エネルギーキャリアフォーラム
エネルギー業界の働き方と未来について理解を深める特別な日曜日

エネルギー業界の働き方と未来について理解を深める特別な日曜

2024年2月25日(日)、日本科学未来館未来館ホールとオンラインにて「エネルギーキャリアフォーラム エネルギー業界の働き方と未来について理解を深める特別な日曜日」が開催されました。エネルギーの上流開発企業で活躍する社員の皆様が集まり、プレゼンテーション「エネルギーの安定供給実現に向けて」、「カーボンニュートラル実現への企業の取組」とパネルディスカッション「カーボンニュートラル実現への取組」が行われたほか、「エネキャリ」参加学生チームによる最優秀プレゼンテーション「私たちが考える総合エネルギー業界へのトランジションプラン」が発表されました。

オープニング

オープニングでの上月良祐経済産業副大臣からのメッセージには、エネルギー業界の課題解決に向けた意気込みと次代を担う若手の柔軟な発想と活躍への期待が込められていました。

上月良祐経済産業副大臣

エネルギーは私たちの生活や経済活動を支える基盤であり、どのような状況にあっても安定供給を確保することが重要です。先の能登半島地震に象徴されるように、日本には災害が多く、そのような有事においてもエネルギーを安定的に供給する取組が重要です。世界ではロシアによるウクライナ侵略やハマス等によるテロ攻撃など、各地で緊迫した情勢が続いています。こうした中にあって、資源のほとんどを海外に依存している我が国では、エネルギー安全保障の重要性が一層増している一方、気候変動への対応は真剣に取り組んでいくべき喫緊の課題です。

2050年カーボンニュートラルの目標は、並大抵の努力では実現できるものではありません。エネルギー・産業部門の構造転換、大胆な投資によるイノベーションの創出など、官民をあげて実現していかなければなりません。エネルギー安定供給の確保とカーボンニュートラルの両立は非常にチャレンジングですが、日本の新たな経済成長につなげる好機と捉えて、取組を加速させていきたいと考えています。そのためには、柔軟かつ新しい発想を持つ若い方々の活躍が不可欠です。2050年の日本において中心的な役割を担っていくであろうここにお集まりの学生の皆様にも、これら課題について本フォーラムを契機に一緒に考えていただきたいと思います。
本フォーラムが、参加者及びエネルギー上流開発業界にとって、新たな時代を切り開く契機となること、参加者の皆様の益々のご活躍とご健勝を祈念して、挨拶とさせていただきます。

プレゼンテーション「エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの実現」

続いて、「エネルギーの安定供給実現に向けて」とのテーマで上流開発企業の取組を株式会社INPEX から、さらに「カーボンニュートラル実現への企業の取組」について、株式会社INPEX、石油資源開発株式会社及びJX石油開発株式会社からプレゼンテーションが行われました。

「エネルギーの安定供給実現に向けて」株式会社INPEX ご担当者様

株式会社INPEX ご担当者様

私は、株式会社INPEXの国内エネルギー事業本部事業企画ユニット企画グループに所属し、国内新規事業の企画立案やエネルギー政策の分析・発信を行っています。

私は、「安定供給」とは「欲しいものが安全に、合理的な価格で手に入ること」だと考えています。しかし、エネルギーを取り巻く環境には、国際情勢、為替リスク、自然災害、天候、環境保全など、制御できない、予測できない、正解がない、不確かな要素が多数存在します。この状況にも関わらず、世界の一次エネルギー(石油、天然ガス、石炭、原子力、再生可能エネルギー)消費量は、この60年間で3.5倍以上増加しました。さらに日本は他国と比べてエネルギー自給率が13%と低く、海外に依存している状況です。

エネルギーは、開発を担う企業からインフラを担う企業までさまざまな企業が関わることでお客様にお届けできるものです。安定供給は、商流の全ての断面でプロフェッショナルが力を合わせて実現できることなのです。

