北海道苫小牧市 CCS実証試験施設/ガス田/メガソーラー施設見学&ワークショップ

北海道苫小牧のCCS実証試験施設/ガス田/メガソーラー施設を視察

2023年2月15日に実施された「NEW ENERGY Field〜生活を支え、未来を生み出す現場体験〜」。北海道苫小牧市にある石油資源開発株式会社(JAPEX)の勇払油ガス田・メガソーラー、『日本CCS調査株式会社』の苫小牧CCS実証試験センターへ訪れました。全国から集まった大学生・大学院生ら10人が参加し、エネルギー業界の最先端の現場を見学し、現場で働く方々へのインタビューやワークショップを通して、エネルギー業界への理解を深めました。

日本初となるCCS大規模実証試験が行われている苫小牧市

苫小牧CCS実証試験センターでは、国の委託を受けた日本CCS調査株式会社により日本初のCCS大規模実証試験が行われています。実証試験の目的は、①分離回収から貯留までのCCS全体を一貫システムとして実証する事、②CCSが安全且つ安心できるシステムである事を実証などがあります。苫小牧CCS大規模実証試験は、国と地域社会と民間企業が一帯となって進められた実証試験として世界からも大きな注目を集めています。2019年11月22日には目標としていた30万トンのCO2圧入を達成し、貯留したCO2を引き続きモニタリングしています。この情報は苫小牧市役所設置のモニターで地域の方々に公開されています。その他にも、様々な広報活動が行なわれています。

苫小牧CCS実証実験センターの写真 現場を見学している写真

CCSとは、火力発電所や工場などから排出されるガスの中からCO2のみを回収し、地下深くの安定した地層の中に貯留 する技術です。その他に回収したCO2を利用するCCUがあります。CCSと合わせてCCUSと言います。CCUには、石油増産法であるEOR、溶接・ドライアイスなどに利用する直接利用、CO2を原料として再利用するカーボンリサイクルがあります。カーボンリサイクルでつくられるものとしては、プラスチック製品などの化学品、ジェット燃料やメタノールなどの燃料、コンクリート製品などの鉱物、その他大気中のCO2を削減するネガティブエミッションなどがあります。この様にCO2は大切な資源であり、今後苫小牧でもカーボンリサイクル事業が展開されて行く事が期待されています。

国際エネルギー機関(IEA)が公表した「2050年までにCO2の排出量ゼロにするための分野別期待値」によると、2050年には全体の削減量の1割から2割を、CCSと回収したCO2を資源として再利用するCCUを合わせたCCUSで処理する必要があり、日本では1億トンから2億トンのCCUSが必要になるとされています。

施設内部の写真 現場を見学している写真

参加者からは、日本における今後のCCS展開に関する多くの質問があり、低コスト化に向けた技術開発、CO2輸送技術の確立、貯留地に適した場所の確保など様々な説明をいただきました。

勇払油ガス田とメガソーラー

石油資源開発株式会社(JAPEX)は、平成8年から北海道及び国内に石油と天然ガスの安定供給を続けています。地下4000mから5000mの深層から天然ガスと原油と水の3種類が混ざった霧状のものが地下から噴出し、自噴線というパイプで勇払プラントへ運んで、高圧セパレーターと呼ばれる装置にかけられ、原油と天然ガスと水の3種類に分類され、分離精製を行い、各ユーザーへ供給しています。その内、天然ガスは脱湿、熱量調整を施した後、パイプラインで供給されます。安定供給のため外部から受け入れたLNGを気体化してパイプラインで供給し、原油はタンカーで供給しています。

勇払油ガス田が一般的な天然ガス田と異なる点として、4000mから5000mの深層にある花崗岩及び礫岩層から天然ガスが産出されている点です。花崗岩及び礫岩層の上部には挟炭層という層があり、石炭層と砂層と泥岩層が重なり合ってできていて、勇払油ガス田の根源岩、石油天然ガスを生成している地層で、天然ガスの溜まり方にも特徴があります。岩石自体に空いた割れ目に天然ガスが溜まっているのも、国内で勇払油ガス田のみとお話頂きました。

