第1節 エネルギー国際協力体制の拡大・深化
世界のエネルギー情勢が大きく変化する中、各国のエネルギー需給構造をより安定化・効率化するためには一国での取組だけでなく、多国間及び二国間のエネルギー協力を戦略的に組み合わせつつ、国際的な協力を拡大することが重要となってきています。
そのため、2019年度においては、多国間の国際エネルギー枠組みを活用し、エネルギーの安定供給確保に向けた取組を進めるとともに、二国間の協力を通じて、アジア各国等との協力やエネルギー供給国との関係強化を行いました。
具体的な主要施策
1.多国間枠組みを通じた協力
(1)主要消費国における多国間協力
①国際エネルギー機関(IEA)における協力
IEAは、1974年11月、第一次石油ショックを契機として、米国の提唱により石油消費国間の協力組織として設立されました。当初は、国際エネルギー計画(IEP)に関する協定に基づく石油の90日備蓄義務及び緊急時対応を始めとするエネルギー問題解決のための国際協力が主な活動内容でしたが、現在では、①低炭素技術の開発促進・省エネ、低炭素技術の開発・普及のための政策提言、低炭素技術R&Dのための技術協力、②国際石油市場、世界エネルギー需給、エネルギー技術等の見通しの策定・公表、③中国やインドを含む新興国、産油国等との協力関係の構築、④国別エネルギー政策の審査、勧告の実施など幅広い活動を展開しています。現在のメンバー国は、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本、韓国、ルクセンブルグ、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国の計30か国及びEUです。
IEA設立時は、世界の石油需要の約7割は西側先進国が占めていたため、メンバー国は西側先進国が中心でしたが、近年、非参加の新興国が経済成長を遂げており、IEAはグローバルなエネルギー課題に取り組むためには、エネルギー需要が増加している中国等の新興国をIEAの体制に取り込んでいくことが重要と考え、2015年の閣僚理事会以降、メンバー国とは別に「IEAアソシエーション国」という制度的枠組を設けました。現在、ブラジル、中国、インド、インドネシア、モロッコ、シンガポール、南アフリカ、タイの8か国がアソシエーション国となっています。
隔年で閣僚理事会を開催しており、2019年12月のIEA閣僚理事会には、我が国から松本経済産業副大臣及び若宮外務副大臣が出席しました。同会合では、「エネルギーの未来の構築」をテーマに、①エネルギー安全保障の強化、②持続可能なエネルギーシステムの構築、③アソシエーション参加国との連携強化(インドとの「戦略的パートナーシップ」の立ち上げに向けた協議開始)について議論し、成果物としてコミュニケ(閣僚声明)が10年ぶりに取りまとめられました。
また、IEAは、メンバー国のエネルギー政策及び緊急時対応政策を審査するため、IEAメンバー国等によるレビューチームによるピアレビュー(IDR:国別詳細審査、ERR:緊急時対応審査)を約5年に一度実施しており、我が国はERRを2018年1月に、IDRを2020年2月にそれぞれ審査を受けました。
(ア)国際エネルギー機関分担金【2019年度当初:3.8億円】
同機関の活動・運営費用を、各国分担率に基づき拠出しました。
(イ)国際エネルギー機関拠出金【2019年度当初:4.7億円】
「世界エネルギー展望(WEO)」を始めとするエネルギー市場の分析、エネルギー技術ロードマップの策定等を支援すると同時に、我が国が議長国を務めた2019年6月のG20軽井沢会合に際し、水素、イノベーション、低炭素電源投資等にかかるレポートの発出及びプレゼンの実施を依頼すべく、IEAメンバー国として拠出を行いました。
②G7における協力
G7エネルギー大臣会合は先進主要7か国(日本、米国、カナダ、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア。2013年まではロシアを含めてG8)のエネルギー担当大臣による閣僚会合として、1998年から不定期にサミット議長国が開催しています。2019年は、G7エネルギー大臣会合は開催されませんでした。
③G20における協力
2019年6月15日、16日に、長野県軽井沢町において、経済産業省は、環境省との共催で、G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合(G20軽井沢会合)を開催しました。同会合では、我が国が議長国として、世耕経済産業大臣と原田環境大臣が共同議長を務め、成果文書として閣僚声明及び付属文書を採択しました。同会合では、「環境と成長の好循環」というコンセプトと、それを支える①イノベーション②民間資金の誘導③ビジネス環境整備という3本柱の重要性にG20全体で合意しました。また、本コンセプトを実現していくための具体的なアクションを明記した「G20軽井沢イノベーションアクションプラン」に合意しました。
特に、エネルギー分野では、エネルギー転換の推進力としてのイノベーションの重要性について共通認識を得るとともに、水素やCCUS、カーボンリサイクルなど、様々な分野でのイノベーション推進の 重要性、またエネルギー安全保障の確保について、世界のエネルギー需要の8割以上を占めるG20が取 り組むことの重要性を共有しました。
2019年6月28日、29日には、大阪市においてG20サミットが開催され、安倍総理が議長を務めました。成果文書として、「大阪首脳宣言」を発出し、G20軽井沢会合の成果に留意するとともに、イノベーションによって「環境と成長の好循環」を加速させることの重要性や、エネルギーイノベーションの推進及びエネルギー安全保障の確保の重要性について盛り込まれました。
2020年のG20議長国はサウジアラビアであり、9月にG20エネルギー大臣会合、11月にG20サミットが開催される予定です。
(2)アジア地域における多国間協力
①ASEAN+3・東アジア地域における協力
アジア地域におけるエネルギー需要の急増を踏まえ、アジア規模でのエネルギーの安全保障と持続可能性を確保するため、2004年から、ASEAN+3エネルギー大臣会合が(ASEANと日中韓の13か国の代表が出席)、2007年からは、東アジアサミット(EAS)エネルギー大臣会合(ASEAN、日中韓、オーストラリア、インド、ニュージーランド、米国、ロシアの18か国の代表が出席)が開催されています。
