世界・日本の最新のエネルギー動向を学ぶ特別講義②
「世界のエネルギー動向」レポート

大学生・大学院生等を対象に、未来のエネルギー業界を担う人材を育む特別講座「エネキャリ」。第2回の講義は「世界のエネルギー動向」について。2023年10月22日(日)に、ポスト石油戦略研究所代表であり、経済産業省クリーンエネルギー戦略検討委員会委員の大場 紀章氏を東京大学にお迎えし、日本及び世界のエネルギーフローや脱炭素動向などについて学びました。

第2回の講義は「世界のエネルギー動向」

世界と日本のエネルギー需給の実態を知る

世界の一次エネルギー供給の内訳は、下図の通り。8割は石油、天然ガス、石炭の化石燃料です。そのため今回の講義では、化石燃料の話が中心でした。

世界の一次エネルギー供給の内訳とその使われ方

まずは国内のエネルギー需給の実態から。
「エネルギー白書2023」によると、日本の一次エネルギーの内訳は原子力3.2%、再生可能エネルギー 13.6%、天然ガス21.4%、石油36.0%、石炭25.8%。一次エネルギーの約半分は発電に投入されるものの、そのうち66%が熱として捨てられ約30%が電気として出力されています。
電力の一部の再エネ(水力含む)を除き化石燃料で供給しており、その化石燃料のほとんどを海外からの輸入に頼っているのが現状です。

日本のエネルギー消費の実態

そしてこの図から、消費の半分は石油で、全体の約7割は、普段の暮らしでは見えない産業用途に使われていることがわかります。

「メディアなどではエネルギー問題と言えば電力について語られることが多いですが、その場合、エネルギー全体の4分の1の部分にしか触れていないことになりますね。」と、大場氏。

これらのエネルギーは下図の流れ(上流・中流・下流)で供給されています。日本にはいわゆる石油メジャー企業はなく、それぞれのセクターに多くの企業が関わっていて、上流開発の大半は総合商社が担っています。

エネルギー供給のフローと関連産業

米国を中心に広まっている「シェール革命」とは?

近年、石油の世界では「シェール革命」と言われる動きが起こっています。とくに米国は石油生産が斜陽になっていたのですが、シェールオイル(タイトオイル)を採掘することで急激に回復し、過去の石油生産量を一気に上回ったのです。

シェールオイルとは、非在来型石油の代表的なもの。従来の技術を用いて経済的に採取可能な石油、天然ガスを「在来型」と呼ぶのに対し、それ以外のものを非在来型石油、非在来型天然ガスと呼ぶのですが、「非在来型」は従来の技術では採取・回収が困難である一方、在来型エネルギーよりも資源量が豊富とされ注目を集めています。

以下は、世界の原油生産量の内訳になります。北米をはじめ、2010年頃からの石油生産量の増加のほとんどがシェールオイルになっています。

世界の原油生産量の内訳

世界のエネルギーフローについて

世界のエネルギー供給システム

こちらは世界のエネルギー供給システム。世界を6つの地域に分けて、エネルギーの輸出入を示したもの。世界を相当大まかに分けると、中東及びロシアが、中国と欧州にエネルギーを輸出し、米国は天然ガスを少し輸出し、石油は自給自足、その他の地域は、石油だけは輸入していて、それ以外は大体地域内で賄っていると見ることができます。

地産地消のエネルギーと言われる石炭の貿易量は圧倒的に中国が多く、世界のマーケットの約半分を占めています。元々石炭マーケットの主流は日本でしたが、ここ10年ぐらいは中国の輸入量が急激に増大している状況です。中国の影響もあり、世界の燃料別発電電力量の内訳は意外にも石炭火力が最も多く、35 %を占めています。

カーボンニュートラルの話題で日本人が勘違いしている5つのこと

次のテーマは、カーボンニュートラル(CN)について。最初に大場氏は、多くの日本人が「カーボンニュートラルの話題で勘違いしている5つのこと」について言及しました。

1 「脱炭素はパリ協定または、米国のバイデン政権の圧力で決まった」

→実は、2021年のグラスゴーCOP26の交渉前に、すでにほとんどの国が自発的にCN宣言をしていた 。パリ協定(COP21)では「2度以内」しか合意しておらず、1.5度は“努力追求”のみの合意だった。

