第1節 電力システム改革の推進

1.電力広域的運営推進機関の取組

東日本大震災により、大規模電源が被災する中、東西の周波数変換設備や地域間連系線の容量の制約から、広域的な系統運用が十分にできませんでした。このため、不足する電力供給を十分に手当することができず、国民生活に大きな影響を与えたことから、2013年11月に成立した「電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)」に基づき、強い情報収集権限と調整権限の下で広域的な系統計画の策定や需給調整等を行う「電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」という。)が2015年4月に発足しました。

広域機関では、全国大での広域連系系統の整備及び更新に関する方向性を整理した長期方針である「広域系統長期方針」や、広域連系系統の整備に関する個別の整備計画である「広域系統整備計画」の策定により、広域連系系統の在るべき姿の実現に向けた取組を進めています。

また、各一般送配電事業者の中央給電指令所と連携した広域機関システムを通じて、全国の需給状況や地域間連系線の運用状況を24時間365日監視し、全国規模で一元的に情報を把握することで、需給ひっ迫時には電力融通等の必要な指示を行う等、広域的な需給調整を行っています。

加えて、既存の送配電設備のさらなる効率的な利用のため「日本版コネクト&マネージ」の取組を推進するとともに、一般送配電事業者がエリアを越えて、電力市場から広域的かつ効率的に調整力を調達・運用する需給調整市場等の整備も進めています。

2.電力の小売全面自由化への対応

家庭を含めた全ての電気の利用者が電力供給者を選択できるようにするため、2016年4月に電力の小売全面自由化を実施しました。全面自由化に際しては、まず旧一般電気事業や旧特定規模電気事業といった類型に代わる区分として、小売電気事業(登録制)、送配電事業(許可制)、発電事業(届出制)という事業ごとの類型を設け、それぞれ必要な規制を課すこととしました。具体的には、自由化後も電力の安定供給を確保し、需要家保護を図るため、以下のような様々な措置を講じています。

まず、電気の安定供給を確保するための措置として、適切な投資や人材の確保の必要性に鑑み、一般送配電事業者に対して、需給バランス維持、送配電網の建設・保守、最終保障サービスの提供、離島のユニバーサルサービスの提供を義務付けるとともに、これらを着実に実施できるよう、地域独占と総括原価方式の託送料金規制(認可制)を措置しました。また、小売電気事業者に対して、需要を賄うために必要な供給力を確保することを義務付けることとし、将来的な供給力不足が見込まれる場合に備えたセーフティネットとして、広域機関が発電所の建設者を公募する仕組みを創設しました。さらに、需要家保護を図るための措置として、小売電気事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課すとともに、旧一般電気事業者(以下「旧一電」という。)に対し、2020年3月末まで経過措置として料金規制を継続することとしました。ただし、電気の使用者の利益を保護する必要性が特に高いと認められるものとして、経済産業大臣が指定する指定旧供給区域のみ経過措置料金が存続することとされ、2019年4月、電力・ガス取引監視等委員会から、消費者等の状況、競争者による競争圧力及び競争環境の持続性の状況を総合的に考慮した上で、全ての供給区域において、2020年4月の時点においては、経過措置料金を存続させることが適当と考えられる旨、経済産業大臣に対する意見が示されました。本意見を踏まえ、2019年7月、全ての旧一電に係る供給区域について、小売規制料金に係る経過措置の存続のための指定が行われました。以降、おおむね年に1回程度、審査対象区域の検討を行うこととしております。

加えて、小売全面自由化に伴い、多種多様な事業者が卸電力取引所で取引を行う機会が増加することや、一時間前市場の創設等、制度変更により卸電力市場を利用して不当に利益を得るケースが想定されることから、不正取引(相場操縦等)の防止、国による市場監視、取引所の運営の適切性確保を可能とする規制措置を講じています。こうした措置を通じて、市場の透明性と廉潔性を維持することが、卸電力市場の活性化に資すること、ひいては小売電力市場の活性化につながることと考えています。

3.電力の小売全面自由化の進捗状況

(1)電気事業に係る制度設計について

2015年9月に開催された電力取引監視等委員会(2016年4月に電力・ガス取引監視等委員会に改組。)において、①小売営業に関するルール、②卸電力市場における不公正取引の取締手法、③今後の託送料金制度の在り方等、電力取引の監視に必要な詳細な制度設計の議論が進められてきました。

また、電力システム改革が進展する中で、電力分野において、エネルギー政策の基本的視点である、安全性、安定供給、経済効率性及び環境適合を同時に達成していくことが求められます。効率的かつ競争的な電力市場の整備等の環境整備を進めると同時に、電力システム改革が日本経済における成長戦略としての効果を最大限に発揮するためにも、市場における担い手としてのエネルギー産業を国際的にも競争力のあるものとしていくことが必要不可欠です。このため、電気事業制度に係る制度設計を始めとして、電力分野の産業競争力強化に向けた幅広い政策課題を検討する場として、2015年10月、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の下に電力基本政策小委員会を開催し、2016年10月より、電力・ガス基本政策小委員会に検討の場を移しています。ここでは例えば、先述の料金規制の経過措置について2017年10月から議論が開始され、2018年度中には、規制下にある料金メニューそれぞれの用途や契約状況が確認され、また、それらに関する新電力や需要家へのヒアリング・アンケート結果等を踏まえた議論が行われたほか、燃料費調制度や最終保障供給制度の在り方等、多岐にわたる議論が行われました。ほかにも、「電気事業法(昭和39年法律第170号)」に基づき、2020年度の発送電分離を前にした検証が開始され、2018年9月から合計7回にわたり、小売全面自由化後の競争の状況や広域機関の活動状況のほか、電力各社のシステム対応状況等について議論を実施の上、2019年6月に送配電部門の法的分離に向けた電気事業を取り巻く状況についての検証結果を取りまとめられ、2020年4月に送配電部門の法的分離が行われました。

このように、電力システム改革の制度設計については、総合資源エネルギー調査会や電力・ガス取引監視等委員会において検討してきたところであり、引き続き適切な場において検討を進めます。

(2)登録小売電気事業者数について

2022年3月末時点で752者を登録しています。

この小売電気事業登録は、法令にのっとり、資源エネルギー庁が、最大需要電力に応ずるために必要な供給能力を確保できる見込みがあるか、電力・ガス取引監視等委員会が、電気の使用者の利益の保護のための措置が講じられているかといった観点から、それぞれ審査を行っています。

登録された事業者の内訳は、もともと高圧の小売電気事業を行っていた新電力事業者(PPS)に加え、LPガス及び都市ガス関係、石油関係、通信・放送・鉄道関係等の事業者等、非常に多岐にわたります。従来の料金体系とは異なる段階別料金や既存事業とのセット割、時間帯に応じて料金差を付ける時間帯別料金等の新たなメニューの提供が見られます。

また、異業種の事業者間の連携や、地域の枠を超えた事業統合等も始まっており、事業者の事業機会の拡大も進んでいます。

なお、電力取引報によると、2021年12月時点で電力市場全体としては、販売電力量ベースの新電力のシェアで約21.7%となっています。

(3)料金メニューの多様化

新電力の提供する料金メニューを見ると、全体的な傾向としては、基本料金と従量料金の二部料金制からなる既存の料金メニューに準じた料金設定が多く見られます。他方、一部では、完全従量料金メニュー、定額料金メニュー、指定された時間帯における節電状況に応じた割引メニューやセットプラン等、新しい料金メニューも提供されるようになっています。

なお、多くの新電力は、料金規制の残る大手電力会社が毎月公表する燃料費調整額を引用した料金メニューを採用しておりますが、経済産業省では需要家の選択肢を拡大するとともに、予算執行の予見性を高める等の総合的な観点から、2020年度中に経済産業省庁舎で使用する電気の調達に際して、燃料費調整を行わないことを条件とする公募を行い、複数の事業者からの応札の結果、株式会社エネットと契約を締結しました。

また、再生可能エネルギー等の電源構成や、地産地消型の電気であることを訴求ポイントとして顧客の獲得を試みる小売電気事業者の参入も見られ、中には需要家が発電所を選んで得票数の多かった発電所に報奨金を与えることができる等、特色のある小売電気事業者も存在しています。

さらに、電力消費の見える化(電気の使用状況の可視化)や、電気の使用状況等の情報を利用した家庭の見守りサービス等も提供され始めています。応援するスポーツチームとの繋がりや里山の景観保存等、需要家の好みや価値観に訴求するサービスも始まっています。

加えて、需要家側の取組として、電力コスト削減の観点から、同種の事業者間における電気の共同調達や、地域を問わない事業グループ全体としての一括調達の動きも出始めています。

4.電力市場における適正な取引確保のための厳正な監視等

(1)小売取引の監視等

①各種相談への対応

電力・ガス取引監視等委員会は、相談窓口を設置し、電気の需要家等から寄せられた相談に対応し、質問への回答やアドバイス等を行いました。2021年4月〜2022年3月における相談件数は4,533件でした。本相談において、不適切な営業活動等に係る情報があった場合には、事実関係を確認し、必要な場合には小売電気事業者に対する指導等を行いました。また、独立行政法人国民生活センター及び消費者庁と共同で、電気・ガスの相談事例の紹介及びアドバイスについてプレスリリースを2回(2021年8月、12月)行い、消費者に対し情報提供を行いました。

【第361-4-1】相談窓口への相談件数(電気及びガス)の推移と相談事例

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②小売電気事業者に対する指導

●小売電気事業者A社へ行った指導(2021年12月)

A社は、2021年1月〜同年6月の間、電気の小売供給契約の締結をした際、契約先の電力会社がA社に切り替わる点についての記載が不十分なトークスクリプトを使用して電話による供給条件の説明を行い、また、1,432件の小売供給契約について契約締結前交付書面を交付しませんでした。当該各行為は、供給条件の説明義務という電気事業法上の重要な義務に違反する行為につながるおそれがあり、また、書面交付義務という電気事業法上の重要な義務の違反に該当するものであることから、電力・ガス取引監視等委員会は、A社に対し、電力の適正な取引の確保を図るため、所要の改善措置を速やかに実施するように指導を行いました。

③小売市場重点モニタリング

電力・ガス取引監視等委員会は、一定の価格水準を下回る小売契約について、競争者からの申告や公共入札の状況を踏まえ、取引条件等を含む実態を重点的に把握する小売市場重点モニタリングを2019年9月から開始し、その調査結果を年2回程度の頻度で公表することとしました。