2019年9月、タイにおいて、第16回ASEAN+3エネルギー大臣会合及び第13回EASエネルギー大臣会合が開催され、我が国からは磯崎経済産業副大臣が出席しました。
今回の会合では、日本が主導する、水素社会と運輸部門における脱炭素化実現に向けた協力等に対し各大臣から感謝の意が示されるとともに、CCUS/カーボンリサイクルに対する投資促進を行なっていくことが、各大臣から歓迎されました。
また、会合では、高効率石炭火力発電を含むクリーンコール技術の重要性や天然ガス活用に向けた協力の必要性の認識が共有されました。加えて、日米が協力して行うLNGバリューチェーンに関する人材育成が、各大臣より歓迎されています。
我が国の提案により、ビジネス主導で低炭素技術が普及していくための環境整備を進めていく観点から、ASEAN+3の枠組みの下で、新規イニシアティブとしてCEFIA(Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN)が立ち上げられました。
さらに、我が国が実施している、省エネルギー、再生可能エネルギー、石油備蓄、原子力安全の分野での人材育成などの協力事業が紹介され、参加国から歓迎されました。
東アジア経済統合研究協力拠出金【2019年度当初:6.1億円】
EAS中期エネルギー政策調査研究ロードマップに基づき、地域での水素利用拡大、電動自動車普及に よる影響評価、LNG需要の拡大/市場の確立、石炭・バイオマスの有効利用によるCO2削減等に関する調査研究等を実施するために東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)に拠出を行いました。
②アジア太平洋経済協力(APEC)における協力
1989年11月にオーストラリア(キャンベラ)で開催された第1回APEC閣僚会議において、エネルギー問題に対する域内協力の重要性と、これを専門に議論する場を設定することで一致しました。これを受けて、1990年にエネルギー作業部会(EWG)が設立され、さらに1996年には、よりハイレベルなエネ ルギー政策対話を行うため、シドニーにおいて第1回APECエネルギー大臣会合が開催され、2015年までに計12回開催されています。
これまでのAPECエネルギー大臣会合において我が国が提案し、合意された事項に基づき、①APECメンバーのエネルギー効率向上に向けた取組状況をレビューする「エネルギー効率ピアレビュー」、②急速な都市化に直面するAPEC地域において、都市レベルで低炭素技術を統合的に導入することを目指す「APEC低炭素モデルタウンプロジェクト」、③石油及びガスの供給途絶時における対応能力の強化を図るための「APEC石油・ガス・セキュリティエクササイズ」を着実に実施しました。
なお、2019年APECの議長はチリが務めましたが、10月30日、チリのピニェラ大統領は、治安等国内情勢を理由に、11月16~17日に予定されていたAPEC首脳会議開催中止の決定を発表しました。
(ア)アジア太平洋経済協力拠出金【2019年度当初:1.1億円】
アジア太平洋地域における低炭素技術の普及に向けたプロジェクト(APEC低炭素モデルタウンプロジェクト)や、APEC域内のエネルギー効率の向上やエネルギー源の多様化に資するプロジェクト等を支援するために、APEC事務局に拠出を行いました。
(イ)アジア太平洋エネルギー研究センター【2019年度当初:6.7億円】
APECに参加する国・地域の省エネルギー政策の相互審査(ピアレビュー)の実施、「APECエネルギー需給見通し」の作成、アジア太平洋地域のエネルギー統計整備のための研修生受入・専門家派遣、「LNG産消会議」の開催、石油及びガスの供給途絶時におけるAPEC各エコノミーの対応能力強化に向けたエクササイズ開催等のために、アジア太平洋エネルギー研究センターに拠出を行いました。
(3)その他の多国間協力(生産国と消費国の対話等)
①国際エネルギーフォーラム(IEF)における対話
IEFは、世界70か国の石油・ガス等の産出国と消費国のエネルギー担当大臣及びIEA、OPECを始めとする国際機関の代表が一堂に会する重要な「産消対話」の場です。産消対話を行うことにより、産消国双方が相互に理解を深め、健全な世界経済の発展や供給と需要の安定確保のために安定的かつ透明性のあるエネルギー市場を促進することを目的として、1991年に第1回会合をパリで開催し、以降1~2年ごとに開催されています。
2019年9月に、アラブ首長国連邦にて、第8回アジア産消国閣僚会合が開催され、我が国から資源エネルギー庁関係者が出席しました。同会合では、「変化の時代におけるエネルギー安全保障」をテーマに、各国政府、エネルギー関連国際機関、企業等が一堂に会し、エネルギー市場の現状と見通し並びにその課題等を議論しました。我が国からは、G20軽井沢会合等において議論を深めた、世界のエネルギー転換におけるイノベーションの重要性を改めて強調するとともに、我が国の具体的取組の一つとして、2019年9月に開催されたLNG・水素・カーボンリサイクルの3つの国際会議について紹介しました。
また、IEFではエネルギー関連の7つの国際機関(APEC、EU、IEA/OECD、IEF、OLADE(中南米エネルギー機関)、OPEC、国連)で協力をし、石油と天然ガスの統計を整備する国際機関共同データイニシアチブ(JODI)を進めており、2005年にJODIOil(石油の統計データベース)、2014年にJODIGas(天然ガスの統計データベース)が開始されています。国際機関が協力して情報共有を進め、エネルギー需給の動向についての正確かつタイムリーな情報が市場に提供されることで、市場の透明性が増し、過度の価格乱高下を抑制できると考えられており、現在、JODIは、世界の石油・ガス需給の9割以上を網羅しています。我が国は、資金・人材の両面でJODIの発展に寄与しています。
(ア)国際エネルギーフォーラム(IEF)分担金【2019年度当初:0.1億円】
同機関の活動・運営費用を、各国分担率に基づき拠出しました。
(イ)国際エネルギーフォーラム(IEF)拠出金【2019年度当初:0.1億円】
IEF閣僚会合の開催支援を行うとともに、国際機関共同データイニシアチブ(JODI)事業への貢献のために、IEF事務局に拠出を行いました。
②国際再生可能エネルギー機関(IRENA)における協力