<会社を超えた協力体制による安定供給の実現>

続いて、弊社におけるエネルギーの安定供給の取組を、調達、流通、緊急時の3つの事例から説明します。

まずは調達における取組についてです。弊社は新潟県上越市にある直江津LNG基地を拠点にして、パイプラインを通じて都市ガス会社や大口の工場などにガスを供給しています。基地のタンク在庫の管理を行いつつ、将来の需要見通しに基づいて保有するガス・LNGのポートフォリオ(国産ガスの供給、複数プロジェクトとの取引や自社船の船繰り)を最適化することで供給の安定を図っています。その中には、弊社がオペレーターとして参画するオーストラリアの『イクシスLNGプロジェクト』(日本初の大型LNGオペレータープロジェクト)からの調達も含まれます。また、在庫逼迫時や緊急時に備え、隣接している他社の火力発電所との間に連系配管を用意し、お互いに助け合う体制もとっています。

流通においては、日本最大の約1,500キロメートルの高圧パイプラインオペレーターとして、需要を予測し、天然ガス製造施設との調整を行いながら24時間体制で監視を行っています。万が一、パイプライン上で緊急事態が生じた場合には、遠隔操作によってガスを遮断して安全を確保します。また、日々のパトロールでの安全確認や漏洩検査防蝕検査で、パイプラインの維持管理にも努めています。

緊急時における取組としては、太平洋側の他社のLNG基地ともつながったパイプラインの広域ネットワークがあります。能登半島地震の発生に伴い直江津LNG基地の送ガスを一旦停止した際も、他社からのパイプラインを通じたバックアップ供給を受けるなどの調整を行い、ガス供給に影響を及ぼしませんでした。

<業種×立地×規模によって、脱炭素への最適解は異なる>

最後に、これからの時代の安定供給についてお話しします。例えば、新しい燃料を導入しようとした時に港との距離や、パイプラインの利用可否によって輸送コストや難易度は異なります。高温の熱需要は電化による代替が難しく、さらにその需要の大きさによって経済性は変化します。このように立地、規模、業種によって脱炭素への最適解は変わり、正解はひとつではないと考えています。

その中で、私たちは現在取り組んでいる石油・天然ガス事業と今後本格的に取り組もうとしている脱炭素化事業の2つをあわせて、それぞれの地域、顧客にとってのエネルギーベストミックスを実現したいと考えています。そして、石油・天然ガス事業で培ってきたノウハウを活かして、安定供給とネットゼロカーボン社会の両立に貢献していきます。

「カーボンニュートラル実現への企業の取組」① 株式会社INPEXご担当者様

株式会社INPEXご担当者様

昨今、環境意識と地政学的なリスクの高まりによって、エネルギー業界は新たな局面を迎えています。これまでの「より安定に」「より安価に」に加えて「持続可能性」を考える必要が出てきました。しかし、再生可能エネルギーがキーワードとして盛り上がっている中でも、依然として化石燃料の消費量は多い。それは、化石燃料が安定していて安価だからです。これを切り替えるには、石炭よりCO2排出量の少ないLNGに変えていく、ガスを原料にして水素、アンモニアをつくり、その際に排出されるCO2はCCSで削減する。そして再生可能エネルギーを拡大していく。その際、バランス良く徐々に変えていくことが重要だと思います。

このような現状認識の上で、弊社は「ネットゼロ5分野」を掲げ、私が所属する部署、水素・CCUS事業開発本部では、そのうち「CCS・CCUS」「メタネーション」「水素」を担当しています。「CCS・CCUS」については、2030年頃には年間250万トンのCO2圧入、2050年頃には収益化するという目標を立てています。持続的に社会が続くためには、企業としてある一定程度の利益を生み続けることが重要だと考えています。

弊社の具体的な取組も紹介します。CCS事業のグローバル展開には、オーストラリアのイクシスLNGプロジェクトの脱炭素化を目指す『ボナパルトCCS事業』があります。これは日本企業がオペレーターであることから、日本の脱炭素に直接貢献することに加え、日本からのCO2受け入れも視野に、取組を進めている事業です。国際的にも規模が大きく、日本のリーダーシップを示せる事業でもあります。また、インドネシアでは、巨大事業『アバディLNGプロジェクトにおけるCCSの検討』が控えています。また、経済産業省とJOGMECが主導する先進的CCS事業として7件の事業化調査が開始されていますが、そのうち弊社が携わっている『首都圏CCS事業』と『日本海側東北地方CCS事業』は、2030年の操業開始を目指して事業性を検討中です。更に、『新潟県柏崎市 ブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証試験』は、弊社が開発する国産ガスから水素、アンモニアを製造し、水素を燃料とする発電まで一貫して実施するという事業です。

