第1節 電力システム改革の推進
1. 電力広域的運営推進機関の取組
東日本大震災により、大規模電源が被災する中、東西の周波数変換設備や地域間連系線の容量の制約から、広域的な系統運用が十分にできませんでした。このため、不足する電力供給を十分に手当することができず、国民生活に大きな影響を与えたことから、2013年11月に成立した「電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)」に基づき、強い情報収集権限と調整権限の下で広域的な系統計画の策定や需給調整等を行う「電力広域的運営推進機関(以下、「広域機関」という。)」が2015年4月に発足しました。
広域機関では、地域間連系線等の整備等に関する方向性を整理した「広域系統長期方針」を取りまとめるとともに、東西の周波数変換設備及び東北東京間連系線の増強に関する「広域系統整備計画」を策定し、増強に向けた工事が行われています。地域間連系線等の更なる整備については、国と広域機関の共同事務局による「広域連系系統のマスタープラン及び系統利用ルールの在り方等に関する検討委員会」を広域機関に設置し、幅広い有識者委員が参加し、検討を進めています。
また、既存系統の最大限の活用に向け、「日本版コネクト&マネージ」の検討・実現など、系統運用ルールの整備にも取り組んでいます。
加えて、この取りまとめでは、需給調整市場において不適正な取引を防止するため、広域機関は日々全国大での需給状況の監視しており、需給状況の悪化時には事業者への指示を行います。2020年度の冬は、寒波による電力需要の増加及びLNGの調達が困難であったことにより、需給がひっ迫したため、関係する一般送配電事業者に対し、電気事業法第28条の44第1項の規定に基づく電力融通の指示を行う等しました。
2. 電力の小売全面自由化への対応
家庭を含めた全ての電気の利用者が電力供給者を選択できるようにするため、2016年4月に電力の小売全面自由化を実施しました。全面自由化に際しては、まず旧一般電気事業や旧特定規模電気事業といった類型に代わる区分として、小売電気事業(登録制)、送配電事業(許可制)、発電事業(届出制)という事業ごとの類型を設け、それぞれ必要な規制を課すこととしました。具体的には、自由化後も電力の安定供給を確保し、需要家保護を図るため、以下のような様々な措置を講じています。
まず、電気の安定供給を確保するための措置として、適切な投資や人材の確保の必要性に鑑み、一般送配電事業者に対して、需給バランス維持、送配電網の建設・保守、最終保障サービスの提供、離島のユニバーサルサービスの提供を義務付けるとともに、これらを着実に実施できるよう、地域独占と総括原価方式の託送料金規制(認可制)を措置しました。また、小売電気事業者に対して、需要を賄うために必要な供給力を確保することを義務付けることとし、将来的な供給力不足が見込まれる場合に備えたセーフティネットとして、広域機関が発電所の建設者を公募する仕組みを創設しました。さらに、需要家保護を図るための措置として、小売電気事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課すとともに、旧一般電気事業者(以下「旧一電」という。)に対し、2020年3月末まで経過措置として料金規制を継続することとしました。ただし、電気の使用者の利益を保護する必要性が特に高いと認められるものとして、経済産業大臣が指定する指定旧供給区域のみ経過措置料金が存続することとされ、2019年4月、電力・ガス取引監視等委員会から、消費者等の状況、競争者による競争圧力及び競争環境の持続性の状況を総合的に考慮した上で、全ての供給区域において、2020年4月の時点においては、経過措置料金を存続させることが適当と考えられる旨、経済産業大臣に対する意見が示されました。本意見を踏まえ、2019年7月、全ての旧一電に係る供給区域について、小売規制料金に係る経過措置の存続のための指定が行われました。以降、概ね年に1回程度、審査対象区域の検討を行うこととしております。
加えて、小売全面自由化に伴い、多種多様な事業者が卸電力取引所で取引を行う機会が増加することや、一時間前市場の創設等、制度変更により卸電力市場を利用して不当に利益を得るケースが想定されることから、不正取引(相場操縦等)の防止、国による市場監視、取引所の運営の適切性確保を可能とする規制措置を講じています。こうした措置を通じて、市場の透明性と廉潔性を維持することが、卸電力市場の活性化に資すること、ひいては小売電力市場の活性化につながることと考えています。
3.電力の小売全面自由化の進捗状況
(1)電気事業に係る制度設計について
2015年9月に開催された電力取引監視等委員会(2016年4月に電力・ガス取引監視等委員会に改組。)において、①小売営業に関するルール、②卸電力市場における不公正取引の取締手法、③今後の託送料金制度の在り方など、電力取引の監視に必要な詳細な制度設計の議論が進められてきました。
また、電力システム改革が進展する中で、電力分野において、エネルギー政策の基本的視点である、安全性、安定供給、経済効率性、及び環境適合を同時に達成していくことが求められます。効率的かつ競争的な電力市場の整備等の環境整備を進めると同時に、電力システム改革が我が国経済における成長戦略としての効果を最大限に発揮するためにも、市場における担い手としてのエネルギー産業を国際的にも競争力のあるものとしていくことが必要不可欠です。このため、電気事業制度に係る制度設計をはじめとして、電力分野の産業競争力強化に向けた幅広い政策課題を検討する場として、2015年10月、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の下に電力基本政策小委員会を開催し、2016年10月より、電力・ガス基本政策小委員会に検討の場を移しています。ここでは例えば、先述の料金規制の経過措置について2017年10月から議論が開始され、2018年度中には、規制下にある料金メニューそれぞれの用途や契約状況が確認され、また、それらに関する新電力や需要家へのヒアリング・アンケート結果等を踏まえた議論が行われたほか、燃料費調整度や最終保障供給制度の在り方など、多岐にわたる議論が行われました。ほかにも、「電気事業法(昭和39年法律第170号)」に基づき、2020年度の発送電分離を前にした検証が開始され、2018年9月から合計7回にわたり、小売全面自由化後の競争の状況や広域機関の活動状況のほか、電力各社のシステム対応状況などについて議論を実施の上、2019年6月に送配電部門の法的分離に向けた電気事業を取り巻く状況についての検証結果を取りまとめられ、2020年4月に送配電部門の法的分離が行われました。
このように、電力システム改革の制度設計については、総合資源エネルギー調査会や電力・ガス取引監視等委員会において検討してきたところであり、引き続き適切な場において検討を進めます。
(2)登録小売電気事業者数について
2021年3月31日時点で713者を登録しています。
この小売電気事業登録は、法令に則り、資源エネルギー庁が、最大需要電力に応ずるために必要な供給能力を確保できる見込みがあるか、電力・ガス取引監視等委員会が、電気の使用者の利益の保護のための措置が講じられているかといった観点から、それぞれ審査を行っています。
登録された事業者の内訳は、もともと高圧の小売電気事業を行っていた新電力事業者(PPS)に加え、LPガス及び都市ガス関係、石油関係、通信・放送・鉄道関係等の事業者など、非常に多岐にわたります。従来の料金体系とは異なる段階別料金や既存事業とのセット割、時間帯に応じて料金差を付ける時間帯別料金等の新たなメニューの提供が見られます。
また、異業種の事業者間の連携や、地域の枠を超えた事業統合なども始まっており、事業者の事業機会の拡大も進んでいます。
(3) 新電力へのスイッチング(契約先の切替え)実績
2021年1月までの電力取引報によると、電力の小売全面自由化で新たに自由化された低圧部門において、新電力への契約の切替えを選択した需要家が全国で約1,594万件となっています。また、地域の既存電力会社が設定した自由料金メニューへの切替えを選択した需要家も約838万件となっており、両者を合わせると、約2,431万件の消費者が自由料金メニューへの切替えを行っています。また、2021年1月時点で電力市場全体としては、販売電力量ベースの新電力のシェアで約19.69%となっています。
(4)料金メニューの多様化
新電力の提供する料金メニューを見ると、全体的な傾向としては、基本料金と従量料金の二部料金制からなる既存の料金メニューに準じた料金設定が多く見られます。他方、一部では、完全従量料金メニュー、定額料金メニュー、指定された時間帯における節電状況に応じた割引メニューやセットプランなど、新しい料金メニューも提供されるようになっています。
なお、多くの新電力は、料金規制の残る大手電力会社が毎月公表する燃料費調整額を引用した料金メニューを採用しておりますが、経済産業省では需要家の選択肢を拡大するとともに、予算執行の予見性を高めるなどの総合的な観点から、2020年度中に経済産業省庁舎で使用する電気の調達に際して、燃料費調整を行わないことを条件とする公募を行い、複数の事業者からの応札の結果、株式会社エネットと契約を締結しました。
また、再生可能エネルギー等の電源構成や、地産地消型の電気であることを訴求ポイントとして顧客の獲得を試みる小売電気事業者の参入も見られ、中には需要家が発電所を選んで得票数の多かった発電所に報奨金を与えることができるなど、特色のある小売電気事業者も存在しています。
さらに、電力消費の見える化(電気の使用状況の可視化)や、電気の使用状況等の情報を利用した家庭の見守りサービスなども提供され始めています。応援するスポーツチームとの繋がりや里山の景観保存など、需要家の好みや価値観に訴求するサービスも始まっています。
加えて、需要家側の取組として、電力コスト削減の観点から、同種の事業者間における電気の共同調達や、地域を問わない事業グループ全体としての一括調達の動きも出始めています。
4. 電力市場における適正な取引確保のための厳正な監視など
(1)小売取引の監視等
① スポット市場価格高騰を踏まえた需要家への情報発信等
2020年12月からの市場価格の高騰に際し、「市場連動型メニュー」の需要家(消費者・事業者)に対し、高額な料金請求が生じる可能性があることから、電力・ガス取引監視等委員会において、1月14日に、需要家向け相談窓口を設置するとともに、需要家に対して契約内容の確認と契約の切替え方法について周知を行い、1月26日に、事業者の対応状況(値引き等)を踏まえ、追加の周知を行いました。
さらに、1月29日には、卸電力市場価格が急激に高騰する中でも、需要家が安定的な電力供給サービスを継続的に享受できるようにするため、特に市場連動型の電力料金メニューを提供する小売電気事業者に対し、需要家の電気料金負担が激変しないよう、資源エネルギー庁において柔軟な対応を要請しました。また、同日付で、電力・ガス取引監視等委員会において、需要家に対しても、契約内容の確認と契約の切替え方法について改めて周知を行うとともに、当該要請についても周知を行いました。
②各種相談への対応
電力・ガス取引監視等委員会は、相談窓口を設置し、電気の需要家等から寄せられた相談に対応し、質問への回答やアドバイス等を行いました。2020年4月~ 2021年3月における相談件数は2,572件でした。
本相談において、不適切な営業活動などに係る情報があった場合には、事実関係を確認し、必要な場合には小売電気事業者に対する指導等を行いました。
また、独立行政法人国民生活センター及び消費者庁と共同で、電気・ガスの相談事例の紹介及びアドバイスについてプレスリリースを2回行い、需要家に対し情報提供を行いました。
- 相談窓口への相談件数(電気及びガス)の推移と相談事例
- プレスリリースの実施状況
第15回(2020年7月8日)、第16回(2020年12月22日)
③小売電気事業者に対する指導
(ア)勧告
電力・ガス取引監視等委員会は、相談対応等を端緒として電気事業法上問題となる行為等を把握した場合には、勧告、文書指導や口頭指導により、それを是正するよう指導しました。本期間において行った指導の例は以下のとおりです。
(i) 中部電力ミライズ株式会社に対する勧告(2020年7月8日)