2 「脱炭素は、グレタ・トゥーンベリさんのような環境原理主義者によって生まれた」

→もちろん環境活動家の影響もあるが、どちらかというとビジネスサイド、欧米の金融セクターが「気候正義」を大義名分に、利益のため公的機関に働きかけた影響が大きい。

3 「脱炭素は政府の義務なので、事業者は従わざるを得ない」

→パリ協定以降、政府は削減義務を負わず、目標提出義務のみになったので、目標未達でも何のペナルティもない。むしろ脱炭素政策は産業界から政府への要請だった。

4 「脱炭素で石油投資が急減、再エネ増でエネルギー価格は高騰」

→世界的な脱炭素トレンド(2019-2021年)以降、石油ガス上流投資は増え続けている。投資が困難なのは、公的資金や日本の金融機関絡み。

5 「脱炭素=再エネだから日本は不利」

→脱炭素は、必ずしも再エネ振興策ではない。原子力推進や省エネ・電化製品の輸出等、産業競争力向上に繋がる脱炭素にのみ力を入れるべき。

脱炭素の削減主体や主導主体は、パリ協定の前後で以下のように変わってきています。

誰が何のために減らすのか?

パリ協定以前では、国境の中で排出されたガスについては政府が削減義務を負うのが国際ルールでしたが、パリ協定以降は企業がその責任を担うことになりました。それにより、削減主体、主導主体の矢印が逆向きになったのです。

削減主体、主導主体、対立軸が変わった

例えば自動車メーカーであれば、自社工場に使う電力のために火力発電所から出たCO2から、メーカーが販売した車の排気ガスから出るCO2まで、その全てを自動車メーカーの排出量として計算され、責任を負うことになります。将来性のある企業として評価されるためにESG(環境:Environmentと社会: Socialとガバナンス: Governanceの英語の頭文字を合わせた言葉)評価の指標は大変重要なので、企業はCO2の削減対策をとる必要に迫られています。

実は、世界は今、“補助金戦争”と言われるほど資金の取り合いになっているのだとか。日本政府も遅ればせながら20兆円の補助金を拠出し、脱炭素の取組が行われようとしています。

グローバルな脱炭素財政出動競争

エネルギー安全保障をどう考えるか

日本のエネルギー政策は、経済産業省資源エネルギー庁が謳う「S+3E」の考え方が前提にあります。「S+3E」とは、安全性(Safety)を大前提として、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に実現する考え方です。

大場氏が考えるエネルギー安全保障とは、シンプルにエネルギー供給の不安をなくすこと。そのためには、電力の安定供給と、エネルギー供給のための外交安全保障政策が必要だということでした。

2023G.K PSI

上図は、石油、天然ガス、石炭の各エリアの消費量と生産量の割合です。石油のほぼ全量を輸入に頼っている日本は、輸入先として中東依存率が非常に高いことが下図よりわかります。

中東依存度が高いのは日本だけ・・・

新しいエネルギーへの挑戦

30年後には実質供給ピークを迎える石油、今でも在庫量が少ないLNGなど、化石燃料は地球上に存在する量に限りがあることに加え、二酸化炭素を排出します。そこで、これらの化石燃料の代わりに、これからの火力発電に活用できると期待されているのがアンモニアです。

アンモニアは燃焼してもCO2を排出しないゼロエミッション燃料です。近い将来、実現が期待される石炭火力発電での20%混焼(エネルギーベースでの20%)によって、CO2排出量は20%削減となります。

さらに今後注目されている技術として、CCSがあります。CCSとは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれます。発電所や化学工場などから排出されたCO2を、他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するというものです。

石炭火力の依存度が高いアジア諸国で唯一G7に属している日本の新しいエネルギーへの挑戦が今、世界で問われています。

CCSの可能性

グループワークでは、架空のエネルギー企業の社員として気候変動問題を考える

講義後に行われたグループワークは、東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻の辻 健教授をゲストに迎え、5~6人ずつ11のグループに分かれて行いました。