これらのCCS事業は官民挙げて取り組む必要があります。その中で弊社は、オペレーターとして事業を推進する役割を担っていくことを掲げています。

「カーボンニュートラル実現への企業の取組」② 石油資源開発株式会社 ご担当者様

石油資源開発株式会社 ご担当者様

弊社は、石油・天然ガスの探鉱・開発から輸送供給に加えて発電事業も行い、取り扱うエネルギーの幅を広げているところです。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、CCSにフォーカスしてご紹介します。

CCSを語るために、まずは地下を調べる技術をお話しします。医療の分野に例えるとイメージしやすいと思います。弾性波を使った地下の探査はエコーのようですし、地下のデータを3次元で取得して画像に構築するのはMRIに近いと思っています。実際は高さ60メートルの掘削リグで地下を掘って物性データを取ってくるのですが、CCSの対象深度は大体1,000メートルくらいで、フィールドは広く、深い。針の穴に糸を通すような作業に私たちが培ってきた技術が生かされるのだと思います。

具体的なCCS事業ですが、弊社でもJOGMECの先進的CCS事業で『苫小牧地域CCS事業』及び『東新潟地域CCS事業』の2件を進めているところです。『苫小牧地域CCS事業』は、出光興産株式会社と北海道電力株式会社と実施しています。弊社はこの地域に油ガス田を保有しているため、地下のデータはかなり把握できています。『東新潟地域CCS』では、東北電力株式会社、三菱ガス化学株式会社、北越コーポレーション株式会社、株式会社野村総合研究所との5社による事業です。双方とも年間約150万トン、20年で3,000万トンのCCSを計画しています。

海外では、マレーシアにおけるCCS事業とインドネシア共和国東ジャワSukowati油田におけるCCUS(CO2 EOR)事業の実現可能性調査を行っています。米国のワイオミング州では『米国Dry Pineyプロジェクト』を進めています。ここでは、天然ガス油田を低炭素化するために近隣地域でCCSを行なうと同時に、天然ガスに含まれるヘリウムを分離・精製し、ヘリウムを販売することで事業性を上げる検討を行っています。

CCS事業は、特に地域に対するメリットは非常にわかりづらいところがあります。プロジェクトをしっかり進めていくためには、自治体、地域の理解が非常に重要です。そのもとに、国と民間事業者がしっかりした政策と技術に裏打ちされた連携をし、そして決して途中でやめないことが重要です。弊社ではこういったところの人材育成も含めて、カーボンニュートラル社会の実現に取り組んでいます。

「カーボンニュートラル実現への企業の取組」③ JX石油開発株式会社 ご担当者様

JX石油開発株式会社 ご担当者

ENEOSグループの石油ガス開発上流部門である弊社は、お客様にアフォーダブルな(気軽に買える)エネルギーを供給するという使命を持っているのと同時に、温室効果ガスなどの環境負荷低減という環境価値の創出・実現を通じて、当社および当社を取り巻くステークホルダーの持続可能性を向上させる事業に取り組んでいます。

現在ENEOSグループは、ガソリンや灯油、ジェット燃料など、お客様に使いやすい形のエネルギーを製造する過程で多くのCO2を排出しており、これらを内需の減少と省エネなどをもって減らしていくのですが、どうしても減らせない部分を森林吸収やCCSにより、政府目標の2050年より10年早い2040年にカーボンニュートラル達成を目指しています。

そうした中、弊社は“ありたい姿”を見つめ直しました。石油・ガス開発を続けてきた中で、地下に対して無限の可能性、価値を創出するという部分をコアに持っていましたが、カーボンニュートラル社会ではサステナブルをキーワードに取り組んで行きたいと考えています。既存の石油・天然ガス開発事業、CCSを中心とした環境対応事業の二軸経営を掲げ、この二軸でカーボンニュートラルという大きな相手に対峙していきたいと思っています。

一軸目の石油・天然ガス開発ですが、これまで石油資源を闇雲に地下から取り出してきたというわけではありません。2000年代はじめには、当時はめずらしかった中東での『ゼロフレア事業』やベトナムでの『CDMプロジェクト』を立ち上げてきました。そして、2017年には米国テキサス州で『ぺトラ・ノヴァCCUS事業』を立ち上げています。CCS は既存石油・ガス開発の技術が転用可能です。この『ぺトラ・ノヴァCCUS事業』をフラッグシップと位置づけ、そこから得られた知見も活用しながらCCSに向けて真摯に取り組んでいきたいと考えています。

