第2節 適正な事業規律の確保

再エネの最大限の導入を促すためには、再エネが地域で信頼を獲得し、地域社会と一体となりつつ、責任ある長期安定的な事業運営が確保されることが不可欠です。こうした問題意識の下、これまでも、安全の確保、地域との共生、太陽光発電設備の廃棄対策等に取り組んできており、一部の再エネ発電事業者には地域に根差した事業運営の重要性が認識されつつあります。

他方、FIT制度の導入を契機に急速に拡大してきた太陽光発電事業に対するものを中心に、再エネ発電事業の実施に対する地域の懸念は依然として存在しており、こうした懸念を払拭し、責任ある長期安定的な事業運営が確保される環境を構築する必要があります。

また、太陽光発電に偏重した導入が進む中、エネルギー安定供給の観点からは、洋上風力発電や地熱発電等、立地制約による事業リスクが高い電源も含め、バランスの取れた導入を促進することも重要です。特に、日本にとって洋上風力発電は、大きな導入ポテンシャルとコスト競争力を併せ持ち、再エネの最大限の導入拡大と国民負担の抑制の両立において重要な電源として位置づけられます。洋上風力発電のための海域利用ルールの整備として、2019年4月に再エネ海域利用法を施行し、先行利用者との調整の枠組を明確にするとともに、事業予見性の確保及び事業者間の競争を促してコストを低減する仕組みを創設しました。今後も、適切な法律の運用を通じて、洋上風力発電の導入促進を図っていきます。

1.事業規律の確保

(1)地元理解の促進に向けた取組

再生可能エネルギー発電事業について地域が情報を把握するための仕組みとして、2016年の再エネ特措法改正に基づき、発電設備の識別番号、認定事業者名、発電設備の出力等の情報については、経済産業省ホームページにおいて公表されています。今後、事業者の適正で地域の理解を得た事業の実施を更なる地域住民等に対する情報提供等により促していくため、改正再エネ特措法に基づき、2022年度から、公表情報の拡大を措置します。具体的には、発電設備の稼働・未稼働の状況等を新たに公表します。

また、FIT制度開始以降、大量に再生可能エネルギー設備の導入が進んだこともあり、地方自治体による調和的な条例やガイドラインの策定数が増加しています。例えば、再生可能エネルギーに係る市町村等が制定する条例の中で、再生可能エネルギー発電設備の設置に関し、2020年度までに制定された抑制区域や禁止区域を規定している条例は、2016年度までに比べて約4倍に増加しています。こうした状況を踏まえ、再エネ特措法においては、条例を含む関係法令遵守を認定基準とし、地域の実情に応じた条例への違反に対し、再エネ特措法に基づく指導、改善命令、必要に応じて認定取消しが可能となっています。そのため、全国の自治体の再生可能エネルギー発電設備の設置に関する条例等の制定状況やその内容に関する、各地の条例に関するデータベースを構築し、各自治体における地域の実情に応じた条例等の策定等を後押ししています。

さらに、再エネ特措法の施行に当たっては、地域の実情を理解している地方自治体との連携が重要です。そのため、2018年10月に全ての都道府県を集めた地域連絡会等を設置し、これまでに5回開催しています。条例による取組やグッドプラクティスの横展開に当たっては、引き続きこの枠組も活用し、地方自治体との連携の強化に取り組んでいきます。

加えて、改正地球温暖化対策推進法において、地域における円滑な合意形成を図りつつ、適正に環境に配慮し、地域に貢献する再生可能エネルギーの導入を促進する仕組みが設けられました。環境省を始めとする関係省庁が連携してこの仕組みの活用を進めるとともに、人材・情報・資金の観点から、国が地域の取組に対し、継続的・包括的に支援するスキームを構築し、環境影響や地域とのコミュニケーション等にも配慮しつつ、地域共生型・裨益型の再生可能エネルギー導入を進めていきます。

(2)開始から終了まで一貫した適正な事業実施の確保

再生可能エネルギー発電事業が地域に根差した長期安定的な事業として定着し、地域の信頼を確保するためには、開始から終了まで一貫した適正な事業実施を担保する必要があります。再エネ特措法では、2017年4月の改正法施行以降、認定事業者に対し、設置する設備に標識・柵塀等の設置を義務付けています。2018年11月及び2021年4月には、標識・柵塀等の設置義務について注意喚起が行われたほか、資源エネルギー庁に対して標識・柵塀等が未設置との情報が寄せられた案件については、その都度、必要に応じ、口頭指導や現場確認を行っています。しかし、依然として標識・柵塀等の未設置に関する情報は寄せられていることから、より多くの事案に対応するため、通報案件への対応体制を強化していきます。