中部電力株式会社及びその小売電気事業者の地位を承継した中部電力ミライズ株式会社は、2019年12月から2020年5月までの間に締結した電気の小売供給契約のうち、28,962件の小売供給契約について契約締結後交付書面を交付せず、うち20,313件について契約締結前交付書面を交付しませんでした。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、電気事業法に基づき、当該社に対し、以下を求める業務改善勧告を行いました。
1) 契約締結前交付書面及び契約締結後交付書面の不交付が今後発生しないよう、当該不交付の原因となり得る事象を早期に把握、是正する仕組みの構築を含む必要な措置を講ずること。
2) 前記1)に基づいて講じた措置の内容を自社の役員及び従業員に周知し、法令遵守を徹底すること。
3) 前記1)に基づいて講じた措置並びに前記②に基づいて実施した周知の内容及び日時について、電力・ガス取引監視等委員会に対し、文書で報告すること。
(ii) 東京電力エナジーパートナー株式会社に対する勧告(2020年9月9日)
東京電力エナジーパートナー株式会社は、平成30年12月から令和2年1月までの間、電気及びガスの小売供給契約の締結を電話で勧誘する際に、少なくとも52件の需要家に対し、電気及びガスの供給条件(小売供給契約の申込みの方法や小売供給に係る料金に関するもの)について不十分な説明や虚偽の説明をしました。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、電気事業法及びガス事業法に基づき、当該社に対し、以下を求める業務改善勧告を行いました。
1) 今後、電気事業法及びガス事業法の説明義務の規定に違反することがないよう、法令違反の原因となり得る事象を早期に把握、是正する仕組みの構築、需要家に対する説明方法の改善、業務委託先に対する監督方法の抜本的な改善等必要な措置を講ずること。
2) 前記1)に基づいて講じた措置の内容を自社及び業務委託先の役員及び従業員に周知徹底すること。
3) 前記1)に基づいて講じた措置並びに後記(イ)に基づいて実施した周知の内容及び日時について、電力・ガス取引監視等に対し、文書で報告すること。
(イ)指導
(i)小売電気事業者A社へ行った指導(2020年8月)
A社は、2020年3月頃、40,339件の電気の小売供給契約を更新(料金等の契約条件について一切の変更をせずに当該小売供給契約の期間の延長のみを実施)した際に、契約締結後交付書面を交付しませんでした。当該行為は、書面交付義務という電気事業法上の重要な義務の違反に該当し、需要家の利益を害するものであることから、A社に対し、電力の適正な取引の確保を図るため、所要の改善措置を速やかに実施するように指導を行いました。
(ii)小売電気事業者B社へ行った指導(2020年9月)
B社は、2018年3月から2020年6月までの間、電気の小売供給契約の締結をした際、少なくとも2,715件の小売供給契約について、契約締結後交付書面を交付しませんでした。当該行為は、書面交付義務という電気事業法上の重要な義務の違反に該当し、需要家の利益を阻害するものであることから、B社に対し、電力の適正な取引の確保を図るため、所要の改善措置を速やかに実施するように指導を行いました。
(iii)小売電気事業者C社へ行った指導(2021年2月)
C社は、2020年7月から同年10月までの間、電気及びガスの小売供給契約の締結をした際、少なくとも11件の電気の小売供給契約について、供給条件の説明を十分に実施せず、少なくとも38件のガスの小売供給契約について、供給条件の説明を十分に実施しませんでした。当該行為は、説明義務という電気事業法及びガス事業法上の重要な義務の違反に該当し、需要家の利益を害するものであることから、C社に対し、電力及びガスの適正な取引の確保を図るため、所要の改善措置を速やかに実施するように指導を行いました。
④ 電力の小売営業に関する行政指導事例集の公表(2020年11月)
2019年度に行政指導を実施した事例のうち、供給条件の説明等、契約締結時の書面交付、苦情等の処理、その他に関し、小売電気事業者等の事業活動の参考になると考えられる事例を取りまとめ、公表しました。
⑤小売市場重点モニタリング
電力・ガス取引監視等委員会は、一定の価格水準を下回る小売契約について、競争者からの申告や公共入札の状況を踏まえ、取引条件等を含む実態を重点的に把握する小売市場モニタリングを2019年9月から開始し、その調査結果を年2回程度の頻度で公表することとしました。
(ア)背景
2017年~ 2018年頃、複数の新規参入事業者より、一部地域の旧一般電気事業者が、電気購入先の新規参入事業者への切替え(以下「スイッチング」という。)をしようとしている顧客や公共入札を行う顧客など特定の顧客に対してのみ、対価が非常に低い小売供給を提案している(当該対価は、水力や原子力等の可変費が非常に安い電源を利用しつつ、固定費は限定的に上乗せすることで可能となっている)という具体的な営業事例について、電力・ガス取引監視等委員会への相談がありました。旧一般電気事業者によるこのような行為は、一般的に、新規参入事業者の事業を困難とし、市場からの退出に至らせる等、将来の競争を減殺し、電気事業の健全な発達に支障を及ぼすおそれがあるため、第28回、第32回制度設計専門会合(2018年3月、7月)において対応方針を検討しました。その結果、「電力の小売営業に関する指針」を改定し、スイッチングの期間中における取戻し営業行為を問題となる行為に位置づけました。また、スイッチングプロセス以外における差別的な対価提供に関する規制の在り方については、競争状況を引き続きモニタリングし、必要に応じてさらなる検討を行うこととされました。
その後、電気の経過措置料金に関する専門会合(以下、「経過措置料金専門会合」という。)の取りまとめ(2019年4月23日)において、電気の小売規制料金の経過措置を解除するか否かを判断するに当たっての考慮要素の一つとして、「競争環境の持続性」が挙げられ、卸市場において市場支配力を有する事業者が社内の小売部門に対して不当な内部補助を行い、当該内部補助を受けた小売部門が廉売などの行為を行うことによって、小売市場における競争を歪曲し、結果として、小売市場における地位を維持、又は強化するおそれがあることが指摘されました。加えて、①このような不当な内部補助を防止するためには、社内外取引の無差別性を実効性のある形で確保することが最も有力で現実的な手段であること、②また「不当な内部補助」が行われているかどうかを確認するに当たっては、廉売などの行為によって小売市場における競争の歪曲の有無を判断するため、具体的な小売価格についてモニタリングを行い、これらの状況を適切に把握する必要があることも指摘されました。
これらの指摘を踏まえ、第38回、第40回制度設計専門会合(2019年5月、7月)において小売市場重点モニタリングの実施方法等を検討し、それを踏まえ、2019年9月から本取組を開始しました。
【第361-4-1】小売市場重点モニタリングの概要
(イ)調査結果
2019年1月~ 2019年12月に供給を開始した小売契約分について、調査の結果、個々の案件において法令上問題となるような事例(可変費を下回るような価格設定)は認められなかった旨を第46回制度設計専門会合(2020年3月)において報告し、その調査結果を公表しました。他方、発電・小売一体の旧一般電気事業者においては、社内取引価格が明確化されていませんでした。加えて、多くの旧一般電気事業者では、個別の小売価格の設定において参照する定量的な基準として、電源可変費以外のものが示されませんでした。これらの点は、旧一般電気事業者の発電部門が、社内外の取引条件を合理的に判断することなく、電力の卸売を行っている可能性があることを示唆するものであり、この調査結果も踏まえて不当な内部補助防止策(本章第3参照)の検討がなされることとなりました。
その後、第51回制度設計専門会合(2020年10月)に第2回目の公表を行い、2020年1月~ 2020年6月に供給を開始した小売契約分について、調査の結果、個々の案件において法令上問題となるような事例(可変費を下回るような価格設定)は認められなかった旨を報告しました。また、小売市場における旧一電の域内シェアは減少傾向にあり、競争が一定程度進展していることも明らかになりました。
⑥ 経過措置が講じられている電気の小売規制料金の原価算定期間終了後の事後評価
電気事業法等の一部を改正する法律(2014年法律第72号)附則の経過措置が講じられている電気の小売規制料金については、原価算定期間終了後に毎年度事後評価を行い、利益率が必要以上に高いものとなっていないかなどを経済産業省において確認し、その結果を公表することとなっています。
2021年1月、経済産業大臣からの意見聴取を受けて、料金制度専門会合において、原価算定期間を終了しているみなし小売電気事業者8社(北海道電力、東北電力、東京電力EP、中部電力ミライズ、北陸電力、中国電力、四国電力及び沖縄電力)について、電気事業法等の一部を改正する法律附則に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等(20160325資第12号。以下「審査基準」という。)第2(7)④に基づく評価及び確認を行い、2021年2月、以下のとおり取りまとめました。
【第361-4-2】料金制度専門会合取りまとめ(審査基準の適用結果)
- 出典:
- 各事業者の部門別収支計算書、各事業者へのヒアリングにより電力・ガス取引監視等委員会事務局作成
I.審査基準に基づく評価
- 審査基準のステップ1[電気事業利益率による基準]では、個社の直近3カ年度平均の利益率が10社10カ年度平均の利益率を上回る会社は、東北電力、東京電力EP、中部電力ミライズ、中国電力及び沖縄電力の5社であった。
- ステップ1に該当した5社について、審査基準のステップ2[超過利潤累積額による基準]⼜は[⾃由化部⾨の収⽀による基準]では、2019年度末超過利潤累積額は⼀定⽔準額を下回っており、直近2年連続で⾃由化部⾨の収⽀が⾚字となっていなかった。
- 上記より、原価算定期間を終了しているみなし小売電気事業者8社(関西電力及び九州電力以外)について、審査基準に基づく評価を実施した結果、変更認可申請命令発動の要否の検討対象となる事業者はいなかった。
(結論)
- 以上を踏まえ、今回事後評価の対象となった事業者について、現⾏の料⾦に関する値下げ認可申請の必要があるとは認められなかった。
これを踏まえ、審査基準第2(7)④に照らし、経過措置が講じられている電気の小売規制料金の値下げ認可申請の必要があると認められる事業者はいませんでした。
(2)電気の卸取引の監視
①スポット市場の監視
2020年12月から2021年1月にかけて、スポット市場価格が高騰する事象が発生しました。
これを受けて、電力・ガス取引監視等委員会では、2020年12月より、卸電力取引所を通じた旧一般電気事業者の入札根拠データの確認を開始し、2021年1月以降は、電力・ガス取引監視等委員会より直接、各事業者に対して毎日のデータ提出を求めるなど、売り入札量の適切性等について、厳格な監視をしてきました。
また、旧一般電気事業者及びJERAに対して、2021年2月8日に報告徴収を実施し、第56回制度設計専門会合(2021年2月25日)において、ヒアリングを実施しました。
これらに基づく詳細な分析を行い、第58回制度設計専門会合(2021年3月24日)にて分析結果を報告し、有識者による議論の結果、入手したデータやヒアリング結果を前提とすれば、意図的に相場を変動させることを目的とした問題となる行為は確認されませんでした。
また、上述の市場価格高騰において、多くの市場参加者から、公開されている情報が不十分であり、今何が起きているか分からない、今後の見通しが見えない、といった声が多くありました。これを踏まえ、1月19日の電力・ガス基本政策小委員会において、LNG在庫やLNG火力の出力低下等に係る足下の状況を詳細に公開しました。さらに、1月22日以降、電力・ガス取引監視等委員会のホームページにおいて、朝・夕で最高価格を付けたコマの売り・買い入札曲線の公開を開始し、この需給曲線の公開については、2月27日以降、日本卸電力取引所において、各日48コマ分のスポット市場の需給曲線を継続的に公開する運用に変更するとともに、2020年12月1日以降の全コマについても公開されています。
②ベースロード市場の監視