二軸目の環境対応事業では、CCSを軸としています。現在、J-POWER(電源開発株式会社)と共同で取り組んでいる国内での大規模CCSプロジェクトを進めていますが、将来的には海外でのCCSの展開も目指しています。

また、新潟県胎内市にある弊社唯一の国内事業所の中条油業所敷地内に設けられた『中条共創の森オープンイノベーションラボ』を、石油ガス開発の既存インフラを使ったイノベーション創出の場と位置づけ、産官学の連携を図ってさまざまな実証試験などを行う場とするべく整備しています。ここでは、地域課題となっているバイオマスを使って水素を製造するプロジェクトを進めています。

こうした環境対応事業を軸とする新しい世界観の達成には、我々の凝り固まった頭だけではなし得ません。ベンチャー企業との協業に加えて、大学との共同研究、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)や経済産業省との共同研究などによる産官学の連携を通して、イノベーションの創出に取り組んでいます。

パネルディスカッション「カーボンニュートラル実現への取組」

次のプログラムは、パネルディスカッション「カーボンニュートラル実現への取組」です。
パネリストとして、「カーボンニュートラル実現への企業の取組」のプレゼンテーションでご登壇いただいた株式会社INPEXご担当者様、石油資源開発株式会社ご担当者様、JX石油開発株式会社ご担当者様に加え、三井住友フィナンシャルグループ三井住友銀行 チヴァース陽子氏、経済産業省資源エネルギー庁 佐伯 徳彦氏が参加しました。モデレーターは合同会社ポスト石油戦略研究所の大場 紀章氏です。

パネルディスカッション「カーボンニュートラル実現への取組について」

モデレーター:先ほどのプレゼンテーションでは、どの事業者さんのお話にもCCSというワードがありました。世界のカーボンニュートラルにおいて非常に重要な役割を担うと言われているCCSは、化石燃料から水素・アンモニア燃料を供給する上でも非常に重要な技術ですが、地下を掘ったり、地質の調査をしたり、貯蓄層を管理する技術を有する上流事業者の存在が不可欠であるところ、事業化するためには環境整備が課題だろうと思います。政府のCCUS事業に関する取組について紹介いただきたいと思います。

経済産業省資源エネルギー庁 佐伯 徳彦氏(以下、佐伯氏): CCSは、地下約1,000メートルから3,000メートルの地中の砂の層の隙間にCO2を入れていく技術です。このような地下の利用は、他にも石油や天然ガスの採掘、地熱の取り出し、また井戸を掘る場合も事業として競合し得ます。また、一部、海の利用に関して、パイプラインを敷設したり、モニタリング機器を置いたりすることで影響を受ける場合があります。地上であれば、農業や林業にも多少の影響が出てくるということで、これらをどう調整するのかは大きな課題のひとつです。

世界的には、欧米諸国において15年前くらいに法整備がされ、支援策自体はこの5年ぐらいで整備されている状況で、実は2023年にはすでに5,000万トンのCO2が地下に入れられています。日本においては、2050年時点で年間1.2〜2.4億トンのCO2貯留を可能とすることを目標に、2030年までの事業開始に向けた事業環境整備をし、本格的にCCS事業を展開することを目標としています。それを踏まえて、6つのアクションとして、①政策支援、②コストダウン、③国民理解の増進、④海外CCS、⑤法整備、⑥中長期的な取組のための施策の仕組み作りを挙げています。支援策としては、事業者主導の「先進的CCS事業」を7つ選定し(苫小牧地域CCS、日本海側東北地方CCS、東新潟地域CCS、首都圏CCS、九州北部沖〜西部沖CCS、マレー半島沖CCS事業、大洋州CCS)、これをモデルに国内CCSの普及を図っていきたいと考えています。

日本における油ガスのポテンシャルは限定的だと考えられていますが、日本の近海には砂がたくさんあるので、CO2貯留のポテンシャルは比較的大きいと考えています。今後は、貯留地までどうやって運ぶのか、どうやって分離するのか、そうした仕組みづくりが大きな課題になっています。

