常時バックアップである。新電力おおいたの代表取締役・山野健治氏は「再エネを活用してできるだけ地元で電力を生み、利益を地域に還元して地域経済に貢献するのが私たちの信念です」と語る。
さらに、「地域のさまざまな課題に立ち向かうには、多くの地元企業や自治体が一丸となる必要がありました」と山野氏。電力の全面自由化を目前にした2016年3月、新電力おおいたは複数の地元企業から賛同を得て、資本金を500万円から2000万円に増資。「オール大分」で電力の地産地消に取り組む体制を整えた。
地元ならではのプランで課題解決にも貢献

「オール大分」に名を連ねる企業は実に多彩だ。由布市のほか、大分銀行や豊和銀行、大分銀行グループの不動産会社である府内産業、大分中央保険、江藤産業、サッカークラブ「大分トリニータ」を運営する大分フットボールクラブなどさまざまな業種の企業が参画する。これらの自治体、企業と連携して一般家庭向けの電気料金プランを開発したのが、新電力おおいたの特徴の一つである。
まず由布市では、子育て世帯に向けた電力プラン「由布市キッズプラン」をスタート。電気料金は大手電力会社より安く設定されており、由布市在住で3歳以下の子どもがいる家庭は、加入から3年間は子どもの誕生月の電気料金がゼロになるというユニークなプランだ。その後、近隣の杵築市とも提携し、同様のプランを展開している。
2020年4月からは大分県に移住する人を応援する「移住者プラン」も始まる。大分県へ移住してきた人は、2年間の電気の基本料金が半額、というものである。山野氏は「Uターン、Jターン、Iターンを促進するのが最大の狙いです。それが少子高齢化や空き家対策、移住・定住対策に繋がることを期待しています」と語る。現在は、由布市、杵築市限定で実施されているが、いずれ県内の各自治体とも連携してプランを展開していく方針だ。
大分フットボールクラブとは2018年から、サッカークラブ「大分トリニータ」のサポーター向けのプランの提供をスタートしている。加入者数に応じ、電気代の一部が地元サッカーチームの強化に当てられる仕組みとなっている。加入者にはチームに関連する特典があり、今後はチームの応援に関わる特典やキャンペーンも計画している。

住民の声を反映して柔軟に電気料金プランをつくれるのも、地元の電力会社ならではの強みである。新電力おおいたには、FIT制度による固定価格での買取期間が終わった後、買取価格が大幅に下がることを思案した住民から、「どこに売電したらいいのか」という問い合わせが寄せられた。そこで発案されたのが「SUN給プラン」だ。ヒートポンプ式給湯器「エコキュート」が備わっている家庭を対象にしたプランで、昼間に発電した電気は、この給湯器を中心に自家消費することで、売電するよりも家庭で使用したほうが電気料金が安くなる設定にした。それでも余った電力は相場よりも高く買い取る。
こうした取り組みが奏功し、2019年3月期決算では初の黒字化を達成。山野氏は「現在、大分県の企業局が所有する水力発電所を買い取れないかと働きかけを始めています。自社で所有する再エネ発電所が増えれば、さらに電力の地産地消を推進できると確信しているからです」と意欲的だ。同時に、契約する発電所も増やしていく方針である。
スマートコミュニティの中核的存在に
「地元の電力会社」として、さらに地元の人々に認知され、信用を得るためにも、新電力おおいたは地域が抱える課題の解決に積極的に関わっていく方針だ。2018年11月からは、由布市や杵築市が結んでいる包括連携協定に沿って、「少子化・人口減少対策」「防災・災害対策」「人材開発・人的交流」「エネルギー教育・啓発」「電力調達」「市の活性化・市民サービスの向上」などに取り組んでいる。

たとえば「防災・災害対策」としては、由布市の福祉センターやコミュニティセンターに、太陽光ソーラーと蓄電池を設置。有事には避難所として利用されるこれらの場所に自家発電・蓄電設備を実現することに貢献した。教育面では新電力おおいたの主宰で、再生可能エネルギーの普及イベントを実施。ソーラーカーの制作や、エネルギーのクイズ、ドローン体験などのイベントを通して、子どもたちに再生可能エネルギーや地球環境について考えるきっかけを提供している。
未来に向けての取り組みとして、佐伯市が推進する「スマートコミュニティ」の実証実験にも参画している。スマートコミュニティとは、再生可能エネルギーを用い、IoTの技術を活用したマネジメントシステムを取り込んだ社会のことである。2015年から始まった「スマートコミュニティ社会実験in佐伯市」では、新電力おおいたと地元の建設関連企業やリフォーム関連企業、テレビ局などが連携。公共の施設や一般家庭120軒にタブレット型のHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)を取り付け、電気の使用量の変化で高齢者を見守るシステム、防災アナウンス、エネルギーの見える化の3つのサービスを提供した。
「いずれは電気自動車の普及も含め、まちのエネルギーを一括で管理する未来が現実となった時、地域の課題解決やまちづくりの中核的存在になっていたいですね」と山野氏は語る。オール大分で取り組む電力事業が、地域の中心となって、自らの手によって「新しい社会」を形成していく。そのための一歩を、新電力おおいたは踏み出した。

新電力おおいた株式会社
山野 健治 (やまの けんじ)

由布市 総合政策課
米津 康広 (よねづ やすひろ)