電力の地産地消率80%!全国一の太陽光の街

静岡県浜松市 | 浜松新電力

電力の地産地消率80%!全国一の太陽光の街

電力の地産地消は、エネルギー不安のない街づくりの大きな要として期待が寄せられている。「地産」の柱となるのが太陽光発電やバイオマス発電などによって地域単位で産み出される再生可能エネルギーだ。静岡県浜松市では、東日本大震災直後から地域におけるエネルギーの在り方を見直し、積極的に取り組んできた。結果、地域内で生んだエネルギーを平均約80%の比率で地産地消するという大きな成果を生み出している。「浜松産再生可能エネルギー」はどのように産み出され、浜松の街を循環しているのか。先進的な取り組みを紹介する。

電力依存度の高い都市が新電力会社設立に取り組んだ理由

徳川家康が青壮年期を過ごした出世城、浜松城を誇る浜松市。静岡県の西部に位置し、約1560キロ平米という全国2位の広大な面積を有する政令指定都市だ。伊豆半島を超える面積を有し、山間部を抱えながらも人口集中エリアが偏っている。電力依存度も高く、特に家庭や製造業におけるエネルギー消費量に占める電力の割合は高い。家庭で70.8%、製造業で35.5%といずれも全国平均を上回っている。

電力インフラ整備に限界がある山間部と人口密集した都市部。地域内の2つ特徴から人口減少社会への対応、防災・減災対策、環境への配慮など異なる観点で、それぞれの課題に対策を求められていた。そんな浜松市が電力の地産地消を目指し具体的に取り組みを始めたのは東日本大震災がきっかけとなった。

電力依存度の高い都市が新電力会社設立に取り組んだ理由

震災の影響から電力供給が停止したことによる混乱に直面し、「国に頼りきりだったエネルギー政策を自治体レベルでやって行こう」と鈴木康友市長が一念発起。震災の翌年には市長直轄の「新エネルギー推進事業本部」を立ち上げた。立て続けに翌2013年には、より具体的な目標を掲げた「浜松市エネルギービジョン」を策定。そして震災からわずか4年半後の2015年10月に、株式会社NTTファシリティーズ、株式会社NECキャピタルソリューションなどとの共同出資により、政令都市しては全国初となる地域新電力「株式会社浜松新電力(以下浜松新電力)」が誕生した。

NTTグループはかねてから新電力会社大手「株式会社エネット」に出資するなど、電力事業には積極的に関わってきた。そこで地域のエネルギーネットワークづくりを手掛ける同グループの「株式会社NTTファシリティーズ」が、太陽光発電資源の豊富な浜松市の魅力に注目し、地域新電力の設立を持ち掛けたことが設立のきっかけだった。浜松市としても再生可能エネルギーを推進し、エネルギーの使い道を模索していた矢先だったので、話はスムーズに進んだと浜松新電力で営業を担当する柴田嘉男氏は話す。

土地の特性をいかした取り組み

約80%の地産地消を裏付けるのは、全国一を誇る太陽光発電(10kW以上)の設備導入件数8,787件と設備導入量(10kW未満+10kW以上)485,128kWだ。(いずれも令和元年9月時点)その背景には市に電力事業を取り入れる上で地域環境的な利点がある。まず日照時間が安定的に全国トップクラスであるということ。そして雪が降らないという温暖な気候条件もある。さらに設備設置に適切かつ広大な平地が占める割合も高い。こうした利点、条件が重なって、太陽光発電の導入率向上を支えた。まさに浜松市にとって、電気は“特産物”になった。

土地の特性をいかした取り組み1
土地の特性をいかした取り組み2

特に浜名湖周辺はメガソーラーの集中エリアだ。それには浜松の特産物であるウナギも深く関係している。近年、市内の養鰻業がハウス化による集積化、稚魚の不漁や中国産ウナギの台頭などを理由に縮小傾向にある。それらの影響から使用されることのない養殖池の跡地がたくさん浜名湖周辺に残っていた。跡地の活用法を模索する中で、太陽光パネルの設置場所としての利活用に行き着いた。浜松市産業部エネルギー政策課の辻貴弘氏は「平坦で、日当たりが良く、広い面積に発電設備をそのまま設置できる。色々と条件の良い土地が浜名湖周辺には多くあった」と語る。

浜松新電力が供給している発電量の40%を占めるバイオマス発電も、電力の地産地消に大きく貢献している。市内2カ所の清掃工場で発電され、浜松新電力が買い取って市民へ供給しているのだ。バイオマス発電は燃やしたごみから電気を作る。家庭や事業所で出たごみを燃やし、熱で蒸気を起こしてタービンを回し、発電する。身近なごみが電気という再生エネルギーに変わる。太陽光とは異なり24時間発電できるので、発電量は太陽光をしのぐ。

浜松市ではこれらの資源を生かし、エネルギー不安のない強靭で低炭素な社会「浜松版スマートシティ」の実現を目指している。

市民を巻き込むために必要な見える化

太陽光発電やバイオマス発電などによって市内で産み出された電気は、地域の公共施設、民間企業のみならず、市内全ての公立小中学校へと巡る。電気の自給自足だ。多くの学校の屋根には太陽光パネルが乗り、生徒たちは校舎内に設置された発電量が分かるモニターが設置された学校では生徒たちが電力の生産を身近に感じ、学ぶことができる。学校での環境教育を通して、次世代の環境意識の醸成も図る。

市民を巻き込むために必要な見える化1
市民を巻き込むために必要な見える化2

さらに官民連携で事業者への広がりも後押ししている。浜松市では全国自治体に先駆けて金融支援パートナーシップ協定を締結。市内の金融機関と市が連携して太陽光への低金利融資制度を設けることで、地域内から事業化を活性化させる仕組みを作った。浜松新電力では、中小企業を対象とした専門家による省エネ無料相談窓口を設置。エネルギーや経営の専門家たちが事業所を直接訪問し、省エネ対策や補助金、融資制度などの相談に応じている。「年間数十件の相談が寄せられています。実際に工場の電気を全てLED化し、電気代を減少させた事例もあります」と柴田氏は成果を実感する。

これからの課題は「浜松市民へのサービスだ」と両氏は口を揃える。浜松新電力では、卒FITに合わせ2019年より一般家庭向けのサービスを開始。地元産電力は市民にとって身近な存在にはなっているものの、「電気は目に見えて地元産と分かるものではない」(辻氏)ため、個のレベルになると動きは鈍くなる。しかし、市民の認知・意識向上は必要不可欠だ。

浜松市としては家庭向けの太陽光発電や、蓄電池や電気自動車に対応したヴィークル・トゥ・ホーム(V2H)対応型充電設備などの導入促進にむけたスマートハウス補助金などで各家庭への浸透を図る。「4月に施行される条例では事業者に適正な導入を求めるだけでなく、一般市民レベルでの再エネの導入推進も掲げています。これからは取り組みを一般家庭レベルにも浸透させていきたいです」と辻氏は話す。

東日本大震災で得た教訓を活かして始まったエネルギーの地産地消。現段階での再生可能エネルギーの導入が、地域の将来を築いていく。持続可能な地域づくりのために、今できることは何か。一人ひとりが考えたい。

株式会社浜松新電力
柴田嘉男 (しばた よしお)

浜松市産業部エネルギー政策課
辻貴弘 (つじ たかひろ)