2024年1月11日から12日にかけて実施された「総合エネルギー産業への転換に向けた最先端の取組を学ぶ」フィールドワーク。参加者は、これまで開催されてきたエネキャリ講座第1回から第6回に出席してきた24人の熱意ある学生たち。1日目は石油資源開発株式会社が開発・生産する道内初の大規模天然ガス田「勇払油ガス田」のプラント見学とグループワーク、2日目は出光興産株式会社の北海道製油所施設と日本CCS調査株式会社の苫小牧実証実験現場を見学しました。
最初に訪れた石油資源開発株式会社は、1955年に創業。国内外の油ガス田の開発・生産や天然ガスの供給ネットワークの構築運用を行っています。
フィールドワーク初日の冒頭、「苫小牧市における立地優位性とゼロカーボンへの取組」について、苫小牧市産業経済部企業政策室 港湾・企画振興課の内山隼典氏よりお話がありました。
北日本最大の国際拠点港湾を持つ苫小牧は、国内向け取扱貨物量が全国1位です。広大なスケールの産業用地があり、多種多様な産業が集積しています。そうしたポテンシャルを活かして、2012年より苫小牧では、日本初のCCS大規模実証実験が実施されているのです。2023年には、先進的CCS支援事業の1つに選定され、出光興産、北海道電力、石油資源開発の3社が共同検討を開始。苫小牧エリアの複数の地点をつなぐハブ&クラスター型CCUS事業を2030年度までに立ち上げることを視野に、CO2排出地点とCO2回収設備、CO2輸送パイプラインに係る技術検討、CO2貯留地点の適地調査などを中心に、具体的な調整・検討を進めています。
内山氏に対する学生からの質疑応答では、苫小牧で実証実験として使える土地がまだ2,500haあること、これまでの産業の恩恵から地元住民たちの理解を得やすい町であることなどが説明されました。
その後、石油資源開発株式会社 操業供給部のプラント現場の職員らから、天然ガスの処理方法などの説明を受けて、学生たちはバスに乗り込み、いよいよ勇払プラント施設の基地内へ。勇払地区で産出される天然ガスは、メタン約85%でCO2や硫化水素は含まれていません。天然ガスは単位熱量あたりのCO2の排出量が石油の約7割、人と地球にやさしく環境負荷の少ない、クリーンで安全なエネルギー資源です。構内では採掘用に使われるクリスマスツリーと言われる装置や、約75km続く太さ約35cmの輸送パイプライン、稼働中のガス処理施設、約5,000~8,000klある貯蔵タンクなど、貴重な設備を見学しました。
ホテルに戻った学生たちは、グループワークの準備に入ります。今回のグループワークは模擬「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」。3人1組でチームを組み、議長国日本を含む主要7カ国1機関に分かれました。担当するそれぞれの国の立場を確認し、そのスタンスに沿って議論しながら、議長国日本が考えた気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケのカーボンマネジメントのパラグラフのドラフト文を更新していきます。
各チームは必要に応じて、交渉する国、協力する国との話し合いを進めていきました。本物の「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」さながらのマナーとリスペクトを持った話し合いが求められ、学生たちは緊張した面持ちで議論しながら、それぞれの役割を全うしました。
終了後、参加した学生からは「こんなに大人数でそれぞれの立場からひとつのゴールを目指すのは初めての経験だった。みんな真剣で譲らないから、白熱しました(笑)。各国の代表としてずっと表の顔を見せなければならないことが難しく、社会人になってリーダーを務める疑似体験となる良い経験でした。」という感想がありました。
翌日は、207万㎡の広大な敷地を持つ出光興産 北海道製油所の見学から。1973年に創業した北海道製油所は道内唯一の製油所で、北日本への石油製品の安定供給を支えています。寒さが厳しく土地が広大な北日本では、灯油や軽油のニーズが高いため、効率の良い供給体制が求められます。そのため敷地内の生産装置の中央には、石油製品や生産に関するあらゆる情報を収集したプロダクションセンターがあり、そこで原油の受け入れや石油精製、出荷までを一元管理。何かあっても即座に対応できるように整備されていました。