2月13日には、CCS事業法として、事業環境整備のための新たな法律案を国会に提出しています。ユーザーとなるCO2の排出者の利益と事業の発展の両方を考え、市場のルールをつくりました。CCS事業法が成立すれば、地下の権利を設定したり、商取引を行ったりするためのルールを整備していきます。

モデレーター:2016年から米国で商業的にCCS事業に取り組んでいるJX石油開発株式会社のご担当者さんに、苦労されたことや取組に対する思いなど経験としてお聞かせください。

JX石油開発株式会社 ご担当者様:弊社は、米国テキサス州のヒューストンにある全米でも有数の石炭火力発電所から排出されているCO2を回収して、近隣の油田に圧入するというCCUS事業を2016年から続けています。年間150万トンのCO2を回収しており、先ほど佐伯さんから世界でCCSされているCO2は5,000万トンというお話がありましたが、その50分の1を我々が担っている計算になります。

この事業への投資の判断をしたのは2014年です。そのころはカーボンニュートラルの「カ」の字もあまり真剣に議論されなかったような時代。一番風呂に入って勉強させていただいたというのが正直なところです。世界で一番大きな回収装置なので、技術面でもビジネス面でも歴代の担当者の苦労があったと思います。技術面では、漏れてしまったり、摩耗したり、実際に動かしてみてわかることもたくさんありました。また、回収したCO2の地下への圧入においても油田側で受け入れる能力がないと、せっかく回収したCO2を放散せざるを得ない状況にもなります。全体を事業として回していく難しさというのが最も勉強になりました。ビジネス面では、いろいろなステークホルダーがいて、CO2を回収したい発電業者と使いたい油田側、これに対してビジネスとしてお金を出す人。ポジションや考えなど色々あるなかで、各ステークホルダーにとって気持ちよく、意義があって、お金が回るものじゃないと、事業は絶対に動かないと思うんです。ときには譲れないところは譲らないなど、ネゴシエーションを通して物事を動かしていくということが参考になったと思っています。そうしたことを通して得られた知見が今の先進的CCS事業など日本での展開、弊社での展開にも役立っているのかなと思います。

モデレーター:技術的な手法がわかっていても、事業としてお金が回っていかないと誰もやらないわけですよね。CCSを事業として回していく上で、資金、コスト削減などにおける政府の経済的支援も重要になってくると思うのですが、事業化、商業化に関する政府の取組について佐伯さんから紹介いただければと思います。

佐伯氏:まさに、世界各国が悩んでいるところだと思います。まず、誰がお金を払うのかというところですが、これはCO2を排出している企業です。分離・回収や運搬、貯留の全てにおいて大きなコストになりうるところは大きな課題です。ただCCSには、すでに50年の増産の技術があり、コストが比較的読みやすい分野だとも考えられているので、現行のコストはヨーロッパのカーボンプライシングと言っている金額にだいぶ近づいてきているのかなと思います。

ヨーロッパはカーボンプライシングという制度によってインセンティブ付けをしています。一方、アメリカは資本市場、株主や機関投資家に対して自分たちがどれだけカーボンニュートラルに貢献しているかをアピールしたいと考える企業は多数存在するため、その点を上手く活用することに加え、補助金よりも客観的な税制(減税)の仕組みを整えています。日本ではこれらをあわせて検討していく必要があるのかなと思っています。

モデレーター:日本の取組のひとつに、北海道苫小牧市での大規模CCS実証実験がありました。CCSの難しさとして地域選定があると思いますが、大規模実証実験に主導的に関わってこられた石油資源開発株式会社のご担当者さんに、住民の不安とどう向き合うかということを含めてこれからの取組についてお伺いしたいと思います。

石油資源開発株式会社 ご担当者様:私は苫小牧の大規模実証実験を請け負った会社である日本CCS調査株式会社の設立時に出向して、プロジェクトの立ち上げを年くらいやりました。その立場も含めてお話しします。

大規模実証実験をする際、我々にとって一番安全安心に実施できるとことを選んで提案しています。石油・天然ガスを探鉱したエリアはデータが結構そろっているため、ある意味“おいしい場所”(有望地)を把握している一方で、CCSは油ガスの有望地とは深度が異なるため、CCS目線での探査を行ってデータを収集すれば、CCSの対象地域は結構あると思います。地下の専門家の立場としては、日本の地質構造発達史を考えながら、「こういうところにこういう砂がきて、ここに泥があって、歪みがかかっていない、もちろん火山からは外す」といった具合に適地を選んでいきます。