(ア)背景

2017年〜2018年頃、複数の新規参入事業者より、一部地域の旧一般電気事業者が、電気購入先の新規参入事業者への切替え(以下「スイッチング」という。)をしようとしている顧客や公共入札を行う顧客等の特定の顧客に対してのみ、対価が非常に低い小売供給を提案している(当該対価は、水力や原子力等の可変費が非常に安い電源を利用しつつ、固定費は限定的に上乗せすることで可能となっている)という具体的な営業事例について、電力・ガス取引監視等委員会への相談がありました。旧一般電気事業者によるこのような行為は、一般的に、新規参入事業者の事業を困難とし、市場からの退出に至らせる等、将来の競争を減殺し、電気事業の健全な発達に支障を及ぼすおそれがあるため、第28回、第32回制度設計専門会合(2018年3月、7月)において対応方針を検討しました。その結果、「電力の小売営業に関する指針」を改定し、スイッチングの期間中における取戻し営業行為を問題となる行為に位置づけました。また、スイッチングプロセス以外における差別的な対価提供に関する規制の在り方については、競争状況を引き続きモニタリングし、必要に応じてさらなる検討を行うこととされました。

その後、電気の経過措置料金に関する専門会合(以下「経過措置料金専門会合」という。)の取りまとめ(2019年4月23日)において、電気の小売規制料金の経過措置を解除するか否かを判断するに当たっての考慮要素の一つとして、「競争環境の持続性」が挙げられ、卸市場において市場支配力を有する事業者が社内の小売部門に対して不当な内部補助を行い、当該内部補助を受けた小売部門が廉売等の行為を行うことによって、小売市場における競争を歪曲し、結果として、小売市場における地位を維持又は強化するおそれがあることが指摘されました。加えて、①このような不当な内部補助を防止するためには、社内外取引の無差別性を実効性のある形で確保することが最も有力で現実的な手段であること、②また「不当な内部補助」が行われているかどうかを確認するに当たっては、廉売等の行為によって小売市場における競争の歪曲の有無を判断するため、具体的な小売価格についてモニタリングを行い、これらの状況を適切に把握する必要があることも指摘されました。

これらの指摘を踏まえ、第38回、第40回制度設計専門会合(2019年5月、7月)において小売市場重点モニタリングの実施方法等を検討し、それを踏まえ、2019年9月から本取組を開始しました。

【第361-4-2】小売市場重点モニタリングの概要

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(イ)調査結果

2021年1月〜2021年12月に供給を開始した小売契約分について、調査の結果、九州電力において公共入札案件で可変費を下回る価格で応札・受注していた事例が1件確認されました。同社に対してさらに調査を行った結果、当該事案は見積りデータの入力ミスとチェック漏れに起因するものでした。また、同様の案件がないか過去1年間の特別高圧・高圧の全契約について同社に対し報告徴収を行ったところ、農事用電力を除き、電源可変費を下回る価格での契約は確認されませんでした。このような行為は、その意図がない中であっても、結果として、競争相手を市場から退出させることにもつながりかねないことから、同社に対して再発防止のために指導を行いました。当該九州電力の案件を除き、個々の案件において法令上問題となるような事例(可変費を下回るような価格設定)は認められなかった旨を第68回制度設計専門会合(2021年12月)において報告し、その調査結果を公表しました。

④経過措置が講じられている電気の小売規制料金に係る原価算定期間終了後の事後評価

電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号)附則の経過措置が講じられている電気の小売規制料金については、原価算定期間終了後に毎年度事後評価を行い、利益率が必要以上に高いものとなっていないか等を経済産業省において確認し、その結果を公表することとなっています。

2022年2月、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣からの意見聴取を受けて、料金制度専門会合において、原価算定期間を終了しているみなし小売電気事業者9社(北海道電力、東北電力、東京電力EP、中部電力ミライズ、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力及び沖縄電力)について、電気事業法等の一部を改正する法律附則に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等(20160325資第12号。以下「審査基準」という。)第2(7)④に基づく評価及び確認を行い、2022年2月、以下のとおり取りまとめました。

【第361-4-3】料金制度専門会合取りまとめ(審査基準の適用結果)

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【第361-4-3】料金制度専門会合取りまとめ(審査基準の適用結果)(ppt/pptx形式:43KB)

これを踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣に対し、審査基準第2(7)④に照らし、経過措置が講じられている電気の小売規制料金の値下げ認可申請の必要があると認められる事業者はいなかった旨回答しました。

(2)電力等の卸取引の監視

①スポット市場の監視

2021年10月以降、スポット市場において連続的に価格がスパイクする事象が発生しました。これは、秋の低需要期にあわせて発電所の定期検査が行われ、供給力が限られていたなかで、季節外れの高気温となる地域もあり、需要が増加したことや、買いそびれを避けるために高い価格での買い入札を行う買い手が増加したことで、価格の高騰につながったものと考えられる一方で、ブロック入札が約定結果に悪影響を与えた可能性もあると考えられたため、旧一般電気事業者等のスポット市場におけるブロック入札の詳細な運用や、ブロック入札が価格スパイクに与えた影響等について確認する必要が生じました。

これを受けて、電力・ガス取引監視等委員会では、10月1日〜11月8日における全コマを対象として旧一般電気事業者及びJERA、電源開発へ報告徴収を実施しました。

報告徴収も含む詳細な分析の結果、ブロック入札が市場価格高騰の主要因であったとは確認されませんでしたが、一部の事業者において、売りブロック入札の約定機会を最大化しているかどうかという観点から疑義のある入札行動が指摘されたため、ブロック入札の約定率が低い事業者についてはブロック入札の考え方や作り方を見直し、約定機会の最大化に最大限取り組むことを要請するとともに、各事業者の取組をフォローアップする観点から、各事業者におけるブロック入札に関する取組状況、ブロック入札率や約定率を定期的に確認し、公表していくこととしました。また、日本卸電力取引所においても、審議結果を踏まえ、2月3日以降、ブロック入札量・約定量の公開が開始されています。

②ベースロード市場の監視

ベースロード市場は、日本卸電力取引所に開設された市場であり、電力自由化により新規参入した小売電気事業者が、一般電気事業者であった小売電気事業者と同様の環境でベースロード電源を利用できる環境を実現することで、小売電気事業者間のベースロード電源へのアクセス環境のイコールフッティングを図り、小売競争を活性化させるため、2019年度から創設されました。

「ベースロード市場ガイドライン(以下、本項目において「ガイドライン」という。)」では、ベースロード市場の目的を踏まえ、各区域における旧一般電気事業者等の「大規模発電事業者」は、ベースロード電源の発電平均コストを基本とした価格を上限(以下「供出上限価格」という。)として、資源エネルギー庁が算定した量(以下「供出量」という。ただし、大規模発電事業者のベースロード市場への参加が任意の開催回(4回目オークション)の場合はその限りではない。)を当市場に供出することが適当とされています。また、大規模発電事業者の小売部門のベースロード電源に係る調達価格が供出価格を不当に下回っている場合には、ベースロード市場の目的が達成されないおそれがあります。

こうした観点から、電力・ガス取引監視等委員会では、(1)ベースロード市場の受渡年度の前年度において、適切な量及び価格が供出されているかという観点から、2021年度に実施されたベースロード市場のオークション(2022年度受渡分、7月、9月、11月、1月の計4回。)に関する取引内容について監視を行い、その結果を公表しました。また、(2)ベースロード市場の受渡年度の翌年度において、発電コスト及び発電量に関する想定と実績の乖離が合理的であったか、自己又はグループ内の小売部門に対するベースロード電源に係る卸供給価格の推定値がベースロード市場へ供出した価格を不当に下回っていないかという観点から、2020年度に受渡が行われた2019年度ベースロード市場について事後的な監視を行い、その結果を公表しました。

(1)受渡年度(2022年度)の前年度における監視の結果、各大規模発電事業者の供出量は、いずれもベースロード市場ガイドラインで定める電力量を満たしており、また各大規模発電事業者の供出上限価格は、ガイドラインに沿った方法により設定されており、それ以下の価格でベースロード市場への供出を行っていることを確認しました。

(2)受渡年度(2020年度)の翌年度における監視の結果、一部の大規模発電事業者では想定時の発電コストの中に算定の誤りが発生していたことを確認したため、当該事業者に対して注意喚起を行いました。なお、当該算定誤りが供出上限価格に与える影響は僅少であり、約定結果に影響を与えるものではありませんでした。また、大規模発電事業者の自己又はグループ内の小売部門に対するベースロード電源に係る卸供給価格が、ベースロード市場へ供出した価格を不当に下回っていると考えられる事例は確認されませんでした。

③容量市場の監視

容量市場は、発電事業者の投資回収の予見性を高め、再生可能エネルギーの主力電源化を実現するために必要な調整力の確保や、中長期的な供給力不足に対処することを目的として創設された市場です。容量市場のオークションにおいては、市場支配力を有する事業者(以下「市場支配的事業者」という。)が、正当な理由なく、稼働が決定している電源を応札しないこと(以下「売り惜しみ」という。)又は電源を維持するために容量市場から回収が必要な金額を不当に上回る価格で応札すること(以下「価格つり上げ」という。)によって、本来形成される約定価格よりも高い約定価格が形成される場合には、小売電気事業者が支払うべき容量拠出金の額が増加し、ひいては電気の使用者の利益を阻害するおそれがあります。

こうした観点から、電力・ガス取引監視等委員会には、「容量市場における入札ガイドライン」(以下、本項目において「ガイドライン」という。)に基づき、市場支配的事業者による売り惜しみや価格つり上げの監視が期待されています。2021年10月に実施された2回目のメインオークションでは、初回オークションにおける約定価格高騰を踏まえた総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会での議論を背景として、より一層監視を厳格にするべく、応札の受付期間終了後に行う事後監視に加え、応札の受付期間開始前に事前監視を行うこととされたことから、以下のとおり、問題となる行為がなかったかどうかの観点から、事前・事後ともに監視を行いました。

  • 売り惜しみ:ガイドラインに基づき、売り惜しみの可能性があると判断された電源について、そのリスト及び理由の説明を求めるとともにその裏付けとなる根拠資料の提出を求め、その合理性を確認。
  • 価格つり上げ:ガイドラインに基づき、監視対象となった電源について、ガイドラインに沿った適切な価格で応札されているか確認すべく、応札価格を構成する人件費や修繕費等のコスト算定方法及び算定根拠の説明を求め、事実関係を確認。

監視の結果、ガイドライン上、問題となる行為は発見されませんでした。また、第61回制度検討作業部会(2021年1月)において、当該監視結果の報告を行いました。

④非化石価値取引市場の監視

非化石価値取引市場は、再エネ価値に対する需要家ニーズの増大を踏まえ、2021年度より目的等別に再エネ価値取引市場と高度化法義務達成市場に分離されることとなりました。市場の分離に当たって行われた非化石価値取引市場の制度見直しに伴い、小売電気事業者が高度化法目標を達成するために購入できる証書は、高度化法義務達成市場で扱われる非FIT非化石証書に限定されることとなりました。非FIT非化石証書の由来となる電源は主に原子力や大型水力であり、売り手の大宗が旧一般電気事業者となることから、その入札行動が価格形成に強い影響を及ぼすことに対する懸念が、総合資源エネルギー調査会の下に設置されている制度検討作業部会で指摘されました。

こうした背景を踏まえ、当該取引における公平性や価格形成の透明性確保を図る観点から、制度検討作業部会の第5次中間取りまとめ(2021年8月26日)に基づき、旧一般電気事業者及び電源開発を対象とし、電力・ガス取引監視等委員会が非FIT非化石証書の取引について、監視を行うこととなりました。