また、太陽光発電設備の適正廃棄に向けた廃棄等費用の積立てを担保する制度が措置されています。

(3)安全の確保

①太陽電池発電設備に特化した技術基準の施行

電気事業法における太陽電池発電設備に関する技術基準については、従来「電気設備に関する技術基準を定める省令」に規定されていましたが、太陽電池発電設備の増加や設置形態の多様化等を踏まえ、太陽電池発電設備に特化した技術基準として、「発電用太陽電池設備に関する技術基準を定める省令」を2021年4月1日に施行しました。

また、従来までの屋根設置や地上設置に加え、新たに水上や農地、傾斜地といった特殊な環境に設置される設置形態の多様化を受け、これらの太陽電池発電設備の安全性を確保するため、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構において、「水上設置型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン」、「営農型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン」、「傾斜地設置型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン」を策定し、2021年11月に公表されました。これらのガイドラインに盛り込まれている具体的な設計・施工方法については、「発電用太陽電池発電設備に関する技術基準」の解説に参考となる技術資料として規定をしました。

②小出力発電設備の事後規制の見直し

再生可能エネルギー発電設備のうち、小出力発電設備(出力50kW未満の太陽電池発電設備、出力20kW未満の風力発電設備等)については、設備件数が飛躍的に増加し、かつ社会的影響を及ぼすような事故も発生していることから、その安全の確保が不可欠となっています。そのため、これまで電気事業法の報告徴収の対象外となっていた出力10kW以上50kW未満の太陽電池発電設備と出力20kW未満の風力発電設備について、2021年4月1日から報告徴収の対象に加え、事故報告を義務化しました。立入検査の実施と併せ、対象設備の所有者等に対し、適切な事業規律を確保していきます。

(4)太陽光発電設備の廃棄対策

2012年に導入されたFIT制度により導入が急速に拡大した太陽光発電設備は、太陽光パネルの製品寿命(25〜30年程度)を経て、2030年代頃、大量に廃棄される見込みです。こうした将来の太陽光パネルの大量廃棄をめぐって、様々な懸念が広がっており、特に事業の終了後に太陽光発電事業者の資力が不十分な場合や事業者が廃業してしまった場合、太陽光パネルが放置されてしまう、あるいは不法投棄されてしまうのではないかという懸念があります。こうした懸念を払拭するため、2018年度には、これまでは努力義務となっていた廃棄等費用の積立てをFIT認定における遵守事項とし、事業計画策定時に廃棄等費用の算定額とその積立計画を記載することを求めるとともに、認定事業者に毎年提出を義務付けている発電コスト等の定期報告において、廃棄等費用の積立進捗状況の報告を義務化しました。

しかし、それでもなお、積立水準や時期は事業者の判断に委ねられていることもあり、2019年1月末時点で積立てを実施している事業者は2割以下となっていました。こうした状況を踏まえ、FIT制度の対象となっている太陽光発電設備の廃棄等費用を確保するための制度について、原則として外部積立てを求め、長期安定発電の責任・能力を担うことが可能と認められる事業者に対しては内部積立てを認めることも検討するという方向性の下、総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会新エネルギー小委員会太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキンググループにおいて、専門的視点から具体的な制度設計について議論を行いました。

2019年12月に取りまとめられた同ワーキンググループによる中間整理を踏まえ、2020年6月に成立した「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(令和2年法律49号)」に含まれる再エネ特措法の改正法の下で、太陽光発電設備の廃棄等費用の積立てを確保するための制度が創設されることとなりました。主な内容は、①10kW以上の全ての太陽光発電の再エネ特措法の認定事業を対象とすること、②原則、認定事業者が受け取る収入の中から廃棄等費用を源泉徴収的に差し引き、積立金を電力広域的運営推進機関に積み立てること、③積み立てる金額水準を、各認定事業に該当する調達価格又は基準価格の算定において想定されている廃棄等費用の水準とすること、④積み立てる時期については、一律に調達期間又は交付期間の終了前10年間とすること等となっています。2022年7月以降、積立開始時期が訪れた発電事業ごとに、順次、廃棄等費用の積立てが開始される予定であるため、制度の実施に向けた準備や周知を進めているところです。

