第5節 国民、自治体、国際社会との信頼関係の構築
東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、国民の多くがこれまでの原子力政策に不信を抱き、また、原子力政策を担う行政や原子力発電所の運営を行う事業者に対する信頼が失墜しているという現状を真摯に受け止め、今後、国民、自治体との信頼関係を構築していくことが重要です。
また、事故の経験から得られた教訓を国際社会と共有することで、世界の原子力安全の向上や原子力の平和的利用に貢献していくとともに、核不拡散及び核セキュリティ分野において積極的な貢献を行うことは我が国の責務であり、世界から期待されることでもあります。
<具体的な主要施策>
1.原子力利用における取組
(1)国民、自治体との信頼関係の構築
①原子力に関する国民理解促進のための広聴・広報事業【2019年度当初:4.5億円】
エネルギー基本計画に基づき、我が国のエネルギー・原子力政策、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策の現状等に関する情報提供や、広聴・広報活動を通じた理解促進のための取組を行いました。具体的には、「次世代層を対象としたエネルギー・原子力政策に関する知識の普及等を目的に、地域イベントへの参加による広報活動や、大学生等を対象とした説明会・ワークショップ等の開催」、「エネルギーの現状や将来像に関する理解促進のためのシンポジウムの開催」、「NPO等が取り組む理解促進活動への支援及び各立地地域のステークスホルダーを対象とした勉強会や意見交換会等の開催」、「民間団体や自治体の講演会等への専門家の派遣」を行いました。
核燃料サイクル施設の立地地域等においては、原子力を含むエネルギー政策や核燃料サイクル施設等の新規制基準、核燃料サイクル施設の現状、放射線の基礎知識等について、科学的根拠や客観的事実に基づく情報を提供しました。具体的には、2019年度は、定期刊行物の発行、地域住民が多く訪れる場所や各種イベントを活用した広聴・広報活動を実施しました。
また、高レベル放射性廃棄物の最終処分の実現に向けて、女性や若年層を含む幅広い層の国民との対話、全国の自治体への緊密な情報提供を行うために、意見交換会、交流会、説明会を実施しました。
さらに、エネルギー・原子力政策について、立地地域のみならず、電力消費地域をはじめとした国民への理解を一層進めるため、エネルギー・原子力政策に関する説明を全国各地で開催しました。
②原子力発電施設等立地地域基盤整備支援事業【2019年度当初:63.5億円】
原子力発電施設等を取り巻く環境変化が立地地域に与える影響を緩和するため、地域資源の活用とブランド力の強化を図る産品・サービスの開発、販路拡大、PR活動等、地域における取組に対する専門家派遣を通じた支援、交付金の交付等を実施し、中長期的な視点に立った地域振興に取り組みました。
③地域担当官事務所等による広聴・広報
東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、国民の間に原子力に対する不信・不安が高まっており、エネルギーに関わる行政・事業者に対する信頼が低下しています。この状況を真摯に受け止め、その反省に立って信頼関係を構築するためにも、原子力に関する丁寧な広聴・広報が必要であることから、予算を活用した事業のほか、地域担当官事務所等も活用して、地域のニーズに応じた、双方向のコミュニケーションに関する取組を実施しました。
④原子力教育に関する取組
原子力についてエネルギーや環境、科学技術や放射線等幅広い観点から総合的にとらえ、適切な形で学習を進めるため、全国の都道府県が主体的に実施する原子力を含めたエネルギーに関する教育の取組(教材の整備、教員の研修、施設見学、講師派遣等)に必要な経費を交付する「原子力・エネルギー教育支援事業交付金」を運用しました(2019年度交付件数:24都道府県)。
⑤立地自治体等との信頼関係の構築に向けた取組
自治体主催の説明会への参加など、様々な機会を捉えて政府職員が原子力発電所の立地自治体等を訪問し、国の方針や具体的取組などに関する説明、情報提供をきめ細かく行うことにより、立地自治体等の信頼関係の構築に努めました。