具体的には、非化石価値取引市場の各回オークション(8月、11月、2月、5月の計4回)毎に、売り惜しみ及び価格つり上げの観点から、問題となる行為がなかったかどうか監視を行うこととなっています。また、第4回(5月)の取引終了後に、以下の3つの価格水準を相対的に比較し、乖離が認められる場合は、不当な価格設定の観点から合理的説明を求める((イ)、(ウ)については、乖離の有無によらず、内部補助の観点から、原則、社内取引価格の考え方を聴取する)ことになっています。

(ア)各回の入札価格と相対契約(外部取引分)の価格水準
(イ)各回の入札価格と相対契約(内部取引分)の価格水準
(ウ)相対取引間(外部取引分及び内部取引分)の価格水準

これまでに実施された第2回オークション(11月)までの監視の結果、第1回オークション(8月)では、東北電力が一切の売入札を行っておらず、それに対して合理的な説明が得られなかったことから、同社に対して注意喚起を行うとともに、売り惜しみの監視を通じて確認された問題となる事例として、事業者名と当該行為の内容を公表しました。

(3)発電・小売間の不当な内部補助の防止策

経過措置料金専門会合の取りまとめにおいて、電気の小売規制料金の経過措置を解除するか否かを判断するに当たっての考慮要素の一つとして、「競争環境の持続性」が挙げられ、卸市場において市場支配力を有する事業者が社内の小売部門に対して不当な内部補助を行い、当該内部補助を受けた小売部門が廉売等の行為を行うことによって、小売市場における競争を歪曲し、結果として、小売市場における地位を維持又は強化するおそれについて指摘がありました。

また、総合資源エネルギー調査会の下に設置されている制度検討作業部会の第2次中間取りまとめ(2019年7月24日)に係る議論では、非FIT非化石価値取引市場に関し、旧一般電気事業者がその非化石証書収入分について発電部門から小売部門に不当に内部補助を行うことによって、小売市場における競争が歪曲する懸念について指摘がありました。

さらに、容量市場導入に当たっては、容量拠出金により収入を得る事業者(旧一般電気事業者以外も含まれうる。)の発電部門から小売部門への内部補助について、同様の議論が生じることも想定されます。

これらの指摘等を踏まえ、旧一般電気事業者が電力の卸売において、社外・グループ外の小売電気事業者と比して、自社の小売部門にのみ有利な条件で卸売を行うこと等により、旧一般電気事業者の小売部門による不当な廉売行為等、小売市場における適正な競争を歪曲する行為が生じること(不当な内部補助)への懸念があることから、電力・ガス取引監視等委員会は、2020年7月、旧一般電気事業者各社に対して、社内外の取引条件を合理的に判断し、内外無差別に卸売を行うこと等のコミットメントを要請し、各社よりコミットメントを行う旨の回答を受領しました。

コミットメントについて各社の取組状況を確認するため、社内外・グループ内外の取引単価や個別の条件についてデータの提出及び説明を受ける形式で、第62回制度設計専門会合(2021年6月)及び第67回制度設計専門会合(2021年11月)においてフォローアップの結果を報告しました。当該フォローアップにおける確認結果は以下の通りです。

第1回フォローアップ(第62回制度設計専門会合(2021年6月))

  • 小売部門から独立した部門が相対卸取引を行い、年度期中においても相対卸取引を受付けている等、体制を整備・運用していること
  • 先渡市場、先物市場の利用状況は事業者によって差異があり、積極的利用を検討する余地があること
  • 卸売の条件面について、特に変動数量契約の通告変更権の設定において、社外・グループ外向けの取引の条件との差異が存在する例があり、こうしたオプション価値については、必ずしも明確に定量化されておらず、内外の取引条件・価格が十分に比較できない課題があること

第2回フォローアップ(第67回制度設計専門会合(2021年11月))

  • 旧一般電気事業者各社において、相対卸取引を担当する窓口は小売部門から独立した部門に設置され、また内外無差別な卸売を担保する仕組みとして、卸売の状況を定期的に確認するスキームを設定していること
  • 社内外・グループ内外の卸売単価の比較について、第1回フォローアップからの追加分に関しても、合理的な理由なく、社内・グループ内の取引価格が、社外・グループ外取引価格の平均水準よりも低くなっている事例がないこと
  • 相対卸取引について、交渉のタイミングにより卸供給の条件や価格の考え方が変わる場合、交渉スケジュール等を、希望する卸売事業者に明示できていない課題があること

2回のフォローアップを通して顕在化した課題を踏まえ、コミットメントの実効性確保に向けて、第71回制度設計専門会合(2022年3月)において対応案が議論され、コミットメント対象事業者に対して、以下の内容を要請していくこととされました。

①内外無差別な交渉機会の確保:旧一般電気事業者各社において相対卸売の交渉スケジュールを、卸売を希望する事業者に内外無差別に明示した上で、自社小売と相対卸売の交渉を同時期に進める。

②内外無差別な卸条件の確保:変動数量オプションが内外無差別に提供されていることを確認する手段として、旧一般電気事業者各社において通年契約の卸標準メニュー(原則として、少なくとも通告変更付のもの、通告変更権のないものを1つずつ)を作成し、それぞれの具体的条件(通告変更の幅・タイミング等オプションの詳細、負荷パターン等)を設定・公表した上で、当該卸標準メニューに沿って取引交渉を実施。フォローアップに際しては、卸標準メニューと実績との乖離を確認し、契約価格を決定した主要な要因とそれぞれの価値の評価に関する説明を求める。

③内外無差別な卸売を担保する体制の確保:①②に加え、内外無差別な卸売を通じた発電部門の利潤最大化を目指すインセンティブが適切に機能する体制が構築されているかどうかという観点より、発電部門が卸取引を実施する体制を整えること、部門間社内委託に際して一定の粒度をもった社内契約書を作成すること等を旧一般電気事業者各社に提案し、内外無差別性の実効性が確保されているかどうかの判断に当たって考慮を行う。

今後の対応としては、旧一般電気事業者各社のコミットメントの実施状況について引き続き定期的なフォローアップを行うことに加えて、内外無差別な卸売の実効性を高め、かつ取組状況を外部から確認できるための仕組みについて、上記の対応案を踏まえ、引き続き必要な対応を検討していきます。

(4)容量市場の創設・運用

かつての総括原価方式の枠組みの下では、発電投資は規制料金を通じて安定的に回収されてきました。総括原価方式と規制料金の枠組みによる投資回収の枠組みがない中では、原則として、発電投資は市場取引を通じて、又は市場価格を指標とした相対取引の中で投資回収されていく仕組みに移行していくと考えられます。このため、固定価格買取制度の対象となる再生可能エネルギー電源を除けば、大部分の電源に係る投資回収の予見性は、従来の総括原価方式下の状況と比較して、低下すると考えられます。

また、固定価格買取制度等を通じて、再エネが拡大することになれば、従来型電源の稼働率が低下するとともに、再エネ電源が市場に投入される時間帯においては市場価格が低下し、全電源にとって売電収入が低下すると考えられます。その結果、電源の将来収入見通しの不確実性が高まり、事業者の適切なタイミングにおける発電投資意欲をさらに減退させる可能性があります。

【第361-5-5】容量市場創設後の収入

361-5-5

資料:
経済産業省作成

今後、仮に電源投資が適切なタイミングで行われなかった場合、電源の新設やリプレース等が十分になされない状態で、既存発電所が閉鎖されていくこととなります。そのような場合には、中長期的に供給力不足の問題が顕在化し、さらに電源開発に一定のリードタイムを要することから、①需給がひっ迫する期間にわたり、電気料金が高止まりする問題や、②再エネをさらに導入した際の需給調整手段として、必要な調整電源を確保できない問題等が生じると考えられます。

こうした状況を踏まえると、単に卸電力市場(kWh価値の取引)等に供給力の確保・調整機能を委ねるのではなく、一定の投資回収の予見性を確保する施策である容量メカニズムを追加で講じ、電源の新陳代謝が市場原理により適切に行われることを通じて、より効率的に中長期的に必要な供給力・調整力が確保できるようにすることが求められます。

総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革貫徹のための政策小委員会(以下「貫徹小委」という。)の中間取りまとめにおいては、こうした観点から検討を進めた結果、一定量の供給力を確保することができる「容量市場」は、①予め必要な供給力を確実に確保することができること、②卸電力市場価格の安定化を実現することで、電気事業者の安定した事業運営を可能とするとともに、電気料金の安定化により需要家にもメリットがもたらされること、③再エネ拡大等に伴う売電収入の低下は全電源に影響していること等を踏まえると、最も効率的に中長期的に必要な供給力等を確保するための手段であるとされました。

制度検討作業部会においては、貫徹小委中間取りまとめを受け、容量市場の詳細制度設計について、本作業部会におけるヒアリングや、広域機関における検討も踏まえつつ、検討を行い、2024年度における必要供給力を確保するため2020年7月に初回メインオークションを行いました。その約定結果の検証を踏まえた上で、①安定供給に必要な供給力を確実に確保しつつ、②適切に価格形成が行われ、③2050年カーボンニュートラル宣言に整合的となるように制度を見直し、2021年10月に第2回メインオークションが行われ、2021年12月に約定結果が公表されました。容量市場については、その着実な運用を行いつつ、効率性の更なる向上に向けて不断の見直しを行うこととしており、第3回オークションに向けた検討を進めています。

【第361-5-6】市場創設効果(イメージ)

361-5-6

資料:
経済産業省作成

(7)非化石価値取引市場の創設に向けた検討

「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(平成21年法律第72号)」(以下「高度化法」という。)により、小売電気事業者は、自ら調達する電気の非化石電源比率を2030年度に44%以上にすることが求められています。

しかし、卸電力取引所では、非化石電源と化石電源の区別がされないため、非化石電源の持つ価値が埋没し、非化石電源比率を高める手段として活用ができません。結果、取引所取引の割合が比較的高い新規参入者にとっては、非化石電源を調達する手段が限定される状況になっており、高度化法の目標達成が困難な面があります。

このような状況を踏まえ、新たな市場である非化石価値取引市場を創設することによって非化石価値を顕在化し、取引を可能とすることで、小売電気事業者の非化石電源調達目標の達成を後押しするとともに、需要家にとっての選択肢を拡大することとされました。またFIT非化石証書の売上については、FIT賦課金の低減に充てることとされ、これにより、FIT制度による国民負担の軽減を促すこととされました。

FIT電気に由来する非化石証書(FIT非化石証書)の取引については、2018年5月に初回オークションを、また、FIT電気以外の再生可能エネルギー等の電気に由来する非化石証書(非FIT非化石証書)の取引についても、2020年11月に初回オークションを開始し、四半期に一度の頻度でオークションを実施しています。これにより、非化石価値を有する電気については、全量証書化されることとなりました。

