第1節 電力システム改革の推進

1.電力広域的運営推進機関の取組

東日本大震災により、大規模電源が被災する中、東西の周波数変換設備や地域間連系線の容量に制約があり、また、広域的な系統運用が十分にできませんでした。このため、不足する電力供給を十分に手当てすることができず、国民生活に大きな影響を与えたことから、2013年11月に成立した電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)に基づき、強い情報収集権限と調整権限の下で広域的な系統計画の策定や需給調整等を行う「電力広域的運営推進機関(以下、「広域機関」という。)」が2015年4月に発足しました。

広域機関では、地域間連系線等の整備等に関する方向性を整理した「広域系統長期方針」を取りまとめるとともに、東西の周波数変換設備及び東北東京間連系線の増強に関する「広域系統整備計画」を策定し、増強に向けた工事の準備が行われています。また、電力系統の増強に当たっての発電設備設置者と一般送配電事業者の費用負担のルール(発電設備の設置に伴う電力系統の増強及び事業者の費用負担の在り方に関する指針)に基づく一般負担の上限額の見直しや既存系統の最大限の活用に向け、「日本版コネクト&マネージ」の検討・実現など、系統運用ルールの整備にも取り組んでいます。また、電気事業法第28条の44第1項に基づく電力融通の指示も行っています。2018年度は例えば、9月の北海道胆振東部地震の際や、7月に関西地方において、高気温により想定以上に需要が増加し、需給の状況が悪化するおそれがあったため、関係する電力事業者に電力融通の指示を行いました。

2.電力の小売全面自由化への対応

家庭を含めた全ての電気の利用者が電力供給者を選択できるようにするため、2016年4月に電力の小売全面自由化を実施しました。全面自由化に際しては、まず旧一般電気事業や旧特定規模電気事業といった類型に代わる区分として、小売電気事業(登録制)、送配電事業(許可制)、発電事業(届出制)という事業ごとの類型を設け、それぞれ必要な規制を課すこととしました。具体的には、自由化後も電力の安定供給を確保し、需要家保護を図るため、以下のような様々な措置を講じています。

まず、電気の安定供給を確保するための措置として、適切な投資や人材の確保の必要性に鑑み、一般送配電事業者に対して、需給バランス維持、送配電網の建設・保守、最終保障サービスの提供、離島のユニバーサルサービスの提供を義務付けるとともに、これらを着実に実施できるよう、地域独占と総括原価方式の託送料金規制(認可制)を措置しました。また、小売電気事業者に対して、需要を賄うために必要な供給力を確保することを義務付けることとし、将来的な供給力不足が見込まれる場合に備えたセーフティネットとして、電力広域的運営推進機関が発電所の建設者を公募する仕組みを創設しました。さらに、需要家保護を図るための措置として、小売電気事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課すとともに、旧一般電気事業者に対し、少なくとも2020年3月末まで経過措置として料金規制を継続することとしています。

加えて、小売全面自由化に伴い、多種多様な事業者が卸電力取引所で取引を行う機会が増加することや、一時間前市場の創設等、制度変更により卸電力市場を利用して不当に利益を得るケースが想定されることから、不正取引(相場操縦等)の防止、国による市場監視、取引所の運営の適切性確保を可能とする規制措置を講じています。こうした措置を通じて、市場の透明性と廉潔性を維持することが、卸電力市場の活性化に資すること、ひいては小売電力市場の活性化につながることと考えています。

3.電力の小売全面自由化の進捗状況

(1)電気事業に係る制度設計について

2015年9月に設置された電力取引監視等委員会(2016年4月に電力・ガス取引監視等委員会に改組。)において、①小売営業に関するルール、②卸電力市場における不公正取引の取締手法、③今後の託送料金制度のあり方など、電力取引の監視に必要な詳細な制度設計の議論が進められてきました。

また、電力システム改革が進展する中で、電力分野において、エネルギー政策の基本的視点である、安全性、安定供給、経済効率性、及び環境適合を同時に達成していくことが求められます。効率的かつ競争的な電力市場の整備等の環境整備を進めると同時に、電力システム改革が我が国経済における成長戦略としての効果を最大限に発揮するためにも、市場における担い手としてのエネルギー産業を国際的にも競争力のあるものとしていくことが必要不可欠です。このため、電気事業制度に係る制度設計をはじめとして、電力分野の産業競争力強化に向けた幅広い政策課題を検討する場として、2015年10月、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の下に電力基本政策小委員会を設置し、2016年10月より、電力・ガス基本政策小委員会に検討の場を移しています。ここでは例えば、先述の料金規制の経過措置について2017年10月から議論が開始され、2018年度中には、規制下にある料金メニューぞれぞれの用途や契約状況が確認され、また、それらに関する新電力や需要家へのヒアリング・アンケート結果等を踏まえた議論が行われたほか、燃料費調整度や最終保障供給制度のあり方など、多岐に渡る議論が行われました。ほかにも、電気事業法に基づき、2020年度の発送電分離を前にした検証が開始され、小売全面自由化後の競争の状況や電力広域的運営推進機関の活動状況のほか、電力各社のシステム対応状況などについて議論が行われました。

このように、電力システム改革の制度設計については、総合資源エネルギー調査会や電力・ガス取引監視等委員会において検討してきたところであり、引き続き適切な場において検討を進めます。

(2)登録小売電気事業者数の推移

2019年3月時点で約650件の小売電気事業者登録の申請があり、2019年3月31日時点で589者を登録しています。

この小売電気事業登録は、法令に則り、資源エネルギー庁が、最大需要電力に応ずるために必要な供給能力を確保できる見込みがあるか、電力・ガス取引監視等委員会が、電気の使用者の利益の保護のための措置が講じられているかといった観点から、それぞれ審査を行っています。

登録された事業者の内訳は、もともと高圧の小売電気事業を行っていた新電力事業者(PPS)に加え、LPガス及び都市ガス関係、石油関係、通信・放送・鉄道関係等の事業者など、非常に多岐にわたります。従来の料金体系とは異なる段階別料金や既存事業とのセット割、時間帯に応じて料金差を付ける時間帯別料金等の新たなメニューの提供が見られます。

また、異業種の事業者間の連携や、地域の枠を超えた事業統合なども始まっており、事業者の事業機会の拡大も進んでいます。

(3)新電力へのスイッチング(契約先の切替え)実績

2018年12月の電力取引報によると、電力の小売全面自由化で新たに自由化された低圧部門において、新電力への契約の切替えを選択した需要家が全国で約14.2%となっています。また、地域の既存電力会社が設定した自由料金メニューへの切替えを選択した需要家も約8.5%となっており、両者を合わせると、約22.7%の消費者が自由料金メニューへの切替えを行っています。また、全面自由化後、特高・高圧部門における新電力のシェアも増加しており、結果として、電力市場全体としては、新電力のシェアが約14.8%となっています。

