姉崎火力発電所見学&ワークショップ
世界最高水準の発電効率を誇る姉崎火力発電所
2023年2月10日に実施された「NEW ENERGY Field〜生活を支え、未来を生み出す現場体験〜」。『株式会社JERA』の姉崎火力発電所を訪れました。このフィールドワークは、クイズ王・伊沢拓司氏( 以下伊沢氏 )率いるQuizKnock(クイズノック)と資源エネルギー庁の連携企画で、「もしもエネルギーがこうなったら模試(https://moshi-energy.go.jp/)の正解のないエネルギー問題に挑戦した学生の中から抽選で選ばれた20名が参加しました。当日は全国から集まった大学生・大学院生たちが参加し、株式会社JERAの社員の方々からの説明を受けながら、姉崎火力発電所を見学しました。
日本のエネルギー業界の”いま”を学ぶ
今回訪れた株式会社JERA(以下、JERA)の姉崎火力発電所は、1967年に1号機が運転開始以降、1970年代にかけて6号機まで順次建設され、東京エリアの電力需要を長年にわたって支えてきました。設備の老朽化に伴い1~4号機は既に廃止され、敷地内ではガスタービンコンバインドサイクル方式を採用した新たな発電設備(新1~3号機)のリプレース工事が進められています。新1号機は今年2月1日から運転開始し、新2・3号機の営業運転も間もなく始まろうとしているなど、世界最高水準の発電効率を誇る最新鋭のLNG(液化天然ガス)火力発電所(総出力195万kW)に生まれ変わろうとしています。
到着した学生たちは、JERAの社員から出迎えられ、巨大な機械やパイプが複雑に絡み合う発電所内を見学しました。
学生たちは、最初のプログラムとして簡単な自己紹介を行い、自分が持つエネルギーに対する興味や専門分野について熱く語りました。自己紹介を通じて、それぞれの背景やアプローチが多様であることが浮き彫りになり、エネルギー問題に対する関心の深さが伝わってきました。
はじめに、経済産業省資源エネルギー庁の菅原氏が、参加した学生に向けてエネルギー政策の方向性に関する講義を行いました。この講義では、エネルギー政策の全体像や、ロシアのウクライナ侵略が与える影響、そしてGX(グリーントランスフォーメーション)について説明がありました。 特に、エネルギー基本計画とエネルギーミックスについては重点的に話がされ、具体的な電源構成や日本のエネルギー自給率、再エネ導入率の比較など、日本の現状に関する講義を行いました。
菅原氏は、「完璧なエネルギー源は存在せず、あらゆるエネルギーには一長一短がある。カーボンニュートラルと経済発展を同時に実現するためには、S+3Eを考えながら、広い視野を持ち、バランス良く取り組む必要があります。今日のフィールドワークの集大成として行うワークショップには、その視点を持って取り組んでほしい」と、メッセージを送りました。
日本最大の発電事業者「JERA」が見据えるエネルギーの未来
資源エネルギー庁の講義の後、JERAの社員の皆様から株式会社JERAのご説明を頂きました。JERAは、日本の約3割の電力を供給している日本最大の発電事業者であり、現在は低炭素社会実現に向けた取り組みとして「JERAゼロエミッション2050」を掲げ、再生可能エネルギーとゼロエミッション火力(水素/燃料アンモニア)による「2050年CO₂排出ゼロ」実現に挑戦しています。また、日本だけでなく海外でも、それぞれの国・地域に最適な脱炭素ロードマップを作成していくなど、世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供することをミッションに掲げるJERA社の熱い想いが語られました。
また、姉崎火力発電所に関する説明の中では、リプレース中の新1~3号機と、既存設備である5・6号機の概要を紹介いただきました。
新1~3号機では、ガスタービングコンバインドサイクル発電方式を採用しています。この方式を用いることで熱効率が向上し、通常の火力発電よりも多くの電力を同じ量の燃料で生み出すことができます。言い換えると、同じ量の電気を発生させる際の、CO2排出量が少ないという利点があります。
