データで築く見守りの信頼~CCSの安全性と監視の仕組み~
発電所や工場などから排出される二酸化炭素(CO2)を回収し、地下深くの地層に埋めるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)。目に見えない地下の世界だからこそ、重要になるのが「モニタリング」です。ここでは、CCS分野のエキスパートである東京大学の辻教授による監修のもと、最新テクノロジーを駆使したモニタリングの役割について解説します。
※CO2を長期間安定して地下に閉じ込める原理については、『CCSにおけるCO2地中貯留の原理と長期安定化のメカニズム』をご参照ください。
モニタリングの目的と役割
CCSにおいて、地下の様子を監視する「モニタリング」は、単に異常がないか監視するだけでなく、以下に示す4つの重要な役割を担っています。

こうしたモニタリングを行う一番の目的は、CO2が計画通り安定的に地層内で留まっていることを確認し、地元の皆様にご安心いただくことです(封じ込め監視)。
また、地下のCO2の動きが事前のシミュレーション通りであることを確認できれば(整合性監視)、将来的にJOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)へモニタリング等の管理業務を移管するための根拠になります。
さらに、万が一の事態をいち早く察知すること(不測時監視)や、周辺の環境に変化がないか見守ること(環境影響監視)も大切な役割を果たしています。例えば、CO2圧入に際して、適切な圧入レートを設計したうえで、圧入中の地下水圧をリアルタイムで監視することで、地下の圧力が過剰に上昇することを未然に防ぐことができます。
地下深部を可視化する方法
直接観察することができない地下深部のCO2の広がりを把握するために、一般的に用いられるのが「弾性波探査」という技術です。これは医療用のエコー検査をイメージすると分かりやすいでしょう。音の反射を利用して、内部がどうなっているかを映し出す仕組みです。
弾性波探査のイメージ

一例として挙げられる方法としては、調査船から「エアガン」という装置を使って海中に音波を出します。すると、その音波が海底下の地層の境界で反射して戻ってきます。この反射波を捉えることで、地下の構造を描き出すことが可能になります。岩石の隙間にある水がCO2に置き換わると、音波の反射の仕方が変わります。その違いを解析して画像化することで、「今、CO2がどこまで広がっているか」を追跡する技術です。
最新のモニタリング技術
モニタリングは安全を支える要ですが、克服すべき課題もあります。例えば、これまで主流だった大型船とエアガンを使う方法は実績こそ十分ですが、1回の調査に数億円規模のコストがかかるため、頻繁に行うことが難しい側面がありました。
そこで、辻教授らが開発しているのが、「低コスト」「連続的(リアルタイム)」「低環境インパクト」をキーワードとした、「PASS(小型連続震源装置)」と「DAS(光ファイバー型地震計)」を組み合わせたシステムです。
PASSは、従来のように「一回で大きな音を出す」のではなく、「小さな音(振動)を連続して出し続けることで波のエネルギーを大きくして遠くまで届かせる」という発想に転換し、装置を直径40センチほどまで小型化することに成功しました。これだけ小さな装置でも、発する波を重ね合わせることによって深度2.5km程度まで可視化することができます。軽量化によりモニタリングが安価に済むだけでなく、小型無人船に搭載した運用を試みることも可能です。別の超小型無人探査船に搭載したハイドロフォン(地震計)や後述のDASと組み合わせることで従来の技術では難しかったCO2のリアルタイム監視にも繋がる、最新の技術です。
また、光ファイバーケーブル自体を地震計として利用するDASという技術も登場し、CCSのモニタリングで注目されています。DASを使い、例えば100kmの光ファイバーを利用すれば、それに沿って約10m間隔で1万台の地震計が並んでいるのと同等の観測データを取得できます。つまり、海底に設置された光ファイバーを陸上のDAS測定装置に接続することで、海底下の広範囲にわたる観測データをリアルタイムで取得・送信することが可能になります。挙動が予測と異なる兆候を見せ、異常が懸念される場合でも、それを早期に発見することができれば対処が可能ですので、リアルタイムでのモニタリングには大きな利点があります。

モニタリング技術とCCSの未来
こうした弾性波を使ったモニタリングの技術は北海道苫小牧市で2016年~2019年に行われたCCS実証でも役立てられ、地下に貯留されたCO2の広がりを可視化することができました。現在モニタリングデータの解析は専門家が行っていますが、将来的には膨大なデータをAIに学習させ、地下の状態を自動で診断するような、より精度の高いシステムの開発が進められています。CCSが一般的となった未来の社会では、こうして得られた客観性の高いモニタリングデータへ容易にアクセスできるようになると考えられます。
監修者プロフィール 辻 健(つじ たけし)氏
東京大学大学院工学系研究科システム創成専攻教授。
専門は地球惑星科学、資源探査工学。CCS(二酸化炭素回収・貯留)の安全性と信頼性を担保するための次世代モニタリング技術開発を牽引。独自に開発した小型震源装置「PASS(Portable Active Seismic Source)」に加え、光ファイバーを用いた計測技術「DAS(Distributed Acoustic Sensing)」の開発に取り組む。これらの観測技術にAI解析を組み合わせ、地下深部のCO2挙動を低コストかつ連続的に可視化するシステムの構築と社会実装に取り組んでいる。