地域別には、低圧分野では、東京・中部・関西地域など、都市圏において自由料金メニューへの切替えを選択した需要家の割合が高くなっており、北陸・四国地域においては、相対的に低い傾向にあります。

(4)料金メニューの多様化

新電力の提供する料金メニューを見ると、全体的な傾向としては、基本料金と従量料金の二部料金制からなる既存の料金メニューに準じた料金設定が多く見られます。他方、一部では、完全従量料金メニュー、定額料金メニュー、指定された時間帯における節電状況に応じた割引メニューやセットプランなど、新しい料金メニューも提供されるようになっています。

なお、多くの新電力は、料金規制の残る大手電力会社が毎月公表する燃料費調整額を引用した料金メニューを採用しておりますが、経済産業省では需要家の選択肢を拡大するとともに、予算執行の予見性を高めるなどの総合的な観点から、2018年度中に経済産業省庁舎で使用する電気の調達に際して、燃料費調整を行わないことを条件とする公募を行い、複数の事業者からの応札の結果、株式会社V-Powerと契約を締結しました。

また、再生可能エネルギー等の電源構成や、地産地消型の電気であることを訴求ポイントとして顧客の獲得を試みる小売電気事業者の参入も見られ、中には需要家が発電所を選んで得票数の多かった発電所に報奨金を与えることができるなど、特色のある小売電気事業者も存在しています。

さらに、電力消費の見える化(電気の使用状況の可視化)や、電気の使用状況等の情報を利用した家庭の見守りサービスなども提供され始めています。応援するスポーツチームとの繋がりや里山の景観保存など、需要家の好みや価値観に訴求するサービスも始まっています。

加えて、需要家側の取組として、電力コスト削減の観点から、同種の事業者間における電気の共同調達や、地域を問わない事業グループ全体としての一括調達の動きも出始めています。

(5)卸電力取引の活性化について

①卸電力市場の全体概況

日本卸電力取引所(以下「JEPX」という。)における取引量は一貫して増加(我が国電力需要に占めるシェアは、2018年9月末で34.2%程度)しています。今後も、間接オークション導入等の影響で一層の伸びが見込まれます。

JEPXのスポット市場における取引量増加の背景は、旧一般電気事業者による自主的取組の進展により新電力事業者の調達環境が改善したことに加え、旧一般電気事業者の社内取引の一部を市場経由で行うグロス・ビディングの進展があると考えられます。例えば、2018年4月~6月における事業者別の買い約定量を見ると、旧一般電気事業者は226億kWh、新電力その他の事業者は119億kWhであり、スポット市場の買い約定量の大部分(66%)が旧一般電気事業者によるものとなっています。新電力の電力調達の状況(2012年9月~2018年9月)からも分かるとおり、グロス・ビディングにより旧一般電気事業者の市場取引量が増大していることが伺えます。

【第361-3-1】JEPX取引量(約定量)のシェアの推移(2012年4月~2018年9月)

出典:
電力・ガス取引監視等委員会事務局作成

【第361-3-2】新電力の電力調達の状況(2012年9月~2018年9月)

出典:
電力・ガス取引監視等委員会事務局作成

新電力の調達状況については、新電力の電力調達量に占める取引所比率は、常時バックアップが8.1%程度であるのに対し、45.2%程度となっており、電力調達を現物取引所に依存する割合が増加しています(2018年9月時点)。

②2017年9月~2018年9月における特記事項

JEPXのスポット市場のシステムプライスについては、2018年4月~6月の平均価格は8.72円/kWhであり、前年の同時期の8.10円と比較して、平均価格に大きな変化はみられません。

他方、2018年7月下旬~8月上旬にかけて九州を除く西日本エリアでエリアプライスが高騰し、JEPXのスポット市場(2018年7月24日、25日受渡分。それぞれ2018年7月23日、24日に取引。)における中部・北陸・関西・中国・四国のエリアプライスは、連日最高値を更新ししました。特に、25日受渡分の17:00~17:30のコマで、前記全エリアで100.02円/kWhを記録、過去最高値でした。この高騰の背景は、「猛暑による異例な需要増」と「発電所の計画外停止による供給力不足」等が大きな要因であると考えられます。

なお、今後、(需要家によって停電受容コストが異なることを踏まえた)ディマンドレスポンスや自家発など多様な市場参加が進むことによって、需要・供給双方の厚み・柔軟性・競争性が増し、電力システムの効率化が進むことが期待されます。

【第361-3-3】2017年4月~2018年8月のスポット市場 システムプライスの推移

出典:
電力・ガス取引監視等委員会事務局作成

【第361-3-4】2018年7月のスポット市場高騰時の価格推移

出典:
電力・ガス取引監視等委員会事務局作成

4.電力市場における適正な取引確保のための厳正な監視など

(1)小売部門の監視

①小売電気事業者に対する指導・勧告

2016年4月には電気の小売事業への参入が全面自由化され、家庭を含む全ての需要家が電力会社や料金メニューを自由に選択できることとなりました。こうした中、電気の小売供給に関する取引の適正化を図るため、「電力の小売営業に関する指針」を踏まえ、需要家への情報提供や契約の形態・内容などについて、電気事業法上問題となる行為を行っている事業者に対して指導を行うなど、事業者の営業活動の監視などを行っています。具体的には、2019年度には以下のような事案について指導、勧告などを実施しました。