なお、本市場の創設に当たっては、上記の制度趣旨を踏まえ、非化石価値を顕在化し、その価値に適切な評価を与えることができるよう、以下のとおり、非化石証書の有する環境価値と、需要家にとっての選択肢拡大という非化石証書の主な役割について基本的な考え方を整理しました。

①非化石証書の有する環境価値

電気の持つ環境価値としてはいくつかの概念が考えられますが、①非化石価値(高度化法上の非化石比率算定時に非化石電源として計上できる価値)以外に、②ゼロエミ価値(CO2排出係数が0kg-CO2/kWhであることの価値)や③環境表示価値(小売電気事業者が需要家に対しその付加価値を表示・主張する権利)が主なものとして挙げられます。

非化石証書の購入者は販売する電気に非化石証書を使用することで、こうした価値を需要家に訴求することができます。電力の小売営業に関する指針において、電源構成表示に関しては、実際に受電した電源の構成を表示するとの整理がなされており、非化石証書を使用しても電源構成は変わらない点に留意が必要ですが、同指針において、再エネ由来の証書に関しては、電源種に応じて「再エネ100%」又は「実質再エネ100%」といった環境価値を表示することは許容することとしています。

②需要家の選択肢の拡大

証書を購入した小売電気事業者は、環境価値を電気とともに需要家に販売することが可能となります。非化石証書には、再生可能エネルギーの電気に由来する再エネ指定の非化石証書と、再生可能エネルギー以外の非化石電源の電気に由来する指定無し証書の2種類が存在します。例えば、再エネの推進に貢献したいと考える需要家は、数ある料金メニューから、こうした小売電気事業者が提供する再エネ指定の非化石証書を活用した環境価値付きのメニューを選択することで、実際に貢献することが可能となります。また、2021年にはRE100等の再エネ電気への需要家ニーズの高まりに対応するため、需要家の直接購入を可能とし、価格を大幅に引き下げることで、グローバルに通用する形でFIT証書を取引できる再エネ価値取引市場を創設しました。

なお、2019年2月のオークションから、非化石証書に発電所情報等を付与した証書を調達できるよう、実証実験を開始しており、2021年度のオークションについても、この実証実験を継続して実施しました。

5.送配電分野に関する取組

(1)送配電事業の監視

①一般送配電事業者等の業務及び経理の監査

電力・ガス取引監視等委員会は、電気事業法第105条の規定に基づき、一般送配電事業者及び送電事業者(以下、本項目において「一般送配電事業者等」という。)13社(ライセンス数)の2019事業年度の業務及び経理について監査を行いました。

監査対象事業者

①一般送配電事業者

北海道電力ネットワーク、東北電力ネットワーク、東京電力パワーグリッド、中部電力パワーグリッド、北陸電力送配電、関西電力送配電、中国電力ネットワーク、四国電力送配電、九州電力送配電及び沖縄電力

②送電事業者

電源開発送変電ネットワーク、北海道北部風力送電及び福島送電

監査の実施に当たっては、監査対象事業者から事前に報告徴収した監査資料に基づき、実地監査又は書面監査の方法により実施しました。

2020年度監査においては、主な重点監査項目として2020年4月より、各社とも一般送配電事業及び送電事業を分社化するとともに(沖縄電力を除く。)、行為規制に基づく体制整備等を行うこととしました。また、親会社等が一般送配電事業者及び送電事業者に差別的取扱いを要求すること等が禁止されたことにより、これらが適切に実施されているか等「託送供給等に伴う禁止行為・体制整備等」を重点的に確認しました。また、一般送配電事業者においては、毎年、送配電業務に関連し、小売電気事業者や発電事業者との間における託送料金に係る誤算定、算定遅延や誤通知等の事案が発生し、原因究明、再発防止策等を各社が実施しており、再発防止の観点から、再発防止策の実施状況等「約款の運用等」を重点的に確認しました。

2020年度において実施した監査の結果、4事業者において6件の指摘事項がありました。これについては、電気事業法第66条の12の規定に基づく一般送配電事業者等に対する勧告及び電気事業法第66条の13の規定に基づく経済産業大臣への勧告を行うべき事項は認められませんでしたが、所要の指導を行いました。

指摘事項の内訳

②送配電事業者の業務実施状況の監視

電力・ガス取引監視等委員会は、必要に応じて電気事業法に基づく報告徴収を行い、送配電事業者の業務実施状況を把握・分析するとともに、問題となる行為等が見られた場合にはその是正や再発防止を図るよう指導しています。

2021年4月1日〜2022年3月31日までの期間においては、発電設備等の連系工事に係る工事費負担金の長期未精算等についての再発防止策の着実な実施を行うよう指導したといった事案がありました。なお、送配電事業者の業務実施状況において、業務改善勧告に至るような事案はありませんでした。

(2)一般送配電事業者の収支状況(託送収支)の事後評価等

日本の電力系統を取り巻く事業環境は、人口減少や省エネルギーの進展等により電力需要が伸び悩む傾向にあった一方で、再生可能エネルギーの導入拡大による系統連系ニーズや経済成長に応じて整備されてきた送配電設備の高経年化への対応が増大する等、大きく変化しつつあります。

こうした事業環境の変化に対応しつつ、将来の託送料金を最大限抑制するため、一般送配電事業者においては、経営効率化等の取組によりできるだけ費用を抑制していくとともに再生可能エネルギーの導入拡大や将来の安定供給等に備えるべく、計画的かつ効率的に設備投資を行っていくことが求められています。

以上のような問題意識の下、料金制度専門会合において、一般送配電事業者の2020年度収支状況の事後評価を実施しました。また、託送料金の低廉化と質の高い電力供給の両立を促進するとともに、2023年度より導入する新たな託送料金制度(レベニューキャップ制度)の運用の参考とする観点から、当該制度に係る各社(北海道電力ネットワーク、東北電力ネットワーク、東京電力パワーグリッド、中部電力パワーグリッド、四国電力送配電及び九州電力送配電)及び送配電網協議会の取組状況についてもヒアリングを行い、分析・評価を実施しました。

この結果を踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣に対し、電気事業法に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等(平成12・05・29 資第16号)第2(14)に照らし、託送供給等約款の変更認可申請を命じることが必要となる事業者はいなかった旨回答しました。

〈料金制度専門会合の取りまとめ内容〉

①はじめに

我が国の電力系統を取り巻く事業環境は、人口減少や省エネルギーの進展等により電力需要が伸び悩む傾向にある一方で、再生可能エネルギーの導入拡大による系統連系ニーズや経済成長に応じて整備されてきた送配電設備の高経年化への対応が増大するなど、大きく変化しつつある。

こうした事業環境の変化に対応しつつ、将来の託送料金を最大限抑制するため、一般送配電事業者においては、経営効率化等の取組によりできるだけ費用を抑制していくとともに、再生可能エネルギーの導入拡大や将来の安定供給等に備えるべく、計画的かつ効率的に設備投資を行っていくことが求められる。

以上のような問題意識の下、電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合は、託送料金の低廉化と質の高い電力安定供給の両立を促進すべく、一般送配電事業者の収支状況の事後評価等を実施するとともに、この中で、2023年度より導入する新託送料金制度(以下「レベニューキャップ制度」という。)の運用の参考とする観点から、当該制度に係る各社の取組状況について議論した。

なお、今回の事後評価に際しては、北海道電力NW、東北電力NW、東京電力PG、中部電力PG、四国電力送配電、九州電力送配電、送配電網協議会、東京電力HDからヒアリングを実施した。

②2020年度の収支状況の事後評価等の結果概要

(ア)託送収支の状況(全10社)

(ⅰ)法令に基づく事後評価

2020年度の当期超過利潤累積額について、変更認可申請命令(値下げ命令)の発動基準となる一定の水準を超過した事業者はいなかった(ストック管理)。また、想定単価と実績単価の乖離率について、変更認可申請命令の発動基準となる一定の比率を超過した事業者はいなかった(フロー管理)。東京電力PGについては、2017年度収支から廃炉等負担金を踏まえて厳格な基準が適用されることとなったが、当該基準に達していなかった。

(ⅱ)収支全体について

収入面については、節電・省エネに加え、新型コロナウイルス感染症の影響等により電力需要が減少したため、北陸、沖縄を除く8社において、実績収入が想定原価(=想定収入)を下回った。特に、北海道、関西は5%以上減少となった。

費用面については、北海道、北陸、沖縄の3社において、実績費用が想定原価(=想定費用)を上回った。特に、沖縄は、人件費や他社購入電源費の増加等により、想定原価と比べ8%増と大きく増加した。

全体的な傾向としては、収入が減少又は横ばいとなる中で、総じて人件費・委託費等が維持・増加し、設備関連費が減少している。この結果、2020年度の託送収支においては、東京、中国を除く8社で当期超過利潤がマイナス(当期欠損)となった。

(ⅲ)人件費・委託費等について

人件費・委託費等には、給料手当、システム開発に係る委託費等の費目が含まれる。

2020年度は、北海道、東京を除く8社で実績費用が想定原価を上回り、このうち、東北、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄の7社については、主に給料手当水準の差による給料手当の増加や、それに伴う厚生費の増加、分社化に伴う業務の外注化による委託費の増加等により、想定原価から10%以上上回っていた。

人件費・委託費等については、こうした上昇要因を踏まえると大幅な引き下げが難しいと考えられるが、そうした状況においても引き続き効率化を追求していくべきである。

(ⅳ)設備関連費について

設備関連費には、修繕費、減価償却費等の費目が含まれる。

2020年度は、前年度と同様、東北、沖縄を除く8社で実績費用が想定原価を下回り、このうち、北海道、東京、関西、中国、九州の5社については、主に競争的発注方法の拡大や工事効率の向上等による修繕費や減価償却費の減少により想定原価から10%以上下回っていた。ただし、想定原価における修繕費の額と実績額の乖離が各社で相当程度異なっているところ、その要因については、今後レベニューキャップ制度の審査に向けて実態の深掘りを進めていく必要がある。なお、北陸、関西、中国、九州の4社においては、減価償却方法を定率法から定額法に変更したことによる減価償却費の減少も寄与していた。各社においては、引き続き、調達合理化や点検周期の延伸化措置等によるコスト削減に取り組みつつも、費用削減のみを目的として、再生可能エネルギーの導入拡大やレジリエンス、安定供給等に必要となる設備投資が繰り延べられるようなことがあってはならない。

(イ)レベニューキャップ制度導入を見据えた取組状況(6社)

一般送配電事業者における必要な投資の確保とコスト効率化を両立させ、再エネ主力電源化やレジリエンス強化等を図ることができるよう、資源エネルギー庁と電力・ガス取引監視等委員会において、レベニューキャップ制度の詳細設計を行い、昨年11月に本料金制度専門会合において取りまとめを行った。

レベニューキャップ制度においては、規制期間開始時に、一般送配電事業者は、国が示した指針に沿って、一定期間に達成すべき目標を明確にした事業計画の策定や収入上限の算定を行うこととなる。また、規制期間終了時には、事業計画の達成目標の状況を評価、規制期間中の収入上限と実績収入及び実績費用の差額を調整すること等により、翌期規制期間の収入上限の算定を行うこととしている。

