第2節 エネルギーコスト低減のための資源調達条件の改善等
日本は世界のLNG需要の約5分の1を占める世界最大の需要国です。これまでの伝統的なLNG契約では、長期契約がその大半を占め、また原油価格に連動する価格決定方式が通常であったため、東日本大震災後の原油高の影響等により、その調達価格の高騰が課題となりました。
一方で、米国や欧州では、原油価格に連動する価格決定方式ではなく、ガスそのものの需給を反映した価格の影響力が増しています。加えて、世界的なLNG需要の拡大や、米国や豪州等からのLNG輸出量の増加が見込まれる中、国内では電力・ガス小売全面自由化によりLNG調達構造が変化していくことが予想されます。
こうした環境変化は、より柔軟で流動性の高いグローバルなLNG市場の実現の好機であり、合理的な価格で安定的にLNGを調達する環境を整備し、日本のLNG需給安定化、価格の抑制・安定化に繋げていくことが期待されます。日本としては、LNG市場政策の現状と今後取り組むべき課題をまとめた「LNG市場戦略」を2016年5月に発表し、流動性の高いLNG市場の実現に向けた取組を推進しています。
例えば、日本が輸入しているLNGに関する売買契約の多くには、いわゆる「仕向地条項」が付けられており、このような条項によって、LNGの自由な転売が制限されている場合があります。こうした再販売の制限等に関し、2017年6月、公正取引委員会は液化天然ガスの取引実態に関する調査報告書をまとめ、一定の場合には仕向地制限等が「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)」(独占禁止法)上問題となるおそれがある、との見解を発表しました。加えて、新規契約締結時や契約期間満了後の更新時において、再販売の制限等につながる競争制限的な契約条項や取引慣行を定めないことが必要であり、また、契約期間満了前の既存契約においても、再販売の制限等につながる競争制限的な取引慣行を見直すことが必要である、との見解も示されました。2018年には、複数の日本企業から、本報告書に沿った内容のLNG契約合意が発表されています。今後も、関係企業が、本報告書での指摘を踏まえてLNG契約交渉に臨むとともに、他のLNG消費国にも同様の考え・慣行が広まることで、LNG市場の柔軟性がより向上することが期待されています。
このような背景の下、LNG市場の発展に向けた生産国・消費国間の連携をより一層強化するために、2020年10月に「第9回LNG産消会議」を開催しました。2012年の第1回開催以来初となるオンライン開催となった本会議では、27か国の閣僚級や、約60以上の企業・国際機関のトップからいただいたメッセージをホームページに掲載するとともに、当日は世界52か国・地域から約1,900人の参加登録を得て、LNGを取り巻く環境が大きく変化する中で、LNGに期待されること、それに向けて取るべきアクションについて議論を深めました。会議冒頭の開会挨拶では、梶山経済産業大臣から、気候変動対策にしっかりと取り組みながら、エネルギーの安定供給を確保し、持続的な経済成長を実現するという「責任あるエネルギー行政」の必要性を呼びかけました。その上で、さらに、①クリーンなLNGをよりクリーンに使う世界的潮流を作りあげることを目指すこと、②LNG取引の更なる多様化を通じて、LNGの魅力を向上させていくこと、③COVID-19下でも、日本として、継続的なファイナンス支援やオンラインも活用した人材育成支援を積極的に実行していくことをお伝えするとともに、2016年に策定した「LNG市場戦略」を見直し、新たな時代に即した戦略を策定することを発表しました。また、アジアLNG市場が、世界の気候変動問題にも対応しつつ、経済回復と成長を支え得る存在となるために何が求められるのか、主に①供給国と需要国双方に裨益する持続可能な価格メカニズムの追求、②LNGバリューチェーンの中における脱炭素化の追求、の2つのテーマで議論を行い、今後、産消国双方がさらにWin-Winとなるために必要な要素を検討しました。
このほか、日本としては、流動性の高い市場の確立に向けた消費国間の連携強化を推進しており、2017年7月には欧州委員会との間で、柔軟で流動性の高いグローバルLNG市場の構築に向けた協力覚書に署名しました。この覚書に基づき、柔軟かつ透明なLNG取引の実現に向けた課題や対応策について、消費国と生産国の関係者が議論するためのワークショップを、欧州委員会と共同で開催するなどの取組を着実に進めています。