(ア)勧告
東京電力エナジーパートナー株式会社へ行った勧告
東京電力エナジーパートナー株式会社は、2016年10月から2018年2月までの間、需要家に対し、訪問営業又は電話営業により電力供給契約に係る供給条件について説明した際、5,735件の需要家について、当該説明の際に交付しなければならない書面(契約締結前交付書面)を交付していませんでした。また、同社は、2017年5月から2018年1月までの間、ガス供給契約についても、6,606件の需要家について、契約締結前交付書面を交付していませんでした。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、2018年3月、電気事業法に基づき、(i)契約締結前交付書面を交付しなかった需要家に対し、適切な措置を講ずること、(ii)需要家に対する契約締結前交付書面の不交付事案が今後発生しないよう必要な措置を講ずること、(iii)上記(i)及び(ii)に基づいて講じた措置について、電力・ガス取引監視等委員会に対し、文書で報告することを求める業務改善勧告を行いました。
株式会社F-Powerへ行った勧告
株式会社F-Powerは、2017年11月1日付けで同社が実施した約4,900件の需要家を対象とする小売供給契約の変更(中途解約に係る違約金の対象範囲の拡大を内容とするもの)について、需要家への通知文書に変更内容を具体的に記載しないなど、需要家に対する説明が不十分でした。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、2018年6月、同社に対し、説明を改めて実施するよう指導し、2018年8月、電気事業法に基づき、(i)今後、電気事業法の説明義務に違反することがないよう、需要家に対する説明方法の改善、役職員に対する改善内容の周知徹底等必要な措置を講ずること、(ii)上記(i)に基づいて講じた措置について、自社が小売供給契約を締結している需要家に通知すること、(iii)上記(i)及び(ii)に基づいて講じた措置について、電力・ガス取引監視等委員会に対し文書で報告することを求める業務改善勧告を行いました。
(イ)指導
小売電気事業者A社へ行った指導
A社は、電気の小売供給契約締結の代理業務を行うに際し、2017年8月から同年10月までの間に、需要家から電気の小売供給契約の申込意思が示されていないことを知りつつ、当該契約の申込書を需要家に無断で作成した上で、X社への電気の小売供給契約の申込手続を行っていました。当該行為は、需要家の意思に反し電気の小売供給契約の相手方を変更するものであって、需要家の利益を著しく害する行為であることから、2018年3月、A社に対し、電力の適正な取引の確保を図るため、所要の改善措置を採るとともに、速やかに実施するように指導を行いました。
小売電気事業者B社へ行った指導
B社は、B社との電気の小売供給契約の締結に係る需要家の意思を確認しないまま、小売供給契約の申込手続を行いました。当該行為は、需要家の意思に反し、小売供給契約の相手方を変更するものであって、需要家の利益を著しく害する行為であります。よって2018年5月、B社に対し、電力の適正な取引の確保を図るため、所要の改善措置を講じるように指導を行いました。
また、電力・ガス取引監視等委員会の相談窓口などに寄せられた不適切な営業活動などに係る情報について、事実関係の確認や指導を行うとともに、独立行政法人国民生活センターと共同し、2018年4月~2019年3月の間に相談事例の紹介及びアドバイスについてプレスリリースを2回行い、情報提供しました。
(参考)プレスリリースの実施状況
第11回 2018年6月13日  2018年6月8日まで相談内容について
第12回 2018年12月20日  2018年11月30日まで相談内容について
事例1:「電気料金が安くなる」と言われ資料を請求したつもりが、いつの間にか契約が切り替わっており、解約料を請求された事例
電力会社から「電気料金が安くなる。」という電話があったが、契約するつもりはなかったので、資料を請求するつもりで返事をした。後日、書面が送られてきたが、請求した資料だと思い、内容を詳しく確認せずにそのままにしていた。その後、電気料金の明細書が届き、いつの間にか資料を送ってきた電力会社との契約になっていると分かり、驚いた。電力会社に「電話で契約するとは言っていない。契約は成立していない。」と言ったところ、電力会社は、「書面にはクーリング・オフについても書いてあり、解約をするなら8日以内に通知を出せばよかった。契約は成立しているので、解約するなら事務手数料を支払え。」と言ってきた。納得できない(2018年9月受付)。
事例2:契約締結時の説明よりも高い料金を請求され、知らない間に付随契約を締結させられていた事例
現在の契約先とは別の小売電気事業者から、「今よりも電気料金が5%割引になる。」という電話勧誘を受けて契約したが、実際には安くならなかった。確認したところ、電気の契約に付随するオプションに知らない間に加入させられており、その料金も支払わされていた。解約して他の小売電気事業者に切り替えたが、違約金の支払いを求められている(2018年10月受付)

【第361-4-1】電力の小売全面自由化に関する相談件数の推移(委員会相談窓口)

出典:
電力・ガス取引監視等委員会事務局作成

【第361-4-2】電力の小売全面自由化に関する相談件数の推移

出典:
独立行政法人国民生活センター作成

②間接オークション導入等に伴う電源表示ルールの改定

2018年10月より、連携線利用に関する公平性・公正性の確保と卸電力市場の活性化を図るため、連携線利用ルールを「先着優先」から市場原理に基づきスポット市場を介して行う「間接オークション」へと変更となりました。また、2018年5月より、小売電気事業者の非化石電源調達目標の達成を後押しするとともに、需要家の選択肢を拡大しつつ、FIT制度における国民負担の軽減に資するべく、非化石価値取引市場が新たに創設されました。

電源構成等の適切な開示方法などの需要家への情報提供の在り方に関して、需要家の誤認等を防止するとともに、小売電気事業者間の公正な競争を確保する観点から、「電力の小売営業に関する指針」において規定しております。「間接オークション」の導入および非化石価値取引市場の創設に伴う市場環境の変化を踏まえ、制度設計専門会合(2018年4月23日、5月29日、6月19日、7月20日開催)にて審議を行い、当審議会での議論を踏まえ、(ア)電力に付随する価値と電力取引との関係、(イ)特定の電源・産地としての価値が維持される条件、(ウ)需要家の誤認を招かない表示ルールの整備等について「電力の小売営業に関する指針」の改定が必要であると取り纏め、電源表示ルール等の見直しを実施しました。

「電力の小売営業に関する指針」の改定については、2018年7月30日に開催された電力・ガス取引監視等委員会の議決、同年7月30日から8月28日の間に実施されたパブリックコメントを経て、同年9月20日に電力・ガス取引監視等委員会が経済産業大臣に建議しました。その後、9月28日付で、「電力の小売営業に関する指針」は改定されています。

【第361-4-3】2018年7月~9月の報告における主要指標

出典:
第35回制度設計専門会合 事務局提出資料(2018年12月17日)を基に電力・ガス取引監視等委員会事務局作成

(2)卸部門の監視

電力・ガス取引監視等委員会では、旧一般電気事業者の自主的取組や電力市場における競争状況を定点的に分析・検証するため、四半期毎に電力市場のモニタリング報告を実施しています。2019年3月末までに、制度設計ワーキング・グループでの報告も含め、累計で16回にわたりモニタリングレポートを作成・公表しており、今後も継続的に電力市場のモニタリングを行っていきます。

【モニタリングレポートの報告状況】
第28回  制度設計専門会合(2018年3月29日)
第31回  制度設計専門会合(2018年6月19日)
第33回  制度設計専門会合(2018年9月20日)
第35回  制度設計専門会合(2018年12月17日)

電力・ガス取引監視等委員会では、上記の定期的なモニタリング等を通じ、卸電力市場の動向を監視していますが、2018年4月1日~2019年3月31日までの期間では勧告の対象となるような問題行為は確認されていません。

(3)送配電部門の監視

東北電力株式会社における工事費負担金誤精算

東北電力株式会社は、再エネ事業者を含む発電事業者等が系統接続を行う際に支払う工事費負担金について、託送供給等約款に基づき工事費から撤去後の資材の残存価額を差し引いて算定すべきところ、差し引かずに算定したことにより、工事費負担金を過大に請求していました。