勇払プラントの写真 JAPEX北海道事業所メガソーラーの写真

天然ガスは、都市ガスや産業用ガスとしてパイプラインを通して各ユーザーへ供給され、石油は、タンクローリーとタンカーで出荷されます。施設内には、超低温で天然ガスを液化するプラント設備を備え、タンクローリーやコンテナと鉄道を使用して液化天然ガス(LNG)を輸送する事で、遠隔地のユーザーにも天然ガスを共有する事も可能にしています。需要に応じて、天然ガスの外部からの調達も行っています。輸送には国内最大級のLNG内航船が活躍し、自社専用のLNG内航船受入設備で荷役します。

JAPEXでは、ガスや石油以外のエネルギーにも着目し、メガソーラー発電所を建設しました。およそ1万5千枚のソーラーパネルが設置され、発電電力は年間250万kWh(キロワットアワー)です。天然ガスは、家庭用はもちろんの事、環境負荷の少ないクリーンエネルギーとして自動車や大型施設を動かすエネルギー源など様々な分野で活用されています。

施設内をバスで回り、高圧セパレーターやLNGプラント、同施設内に設置された1万5千枚のソーラーパネルから成るメガソーラー発電所を実際に見学しました。学生からは、同施設を開業するまでの地域との連携に関する質問や、同社の石油や天然ガス以外の再エネへの取り組みに関する質問など、幅広い質問がありました。

小野寺氏の講義の写真

産業間連携を活用したカーボンリサイクル事業

JAPEX新規事業推進部の小野寺氏からは、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)から委託されている、苫小牧市を拠点とする産業間連携を活用したカーボンリサイクル事業の実現可能性調査に関する歩みと今後の展望をお話頂きました。

複数のCO2排出源と複数の利活用先を結ぶCCUSハブ&クラスターモデルの実現を目指し、これまでに約40団体200名の方々とヒアリングと議論を重ね、CCUSの事業化に向けた検討を続けています。CCUSの事業化における課題としては、コスト低減にいたる技術の開発、経済性が見える様な政策や事業環境の整備、地域の方々のご理解などがあり、技術的な側面だけでなく、自治体地域と国と民間事業者の連携が不可欠である事をお話頂きました。

学生からは、CO2利活用先を見つける為に実際に行っている活動に関する質問や、苫小牧市以外の全国の企業団体との連携の有無に関する質問など、新規事業の現場の様子を深掘りする質問が多くありました。

質問をしている学生の写真 質問をしている学生の写真

日本のエネルギー政策の方向性

経済産業省 資源エネルギー庁 菅原氏の講義では、日本のエネルギー自給率、他国との再エネ導入率比較など、日本の現状についての説明とともに、東南アジアと欧州を比較し、人口増加や経済発展による電力需要の伸び率、各地域における再エネポテンシャル、大陸と島嶼部の連結性などの違いから、カーボンニュートラル実現に至る道筋は各地域で様々な違いがある事をお話頂きました。

「完璧なエネルギー源はなく、これを一つ使えば良いというのはありません。あらゆる電源に一長一短があります。その中で、カーボンニュートラルと経済発展を同時に実現していくには、S+3Eを考えながら、広い視野を持ち、バランス良く同時に達成して行く必要があります。」と、学生に伝えました。

菅原氏の講義の写真 菅原氏の講義の写真

”インフラのインフラ”といわれるE&P業界。JAPEX社員にインタビュー

視察と講義後に、JAPEX社員の3人に入社の動機や仕事のやりがいなどについて、インタビューを行いました。インタビューには橋本氏、大久保氏、田名部氏の3人が参加しました。

社員インタビューでは、JAPEX様の3名の社員の皆様から、エネルギー業界で働こうと思ったきっかけ、仕事のやりがい、今後やりたいお仕事などをお話頂きました。学生からの質問では、日本の電源構成に関する意見を求める質問、同業界に関わる他社との連携に関する質問、実際の現場での業務に関する質問など、実際にエネルギー業界で働く事をイメージできる質問が積極的に行われました。3名の社員の皆様には、この後に実施されたワークショップにもご参加頂きました。

橋本氏、大久保氏、田名部氏のインタビューの写真 橋本氏、大久保氏、田名部氏のインタビューの写真

2030年のエネルギーの在り方を考えるワークショップ

ワークショップでは、学生がAチームとBチームの2つのチームに分かれ、2030年の理想の電源構成、そのためのアクション、S+3Eの視点での考察を考えて頂き、それぞれのチームで発表して頂きました。