適地調査に併せて、地域の理解、地域の環境整備が重要であり、地域にしっかりご理解いただくということです。まずは自分でしっかり考えてから地元に説明に入ります。漁師の方々は我々の顔を見た瞬間に、こちらが本気かどうかを見極めます。「絶対に安全にできる、もう任せてくれ。」と自分の言葉で説明できるようになるところから始めて、丁寧に地域に理解を求めていく、これができたところが適地になっていくのだと思います。

モデレーター:先ほど、米国ではマーケットに対して企業がカーボンニュートラルをアピールする、というお話がありました。カーボンニュートラルにおいて、金融セクターとしてどんな取組を考えていらっしゃるのか、三井住友フィナンシャルグループ三井住友銀行のチヴァースさんにお伺いします。

三井住友フィナンシャルグループ三井住友銀行 チヴァース陽子氏:私が所属しているサステナブルソリューション部は、弊社のお客様の脱炭素などのサステナブルな取組をサポートする部署です。金融セクターもグローバルでネットゼロというのが非常に重要な取組となってきています。

ネットゼロに向けた弊社の移行計画ですが、具体的には、2030年までにSCOPE 1・2つまり弊社から直接排出されるCO2と電力熱の消費から排出されるCO2をネットゼロにする目標を掲げています。さらに2050年までには、弊社が融資させていただいているお客様が排出されるCO2についてもネットゼロを目指しています。CO2を削減するのが難しいエネルギーセクター、鉄鋼、自動車、製造セクターのお客様とも一緒に取り組んでいますが、これらHard to Abateのお客様のCO2の削減にはひとつの選択肢としてCCS事業が非常に重要だと考えています。

また、お客様がCO2をどのくらい排出しているかを計算する必要があるため、企業のCO2の排出量を測定できるデジタルツールの開発、提供もしています。さらに、脱炭素に向けたソリューションとして我々の再生可能エネルギーのプロジェクトや、最近では水素のプロジェクトにもファイナンスをしています。エネルギートランジションへの支援については地域によってカーボンニュートラルの道筋が異なるので、弊社では『トランジションプレイブック』という基準を作成して、お客様のファイナンストランジション、グリーントランジションのファイナンスを適切に支援する体制を整えているところです。ファイナンス組成額目標としては、2029年までに30兆円だったのを50兆円に引き上げ、より一層企業の皆様のカーボンニュートラルの取組を支援できるように推進しています。

モデレーター:日本企業初の大型LNGプロジェクトのオペレーターとして海外での事業開発にも力を入れている株式会社INPEXのご担当者さんには、今後の御社のCCS、ブルー水素・アンモニアなどの取組について、特に海外への展開を中心にお聞かせください。

株式会社INPEXご担当者様:INPEXはもともとインドネシアや日本国内で石油開発をやってきたのですが、2000年にオーストラリアでイクシスLNGを発見し、2012年に最終投資決定をしました。この大きなガス田を開発する上で、20、30年といった長期間で世界がどう変わっていくかを見通して、当時からCCSをやることを念頭にした検討が進められていました。イクシスがあるオーストラリアの北西部からLNG基地がある北部ダーウィンまでは約890キロメートルのパイプラインを引くことを決定していますが、設計初期の段階から陸上でCO2を分離してそれを地下に圧入することができる設計として考えられていました。

ボナパルトCCS事業として実際に動き出せば、日本に輸出されるLNG自体の低炭素化につながりますし、非常に大きな貯留地を持っているので日本で排出されるCO2も受け入れることができる。二重に重要なプロジェクトであり、そのための土地も全て確保しています。

我々はエネルギー安定供給を続けていく必要がありますが、探鉱の際には同時に、CCSの適地を同じように評価しています。インドネシアの『アバディLNGプロジェクト』では、開発計画にCCSも含めており、LNGを生産したその日からCO2を地下に貯留するシステムが出来上がっているという事業です。このように我々は、エネルギーを安定的に供給しつつ、それを脱炭素することを同時に進めることを担っています。

さらに長期的なビジョンで見ますと、水素やアンモニアといったCO2を排出しないエネルギーが社会で広く使われる場面に向けて、我々自身で水素の製造から利用までの一貫した実証実験をやって商業化プロジェクトに繋げるために取り組んでいます。国内だけでなく、アメリカでもアンモニアを製造するプロジェクトが立ち上がりました。短期的なエネルギー安定供給は守りつつも、将来的にエネルギー構成が変わってきた場合にも対応できるべく、事業に取り組んでいます。

