第2節 「環境と成長の好循環の実現」に向けた我が国のエネルギー関連先端技術導入支援や国際貢献

世界のエネルギー需要の重心がアジアにシフトしていることや、エネルギー源の多様化、地球環境問題への対応など、世界のエネルギーを巡る課題が拡大、深化し、一層複雑化してきています。

こうした状況の中、我が国が厳しいエネルギー制約の中で蓄積してきた技術やノウハウを世界に普及していくため、こうした技術やノウハウを統合化して、再エネ及び省エネ技術、スマートコミュニティ等のインフラという形で国際展開を推進していくことが重要です。2019年においては、案件形成や実証事業を進めることで、こうしたエネルギー・環境分野での国際展開の取組を進めました。

また、途上国への温室効果ガス削減技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の削減目標の達成に活用するため、二国間クレジット制度(JCM)の構築・実施に取り組みました。

さらに、2019年に閣議決定した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」において「最終到達点としての脱炭素社会」を掲げ、それを今世紀後半のできるだけ早期に実現することを目指すとともに、2050年までに80%の温室効果ガス排出量削減に大胆に取り組むという野心的なビジョンを掲げました。長期戦略で掲げた、ビジネス主導の非連続なイノベーションを通じた「環境と成長の好循環」というコンセプトと、それを支える①イノベーションの推進②グリーン・ファイナンスの推進、③ビジネス主導の国際展開・国際協力という3本柱はG20でも合意し、政府間の共通認識となりました。国際的な議論をリードしていくためにG20議長国としての機会も活かし、2019年10月にグリーンイノベーション・サミットを中心として一連の国際会議(ICEF・RD20・TCFDサミット)を開催しました。世界から、政府だけでなく、産業界、金融界、研究者を動員し、「環境と成長の好循環」の重要性について認識の共有、取組の具体化を実施しました。

また、ビジネス環境整備をおこなうことで「環境と成長の好循環」を促進するために、2019年9月、ASEAN+3エネルギー大臣会合の下、CEFIA(Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN)を立ち上げ、同年11月、第一回官民フォーラムをマニラで開催しました。CEFIAでは、3要素(低炭素技術・制度・ファイナンス)を一体としてプロジェクトを発展させることに注力しており、今後、ASEAN+3政府だけでなく、研究機関、大学、企業、国際機関等との連携をより促進させて参ります。

具体的な主要施策

1.案件形成・実証等の支援

(1)案件形成、事業実施可能性調査

質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業【2019年度当初:9.1億円】

省エネ・再エネ等に関する我が国の質の高いエネルギーインフラ技術の導入を通じて、世界のエネルギー起源二酸化炭素の排出量を削減するために、同インフラの導入に係る事業実施可能性調査を実施しました。

(2)人材育成等

新興国等におけるエネルギー使用合理化等に資する事業委託費【2019年度当初:9.0億円】

省エネ・再エネに係る我が国の技術・システムの普及支援のため、新興国を中心に、人材育成を通じた省エネ対策や再エネ導入に関する制度構築支援や、各国動向調査、政策共同研究等を実施しました。

(3)我が国の技術・システムの実証

エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業【2019年度当初:142.0億円】

省エネ・再エネの国際的な普及の観点から、我が国の技術・システムについて、相手国政府・企業との共同実証を実施しました。さらに、実証成果を商業ベースでの普及拡大につなげるため、相手国政府による我が国の技術・システムの採用・活用を促す等の各種普及支援についても実施しました。

(4)官民連携を核とした推進体制の強化

①スマートコミュニティ・アライアンス

「スマートコミュニティ」の取組が国際的に拡大する中で、我が国の優れたスマートグリッド関連技術を中核としたスマートコミュニティ等の国際展開を促進することは、我が国としての新たな成長産業の育成にもつながります。このような背景から、海外展開や国際標準を業種横断的に官民が連携して推進していくため、2010年に民間協議会団体の「スマートコミュニティ・アライアンス」(事務局:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))が設立されました。具体的取組としては、我が国発の技術・標準を活用したビジネスの国内外への展開を目指して、国際戦略や国際標準の観点からワーキンググループを設置し、国内の関連機関とも連携しつつ、普及促進・啓発の実施、スマートコミュニティ関連イベントでの講演、GSGF(Global Smart Grid Federation)などの国際機関との連携を強化しています。