<具体的な主要施策>
(1)柔軟な国際LNG市場の形成とアジア需要の取り込み
日本のLNGセキュリティを高め、国際LNG市場における日本の影響力を維持するためには、アジア各国のLNG需要の創出・拡大に積極的に関与し、流動性が高く厚みのある国際LNG市場の形成に貢献していくことが重要です。また、日本がアジアの経済構造やエネルギー需給構造と深く関わっていることを踏まえれば、アジア全体のLNGセキュリティ向上も重要な課題です。
こうした観点から、従来はLNGが日本に輸入されることに着目して日本企業の参画を支援してきましたが、今後は、LNGの生産から受入れまでバリューチェーン全体を視野に入れ、第三国向けも含めて日本企業がLNGをオフテイク・コントロールすることに注目し、第三国向けに供給される「外・外取引」についても、日本企業の関与を後押しする方向にLNG政策を転換し、必要な取組を進めていきます。
そのため、2020年3月に資源エネルギー庁が策定した「新国際資源戦略」において、2030年度に日本企業の「外・外取引」を含むLNG取扱量が1億トンとなることを目指すとの目標を設定しました。この目標の達成に向け、供給源となる液化事業に加えて、アジア各国等におけるLNG受入基地事業等についても日本企業の事業参画の確保を支援すべく、ファイナンス支援を行っていきます。
また、国際LNG市場の拡大は、近年、急速に進展しており、LNG受入基地事業の立ち上げに加え、オペレーションに関する技術等を有するLNG事業を担う人材の育成が重要な課題となります。こうした課題に対し、日本は、国際LNG市場拡大への関与を確保すべく、引き続き「LNG人材研修実施団体協議会」の開催や、米国等との協力によるアジアでのワークショップ開催等により、政府を中心に人材育成等の取組を進めていきます。
(2)LNG先物市場、電力先物市場の創設
現行のLNG取引の大半は、原油価格に連動する価格方式による長期・相対契約です。原油価格は2000年代半ばから金融危機や中東の地政学的リスク等により不安定に推移してきたため、日本が輸入するLNG価格はLNGの需給に必ずしも関係無く変動しています。そして、その価格変動リスクをヘッジする手段が不十分であることが指摘されてきました。こうした中で、経済産業省は第一種特定商品市場類似施設においてLNGを取引対象商品に追加する許可を2014年9月に行い、LNGの店頭取引が開始されました。その後、海外事業者を含めた取引参加者の増加やシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)による清算機能の提供の開始などにより市場機能が強化されたことから、国内における受渡しを伴うスポット市場の実現を期待する声に応え、実取引に基づく信頼性の高い価格指標作りに寄与するため、2017年4月に現物市場が創設されました。現在、当該現物市場の運営が見直され、より汎用的かつ信用力の高い環境での商品取引所におけるLNG先物の上場に向け、検討が進められています。
電力市場については、電力システム改革の第2段階の改正として、先物取引の対象に「電力」を追加することを内容とした「改正商品先物取引法」が2016年4月1日に施行されました。経済産業省は、2015年に、「電力先物市場協議会」において電力先物市場の方向性について取りまとめており、2016年6月には本協議会の検討を踏まえ、東京商品取引所が電力先物の模擬売買を実施しました。その後、電力システム改革に関する議論が進行する中、電力関係事業者による電力先物取引に対するニーズの変化を踏まえ、今後の卸電力取引の変化も見据えた先物市場を設計する必要があることから、2017年12月、経済産業省において「電力先物市場の在り方に関する検討会」を立ち上げ、2018年4月に報告書を取りまとめました。2019年7月には、第一種特定商品市場類似施設に対し電力を取引対象に追加する許可を行い、店頭取引が開始されました。また、8月には東京商品取引所に対して電力先物の試験上場(3年間の時限的な上場)を認可し、同年9月から取引が開始されました。当該試験上場に伴い、電力は第二種特定商品市場類似施設の取扱いに変更となりましたが、その後も第一種特定商品市場類似施設及び東京商品取引所において、電力関係事業者の取引参加が増加しています。