本件は、2018年4月16日に、同社から電力・ガス取引監視等委員会へ報告があり、これに対して同月20日付で、原因究明及び再発防止策を求める報告徴収を行うとともに、誤精算事案の対象者に対する返金等の対応を進めるよう指示しました。同月26日、報告徴収に対する回答を受け、電力・ガス取引監視等委員会において検討を行った結果、本件事案については、法令違反であり、当該法令違反の規模、影響が大きく、経営管理体制も不適切であることから、同年5月16日付で同社に対し、業務改善勧告を発出しました。具体的な内容は以下のとおりです。

(業務改善勧告の概要)

  • 工事費負担金の誤精算事案の対象者に対し、適切な措置を講ずること
  • 工事費負担金の誤精算事案が今後発生しないよう必要な措置を講ずること
  • 関係法令や約款等に関わる不適正事案を早期に把握して改善できるよう、経営管理体制を含め必要な措置を講ずること
  • 上記に基づいて講じた措置について、文書で報告すること

(4)原価算定期間終了後の小売電気料金の事後評価

電気事業法等の一部を改正する法律(2014年法律第72号。以下「第2弾改正法」という。)附則の経過措置に基づく小売電気料金については、原価算定期間終了後に毎年度事後評価を行い、利益率が必要以上に高いものとなっていないかなどを経済産業省において確認し、その結果を公表することとなっています。電力・ガス取引監視等委員会では、経済産業大臣からの意見聴取を受けて、2018年度は以下の(ア)、(イ)の旧一般電気事業者に対して料金審査専門会合において評価及び確認を行いました。

<事後評価のポイント>

(ア)北海道電力、東北電力、東京電力EP、中部電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力及び沖縄電力の審査基準に基づく評価

「電気事業法等の一部を改正する法律附則に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等」(20160325資第12号)第2(7)④に基づく値下げ認可申請の必要がないか確認を行いました。

(イ)東京電力EPの追加検証

下記(i)~(iii)の項目について、それぞれ確認を行いました。

(i)料金原価と実績費用の比較
個別費目について、料金原価を合理的な理由無く上回る実績となっていないか。
(ii)規制部門と自由化部門の利益率の比較
規制部門と自由化部門の利益率に大きな乖離はないか。乖離が生じている場合の要因は合理的か。
(iii)経営効率化への取組
経営効率化への取組は着実に進捗しているか。
(イ)の電力会社の選定理由

東京電力EP-審査基準の<ステップ1>電気事業利益率による基準に該当し、かつ公的資金の投入がされており、規模が大きく影響が広範であるため。

※ 関西電力については、原価算定期間終了前のため、事後評価の対象外。

<料金審査専門会合の開催実績>
2018年 10月25日 第33回料金審査専門会合
2018年 12月12日 第34回料金審査専門会合

<事後評価の結果>

(ア)北海道電力、東北電力、東京電力EP、中部電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力及び沖縄電力の審査基準に基づく評価

第2弾改正法附則第16条第3項の規定によりなおその効力を有するものとして読み替えて適用される同法第1条の規定による改正前の電気事業法(昭和39年法律第170号)第23条第1項の規定による供給約款等の変更の認可の申請命令に係る「電気事業法等の一部を改正する法律附則に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等」(20160325資第12号)第2(7)④に照らし、値下げ認可申請の必要は認められませんでした。評価の詳細は以下のとおりです。

審査基準のステップ1[電気事業利益率による基準]では、個社の直近3か年度平均の利益率が10社10か年度平均の利益率を上回る会社は、北海道電力、東北電力、東京電力EP、中部電力、九州電力及び沖縄電力の6社でした。ステップ1に該当した6社について、審査基準のステップ2[超過利潤累積額による基準]では、2017年度末超過利潤累積額は一定水準額である事業報酬額を下回っており、ステップ2[自由化部門の収支による基準]では、直近2年連続で自由化部門の収支が赤字となっていませんでした。以上より、原価算定期間を終了しているみなし小売電気事業者9社(2018年7月に値下げを行った関西電力以外)について、審査基準に基づく評価を実施した結果、変更認可申請命令発動の検討対象となる事業者はいませんでした。

【第361-4-4】料金変更認可申請命令に係る審査基準

出典:
電力・ガス取引監視等委員会事務局作成

【第361-4-5】審査基準の適用結果

出典:
電力・ガス取引監視等委員会事務局作成
(イ)東京電力EPの追加検証

料金適正化の観点から問題となるものは認められませんでした。評価の詳細は以下のとおりです。

(i)料金原価と実績費用の比較
長期間にわたる原子力発電所の再稼働遅延等の諸事情を踏まえると、個別費目の実績が不合理な理由に基づき料金原価を上回っているものは認められませんでした。
(ii)規制部門と自由化部門の利益率の比較
規制部門と自由化部門の利益率の比較では、規制部門(2.5%)と自由化部門(2.6%)の利益率はほぼ同等であり、不合理な利益率の乖離はありませんでした。
(iii)経営効率化への取組
今回の事後評価では、緊急避難的な支出抑制・繰延べはないことを確認しました。また、恒常的な経営効率化の取組については、費目によって取組の進捗にばらつきがあるものの、総額の実績は料金原価認可時の計画値を上回っていました。経営効率化による費目ごとのコスト削減額は、いずれも前年度とほぼ同等の水準であり、経営効率化の施策が恒常的な取組みとして行われていることを確認しました。

以上を踏まえ、2018年度の事後評価の対象となった事業者について、現行の認可料金に関する値下げ認可申請の必要があるとは認められませんでした。

ただし、東日本大震災後の小売規制料金の値上げは、原子力発電所の再稼働遅延を主因とするものであったことに鑑みると、今後原子力発電所が再稼働を果たした場合には火力燃料費等の負担が軽減されていくことから、料金原価への原子力利用率の織り込み状況も踏まえ、そのコスト低減効果を需要家への還元等に適切に充当するよう検討すべきです。また、各社においては、今後とも料金原価と直近実績の比較・経営効率化の状況・収支見通し等現行の経過措置料金に関連した分かりやすい情報提供に努めるとともに、安全対策・供給信頼度維持に不可欠な投資は最優先に実施した上で、引き続き経営効率化に真摯に取り組むことにより、コスト低減を進めていくべきであるとの評価を行いました。

(5)一般送配電事業者の収支状況(託送収支)の事後評価

我が国の電力系統を取り巻く事業環境は、人口減少や省エネルギーの進展等により電力需要が伸び悩む傾向にある一方で、再生可能エネルギーの導入拡大による系統連系ニーズや経済成長に応じて整備されてきた送配電設備の高経年化への対応が増大するなど、大きく変化しつつあります。

こうした事業環境の変化に対応し、将来の託送料金を最大限抑制するため、一般送配電事業者においては、経営効率化等の取組によりできるだけ費用を抑制していくとともに、再生可能エネルギーの導入拡大や将来の安定供給等に備えるべく、計画的かつ効率的に設備投資を行っていくことが求められます。