モデレーター:最後に佐伯さんに今後の日本のCCS事業の展開について、まとめの言葉をいただきたいと思います。

佐伯氏:エネルギー問題というと、再生可能エネルギーや原子力をどうするかという話になりがちですが、CCSという世界もあるということを上流事業者の皆様からお聞きいただき、参加者の皆様はエネルギー業界にポテンシャルがあることを感じていただけたのではないかと思います。おそらくCCSは、今後、10年、20年かけて現在の再生可能エネルギーと同じような市民権が得られていく分野だと思っています。

世間ではまだCCSを実施することについて、20年先のことを見通して意思決定することは大変なことだと思います。そういう意味で、エネルギートランジションの影響を一番に受けているのは、エネルギーセクターそのものだと思っています。自分達の祖業そのものをどうするのか問われている状況であり、お金を貸す資本市場側も非常に悩まれている時期であると思います。それを仕事として選択し、その道を進むことは非常にチャレンジングで面白い、一方で大変なこともあると思いますが、やりがいのある分野です。

日本は20年以上CCSの研究をやってきたため、法律の体制整備もできますし、エネルギー法制も世界でも比較的進んでいます。我々が2週間前に閣議決定させていただいた法律案もおそらくイギリスの次くらいのかなり先進的な内容も含みうるものだと思っています。

本フォーラムに参加されている皆様の半分くらいが文系と聞いています。私も文系です。仕事は一人ではできません。チームとして挑み、自分が補えるもの、貢献できるものがあれば、それを研ぎ澄ましていってください。私たちが働く30〜40年間、その長い目でチャレンジングな場所はどこなのか、そこに自分の身を浸してみて何か面白いことができそうなのかということを、自身で問い続けていただきたいと思います。

プレゼンテーション「私たちが考える総合エネルギー業界へのトランジションプラン」

2月9日(金)、「世界や日本社会に貢献するため、2050年にエネルギー安定供給及びカーボンニュートラルを両立させながら、収益の最大化を実現する日本の上流開発企業の事業計画を立案する」というテーマで、学生チームによるグループワークとプレゼンテーションが行われました。参加学生がエネルギー業界の未来を切り拓く次世代のイノベーターを育成する学校「エネキャリ」での5カ月にわたる講義及びフィールドワークを経て集大成として挑んだのは、上流開発企業の2050年の事業計画立案です。8チームのプレゼンテーションを官民メンバーが審査し、最優秀賞に選ばれたのは、麻生良成さん(東京大学大学院理学系研究科)、飯塚悠宇さん(早稲田大学社会学部)、奥寺大さん(名古屋大学工学部)、平山馨士さん(関西学院大学法学部)、山口良起さん(広島大学工学部)のチームが提案したトランジションプランです。経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部長 定光 裕樹氏より、表彰及び講評を行った後、最優秀に選ばれたメンバーによるプレゼンテーションが行われました。

エネキャリ最優秀プレゼンテーション「安定供給とゼロエミッションを達成!
2050年の電化社会を見据えたエネキャリ社の事業プラン」

エネキャリ最優秀プレゼンテーション「安定供給とゼロエミッションを達成!2050年の電化社会を見据えたエネキャリ社の事業プラン」

私たちは、2050年にエネルギーの安定供給とカーボンニュートラルを両立させ、収益の最大化を実現するために、4つの経営方針を立てました。

① 化石燃料30%以下を絶対目標とし、20%までの引き下げに挑戦
化石燃料をCO2排出量の少ない天然ガス(LNG)に一本化

② 化石燃料メインから再生可能エネルギーにシフト
石油を風力・水力・バイオマスに

③ 2050年までのカーボンニュートラル実現
森林経営・複数種類のカーボンクレジットの分散活用

④ 2050年までに利益倍増
将来的な再生可能エネルギーによるエネルギー供給を60%にまで拡大

現在は主に上流資源開発を行っていますが、電化社会へのシフトを見据え、発電事業にも着手していきます。原子力事業は導入コストが相対的に低い次世代技術の実証研究後の実用化を待ってから参入します。地熱事業には、上流資源開発企業のノウハウを生かし、土地の選定などを実施した上で参入していきます。非化石燃料の積極的導入も行います。非化石燃料はエネルギー供給や収益面の不安定性が懸念されていますが、国内での再生可能エネルギーの供給効率の向上や電力系統用蓄電池の導入を図ることで、将来的な解決を目指していきます。近年、メジャー各社が石油開発を行っている上流企業への投資を再開しているので、石油事業を縮小しても石油事業に対する買い手はつくと判断しました。