ベースロード市場は、日本卸電力取引所に開設された市場であり、電力自由化により新規参入した小売電気事業者が、一般電気事業者であった小売電気事業者と同様の環境でベースロード電源を利用できる環境を実現することで、小売電気事業者間のベースロード電源へのアクセス環境のイコールフッティングを図り、小売競争を活性化させるため、平成31年度から創設されました。
「ベースロード市場ガイドライン(以下「ガイドライン」という。)」では、ベースロード市場の目的を踏まえ、各区域における一般電気事業者等の「大規模発電事業者」は、ベースロード電源の発電平均コストを基本とした価格を上限(以下「供出上限価格」という。)として、資源エネルギー庁が算定した量(以下「供出義務量」という。)を当市場に供出することが適当とされています。また、大規模発電事業者の小売部門のベースロード電源に係る調達価格が供出価格を不当に下回っている場合には、ベースロード市場の目的が達成されないおそれがあります。
こうした観点から、電力・ガス取引監視等委員会においては、ベースロード市場の受渡年度の前年度及び翌年度において、適切な量及び価格が供出されているか、問題となる入札行動がなかったか、という観点からこれまで実施されたベースロード市場のオークション(計6回)に関する取引内容について、監視を行いました。
監視の結果、問題となる行為は発見されていませんが、監視を通じて得られた情報を基に、市場開設の回数や時期等今後の市場改善に向けた検討事項を電力・ガス取引監視等委員会から資源エネルギー庁に対して提案しました。
これも踏まえ、総合資源エネルギー調査会の下に設置されている制度検討作業部会において、今後の市場改善に向けた議論がされています。
③容量市場の監視
容量市場は、発電事業者の投資回収の予見性を高め、再生可能エネルギーの主力電源化を実現するために必要な調整力の確保や、中長期的な供給力不足に対処することを目的として、電力広域的運営推進機(以下「広域機関」という。)に創設された市場です。
容量市場のオークションにおいては、市場支配力を有する事業者(以下「市場支配的事業者」という。)が、正当な理由なく、稼働が決定している電源を応札しないこと(以下「売り惜しみ」という。)又は電源を維持するために容量市場から回収が必要な金額を不当に上回る価格で応札すること(以下「価格つり上げ」という。)によって、本来形成される約定価格よりも高い約定価格が形成される場合には、小売電気事業者が支払うべき容量拠出金の額が増加し、ひいては電気の使用者の利益を阻害するおそれがあります。
こうした観点から、電力・ガス取引監視等委員会においては、「容量市場における入札ガイドライン(以下「ガイドライン」という。)」に基づき、市場支配的事業者による売り惜しみや価格つり上げの監視が期待されており、2020年7月に実施された初回メインオークションにおいても、以下のとおり、問題となる行為がなかったかどうか監視を行いました。
- 売り惜しみ: ガイドラインに基づき、売り惜しみの可能性があると判断された電源について、そのリスト及び理由の説明を求めるとともにその裏付けとなる根拠資料の提出を求め、その合理性を確認。
- 価格つり上げ: ガイドラインに基づき、監視対象となった電源について、ガイドラインに沿った適切な価格で応札されているか確認すべく、応札価格を構成する人件費や修繕費等のコスト算定方法及び算定根拠の説明を求め、事実関係を確認。
監視の結果、ガイドライン上、直ちに問題となる行為は発見されていませんが、監視を通じて得られた情報を基に、維持管理コストの算出方法等今後の市場改善に向けた検討事項を電力・ガス取引監視等委員会から資源エネルギー庁に対して提案しました。
これも踏まえ、総合資源エネルギー調査会の下に設置されている制度検討作業部会において、今後の市場改善に向けた議論がされています。
(3)市場間相場操縦等に関するルールの明確化
2019年9月に電力先物市場での取引が開始されるに至っており、例えば、先物市場での自己のポジションが有利となるよう現物の卸電力市場で相場操縦を行うといった取引行動が生ずる可能性が考えられます。
改定前の「適正な電力取引についての指針」では、このような市場間相場操縦行為に関する規定はありませんでしたが、電力の適正な取引を確保する観点からは、市場間相場操縦行為も他の類型の相場操縦行為と同様に電気事業法に基づく業務改善命令等の対象となり得ることを明確化することが適切と考えられます。
上記を踏まえ、第275回電力・ガス取引監視等委員会(2020年6月24日)において、同指針の改定を行うことについて、電気事業法第66条の14第1項の規定に基づき、電力・ガス取引監視等委員会から経済産業大臣に対して建議を行いました。
それを踏まえ、2020年10月7日、同指針の改定を行いました。
【第361-4-3】「適正な電力取引についての指針」改定案 新旧対照表(該当部分抜粋)
(4)発電・小売間の不当な内部補助の防止策
経過措置料金専門会合の取りまとめにおいて、電気の小売規制料金の経過措置を解除するか否かを判断するに当たっての考慮要素の一つとして、「競争環境の持続性」が挙げられ、卸市場において市場支配力を有する事業者が社内の小売部門に対して不当な内部補助を行い、当該内部補助を受けた小売部門が廉売などの行為を行うことによって、小売市場における競争を歪曲し、結果として、小売市場における地位を維持、又は強化するおそれについて指摘がありました。
また、総合資源エネルギー調査会の下に設置されている制度検討作業部会の第2次中間とりまとめ(2019年7月24日)に係る議論では、非FIT非化石価値取引市場に関し、旧一般電気事業者がその非化石証書収入分について発電部門から小売部門に不当に内部補助を行うことによって、小売市場における競争が歪曲する懸念について指摘がありました。
さらに、容量市場導入に当たっては、容量拠出金により収入を得る事業者(旧一般電気事業者以外も含まれうる。)の発電部門から小売部門への内部補助について、同様の議論が生じることも想定されます。
これらの指摘等を踏まえ、卸市場において市場支配力を有する事業者の不当な内部補助の防止策について、第45 ~ 50回制度設計専門会合(2020年2 ~ 9月)において検討を行いました。
検討に際しては、経過措置料金専門会合や非FIT非化石価値取引市場の設置に至る経緯を踏まえ、卸市場において市場支配力を有する事業者の発電・小売間の不当な内部補助を防止するための基本的な考え方として、①卸売価格の社内外無差別性の監視、②小売価格の監視、③非FIT非化石証書の取引を踏まえた内部補助の監視、が必要であると整理しました。
他方で、発電事業者において、発電から得られる利潤を最大化する行動(支配力を行使した利潤最大化行動は含まない。)、すなわち卸電力取引所での取引、社外への相対卸取引、社内取引等の選択肢のうち、社内外問わず最も有利な条件で取引するという経済合理的な行動がとられていれば、おのずから卸売価格の社内外無差別性が確保され、電源アクセスのイコールフッティングが実現することになると考えられます。こうした発電利潤最大化行動が確実にとられている場合には、社内外の卸売において合理性のない価格差は発生せず、論理的には、内部補助を理由とした小売市場の競争歪曲も生じないと考えられ、内外無差別性の監視は不要とも考えられます。
しかしながら、小売市場重点モニタリングの調査結果では、発電・小売一体の旧一般電気事業者においては、社内取引価格が明確化されていませんでした。加えて、多くの旧一般電気事業者では、個別の小売価格の設定において参照する定量的な基準として、電源可変費以外のものが示されませんでした。これらの点は、旧一般電気事業者の発電部門が、社内外の取引条件を合理的に判断することなく、電力の卸売を行っている可能性があることを示唆するものでした。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、2020年7月1日、旧一般電気事業者各者に対して以下のコミットメントを要請し、あわせて、コミットメントを確実に実施するための具体的な方策について、旧一般電気事業者各社から電力・ガス取引監視等委員会へ報告することも求めました。
要請したコミットメントの内容
「会社全体としての利益を最大化するためには、発電部門と小売部門のそれぞれが、中長期的な視点も含めて利潤最大化を目指して行動することが合理的なアプローチ」であることを踏まえ、
① 中長期的な観点を含め、発電から得られる利潤を最大化するという考え方に基づき、社内外・グループ内外の取引条件を合理的に判断し、内外無差別に電力卸売を行うこと。
② 小売について、社内(グループ内)取引価格や非化石証書の購入分をコストとして適切に認識した上で小売取引の条件や価格を設定し、営業活動等を行うこと。
その後、この要請を受けた旧一般電気事業者各者から以下のとおり委員会に報告がありました。
- 今後コミットメントを行うことについて表明した。
- コミットメントを確実に実施するための具体的な方策について、発電部門・販売部門が一体となっている8社は、2021年度の運用開始に向けて、社内取引価格の設定や業務プロセスの整備に着手する。
今後のコミットメントの実施状況については、小売市場重点モニタリングによる小売市場の重点的な監視を定期的に(年2回程度)行うこととし、当該監視において、旧一般電気事業者及びその関係会社によるモニタリング基準価格以下での小売販売や公共入札が確認された場合には、小売価格の合理性に加えて以下についても併せて説明を求め、確認していくこととしました。
- 卸売について、社内(グループ内)の取引条件・価格と、社外(グループ外)の取引条件・価格(スポット市場、BL市場、相対卸平均)の比較による、内外無差別の確認。
- 小売について、小売平均価格(託送費除く)と社内(グループ内)取引価格及び非化石証書購入費用の比較によるコスト認識の確認、及び社内(グループ内)取引価格等を踏まえたエリアプライス以下の個々の小売価格の合理性の確認。
なお、取組開始当初の小売市場重点モニタリングの対象事業者は、①供給区域の旧一電及びその関連会社(出資比率20%以上)、②各供給区域の市場シェア5%以上の小売事業者、としており、②の要件に合致しない供給区域外の旧一般電気事業者及びその関連会社については、モニタリングの対象となっていませんでした。この点、旧一般電気事業者がその大半を保有する電源アクセスのイコールフッティングを図る観点や、非化石証書に係る内部補助を防止する観点からは、供給区域内外のいずれで小売販売を行うにかかわらず、旧一般電気事業者の小売部門や関連会社がグループ外の小売事業者よりも有利な条件で卸売を受けることについて、合理性は認められないと考えられます。したがって、小売市場重点モニタリングの対象となる小売契約について、旧一般電気事業者及びその関係会社のものは、供給区域外も含めた全エリアを対象とするよう、見直しを行いました(2020年7月以降適用)。
(5) 日本卸電力取引所に対する市場監視機能等の体制強化
2019年6月28日、電力・ガス取引監視等委員会は、日本卸電力取引所に対して、市場監視業務等の中立性・独立性を確保しつつ、その機能を向上させるための体制を検討することを要請しました。
これを受け、2020年10月14日に日本卸電力取引所から市場監視の中立性・独立性を確保するための業務規程等の見直しや、市場監視業等に係る体制の拡充等を実施する旨の回答を受領し、以下の内容を公表しました。
市場監視業務等の在り方についての検討結果について
① 市場監視の中立性・独立性を確保するための業務規程等の見直し
市場規模の拡大や市場参加者の多様化を踏まえ、取引所がその市場監視機能を強化し、取引の公正性を担保するとともに、市場参加者の信頼を確立するため、取引所の中立性・独立性の確保に向けて、取引所が規定する業務規程等の見直しを速やかに行います。
(ア) 市場取引監視委員会の権限の強化等
- 現行の規程において、不公正取引の判定や処分に係る決定権限については理事会に帰属し、市場取引監視委員会(中立的な有識者で構成される所内委員会)は理事会から諮問を受けた際にのみ意見を述べるに留まっている点について、当該決定権限を市場取引監視委員会に帰属させることとします。
- 市場取引監視委員会が、理事会からの諮問がなくとも、委員会自らの発意によって、情報収集や調査分析など市場監視に必要な活動を行えることを規程で担保します。
- 市場監視担当部署からの不公正取引等に係る報告先から、理事会を除外します。
