第1節 原子力を巡る環境と政策対応

2021年秋頃からの燃料価格の高騰や、2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵略に起因する国際エネルギー市場の混乱、国内における電力の需給ひっ迫等、国内外のエネルギー情勢が一変しています。こうした情勢を踏まえ、2023年2月に閣議決定された「GX基本方針」及び同年7月に閣議決定された「GX推進戦略」では、原子力について、安全性の確保を大前提に、原子力発電所の再稼働を進めること、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組むこと、地域の理解確保を大前提に、廃炉を決定した原子力発電所の敷地内での次世代革新炉への建替の具体化を進めること、その他の開発・建設については今後の状況を踏まえて検討していくこと、既存の原子力発電所を可能な限り活用するため、実質的な運転期間の「60年」という上限は維持しつつ、一定の停止期間に限り、運転期間のカウントから除外すること、最終処分を含むバックエンドの課題について国主導で取り組むこと等が盛り込まれました。加えて、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会等における検討を経て、今後の原子力政策の主要課題とその解決に向けた具体的な対応の方向性が整理され、同年4月28日に開催された原子力関係閣僚会議では、「今後の原子力政策の方向性と行動指針」が決定されました。こうした方針に基づく施策の具体化に向け、「GX脱炭素電源法」が同年5月31日に成立しています。

原子力発電所の再稼働については、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」に基づき、引き続き、いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、高い独立性を有する原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合のみ、その判断を尊重し、地元の理解を得ながら、原子力発電所の再稼働を進めることとしています。その際、国も前面に立ち、立地自治体等の関係者の理解と協力を得るよう、取り組むこととしています。直近では、関西電力高浜発電所1・2号機がそれぞれ2023年8月及び同年9月に再稼働し、2024年3月時点では、全国で計12基が再稼働しています。

こうした中、2024年1月1日には、石川県能登地方を震源とする「令和6年能登半島地震」(以下「能登半島地震」という。)が発生し、北陸電力志賀原子力発電所の立地自治体である石川県志賀町では震度7を観測しました。志賀原子力発電所では、使用済燃料プールのスロッシングによる溢水や、一部の変圧器故障による油漏れ等が発生しましたが、使用済燃料の冷却や電源等、必要とされる安全機能は確保されていました。また、地震による原子力発電所への影響について、北陸電力は、自社のウェブサイトで随時情報発信を行うとともに、北陸電力及び電気事業連合会は、様々な疑問に一問一答形式で答える特設サイトを開設して情報発信を行いました。なお、原子力規制委員会は、志賀原子力発電所2号機について、今回の地震による知見を追加的に考慮して厳正な審査を行っていくとともに、他の原子力発電所についても、今回の地震から原子力発電所に影響する新たな知見が得られた場合には、規制への取り入れの要否に関して判断していくとしています。

今後も原子力発電を安定的に利用するためには、国内に約2.0万トン存在する使用済燃料への対処が重要です。日本は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、核燃料サイクルの推進を基本的方針としています。日本原燃の六ヶ所再処理工場については、2020年7月に事業変更許可を、2022年12月には「設計及び工事の計画の変更」(第1回)の認可を取得しており、安全確保を最優先に、2024年度上期のできるだけ早期の竣工を目指しています。この竣工目標の実現に向けて、日本原燃は、安全規制等への対応体制を強化するとともに、規制当局とより緊密なコミュニケーションを図って認識を共有すること等により、適合性審査等への対応を確実かつ効率的に進めることとしています。また、同じ日本原燃のMOX燃料工場についても、2020年12月に事業変更許可を、2022年9月には「設計及び工事の計画の変更」(第1回)の認可を取得しており、2024年度上期の竣工に向けた取組を進めています。

また、六ヶ所再処理工場の竣工に当たっては、プルトニウムの適切な管理と利用への取組が不可欠です。電気事業連合会は、2020年12月に「新たなプルサーマル計画」を公表し、2024年2月には新たな「プルトニウム利用計画」を策定しました。同月には、日本原燃が、再処理事業の実施主体である使用済燃料再処理機構1に対して、「六ヶ所再処理施設およびMOX燃料加工施設 暫定操業計画」を提出しました。これらを踏まえ、使用済燃料再処理機構は実施中期計画を策定し、同年3月には、経済産業大臣が原子力委員会の意見を聴取した上でこれを認可し、プルトニウムの利用と回収のバランスの確保を図りました。

さらに、核燃料サイクルを進める上では、使用済燃料の貯蔵能力の拡大も重要です。政府では、2015年10月の最終処分関係閣僚会議において、「使用済燃料対策に関するアクションプラン」を策定しました。このアクションプランに基づき、原子力事業者は「使用済燃料対策推進計画」を策定し、使用済燃料の貯蔵能力の拡大に向けた取組を進めてきました。四国電力伊方発電所や九州電力玄海原子力発電所の発電所構内における乾式貯蔵施設の建設や、リサイクル燃料貯蔵が建設を進めているむつ中間貯蔵施設が、2023年8月に原子力規制委員会から保安規定の変更認可を取得する等、使用済燃料の貯蔵能力の拡大に向けた具体的な取組が進展しています。

加えて、核燃料サイクルの中で発生する高レベル放射性廃棄物等の最終処分についても、日本全体で取り組んでいくべき重要な課題です。国が前面に立ち、原子力発電環境整備機構(以下「NUMO」という。)とともに対話活動等を進めていく中、2020年11月に北海道の寿都町及び神恵内村で文献調査を開始しましたが、最終処分事業に関心を持つ他の地域は限定的な状況でした。こうした状況を踏まえ、2023年4月には、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」を改定し、同年7月には、国・NUMO・事業者の合同チームが全国の自治体を個別訪問する全国行脚を開始する等、文献調査の実施地域の拡大に向けた取組強化策等を実施しています。こうした中、2024年4月には、佐賀県玄海町において、町内の団体から提出された文献調査への応募に関する請願が町議会で審議され、採択されました。そして、同年5月には、経済産業省からの文献調査実施の申入れについて、町長が受諾することを表明しています。引き続き、1つでも多くの地域に最終処分事業へ関心を持っていただけるよう、政府一丸となって、かつ、政府の責任で取り組んでいきます。

また、NUMOが北海道寿都町及び神恵内村での文献調査を進める中、2023年11月には、資源エネルギー庁が「文献調査段階の評価の考え方」をとりまとめました。2024年2月には、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会特定放射性廃棄物小委員会地層処分技術ワーキンググループにおいて、NUMOが作成した北海道寿都町及び神恵内村の文献調査報告書の原案が公表されました。同ワーキンググループでは、文献調査報告書の原案が「文献調査段階の評価の考え方」に基づき適切に作成されているかについて、議論が進められています。文献調査プロセスの着実な実施と並行して、最終処分事業の理解促進に向けた取組や、高レベル放射性廃棄物の処分に関する研究開発、調査、国際連携も進んでいます。また、原子力の研究、開発及び利用によって発生する低レベル放射性廃棄物の処理・処分についても、安全性の確保と国民の理解を旨として、研究開発等が進んでいます。

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使用済燃料再処理機構は、2024年4月に「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」へと名称を変更しています。