IRENAは、再生可能エネルギーの普及・持続可能な利用促進を目的として設立された国際機関であり、我が国は、2010年7月から正式に加盟しました。事務局はUAEのアブダビに設置されています。IRENAの主な活動は、①メンバー国の政策、制度、技術、成功事例の分析・体系化、②他の政府・非政府機関等との協力、③政策助言、④技術移転、⑤人材育成、⑥資金に関する助言、⑦研究ネットワークの展開、⑧国際的技術基準の作成等です。
2019年6月、日本にて、「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」が開催され、IRENAから変動再生可能エネルギーの系統統合に係る調査レポートが発表されました。また、本会合に出席したラ・カメラ事務局長と世耕経済産業大臣が会談し、世界の再生可能エネルギーの導入を拡大していくこと、また、水素分野の協力についても議論を行いました。
2019年9月、日本にて、第2回水素閣僚会議が開催され、IRENAから再生可能エネルギー由来の水素に係る調査レポートが発表されました。
2019年10月、ドイツにてIEA及びドイツ経済エネルギー省により開催された「再生可能エネルギーの系統統合に関する国際閣僚会議」の際に、ラ・カメラ事務局長と松本経済産業副大臣が会談を実施し、これまでのIRENAの活動に対する日本の貢献に対して謝意が示されるとともに、将来の協力について意見交換が行われました。
2020年1月、第10回IRENA総会が開催され、日本から若宮外務副大臣が出席し、再生可能エネルギーのさらなる普及拡大に向けた日本の方針や取組に関するスピーチを行いました。さらに、本総会において、初めて水素分野における閣僚級イベントが開催され、我が国からは日本の水素分野における取組を紹介しました。
(ア)国際再生可能エネルギー機関分担金【2019年度当初:2.6億円】
IRENAを通じ、我が国単独では十分な成果が見込めない大規模な調査や普及活動を実施することにより、再生可能エネルギーを国際的に普及させるため、同機関の活動・運営費用を、各国分担率に基づき、外務省、農林水産省、経済産業省、環境省の4省共同で分担しました。
(イ)国際再生可能エネルギー機関拠出金【2019年度当初:0.5億円】
経済産業省からは、①再生可能エネルギーと水素利活用に関する調査、②地熱発電に関する制度構築支援・普及活動、③東南アジア等における再生可能エネルギー導入推進事業等の実施のため、分担金に加え同機関の活動費用の拠出を行いました。
③国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)における協力
IPEECは、我が国のイニシアチブにより2009年に設立された、参加各国の省エネルギー対策の自主的な取組を支援するための国際協力枠組みです。メンバー国は、日本、米国、カナダ、ドイツ、フランス、英国、イタリア、ロシア、中国、韓国、ブラジル、メキシコ、インド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン、EUであり、IEAに加盟していない中国やインドといった新興国も加盟していることが特徴です。我が国は、省エネルギー制度や先進的なエネルギー管理事例の情報提供を通じて各国との協力関係を築くとともに、特に、産業分野のエネルギー管理を推進するタスクグループである「エネルギー管理行動ネットワーク(EMAK)」や、従来型発電のエネルギー効率の改善支援を行い、低炭素化に貢献する「高効率低排出タスクグループ(HELE)」の取組を積極的に行いました。
④クリーンエネルギー大臣会合
クリーンエネルギー大臣会合(CEM)は、世界の主要25か国及び地域から構成される、クリーンエネルギーの普及促進を目的とした国際会合です。
2019年5月に、カナダ(バンクーバー)において第10回CEMが開催され、我が国からは磯崎経済産業副大臣が出席しました。本会合では、世界におけるクリーンエネルギー導入の進展を確認し、その課題を参加国間で共有した上で、再生可能エネルギー導入拡大と電力システムの柔軟性、スマートなエネルギー利用、クリーンエネルギー分野での労働力とコミュニティといったテーマ設定の中で、クリーンエネルギーの推進に向け各国が抱える課題と機会について、出席閣僚間で活発な議論が行われました。日本からは、水素の市場拡大に向けた取組を行う新たなCEMの活動について参加を表明するとともに、世界のクリーンエネルギー推進に貢献していくことを表明しました。
⑤エネルギー憲章条約
エネルギー憲章条約(ECT:Energy Charter Treaty)は、エネルギー貿易の自由化を促進し、投資保護の枠組みを有する条約であり、2019年9月現在、世界で50か国及び2国際機関が条約を締結しています。2015年5月には、新興国の台頭及びそれに伴う世界のエネルギー需給構造の変化、気候変動問題への危機感の高まり等を踏まえ、条約の基礎となった1991年の政治宣言「欧州エネルギー憲章」を近代化した「国際エネルギー憲章(International Energy Charter)」が採択されました。その署名には、既存の条約締約国のみならず、中国、韓国、カンボジア、チリ、コロンビア、タンザニア、ニジェール等、まだ条約を批准していない新しい国が20か国以上も参加し、これまでの旧ソ連及び東欧諸国、EU諸国中心のものから、地理的な広がりを持ちつつあります。
2019年12月には、ブリュッセルにおいて、エネルギー憲章会議第30回会合が開催され、我が国からは兒玉在EU日本政府代表部大使が出席しました。会合においては、「再生可能エネルギー、エネルギー多様化及びエネルギー効率への投資の促進」というテーマの下、エネルギー転換やイノベーションの重要性などについて議論が行われました。また、会合では大きく変化する世界のエネルギー情勢に適切に対応するため、ECTの近代化に係る交渉を開始することが決まりました。
エネルギー憲章条約分担金【2019年度当初:1.2億円】
エネルギー分野における投資促進、エネルギー貿易及び通過の自由化に関する各種活動(報告書作成、ワークショップの開催等)、締約国会議であるエネルギー憲章会議の開催のため、エネルギー憲章条約の補助機関である事務局に拠出を行いました。
⑥多国間枠組を通じた人材育成等
日本は、2014年以降毎年、再生可能エネルギーを普及させるための人材育成の観点から、IRENAと共催し、アフリカやアジア・太平洋島嶼国等を対象とした再生可能エネルギーに関する研修プログラム/ファイナンスワークショップを開催しており、2019年度は11月に東京及び宮古島で開催しました。
