第2節 エネルギーコスト低減のための資源調達条件の改善等

日本は世界のLNG需要の約5分の1を占める世界最大規模の需要国です。これまでの伝統的なLNG契約では、長期契約がその大半を占め、また原油価格に連動する価格決定方式が通常であったため、東日本大震災後の原油高の影響等により、その調達価格の高騰が課題となりました。

一方で、米国や欧州では、原油価格に連動する価格決定方式ではなく、ガスそのものの需給を反映した価格の影響力が増しています。加えて、中国を筆頭とする世界的なLNG需要の拡大や、米国や豪州等からのLNG輸出量の増加が見込まれる中、国内では電力・ガス小売全面自由化により、最終需要家が長期契約を結ばずショートポジション志向になる等、LNG調達構造が変化しています。

こうした環境変化に加えて、2022年、ロシアによるウクライナ侵略により、G7は、ロシアのエネルギーへの依存を削減するための更なる取組を進める等、LNG・天然ガスを取り巻く状況は大きく変化しているといえます。日本政府は、2016年5月にLNG市場政策の現状と今後取り組むべき課題をまとめた「LNG市場戦略」を発表し、流動性の高いLNG市場の実現に向けた取組を推進してきました。公表から5年、こうした変化を踏まえ、LNG市場戦略は、2021年10月に閣議決定された第六次「エネルギー基本計画」の中で、国際LNG市場の更なる流動化やレジリエンスの強化、電力・ガス自由化の中での効果的なLNG確保と調達価格安定化、LNGバリューチェーン全体での脱炭素化等に向けて、改訂を行うこととしています。

これまでのLNG市場戦略の成果の一つとしては、仕向地条項の改善が挙げられます。日本が輸入しているLNGに関する売買契約の多くには、いわゆる「仕向地条項」が付けられており、LNGの自由な転売が制限されている場合があります。こうした再販売の制限等に関し、2017年6月、公正取引委員会は液化天然ガスの取引実態に関する調査報告書をまとめ、一定の場合には仕向地制限等が「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)」(独占禁止法)上問題となるおそれがある、との見解を発表しました。こうした見解を踏まえ、2021年、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、日本の買主企業への初となる包括的な調査を行いました。調査の結果、2017年6月以前に締結された契約について、仕向地制限は71%に課されていましたが、公正取引委員会の調査以降、新たに締結・改定された契約には23%へ減少していることが確認されました。さらに、全契約においても57%まで減少しており、仕向地制限の撤廃に向けた産消間の連携の成果が出ています。

この結果は、2012年より開催されている、LNG産消会議の資源エネルギー庁保坂長官の冒頭挨拶で公表されました。2021年10月5日に開催されたLNG産消会議は、節目となる第10回目をオンライン形式で開催し、25ヵ国以上の閣僚級や、70以上の企業・国際機関のトップからいただいたメッセージをホームページに掲載するとともに、当日は世界55ヵ国・地域から約2,200人の参加登録を得ました。LNGを取り巻く環境が大きく変化する中で、これまで日本、そして世界のエネルギー安定供給と持続的成長を支えてきたLNGが、世界的な脱炭素化の流れの中で、次の10年に求められる役割と期待について議論を深めました。

保坂長官からは、LNGがカーボンニュートラルに向けた移行期間において重要な役割を果たすこと、脱炭素化の流れの中で上流投資の先細りが見られるが、引き続きLNG・ガスへの上流投資が必要であることを世界に発信しました。加えて、第9回の会議で発表した“Make Clean LNG Cleaner”の方針の下、JOGMECがLNGバリューチェーン上のGHG排出量の算定のため、簡易かつ高精度の方法論策定に取り組むとともに、近い将来、実際のLNGプラントでの、実データによる検証も目指すことを発表しました。

また、会議では、アジアのエネルギー移行を支えるべく、再エネ、省エネ、LNGの導入支援を行う民間のイニシアチブである“Asia Natural Gas and Energy Association”(ANGEA)の設立発表、民間企業と国際排出権取引協会によるCCS/CCUSと、カーボンクレジットの在り方の国際的な議論・検討のスタートの発表がありました。経済産業省は、こうした前向きな民間の取組を歓迎するとともに、新たな時代の要請に応えるべく、次の10年に向けて、LNGに関わる官民の新たな連携の必要性を呼びかけました。