一方、5・6号機は1970年代後半の運転開始から約50年もの歳月が経とうとしており、利用率の低下等の理由から、2021年4月に長期計画停止となった設備です。しかし、2021年以降、電力需要が高まる夏冬において東京エリアを含む全国の電力需給のひっ迫が予想されたことから、5号機は2022年1月~2月末/2022年6月末~8月末/2022年10月~2023年2月末、6号機は2023年1月~2月末の間、追加供給力として再稼働しました。設備の老朽化により、通常の発電設備と比べてもメンテナンスコストが掛かり、高度な運転技術も必要となりますが、発電所員が一丸となって、電力の安定供給に貢献しています。
フィールドワークで訪れた2023年2月は、まさに姉崎火力発電所6号機が運転を再開したタイミングになりました。
参加学生からは、「こんなにもカーボンニュートラルに意欲的だとは思わなかった。」「火力発電において炭素排出量を減らす努力がこれだけなされているということを知ることができ、エネルギーに関わるチャレンジングな技術開発に興味が湧きました。」といった声が挙がっていました。
姉崎火力発電所フィールドワーク
「火力発電には2つの種類があります。1つは蒸気の膨張力を利用する汽力発電で、もう1つは燃料を燃やした燃焼ガスでタービンを回転させて発電するガスタービン発電です。新1号機では、この両方を組み合わせたコンバインドサイクル発電方式を採用しています。ガスタービンから排出される高温ガスから熱を回収し、蒸気を作って蒸気タービンを回転させることにより、ガスタービンと蒸気タービンの動力を合わせた発電ができます。この発電方法は、従来の蒸気タービンだけを用いた発電と比較しても、熱エネルギーを効率良く利用することができます。また、CO2排出量も少ないため、環境にも優しいのです。」JERAの佐賀副所長の説明を受けながら、学生はフィールドワークに参加しました。
姉崎火力発電所では、環境負荷を低減するために硫黄酸化物や煤塵(ばいじん)を排出せず、単位発熱量あたりのCO2排出量が最も少ない天然ガスを使用しています。また、最新鋭の低NOx燃焼器や排煙脱硝装置を導入することで、有害物質の排出量も大幅に削減できるようになったというお話に、参加学生は熱心にメモをしながら様々な質問を投げ掛けました。
その後、古い発電設備の5・6号機を見学しました(6号機は2023年2月10日時点で再稼働中)。猪狩副所長からは、「再稼働によって、老朽化した機械を再び動かしています。火力による電力の安定供給という視点から考えると、まだまだ頑張ってもらいたい。」と説明いただきました。
参加学生からは、「火力発電の壮大さを肌で感じる。」「実際に稼働しているところ、建設中のところ、引退してメンテナンストレーニングに活用されているものなど、さまざまな段階の発電設備を見られたのはこの時期だけ。とても貴重な経験になる」といった声がフィールドワーク中にも聞こえてきました。
エネルギー業界で働く魅力とは?JERA社で活躍する社員の方へのインタビュー
施設見学後、学生たちは昼食休憩を挟んで、現場で働く社員の方々に技術力や想い、入社に至る背景や今後のキャリアについてインタビューを行いました。講演者には、企業価値創造部グローバルリレーションU兼広報室所属の大谷潤氏(以下、大谷氏)と、姉崎火力建設所機械課所属の林優人氏(以下、林氏)に参加いただきました。
大谷氏は、自身の専攻と親和性があることからエネルギー業界を広く志望。大きな使命感と多岐にわたる業務を通じて社会貢献を実現できる点、エネルギー業界の魅力の一つであるとお話しいただきました。また、電気事業の"規模の大きさ"や"公益性"に魅力を感じ、海外での取り組みを加速させていたことも入社の決め手だったと話しています。また、過去、自分が関わった海外発電プロジェクトを通じて人々の暮らしの一部を支えていると感じられたときがJERAで働く醍醐味の一つだと語っています。
林氏は、機械工学の基礎を身につけただけでなく、ガスタービンの研究にも関わりました。姉崎火力建設プロジェクトでもガスタービンに携わり、自身のプロジェクトが地図に残るような大きな成果を残したいという思いから、電力会社に入社することを決めました。JERAを選んだ理由は、世界最大規模の発電量を誇り、水素やアンモニアを取り入れた火力発電や再生可能エネルギーに積極的に取り組んでいること、そしてカーボンニュートラルの実現に向けた強い意志を感じたからです。姉崎火力新1号機が2月1日に営業運転を開始した際、建設にかかわった皆さんと共に喜びを分かち合い、自身が素晴らしい成果を残したという達成感を強く感じると学生に語りました。