⑦証券監督者国際機構(IOSCO)との連携
経済産業省は、商品取引所及び取引所外取引における相場操縦行為等の不公正取引の監視強化や透明性向上のために、証券監督者国際機構(IOSCO)の活動に積極的に参画しています。商品先物取引に関連する成果の一例として、IOSCOは、規制された取引所でのエネルギー商品を含む現物受渡デリバティブ商品の価格形成プロセスについて調査を実施し、「商品デリバティブ市場価格への倉庫及び受渡施設の影響に関する報告書」として2016年5月に公表しましたこの報告結果に則り、2019年2月に適正な行為規範を示した「『商品倉庫および受渡施設の健全な慣行』報告書」を公表しました。
⑧商品先物市場監督当局間の協力
経済産業省は、各国の先物監督当局間で行われる会合に定期的に参加するなどして、積極的に情報交換、協力を行っています。また、IOSCOの包括的な協議・協力及び情報交換に関する多国間覚書の枠組みに参加し、これに基づいて、市場監視のために各国の当局との情報交換を実施する体制を整えています。
⑨秋のエネルギー3国際会議
2019年9月、経済産業省は、東京において「LNG産消会議2019」及び「第2回水素閣僚会議」、「第1回カーボンリサイクル産学官国際会議」からなる「秋のエネルギー3国際会議」を開催しました。LNG、水素、カーボンリサイクルは、エネルギー転換・脱炭素化を推し進める上で重要な3分野であり、かつ相互に密接に関連することから、「秋のエネルギー3国際会議」として今回初めて3つの会議が同時期に開催されることとなりました。
同会議中、菅原経済産業大臣及び牧原経済産業副大臣は、3会議に出席した各国の閣僚と、2国間のエネルギー協力について個別会談を行いました(詳細は二国間協力の欄を参照)。
(ア)LNG産消会議2019
2019年は、日本が世界に先駆けてLNG輸入を開始してから50周年に当たりました。第8回目となるLNG産消会議2019では、閣僚級、関係企業のトップを含め32の国・地域・機関から約1,200人の参加がありました。本会議では、中東地域をはじめ世界のエネルギー情勢の今後に注目が集まる中、LNGの次の50年を見据え、エネルギー安全保障や気候変動問題の中でLNGが果たす役割や、生産国・消費国間の連携等について、各国閣僚や関係企業トップ等の関係者で議論を深めました。
また、菅原経済産業大臣は、冒頭のスピーチにおいて、LNG市場拡大に向けた日本の約束として、LNG関連プロジェクトへの100億ドルの追加ファイナンスの供与や、LNG関係国に対して、「1000人研修」を実施することで、新しい供給源とアジアの需要の結び付け、LNG市場の発展を先導することを発表しました。
(イ)第2回水素閣僚会議
2019年9月に開催した第2回水素閣僚会議では、第1回の参加者を大きく超える35の国・地域・機関から約600人の参加がありました。それぞれの国や機関での取り組み状況を共有し、グローバルな水素の活用について議論を深め、菅原経済産業大臣は、各国の水素・燃料電池に関する行動指針として、「グローバル・アクション・アジェンダ」を議長声明として発表しました。今後10年で水素ステーション1万カ所、燃料電池システム1千万台など野心的な世界目標の共有や、インフラ整備、各国の規制・制度の調和など、今後の取組が包括的に記載されております。
(ウ)第1回カーボンリサイクル産学官国際会議
パリ協定の発効により、温暖化対策へのモメンタムが一層強くなる一方で、世界のエネルギー需要は今後も増加していくと予測されています。環境と成長の好循環の実現に向け、カーボンリサイクルは重要かつ有望な分野の一つとなります。今回、カーボンリサイクルに関して議論する世界初の国際会議を開催し、世界の最新の知見、国際連携の可能性を確認するとともに、菅原経済産業大臣から相互交流の推進(”C”aravan)や、実証研究拠点の整備(”C”enter of Research)、国際共同研究の推進(”C”ollaboration)からなる「カーボンリサイクル3Cイニシアティブ」が発表されました。本会議には、20の国・地域・機関から約450人が参加しました。
2.二国間協力の推進
(1)先進諸国との協力
①日米協力
米国は、2019年9月に原油貿易における輸出が輸入を上回り、70年ぶりに純輸出国となりました。また、天然ガス分野では、2017年に初めてシェールガス由来のLNGが日本に輸入され、その後も米国産LNGの輸入が拡大しています。2019年にも、日本企業が参画するキャメロンLNGとフリーポートLNGが新たにLNGの生産を開始しました。今後、米国からの石油・天然ガスの輸入が拡大することは、供給源の多角化によるエネルギーの安定供給に資するだけでなく、仕向地が自由な米国産LNGにより、柔軟かつ透明性の高い国際LNG市場の構築にも寄与することが期待されます。こうした中、日米エネルギー協力は、世界のエネルギー市場の安定とエネルギー安全保障の観点において重要な意味を持つものとなっています。
2019年4月、安倍総理は米国にてトランプ米国大統領と会談を行い、両首脳は「自由で開かれたインド太平洋」を促進するための公正なルールに基づく経済発展を歓迎しました。
また、2019年5月にも、安倍総理は訪日中のトランプ米国大統領と会談を行い、エネルギー、デジタル及びインフラ分野を含め、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日米協力が着実に進展していることを歓迎し、今後とも、日米で手を携え、この日米共通のビジョンの実現に向けた協力を力強く推進していくとの意思を再確認しました。
2019年6月、G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合において、世耕経済産業大臣、ブルイエット米国エネルギー副長官(当時)、カニェーテ欧州委員は、水素・燃料電池技術に関する三国・地域間の協力を強化することを確認し、共同宣言(Joint Statement)を発表しました。
加えて、世耕大臣はブルイエット米国エネルギー副長官と会談を行い、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日米協力の一つとしてLNG分野の協力を継続していくことを確認しました。また、原子力分野では、米国が建設を検討するVTR(多目的試験炉)計画への研究協力に関する覚書への署名を歓迎し、最終処分、廃炉等の協力を含め、日米の原子力協力のさらなる強化について議論しました。2020年1月、梶山経済産業大臣は米国にてブルイエット米国エネルギー長官と会談を行い、LNGや原子力、CCUS/カーボンリサイクル等の分野における協力関係や現下の国際的なエネルギー情勢について認識の共有を図り、緊密な連携を進めていくことで一致しました。