⑥電源立地地域との共生
電源立地地域対策交付金については、交付金の使途を従来の公共用施設の整備に加え、地場産業振興、福祉サービス提供事業、人材育成等のソフト事業にも拡充するなど、立地自治体のニーズを踏まえた電源立地対策を実施してきています。再稼働や廃炉など原子力発電所を取りまく環境変化は様々であり、今後も、立地地域の実態に即したきめ細やかな取組を進めていきます。
⑦原子力発電所の再稼働に向けた取組
エネルギー基本計画において、いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進めることとしています。その際、国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組むこととしています。
そのような方針の下で、これまで川内原子力発電所1・2号機が2015年8月と同年10月、高浜発電所3・4号機が2016年1月と同年2月、伊方発電所3号機が2016年8月、大飯発電所3・4号機が2018年3月と同年5月、玄海原子力発電所3・4号機が2018年3月と同年6月に再稼働に至っています。
女川原子力発電所2号機については、2020年2月に原子炉設置変更許可がなされました。
⑧原子力防災体制の充実・強化に向けた取組
地域全体の避難計画を含む「緊急時対応」については、内閣府が設置する地域原子力防災協議会の枠組みの下、国と自治体が一体となって取りまとめ、取りまとめ後も継続的な充実・強化に取り組んでいます。2020年3月には、女川地域原子力防災協議会(第1回)において「女川地域の緊急時対応」が取りまとめられ、その内容が確認されました。また、毎年度実施している原子力総合防災訓練は、2019年11月に島根県の中国電力島根原子力発電所を対象として国、地方公共団体、原子力事業者等の合同で実施しました。
(2)原子力発電に係る国際枠組みを通じた協力
①国際原子力機関(IAEA)での協力
(ア)原子力発電の利用と放射性廃棄物の管理に関する理解促進への取組
国際原子力機関(IAEA)への拠出を通じ加盟国政府や電力会社等の原子力広報担当者を対象としたワークショップを開催するとともに、原子力広報ポータルサイトの構築・普及、出版物の作成等を通じて、原子力発電の役割や安全性、放射性廃棄物管理の重要性に関する正確な情報の提供、透明性の高い情報公開による、原子力発電と放射性廃棄物に対する一般公衆の理解を増進する活動に協力、貢献しました。
(イ)原子力発電導入のための基盤整備支援への取組
IAEAへの拠出を通じ、原子力発電導入を検討している国へIAEA及び国際的な専門家グループによるレビューミッション派遣等の支援を行い、その評価を通じて当該国の制度整備等が確実になされ、核不拡散、原子力安全等への対応がなされることに協力、貢献しました。
(ウ)原子力関連知識の継承への取組
IAEAへの拠出を通じ、原子力エネルギーマネジメント(NEM)スクールの実施、加盟国各々が抱える原子力関連の課題の解決に向けた関係者による国内ネットワークの構築、Eラーニング教材の開発等を通じて、我が国及びIAEA加盟国が持つ、原子力に関する知識・技術を適切に継承するための活動に協力、貢献しました。
(エ)東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に係る知見・教訓の国際社会への共有
第1部第1章の記載のとおり、IAEA総会において、東京電力福島第一原子力発電所廃炉に係るサイドイベントを開催し、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉及びその環境影響及び福島復興について理解の促進を図りました。併せて、IAEAに対しては定期的に東京電力福島第一原子力発電所に関する情報を提供しています。
(オ)核不拡散・核セキュリティへの取組
IAEAが行う核拡散抵抗性、保障措置、核セキュリティに関する検討、安全性の調査・評価の事業等に拠出を行い、ワークショップ等を開催しました。また、国際的核不拡散体制に貢献するため、アジア地域の国々等を対象にした核不拡散・核セキュリティに関するトレーニングコースをIAEA等と連携して実施し、400名を超える参加者がありました。