インタビューの途中から、クイズ王の伊沢氏が参加。伊沢氏から大谷氏へ、学生が参加した「もし模試」でも設問になっていた「もし日本のエネルギー大臣になったらどんな人材を増やしたいか?」という質問をしました。
大谷氏は「脱炭素社会実現というチャレンジングな目標に対して、やりがいを感じてもらえる人。」林氏は「次の未来を見据えられ、それをビジネスに昇華できる人材。横断的な知識を持ってシステムを考えられる人」と回答しました。
モデレーターから同様の質問を受けた伊沢氏は、「エネルギー業界も絶え間なき変化のなかにあるので、維持して管理するマネジメントタイプというよりも変革に対して決断を下すリーダーが必要だと思う。またトップダウンでなく、各セクションにリーダーとして活躍する人材が求められると思う。」と回答しました。
カーボンニュートラルとエネルギーの安定供給の実現を考えるワークショップ
インタビュー後に、クイズ王の伊沢氏に参加していただき、「カーボンニュートラルとエネルギーの安定供給の実現」のワークショップを開催しました。チームメンバーの専門性と今回のフィールドワークでの学びを基に、日本のエネルギー政策の方向性を提案していきます。
エネルギー政策には、「S+3E」の大原則があります。これは、Safety/安全性、Energy Security/安定供給、Economic Efficiency/経済合理性、Environment/環境適合を指します。一次エネルギー供給と電源構成を比較すると、それぞれの比率も異なります。完璧なエネルギー源は存在しないため、ミックスすることが重要です。S+3Eの原則を踏まえ、2030年の電源構成はどうあるべきか、どのようなアクションを取るべきかについて議論し、フィールドワークの経験や専門知識を活かしてチームに分かれて発表します。各チームが考えたプランを伊沢氏から講評してもらえるとあって、学生たちは熱心にワークショップを実施しました。
グループワーク中、伊沢氏が各チームの議論に参加しアドバイスを行ったことにより、学生たちの議論はさらに鋭くなりました。グループワーク終了後、各チームがプレゼンテーションを実施しました。
伊沢氏からの講評では、「すべてのチームが、短い時間の中で特徴あるプランを提案出来ており素晴らしかったと 思います。具体的なアクションと紐付けた未来のエネルギー政策づくりに取り組んで頂くことで、エネルギーの課題を自分ごとに出来たんじゃないでしょうか。多くの困難が伴うことも感じられたはずです。『なぜ実現できないのか』という現実的な課題も、実現困難なことをなにかしら実現しないと未来が拓けていかないことも、両方感じていただけたなら嬉しいです。難しくとも考え続ける、その在り方をこれからも忘れずにいてください。 」というコメントをいただきました。
参加者の声:エネルギー政策の難しさと
参加した学生からは、フィールドワークでの話や社員のインタビューから、エネルギー政策の複雑さを知ったという声や火力発電の印象が大きく変わったなどの声が挙げられました。
「単純な問題ではなく、複雑な問題(エネルギーの生産、資源、脱炭素、適合性など)が重なり合ってのエネルギー問題だと実感しました 。問いに対して答えを見つけることが難しかったが、日本のエネルギー問題を考える良いきっかけになりました。」
「火力発電において炭素排出量を減らす努力がこれだけなされているということを知ることができ、エネルギーに関わるチャレンジングな技術開発に興味が湧きました。また、発電するだけでなくS+3Eといったことなど多面的に向き合ってるんだなと知ることが出来ました。」
「火力発電は環境に悪いから減らすべきだと思っていたが、安定した供給があり、日本にとっては必要なものだと認識を改めた。また、火力発電をより良いものにしようとする人々の取り組みがわかった。またカーボンニュートラル達成を最も身近に感じて業務を行っていることがわかった。」