第3節 CCUS /カーボンリサイクルの促進
1.カーボンリサイクル等の技術開発
化石燃料の環境面の課題克服が重要である中、2050年に向けて、化石燃料の利用に伴うCO2の排出を大幅に低減していくことが必要です。また、途上国のエネルギーアクセス改善と気候変動対策の両立を非連続なイノベーションの力で実現するための技術開発にチャレンジしていくことが重要です。
我が国の産業界や研究機関は、化石燃料等の燃焼に伴う排ガス中のCO2分離・回収技術のみならず、これらを有効利用するための太陽光エネルギーを利用したCO2固定化やメタネーションにつながる要素技術、素材技術等に世界的な強みを有しており、イニシアティブをとっていくことが求められています。
今後、CO2を資源として捉え、これを分離・回収し、鉱物化や人工光合成、メタネーションによる燃料や素材への再利用等を通じ、大気中へのCO2排出を抑制していくCCUS/カーボンリサイクルについて、各国の産学官と連携し、実現に必要なイノベーションを効果的に推進することが重要です。
このため、経済産業省では、カーボンリサイクル技術の目標、技術課題、タイムフレーム(フェーズ毎の目指すべき方向性)を設定し、広く国内外の政府・民間企業・投資家・研究者など関係者に共有することによりイノベーションを加速化する目的で、関係府省の協力の下、2019年6月に「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を作成し、G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合において各国に共有しました。
本ロードマップでは、2030年と2050年で分けて課題と目標を整理しており、2030年までに早期の普及が期待できる、水素が不要な技術や高付加価値製品を製造する技術の研究開発・実現、2050年以降では、2030年から普及する技術についての低コスト化を図るとともに、安価な水素の調達が可能となる2050年以降に普及を見込める技術のうち、特に需要の多い汎用品を製造する技術について、2050年以降のエネルギー・製品と同等のコストを目指して研究開発を行うこととしています。
]今後、このロードマップに基づき研究開発を進めていくこととしており、2019年度政府予算には、カーボンリサイクル予算として、約350億円を計上しました。CO2のバイオ燃料化や化学品製造等のカーボンリサイクル技術の開発を加速するとともに、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の実証事業を進めている広島県の大崎上島において、分離回収したCO2を活用してカーボンリサイクルの研究開発を行うための実証研究拠点の整備を進めていくこととしています。
<具体的な主要施策>
(1)次世代火力発電等技術開発事業
(再掲 第5章第1節 参照)
(2) CCS研究開発・実証関連事業【2019年度当初:73.1億円】
我が国では、2020年頃のCCS技術の実用化を目指すとともに、2019年6月に閣議決定した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」においては「とりわけ石炭火力発電については、商用化を前提に、2030年までにCCSを導入することを検討する」と位置付けています。このような背景の下、苫小牧市におけるCCS大規模実証試験において、2016年度からCO2の圧入を実施してきました。2019年11月に当初目標としていた30万トンの圧入を達成しました。今後は、圧入したCO2などのモニタリングを継続するとともに、実証試験において得られた結果や今後の課題について検討を行います。また、CO2の分離回収コストの低減のための高効率な回収技術の実用化に向けた研究開発、及びCO2圧入・貯留を安全に実施するために必要となる安全管理技術の研究開発を実施してきており、今後も引き続き実施する予定です。
(3) CCUS早期社会実装のための脱炭素・循環型社会モデル構築事業【2019年度当初:72.2億円】
CO2分離回収設備の建設・実証により、排ガス中のCO2を分離回収する場合のコスト・環境影響等の評価や、①産業施設等の排ガスや周辺大気から回収したCO2を原料とした化学物質を社会で活用するモデル、②CO2の資源化に適用可能な人工光合成技術を活用するモデル構築等を通じ、CO2回収・有効利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization andStorage;CCUS)の早期社会実装のため、2023年までに日本初の商用化規模の技術を確立し、普及に向けた取組を加速化する。
(4)CO2貯留適地の調査事業【2019年度当初:5.5億円】
二酸化炭素回収貯留(CCS)導入に必要となるCO2 の貯留可能な地点を選定することを目指し、大きな貯留ポテンシャルを有すると期待される地点を対象に、地質調査や貯留層総合評価等を実施してきており、今後も引き続き実施する予定です。