以上のような問題意識の下、電力・ガス取引監視等委員会は、託送料金の低廉化と質の高い電力供給の両立の実現を目指して、2017年度託送収支や経営効率化に向けた取組等を分析・評価しました。

①託送収支の状況

2017年度の当期超過利潤累積額について、託送供給等約款の変更認可申請命令(値下げ命令)の発動基準となる一定の水準を超過した事業者はいませんでした(ストック管理)。また、想定単価と実績単価の乖離率について、変更認可申請命令の発動基準を超過した事業者はいませんでした(フロー管理)。東京電力PGについては2017年度収支から廃炉等負担金を踏まえて厳格な値下げ基準が適用されることとなりましたが、当該基準に達していませんでした。

収入面においては、節電・省エネ等により電力需要が減少したため、中部電力、北陸電力、九州電力、沖縄電力を除く6社で実績収入が想定原価を下回りました。

費用面においては、東京電力PG、関西電力、九州電力の3社については、主に設備関連費の減少により実績費用が想定原価を下回り、他の7社については、主に人件費・委託費等の増加により実績費用は想定原価を上回りました。

この結果、2017年度の託送収支においては、中部電力、九州電力を除く8社で当期超過利潤がマイナス(当期欠損)となりました。

②効率化に向けた取組状況

(ア)経営効率化の実施状況

各社とも、前回の事後評価で紹介された他社の優れた取組について検討を進め、可能なものは自社に取り込むなど、費用削減に向けた取組を着実に進めていました。一方で、東京電力PG以外の各社においては、送配電部門全体としての効率化の実績・見通し・目標や個別取組に関する説明が必ずしも具体的・定量的ではないこと等が課題として指摘されました。

中長期的なコスト削減目標を掲げて自社の対応や取組を説明していくことは、公共性のある財・サービスの提供を独占的に担う送配電事業においては極めて重要です。また、目標を掲げるからこそ効率化等の取組が加速される側面もあります。

各社においては、系統利用者や最終的な費用負担者である需要家にわかりやすいかたちで、効率化に向けた様々な努力やその全体像を具体的かつ定量的に説明していくことが期待されます。

(イ)調達合理化に向けた取組状況
(i)仕様の統一化
仕様の統一化について、前回の事後評価で各社が掲げた今後の取組の進捗状況を確認したところ、例えばコンクリート柱などの配電機材に関する仕様統一化に向けた検討の場として全10社からなる作業会を立ち上げるなど、新たな動きもみられました。また、各社においては、架空送電線、ガス遮断器、6.6kV地中ケーブルについて、仕様統一化や調達改革に向けた自主的ロードマップを策定しています。
付属品や個別の要求仕様(オプション)など、基本仕様に上乗せした各社独自の仕様の存在が調達市場の規模を小さくし、調達コストの上昇につながっている可能性もあります。また、設備仕様の共通化は災害時等の復旧作業の円滑化等に資するとも指摘されています。
各社においては、JIS規格の採用といった取組だけではなく、付属品や個別の要求仕様の事業者間の差の実態を把握してその必要性を精査し、国際調達を可能にすることも含め、可能な限り仕様の標準化・共通化を進めるよう取り組むべきです。
(ii)競争発注比率/発注方法の工夫・改善
各社の送配電部門の競争発注比率は上昇基調にあり、直近では70%超のグループと30~50%程度のグループに大別されます。競争発注比率が相対的に低い北海道、中部、中国、四国、九州においては、特に配電工事にかかる比率が低くなっていました。
また、今回の事後評価では、比較的取組が進んでいる東京電力PGの取組状況を確認したところ、取引先へのヒアリング結果を踏まえて発注区分の細分化、入札要件の緩和、発注図面の標準化等に取り組むことで地元の中小・中堅企業による受注範囲の拡大を図るとともに、入札への参入を要請することで他エリアや通信系の工事会社などに新規取引先を拡大していました。また、競争により決定した取引先と協働して仕様を含む発注方法や製造工程を見直し、コスト削減による利益を共有するといったWin-Winの関係構築に努めていました。
各社においては、競争発注比率を可能な限り高めていくとともに、今回紹介された取組事例も参考に、発注方法の更なる工夫・改善に向けて継続的に取り組むべきです。
(ウ)調達単価・工事費負担金の状況
(i)調達単価(単位当たりコスト)の比較分析
送電設備(鉄塔、架空送電線、地中ケーブル)の単位当たりコストについては、立地場所や設備のスペックなど事業者側では制御困難な工事の個別性を考慮して比較したところ、中部電力(鉄塔)、東北電力・沖縄電力(架空送電線)は他社よりも割高な単価となっている可能性が示唆されました。また配電設備(鉄筋コンクリート柱)については、全社ともに単位当たりコストが上昇傾向にあり、中でも中部電力は割高な単価となっている可能性が示唆されました。さらに、公表データの分析により、各国間で法規制等様々な要因が異なることから単純比較は困難であるものの、日本の送電線及び鉄塔の単位当たりコストは海外よりも高い可能性も示唆されました。
各社においては、今回公表された調達単価水準の分析等も参考にしながら、調達コストのたゆまぬ削減に向けて取り組んでいくべきです。
(ii)系統連系する際の工事費負担金の比較分析
新たに発電設備を設置しようとする者が系統連系する際に負担する工事費負担金工事に係る費用のうち電源線の敷設費用についても、物品費と工事費を含めた単位当たりコストを分析したところ、エリアごとの差はあるものの、10社平均でみると、鉄塔については工事費負担金工事の方がそれ以外の系統拡充・更新工事よりも安く、架空送電線については工事費負担金工事の方が高い傾向にありましたが、その主な要因としては工事費負担金工事の場合は1回線鉄塔の割合や送電線のkm当たりコストに占める固定費の割合が高いこと等が考えられ、必ずしも工事費負担金工事かどうかで顕著な差は生じていない可能性が示唆されました。
再生可能エネルギーの更なる導入拡大等を図るためにも、各社においては、工事費負担金工事についても調達コストの削減に向けて取り組んでいくことが求められます。
なお、発電設備設置者自らが自営線を整備することで工期を短縮する等により、経済的メリットを享受する事例もありました。系統連系に当たっては、用地交渉等の困難性を考慮しつつも、工事費負担金工事に要する工期等についてより正確な見積もりを提示していくことが期待されます。また、系統利用者である発電側に多様な選択肢を提供する観点から、一般送配電事業者が工事を行う工事費負担金工事以外の選択肢があることは適切に説明されるべきです。

③中長期的な安定供給等適切なサービスレベルの確保に向けた取組状況

(ア)計画的かつ効率的な高経年化対策の推進

2017年度の設備更新計画と実績を確認したところ、概ね計画どおりに実施されていました。また、設備更新計画の見直し状況を確認したところ、計画変更がある場合は、設備の劣化状況を再精査の上、更新時期・数量を見直し、工事量を平準化させる方向で変更されていました。さらに、アセットマネジメントシステムの導入など、IoTやAI等を活用することで、より計画的かつ効率的に高経年化対策を進めていこうとする動きもみられました。