Aチームは、電源構成として、化石火力35%、原子力20%、再生可能エネルギー45%で提案。政府が掲げている2030年の電源構成における再エネ36%〜38%よりもより再生エネルギーの活用を狙ったプランを考えました。化石燃料の内訳は、石炭が15%、LNGを20%で設定。再生可能エネルギーの内訳は、政府の掲げている電源構成をベースとして、差分を洋上風力で賄う事とし、風力14%、太陽光14%、水力11%、バイオマス5%、地熱1%と設定しました。

Aチーム電源構成の図

アクションとしては、風力の時間的な変動が大きいというデメリットを補う為、洋上風力で発電したものを水素に変換して輸送し、最終的に燃料電池で発電して行くというモデルを提案。

安定供給の視点で、調整電源としての水素を入れて行く事で安定性を担保し、大規模災害のリスクに対して、洋上風力の分野で進んでいるヨーロッパの技術を参考にしながら日本独自の技術へアップデートする事で安定性を担保する事を想定。経済合理性の視点では、他国を参考に技術開発に取り組み開発コストを抑える事、導入数を増やす事でコストを減らして行く事、変動の激しい燃料費との比較で総合的にコストを下げる事で経済合理性が担保できると想定したアイデアになりました。

ワークショップの写真 ワークショップの写真

Bチームは、電源構成として、化石燃料32%、原子力18%、再生可能エネルギー48%、水素・アンモニア2%で、同様に政府が掲げる2030年の電源構成よりも再エネをより活用する電源構成を提案しました。化石燃料の内訳は、天然ガス20%、石炭11%、石油1%とした。再生可能エネルギーの内訳は、風力10%、太陽光16%、水力11%、バイオマス10%、地熱1%とバラン配分としました。

Bチーム電源構成の図

アクションは、日本の海の面を活かして洋上風力に力をいれ、弱い風でも発電を可能にする技術や蓄電技術の開発などを行う特区を設立する事、バイオマス発電には日本の国産材を使用し、林業や地域の環境保全に活かしながら進めて行く事、原子力に関するガバナンスを整えて既存の原発を上手く回しながら世論を形成していく事、太陽光は導入が進みやすい様に景観に配慮してパネルのデザインを工夫する事などを提案しました。

安全性の視点では、原子力のガバナンス改革をしっかり進めて行く事で担保する事ができると考えました。安定性の視点では、蓄電技術の開発をする事、化石燃料の輸入先を友好国に絞る事で自給率100%でなくても、安定的に供給できる体制をつくる事で担保する事を想定しました。また、経済合理性の視点では、今後脱炭素税やカーボンプライシングが導入される事で、環境に配慮したエネルギーの価格は安価になって行く事で担保できると想定し、環境適合に関しては原子力と再エネを増やす事により、十分に達成できると想定しました。

ワークショップの写真 ワークショップの写真

参加者の声 エネルギー業界が脱炭素へのチャレンジを進めていることが分かりました

参加した学生からは、フィールドワークや社員インタビューから、CCSを含めて業界全体としてカーボンニュートラルに向けたチャレンジをしていることを知ることができたという声が挙げられました。また、ワークショップの中でエネルギー政策をS+3Eで考える難しさを実感し、エネルギー問題を自分ごととして考えられるようになったという声も挙げられました。

“参加前は、世界的に脱炭素への潮流が存在している中で、日本の大手エネルギー企業も取り組んではいますが、その内容や熱量がいまいち見えてこない形でした。しかし、JAPEXさんやCCSの見学などを通して、本気で業界全体で前に進んでいこうとしていることを強く感じることができたことが一番の発見であり、変化でした。”

“エネルギー政策を考える上では、太陽光パネルを設置する場所、洋上風力発電における再エネポテンシャルの地域差や漁業との共存、CCSにおけるインセンティブ施策の重要性など、向き合う事象が多数存在し、総合的に考えなければならない事を理解する事が出来ました。”

“プログラムを通して大変勉強になったのですが、私としては、実際にCCS実証試験センターや油ガス田の施設を見て、働かれている職員の方とお話させていただけたのが特に良かったです。施設を直接見て、職員の方がどういうことを考えて働かれているのかを伺うことを通して、エネルギー問題についてより自分ごととして考えられるようになったと感じます。”

“ワークショップで他の学生の方やJAPEXの職員の方と議論する中で、考慮しなければならない事柄が芋づる式に出てきて、エネルギー政策を考える難しさを実感できた点がとても良かったです。”

イベントに参加した学生の写真