今回の事後評価では、レベニューキャップ制度の導入を見据え、その運用制度の参考とする観点から、8つのヒアリング項目を設定し、6社(北海道電力NW、東北電力NW、東京電力PG、中部電力PG、四国電力送配電、九州電力送配電)からヒアリングを実施した。

(ⅰ)CAPEX設備に係る社内検討プロセス

●ヒアリング趣旨

レベニューキャップ制度のCAPEX査定の検討において、各社の投資実績などの実情確認したところ、様々な特殊要因により費用単価が大幅に高くなる案件が散見された。これらの高額案件については、各事業者が社内での適切な検討プロセスを設けることを求め、具体的には、社内検証に際して、有識者などの第3者を含める等の透明性が確保された検証体制を構築した上で、案件の必然性や、価格・物量の妥当性、価格・物量低減に向けて実施する取組の有無とその取組内容の妥当性を検証し、個別査定を行うこととしている。これを踏まえ、各社が現在行っている工事に係る社内検討プロセスや、レベニューキャップ制度の導入に向けた当該プロセスの改善事項について、確認を行った。

●ヒアリング結果

各社のCAPEX工事に係る社内プロセスを確認したところ、主に工事計画の策定プロセス、競争発注等を通じた物品、工事の調達プロセス、実際の工事プロセスに区分されており、各プロセスにおいて工事担当部署、調達担当部署等の関連部署が精査を行って、検討を進めていることが示された。また、重要性の高い工事や工事金額の大きな工事については、必要に応じて取締役会や経営会議において審議を行った上で、方針を決定していることが確認された。

また、他産業出身者や会計コンサル会社などの外部有識者の知見活用や、仕様の合理化、まとめ発注等の工夫を通じて調達コストの低減に取り組んでいることが分かった。

レベニューキャップ制度のCAPEX査定における高額案件の社内検証にあたっては、これらのプロセスをさらに高度化するとともに、透明性を確保した方法で検討を行っていくことが求められる。

(ⅱ)ステークホルダーとの協議

●ヒアリング趣旨

レベニューキャップ制度における「顧客満足度」、「デジタル化」、「安全性・環境性への配慮」の目標項目については、各社がステークホルダーとの協議を実施し、地域毎のニーズを踏まえた目標設定を行うこととされている。これを踏まえ、各社が従来からステークホルダーとの間で行っている意見交換、意見収集、情報発信等の取組内容や、これらの取組を通じて業務内容を改善した事例を確認するとともに、レベニューキャップ制度の導入に向けたステークホルダーとの協議に係る現状を聴取し、実態把握を行った。

●ヒアリング結果

各事業者は、従来から意見交換やアンケート等の手法によって、顧客である発電事業者、小売事業者をはじめ、地方自治体や、メーカー、施工業者、消費者等の需要家より、一定の協議を行い、業務運営の改善を行っていることが示された。

これらの意見交換を通じて、停電時の情報発信の迅速化や分かりやすさの改善、再エネ事業者への契約閲覧サービスの改修等、業務改善を実施した事例も確認された。

また、レベニューキャップ制度における「顧客満足度」、「デジタル化」、「安全性・環境性への配慮」の目標については、各ステークホルダーへのアンケートや個別対話を通じてニーズに沿った目標案設定を実施するとともに、当該目標案を各社ホームページにて公表し、広く意見募集を行ったことが報告された。

ステークホルダーとの協議については、引き続き幅広く意見収集を行うとともに、必要となる業務改善を実施した上で、その結果を公表するプロセスを繰り返し行い、各事業者が顧客満足度の向上や、今後取り組んでいく投資等に対する需要家の理解の醸成に努めていくことが必要である。また、社会全体の便益に資する投資を通じて、ステークホルダーに対する価値向上を実現していく観点も踏まえ、系統利用者に限らず地域社会との対話等、幅広くコミュニケーションを行って多様なニーズを把握することを通じてステークホルダーとの協議を進めていくことが期待される。

(ⅲ)無電柱化対応

●ヒアリング趣旨

レベニューキャップ制度においては無電柱化推進の観点から、「国土交通省にて策定される無電柱化推進計画を踏まえ、各道路管理者の道路工事状況や、施工力・施工時期を加味した工事計画を一般送配電事業者が策定し、それを達成すること」を目標として設定することとしている。これを踏まえ、各社における無電柱化工事の計画策定や実施のプロセス、今後想定される整備距離や工事手法について、確認を行った。

●ヒアリング結果

各一般送配電事業者における無電柱化工事は、国土交通省の策定する無電柱化推進計画を踏まえ、全国的な基本方針、計画策定を行う無電柱化推進検討会議、各地方における推進計画を策定する地方ブロック無電柱化協議会、都道府県単位で具体的な工事箇所を調整する都道府県部会、道路状況等も勘案し具体的な事業実施を調整する地元協議会での検討プロセスを経て、具体的な実施箇所等の計画が策定されている。

第8期無電柱化推進計画(2021年度〜2025年度)では、長期停電防止の観点から電線管理者が自らの計画を策定して実施する無電柱化を進めることが求められており、今後は電線共同溝による無電柱化工事に加えて、一般送配電事業者による単独地中化の整備距離が増加する見通しであることが示された。

また、整備を行う沿道の需要密度や交通量、工事規模や工事を行う時間帯によって工事単価が大きく変動することが示されており、レベニューキャップ制度のCAPEX査定においてもこれらの実態について、詳細な説明を求めたうえで、適切な審査、査定を行っていくことが必要である。

(ⅳ)次世代投資

●ヒアリング趣旨

レベニューキャップ制度においては、送配電ネットワークの次世代化を図ることを促す観点から、各事業者において効果的な次世代投資計画を策定し、国において投資プロジェクトごとに取組内容や期間、費用対効果等について確認を行うこととしている。これを踏まえ、一般送配電事業者が過去に実施した投資プロジェクトや、2023年度以降に実施を予定している投資プロジェクトやその具体的な内容について、聴取を行った。

●ヒアリング結果

各事業者において、再エネ大量導入やレジリエンス強化を見据えた次世代ネットワークの構築に向けた取組の実施を予定していることが示された。具体的には、「脱炭素化」として、系統の有効活用や需給調整、電圧管理の高度化に向けた設備投資及びシステム投資、「レジリエンス強化」として、停電の早期解消や災害時の系統安定機能の強化に向けた設備投資及びシステム投資、「効率化・サービス向上」としてデジタル技術の活用や、スマートメーターデータの有効活用に向けた設備投資、システム投資が計画されている。

レベニューキャップ制度において、これらの取組に要する費用を収入上限に算入するにあたっては、例えばデジタル化の推進による人工削減効果等の費用便益の観点や、既存設備の高経年化対策も考慮した全体最適の観点等から効果を確認することが重要であり、取組の妥当性について、詳細な説明を求めたうえで、適切な審査、査定を行っていくことが必要である。また、次世代投資の推進にあたっては、一般送配電事業者10社の協働による研究開発の工夫や、取組の集約化を通じたコスト効率化を進めていくことも期待される。

(ⅴ)レベニューキャップ制度に対する意見・要望事項等

●ヒアリング趣旨

レベニューキャップ制度については、昨年11月に本料金制度専門会合において取りまとめを行い、2022年度に予定している申請、審査に向けた準備を行っているところである。取りまとめの内容や、足元の一般送配電事業者を取り巻く環境変化も踏まえ、レベニューキャップ制度の運用に向けた意見、要望事項等を聴取した。

●ヒアリング結果

昨年12月、資源エネルギー庁の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会において、「発電側課金を含めた送配電関連の費用回収の在り方について、2024年度を念頭に、2022年中を目途に結論を出す」、「電力ネットワークの増強費用等、再エネの導入拡大に伴い増大する送配電関連費用の安定的かつ確実な回収に向けて、再エネ賦課金を活用する交付金制度を通じた費用回収と、託送料金制度を通じた費用回収の在るべき姿について今後検討していく」旨の整理がなされた。この整理を受けて、事業者からは、送配電費用に係る回収の在り方が不透明な中で、収入上限の申請に向けた対応の判断が困難な状況であり、早急に議論を行って、方向性を明確にして欲しいとの強い要望が寄せられた。

また、送配電工事の工事従事者が減少傾向であることや、公共工事単価等が上昇傾向にあることを踏まえ、施工力確保に向けた工事単価の引き上げの必要性を考慮することや、再エネ接続申込量の多い地域特性を踏まえた目標の達成状況の評価等についても要望があった。

特に費用負担の在り方の議論については、一般送配電事業者の投資判断のみならず、託送料金水準の予見性確保の観点からも極めて重要な論点であり、早急かつ納得性のある結論が求められている。

(ⅵ)高経年化設備更新に係る物量および投資金額の推移

●ヒアリング趣旨

レベニューキャップ制度においては、一般送配電事業者が高経年化設備更新ガイドラインに基づき算定した設備のリスク量や、施工力も考慮した工事量の平準化を踏まえ、中長期の設備更新計画を策定し、計画的に高経年化設備更新を行うこととしている。

これを踏まえ、過去5年間における設備更新投資の実績と、今後10年間における計画を確認した。

●ヒアリング結果

各社のリスク量算定対象設備(鉄塔、架空送電線、地中ケーブル、変圧器、遮断器、コンクリート柱、架空配電線、地中配電ケーブル、柱上変圧器)における中長期(10年)の設備更新投資計画について確認をしたところ、高経年化に伴う更新物量の増加や施工力を加味した工事量の平準化により更新投資物量が増加する傾向にあった。

一般送配電事業者においては、電力広域的運営推進機関が策定した高経年化設備更新ガイドラインに則り、設備毎の故障確率や故障影響度を考慮したリスク評価を行うアセットマネジメントシステムを導入し、高経年化に伴う更新物量の増加や施工力の平準化を加味して中長期の設備投資計画を策定することで、工事物量の平準化やコスト最適化を図りながら、合理的な設備投資を行うことが求められる。

(ⅶ)経営効率化に向けた取組状況

●ヒアリング趣旨

レベニューキャップ制度導入後においても同様に、一般送配電事業者は託送料金の低廉化を促進すべく、不断な経営効率化に取り組む必要があることから、調達の工夫や、工法の工夫等の各社の取組状況を確認した。

●ヒアリング結果

各社における経営効率化の取組状況を確認したところ、物量と単価の両面から費用を抑えるという基本的な考えが示され、多くの事業者が経営層直轄の効率化推進に向けた会議体を設置し、全社的に効率化、生産性向上に取り組んでいることが確認された。

その具体的な取組としては、

  • 資材調達方法の工夫や仕様統一化を通じた投資単価の効率化
  • デジタル技術を活用した点検業務の自動化や、書類作成業務の効率化
  • 他社の効率化事例の積極的な採用