(5) バイオ燃料の生産システム構築のための技術開発事業【2019年度当初:27.2億円】
バイオジェット燃料の2030年頃の商用化を目指し、微細藻類の培養技術を基にした、一貫製造プロセス構築のためのパイロット規模の検証試験を行いました。
(6)省エネ型化学品製造プロセス技術の開発事業【再掲】【2019年度当初:20.0億円の内数】
我が国が国際的に強みを有する触媒技術を活用することで、資源利用の高度化と製造プロセスのエネルギー消費削減を目指し、二酸化炭素と水を原料に太陽エネルギーでプラスチック原料等の基幹化学品を製造する製造プロセス技術の開発を行いました。
(7)植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発事業【2019年度当初:26.0億円】
化学合成と比較して省エネルギー・低コストでの物質生産が可能で有り、原料としての化学資源を代替しうることから注目されている、植物や微生物等の生物を用いた高機能品の高効率な生産技術の開発のための基盤を確立し、省エネ社会実現への貢献を目指します。
(8)環境調和型プロセス技術の開発事業(COURSE50)【2019年度当初:40.0億円】
「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」等に基づき、中長期的な観点から鉄鋼業の製造時の生産プロセスにおける大幅なCO2排出削減技術として、コークス製造時に発生する副生ガスに含まれる水素を増幅し、一部コークスの代替として当該水素を用いて鉄鉱石を還元する技術や、CO2を含む高炉ガスからCO2を分離するため、製鉄プロセスにおける未利用排熱を用いたCO2の分離回収技術の開発を行いました。
(9) 石油・天然ガス開発や権益確保に資する技術開発等の促進事業【2019年度当初:37.0億円の内数】
資源国の公的機関との共同研究を通じた我が国企業による油ガス田権益の維持・獲得、我が国企業が参画する海外の開発プロジェクトへの支援強化による資産向上、並びに我が国企業の探鉱評価技術の向上を図り、石油・天然ガスの自主開発比率の向上を目指しています。事業の一つとして、CO2圧入による原油増産を図るためのCO2分離技術の実証等を行いました。
(10) 二国間クレジット取得等のためのインフラ整備調査事業委託費【2019年度当初:9.8億円】
我が国の優れた低炭素技術・製品の展開を通して、温室効果ガス排出削減を定量的に評価する仕組みであるJCM(二国間クレジット制度)の民間主導による運用方法の確立等により、途上国における温暖化対策、エネルギー需給逼迫等の課題解決への貢献を目指します。具体的には、IoTを活用したプラントの運転最適化による省エネやCCUSなど民間主導によるJCM実施に資する温室効果ガス排出削減量定量化手法(方法論)の設計及び運用等を行います。
2.カーボンリサイクル等の国際展開
カーボンリサイクルのコンセプトを国内外へ発信するため、2019年9月にカーボンリサイクルに関して議論する世界初の国際会議である、第1回カーボンリサイクル産学官国際会議を開催し、カーボンリサイクルについての世界の最新の知見、国際連携の可能性を確認するとともに、経済産業大臣から、相互交流の推進や、実証研究拠点の整備、国際共同研究の推進からなる「カーボンリサイクル3Cイニシアティブ」を発表しました。
今後、グローバルな脱炭素化に向けてカーボンリサイクル技術を積極的に海外に展開することや、カーボンリサイクルの国際的認知の向上、国際ルールの整備を図るとともに、豪州や、米国、サウジアラビアをはじめとする各国と協調し、イノベーションの進展を図るための足掛かりとするべく国際協力を進め、第2回以降の国際会議につなげていく予定です。
各国とのコラボレーションの推進の第1号として、同国際会議においてオーストラリアとの間で、カーボンリサイクルに関する協力覚書を締結しました。今後、同覚書に基づき、カーボンリサイクルWGを開催し、両国政府関係者及び必要に応じて産業界も交え、共同プロジェクトの可能性について協議を実施することとしています。
カーボンリサイクルの拡大のためには、それらの国際的認知の向上やスタンダード作り等の国際ルールの整備に日本が関与していくとともに、日本が主導していけるよう取り組むことが必要です。また、上記の国際的取組と並行して、国内においても、カーボンリサイクルの技術に関する制度的な位置付けを明確化していく必要があります。そのため、政府としては省エネ法や高度化法などの既存の枠組みも踏まえつつ、制度的措置の可能性について、今後検討を行っていくことにしています。
<具体的な主要施策>
先進的な火力発電技術等の海外展開推進事業【2019年度当初:6.5億円】
高効率火力発電技術やカーボンリサイクルの重要性の情報発信のための国際会議の開催や、相手国におけるセミナーの実施、また、これらの活動を有効的に行うために必要な情報収集を行い、日本の高効率火力発電技術やカーボンリサイクルの理解促進を図りました。