(イ) 個別事業者に係る事案における決定プロセスの見直し
- 会員の資格審査や違約(預託金納入義務違反等)の処分等、個別事業者に係る事案の決定については、取引会員に属する理事・監事を構成員に含む理事会での取扱を止め、中立者である理事長が行うこととします。また、理事長が理事会に付議することが適当と判断した場合も、取引会員に属する理事・監事が個別事業者に係る当該議事に関与しないことを規程で担保します。
② 市場監視業務等に係る体制の拡充等
市場監視業務を遂行する体制の強化の観点から、人的リソースの拡充を図った上で、市場監視に関する部署を独立させる方向で組織体制の見直しを行います。
なお、市場監視の他、先渡等のヘッジ市場の活性化や時間前市場の在り方などの課題への対応、参加者ニーズに応じた市場や商品の見直し、公開情報の充実、ガバナンスの中立性・独立性の向上、ITシステムの信頼性向上などの取組全般に対応するため、事務局の増員を含めた組織体制の強化等の取組を計画的に進めてまいります。
(6)容量市場の創設
かつての総括原価方式の枠組みの下では、発電投資は規制料金を通じて安定的に回収されてきました。総括原価方式と規制料金の枠組みによる投資回収の枠組みがない中では、原則として、発電投資は市場取引を通じて、または市場価格を指標とした相対取引の中で投資回収されていく仕組みに移行していくと考えられます。このため、固定価格買取制度の対象となる再生可能エネルギー電源を除けば、大部分の電源に係る投資回収の予見性は、従来の総括原価方式下の状況と比較して、低下すると考えられます。
また、固定価格買取制度等を通じて、再エネが拡大することになれば、従来型電源の稼働率が低下するとともに、再エネ電源が市場に投入される時間帯においては市場価格が低下し、全電源にとって売電収入が低下すると考えられます。その結果、電源の将来収入見通しの不確実性が高まり、事業者の適切なタイミングにおける発電投資意欲をさらに減退させる可能性があります。
今後、仮に電源投資が適切なタイミングで行われなかった場合、電源の新設やリプレース等が十分になされない状態で、既存発電所が閉鎖されていくこととなります。そのような場合には、中長期的に供給力不足の問題が顕在化し、さらに電源開発に一定のリードタイムを要することから、①需給がひっ迫する期間にわたり、電気料金が高止まりする問題や、②再エネをさらに導入した際の需給調整手段として、必要な調整電源を確保できない問題等が生じると考えられます。
こうした状況を踏まえると、単に卸電力市場(kWh価値の取引)等に供給力の確保・調整機能を委ねるのではなく、一定の投資回収の予見性を確保する施策である容量メカニズムを追加で講じ、電源の新陳代謝が市場原理を通じて適切に行われることを通じて、より効率的に中長期的に必要な供給力・調整力が確保できるようにすることが求められます。
貫徹小委中間とりまとめにおいては、こうした観点から検討を進めた結果、一定量の供給力を確保することができる「容量市場」は、①予め必要な供給力を確実に確保することができること、②卸電力市場価格の安定化を実現することで、電気事業者の安定した事業運営を可能とするとともに、電気料金の安定化により需要家にもメリットがもたらされること、③再エネ拡大等に伴う売電収入の低下は全電源に影響していること等を踏まえると、最も効率的に中長期的に必要な供給力等を確保するための手段であるとされました。
また、こうした措置は、投資回収の予見性を高めるための措置であり、必要な電源投資等のための総コストは変わらない、もしくはリスクプレミアム等の金利分が減少することから、中長期的に見た小売事業者の負担はむしろ抑えられると評価されています。
ほとんどの自由化先進国において、前述した意義に基づき、容量メカニズム等の投資回収の予見性を高める施策が措置されています。一般に、容量メカニズムは供給信頼度確保を目的として導入され、容量市場は、中長期的に必要な供給力を確保する観点からは、他の同種の制度よりも、より良いと考えられています。
制度検討作業部会においては、貫徹小委中間とりまとめを受け、容量市場の詳細制度設計について、本作業部会におけるヒアリングや、広域機関における検討も踏まえつつ、検討を行い、2024年度における必要供給力を確保するため2020年7月に初回メインオークションを行いました。2020年9月には約定結果が公表され、その検証を踏まえた上で、第2回オークションに向けて、①安定供給に必要な供給力を確実に確保しつつ、②適切に価格形成が行われ、③2050年カーボンニュートラル宣言に整合的となるような制度見直しを進めています。
【第361-4-4】容量市場創設後の収入
- 出典:
- 経済産業省作成
(7)非化石価値取引市場の創設に向けた検討
「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(平成21年法律第72号)」(以下、「高度化法」という。)により、小売電気事業者は、自ら調達する電気の非化石電源比率を2030年度に44%以上にすることが求められています。
しかし、卸電力取引所では、非化石電源と化石電源の区別がされないため、非化石電源の持つ価値が埋没し、非化石電源比率を高める手段として活用ができません。結果、取引所取引の割合が比較的高い新規参入者にとっては、非化石電源を調達する手段が限定される状況になっており、高度化法の目標達成が困難な面があります。
このような状況を踏まえ、新たな市場である非化石価値取引市場を創設することによって非化石価値を顕在化し、取引を可能とすることで、小売電気事業者の非化石電源調達目標の達成を後押しするとともに、需要家にとっての選択肢を拡大することとされました。またFIT非化石証書の売上については、FIT賦課金の低減に充てることとされ、これにより、FIT制度による国民負担の軽減を促すこととされました。
FIT電気に由来する非化石証書(FIT非化石証書)の取引については、2018年5月に初回オークションを、また、FIT電気以外の再生可能エネルギー等の電気に由来する非化石証書(非FIT非化石証書)の取引についても、2020年11月に初回オークションを開始し、四半期に一度の頻度でオークションを実施しています。これにより、非化石価値を有する電気については、全量証書化されることとなりました。
なお、本市場の創設に当たっては、上記の制度趣旨を踏まえ、非化石価値を顕在化し、その価値に適切な評価を与えることができるよう、以下のとおり、非化石証書の有する環境価値と、需要家にとっての選択肢拡大という非化石証書の主な役割について基本的な考え方を整理しました。
①非化石証書の有する環境価値
電気の持つ環境価値としてはいくつかの概念が考えられますが、①非化石価値(高度化法上の非化石比率算定時に非化石電源として計上できる価値)以外に、②ゼロエミ価値(CO2排出係数が0kg-CO2/kWhであることの価値)や③環境表示価値(小売電気事業者が需要家に対しその付加価値を表示・主張する権利)が主なものとして挙げられます。
非化石証書の購入者は販売する電気に非化石証書を使用することで、こうした価値を需要家に訴求することができます。電力の小売営業に関する指針において、電源構成表示に関しては、実際に受電した電源の構成を表示するとの整理がなされており、非化石証書を使用しても電源構成は変わらない点に留意が必要ですが、同指針において、再エネ由来の証書に関しては、電源種に応じて「再エネ100%」又は「実質再エネ100%」といった環境価値を表示することは許容することとしています。
②需要家の選択肢の拡大
証書を購入した小売電気事業者は、環境価値を電気とともに需要家に販売することが可能となります。非化石証書には、再生可能エネルギーの電気に由来する再エネ指定の非化石証書と、再生可能エネルギー以外の非化石電源の電気に由来する指定無し証書の2種類が存在します。例えば、再エネの推進に貢献したいと考える需要家は、数ある料金メニューから、こうした小売電気事業者が提供する再エネ指定の非化石証書を活用した環境価値付きのメニューを選択することで、実際に貢献することが可能となります。需要家のニーズが高ければ、非化石価値取引市場が積極的に活用され、小売電気事業者のサービス多様化が図られることが期待されます。
なお、2019年2月のオークションから、非化石証書に発電所情報等を付与した証書を調達できるよう、実証実験を開始しており、2020年度のオークションについても、この実証実験を継続して実施しました。
【第361-4-5】市場創設効果(イメージ)
- 出典:
- 経済産業省作成
5.送配電分やに関する取組
(1)送配電事業の監視
① 一般送配電事業者等の業務及び経理の監査
一般送配電事業者及び送電事業者の業務及び経理の監査
電力・ガス取引監視等委員会は、電気事業法第105条の規定に基づき、一般送配電事業者及び送電事業者(以下、本項目において「一般送配電事業者等」という。)13者の2018事業年度の業務及び経理について監査を行いました。
監査対象事業者
①一般送配電事業者
北海道電力、東北電力、東京電力パワーグリッド、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力及び沖縄電力
②送電事業者
電源開発、北海道北部風力送電及び福島送電
監査の実施に当たっては、監査対象事業者から事前に報告徴収した監査資料に基づき、実地監査又は書面監査の方法により実施しました。
2019年度監査においては、主な重点監査項目として、託送料金に係る事後評価に際し、託送収支計算書を基に実施することから、昨年度に引き続き、社内取引に係る収益及び費用計上が適切に行われているか「託送供給等収支」を重点的に確認しました。また、工事費負担金の分割払いが認められる基準が整理・明確化されたこと等を踏まえ、工事費負担金の清算が適切に行われているかなど「約款の運用等及び託送供給等に伴う禁止行為」を重点的に確認しました。
2019年度において実施した監査の結果、4事業者において7件の指摘事項がありました。これについては、電気事業法第66条の12に基づく一般送配電事業者等に対する勧告並びに電気事業法第66条の13に基づく経済産業大臣への勧告を行うべき事項は認められませんでしたが、所要の指導を行いました。
②送配電事業者の業務実施状況の監視
電力・ガス取引監視等委員会は、必要に応じて電気事業法に基づく報告徴収を行い、送配電事業者の業務実施状況を把握・分析するとともに、問題となる行為等が見られた場合にはその是正や再発防止をはかるよう指導しています。
2019年4月1日~ 2020年3月31日までの期間においては、工事費負担金の精算を適正に行うよう指導したといった例がありました。なお、送配電事業者の業務実施状況において、業務改善勧告に至るような事案はありませんでした。
(2) 一般送配電事業者の収支状況(託送収支)の事後評価
我が国の電力系統を取り巻く事業環境は、人口減少や省エネルギーの進展等により電力需要が伸び悩む傾向にある一方で、再生可能エネルギーの導入拡大による系統連系ニーズや経済成長に応じて整備されてきた送配電設備の高経年化への対応が増大するなど、大きく変化しつつあります。
こうした事業環境の変化に対応しつつ、将来の託送料金を最大限抑制するため、一般送配電事業者においては、経営効率化等の取組によりできるだけ費用を抑制していくとともに再生可能エネルギーの導入拡大や将来の安定供給等に備えるべく、計画的かつ効率的に設備投資を行っていくことが求められます。
以上のような問題意識の下、料金審査専門会合(2020年7月に改組され、現在は「料金制度専門会合」という。)において、託送料金の低廉化と質の高い電力供給の両立を促すべく、2019年度の託送収支や経営効率化に向けた取組等を分析・評価(全10者の状況を分析した上で、北陸電力送配電、関西電力送配電、中国電力ネットワーク及び沖縄電力の4社からヒアリングを実施)しました。
この結果を踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣に対し、電気事業法に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等(平成12・05・29資第16号)第2(14)に照らし、託送供給等約款の変更認可申請を命じることが必要となる事業者はいなかった旨回答しました。
<料金制度専門会合の取りまとめ内容(抜粋)>
①はじめに