②日加協力
カナダは世界有数のエネルギー資源国であり、石油、天然ガス、石炭、ウランに加えて豊富な水力資源を有しています。日加間においては、LNGカナダプロジェクトなど、LNG分野での協力を中心として様々な分野でのエネルギー協力が進展しています。
2019年6月、石川経済産業大臣政務官は、G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合出席のために訪日していたルフェーブル天然資源大臣政務官と会談を行いました。会談では、今回世耕経済産業大臣とソヒ天然資源大臣との間で署名された、エネルギー分野における協力覚書を歓迎するとともに、石油・天然ガス分野をはじめとした、二国間協力について議論しました。
③日仏協力
日仏両国は、石油・天然ガスの多くを輸入に依存する点、今後のエネルギー源の多様化を追求する点等、エネルギー需給構造、エネルギー政策に多くの共通点が存在します。
2019年6月、世耕経済産業大臣とド・リュジ連帯・エコロジー転換大臣との間で、低炭素で、低廉で、安定なエネルギーシステムの実現に向け、再生可能エネルギーや水素、原子力、省エネルギー等の技術のイノベーション分野における二国間協力を深化すべく、「エネルギー転換のためのイノベーションに関する協力覚書」に署名しました。
同月、安倍総理は訪日したマクロン仏大統領と会談を行い、「『特別なパートナーシップ』の下で両国間に新たな地平を開く日仏協力のロードマップ(2019~2023年)」を発出しました。両首脳は、「エネルギー転換のためのイノベーションに関する協力覚書」の署名を歓迎するとともに、エネルギー転換のためのイノベーション分野における協力を深化させることで一致しました。
原子力分野においては、2011年10月の東京での日仏首脳会談における両国首脳の主導により設置された原子力エネルギーに関する日仏委員会の第9回会合を2019年10月に東京にて開催し、両国の原子力エネルギー政策、原子力安全協力、使用済燃料の管理を含めた核燃料サイクル、放射性廃棄物の管理、高速炉を含めた研究開発、廃炉及び環境回復並びに産業協力等について、意見交換を行いました。また、高速炉開発については、2019年6月の日仏首脳会談の機会に、経済産業省、文部科学省、フランス原子力・代替エネルギー庁との間で、2020~24年の新たな協力の枠組みを定めた「一般取決め」に署名し、同年12月には、具体的な協力内容や条件を定めた下位の取決めである「実施取決め」が実施機関間で署名されました。
④日英協力
英国は、安定的でクリーン、かつ適正な価格のエネルギー供給の確保等の観点から、1990年代に電力市場の自由化を先行して実施し、世界最大規模の発電容量を誇る洋上風力を含む再エネや、省エネ、原子力発電を推進しています。
2020年2月、経済産業省と英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省は、日英間の産業協力の深化・発展を目的とした「日英産業政策対話」を開催しました。田中経済産業審議官とチズム英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省次官が出席し、エネルギー・気候変動分野における日英の政策や、2019年7月に両省間で署名された「クリーンエネルギーイノベーションに関する協力覚書」に基づく、水素やCCUS、原子力等に関する今後の協力について意見交換を行いました。
原子力分野については、2012年4月に発出された日英両国首相による共同声明に基づき、日英原子力年次対話を設置しています。2019年11月にロンドンで開催した第8回日英原子力年次対話では、原子力研究開発、廃炉・環境回復、原子力安全・規制等、原子力政策全般に関する意見交換を行いました。
⑤日独協力
独政府は長期的に大部分のエネルギー供給源を再生可能エネルギーとし、建物・機器を中心に省エネルギーを強化する方針の下、導入コストに配慮した再生可能エネルギー増大とそれに対応した送電網の整備など、大幅にエネルギー政策を転換しています。また、電力小売市場全面自由化から20年以上経ており、電力システム改革について知見・経験を有しています。
2019年6月、ファイヒト独経済エネルギー省次官がG20軽井沢会合にあわせて訪日し、髙橋資源エネルギー庁長官と会談しました。同会談において、「日本国経済産業省とドイツ連邦共和国経済エネルギー省とのエネルギー転換における協力宣言」に署名し、エネルギー分野における包括的な協力が盛り込まれました。また、2019年10月には松本経済産業副大臣が、IEA及び独経済エネルギー省の共催による再生可能エネルギーの系統統合に関する国際閣僚会議に出席した際、ファイヒト独経済エネルギー省次官と会談し、蓄電池を活用した電力系統安定化に関する共同実証プロジェクトの進展を歓迎しつつ、今後の水素分野での協力について意見交換を行いました。
2020年2月、上記協力宣言に基づき日独エネルギーハイレベル対話が開催され、両国はエネルギー協力の具体化に向けたロードマップに署名しました。これに基づき、日独両国は、水素とエネルギー転換に関するワーキンググループを設置し、より具体的な協力内容にかかる実務的な議論を進めていく予定です。
⑥欧州委員会との協力
2019年6月、G20軽井沢大臣会合に際して、世耕経済産業大臣はアリアス=カニェーテ欧州委員と面談し、水素、LNG、CCUS/カーボンリサイクル等の分野での日EU間の協力について議論しました。
また、日EU間でのイノベーション協力に関する共同ステートメントに合意するとともに、日米EU間での水素分野での協力に関する共同宣言に合意しました。
2019年9月、安倍晋三内閣総理大臣は、ブリュッセルにて「欧州連結性フォーラム」に出席し、ユンカー欧州委員会委員長と共同議長を務めました。また、両首脳は、「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」文書に署名しました。エネルギー分野では、水素及び燃料電池、電力市場の規制並びに液化天然ガスの世界市場といった分野において引き続き協力し、持続可能なエネルギー連結性を引き続き支持することに合意しました。
