はじめに
再生可能エネルギー(以下、「再エネ」という。)は、エネルギー安全保障にも寄与できる有望かつ多様で重要な低炭素の国産エネルギー源です。世界的には、再エネの導入拡大に伴い発電コストが急速に低減し、他の電源と比べてもコスト競争力のある電源となってきており、それがさらなる導入につながる好循環が実現しています。我が国においても、2012年7月に固定価格買取制度(以下、「FIT制度」という。)が導入されて以降、再エネの導入量が制度開始前と比べて約3倍になるなど、導入が急速に拡大してきました。2019年9月末時点で、FIT制度開始後に新たに運転を開始した設備は約5,062万kW、FIT制度の認定を受けた設備は約8,918万kWとなっています。今後、さらなる導入拡大を図り、世界の状況を我が国においても実現していくため、2018年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画においては、再エネを初めて「主力電源化」していくものと位置付けています。
再エネの主力電源化を図っていく上で、最大の課題は、国民負担の抑制です。現在、我が国の再エネの発電コストは国際水準と比較して依然高い水準にあり、FIT制度に伴う国民負担の増大をもたらしています。エネルギーミックスにおいては、2030年度の導入水準(再エネ比率22 ~ 24%)を達成する場合のFIT制度における買取費用総額を3.7 ~ 4兆円程度と見込んでいますが、2019年度の買取費用総額は既に3.6兆円程度に達するなど、国民負担の抑制が待ったなしの状況となっています。こうした状況を踏まえると、再エネの発電コスト低減を加速化させていくことが不可欠です。
また、太陽光発電を中心に、再エネの導入が拡大したことに伴い、安全面や防災面、景観や環境への影響、将来の設備廃棄等に対する地域の懸念や、FIT調達期間終了後の事業継続や再投資が行われないことによる持続的な再エネの導入・拡大の停滞への懸念が高まっています。再エネが主力電源となるためには、再エネが地域と共生する形で定着し、長期にわたる事業継続や再投資により、責任ある電源としての長期安定的な事業運営が確保されることが重要です。同時に、立地制約のある洋上風力発電の導入を進めていくため、2019年4月に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号)」(以下、「再エネ海域利用法」という。)が施行されました。再エネ海域利用法に基づき、事業環境整備を進めつつ、コスト効率的な案件の導入を促進していきます。
さらに、従来の系統運用の下での系統制約も顕在化しています。系統制約の克服に向けては、これまで電源接続案件募集プロセスの実施や、既存系統を最大限活用するための「日本版コネクト&マネージ」の検討・実施等が進められてきましたが、さらなる導入拡大のためには、再エネポテンシャルの地域偏在性に留意しつつ、計画的な系統形成を進めていく必要があります。
加えて、2019年は、台風第15号や台風第19号による広範な停電被害が発生しましたが、住宅用太陽光発電設備の自立運転機能やバイオマス発電設備の熱電併給等の活用を通じて、緊急時における電力供給において、再エネが一定の役割を果たしました。地域分散的に賦存するという再エネの特徴に注目が集まっており、分散型エネルギーシステムの構築に当たって、再エネの重要性がますます高まっています。
こうした中で、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号)」(以下、「再エネ特措法」という。)において、2020年度末までにFIT制度の抜本的な見直しを行う旨が規定されていることも踏まえ、2019年9月から総合資源エネルギー調査会基本政策分科会再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下、「主力電源化小委員会」という。)において、①電源の特性に応じた制度構築、②地域に根差した再エネの導入、③次世代電力ネットワークといった観点を軸とした検討を行ってきました。
FIT制度の抜本見直しとともに、引き続き、現行制度の運用も含め、あらゆる政策を総動員し、再エネの主力電源化を実現していきます。