我が国の電力系統を取り巻く事業環境は、人口減少や省エネルギーの進展等により電力需要が伸び悩む傾向にある一方で、再生可能エネルギーの導入拡大による系統連系ニーズや経済成長に応じて整備されてきた送配電設備の高経年化への対応が増大するなど、大きく変化しつつある。
こうした事業環境の変化に対応しつつ、将来の託送料金を最大限抑制するため、一般送配電事業者においては、経営効率化等の取組によりできるだけ費用を抑制していくとともに、再生可能エネルギーの導入拡大や将来の安定供給等に備えるべく、計画的かつ効率的に設備投資を行っていくことが求められる。
以上のような問題意識の下、電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合は、託送料金の低廉化と質の高い電力安定供給の両立を促進すべく、一般送配電事業者の収支状況等の事後評価を実施するとともに、この中で、2023年度より導入する新託送料金制度(レベニューキャップ制度)の設計・運用の参考とする観点から、各社の事業状況(経営効率化や高経年化対策等)について議論した。
なお、今回の事後評価に際しては、北陸電力送配電、関西電力送配電、中国電力NW、沖縄電力、関西電力調達等審査委員会、東京電力HDからヒアリングを実施した。
②2019年度の収支状況等の事後評価の結果概要
(ア)託送収支の状況(全10社)
(ⅰ)法令に基づく事後評価
2019年度の当期超過利潤累積額について、変更認可申請命令(値下げ命令)の発動基準となる一定の水準を超過した事業者はいなかった(ストック管理)。また、想定単価と実績単価の乖離率について、変更認可申請命令の発動基準となる一定の比率を超過した事業者はいなかった(フロー管理)。東京電力PGについては、2017年度収支から廃炉等負担金を踏まえて厳格な基準が適用されることとなったが、当該基準に達していなかった。
(ⅱ)収支全体について
収入面については、節電・省エネ等により電力需要が減少したため、沖縄を除く9社において、実績収入が想定原価を下回った。特に、北海道、関西、四国は5%以上減少となった。
費用面については、北海道、東北、北陸、沖縄の4社において、主に人件費・委託費等の増加により、実績費用が想定原価を上回った一方で、東京、中部、関西、中国、四国、九州の6社においては、主に設備関連費の減少により、実績費用が想定原価を下回った。
この結果、2019年度の託送収支においては、中部、九州を除く8社で当期超過利潤がマイナス(当期欠損)となった。
なお、実績費用が増加した4社中2社(北海道、北陸)においても、設備関連費は想定原価を下回っている。一般送配電事業者は、収入が減少又は横ばいとなる中で、総じて人件費・委託費が維持・増加し、設備関連費が減少している。
(ⅲ)人件費・委託費等について(OPEX:運営的費用)
人件費・委託費等には、給料手当、システム開発に係る委託費等の費目が含まれる。
2019年度は、前年度と同様、東京を除く9社で実績費用が想定原価を上回り、このうち、東北、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄の7社については、主に給料手当水準の差による給料手当の増加や、それに伴う厚生費の増加、システム改修に伴う委託費の増加等により、想定原価から10%以上上回っていた。
人件費・委託費等については、こうした上昇要因を踏まえると単価の大幅な引下げは難しいと考えられるが、そうした状況においても引き続き効率化を追求していくべきである。
(ⅳ)設備関連費について(CAPEX:資本的支出)
設備関連費には、修繕費、減価償却費等の費目が含まれる。
2019年度は、前年度と同様、東北、沖縄を除く8社で実績費用が想定原価を下回り、このうち、東京、中部、関西、中国、九州については、修繕費や減価償却費の減少により想定原価から10%以上下回っていた。
修繕費については北陸、四国、沖縄を除く7社で、減価償却費については東北を除く9社で、想定原価を下回っていた。なお、北海道、北陸、関西、中国の4社においては、減価償却方法を定率法から定額法に変更したことによる減価償却費の減少が見られたが、効率化施策による費用削減の効果と峻別するためにも、各社切り分けて検証することが望ましい。
各社においては、引き続き、調達合理化や延伸化措置等によるコスト削減に取り組みつつも、費用削減のみを目的として、再生可能エネルギーの導入拡大やレジリエンス、安定供給等に必要となる設備投資が繰り延べられるようなことがあってはならない。
(イ) レベニューキャップ制度導入を見据えた取組状況(4社)
一般送配電事業者における必要な投資の確保とコスト効率化を両立させ、再エネ主力電源化やレジリエンス強化等を図ることができるよう、現在、資源エネルギー庁と電力・ガス取引監視等委員会において、レベニューキャップ制度の詳細設計が進められている。
レベニューキャップ制度においては、規制期間開始時に、一般送配電事業者は、国が示した指針に沿って、一定期間に達成すべき目標を明確にした事業計画の策定や収入上限の算定を行うこととなる。また、規制期間終了時には、事業計画の達成目標の状況を評価、規制期間中の収入上限と実績収入及び実績費用の差額を調整すること等により、翌期規制期間の収入上限の算定を行うなど、詳細設計の検討が進んでいるところ。
今回の事後評価では、レベニューキャップ制度の導入を見据え、その設計・運用の参考とする観点から、4つのヒアリング項目を設定し、4社(北陸電力送配電、関西電力送配電、中国電力NW、沖縄電力)からヒアリングを実施した。
(i)中長期の設備投資計画と設備投資費用イメージ
●ヒアリング趣旨
レベニューキャップ制度においては、レジリエンス向上や再エネ主力電源化の観点から、必要な投資を着実に行うことを制度の狙いとしている。それを踏まえ、今後中長期的に各社が計画している設備投資について、費用見通しを確認した。
●ヒアリング結果
各社の主要5品目(鉄塔、架空送電線、地中ケーブル、変圧器、コンクリート柱)における中長期(10年)の設備投資計画(拡充及び改良)について確認をしたところ、拡充投資については、今後、再エネ導入の拡大が進む一方で、需要の伸びの鈍化の影響もあり、レベニューキャップ制度が導入される2023年度以降も各社横ばいの傾向にあった。また、改良投資については、高経年化対応による改良工事物量が増加することに伴い、各社いずれも増加傾向にあった。
一般送配電事業者においては、現在、電力広域的運営推進機関で議論されている設備毎の故障確率や故障影響度を考慮したリスク評価を行うアセットマネジメントシステムを導入し、高経年化に伴う改良物量の増加や施工力の平準化を加味して中長期の設備投資計画を策定することで、工事物量の平準化やコスト最適化を図りながら、合理的な設備投資を行うことが求められる。
また、合理的な設備投資の実現に当たっては、施工力の確保も重要な課題。北陸電力送配電からは、北陸エリアの送配電工事会社と「Eリーグ北陸」という企業グループを立ち上げ、インターンシップや就職説明会の場で、パンフレットや映像等を活用して説明するとともに、若手従事者を対象に「キャリアアップ研修会」を開催することで従業員間の連帯感を深めるなど、送配電工事従事者の確保・定着に向けた活動を行っており、この取組の成果として「Eリーグ北陸」の発足前と比較して、工事従事者数が1割程度増加していることが紹介された。一般送配電事業者としても、引き続き、業界全体としての施工力確保の取組に貢献していくことが望まれる。
レベニューキャップ制度では、一般送配電事業者において、達成すべき目標を明確にした設備投資計画の実施に必要な費用を見積もって収入上限を算定し、国がその見積費用の適正性を査定することになる。この査定に当たっては、再生可能エネルギーの拡大やレジリエンス、安定供給の観点から、必要な投資量が確保されているかの確認に加え、コスト効率化の観点から、統計査定なども用いて事業者間比較などによる効率的な単価・費用の算定を行うことができるよう、必要な制度設計を進めていくことが求められる。
(ii)設備投資計画の実施状況
●ヒアリング趣旨
レベニューキャップ制度においては、外生的な要因による費用変動や、一般送配電事業者が計画した投資量に未達成があった場合、翌規制期間の収入上限において当該費用を調整する方向で検討を進めている。それを踏まえ、過去3年間において、設備拡充投資及び設備改良投資について、各年度の計画と実績がどのような要因で、どの程度乖離したかを確認した。
●ヒアリング結果
過去3年間における各社の拡充投資については、設備投資額の実績値が当初計画値を下回る傾向であった。ただし、その要因は、用地交渉等の難航や、供給申込の延期・中止等、一般送配電事業者にとっては外生的な要因によるものが多いことが示された。
また、改良投資についても同様に、外生的な要因により、全体では設備投資額の実績値が当初計画値を下回る傾向にあった。
他方で、設備によっては、その劣化状況や工事会社の施工力を踏まえつつ、後年工事の効率化も見据え、必要な工事の前倒しを実施するケースもあるなど、設備投資量の実績が計画を上回るケースも見られた。
レベニューキャップ制度においては、期初において精緻な計画策定を求めるとともに、効率化に資する設備投資の前倒しなどについても、計画変更を通じて柔軟に収入上限に反映できるよう、制度設計を進めていくことが求められる。
(iii)経営効率化の実施状況
●ヒアリング趣旨
レベニューキャップ制度導入後においても同様に、一般送配電事業者は託送料金の低廉化を促進すべく、不断な経営効率化に取り組む必要があることから、調達の工夫や、工法の工夫等の各社の取組状況を確認した。
●ヒアリング結果
ヒアリング対象事業者4社における経営効率化の取組状況を確認したところ、物量と単価の両面から費用を抑えるという基本的な考えが示され、その具体的な取組事例が紹介された。具体的には、
- RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入により、業務量を削減
- インターネットを用いたリアルタイム映像中継システム導入により、送電線工事現場の確認検査のための現地出動回数を低減
- 他社と多くの品目について共同調達を積極的に行うことによる、調達の効率化取組
などの効率化取組が多く紹介された。こうした各社の費用削減に向けた取組はコスト効率化の観点から一定の評価ができ、一般送配電事業者においては、今回紹介された新たな取組事例も参考に、更なる効率化やコスト削減に向けて様々な取組を進めていくことを期待する。
また、今回の事後評価では、各社の経営効率化に向けた体制や方向性が示され、例えば、中国電力NWからは「全社的な経営目標(経営ビジョン2030)」について説明があり、「送配電事業の強化」、「新規事業の展開」、「地域活性化への貢献」の3つの柱に取り組むことにより、地域社会とともに発展する企業を目指すということが示され、関西電力送配電からもアンケートによる顧客満足度調査等を実施し、地域社会の皆様の声を吸い上げながら事業を行っていることが紹介された。一般送配電事業者においては、社会に対して果たすべき役割を意識しながら、広い視点で取り組むことが期待される。
今後、再生可能エネルギー電源等の系統連系ニーズの増加や高経年化への対応など、送配電設備に関する費用上昇が見込まれる。今回は、送配電部門全体としての効率化の実績や見通し・目標について定量的に示した事業者は関西電力送配電と中国電力NWに限られたが、一般送配電事業者においては、公共性のある財・サービスの提供を独占的に担う立場から、中長期的なコスト削減目標を掲げて、効率化に向けた自社の対応や取組の全体像を具体的かつ定量的に説明していくことが期待される。
(iv) レベニューキャップ制度における設定目標に対する取組
●ヒアリング趣旨
現在、レベニューキャップ制度においては、一般送配電事業者が社会的便益の最大化を目指す観点から一定期間に達成すべき『目標』の設定に向けて、検討が進んでいる。これを踏まえ、レベニューキャップ制度における設定目標(「安定供給」、「再エネ導入拡大」、「サービスレベルの向上」、「広域化」、「デジタル化」、「安全性・環境性への配慮」などを予定)について、ヒアリング事業者の現状を聴取し、実態把握を行った。
●ヒアリング結果