などの効率化取組が多く紹介された。こうした各社の費用削減に向けた取組はコスト効率化の観点から一定の評価ができ、一般送配電事業者においては、今回紹介された新たな取組事例も参考に、更なる効率化やコスト削減に向けて様々な取組を進めていくことを期待する。

今後、再生可能エネルギー電源等の系統連系ニーズの増加や高経年化への対応など、送配電設備に関する費用上昇が見込まれる。また、レベニューキャップ制度においては事業者の効率化により生じた利益の50%を翌規制期間に持ち越すことができるとされており、効率化インセンティブが働く制度としている。これらを踏まえて、一般送配電事業者においては、公共性のある財・サービスの提供を独占的に担う立場から、中長期的なコスト削減目標を掲げて、効率化に向けた自社の対応や取組の全体像を具体的かつ定量的に説明していくことが期待される。

(ⅷ)レベニューキャップ制度における設定目標に対する取組

●ヒアリング趣旨

レベニューキャップ制度においては、一般送配電事業者が社会的便益の最大化を目指す観点から一定期間に達成すべき目標項目を設定している。各目標項目における一般送配電事業者の現在の取組について、聴取し、実態把握を行った。

●ヒアリング結果

「安定供給」の指標の1つである停電対応については、設備の耐震性向上、早期復旧に向けた移動式変電所や電源車の確保、停電情報の発信強化等の取組を行っていることが確認された。また、災害時連携計画に基づき、10社共同訓練や仮復旧工法の実効性を確認したとの紹介があった。一般送配電事業者においては、災害時における電力の早期復旧を果たすことはもちろん重要であるが、設備の仕様統一化にも並行して取り組むことが求められる。

「再エネ導入拡大」については、今後増加する再エネ電源の早期かつ着実な連系に向けて、接続検討期間短縮に向けた業務効率化の推進や、関連部署間の連携強化、工程管理システムの活用といった取組が紹介された。

「サービスレベルの向上」に向けては、誤算定、誤通知の防止に向けて、スマートメーター化の確実な実施や、算定プロセスのシステム化といった取組が紹介された。

「広域化」に向けては、架空送電線、ガス遮断器、地中ケーブル、変圧器、コンクリート柱の一部仕様について、全10社による仕様統一化に向けた調整が完了したこと、さらに、今後鉄塔、電線、ケーブル、変圧器のその他仕様についても、仕様統一に向けた検討を進めていることが報告された。

「デジタル化」に向けては、ドローンやロボットを活用した設備点検等による業務効率化、サイバーセキュリティの強化、配電系統の電圧維持に向けたセンサー内蔵開閉器の導入を進めていることなどが紹介された。

「安全性・環境性への配慮」について、公衆災害防止や労働災害低減による安全性向上に向けた取組や、業務車両の電動化や、送電ロスの低減によるCO2排出量の低減に向けた取組が紹介された。

以上のことから、レベニューキャップ制度において設定する各種目標に対して、現時点において、各社ともに、問題意識をもって主体的に取り組んでいることが確認できた。

③送配電網協議会における取り組み状況

●ヒアリング趣旨

レベニューキャップ制度の取りまとめにおいては、第2規制期間に向けて検討を深めるべき事項として、「停電時間のデータ採録範囲の拡大」や「OPEX査定における各事業者の費用計上方法の統一」、「CAPEX査定の重回帰分析における適切な説明変数の採用」等が挙げられており、これらについては、各事業者における現状の課題を整理した上で、第2規制期間に向けた対応を進めていく必要がある。これらの取組は10社で連携をして進めていくことが必要であり、その主導的な役割を担う送配電網協議会より現状の課題と今後のアクションプランについて、報告を求めた。

●ヒアリング結果

「停電時間のデータ採録範囲の拡大」について、第1規制期間は全社のデータ採録が可能な低圧電灯需要家のみを対象としているが、第2規制期間に向けては全ての需要家における停電量を目標として設定するため、特別高圧、高圧、低圧(電力)需要家の停電時間の採録を行う必要がある。まずは、各社システム改修規模の精査や、外生、内生要因分類の統一を行った上で、新たな10社共通の採録定義に基づき、第2規制期間に向けてデータを蓄積していく方針が示された。

「OPEX査定における各事業者の費用計上方法の統一」について、各社間で計上方法に相違がある費目の洗い出しを行った上で、当該費目について対象が特定できるよう経理データへのコード付与等を行う取組例が示された。これにより、統計査定に用いる各社データの範囲が統一され、より精緻な統計査定を実施することが期待される。

「CAPEX査定の重回帰分析における適切な説明変数の採用」について、費用差の要因分析や、追加説明変数の検討を行った上で、データの採録を開始し、それらのデータを用いた重回帰分析の試算を通じて、有効性を確認するPDCAサイクルを回していく方針が示された。

これらの取組について、送配電網協議会と各一般送配電事業者10社が連携して検討を深めるとともに、その検討結果について国とも議論を行って、適切に第2規制期間におけるレベニューキャップ制度に反映していくことが重要である。また、これらの取組に当たっては、レベニューキャップ制度に必要となるデータ採録のみに留まることなく、例えば停電時間であれば、設備故障リスクとコストの最適化の議論に資するデータ採録の観点も踏まえて検討を進めていくこと等が必要である。

④おわりに

今回の事後評価等の結果を踏まえ、①一般送配電事業者においては、電力需要が伸び悩む傾向の中でも、再生可能エネルギーの拡大や安定供給の確保など、将来に向けた投資をしっかり行うと同時に、更なるコスト削減を促進することが重要となる。また、②資源エネルギー庁と電力・ガス取引監視等委員会においては、一般送配電事業者における必要な投資の確保とコスト効率化を両立させ、再生可能エネルギー主力電源化やレジリエンス強化等を図ることができるよう、レベニューキャップ制度を運用していく。

(3)調整力の調達・運用状況の監視及びより効率的な確保等に関する検討

①調整力公募等の結果及び調整力の運用状況の監視と情報公表

一般送配電事業者による調整力の公募調達は、発電事業者等の競争の結果として、コスト効率的な調整力の調達や電力市場全体としての調整力の増大を実現するための仕組みです。しかしながら、現状、調整力として提供可能な旧一般電気事業者以外が保有する電源等が多く存在しているとは言い難く、このような状況を改善し、競争を促進していくためには、公募調達が透明性をもって行われるとともに、潜在的な応札者に対して適切な情報提供を行うことで、発電事業者等の入札参加への円滑化と拡大を図ることが必要です。

このため、電力・ガス取引監視等委員会は、調整力公募調達結果を分析し、旧一般電気事業者の入札行動に問題となる点がないか、また、一般送配電事業者による調整力の運用が、容量(kW)価格や電力量(kWh)価格に基づき適切に運用されているか監視を行いました。

以上の調整力の公募調達結果及び調整力の運用状況(調整力の電力量価格及び電力量)について、制度設計専門会合にて検討するとともに、電力・ガス取引監視等委員会のホームページに公表しました。

②三次調整力の調達における連系線確保量の上限を設定

2021年度から開設された需給調整市場では、当初は一部商品(三次調整力②)のみの取引が行われ、2022年度以降、段階的に商品が拡充します。地域間連系線を活用して調整力の広域調達を行うに当たっては、調整力の広域調達の影響と卸電力市場への影響とのバランスを考慮して、卸電力市場向けの連系線確保量を取引開始前に設定することにより、三次調整力の調達における連系線容量の上限を設ける必要があります。

2021年度から取引が開始された三次調整力②については、第61・63回制度設計専門会合(2021年5月及び7月)において、市場開始前に設定した時間前市場向け連系線確保量(α)に関し、市場開始後の実績に基づいて修正を行いました。

また、第70回制度設計専門会合(2022年2月)では、2022年度から取引が開始される三次調整力①の連系線確保量の考え方を議論し、広域調達による三次調整力①への影響と卸電力市場(スポット市場及び時間前市場)への影響について、両者の経済メリット等を評価して、社会コストが最小となるような三次調整力①の連系線確保量(β)を整理しました。

③2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について

2020年度冬季の需給ひっ迫を受けて、一般送配電事業者における当該期間の系統運用の状況やインバランス収支の状況等を調査、分析するため、電力・ガス取引監視等委員会は、2021年2月に一般送配電事業者に対し報告徴収を実施しました。調査結果等については、第57回〜第59回制度設計専門会合(2021年3月及び4月)で報告し、今後検討すべき課題等を整理しました。その後、2021年4月の制度設計専門会合において、インバランス収支の過不足については、託送料金等により広く系統利用者に還元・調整すること等を資源エネルギー庁に提言しました。また、2021年5月から7月の制度設計専門会合において、継続的なkWh不足に対応するための調整力の調達方法や燃料不足が懸念される場合における調整力kWh価格の機会費用の考え方、燃料不足時において一般送配電事業者が発電事業者(調整力契約者)の設定した燃料制約を超過して調整力の稼働指令を行うことについての小売事業者の供給力確保義務と一般送配電事業者の周波数維持義務の責任と役割のあり方について、議論しました。

更に、2021年4月に電力広域的運営推進機関が行った冬季の需給見通しにおいて、東京エリアの2022年1月及び2月の予備率が3%を下回る見込みであるという分析結果を受けて、資源エネルギー庁では調整力公募の仕組みを活用した追加の供給力確保策を検討し、第37回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会(2021年7月)において公募概要が整理されました。この結果を受けて、第63回制度設計専門会合(2021年7月)において、公募における入札価格の考え方等を整理しました。

④需給調整市場の創設

一般送配電事業者が電力供給区域の周波数制御、需給バランス調整を行うために必要な調整力を調達するに当たっては、特定電源への優遇や過大なコスト負担を回避しつつ、実運用に必要な量の調整力を確保することが重要となります。

このような観点から、一般送配電事業者による調整力の公募が2016年から実施されることとなり、ディマンドリスポンス(DR)等の調整力も調達されるようになっています。

貫徹小委中間取りまとめにおいては、今後、公募結果を踏まえつつ、需給調整市場の詳細設計を行い、一般送配電事業者が調整力を市場で調達・取引できる環境を整備することが適当であるとされました。また、電力システム改革専門委員会報告書においても、系統運用者が供給力を市場からの調達や入札等で確保した上で、その価格に基づきリアルタイムでの需給調整・周波数調整に利用するメカニズムを送配電部門の一層の中立化に伴い導入することが適当であると記載されています。

諸外国においても、需給調整市場を開設し、調整力を市場の仕組みを活用して前週や直前に調達しています。同時に、欧米においては需給調整の広域化にも取り組んでおり、例えば欧州は卸電力市場の広域統合から需給調整市場の広域統合へと、ルール・プラットフォームの整備を進めています。

日本においても、再エネの導入が進む中で、調整力を効率的に確保していくことは重要な課題です。調整力公募は一部の調整力を除き各エリアの一般送配電事業者がエリア内の調整力のみを調達していますが、効率的に調整力を調達するためには、エリアを超えて広域的に調整力を確保することも課題となっています。他方で、各一般送配電事業者のシステムは、現状において、広域的な調整力の市場調達やその運用を前提として構築されておらず、こうしたシステムの改修や実運用の変更を、日々の需給調整に支障を生じさせない形で行うためには、ルール検討やシステム構築を慎重に行っていく必要があります。