②経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)での協力
OECD/NEAへの拠出を通じ、原子力発電及び核燃料サイクルの技術的・経済的課題、放射性廃棄物、原子力発電の安全確保に関する技術基盤、産業基盤の調査検討活動、原子力研究開発の推進に必要な物性データや計算コードの整備を行うデータバンクや、優秀な若い世代の原子力科学技術への興味関心を高めるための枠組み(NEST)の構築や、東京電力福島第一原子力発電所事故をベースとしたNEAのベンチマーク研究等に協力、貢献しました。加えて、OECD/NEAでは、原子力政策の意思決定におけるステークホルダーインボルブメントに関して問題意識を強く有し、ワークショップの開催など関連する活動を強化しており、我が国も積極的に参画しました。
③国際原子力エネルギー協力フレームワーク(IFNEC)
原子力安全・核セキュリティ・核不拡散の最も高い水準を確保しながら、効率的に原子力の平和利用を促進することを目的とするIFNEC(International Framework for Nuclear Energy Cooperation)の枠組みを通じて、2019年度は、原子力発電の供給国と需要国の対話において、安全と安全文化についての議論に参画しました。また、2019年11月12日から14日には、IFNECカンファレンスにおいて、SMR等の革新炉に係る議論に参画しました。
④Nuclear Innovation: Clean Energy Future(NICE Future)イニシアチブ
NICE Futureイニシアチブは、クリーンエネルギーの普及における原子力の役割について、広くエネルギー関係者との対話を行うことを目的として、2018年5月の第9回クリーンエネルギー大臣会合(CEM)において設立された枠組みです。NICE Futureイニシアチブには、日本、米国、カナダ、英国、ロシア、UAE、ポーランド、ルーマニア、アルゼンチン、ケニアの合計10カ国が参加しています。2019年度は、各種国際会議でサイドイベントを実施した他、クリーンエネルギーについて分野横断的な情報共有を図るためのウェビナー(オンラインセミナー)を開催しました。
⑤原子力発電導入国等との協力
原子力発電を新たに導入・拡大しようとする国に対し、我が国の原子力事故から得られた教訓等を共有する取組を行っています。2019年度はインドネシア、ポーランド、トルコ、UAE等の国について、研修生の受入れや我が国専門家等の派遣等を通じて、原子力発電導入に必要な法制度整備や人材育成等を中心とした基盤整備の支援を行いました。
原子力発電の制度整備のための国際協力事業費補助金【2019年度当初:3.3億円】
東京電力福島第一原子力発電所事故の経験から得られた教訓を共有し、世界の原子力安全の向上や原子力の平和的利用に貢献すべく、原子力発電を導入しようとする国々において、導入のための基盤整備が安全最優先で適切に実施されるよう、原子力専門家の派遣や受入等により、法制度整備や人材育成等を行いました。
2.原子力規制における取組
※「原子力規制委員会の取組(対象期間:平成31年4月1日~令和2年2月29日)」より抜粋(2020年3月11日原子力規制委員会公表)。2019年度の取組の詳細は「原子力規制委員会令和元年度年次報告」を参照。
(1)原子力施設等に係る規制の厳正かつ適正な実施と規制制度の継続的改善
東北電力女川原子力発電所の新規制基準適合に係る設置変更許可、九州電力玄海原子力発電所3号炉及び4号炉並びに関西電力大飯発電所3号炉及び4号炉の特定重大事故等対処施設の設置に係る設置変更許可を行った。また、原子力施設に係る審査全般の改善として、申請・審査漏れの防止対策や、審査の進捗の全体像を把握する仕組み作りなどを行いました。
規制制度の継続的改善として、ピット処分及びトレンチ処分に係る施設及び放射性廃棄物に関する要求性能の明確化に関する規則等の改正、クリアランスに係る合理的な確認方法に関する審査基準の制定、兼用キャスクを用いた発電所サイト内貯蔵の基準の合理化を図るための関連する規則等の改正等を行った。また、特定放射性同位元素の防護に関する規制を2019年9月に施行しました。