「安定供給」の指標の1つである停電回数・停電時間について確認したところ、北陸電力送配電、関西電力送配電、中国電力NWの停電回数・停電時間は、大規模災害といった要因を除くと低水準で安定していた。一方で、沖縄電力は台風常襲地域のため、災害に起因する停電回数・停電時間が多いが、停電量低減に向けた取組として、自治体を含む関係者との連携による迅速な復旧体制の構築、一般送配電事業者共同の連携訓練を実施していること等が紹介された。また、関西電力送配電からは、災害時連携計画を策定し、10社共同訓練において、被災エリアの資材を用いて「仮復旧工法」の実効性を確認したとの紹介があった。一般送配電事業者においては、災害時における電力の早期復旧を果たすことはもちろん重要であるが、設備の仕様統一化にも並行して取り組むことが求められる。
「再エネ導入拡大」に向けては、発電予測精度向上を目的とし、気象モデルの活用に係る社内検討会が行われており、また、新規再エネ電源の早期かつ着実な連系に向けて、回答期限の日程管理のシステム化や、マニュアル整備といった取組が紹介された。
「サービスレベルの向上」に向けては、アンケートを用いて顧客満足度を調査して更なる満足度向上を図っており、また、停電情報自動応答システム導入等により、停電時のタイムリーな情報提供を通じた顧客サービスレベルの向上といった取組が紹介された。
「広域化」に向けては、架空送電線、ガス遮断器、地中ケーブルについて、仕様統一化や調達改革に向けた調達改革ロードマップを策定し、全10社による仕様統一化に向けた調整が完了したこと、さらに、ガス遮断器については共同調達を実施したことが報告された。
「デジタル化」に向けては、作業効率化の観点から、ドローンを用いた送配電設備の巡視・点検の実装に向けた実証が進められており、また、電圧・電流等の計測を可能とするセンサー開閉器の導入を進めることで、適正電圧維持の高度化を進めていることなどが紹介された。
「安全性・環境性への配慮」に向けては作業員の安全性向上のための器具等の開発・導入事例や、環境対策に向けた各種取組(PCB廃棄物の処理方法、SF6ガス絶縁機器の導入によるSF6ガス漏出量の低減など)が紹介された。施工力確保の観点からも、一般送配電事業者においては、作業員の安全性の確保に、より一層取り組む必要がある。
以上のことから、新託送料金制度において設定が見込まれる各種目標に対して、現時点において、各社ともに、問題意識をもって主体的に取り組んでいることが確認できた。
(ウ)関西電力調達等審査委員会の活動状況
関西電力の社内に設置された調達等審査委員会の活動状況を確認したところ、関西電力は、工事の発注・契約手続等の適切性、透明性確保のため、外部の専門家で構成される「調達等審査委員会」を設置し、社内規程に基づき業務が適切に執行されているかの審査を行い、必要に応じて業務所管部門へ指導・助言するとともに、審査概要を公開していることを確認した。
また、調達等審査委員会における取組内容や評価結果に対する理解促進のため、本委員会の審議結果について、補足・解説を加え、関西電力及び関西電力送配電の社内サイトに掲載し、全従業員に対する周知を行っていることも確認した。
さらに、関西電力及び関西電力送配電の全従業員を対象に、工事の発注・契約手続等に係る社内規程の制定・改正内容の理解促進等を目的として、eラーニングを実施していることも確認した。
以上のような取組を継続・深化することにより、工事の発注・契約手続等に係る不適切な運用を二度と起こすことがないよう、期待したい。
なお、他の一般送配電事業者においては、今回説明された調達等審査委員会の活動状況を参考に、望ましい取組として、取り入れられるものは取り入れていただくことを期待したい。
③おわりに
今回の事後評価の結果を踏まえ、①一般送配電事業者においては、再生可能エネルギーの拡大や安定供給の確保など、将来に向けた投資をしっかり確保すると同時に、更なるコスト削減を促進することが重要となる。また、②資源エネルギー庁と電力・ガス取引監視等委員会においては、一般送配電事業者における必要な投資の確保とコスト効率化を両立させ、再生可能エネルギー主力電源化やレジリエンス強化等を図ることができるよう、レベニューキャップ制度の詳細設計を進めていくべきである。
(3) 調整力の調達・運用状況の監視及びより効率的な確保等に関する検討
① 調整力公募の結果及び調整力の運用状況の監視と情報公表
一般送配電事業者による調整力の公募調達は、発電事業者等の競争の結果として、コスト効率的な調整力の調達や電力市場全体としての調整力の増大を実現するための仕組みです。しかしながら、現状、調整力として提供可能な旧一般電気事業者以外が保有する電源等が多く存在しているとは言い難く、このような状況を改善し、競争を促進していくためには、公募調達が透明性をもって行われるとともに、潜在的な応札者に対して適切な情報提供を行うことで、発電事業者等の入札参加への円滑化と拡大を図ることが必要です。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、調整力公募調達結果を分析し、旧一般電気事業者の入札行動に問題となる点がないか、また、一般送配電事業者による調整力の運用が、容量(kW)価格や電力量(kWh)価格に基づき適切に運用されているか監視を行いました。
以上の調整力の公募調達結果及び調整力の運用状況(調整力の電力量価格及び電力量)について、制度設計専門会合及び電力・ガス取引監視等委員会のホームページに公表しました。
② 三次調整力②及び電源I’の広域調達における連系線確保量の上限を提示
2021年度から開設される需給調整市場では、当初は一部商品(三次調整力②)のみの取引が行われ、2022年度以降、段階的に商品が拡充します。調整力を広域調達するためには、調達した調整力が確実に活用できるよう地域間連系線の容量を確保する必要があり、その上限をどのように設定するか市場開始前に決めておく必要があります。また、上限値の設定に当たっては、卸電力市場への影響とバランスを考慮する必要があります。
このため、制度設計専門会合では、2021年3月に2021年度から取引が開始される三次調整力②の連系線確保量について、広域調達による三次調整力②への影響と卸電力市場(時間前市場)への影響の経済メリット等を評価して、社会コストが最小となるような三次調整力②の連系線確保量の上限値を提示しました。
同様に、2020年6月の制度設計専門会合において、2020年度から隣接エリアからに限定した広域調達、広域運用が実施されている電源Ⅰ’に対し、2021年度向けに確保すべき連系線確保量について議論し、その確保すべき上限値を提示しました。
③ 調整力公募ガイドラインにおける逆潮流アグリケーションの取扱いの検討
調整力公募に関する基本的な考え方を整理した「一般送配電事業者が行う調整力の公募調達に係る考え方」(以下「調整力公募ガイドライン」という。)では、電源は原則としてユニット単位で応札することとしており、複数の発電ユニットを組み合わせて応札することは認められていません。
他方、分散型リソース(蓄電池、コージェネレーション等)の普及や技術進歩を背景に、複数の電源等を組み合わせる逆潮流アグリゲーションを調整力として活用するニーズが拡大しました。
現状の調整力公募において、旧一般電気事業者以外からの応札が少ないことから、競争促進の観点からも、新たなリソースの参入を可能とすることは重要と考えられます。
以上を踏まえ、2021年1月の制度設計専門会合において、調整力公募ガイドラインにおける逆潮流アグリゲーションの取扱いについて議論を行い、調整力に求められる確実性や透明性及び発電事業者の規模による公平性を確保しつつ、一定の要件を設けた上で調整力への入札を認めるよう、今後、調整力公募ガイドラインを見直すことを決定しました。
④需給調整市場の創設
一般送配電事業者が電力供給区域の周波数制御、需給バランス調整を行うために必要な調整力を調達するに当たっては、特定電源への優遇や過大なコスト負担を回避しつつ、実運用に必要な量の調整力を確保することが重要となります。
このような観点から、一般送配電事業者による調整力の公募が2016年から実施されることとなり、ディマンドリスポンス(DR)等の調整力も調達されるようになっています。
貫徹小委中間とりまとめにおいては、今後、公募結果を踏まえつつ、需給調整市場の詳細設計を行い、一般送配電事業者が調整力を市場で調達・取引できる環境を整備することが適当であるとされました。また、電力システム改革専門委員会報告書においても、系統運用者が供給力を市場からの調達や入札等で確保した上で、その価格に基づきリアルタイムでの需給調整・周波数調整に利用するメカニズムを送配電部門の一層の中立化に伴い導入することが適当であると記載されています。
諸外国においても、需給調整市場を開設し、調整力を市場の仕組みを活用して前週や直前に調達しています。同時に、欧米においては需給調整の広域化にも取り組んでおり、例えば欧州は卸電力市場の広域統合から需給調整市場の広域統合へと、ルール・プラットフォームの整備を進めています。
我が国においても、再エネの導入が進む中で、調整力を効率的に確保していくことは重要な課題です。調整力公募は一部の調整力を除き各エリアの一般送配電事業者がエリア内の調整力のみを調達していますが、効率的に調整力を調達するためには、エリアを超えて広域的に調整力を確保することも課題となっています。他方で、各一般送配電事業者のシステムは、現状において、広域的な調整力の市場調達やその運用を前提として構築されておらず、こうしたシステムの改修や、実運用の変更を、日々の需給調整に支障を生じさせない形で行うためには、ルール検討やシステム構築を慎重に行っていく必要があります。
現在、制度検討作業部会や広域機関の委員会において、需給調整市場の詳細設計が進められており、2021年からは再生可能エネルギー予測誤差に対応する調整力が、2024年までには全ての調整力が需給調整市場を通した調達に切り替わる予定です。また各一般送配電事業者のシステム改修にむけた検討や調整力の広域運用に向けた準備も並行して進められています。
【第361-5-1】需給調整市場の概要
- 出典:
- 経済産業省作成
(i) 調整力の広域調達に必要な地域間連系線の容量確保の検討
2021年度から需給調整市場を通した調整力の広域調達が開始されると、調達された調整力が確実に活用できるよう事前に地域間連系線の容量を確保する必要があります。
そこで、電力・ガス取引監視等委員会では、2021年3月の制度設計専門会合において、2021年度から取引が開始される再生可能エネルギー予測誤差に対応する調整力の広域調達に係る地域間連系線の確保量について議論を行い、2021年度における当該調整力の地域間連系線の確保上限量を決定しました。
(ii)需給調整市場の監視及び価格規律の在り方の検討
需給調整市場における競争が十分でない場合、市場支配力を有する事業者が市場支配力を行使し、不当に高い入札価格等を設定することにより、不当な利益を得るといったことが起こり得ます。こうしたことを踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会では、制度設計専門会合において、2019年12月から2020年12月まで8回にわたり需給調整市場の監視及び価格規律の在り方について議論を積み重ね、2020年12月に「需給調整市場において適正な取引を確保するための措置について」を取りまとめました。
この取りまとめでは、需給調整市場において不適正な取引を防止するため、電気事業法に基づく業務改善命令等の事後的な措置を講ずることに加え、市場支配力を有する可能性の高い事業者には一定の規律に基づいて入札を行うことを要請する事前的措置を講ずることとされました。このため、2021年3月に「適正な電力取引についての指針」を改定しました。
⑤需給調整市場の監視及び価格規律の在り方の検討
一般送配電事業者が調整力として活用する電源等は、現在は、各一般送配電事業者がエリア毎に公募を実施し調達を行っていますが、2021年度以降は、需給調整市場が開設され、調整力は市場を通じ、エリア間をまたいだ広域での調達が行われることとなります。また、調整力の運用については、2021年度から、実需給の前に予測されたインバランスに対して、9エリアの広域メリットオーダーに基づく調整力の広域運用が開始されます。
このため、調整力の広域調達及び広域運用において、主に旧一般電気事業者9者間での競争が期待されるところ、調整力の調達に係る入札価格(調整力ΔkW価格)及び運用に係る登録価格(調整力kWh価格)について、原則自由ということでよいか等を整理する必要がありました。