学生たちには、石油、天然ガス、石炭の生産・流通も扱う日本のエネルギー企業A社の経営企画部社員という設定で、昨今のエネルギー情勢と、カーボンニュートラルに対応しなければならない事情を踏まえて、既存の事業の延長だけではなく、企業としてどのような取組をすべきか、アイデアを出してもらいました。

経済産業省クリーンエネルギー戦略検討委員会 委員(ポスト石油戦略研究所代表) 大場紀章 氏(左)
経済産業省クリーンエネルギー戦略検討委員会 委員(ポスト石油戦略研究所代表) 大場 紀章 氏(左)

まず「世界のエネルギートレンド・カーボンニュートラルの動向」について、講義で着目した点から整理しました。11グループ中4グループが、ロシア・中東の不安定化について言及しました。ロシア産エネルギーを避け、ロシア依存を低くしようとする動きがあることについて触れていました。

また、「日本特有の事情」については、8グループ中6グループが「中東依存度が高い」ことをあげていました。エネルギー自給率の低さや輸送経路の安全性についての意見もありました。
次に、上流開発・新規事業・電力部門・非電力部門の各事業領域で、カーボンニュートラル対応のためにどんな取組ができるのか、プランを考えてもらいました。

「上流開発」では、世界情勢の不安定化があげられ、自主開発資源をもっと追求すべきという意見や、エネルギー確保のための長期戦略を海外と結ぶことの重要性について意見交換がなされていました。とくに日本独自で抱える問題として、島国であり、資源が少なく輸入に依存せざるを得ない状況や、海上輸送経路の安全保障の観点について着目していました。

「新規事業」では、脱炭素燃料への注目があげられ、バイオエタノールや宇宙開発といったアイデアもありました。しかしながら、日本は世界に比べて補助金が少ないことや、そもそもビジネスとして成り立つのか、といった懸念点があげられました。

「電力部門」では、再エネ事業に力を入れたいといった意見が出ました。具体的な施策としては、大容量蓄電池設備の開発・水素やアンモニアを用いた既存発電所の活用・設備更新などです。リスクとしては、地震国・日本での新たな発電所の建設地をどこにするかという問題や、補助金を導入しても国民の理解が得られるのか、といった意見がありました。

「非電力部門」では、化石燃料の利用は続行する一方で、可能な限りの電化促進を促すべきといった意見が出ました。具体的には、モーダルシフトEV開発支援や充電スポットを設置するための補助金制度などがありましたが、施策に時間がかかることや、EV普及率が低いことなどが問題点として議論されていました。

結論として、各グループで自分たちの目指すプランを総括してもらったところ「エネルギーの地産地消」「安定供給の維持と不安定なカーボンニュートラル情勢への対応と両立」といった内容があがりました。

グループワークチームA グループワークチームD グループ風景

今回の講義のアンケートでは、
「パリ協定でのCO2削減の主語が企業だということを知れたのが、とてもいい勉強になった。」

「エネルギー問題は、3/4は産業の問題、1/2は石油の問題、1/4は電力の問題、ほぼ外交の問題ということが日本における実態ということに関して、外交面において、日本の力を発揮する必要があるのではないかと感じた。」

「カーボンニュートラルが環境懸念や温暖化対策という要素よりも、企業の存続や市場価値を高める要素が高いことを学んだ。」

といった回答がありました。

当日のアーカイブ

●講義内容

2023年10月22日 講義② エネルギー概論2 世界のエネルギー動向 世界トレンドから読み解く日本のカーボンニュートラル

●プログラム概要

2023年10月22日 講義② エネルギー概論2 世界のエネルギー動向 世界トレンドから読み解く日本のカーボンニュートラル プログラム概要動画 ・講義 ・グループワーク

エネキャリについて

「エネキャリ(ENERGY CAREER ACADEMY)」は、経済産業省 資源エネルギー庁の委託事業です。未来のエネルギー業界を担う大学生・大学院生などを対象に、石油・天然ガスなどのエネルギーを巡る最新動向・政策や、エネルギー業界で働く魅力について幅広く学ぶ機会を提供し、私たちの生活、そして地球の未来を担う次世代のイノベーターの育成を目指して本事業を行っています。