現在、制度検討作業部会や広域機関の委員会において、需給調整市場の詳細設計が進められており、2021年4月から再生可能エネルギーの予測誤差に対応する調整力の市場取引を開始し、2024年までに全ての調整力が段階的に市場取引に移行する予定です。また各一般送配電事業者のシステム改修に向けた検討や調整力の広域運用に向けた準備も並行して進められています。

【第361-5-7】需給調整市場の概要

361-5-7

資料:
経済産業省作成

(ⅰ)調整力の広域調達に必要な地域間連系線の容量確保の検討

2021年度から需給調整市場を通した調整力の広域調達が開始され、調達された調整力が確実に活用できるよう事前に地域間連系線の容量を確保することが必要になりました。

そこで、電力・ガス取引監視等委員会では、2021年3月の制度設計専門会合において、2021年度から取引が開始される再生可能エネルギー予測誤差に対応する調整力の広域調達に係る地域間連系線の確保量について議論を行い、2021年度における当該調整力の地域間連系線の確保上限量を決定しました。

(ⅱ)需給調整市場の監視及び価格規律の在り方の検討

需給調整市場における競争が十分でない場合、市場支配力を有する事業者が市場支配力を行使し、不当に高い入札価格等を設定することにより、不当な利益を得るといったことが起こり得ます。こうしたことを踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会では、制度設計専門会合において、2019年12月から2020年12月まで8回にわたり需給調整市場の監視及び価格規律の在り方について議論を積み重ね、2020年12月に「需給調整市場において適正な取引を確保するための措置について」を取りまとめました。

この取りまとめでは、需給調整市場において不適正な取引を防止するため、電気事業法に基づく業務改善命令等の事後的な措置を講ずることに加え、市場支配力を有する可能性の高い事業者には一定の規律に基づいて入札を行うことを要請する事前的措置を講ずることとされました。このため、2021年3月に「適正な電力取引についての指針」を改定しました。

⑤需給調整市場の監視及び価格規律の在り方の検討

2021年度から開始された需給調整市場では、その適正な取引を確保するため、当分の間、電気事業法に基づく業務改善命令や業務改善勧告の事後的な措置に加えて、上乗せ措置として、市場支配力を有する蓋然性の高い事業者には一定の価格規律に基づいて入札を行うことを要請するという事前的措置を講じることとされました。

これを踏まえ、第68回制度設計専門会合(2021年12月)において、ΔkWの入札価格について、入札事業者が価格規律に沿って価格を構成しているかどうか分析を行い、その結果を報告しました。

また、第70〜71回制度設計専門会合(2022年2月〜3月)において、調整力kWh市場及び調整力ΔkWh市場それぞれにおける事前的措置の対象とする事業者の範囲の設定方法について整理しました。

(4)インバランス料金制度の運用状況の監視及び2022年以降のインバランス料金制度の詳細設計

①インバランス料金制度の運用状況の監視

計画値同時同量制度において、小売電気事業者と発電事業者は、1日を48コマに分割した30分単位のコマごとにそれぞれ需要と発電の計画を策定することとなっています。これらの計画と実績のずれ(インバランス)については、一般送配電事業者が発電事業者等から公募により調達した電源等を用いて調整を行い、その費用については、小売電気事業者と発電事業者からインバランス料金として回収します。このように、インバランス料金は実需給における電気の過不足の精算価格となっているが、同時に卸電力取引における価格シグナルのベースにもなっています。

このため、電力・ガス取引監視等委員会では、インバランス料金の動きを監視し、合理的でないと考えられる価格になった場合には、その原因等を分析しました。

②2022年以降のインバランス料金制度の詳細設計

2022年度から開始される新たなインバランス料金制度にについて、第65〜68回制度設計専門会合(2021年10月〜12月)において検討を行い、卸電力市場価格補正(補正)の廃止、電源Ⅰ´の長時間発動時のインバランス料金、kWh需給ひっ迫時補正インバランス料金の導入等を整理し、2021年12月に中間取りまとめの改定を実施しました。

(5)再給電方式の費用負担等の検討

再エネの主力電源化に向け、基幹送電線の利用ルールを、「ノンファーム型接続+S+3E等を考慮したメリットオーダーによる混雑処理」に速やかに変更することとされ、その混雑処理の方法については、速やかな実施の観点から、まずは「再給電方式」で対応することについて、資源エネルギー庁の審議会(再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会・再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会合同会議)において整理されました。また、同委員会において、再給電方式の実現に向けた検討課題のうち、その費用負担の在り方及びインバランス料金への影響を踏まえた運用の在り方等については、電力・ガス取引監視等委員会において、詳細を検討することとされました。これを受け、制度設計専門会合において、2021年2月から6月まで4回にわたって検討を行い、以下の通り整理しました。

①再給電方式における費用負担の在り方について

既存の類似制度及び将来の市場主導型(ゾーン制・ノーダル制)との整合性や、価格シグナルにより効率的な電源投資を促進するという観点からは「再給電方式により、混雑地域の発電事業者がメリットを受けていると考え、これらの事業者に費用負担を求める」ことが合理的。

一方で、この方式の導入に必要と考えられる課金システムの費用等を考慮すると、社会全体の費用が多額となり、費用対効果の面で適当でない可能性が高いため、当面の間は当該方式の導入は見送ることとし、一般負担とすることが適当。

なお、再給電方式はあくまでも暫定的な措置であり、できるだけ速やかに市場主導型(ゾーン制・ノーダル制)に移行するよう早急に検討を進めるべきであり、再給電費用の負担の方法は、いずれ市場主導型に移行することが前提。

また、仮に、再給電方式の運用期間の長期化や混雑の頻度・量に関する見通しの大幅増等により、混雑地域の発電事業者が再給電費用を負担する仕組みを導入する便益がその社会全体へのコストを上回る見通しとなる等、大きな状況変化があった場合には、その仕組みの導入も含め、改めて再給電方式の費用負担の在り方を検討することが適当。

②再給電方式に用いる非混雑地域の上げ調整力について

混雑対応によるインバランス料金への影響を回避すべきであること、インバランス料金への影響を回避しつつ広域運用調整力を活用する場合に必要とされるシステム改修が令和4年度から開始予定の新たなインバランス料金制度の導入に支障をきたすおそれがあることから、再給電方式導入当初はエリア内運用調整力のみを活用することが適当。

(6)新たな託送料金制度(レベニューキャップ制度・発電側課金)の詳細設計

①レベニューキャップ制度の詳細設計

第201回通常国会において、「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が成立し、新たな託送料金制度(収入上限を定期的に承認し、その範囲内で託送料金を設定するレベニューキャップ制度)が2023年度より導入されることとなりました。

新たな託送料金制度の詳細設計については、託送料金審査や事後評価を通じて専門的な知見を有する委員会が積極的に関与していくことが必要であるとの観点から、第5回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会持続可能な電力システム構築小委員会(2020年7月)において、電力・ガス取引監視等委員会と資源エネルギー庁が連携して行うものとされました。それを踏まえ、料金制度専門会合において2020年7月より託送料金制度の詳細設計の議論を開始し、さらに、2021年1月に料金制度専門会合の下に「料金制度ワーキング・グループ」を設置し、託送料金制度におけるより詳細な論点について効率的に検討を行い、2021年11月に取りまとめを行いました。今後、制度導入に伴い必要となる省令改正等を進めていきます。

②発電側課金の検討

発電側課金は、系統を効率的に利用するとともに、再エネ導入拡大に向けた系統増強を効率的かつ確実に行うため、現在、小売事業者が全て負担している送配電設備の維持・拡充に必要な費用について、需要家とともに系統利用者である発電事業者に一部の負担を求め、より公平な費用負担とするものとして、2015年秋以降、電力・ガス取引監視等委員会に設置した制度設計専門会合及び送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループで議論を進め、2018年6月、制度の骨子を取りまとめ、経済産業大臣に対して建議を行いました。

その後、レベニューキャップ制度の導入に合わせ、2023年度からの導入を目指し、詳細設計を進めていたところ、2020年7月に経済産業大臣から、再エネの効率的な導入を促進するため、基幹送電線利用ルールの抜本的な見直しを行う方針が示されたことを踏まえ、発電側課金についても、それと整合的な仕組みとなるよう、見直しについて指示を受けました。これを受け、電力・ガス取引監視等委員会は、第53回制度設計専門会合(2020年12月)において、発電側課金の見直しに関する検討を開始し、事業者団体からのヒアリングを始め、丁寧に議論を進めながら、基幹送電線利用ルールの見直しと整合的な仕組みとなるよう、①課金方法の見直し(kWh課金の一部導入)、②割引制度の拡充等について検討を行ってきました。

2023年度からの制度導入に向け、引き続き検討を進めてきたところ、昨年来のカーボンニュートラル宣言や2030年度の温室効果ガス46%削減目標等により、エネルギーを取り巻く情勢が大きく変化したことを受け、2021年10月に閣議決定されたエネルギー基本計画において、発電側課金については、その円滑な導入に向けて、「導入の要否を含めて引き続き検討を進める」こととされました。

こうした状況変化を踏まえ、第38回総合エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(2021年12月)において、再エネ電源に対する発電側課金の在り方やその負担調整の在り方、さらには送配電関連費用の安定的かつ確実な回収に向けて再エネ賦課金や新たな託送料金制度を通じた費用回収のあるべき姿について、改めて整理する必要があるとして、発電側課金の2023年度の導入の見送りを決定し、2024年度を念頭に、できる限り早期の実現に向けて、発電側課金も含めた送配電関連の費用回収の在り方に関する議論を関係審議会等で進め、2022年中を目途に結論を得ることとされました。

これを受け、資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会において、早期の具体化に向けた議論を進めていきます。

(8)自由化の下での財務会計面での課題解決に向けた取組

2016年4月の小売全面自由化以降、総括原価方式による料金規制の撤廃に伴い、電気事業の財務・会計上の特性にも変化が生じました。このため、電力分野の自由化を進めるに当たっては、これら制度変更に伴う課題として、一般の事業においては問題とならないような、例えば、制度変更により事後的に費用が増大する場合の対応費用をどのように回収するかが課題となり得ます。このため、財務・会計制度や負担の在り方について、具体的な措置の検討・審議を行うため、貫徹小委の下に「財務会計ワーキンググループ」を開催し、小売全面自由化の下での原子力事故に係る賠償への備えに関する負担や廃炉に係る会計制度の在り方に関する議論を行い、2017年2月に結果を取りまとめました。

