第3節 福島新エネ社会構想
東日本大震災後、福島県は再生可能エネルギーの推進を復興の柱の1つとして、再生可能エネルギー発電設備の導入拡大、関連産業の集積、実証事業・技術開発等の取組を進めています。2012年3月に改訂された「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン(改訂版)」においては、原子力に依存しない社会づくりの実現に向け、2040年頃を目途に福島県内の一次エネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再生可能エネルギーから生み出すという目標を設定しています。また、その目標達成に向けて必要となる当面の施策を「再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン」にまとめ、取組を進めています。
国においても、2014年4月に策定した「第4次エネルギー基本計画」で、福島の再生可能エネルギー産業拠点化を目指すとしており、福島の再生・復興に向け、エネルギー産業・技術の拠点として発展していくことを推進しています。
さらに、これまでの再生可能エネルギーの推進の取組に加え、エネルギー分野からの福島復興の後押しを一層強化するため、官民一体の「福島新エネ社会構想実現会議」を設立し、2016年9月に「福島新エネ社会構想」を策定しました。福島が再生可能エネルギーや未来の水素社会を切り拓く「先駆けの地」となり、新たなエネルギー社会を先取りするモデルの創出拠点とする同構想は、2020、2030、2040年度頃をそれぞれ目途とする3つのフェーズを設定し、第1フェーズにおいては、再生可能エネルギーの導入拡大、水素社会実現のモデル構築、スマートコミュニティの構築を柱として、着実に取組を進めてきました。
2021年度から第2フェーズを迎えるに当たっては、2050年カーボンニュートラル宣言とそれに伴うグリーン成長戦略や、新型コロナウイルス感染症の影響など、大きな社会情勢の変化を十分踏まえつつ、再生可能エネルギーと水素を柱として、これまでの導入拡大に加え社会実装のフェーズにすることを目指し、2030年度までに取り組む内容を盛り込み、2021年2月に構想を改定しました。引き続き、構想の実現に向けた取組を推進していきます。
1.再生可能エネルギーの導入拡大
福島県は、復興の柱の1つとして、福島を「再生可能エネルギー先駆けの地」とすべく取組を推進しており、国においても、発電設備、送電線整備への支援など、他の地域にはない補助制度を福島県向けに措置し導入を後押ししています。こうした取組の結果、震災後9年間で、太陽光を中心に県内の再生可能エネルギーの設備容量は7倍以上に増加しました。今後、阿武隈山地等において大規模な風力発電等が計画されており、さらなる導入拡大に向け、引き続き発電設備等の導入を支援していきます。
(1)阿武隈、双葉エリアの風力発電等のための送電線増強
再生可能エネルギーの導入推進のため、2014年度補正予算で措置した「再生可能エネルギー接続保留緊急対応補助金(再生可能エネルギー発電設備等導入基盤整備支援事業(避難解除区域等支援基金造成事業))」により、これまで約16万kWの太陽光発電設備等の導入が避難解除区域等において進められてきました。
また、福島県内における再生可能エネルギーのさらなる導入拡大に向け、阿武隈山地等において風力発電等の設置の検討が進められています。しかし、当該地域で大規模な風力発電等による電力を受け入れるためには、近隣の送電網において空き容量不足が課題となっています。そのため、福島県富岡町にある新福島変電所など東京電力の既存送電設備を活用しています。風力発電等の電気の受入れには、発電設備と変電所等をつなぐための送電網が必要なことから、2016年度に送電網の敷設ルートの検討を進め、2017年3月に送電線等の整備・運営を行う「福島送電合同会社」が設立(2019年12月に株式会社化)、2019年3月に同社の送電事業が許可され、2020年1月より一部運用を開始しました。複数の発電事業者が共同で利用できる送電網の整備を当該送電事業会社が行うことにより、効率的な整備が可能になります。現在、風力発電所などの建設工事と並行して、送電網の工事が進められています。
(2)再生可能エネルギーの研究開発・実証の推進
産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所(以下「FREA」という。)は、本格化する再生可能エネルギーの大量導入を支える新技術を、被災地をはじめとする多くの企業と積極的に連携して開発するとともに、大学との共同研究等を通して将来を担う産業人材の育成などを図るため、2014年4月に福島県郡山市に設立されました。世界に開かれた再生可能エネルギー研究開発の推進と新しい産業の集積を通した復興への貢献を使命とし、震災からの復興と世界に向けた新技術の発信に取り組んでいます。開所から6年が経過した現在、職員約140人と企業、大学等からの外来研究者を合わせ、約300人が同所内で研究等を実施しており、水素キャリア製造・利用技術、水素エネルギーシステム、薄型結晶シリコン太陽電池モジュール技術、高性能風車要素技術、地熱・地中熱、再生可能エネルギーネットワークの開発・実証などの研究課題に取り組んでいます。