風力発電は全体のエネルギー供給の30%にしました。これは、国土の12倍のEEZ(排他的経済水域)を有する日本では洋上風力発電の需要が高まっていくと思われること、さらに、風力発電には部品点数が非常に多く、国内サプライチェーンの構築、技術革新が期待できると判断した結果です。まずは、現時点で技術が確立しつつある陸上風力発電に投資を行っていき、そこで得た資金やノウハウ・技術を洋上風力発電に投入していきます。風力発電の供給の不安定さは、LNGや原子力などで補っていきます。

水力発電は、日本の流域面積の広さを生かした中水力発電経営モデルで行います。中水力発電は発電規模が3万キロワット未満の水力発電設備で、河川の多い日本の特徴を捉えた注目度の高い発電設備です。これを流域面積の広い河川の各支流に設置し、地域電源としての可能性も求めていきたいと思っています。下流域住民には、治水効果を説明することで理解を得ていきます。

最後に森林経営についてです。新陳代謝の高い早生樹林の森林経営を通じて、バイオマスの原材料調達のサプライチェーン構築、森林クレジット発行などを行います。輸入に依存しているバイオマス原料を森林経営で生まれる間伐木材や廃棄木材に代えていき、2050年のバイオマス発電量を現在の10倍にすることを目指します。さらに、早生樹林で吸収されたCO2の一部をカーボンクレジットとして発行することで、社会全体のカーボンニュートラルを推進できると考えています。

以上、4つの経営方針とそれらに関連する必要なアクションを通じて、2050年に向けた社会の持続可能な発展への価値提供を行なっていきます。

クロージングメッセージ:総合エネルギー業界への変革に向けて

最後は、経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部長の定光氏から、会場に足を運んでくださった参加者、オンラインでの参加者、講演者の皆様、パネルディスカッションのモデレーター及びパネリスト、そして関係者の皆様へのお礼とともに、改めてエネルギー業界の挑戦と期待を述べ、フォーラムを締めくくりました。

経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部長の定光氏

昨今のエネルギーを巡る国際情勢からエネルギー安全保障を確保することの重要性が再認識されています。それに加え、2050年カーボンニュートラルを達成していくことも同時に進めて行かなければなりません。2050年カーボンニュートラルを実現していくためには、脱炭素電源化とともに、CCSなどの新技術を活用して達成していく必要があります。これらの取組を進めるためには、水素・アンモニアなどの新しいエネルギーの活用も必要であり、こうした新しいエネルギーの転換を成長に繋げていくことも重要であると考えています。政府としては、エネルギー安全保障、脱炭素、経済成長、この3つを同時に実現することを最優先事項と位置づけて様々な支援策を進めています。
日本にとってエネルギーはアキレス腱ともいうべき分野ですが、それを世界のパートナーとの連携によって乗り越えていく。さらには、世界とのつながりを持ちながら、2050年カーボンニュートラル、さらにその先の持続可能な社会の実現という未来のこともしっかり先読みしながら取り組んでいく。かつ日々のエネルギーの安定供給も欠かすわけにはいかないという、非常に難しくも、やりがいがある仕事です。皆さんぜひ、躊躇なくエネルギーや上流開発企業の仕事に挑戦していただければと思います。このフォーラムが、皆さんのエネルギー業界に対する新たな発見、興味、関心につながったことを心から期待しながら、閉会の挨拶とさせていただきます。

エネキャリについて

「エネキャリ(ENERGY CAREER ACADEMY)」は、経済産業省 資源エネルギー庁の委託事業です。未来のエネルギー業界を担う大学生・大学院生などを対象に、石油・天然ガスなどのエネルギーを巡る最新動向・政策や、エネルギー業界で働く魅力について幅広く学ぶ機会を提供し、私たちの生活、そして地球の未来を担う次世代のイノベーターの育成を目指して本事業を行っています。