(2)新たな検査制度の本格運用に向けた法令類の整備や試運用の実施
2020年度からの新たな検査制度の施行に向けて、法令類の整備として、政令、関係規則及び内規等の改正・策定を行った。また、2018年10月から開始した試運用について、2019年10月からは全ての原子力施設において、検査の実施に加え、検査の指摘事項に対する重要度評価や、プラントの総合的な評定等を含め、リスク重視で行う考え方を規制側・事業者側の双方で共有しながら、制度全体の運用の確認を実施するなど、新たな検査制度の本格運用に向けた最終的な準備を進めた。
(3)東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組の監視等
東京電力福島第一原子力発電所の早期かつ安全な廃炉や汚染水対策の実施に向け、規制当局としての立場から積極的な監視・指導を行っている。今年度は、現場環境の改善や廃炉作業の進捗等により、東京電力福島第一原子力発電所事故についての継続的な分析(以下、「事故分析」という。)に必要な現場調査等が可能となったこと等を踏まえ、事故分析の実施方針及び体制について改めて整備するとともに、3号機原子炉建屋内部調査等の現場調査等の実施、事故分析検討会の開催等を行った。
(4)原子力災害対策の充実
安定ヨウ素剤の服用を優先すべき対象者や事前配布方法など、原子力災害時の防護対策を円滑に実施するため、2019年7月3日に原子力災害対策指針及び「安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって」を改正した。また、核燃料物質等の輸送時の災害対策の円滑な実施を確保するための国の役割を明確にするため、2020年2月5日に同指針を改正した。
(5)IRRSフォローアップミッションの受入れ
2020年1月14日から21日まで、2016年に受け入れた国際原子力機関(IAEA)による総合規制評価サービス(IRRS)のフォローアップミッションを受入れ、2016年度のIRRSミッションでの勧告・提言に対する取組状況の確認と、放射性物質の陸上輸送規制に対する評価が行われました。
IRRSフォローアップミッションが実施された結果、さらなる取組が必要な分野として、統合マネジメントシステムの完全な実施、従事者に対する放射線防護の規制監督のさらなる強化等が指摘された。また、放射性物質の陸上輸送規制の分野においても、緊急時対応措置の定期的な訓練の実施等について指摘があった。原子力規制委員会では、引き続き取り組むべき課題や、フォローアップミッションの実施を経て明らかとなった課題について、対応策を検討し、その実行に取り組むこととしています。
<その他の動き>
関西電力の役職員による金品受領等の事案について
2019年9月27日、関西電力の役職員が、福井県高浜町の元助役から多額の金品を受領していたという事案が報道により明らかになりました。これを踏まえ、同日、経済産業省は、同社に対し、電気事業法第106条第3項の規定に基づき、本件に関する事実関係、原因究明を行った結果、他の類似の事案の有無について、報告するよう求めました。
同社が設置した第三者委員会による調査の結果、2020年3月14日、同社から経済産業省に対する回答がなされ、その内容を検証したところ、(1)役職員による多額の金品受領、(2)取引先等への不適切な工事発注・契約、(3)ガバナンスの脆弱性等が認められました。これを踏まえ、経済産業省は、電気事業法第27条第1項及び第27条の29において準用する同項の規定に基づき、同社に対して、(1)役職員の責任の所在の明確化、(2)法令等遵守体制の抜本的な強化、(3)工事の発注・契約に係る業務の適切性及び透明性の確保、(4)新たな経営管理体制の構築を柱とする業務改善命令を発出しました。これに対し、3月30日、同社から経済産業省に対して業務改善計画が提出されました。また、業務改善計画の実施状況については、6月末までに、同社から経済産業省に対して報告がなされる予定です。
電気事業者たるものは、電気料金を支払う利用者の皆さんから不信を持たれることのないよう、常に、適正な事業運営に努めるべきは当然です。経済産業省は、引き続き、電力各社が適切かつ公正な事業運営に取り組むよう指導・監督してまいります。