⑦日豪協力
日豪両国は、石炭、LNG、水素等の資源・エネルギーの分野において重要なパートナーであり、1985年以来、国際エネルギー情勢や両国のエネルギー政策等を議論する二国間対話の場として、日豪エネルギー資源対話(JAERD)を開催しています。2020年2月には、第38回JAERDを実施し、LNG、石炭、カーボンリサイクル、鉱物資源、水素、省エネルギー、再生可能エネルギー、エネルギー市場等の課題、さらに今後の二国間協力の強化に関して議論を行いました。
2019年6月にG20軽井沢会合において、世耕経済産業大臣がテイラー・エネルギー・排出削減大臣と会談し、水素やカーボンリサイクル等の協力について議論しました。また、これまで進めてきたエネルギー分野の二国間協力をさらに強化するために、同分野の協力に関する覚書に署名しました。
2019年9月にカーボンリサイクル産学官国際会議において、菅原経済産業大臣がキャナバン資源・北部豪州担当大臣と会談し、カーボンリサイクルに関する協力覚書を締結しました。これは、同会議で菅原大臣によって公表されたカーボンリサイクル3Cイニシアティブ(相互交流の推進、実証研究拠点の整備、国際共同研究(コラボレーション)の推進)のうち、コラボレーション推進の第1号であり、今後、カーボンリサイクルWGを設置し、両国政府関係者及び必要に応じ産業界なども交えて、共同プロジェクトの可能性について協議を実施していきます。
2020年1月には梶山経済産業大臣が豪州を訪問し、日豪経済閣僚対話において初めてエネルギー・資源分野を取り上げ、豪州と協力を進めている水素やカーボンリサイクル、重要鉱物をはじめ、幅広い分野について意見交換を行いました。また、キャナバン資源・北部豪州担当大臣とともに、水素及び燃料電池分野の協力に関する共同声明に署名しました。さらに、同大臣と会談を行い、LNGに関する継続的な協力関係を確認するとともに、水素や重要鉱物分野での今後の協力などについても議論を行いました。
(2)アジアとの協力
①日インド協力
インドは、米国、中国に次ぐ世界第3位のエネルギー消費国で、経済発展や電化の進展により、今後ますますエネルギー需要が増加することが予想されています。そのようなインドのエネルギー資源安定供給確保とエネルギー効率向上は、日本のエネルギー安全保障にとっても重要であり、両国の経済発展にも直結する重要な政策課題になっています。
こうした背景を踏まえ、エネルギー分野における両国の協力拡大を図る観点から、2006年の首脳合意を受けて、閣僚級の枠組みである「日印エネルギー対話」を立ち上げました。両国閣僚の相互訪問により、2007年以降、計10回の対話を実施しています。
2019年12月には第10回日印エネルギー対話を行いました。前回対話で合意した「日印エネルギー転換協力プラン」に基づき、電力・再生可能エネルギー、省エネ、石炭、石油・天然ガス、水素の分野での協力の進捗状況を確認するとともに、変動再生可能エネルギー及び電気自動車の電力システムへの統合に向けた、技術協力・制度協力・人的協力の3本柱からなるロードマップを両大臣間で承認しました。インドでは、電力量の不足は解消されつつありますが、周波数や電圧等、電力品質や系統安定化に課題があります。さらに、インドは、2022年までに175GWという大規模な再生可能エネルギーの導入目標を掲げていますが、再生可能エネルギーは出力が変動しやすく、さらに今後インドでの電気自動車の普及も見込まれていることを踏まえると、系統の強化・安定化がより重要になっていきます。今回のエネルギー対話で承認されたロードマップに基づき、日印間の協力が進展し、日本の系統安定化技術を導入することにより、インドの経済発展に不可欠な電力インフラの強化に貢献することが期待されます。
その他、省エネについては、2018年に日本の支援で成立したインド版省エネガイドラインの普及や工場の省エネマニュアル作成の支援に向け、専門家派遣等の協力を継続しています。石炭火力発電については、技術交流会等を通じて、環境設備対応やバイオマス混焼などの環境協力を実施しています。水素分野における協力については、2019年2月にデリーで第1回となる水素及び燃料電池に関するワークショップを開催し、両国の水素政策や技術動向などの情報交換を始めました。2020年3月には、デリーで第2回ワークショップを開催し、日印協力の具体化について議論しました。
②日インドネシア協力
インドネシアは、日本にとって有数の石油・天然ガス及び石炭など天然資源の輸入相手国であり、複数の日本企業が多くのLNGプロジェクトや再生可能エネルギー関連プロジェクトに参画しています。
2019年6月にG20軽井沢会合において、世耕経済産業大臣がジョナン・エネルギー・鉱物資源大臣と会談し、天然ガスや電力分野等での二国間の協力について議論しました。また、二国間のエネルギー分野での協力に関する覚書に署名するとともに、インドネシア政府と国際石油開発帝石による、マセラ鉱区での天然ガス開発プロジェクトに関する基本合意書の署名に立ち会いました。
2019年10月にインドネシアで第6回日インドネシアエネルギーフォーラムを開催しました。同フォーラムでは、日本、インドネシア政府関係者及び関係企業からそれぞれ100名超が出席し、プレナリーセッションでは、電力、石油、天然ガス、石炭、新・再生可能エネルギー、省エネルギーなどの分野における政策、今後の計画や協力事業等について、両国からプレゼンテーションを行い、政策の共有と今後の協力に向けた議論を行いました。また、両国関係者間で個別セッションを実施し、新たなプロジェクト形成に向けた議論や、プロジェクト加速化のための懸案事項解消に向けた集中的な議論を行いました。
③日ベトナム協力
ベトナムは、石炭、石油・天然ガス、鉱物資源を豊富に保有する資源国であり、日本にとって重要な良質な無煙炭の供給国です。
2019年8月にベトナム商工省と第2回目の日越エネルギーワーキンググループがハノイで開催されました。当ワーキンググループの開催は、2017年11月に世耕経済産業大臣とベトナムのアイン商工大臣が「エネルギー分野の協力覚書」に署名し、両大臣の間で行われている日越産業・貿易・エネルギー協力委員会の下に、エネルギーワーキンググループを設置することに合意したことをうけて実施されました。当ワーキンググループでは、エネルギー政策及び石油・天然ガス、石炭、再生可能エネルギーとスマートグリッド、省エネルギーなどを含むエネルギー分野の協力について協議しました。これにより、エネルギー需要が急増しているベトナムにおいて、我が国とのエネルギー分野での協力がさらに強化されることが期待されます。また、JOGMEC等の政府関係機関を通じ、LNGバリューチェーン構築に関する人材育成を実施する等幅広い協力を行いました。