一方で、グループ全体の収支・財務状況等を考慮して修繕等を一時的に繰延べた事業者もいました。また、系統連系工事の増加に伴う施工力上の問題や託送収支の悪化を理由に、高経年化に係る足元の設備更新計画の見直しを行っている事業者もいました。

高度経済成長期に整備された設備が今後設備更新の時期を迎えます。こうした中、一般送配電事業者が求められるサービスレベルを将来にわたりできる限り効率的に維持し、将来の託送料金を最大限抑制するためには、劣化更新時期の延伸化措置や工事の平準化に向けた検討等を継続的に行って計画を随時見直しつつ、着実に高経年化対策を進めていくべきです。また、対策を進めるにあたっては、新規・拡充工事を含む設備投資計画全体との整合性も求められます。

各社においては、再生可能エネルギーの導入拡大や人口減少といった事業環境の変化も踏まえ、将来の系統がどうあるべきか検討しつつ、中長期的視点で計画的かつ効率的に設備投資や高経年化対策を進めるべきです。また、その取組状況を適切に説明していくことが求められます。

(イ)一般送配電事業者が提供するサービスレベルの確認・評価

今回の事後評価においては、一般送配電事業者が提供するサービスレベル(成果・アウトプット)について多角的に評価すべく、停電等の状況に加え、新規に系統連系する際の対応等について確認を行いました。

各社の一需要家当たりの停電回数及び停電時間についてみると、大規模災害を除き低水準で安定していました。系統への接続検討の申込に対する回答の遅延割合についてみると、東京電力PG、東北電力、北海道電力、九州電力の4社については全10社平均を上回っていました。

各社においては、安定供給や市場競争の基盤となるサービスの質を適切に確保していくべきです。

(6)法的分離に伴う行為規制

電気事業法等の一部を改正する等の法律(2015年法律第47号)において、送配電部門の中立性を一層確保するため、2020年度から一般送配電事業者と送電事業者の法的分離を実施し、あわせて、一般送配電事業者とその特定関係事業者(以下「一般送配電事業者等」という。)及び送電事業者とその特定関係事業者(以下「送電事業者等」という。)に行為規制を導入することが規定されたところ、その詳細は経済産業省令に定めることとされています。

そこで、電力・ガス取引監視等委員会 制度設計専門会合において一般送配電事業者等及び送電事業者等にかかる行為規制の詳細や監視の在り方等について議論を行い、「一般送配電事業者及び送電事業者の法的分離にあわせて導入する行為規制の詳細について」を取りまとめました。さらに、「一般送配電事業者及び送電事業者の法的分離にあわせて導入する行為規制の詳細について」を踏まえ、電力の適正な取引の確保を図るために必要な行為規制を内容とする電気事業法施行規則等の改正を、2018年6月に電力・ガス取引監視等委員会から経済産業大臣に建議しました。建議を踏まえ、行為規制の具体的な内容等を定めるため、2018年12月に電気事業法施行規則(平成7年通商産業省令第77号)の改正を行いました。

(主な行為規制等の内容)

(ア)情報の適正な管理のための体制整備等
  • (i)  建物を発電・小売電気事業者等と共用する場合には、別フロアにするなど物理的隔絶を担保し、入室制限等を行うこと
  • (ii) 一般送配電事業者及び送電事業者は、自らの託送供給等業務の実施状況を適切に監視するための体制整備を行うこと
  • (iii)内部規程の整備、従業者等の研修・管理などの法令遵守計画を策定し、その計画を実施すること 等
(イ)社名、商標、広告・宣伝等に関する規律

以下の行為を禁止行為として規定

  • (i) 一般送配電事業者がグループの小売電気事業者又は発電事業者と同一であると誤認されるおそれのある商号、商標を用いること
  • (ii)一般送配電事業者がグループ内の小売電気事業者又は発電事業者の営業活動を有利にする広告、宣伝その他の営業行為を行うこと 等
(ウ)業務の受委託の禁止の例外
  • (i) 一般送配電事業者及び送電事業者がグループ内の発電・小売電気事業者等及びその子会社等に例外的に送配電業務を委託することができる要件
  • (ii)一般送配電事業者及び送電事業者がグループ内の発電・小売電気事業者から発電・小売業務を例外的に受託することができる要件等
(エ)グループ内での取引に関する規律の詳細

取引規制の対象となる一般送配電事業者と「特殊の関係のある者」を以下の通り具体的に規定

  • (i) グループ内の発電・小売電気事業者等の子会社等及び関連会社
  • (ii)グループ内の発電・小売電気事業者等の主要株主
(オ)取締役等及び従業者の兼職に関する規律の詳細
  • (i) 取締役等の兼職禁止の例外について具体的に規定
  • (ii)兼職禁止の対象となる従業者の範囲を具体的に規定

(7)電気の経過措置料金に関する検討

電気の経過措置料金については、2016年4月に電力の小売全面自由化を実施した際、低圧(家庭用等)には、経過措置として旧一般電気事業者の規制料金(「経過措置料金」)も存続させましたが、経過措置は、自由料金の事実上の上限として機能しているところ、供給区域ごとに競争状態を見極め、2020年4月(送配電分離)以降、解除していく仕組みとなっています。

経過措置の解除に当たっては、各地域で「規制なき独占」となって不当な値上げが生じることのないよう、競争状況を十分見極めた慎重な検討が必要であり、競争研における議論においては、(i)消費者等の状況、(ii)十分な競争圧力の存在、(iii)競争の持続的確保を総合的に判断する必要があるとし、下図のとおり具体的な解除基準案を取りまとめました。

【第361-4-6】中間論点整理における経過措置料金の解除基準案(概要)

出典:
競争的な電力・ガス市場研究会 中間論点整理を基に電力・ガス取引監視等委員会事務局作成

2018年9月13日付けで経済産業大臣から、電力・ガス取引監視等委員会に対して、以下の事項について意見照会があったことを踏まえ、同委員会の下に設置された「電気の経過措置料金に関する専門会合」が専門的観点から、調査・審議を行っております。

【第361-4-7】経済産業大臣から意見照会を受けた検討事項

出典:
電力・ガス取引監視等委員会事務局作成

5.電力市場の更なる効率化、競争促進のための取組

(1)電力市場での競争促進策の検討

電力市場及びガス市場における競争を促進することによって、需要家の利益を最大化し、電気事業及びガス事業の健全な発達を図る観点から、これらの市場の競争促進策(競争評価、卸取引、小売取引のあり方等)を検討する必要があります。

このため、電力・ガス取引監視等委員会事務局長の私的懇談会として、2017年10月より競争的な電力・ガス市場研究会(以下「競争研」という。)を設置し、電力システム改革の趣旨を踏まえて、より一層競争を促進していくため、電力市場における競争促進策の検討を行いました。