〈具体的な主要施策〉

(1)柔軟な国際LNG市場の形成とアジア需要の取り込み

日本のLNGセキュリティを高め、国際LNG市場における日本の影響力を維持するためには、アジア各国のLNG需要の創出・拡大に積極的に関与し、流動性が高く厚みのある国際LNG市場の形成に貢献していくことが重要です。また、日本がアジアの経済構造やエネルギー需給構造と深く関わっていることを踏まえれば、アジア全体のLNGセキュリティ向上も重要な課題です。

こうした観点から、従来はLNGが日本に輸入されることに着目して日本企業の参画を支援してきましたが、今後は、LNGの生産から受入れまでバリューチェーン全体を視野に入れ、第三国向けも含めて日本企業がLNGをオフテイク・コントロールすることに注目し、第三国向けに供給される「外・外取引」について、日本企業の関与を後押しする方向にLNG政策を転換し、必要な取組を進めてきました。

2017年のLNG産消会議では、アジアLNG需要の立ち上げに向けて、官民で100億ドル規模の資金支援を行うという目標を発表し、2019年に達成。人材育成の面では、2017年にアジアを中心にLNG関係国に対して今後5年で500人の人材育成の機会を提供するという目標を発表し、2019年に達成しました。このように、新しい供給源とアジアの需要を結び付け、LNG市場の発展を先導しています。

さらに、2021年10月に閣議決定された第六次「エネルギー基本計画」においては、2030年度に日本企業の「外・外取引」を含むLNG取扱量が1億トンとなることを目指すとの目標を設定しました。この目標の達成に向け、供給源となる液化事業に加えて、アジア各国等におけるLNG受入基地事業等についても日本企業の事業参画の確保を支援すべく、引き続きファイナンス支援を行っています。

(2)LNG先物市場、電力先物市場の創設

日本では、LNG調達を輸入に依存しています。LNG需要が減少しているため短期・スポットLNG調達割合も減少傾向にありますが、グローバルレベルでは、貿易量における短期・スポットLNGの割合は増加傾向にあり、2020年の短期・スポットLNG割合は40%です。また、2022年1月現在、米欧アジア各地域で足下のLNG価格が高騰しており、アジアのLNGスポット価格であるJKMは、2021年10月に過去最高額を記録しました。今後アジアにおいて予想されるLNGの短期・スポット市場の拡大に伴うLNGスポット価格のヘッジニーズや発電マージンの固定化ニーズの高まりを踏まえ、2022年1月、経済産業省は東京商品取引所に対してLNG先物の試験上場(3年間の時限的な上場)を認可しました。2022年4月からLNG先物の取引が開始される予定です。

電力市場については、電力システム改革の第2段階の改正として、先物取引の対象に「電力」を追加することを内容とした「改正商品先物取引法」が2016年4月1日に施行されました。経済産業省は2015年、「電力先物市場協議会」において電力先物市場の方向性について取りまとめ、2016年6月には本協議会の検討を踏まえ、東京商品取引所が電力先物の模擬売買を実施しました。その後、電力システム改革に関する議論が進行する中、電力関係事業者による電力先物取引に対するニーズの変化を踏まえ、今後の卸電力取引の変化も見据えた先物市場を設計する必要があることから、2017年12月、経済産業省において「電力先物市場の在り方に関する検討会」を立ち上げ、2018年4月に報告書を取りまとめました。また、2019年8月には東京商品取引所に対して電力先物の試験上場(3年間の時限的な上場)を認可し、同年9月から取引が開始されました。直近は、2020年12月から2021年1月にかけて、寒波の影響により電力需要が増加する等の複数の要因から電力スポット市場価格が高騰し、1日平均スポット価格が過去最高を記録したことから、電力先物は価格変動リスクヘッジ手段としてその必要性が再認識され、取引参加者数は2019年9月当初は13社であったものが2022年3月末現在は140社以上と大幅に増加し、取引量も約2年半の間で順調に拡大しています。こうした状況を踏まえ、経済産業省は2022年1月に東京商品取引所に対して電力先物の本上場を認可しました。これにより、試験上場時に設けていた3年間の期限は撤廃され、2022年4月以降は常設の市場として引き続き取引が行われることになります。