④日タイ協力
2020年1月にタイエネルギー省と第4回目の日タイエネルギー政策対話が大阪で開催されました。当政策対話では、石油・天然ガス、電力(EV)、再生可能エネルギー、省エネルギー、スマートシティなどを含むエネルギー分野の協力について協議しました。これにより、エネルギー需要が急増しているタイにおいて、我が国とのエネルギー分野での協力がさらに強化されることが期待されます。また、タイでは国内ガスの生産が減退しており、近年LNGの輸入国になっていることから、JOGMEC等の政府関係機関を通じ、LNGバリューチェーン構築に関する人材育成を実施する等幅広い協力を行いました。
⑤日中協力
中国は世界最大のエネルギー消費国であり、中国のエネルギー利用効率の向上は日本のエネルギー安全保障にとって重要な課題です。また、中国においては、大気汚染等の深刻化に対処すると共にCO2排出削減を図るため、エネルギー利用効率の向上や太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入拡大が図られているところです。
こうした状況を踏まえ、2019年12月、日中の官民による省エネルギー・環境協力を推進するためのプラットフォームとして「第13回日中省エネルギー・環境総合フォーラム」を東京で開催しました。日本側からは梶山経済産業大臣、松本経済産業副大臣、小泉環境大臣、中国側からは張勇国家発展改革委員会副主任、李成鋼商務部部長助理を始め、両国合わせて800名を超える官民関係者が参加し、26件の協力プロジェクト文書が交換されました。同フォーラムでは、梶山経済産業大臣より、今後の協力の注力分野の一つとして水素の利活用の拡大を挙げ、中国の豊富な再生可能エネルギーを用いた水素製造のポテンシャルについて言及しました。また、「省エネ促進分科会」や「クリーンコール分科会」、今回初めて設置された「水素分科会」等の6つの分科会を開催し、日中双方の実務者レベルの意見交換を行い、さらなる協力に向け、日中両国の政府・民間企業間で数多くの具体的かつ前向きな議論がなされました。
⑥日バングラデシュ協力
バングラデシュの経済発展は著しく、人口増と高い経済成長率を背景に、エネルギー需要も伸びています。バングラデシュは天然ガスの産出国ですが、2020年以降は国内ガス生産が減少すると予想されている一方、経済成長により産業用、民生用ともに需要が増えており、2018年にはカタールから液化天然ガス(LNG)の輸入を開始するなど、新たな局面を迎えています。こうした状況を踏まえ、日本とバングラデシュは、エネルギー分野での課題解決のため官民一体となって協力するため、2019年7月にダッカで開催された第4回日本・バングラデシュ官民合同経済対話で、新たにエネルギー・ワーキンググループ(WG)を設立することに合意しました。同年10月にダッカで第1回WGを開催し、エネルギー協力について議論を行いました。
(3)エネルギー供給国等との関係強化
①日サウジアラビア協力
サウジアラビアは、世界有数の産油国であるとともに、我が国にとって第1位の原油供給国です。また、産油国の中でも特に主要な位置付けにあり、大きな余剰生産能力を持つことから、国際原油市場の安定に大きな影響力を有しています。こうしたことから、石油の大部分を輸入に頼る我が国にとって、同国との関係強化は重要な課題であり、2007年に立ち上げた日サ産業協力タスクフォースを通じ、投資促進、人材育成、中小企業支援等、エネルギー分野にとどまらない幅広い協力・関係強化を官民一体となって推進してきました。
日サウジ両国は、2017年3月の安倍総理とサルマン・サウジアラビア国王との首脳会談において、二国間協力の基本的な方向性と具体的なプロジェクトをまとめた「日・サウジ・ビジョン2030」に合意し、新たな戦略的パートナーシップの羅針盤として協力を進めています。
2019年6月に、世耕経済産業大臣は、G20軽井沢会合において、アル=ファーレフエネルギー・産業・鉱物資源大臣と会談を行い、石油の安定供給、市場の安定の重要性について確認するとともに、省エネルギーや再生可能エネルギーといった幅広い分野での協力について議論を行いました。また、「日・サウジ・ビジョン2030」に関しては、2019年6月と10月に関係閣僚会合を東京にて開催し、エネルギーを含めた幅広い分野での両国間の協力プロジェクトの進展や今後の具体的なアクションについて議論を行いました。
②日UAE協力
アラブ首長国連邦(UAE)は、我が国にとって第2位の原油供給国であり、日本企業も権益を保有し、50年以上にわたり油田操業に参画してきました。また、我が国の自主開発原油が最も集中しているなど、我が国にとって極めて重要な資源国です。我が国との間では、活発なハイレベル往来、エネルギー分野を中心とした幅広い分野での協力を推進してきました。
2019年4月、世耕経済産業大臣は東京にて、ジャーベル国務大臣兼アブダビ国営石油会社CEOと会談を行いました。会談では、教育、医療、農業等のエネルギーにとどまらない幅広い分野で協力していくことに合意し、二国間の経済エネルギー関係をさらに深化させていくことで一致しました。
2019年10月、菅原経済産業大臣は東京にて、ジャーベル国務大臣兼アブダビ国営石油会社CEOと会談を行いました。会談では、菅原大臣より日本への原油の安定供給に対する謝意を伝え、石油・天然ガス分野での協力について、上流開発分野のみならず、幅広い協力が重要との認識を共有しました。また、2018年4月に首脳間で合意された「包括的戦略的パートナーシップ・イニシアティブ(CSPI)」の下、構想の具体化、協力分野の拡大に向けて、引き続き両国間で緊密に連携していくことで一致しました。
2019年11月にUAEを訪問した松本経済産業副大臣は、アブダビ国際石油展示会議(ADIPEC)に出席するとともに、ジャーベル国務大臣兼ADNOC・CEOやマズルーイ・エネルギー産業大臣、ハルゥーン・アブダビ執行関係庁長官といった政府要人との会談を行いました。これらの会談では、国際エネルギー情勢や地域情勢等について意見交換を行ったほか、二国間のエネルギーを含む幅広い分野でのさらなる協力を推進していくことで一致しました。