具体的には、(ア)電力事業における市場の画定の理論的整理を行ったうえで、(イ)小売電力市場と(ウ)卸電力市場について、それぞれの競争政策上の課題の検討を行いました。加えて、電気事業法等の一部を改正する法律(2014年法律第72号)附則第16条の規定による経過措置料金規制について、2019年4月より「指定旧供給区域」の指定の要否の判断が可能となりました。以下がその概要です。

(ア)電力事業における市場の画定の理論的整理

市場画定の理論的、実務的な目的・位置づけ等については、独禁法においても多くの議論があるが、客観的、論理的な議論を進める上で有用です。事業法の観点からも、独禁法における市場画定の考え方を踏まえて、市場支配的事業者の行為等によってどのような市場で競争に歪みが生じる可能性があるかを検討し、必要な措置を検討することが有益です。

競争研における議論では、電力事業における市場画定として、需要家にとっての代替性と供給者の供給する電力供給の特性(価格体系、関連サービスの有無等)を基礎として、小売電力市場と卸電力市場のそれぞれについて、地理的範囲と商品範囲について市場画定をどのように考えるべきか、基本となる考え方の整理を行いました。

(イ)小売電力市場における競争政策上の課題

小売電力市場における競争政策の課題として、以下の3点について検討を行いました。

(i)電力市場における差別対価・マージンスクイーズ
一部地域の旧一般電気事業者が、新電力にスイッチングしようとする顧客や公共入札を行う顧客など特定の顧客に対し、非常に安い価格(託送費を除き5円~8円/kWhとの報告もあり、機会費用を下回る可能性がある。)で小売供給を提案する事例や、旧一般電気事業者が顧客に対する営業活動の際、「必ず、新電力より安い小売価格とする。」といった(新電力の実際の提案価格をそもそも考慮しない)最低価格保証ないし実質的に類似する効果を持つ営業活動を行う事例等があるとの指摘があった。これについては、不当な参入阻止戦略ないし、市場閉鎖をもたらす戦略として、典型的なものではないかとの指摘があり、今後、対応が検討される必要があるとの整理を行いました。
また、電源アクセスに関するイコール・フッティングが確保されていない状況において、旧一般電気事業者が、合理的な価格で卸供給を行わない一方で、新電力にスイッチングしようとしている顧客など特定の顧客に対してのみ、差別的に、調達可能価格以下の水準による小売供給(以下「差別的廉売」という)を提案し、又は実施することは、競争を歪める可能性が高いと考えられます。このようなケースを主に念頭に置きつつ、旧一般電気事業者が差別的廉売を行う場合における適切な規制を現行事業法のガイドライン等において行うことが検討される必要があるとの整理を行いました。
(ii)セット割引
旧一般電気事業者又は旧一般ガス事業者が、電力とガスをセットで購入する顧客に対してのみ、電力又はガス料金について、大幅な割引を提供する事例があるとの指摘があります。一般論としては、セット割引は、競争政策の観点から、通常は、特に問題となるものではないが、例えば、旧一般電気事業者が、電力とガスをセットで購入する顧客についてのみ、電力料金を大幅に割り引くことによって、ガス事業者の事業運営を困難にする可能性があります。(単品購入では割り引かず)セット購入の場合にのみ、あえて、そのような大幅な割引を行うことについて、正当な理由が存在しないときは、旧一般電気事業者又は旧一般ガス事業者が市場支配力を利用して競争者を排除しようとする不当な行為になりうるものとして、競争政策の観点からの規制が検討される必要があるとの整理を行いました。
(iii)部分供給
旧一般電気事業者が顧客に対して、全量供給(=部分供給の廃止)を条件として割引を行う行為は、電源アクセスに関するイコールフッティングが確保されていない現状においては、新電力が対抗することを困難にして、部分供給を制度として設けた趣旨を損ない、問題となり得ます。また、そもそも、自社とのみ取引を行うことを条件として、割引を供与することは、それが新電力の事業を困難とする恐れがある場合には、独占禁止法上も排他条件付取引として違法なものとなり得るとの指摘がありました。
一方で、部分供給については、そもそも本来の制度趣旨に立ち返って、部分供給の現在の在り方と本来あるべき姿について議論が必要との指摘もありました。
(ウ)卸電力市場における競争政策上の課題

沖縄以外の地域については、卸電力取引所における取引量増大によって、市場閉鎖が生じるリスクはある程度減少しています。ただし、取引所の価格変動が大きく、特に、ピーク時には、安定的な調達が困難になり、垂直統合事業者の小売部門と比べれば、不利な状況になりうることから、今後も流動性向上に努める必要があります。加えて、発電能力が偏在し、かつ、市場分断も頻発する状況においては、諸外国と比べても、取引所市場における価格操作のリスク可能性が存在することに注意する必要があり、適切な監視が必要です。

この点については、ベースロード市場の創設によって、旧一般電気事業者と新電力の間における電源アクセスのイコールフッティングが改善することが期待されるが、仮に、改善が不十分と判断される状況であれば、ベースロード市場の仕組みのさらなる改善等が検討される必要があります。

また、電源開発株式会社の電源は、我が国の発電能力の10%弱を占めており、その多くは可変費の安い石炭又は水力発電所であって、小売電気事業者の競争上も重要な位置づけを占めています。これらの電源のうち小売全面自由化以前に稼働したものについては、旧一般電気事業者との間で長期間にわたる基本契約が維持されているが、仮に当該基本契約による拘束が継続することで、(場合によっては、他の基本契約の継続等とあいまって、累積的に)新電力との競争環境を歪める場合には、競争政策の観点から、切り出しその他新電力が電発電源を利用しうる方策について検討が必要となります。

なお、当該対応の要否の検討にあたっては、新電力が小売市場(その部分市場を含む)における公正な競争を行うために必要となる取引所内外からの用途に応じた電源調達の可能性等を踏まえた競争条件のイコールフッティングが図られることが重要であり、例えば、今後創設されるベースロード市場において旧一般電気事業者や電源開発が電気を供出する際の対応(適切な価格による売入札が行われるか等)が適切なものとなっているか否かなどが判断の要素となるものと考えられます。

(2)卸電力取引の活性化

電力システム改革の目的である小売電気事業者間の競争を通じた安定的かつ安価な電力供給を実現するためには、小売電気事業者が小売供給に必要な電源を市場から調達できるだけの卸電力市場の活性化が不可欠となっています。このため、制度設計専門会合では、卸電力市場の活性化に向けた取組などについての議論を行っています。

具体的には、制度設計専門会合において、(ア)旧一般電気事業者による自主的取組の改善、(イ)グロスビディングによるスポット市場活性化策の検討、(ウ)先渡市場や時間前市場の活性化策の検討などを実施しています。