以上を踏まえ、制度設計専門会合において、2019年12月より、需給調整市場の監視及び価格規律の在り方について検討を行い、2020年12月に「需給調整市場において適正な取引を確保するための措置について」を取りまとめました。
この取りまとめでは、需給調整市場において不適正な取引を防止するため、電気事業法に基づく業務改善命令等の事後的な措置を講ずることに加え、市場支配力を有する可能性の高い事業者には一定の規範に基づいて入札を行うことを要請する事前的措置を講ずることとされました。このため、電力・ガス取引監視等委員会は、2021年3月に「適正な電力取引についての指針」の改定及び「需給調整市場ガイドライン」の制定について、経済産業大臣に対して建議を行いました。
それを踏まえ、2020年3月30日、「適正な電力取引についての指針」の改定及び「需給調整市場ガイドライン」の制定を行いました。
(4) インバランス料金制度の運用状況の監視及び2022年以降のインバランス料金制度の詳細設計
①インバランス料金制度の運用状況を踏まえた制度改正
計画値同時同量制度において、小売電気事業者と発電事業者は、1日を48コマに分割した30分単位のコマごとにそれぞれ需要と発電の計画を策定することとなっています。これらの計画と実績のずれ(インバランス)については、一般送配電事業者が発電事業者等から公募により調達した電源等(2021年度からは需給調整市場での調達が開始される)を用いて調整を行い、その費用については、小売電気事業者と発電事業者からインバランス料金として回収します。このように、インバランス料金は実需給における電気の過不足の精算価格となっていますが、同時に卸電力取引における価格シグナルのベースにもなっています。
2020年2月23日に系統余剰であったにもかかわらずインバランス料金が高騰するという事象があったことから、電力・ガス取引監視等委員会では、その原因を分析し、インバランス料金の算定方法について速やかな改正を資源エネルギー庁に提言しました。それを踏まえ、2020年6月にインバランス料金の算定諸元である系統全体の需給状況に応じた調整項について、その下限値を撤廃する等の省令改正を行いました。
2020年7月に災害等により電気の需給バランスが大きく崩れた場合においても、電力市場を通じて、分散型電源を含めた発電設備や、電力消費量を調整するディマンドリスポンスを積極的に活用するため、電力使用制限又は計画停電が実施されているエリアのインバランス料金は、制度設計専門会合における「2022年度以降のインバランス料金制度について(中間とりまとめ)」を踏まえ、それぞれ100円/kWh、200円/kWhとする等の省令改正を行いました。
さらに、2021年1月の卸電力市場における価格高騰に連動し、インバランス料金も過去最高価格まで高騰するなど高水準の価格が一定期間継続する事象が発生しました。こうした状況を踏まえ、市場参加者による電力の安定的な取引環境確保に向けた緊急的な対応として、2020年1月17日以降の電力供給分については、2022年4月から適用することとされていた、需給ひっ迫時のインバランス料金制度の見直しの一部を前倒し、インバランス料金の上限価格を200円/kWhとしました。
②2022年以降のインバランス料金制度の詳細設計
2022年度から開始予定の新たなインバランス料金制度について、制度設計専門会合において、2019年2月より、新たなインバランス料金制度の詳細設計に着手し、2020年3月に中間取りまとめを行いました。その後、2020年6月及び7月に更に詳細な議論を要する事項について、検討を行いました。
また、新たなインバランス料金制度を踏まえた需給調整関連費用の回収方法及び収支管理の在り方について、2020年3月、7月及び9月の制度設計専門会合において議論を行い、2022年度以降のインバランス収支の過不足については、託送収支に繰り入れ、託送料金を通じて調整すること、一般送配電事業者は、需給調整業務の透明性を高めるため、当該業務の実施状況に関する情報を毎月、公表することが決定されました。
(5) 一般送配電事業者がスマートメーターにより計測された発電電力量(速報値)を発電契約者に提供する仕組みの整備
「2022年度以降のインバランス料金制度について(中間取りまとめ)」に対するパブリックコメント等において、事業者から、スマートメーターにより計測された地点毎の電力量(速報値)について、需要側だけではなく、発電側についても、一般送配電事業者から提供を受けたいという要望がありました。
これを受け、制度設計専門会合において、地点毎の発電電力量(速報値)の発電側への提供を、一般送配電事業者のサービスとして提供すべきかどうかについて議論を行いました。
この結果、第49回制度設計専門会合(2020年7月31日)において、需要電力量(速報値)を小売電気事業者(需要側)へ提供したのと同様に、一般送配電事業者のサービスとして、地点毎の発電電力量(速報値)を発電契約者1へ提供することとし、一般送配電事業者各者は、2022年度のできるだけ早期のデータ提供開始に向けてシステム設計の検討、システム改修、運用体制等の整備を進めることを決定しました。
(6) 託送料金における値下げ余地の縮小のより確実な防止
一般送配電事業者等において、仮に不適切な工事発注等による不当な支出増があった場合には、規制料金(経過措置料金及び託送料金)における超過利潤を減少させ、ひいては値下げ余地の縮小につながる可能性があります。
規制料金における値下げ余地の縮小をより確実に防止するため、以下のような仕組みを導入することが、電気の適正な取引の確保を図るために必要があると認められることから、「電気事業法(昭和39年法律第170号)」第66条の14第1項の規定に基づき、電力・ガス取引監視等委員会から経済産業大臣に建議を行いました。
それを踏まえ、2021年4月1日、以下の省令改正を行いました。
- ① 電気事業託送供給等収支計算規則(以下「計算規則」という。)を改正し、不適切な発注・契約による支出増については、託送料金に係る超過利潤の計算において費用として扱ってはならないことを明確にする(経過措置料金に係る超過利潤の計算も同様)。
- ② 今後は、監査及び事後評価において、改正された計算規則通り運用しているかどうかについても確認する。
(7) 新たな託送料金制度(レベニューキャップ制度・発電側基本料金)の詳細設計
①新たな託送料金制度の詳細設計
第201回通常国会において、「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」が成立し、新たな託送料金制度(収入上限を定期的に承認し、その範囲内で託送料金を設定するレベニューキャップ制度)が2023年度より導入されることとなりました。
新たな託送料金制度の詳細設計については、託送料金審査や事後評価を通じて専門的な知見を有する電力・ガス取引監視等委員会が積極的に関与していくことが必要であるとの観点から、2020年7月に開催された総合資源エネルギー調査会持続可能な電力システム構築小委員会において、電力・ガス取引監視等委員会と資源エネルギー庁が連携して行うものとされました。それを踏まえ、経過措置が講じられている電気の小売規制料金、託送料金の審査等をする場として設置された料金審査専門会合を、料金制度専門会合に改組し、2020年7月より託送料金制度の詳細設計の議論を開始しました。また、専門性の高い詳細な論点を議論するため、2021年1月に料金制度専門会合の下に料金制度ワーキンググループを設置し、検討を行っています。今後は2021年内をめどに取りまとめを行い、制度導入に伴い必要となる法令の整備等を進めていきます。
②発電側基本料金等の検討
制度設計専門会合では、2015年秋以降、効率性向上のための送配電網の維持・運用費用の負担の在り方について、電力システム改革の進展など電力市場を取り巻く環境変化を踏まえ、検討を進めてきました。2016年7月の第9回制度設計専門会合において、それまでの検討内容を踏まえ、論点整理を行いました。具体的には、①発電事業者の負担の在り方、②小売事業者の負担の在り方、③ネットワーク利用の効率化の推進、と論点を大きく3つに分け、また、それらは相互に深く関連することから、今後、一体として、引き続き関係者の意見も聴きながら検討を深めていくこととしました。
2016年9月、上記の各論点について検討を深めるため、制度設計専門会合の下に送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ(座長:横山明彦 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)が設置され、2017年6月、第6回会合において、今後の検討課題について示した「検討すべき論点」を公表しました。その後、2018年6月、全12回にわたる議論の結果を中間とりまとめとして公表するとともに、その内容を踏まえた今後の託送料金制度の見直しについて、経済産業大臣に対して建議を行いました。
中間とりまとめにおいては、人口減少や省エネルギーの進展等による電力需要の伸び悩み、再生可能エネルギーの導入拡大等による系統連系ニーズの拡大、送配電設備の高経年化に伴う修繕・取替等の増大など、電力系統を取り巻く環境変化に対応しつつ、託送料金を最大限抑制しつつ必要な投資を確保すべく、①送配電設備を利用する者の受益や送配電関連費用に与える影響に応じた公平、適切な費用負担の実現、②一般送配電事業者だけでなく、送配電設備の利用者である発電側・需要側両方に対して合理的なインセンティブが働く制度設計、といった2点を基本的な視座として、以下の4点を柱とする制度見直しの方向性を示しています。
ⅰ) 発電側基本料金の導入
- 現行の託送料金原価の範囲を変えないことを前提に、従来、小売電気事業者側(需要側)にのみ負担を求めていた託送料金の一部について、その受益に応じて発電側にも負担を求めること
ⅱ) 送配電関連設備への投資効率化や送電ロス削減に向けたインセンティブ設計
- 需要地近郊や既に送配電網が手厚く整備されている地域など、送配電網の追加増強コストが小さい地域の電源について発電側基本料金の負担額を軽減すること
ⅲ) 電力需要の動向に応じた適切な固定費の回収方法
- 送配電関連費用のうち固定費に関する部分に ついては、原則として基本料金で回収する方向で託送料金を見直すこと
ⅳ) 送電ロスの補填に係る効率性と透明性の向上
- 一般送配電事業者に送電ロスに係る情報の公表、送電ロスの削減に向けた取組を促すとともに、送電ロスの調達・補填主体を小売電気事業者から一般送配電事業者へ移行することを基本として検討を深めること
その後、2019年9月に開催された制度設計専門会合において、発電側基本料金は、2023年度に導入することを目指すこととしました。さらにその後、2020年7月に経済産業大臣から、再エネの効率的な導入を促進するため、基幹送電線利用ルールの抜本的な見直しを行う方針が示されたことを踏まえ、今後、発電側基本料金についても、それと整合的な仕組みとなるよう、見直しを進める方針としています。
(8) 自由化の下での財務会計面での課題解決に向けた取組
2016年4月の小売全面自由化以降、総括原価方式による料金規制の撤廃に伴い、電気事業の財務・会計上の特性にも変化が生じました。このため、電力分野の自由化を進めるに当たっては、これら制度変更に伴う課題として、一般の事業においては問題とならないような、例えば、制度変更により事後的に費用が増大する場合の対応費用をどのように回収するかが課題となり得ます。このため、財務・会計制度や負担の在り方について、具体的な措置の検討・審議を行うため、貫徹小委の下に「財務会計ワーキンググループ」を開催し、小売全面自由化の下での原子力事故に係る賠償への備えに関する負担や廃炉に係る会計制度の在り方に関する議論を行い、2017年2月に結果を取りまとめました。
取りまとめで示された方向性を踏まえ、財務会計面での課題解決に向け、2017年10月、2018年4月に制度改正を実施しました。
①原子力事故に係る賠償への備えに関する負担の在り方