また、被災地企業のシーズ支援プログラムにより、FREAと企業による共同研究で技術評価、課題解決などを進めることで、東日本大震災の被災地(福島県、宮城県、岩手県)の企業が持つ再生可能エネルギー関連技術などの事業化を支援しており、本プログラムを通じ2020年末までに155件の技術開発を支援し、そのうち太陽電池ストリング監視システムなどの54件が事業化に成功しています。
さらに、太陽光発電及び蓄電池用大型パワーコンディショナ等の先端的研究開発及び試験評価を行う世界最大級の施設「スマートシステム研究棟」において、海外展開を目的とした最大交流出力(3.2MW)及び最高直流入力電圧(1,500V)の国産大型パワーコンディショナに対する様々な系統連系試験が国内で行うことができるようになりました。現在、国内のみならず、米国、欧州、中国、インド、タイ、台湾、フィリピン向けの認証の実績があります。認証取得に必要な試験所認定については、系統連系試験に係るIEC規格、並びにタイ国の試験規格に基づく試験所認定を取得し、製品の輸出国の状況に応じたスキームを構築することによって認証を取得できるようにしています。大型パワーコンディショナの海外市場への輸出促進を可能とする実績を上げ、福島で培った国際標準化技術を世界に展開する活動をしています。また、次世代型パワーコンディショナ(スマートインバータ)や、地元企業が開発した次世代型の自動電圧調整装置(サイリスタ式自動電圧調整装置:TVR)に対して評価試験を実施するなど、福島発の技術展開に貢献しています。
福島沖での浮体式洋上風力発電システムの実証研究事業は、世界初の複数機による浮体式の洋上風力発電実証研究事業であり、2011年度から委託事業として実証研究を開始し、2013年11月に1基目となる2MW浮体式洋上風車及び浮体式洋上変電所を設置して以降、7MW及び5MW浮体式洋上風車を順次設置し、安全性・信頼性・経済性の評価を行ってきました。この実証研究事業の成果等を踏まえ、引き続き洋上風力発電の導入拡大に向けた取組を行っていきます。
2.水素社会実現に向けたモデル構築
水素エネルギーは、利用段階ではCO2を排出しないクリーンエネルギーとして、その利活用が期待されています。水素を再生可能エネルギーの電力から製造することができれば、製造から利用までトータルでCO2フリーにすることができる上、余剰再生可能エネルギーを有効活用することができます。このため、福島県浪江町では、2020年3月に福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)が開所し、世界最大級の1万kWの水電解装置を活用して、再生可能エネルギーから水素を製造する実証プロジェクトを実施しています。製造した水素は、あづま総合運動公園やJヴィレッジ、道の駅なみえといった福島県内の公共施設等にて、純水素燃料電池の燃料として活用されています。また、2021年に予定している東京2020大会の際に大会用車両として導入される燃料電池自動車、聖火台及び聖火リレートーチ向けの燃料などとして活用することを目指しています。
3.スマートコミュニティの構築
スマートコミュニティは、様々な需要家が参加する一定規模のコミュニティの中で、再生可能エネルギーやコージェネレーション等の分散型エネルギーを用いつつ、ITや蓄電池等の技術を活用したエネルギーマネジメントシステムを通じて、エネルギーの利活用を最適化するものです。スマートコミュニティの構築は、熱導管などのエネルギーインフラの整備を伴う場合も多く、都市計画などと密接に連携しながら取組を進めることが効果的と言えます。このため、資源エネルギー庁では、2011年度第3次補正予算において、スマートコミュニティ導入促進事業(基金事業)を措置し、東日本大震災の被災地域において、まちづくりと合わせて、スマートコミュニティの導入に取り組む自治体などを支援してきました。
福島県内においては、会津若松市、相馬市、新地町、楢葉町、浪江町、葛尾村が本事業を活用し、スマートコミュニティを構築しました。
福島新エネ社会構想では、こうした取組を通じ、持続可能なスマートコミュニティの構築に向けた支援を行うこととしています。これまでに、福島県において、自治体とスマートコミュニティ関連事業者とのマッチングイベントを実施するとともに、スマートコミュニティ構築の際の参考となる先行事例集を作成し、復興に資するスマートコミュニティの形成を支援してきました。2020年度においては、計画策定自治体のスマートコミュニティの着実な完成に向けて支援を実施しました。