他方、前述の太陽光発電設備の廃棄等費用の積立てを確保するための制度は、FIT制度やFIP制度の下での発電事業終了後の放置・不法投棄対策を主眼としており、災害等により早期の事業廃止や修繕が発生する場合には、各太陽光発電事業者による独自の積立てや保険加入により手当てされることが期待されます。こうした中で、現行の事業計画策定ガイドラインでは、適切に保守点検・維持管理を実施する体制の構築を求めていますが、特に50kW未満の太陽光発電設備を中心に、保険に加入していない事業者が一定程度存在する状況です。

こうした状況の下、2019年度の主力電源化小委員会での議論を踏まえ、太陽光発電事業者に災害時の備えを促すため、2020年4月に、再エネ特措法に基づく事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)において、新規認定案件・既認定案件ともに、火災保険・地震保険等への加入を努力義務としました。保険料の水準を含めた努力義務化の影響を見極めながら、今後、遵守義務化も検討していきます。さらに、太陽光発電事業者による独自の積立てや保険加入といった自主的な取組を公表対象に加えることを検討していきます。

(5)既認定の未稼働案件がもたらす問題と対応

2012年7月のFIT制度開始以降、事業用太陽光発電は急速に認定・導入量が拡大しており、資本費の低下等を踏まえて調達価格は半額以下にまで下落しました(2012年度40円/kWh→2020年度12〜13円/kWh)。この価格低減率は他の電源に比べて非常に大きく、認定時に調達価格が決定する仕組みの中で、大量の未稼働案件による歪みが顕著に現れてきています。具体的には、高い調達価格の権利を保持したまま運転を開始しない案件が大量に滞留することにより、①将来的な国民負担増大の懸念、②新規開発・コストダウンの停滞、③系統容量が押さえられてしまうといった課題が生じています。

こうした未稼働案件に対しては、これまでも累次の対策が講じられてきました。2017年4月に改正された再エネ特措法においては、接続契約の締結に必要となる工事費負担金の支払をした事業者であれば、着実に事業化を行うことが見込まれるとの前提の下、原則として2017年3月末までに接続契約を締結できていない未稼働案件の認定を失効させる措置を講じ、事業用太陽光発電は、これまでに約2,070万kWが失効となりました。加えて、2016年8月1日以降に接続契約を締結した事業用太陽光発電については「認定日から3年」の運転開始期限を設定し、それを経過した場合は、その分だけ20年間の調達期間が短縮されることとしました。

しかしながら、接続契約を締結した上でなお多くの案件が未稼働となっているのが現状であり、このうち2016年7月31日以前に接続契約を締結したものは、早期の運転開始が見込まれることから上記の運転開始期限は設定されませんでしたが、現在では逆に早期に稼働させる規律が働かない結果となっています。

【第331-1-3】2012〜16年度認定における事業用太陽光の稼働状況

331-1-3

※2021年10月15日時点。四捨五入により計算の合計が合わない場合がある。

資料:
経済産業省作成

再エネ特措法において調達価格は、その算定時点において事業が「効率的に実施される場合に通常要すると認められる費用」を基礎とし、「適正な利潤」を勘案して定めるものとされています。太陽光パネル等のコストが年々低下し、2020年度の調達価格が12〜13円/kWhとなっている中で、運転開始期限による規律が働かず運転開始が遅れている事業に対して、認定当時のコストを前提にした調達価格が適用されることは、再エネ特措法の趣旨に照らして適切ではありません。

こうした状況に鑑み、国民負担の抑制を図りつつ、再エネの導入量をさらに伸ばしていくため、2018〜20年にかけて、再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会での審議を経て、運転開始までの目安となる3年を大きく超過した2012〜2016年度にFIT認定を取得した事業用太陽光発電で、運転開始期限が設定されていない未稼働案件について、①原則として一定の期限までに運転開始準備段階に入っていないものには、認定当時のコストを前提にした高い調達価格ではなく、適時の調達価格を適用する、②早期の運転開始を担保するために原則として1年の運転開始期限を設定する等の措置を講じています。

それでもなお、依然として大量の未稼働案件が継続していることから、2019年9月より、主力電源化小委員会において、未稼働案件への対策について議論が行われ、2020年6月に成立したエネルギー供給強靱化法に盛り込まれた再エネ特措法改正法により、2022年度から、認定取得後、長期にわたり運転が開始されない場合には、認定を失効させる制度が新たに創設されました。