②世界省エネルギー等ビジネス推進協議会

「世界省エネルギー等ビジネス推進協議会」は、2008年、省エネ・再エネ分野での優れた技術を有する我が国の企業・団体により発足しました。本協議会は、38企業・20団体(2019年8月時点)で構成されており、設立以来、政府と経済界が一体となって、関連製品・技術を基にしたビジネスの国際展開を推進しています。

具体的な活動内容としては、地域別・テーマ別にワーキンググループ等を組織し、(ア)官民ミッション派遣等によるビジネス機会の獲得、(イ)市場分析やプロジェクト発掘に向けた調査、(ウ)海外及び国内での展示会出展、(エ)関連製品・技術を取りまとめた「国際展開技術集」の作成及び周知等を行いました。

2.二国間クレジット制度(JCM)の推進

(1)JCMの構築・実施【制度】

2013年1月に、モンゴルとの間で初めてJCM実施に係る二国間文書に署名したことを皮切りに、2020年3月時点で17か国(モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、タイ、フィリピン)との間で、JCMを構築しました。

2019年12月に開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)では、パートナー国の代表者が出席したJCMパートナー国会合が開催され、JCMの進捗を歓迎し、JCMプロジェクトのさらなる形成と実施の支援を行うことを共有しました。

(2)JCMプロジェクトの形成の支援

①民間主導によるJCM等案件形成推進事業【2019年度当初:10.0億円】

JCMの導入に関する二国間文書に署名した相手国において、優れた低炭素技術・製品等の導入による温室効果ガス排出削減プロジェクトを民間主導で実施し、削減効果を測定・報告・検証することで、地球温暖化対策技術の有効性を実証するとともに、排出削減プロジェクトの発掘・組成を行い、相手国での普及につなげるための事業を行いました。

②二国間クレジット取得等のためのインフラ整備調査事業委託費【2019年度当初:9.8億円】

JCMの意思決定機関である二国間合同委員会の運営やクレジットを管理する登録簿等の制度の基盤整備・運用を行うとともに、制度の円滑な運営のため、国内外の類似制度の調査や人材育成等の事業を実施しました。

③二国間クレジット制度(JCM)基盤整備事業のうち二国間クレジット制度(JCM)基盤整備等事業【2019年度当初:15.7億円】

JCMの効果的・効率的な実施、また、JCMプロジェクトの拡大とさらなる展開に向け、JCMの制度構築、JCMに関する国際的な理解の醸成、JCMの実施対象国の拡大に向けた取組、途上国における排出削減プロジェクトの組成支援及びアジア等の途上国における都市間連携を活用した脱炭素化事業の実現支援を行いました。

④二国間クレジット制度(JCM)資金支援事業【2019年度当初:81.0億円】

JCMに署名済み、または署名が見込まれる途上国において、優れた脱炭素技術等を活用したCO2排出削減設備・機器の導入プロジェクトへの資金支援を実施しました。また、導入コスト高から採用が進んでいない優れた脱炭素技術等がアジア開発銀行(ADB)のプロジェクトで採用されるように、ADBの信託基金を通じて、その追加コストを軽減する支援を実施しました。

3.「環境と成長の好循環」の実現に向けた国際的な議論・取組

(1)エネルギー・環境技術のイノベーション創出に向けた議論・国際連携の促進等

① Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)の開催

「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」は、世界の産学官のリーダーが一堂に会して技術イノベーションによる気候変動対策を協議することを目的として、安倍総理の提唱で2014年に発足した国際会議です。2019年10月に開催した第6回年次総会では、「世界のCO2排出量が減少に転じるためのイノベーションとグリーン・ファイナンス」をメインテーマに掲げ、各国政府機関、産業界、学界、国際機関等の約70か国・地域から1,000名以上が参加しました。3つの本会議では、「産業・金融の脱炭素化イニシアチブ」、「グリーン水素の国際ネットワーク」及び「産業の脱炭素化」について講演とパネルディスカッションを実施しました。分科会では、「CO2利用」、「再エネのグリッド接続」などのCO2削減を可能とする技術の開発やその普及を促進するための議論に加えて、「電動化モビリティのシェアリングサービス・商業利用」、「都市化と再エネ普及」など、社会システムを変革する可能性を持つ分野についても議論しました。また、エネルギー・環境分野の優れた技術開発・政策事例を選出するトップ10イノベーションを実施しました。さらに、「産業用途熱の脱炭素化」のロードマップを作成しCOP25のサイドイベントにて発表しました。