2020年1月、牧原経済産業副大臣はUAEを訪問し、ワールド・フューチャー・エナジー・サミット(WFES)に出席するとともに、ジャーベル国務大臣、マズルーイ・エネルギー産業大臣といったUAE政府要人や各国関係閣僚との会談を行いました。これらの会談では、日本企業によるアブダビ新規探鉱権益獲得に向けて働きかけを行うとともに、「日・UAE包括的戦略的パートナーシップ・イニシアティブ(CSPI)」構想の具体化、イノベーション協力などの日UAEの協力分野拡大に向けて、経済産業省としても積極的に貢献する旨を伝え、引き続き両国間で緊密に連携していくことで一致しました。また、安倍総理とムハンマド皇太子の臨席のもと、ジャーベル国務大臣との間で、共同石油備蓄事業の拡充及び継続に係る合意文書の署名と交換を行いました。また、ワールド・フューチャー・エナジー・サミットにおいては、日本の優れたカーボンリサイクル技術を集め、日本パビリオンとして、世界で初めての出展を行いました。
③日カタール協力
カタールは、世界第3位の天然ガス埋蔵量を有する資源国であるとともに、日本にとって原油、天然ガスともに第3位の供給国です。
2019年9月には、経済産業省主催の第8回目となるLNG産消会議2019への出席のため、アルカービ・エネルギー担当国務大臣が来日し、LNG市場の発展に向けた議論が行われました。2020年1月には、牧原経済産業副大臣がカタールを訪問し、同大臣と会談を行いました。会談では、牧原副大臣から中東地域の緊張緩和に向けた働きかけを行うとともに、日本企業も参画するカタール国内の具体的なLNGプロジェクトやインフラプロジェクトについて議論しました。また、今回の訪問を機に、日本とカタールのエネルギー当局間の交流を深めていくことで一致しました。
④日露協力
ロシアは世界有数の産油・産ガス国であり、日露間では、2016年5月の日露首脳会談にて安倍総理からプーチン大統領に提案した8項目の「協力プラン」の下、エネルギーを含む8分野について幅広い協力を行っています。2016年11月には、世耕経済産業大臣とノヴァク・エネルギー大臣が議長となる「日露エネルギー・イニシアティブ協議会」を設立し、炭化水素、原子力、省エネ・再エネの各分野において日露協力プロジェクトを推進しています。
2019年6月、世耕経済産業大臣は、訪日中のオレシュキン経済発展大臣と会談を行い、8項目の「協力プラン」の下で創出された数多くのプロジェクトの進捗を含む日露経済関係の進展について確認しました。今後のさらなる発展に向けて、同プランの深化と拡大のため、引き続き協議を加速することで一致しました。
さらに同月末、安倍総理はG20大阪サミット参加のため訪日中のプーチン大統領と通算26回目の日露首脳会談を実施し、両首脳は、北極LNG2への日本企業の参画に向けた投資の意思決定を含め、8項目の「協力プラン」の具体化が進展していることを歓迎しました。
日露首脳会談の前日には、世耕経済産業大臣は、G20大阪サミット参加のため訪日中のリハチョフ・ロスアトム総裁、ノヴァク・エネルギー大臣、オレシュキン経済発展大臣とそれぞれ会談を行いました。リハチョフ・ロスアトム総裁とは日露原子力協定の範囲内で行われている東京電力福島第一原子力発電所廃炉に関する協力など、原子力分野等における二国間の協力の進捗について確認しました。ノヴァク・エネルギー大臣とは、両大臣が議長を務める第7回日露エネルギー・イニシアティブ協議会を開催し、炭化水素、原子力、省エネ・再エネの各分野におけるエネルギー協力の進捗について確認しました。また、オレシュキン経済発展大臣との会談では、8項目の「協力プラン」の成果の確認を行うとともに、「気候変動及びエネルギー効率の向上に係る相互理解に関する覚書」などに署名しました。
2019年9月、安倍総理と世耕経済産業大臣は、東方経済フォーラム出席のためロシアを訪問しました。安倍総理は、プーチン大統領との間で通算27回目の日露首脳会談を実施しました。両首脳は、8項目の「協力プラン」の具体的成果について確認し、北極LNG2の最終投資決定等を歓迎しました。
日露首脳会談に先立ち、世耕経済産業大臣はオレシュキン経済発展大臣と会談を行い、8項目の「協力プラン」の進捗を確認するとともに、個別プロジェクトが直面する課題等について議論しました。また、両大臣立ち会いの下、西部ガス株式会社とノヴァテク社が署名した「合弁会社設立に向けて協議を開始するための基本合意書」の交換が行われました。世耕経済産業大臣は、ノヴァク・エネルギー大臣と北極LNG2プロジェクトの最終投資決定を記念するセレモニーに出席し、同プロジェクトが日露協力の象徴的案件であるとともに、北極海航路という新たなLNG供給ルートを開拓し、アジア市場へのアクセスを可能とする極めて意義深いプロジェクトである旨述べました。ノヴァク・エネルギー大臣との会談では、両国のエネルギー分野での協力が著しいスピードで進んでいることについて、互いに謝意を述べるとともに、炭化水素、原子力、再エネ・省エネの各分野での具体的な協力案件の進捗を確認し、今後のさらなる推進について一致しました。その後、共に東洋エンジニアリングとイルクーツク石油による、イルクーツク州ウスチ・クートのエチレン及びポリエチレンプラントの工事管理サポート契約の署名式に参加し、契約締結を歓迎しました。
さらに、世耕経済産業大臣とニコラエフ・サハ共和国首長との会談では、サハ共和国において進展中のエネルギー、インフラ、農業関係等のプロジェクトについて意見を交わすとともに、日本とサハ共和国とのさらなる経済関係強化に向けて連携していくことを確認しました。
⑤日モザンビーク協力
モザンビークは、良質な原料炭、天然ガス、レアメタル等の天然資源が豊富に埋蔵されており、日本への新たな供給源として期待され、我が国企業もモザンビークにおけるLNGプロジェクトに参画しています。
2019年9月、LNG産消2019への参加のため来日した、ザカリアス国家石油院総裁と牧原経済産業副大臣が会談を行いました。会談の冒頭、牧原副大臣とモライス駐日モザンビーク共和国大使が立ち合いのもと、JOGMEC、国家石油院、同国国営石油会社の三社による、同国における石油・天然ガス分野の人材育成に関する署名交換式を行いました。また、同会談では先方より、2019年6月に最終投資決定に至った、我が国企業が参画するLNGプロジェクトについて、同企業への感謝が伝えられるとともに、今後も石油・天然ガス分野を中心に、エネルギー分野でさらなるパートナーシップを推進していくことで一致しました。