取りまとめで示された方向性を踏まえ、財務会計面での課題解決に向け、2017年10月、2018年4月に制度改正を実施しました。

①原子力事故に係る賠償への備えに関する負担の在り方

東京電力福島第一原子力発電所の事故後、原子力事故に係る賠償への備えとして、従前から存在していた「原子力損害賠償法(昭和36年法律第147号)」に加えて新たに「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(平成23年法律第94号)」が制定され、現在、同法に基づき、原子力事業者が毎年一定額の一般負担金を原子力損害賠償・廃炉等支援機構に納付しています。原子力損害賠償法の趣旨に鑑みれば、本来、こうした万一の際の賠償への備えは、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から確保されておくべきでしたが、政府は何ら制度的な措置を講じておらず、事業者がそうした費用を料金原価に算入することもありませんでした。従来、総括原価方式の下で営まれてきた電気事業においては、一般の事業と異なり、将来的な費用増大リスクを見込んだ自由な価格設定を行うことはできず、料金の算定時点で合理的に見積もられた費用以外を料金原価に算入することは認められていませんでした。これは、規制料金の下では、全ての需要家から均等に費用を回収することとなるため、同じ電気を利用した需要家間では不公平は生じないということを前提として、その電気を利用した時点で現に要した費用(合理的に見積もられた費用)のみ料金原価への算入を認めるという考え方に基づいています。

しかし、2016年4月に小売が全面自由化され、新電力への契約切替えにより一般負担金を負担しない需要家が増加していることを踏まえ、賠償の備えを小売料金のみで回収するとした場合、過去に安価な電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担していくことになります。こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、全需要家が等しく受益していた賠償の備えについて、全ての需要家が公平に負担することが適当であり、また、そうした措置を講ずることが、福島の復興にも資するものとの考えに立ち、負担の在り方について、貫徹小委で検討を進めました。その結果、回収する金額の規模は、現行の一般負担金の算定方法を前提とすることが適当と考えられ、現在の一般負担金の水準をベースに、1kWあたりの単価を算定した上で、これを前提に、2010年度までの日本の原子力発電所の毎年度の設備容量等を用いて算出した金額から、回収が始まる前の2019年度末時点までに納付した又は納付することになると見込まれる一般負担金の合計額を控除した約2.4兆円としました。回収方法については、電源構成に占める原子力の割合は供給区域ごとに異なる一方で、賠償の備えの負担は、過去の原子力の電気の利用に応じて行うべきものであることや、現状、一般負担金は小売規制料金に含まれ、供給区域ごとに異なる水準となっていること等を踏まえると、賠償の備えを国民全体で負担するに当たっては、特定の供給区域内の全ての需要家に一律に負担を求める託送料金の仕組みを利用することが適当と考えられました。

【第361-5-8】全ての需要家から公平に回収する賠償の備えのイメージ

361-5-8

資料:
経済産業省作成

こうした検討を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から確保されておくべきであった賠償の備えを託送料金で回収する仕組みを可能とする制度改正(電気事業法施行規則の改正)を2017年9月に実施しました(施行は2020年4月1日)。

なお、留意点として、本来、発電部門の原価として回収されるべき賠償の備えについて、託送料金の仕組みを通じて広く全需要家に負担を求めるに当たっては、その額の妥当性を担保する措置を講ずるとともに、個々の需要家が自らの負担を明確に認識できるよう、指針等を通じ、小売電気事業者に対し、需要家の負担の内容を料金明細票等に明記する措置を講じることとされました。また、原子力に関する費用について、託送料金の仕組みを通じた回収を認めることは、結果として、原子力事業者に対し、他の事業者に比べて相対的な負担の減少をもたらすものであり、競争上の公平性を確保する観点から、原子力事業者に対しては、例えば、原子力発電から得られる電気の一定量を小売電気事業者が広く調達できるようにする等、一定の制度的措置を講じることとしています。

②福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保の在り方

東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に必要な資金については、東京電力が負担することが原則であり、東京電力にグループ全体で総力を挙げて捻出させる必要があるとの考え方の下、「国民負担増とならない形で廃炉に係る資金を東京電力に確保させる制度」について、2016年10月に東電委員会から国に対して検討要請がなされました。

この要請を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉の円滑かつ着実な実施を担保するため、長期間にわたり必要となる巨額の資金の管理を担保する制度として、事故炉の廃炉を行う原子力事業者(事故事業者)に対し、廃炉に必要な資金を機構に積み立てることを義務付ける等の措置を講じることを内容とする廃炉等積立金制度を2017年10月より開始し、2018年4月及び2019年4月に政府は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構から申請のあった廃炉等積立金を認可しました。

また、発電・送配電・小売に分社化されている東京電力において、グループ全体で総力を挙げて捻出する資金が自由化の下でも確実に廃炉に充てられるための制度として、東京電力パワーグリッド(送配電部門、以下「東電PG」という。)が親会社(東京電力ホールディングス)に対して支払う東京電力福島第一原子力発電所の廃炉費用相当分について、超過利潤と扱われないように費用側に整理して取り扱われるようにするとともに、乖離率の計算に際して実績単価の費用の内数として扱われるようにする制度的措置を2018年3月に実施しました。なお、この措置を講ずるに当たっては、東電PGの託送料金の値下げ機会が不当に損なわれないよう、東電PG自体の超過利潤・乖離率の代わりに、他の一般送配電事業者の効率化達成状況によって値下げ命令の要否を判断するとともに、東電グループ全体の中で東電PGの負担が過大なものとならないよう、例えば収益性や資産状況を参考に、グループ各社との負担の程度を比較し、著しく不適当な分担となっていないかどうかを確認する措置についても併せて講じています。

③廃炉に関する会計制度の扱い

(ア)廃炉会計制度について

従前の電気事業会計制度の下では、廃炉に伴う資産の残存簿価の減損等により、一時に巨額の費用が生じることで、(i)事業者が合理的な意思決定ができず廃炉判断を躊躇する、(ii)事業者の廃炉の円滑な実施に支障をきたす、との懸念がありました。このため、2013年と2015年に、設備の残存簿価等を廃炉後も分割して償却(=負担の総額は変わらないが、負担の水準を平準化)する会計制度が措置されました。こうした制度整備を受けて、2015年に5基、2016年に1基の原子炉について、廃炉決定が行われています。

廃炉会計制度は、計上した資産の償却費が廃炉後も着実に回収される料金上の仕組みが併せて措置されることを前提としており、現在は小売規制料金により費用回収することが認められています。したがって、現在経過的に措置されている小売規制料金が将来的に撤廃されることを見据えた場合、今後も制度を継続するには、着実な費用回収を担保する措置を講ずることが不可欠です。この点、2015年3月の廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ報告書(「原発依存度低減に向けて廃炉を円滑に進めるための会計関連制度について」)においては、競争が進展した環境下においても制度を継続させるためには、「着実な費用回収を担保する仕組み」として、総括原価方式の料金規制が残る送配電部門の託送料金の仕組みを利用することとされていました。

制度創設の経緯・趣旨を踏まえれば、廃炉会計制度は、原発依存度低減というエネルギー政策の基本方針に沿って措置されたものとして、本制度を継続することが適当であるとされました。本制度を継続するために必要となる着実な費用回収の仕組みについては、小売規制料金が将来的に撤廃されることから、自由化の下でも規制料金として残る託送料金の仕組みを利用することが妥当と考えられます。

こうした検討を踏まえ、廃炉を行う際の設備の残存簿価等について、引き続き小売料金での償却等を認め、2020年4月以降に託送料金での回収を可能とする制度改正(電気事業会計規則等の改正)を2017年10月に実施しました。なお、発電、送配電、小売の各事業が峻別された自由化の環境下で、発電に係る費用の回収に託送料金の仕組みを利用することは、原発依存度低減や廃炉の円滑な実施等のエネルギー政策の目的を達成するために講ずる例外的な措置と位置付けられるべきと考えられます。

(イ)原子力発電施設解体引当金について

原子炉の運転期間中に廃炉に必要な費用を着実に積み立てるため、原子力事業者は、毎年度、原子力発電所一基ごとの廃止措置に要する総見積額を算定し、経済産業大臣の承認を得た上で、各原子炉の発電実績に応じて原子力発電施設解体引当金として積み立てることが義務付けられています。解体引当金は、東京電力福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電所の長期にわたる稼働停止が続き、従来の生産高比例法では引当が進まないといった課題が生じたことから、2013年、引当方法を定額法に、引当期間を運転期間40年に廃炉後の安全貯蔵期間10年を加えた原則50年に変更する制度改正が行われ、今後、競争が進展した環境下でも本制度を継続し、廃炉後の安全貯蔵期間中も引当を継続させるためには、廃炉会計制度と同様、費用回収が着実に行われる仕組みが必要となっています。

その引当期間については、事業者が負担するという原則に立てば、着実な費用回収が前提となる安全貯蔵期間に入る前、すなわち、廃炉前に引当を完了していることが廃炉を円滑に実施する観点からより適切な制度の在り方であり、原則50年としている引当期間を原則40年に短縮することとしました。

引当期間の見直しを行った場合、2013年の制度改正以降に廃炉決定し、解体引当金の残額を10年間に分割した引当を現在行っているものや、今後早期廃炉するものについては、解体引当金の未引当分を一括して引き当てる必要が生じます。しかし、制度の事後的な変更によって、事業者の財務に影響を与えることは適当でないことに加え、こうした費用の発生が早期廃炉を志向する事業者の判断を歪めるようなことがあれば、廃炉会計制度の趣旨にも反するので、2013年の制度改正以降に廃炉決定したものや今後早期廃炉するものに限り、廃炉に伴い一括して計上することが必要となる費用を廃炉会計制度の対象とすることで、一括して発生する費用を分割して計上する仕組みとすることとしました。

解体引当金の基礎となる原発の解体に必要な費用は、1985年及び1999年の総合資源エネルギー調査会原子力部会において示された算定式に基づき、毎年度、物価変動や廃棄物量の変動を加味し、炉ごとに総額(:総見積額)を算定しています。この算定式は、原子力部会において技術的な検討を行った結果として導き出されたものであり、その前提に大きな変更はないことから、現時点で合理的に見積もることできる費用が不足なく含まれているものと評価できます。一方で、この算定式は、モデルとなるプラントの廃炉工程を前提としたものであるため、今後、個々のプラントにおいて廃止措置を実施していく過程等で、例えば、多数の炉が設置されている原子力発電所では、設備の共有等による効率化等により、総見積額の見直しが必要となり得ます。こうしたことを踏まえ、自由化の下でも廃炉に必要な費用があらかじめ確実に確保されるよう、個別の炉・発電所ごとに固有の事情(規制変更等により算定式の前提を大幅に変更する必要がある場合を除く)が生じた場合に、当該事象を速やかに総見積額に反映させることが可能な仕組みを導入することが必要と考えられます。ただし、総見積額の妥当性を確保するため、これまでと同様に、総見積額を経済産業大臣が承認する仕組みとすることとしました。

これらの検討を踏まえ、引当期間を原則40年することに加えて、2013年の制度改正以降に廃炉決定したものや今後早期廃炉するものに限り、廃炉に伴い一括して計上することが必要となる費用を廃炉会計制度の対象とする等の制度改正(解体引当金省令の改正)を2018年4月に実施しました。