②RD20の開催

安倍総理の提唱により2019年に創設された「RD20(Research and Development 20 for clean energytechnologies )」は、CO₂大幅削減に向けた非連続なイノベーション創出に繋げるため、クリーンエネルギー技術分野におけるG20の研究機関のリーダーを我が国に集めた国際会議です。

第1回会合は、専門家ら約300名を集めて、2019年10月に東京で開催しました。産業技術総合研究所の理事長が議長を務め、G20各国から計22の研究機関の代表らが会し、水素、CCUS技術を中心としたクリーンエネルギー技術に関する研究開発の現状及び展望について、各機関間でプレゼンテーション等を行いました。

第1回会合開催の結果、G20研究機関代表らからの意見を「議長サマリー」として集約し発表するとともに、各国のクリーンエネルギー技術の開発動向を「RD20 Now & Future」として文書に取りまとめ公表しました。加えて産業技術総合研究所と6つの海外研究機関間で研究協力覚書等の締結に至りました。

③ゼロエミッション国際共同研究センターの立ち上げ

2019年10月のグリーンイノベーション・サミットにおいて、安倍総理が世界の英知を集結する「ゼロエミッション国際共同研究拠点」の立ち上げを表明したことを受け、2020年1月29日に国立研究開発法人産業技術総合研究所はゼロエミッション国際共同研究センターを設置しました。研究センター長には2019年ノーベル化学賞を受賞した吉野 彰博士が就任しました。

当該センターにおいては、G20を中心とした国立研究機関等(米、仏、独、EU他)と協力の下、再生可能エネルギー、蓄電池、水素、CO2分離・利用、人工光合成等、革新的環境イノベーション戦略の重要技術の研究を実施し、ゼロエミッション社会を実現するイノベーションの創出を目指します。

(2)グリーン・ファイナンスの推進

TCFDサミットの開催

気候変動対策に積極的に取り組む企業に対する円滑なESG資金の供給を促すため、我が国は企業による気候変動関連の取組を開示する枠組みであるTCFD(注)の考え方に基づく情報開示を推進しており、我が国のTCFD賛同機関数は250機関を超え、世界最多となっています。2019年10月には、経済産業省が主催、TCFDコンソーシアム(民間主導で2019年5月に設立)、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が共催という形で、世界の産業界や金融界のトップが一堂に会する世界初の「TCFDサミット」を東京で開催し、投資家が企業の開示情報を評価する際の視点を解説した「グリーン投資ガイダンス」を公表いたしました。また、「気候変動はリスクではなく事業機会と捉えるべき」「金融機関は投資引き上げ(ダイベストメント)ではなく企業への建設的対話(エンゲージメント)を強化すべき」「アジアにおいて継続的な経済発展を促進し、低炭素社会への円滑な移行を後押しすることが必要」等のメッセージを世界へ発信しました。

(注)TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース / Task Force on Climate-related Financial Disclosures):G20の要請を受けた金融安定理事会(FSB)が2015年に設置した民間主導のタスクフォース。2017年6月に最終提言を公表し、気候関連のリスク・機会に関する任意の開示フレームワークを提示した。

(3)ビジネス主導の国際展開・国際連携

第一回CEFIA官民フォーラムの開催

アジアにおいて最先端術の導入や普及を通じて、全世界における温室効果ガス排出量の削減に貢献するために、2019年11月27日、マニラにおいて第一回CEFIA官民フォーラムを開催しました。本フォーラムでは、多くの発表者が、低炭素技術導入と関連する制度整備をセットで、かつ官民協働で取り組むことでファイナンスに接続することが重要であると強調し、今後のCEFIAを通じた活動への期待が表明されました。特に、事務局であるACE(ASEANCenter for Energy)からは、CEFIAはASEAN+3の枠組みであるASEANエネルギー協力行動計画(APAEC)等のイニシアティブを補完し合うものであると、協力体制について言及されました。さらに、フラッグシッププロジェクトとして、ZEB(Zero Emission Building)、プラントや工場のIoT最適化を図るIoT連携制御“RENKEI”についても紹介され、具体的な協力体制についても、各国から期待が寄せられています。