東京電力福島第一原子力発電所の事故後、原子力事故に係る賠償への備えとして、従前から存在していた「原子力損害賠償法(昭和36年法律第147号)」に加えて新たに「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(平成23年法律第94号)」が制定され、現在、同法に基づき、原子力事業者が毎年一定額の一般負担金を原子力損害賠償・廃炉等支援機構に納付しています。原子力損害賠償法の趣旨に鑑みれば、本来、こうした万一の際の賠償への備えは、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から確保されておくべきでしたが、政府は何ら制度的な措置を講じておらず、事業者がそうした費用を料金原価に算入することもありませんでした。従来、総括原価方式の下で営まれてきた電気事業においては、一般の事業と異なり、将来的な費用増大リスクを見込んだ自由な価格設定を行うことはできず、料金の算定時点で合理的に見積もられた費用以外を料金原価に算入することは認められていませんでした。これは、規制料金の下では、全ての需要家から均等に費用を回収することとなるため、同じ電気を利用した需要家間では不公平は生じないということを前提として、その電気を利用した時点で現に要した費用(合理的に見積もられた費用)のみ料金原価への算入を認めるという考え方に基づいています。
しかし、2016年4月に小売が全面自由化され、新電力への契約切替えにより一般負担金を負担しない需要家が増加していることを踏まえ、賠償の備えを小売料金のみで回収するとした場合、過去に安価な電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担していくことになります。こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、全需要家が等しく受益していた賠償の備えについて、全ての需要家が公平に負担することが適当であり、また、そうした措置を講ずることが、福島の復興にも資するものとの考えに立ち、負担の在り方について、貫徹小委で検討を進めました。その結果、回収する金額の規模は、現行の一般負担金の算定方法を前提とすることが適当と考えられ、現在の一般負担金の水準をベースに、1kWあたりの単価を算定した上で、これを前提に、2010年度までの我が国の原子力発電所の毎年度の設備容量等を用いて算出した金額から、回収が始まる前の2019年度末時点までに納付した又は納付することになると見込まれる一般負担金の合計額を控除した約2.4兆円としました。回収方法については、電源構成に占める原子力の割合は供給区域ごとに異なる一方で、賠償の備えの負担は、過去の原子力の電気の利用に応じて行うべきものであることや、現状、一般負担金は小売規制料金に含まれ、供給区域ごとに異なる水準となっていること等を踏まえると、賠償の備えを国民全体で負担するに当たっては、特定の供給区域内の全ての需要家に一律に負担を求める託送料金の仕組みを利用することが適当と考えられました。
こうした検討を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から確保されておくべきであった賠償の備えを託送料金で回収する仕組みを可能とする制度改正(電気事業法施行規則の改正)を2017年9月に実施しました(施行は2020年4月1日)。
なお、留意点として、本来、発電部門の原価として回収されるべき賠償の備えについて、託送料金の仕組みを通じて広く全需要家に負担を求めるに当たっては、その額の妥当性を担保する措置を講ずるとともに、個々の需要家が自らの負担を明確に認識できるよう、指針等を通じ、小売電気事業者に対し、需要家の負担の内容を料金明細票等に明記する措置を講じることとされました。また、原子力に関する費用について、託送料金の仕組みを通じた回収を認めることは、結果として、原子力事業者に対し、他の事業者に比べて相対的な負担の減少をもたらすものであり、競争上の公平性を確保する観点から、原子力事業者に対しては、例えば、原子力発電から得られる電気の一定量を小売電気事業者が広く調達できるようにするなど、一定の制度的措置を講じることとしています。
②福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保の在り方
東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に必要な資金については、東京電力が負担することが原則であり、東京電力にグループ全体で総力を挙げて捻出させる必要があるとの考え方の下、「国民負担増とならない形で廃炉に係る資金を東京電力に確保させる制度」について、2016年10月に東電委員会から国に対して検討要請がなされました。
この要請を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉の円滑かつ着実な実施を担保するため、長期間にわたり必要となる巨額の資金の管理を担保する制度として、事故炉の廃炉を行う原子力事業者(事故事業者)に対し、廃炉に必要な資金を機構に積み立てることを義務付ける等の措置を講じることを内容とする廃炉等積立金制度を2017年10月より開始し、2018年4月及び2019年4月に政府は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構から申請のあった廃炉等積立金を認可しました。
【第361-5-2】全ての需要家から公平に回収する賠償の備えのイメージ
- 出典:
- 経済産業省作成
また、発電・送配電・小売に分社化されている東京電力において、グループ全体で総力を挙げて捻出する資金が自由化の下でも確実に廃炉に充てられるための制度として、東京電力パワーグリッド(送配電部門、以下、「東電PG」という。)が親会社(東京電力ホールディングス)に対して支払う東京電力福島第一原子力発電所の廃炉費用相当分について、超過利潤と扱われないように費用側に整理して取り扱われるようにするとともに、乖離率の計算に際して実績単価の費用の内数として扱われるようにする制度的措置を2018年3月に実施しました。なお、この措置を講ずるに当たっては、東電PGの託送料金の値下げ機会が不当に損なわれないよう、東電PG自体の超過利潤・乖離率の代わりに、他の一般送配電事業者の効率化達成状況によって値下げ命令の要否を判断するとともに、東電グループ全体の中で東電PGの負担が過大なものとならないよう、例えば収益性や資産状況を参考に、グループ各社との負担の程度を比較し、著しく不適当な分担となっていないかどうかを確認する措置についても併せて講じています。
③廃炉に関する会計制度の扱い
(ア)廃炉会計制度について
従前の電気事業会計制度の下では、廃炉に伴う資産の残存簿価の減損等により、一時に巨額の費用が生じることで、(i)事業者が合理的な意思決定ができず廃炉判断を躊躇する、(ii)事業者の廃炉の円滑な実施に支障を来す、との懸念がありました。このため、2013年と2015年に、設備の残存簿価等を廃炉後も分割して償却(=負担の総額は変わらないが、負担の水準を平準化)する会計制度が措置されました。こうした制度整備を受けて、2015年に5基、2016年に1基の原子炉について、廃炉決定が行われています。
廃炉会計制度は、計上した資産の償却費が廃炉後も着実に回収される料金上の仕組みが併せて措置されることを前提としており、現在は小売規制料金により費用回収することが認められています。したがって、現在経過的に措置されている小売規制料金が将来的に撤廃されることを見据えた場合、今後も制度を継続するには、着実な費用回収を担保する措置を講ずることが不可欠です。この点、2015年3月の廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ報告書(「原発依存度低減に向けて廃炉を円滑に進めるための会計関連制度について」)においては、競争が進展した環境下においても制度を継続させるためには、「着実な費用回収を担保する仕組み」として、総括原価方式の料金規制が残る送配電部門の託送料金の仕組みを利用することとされていました。
制度創設の経緯・趣旨を踏まえれば、廃炉会計制度は、原発依存度低減というエネルギー政策の基本方針に沿って措置されたものとして、本制度を継続することが適当であるとされました。本制度を継続するために必要となる着実な費用回収の仕組みについては、小売規制料金が将来的に撤廃されることから、自由化の下でも規制料金として残る託送料金の仕組みを利用することが妥当と考えられます。
こうした検討を踏まえ、廃炉を行う際の設備の残存簿価等について、引き続き小売料金での償却等を認め、2020年4月以降に託送料金での回収を可能とする制度改正(電気事業会計規則等の改正)を2017年10月に実施しました。なお、発電、送配電、小売の各事業が峻別された自由化の環境下で、発電に係る費用の回収に託送料金の仕組みを利用することは、原発依存度低減や廃炉の円滑な実施等のエネルギー政策の目的を達成するために講ずる例外的な措置と位置付けられるべきと考えられます。
(イ)原子力発電施設解体引当金について
原子炉の運転期間中に廃炉に必要な費用を着実に積み立てるため、原子力事業者は、毎年度、原子力発電所一基ごとの廃止措置に要する総見積額を算定し、経済産業大臣の承認を得た上で、各原子炉の発電実績に応じて原子力発電施設解体引当金として積み立てることが義務付けられています。解体引当金は、東京電力福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電所の長期にわたる稼働停止が続き、従来の生産高比例法では引当が進まないといった課題が生じたことから、2013年、引当方法を定額法に、引当期間を運転期間40年に廃炉後の安全貯蔵期間10年を加えた原則50年に変更する制度改正が行われ、今後、競争が進展した環境下でも本制度を継続し、廃炉後の安全貯蔵期間中も引当を継続させるためには、廃炉会計制度と同様、費用回収が着実に行われる仕組みが必要となっています。
その引当期間については、事業者が負担するという原則に立てば、着実な費用回収が前提となる安全貯蔵期間に入る前、すなわち、廃炉前に引当を完了していることが廃炉を円滑に実施する観点からより適切な制度の在り方であり、原則50年としている引当期間を原則40年に短縮することとしました。
引当期間の見直しを行った場合、2013年の制度改正以降に廃炉決定し、解体引当金の残額を10年間に分割した引当を現在行っているものや、今後早期廃炉するものについては、解体引当金の未引当分を一括して引き当てる必要が生じます。しかし、制度の事後的な変更によって、事業者の財務に影響を与えることは適当でないことに加え、こうした費用の発生が早期廃炉を志向する事業者の判断を歪めるようなことがあれば、廃炉会計制度の趣旨にも反するので、2013年の制度改正以降に廃炉決定したものや今後早期廃炉するものに限り、廃炉に伴い一括して計上することが必要となる費用を廃炉会計制度の対象とすることで、一括して発生する費用を分割して計上する仕組みとすることとしました。
解体引当金の基礎となる原発の解体に必要な費用は、1985年及び1999年の総合資源エネルギー調査会原子力部会において示された算定式に基づき、毎年度、物価変動や廃棄物量の変動を加味し、炉ごとに総額(:総見積額)を算定しています。この算定式は、原子力部会において技術的な検討を行った結果として導き出されたものであり、その前提に大きな変更はないことから、現時点で合理的に見積もることできる費用が不足なく含まれているものと評価できます。一方で、この算定式は、モデルとなるプラントの廃炉工程を前提としたものであるため、今後、個々のプラントにおいて廃止措置を実施していく過程等で、例えば、多数の炉が設置されている原子力発電所では、設備の共有等による効率化などにより、総見積額の見直しが必要となり得ます。こうしたことを踏まえ、自由化の下でも廃炉に必要な費用があらかじめ確実に確保されるよう、個別の炉・発電所ごとに固有の事情(規制変更などにより算定式の前提を大幅に変更する必要がある場合を除く)が生じた場合に、当該事象を速やかに総見積額に反映させることが可能な仕組みを導入することが必要と考えられます。ただし、総見積額の妥当性を確保するため、これまでと同様に、総見積額を経済産業大臣が承認する仕組みとすることとしました。
これらの検討を踏まえ、引当期間を原則40年することに加えて、2013年の制度改正以降に廃炉決定したものや今後早期廃炉するものに限り、廃炉に伴い一括して計上することが必要となる費用を廃炉会計制度の対象とする等の制度改正(解体引当金省令の改正)を2018年4月に実施しました。
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- 一般送配電事業者との間で発電量調整供給契約を締結した者を指します。