はじめに

日本では、一次エネルギー供給の約9割を石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料が占めており(2018年時点)、また省エネルギー・再生可能エネルギー機器等に必要不可欠な原材料である鉱物資源についても、その供給のほとんどを海外に頼っています。このような脆弱性を抱える中、近年、資源確保を取り巻く環境は大きく変化しています。

具体的には、中東情勢の緊迫化が挙げられます。2019年初めには米国とイランの関係が急速に緊迫化し、また6月にはホルムズ海峡付近で日本関係船舶含む2隻が攻撃を受け、9月にはサウジアラビアの石油施設が攻撃を受けました。

また、需給構造にも変化が生じています。まず供給面では、シェール革命により米国の石油・ガス供給量が増加しています。需要面については、世界のエネルギー需要は引き続き拡大することが見込まれており、中国・インド等アジアが需要の中心となっていくことが予想されます。その一方で、中長期的には、世界のエネルギー需要における日本の割合は減少していき、国際エネルギー市場に占める日本の地位は相対的に低下する見通しです。

さらに、2016年のパリ協定の発効を受け、主要国は2050年に向けた野心的な構想・ビジョンを公表する等、脱炭素化の動きが加速化しています。

このように大きく変動する国際情勢を踏まえ、今後も将来にわたり石油・天然ガス等、資源の安定供給を確保していくためには、米国やロシア、中東諸国を含む資源供給国との関係をこれまで以上に強化・深化していくとともに、日本と同じく輸入への依存が高まるアジアを中心とする需要国との連携を強め、透明性が高く、安定的な国際市場を構築していくことや、調達先の多角化が重要です。また、経済性やエネルギーセキュリティの観点から今後も世界における化石燃料の利用拡大が見込まれる中、「環境と成長の好循環」の実現のために、CO2を燃料や原料として再利用するカーボンリサイクルといった非連続なイノベーションによる解決が不可欠となっています。

鉱物資源についても、供給のほとんどを輸入に頼っています。鉱物資源は、スマートフォンや蓄電池、電気自動車等、日本の先端産業を支える原料として重要です。他方、一部のレアメタルやレアアースは特定の国に偏在しており、製錬工程についても寡占化が進んでいます。さらに、今後も世界的に需要が増加し、資源獲得競争が激化することが見込まれます。

こうした中で、鉱種ごとの偏在性や需要見通しを踏まえ、特性に応じた対応策の検討と、さらなるリスクマネー供給機能の強化、備蓄の充実が求められます。

このような環境の変化を踏まえ、2019年7月の総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会報告書において、新たな国際資源戦略を策定する必要性が示され、2020年2月には、その戦略の方向性についての提言が取りまとめられました。この提言を受け、経済産業省として、「3E+S」、すなわち、安全性を前提とした上で、エネルギーの安定供給を第一として、低コストのエネルギー供給、環境への適合を図るための指針となる「新国際資源戦略」を2020年3月に策定しました。政府としては、この戦略や2019年2月に策定された海洋エネルギー・鉱物資源開発計画も踏まえ、資源外交の積極的な展開や独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じたリスクマネー供給の強化、石油・天然ガス、メタンハイドレート、海底熱水鉱床等の本邦周辺海域での開発促進、さらには合理的かつ安定的なLNG調達に向けた取組等、資源の安定供給確保に向けた総合的な政策を推進していきます。