現在、国内の石油需要はピークアウトしており、43カ所あった製油所は約半分になっているといいます。石油会社の出光興産としては、老朽化したプラントも大事に使いつつ、今必要なエネルギーを必要な場所に供給しながら、次のエネルギーにトランジションしていくことが大きな課題となっています。今のエネルギー業界は非常に進歩が早く、先週聞いた話が今週変わっているということもよくある話。出光興産としては、カーボンニュートラル社会、循環型社会の実現に向け、既存の製造拠点を新たな低炭素・資源循環エネルギーハブへと転換するCNXセンター化構想を進めているということでした。
製油所内での見学はヘルメットを被って構内を歩きました。安価な残油からガソリンを製造することができるRFCC装置や、防災時に事故を防ぐ防油堤、原油を精製する常圧蒸留装置などを間近に見ることができたほか、普段は公開されないプロダクションセンター内のオペレーションルームを見学することができ、学生たちは装置を食い入るように見ながら質問をしていました。
最後に学生たちは、日本初のCCS大規模実証試験場へ向かいました。これは2012年に経済産業省がスタートさせた事業でしたが、2018年からは新エネルギー産業技術総合開発機構が請け負っています。この日に案内してもらった日本CCS調査株式会社は、2008年CCSを進めていくための会社として設立。実証試験のスタート時からこの事業に関わっています。
今回の実証試験では、二酸化炭素の分離・回収から貯留までのCCS全体を一貫システムとして実証し、2019年に目標30万トンの圧入を成功させたほか、各種モニタリング及び海洋環境調査により、CCSが安全かつ安心できるシステムであることが確認されました。
実証試験には4年間の準備期間がありました。技術としては、省エネ型の二酸化炭素分離回収技術を採用。まず、国内最大の掘削能力を持つ装置を使い、陸上から沖合の海底下に向けて圧入井の掘削を進めるところから始めました。その後、2016年から二酸化炭素の圧入がスタートします。地中深くに圧入したCO2は、およそ1,000年かけて85%は鉱物化すると想定されています。
実証試験では、約3年半で30万トンのCO2の圧入に成功しました。現在国内では年間約11.5億トンのCO2を排出している状況であり、2050年のゼロカーボン達成のため、その1~2割に相当する年間約1.2〜2.4億トンのCO2をCCSにより削減することが期待されています。
CCSを実施するための今後の課題は①コスト低減、②CO2の長距離・大量輸送技術の確立、③法律や政府支援などの仕組みの整備ということでした。
説明が終わると屋上に上がり、CO2を分離・回収する3つのメインタワーを見学。
その後2本の圧入井を見ながら、実際のCO2掘削作業についての説明を受けました。
その後の質問タイムでは、CCSと地震との関連性や圧入時に地層水はどこに移動するのかなど、まだまだ経過観察中のCCSが及ぼす影響について、理科学的な観点からの質問が多く見られました。
こうして、1泊2日にわたって実施された総合エネルギー産業への転換に向けた最先端の取組を学ぶフィールドワークは終了。
参加した学生たちからは、
「来年度3回生になったら環境法を研究する予定なので、その前に行政と企業のそれぞれの立場からエネルギーへの向き合い方を知ることができて勉強になりました。」
「前回のフィールドワークで見学した直江津港LNG基地と相対化できた。勇払LNGプラントでは北海道のエネルギーを北海道で作っていてとてもいい取組だと思った。それぞれがそれぞれの役割を持っているんだと理解しました。」
「講義はいつもオンライン参加なので、地元の北海道でフィールドワークがあり参加できてよかった。いろいろな立場の人からお話を聞いて、改めて自然からエネルギーを取っているんだなと感じました。他の学生たちの知識が深くて勉強不足を痛感! 刺激になりました。」
との感想が寄せられました。
「エネキャリ(ENERGY CAREER ACADEMY)」は、経済産業省 資源エネルギー庁の委託事業です。未来のエネルギー業界を担う大学生・大学院生などを対象に、石油・天然ガスなどのエネルギーを巡る最新動向・政策や、エネルギー業界で働く魅力について幅広く学ぶ機会を提供し、私たちの生活、そして地球の未来を担う次世代のイノベーターの育成を目指して本事業を行っています。