まず、(ア)旧一般電気事業者による自主的取組の改善については、「電力システム改革専門委員会報告書」(2013年2月)において、旧一般電気事業者は必要な予備力を除く余剰電力を限界費用ベースで全量市場へ供出する旨の整理が行われているところ、旧一般電気事業者へのヒアリングなどを通じ、小売部門の予備力削減や入札制約の合理化などの改善を提案することで、自主的取組の更なる改善を推進し、卸電力市場の流動性の向上を実現しました。また、旧一般電気事業者が電源開発株式会社の保有する電源(以下「電発電源」とする。)と長期相対契約を締結している現状を踏まえ、契約内容の分析やヒアリングなどを通じ、電発電源の更なる切出しを実現しました。

次に、(イ)グロスビディングによるスポット市場活性化策については、諸外国における卸電力市場の活性化策も踏まえつつ、卸電力市場の流動性向上や価格指標性の向上、社内取引価格の透明性向上などを目的として、旧一般電気事業者の社内取引の一部又は全部について、必要量の買戻しを前提に取引所を介して売買するグロスビディングの導入に向けた取組を実施しました。電力・ガス取引監視等委員会においては、第28回制度設計専門会合(2018年3月29日)において、旧一般電気事業者9社のグロスビディングの取組状況を分析し、その取組は着実に進展しており、当初の目的を一定程度果たしていることを確認しました。今後、制度設計専門会合において継続的にモニタリングし、より効果的な実施方法やその他改善策等についても分析・検討を行うことを予定しています。

また、(ウ)先渡市場の活性化策については、(i)中長期的な電源確保、(ii)取引所の価格固定、(iii)発電設備の最大限活用などの先渡市場に期待される役割を十分に担うことができる市場へ変革するため、制度設計専門会合において先渡市場の課題や改善策等について議論を行いました。市場範囲を全国1つから、東日本・西日本の2エリアにするなどの改善策を2018年8月から実施することとしました。また、時間前市場については、市場の厚みに対する信頼性の確保、取引利便性の向上、FITインバランス特例制度の見直し等の他制度への対応といった観点からの取引の円滑化や活性化策について論点整理を行いました。今後、事業者へのアンケート等を行い、更に検討課題を深掘りしていくこととしました。

その他、沖縄地域における卸電力市場の活性化策の検討などを実施しました。

(3)間接オークション・間接送電権の導入

地域間(エリア間)連系線の利用については、従来、「先着優先」と「空おさえの禁止」を原則として、広域機関によって利用計画が管理されていました。貫徹小委中間とりまとめにおいては、連系線利用ルールを見直すことで、公正な競争環境の下、送電線の利用と広域メリットオーダーの達成を促し、さらなる競争活性化を通じて電気料金を最大限抑制し、事業者の事業機会の拡大を実現していくことが適当とされました。また、公平性・公正性を確保するとともに、卸電力市場の取引量増加を図るため、現行連系線利用ルールを「先着優先」から、市場原理に基づきスポット市場を介して行う「間接オークション」へと変更することを軸にルールの見直しを行うこととされました。その後、2017年7月の制度検討作業部会の第一次中間論点整理において、「先着優先」に基づく連系線の利用登録の受付を停止する形で間接オークションが導入されることとされ、2018年10月から間接オークションが導入されました。間接オークションの開始後、前日スポット市場の約定量は、間接オークションの開始前に比べて、1.5倍に増加しました。スポット市場の約定量は引き続き増加しております。

日本卸電力取引所(JEPX)の前日スポット市場においては、全国の参加者が売り買いの入札を行い、売り札についている最も価格の安いものから、買い札については最も価格が高いものから約定するよう約定計算が行われます。こうした約定計算を行う際、連系線をまたぐ取引の量が計算され、全ての取引が連系線の空容量の範囲内で取引を行うことができれば、全国一律の価格(システムプライス)に決定されます。他方で、連系線の空容量の範囲内では取引できない場合、連系線の空容量を勘案し、各々の連系線を最大限活用するよう、改めて約定計算が行われます。こうして連系線混雑を考慮し約定計算をした結果、エリアごとに計算されるスポット価格(エリア価格)が異なる場合があり(市場分断)、このエリア間の価格の差異を「エリア間値差」と称します。

貫徹小委や制度検討作業部会においては、先着優先から間接オークションへの移行やBL市場等の卸電力市場活性化策の実施に伴い、エリア間値差がより多くの事業者に影響を及ぼしうることを踏まえ、こうしたリスクを軽減する仕組みが必要との議論が行われてきました。

諸外国においても、例えば、米国のPJMエリア(ペンシルバニア州、ニュージャージー州、メリーランド州、バージニア州及びデラウェア州)においては、地点別の限界価格(LMP)に頻繁に値差が発生することによる事業者のエリア間値差の負担リスクを減少させられるよう、エリア間の値差発生リスクを軽減する間接送電権の仕組みが整備されています。

上記を踏まえ、我が国においても、①ベースロード市場を含む先渡市場や、前日スポット市場、相対取引等における、エリアをまたぐ広域的取引の環境の整備、②連系線の効率的な利用、③間接送電権の取引の透明性の確保という視点を踏まえながら、取引参加者にとっての利便性や、ベースロード市場を含む先渡市場の活性化にも留意しつつ間接送電権の仕組みを整備することとなり、2019年4月から間接送電権市場の取引を開始しました。

【第361-5-1】連系線利用状況イメージ

出典:
資源エネルギー庁作成

(4)効率性向上のための送配電網の維持・運用費用の負担の在り方

制度設計専門会合では、2015年秋以降、効率性向上のための送配電網の維持・運用費用の負担の在り方について、電力システム改革の進展など電力市場を取り巻く環境変化を踏まえ、検討を進めてきました。2016年7月の第9回制度設計専門会合において、それまでの検討内容を踏まえ、論点整理を行いました。具体的には、①発電事業者の負担の在り方、②小売事業者の負担の在り方、③ネットワーク利用の効率化の推進、と論点を大きく3つに分け、また、それらは相互に深く関連することから、今後、一体として、引き続き関係者の意見も聴きながら検討を深めていくこととしました。

2016年9月、上記の各論点について検討を深めるため、制度設計専門会合の下に送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ(座長:横山明彦 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)が設置され、2017年6月、第6回会合において、今後の検討課題について示した「検討すべき論点」を公表しました。その後、2018年6月、全12回にわたる議論の結果を中間とりまとめとして公表するとともに、その内容を踏まえた今後の託送料金制度の見直しについて、経済産業大臣に対して建議を行いました。

中間とりまとめにおいては、人口減少や省エネルギーの進展等による電力需要の伸び悩み、再生可能エネルギーの導入拡大等による系統連系ニーズの拡大、送配電設備の高経年化に伴う修繕・取替等の増大など、電力系統を取り巻く環境変化に対応しつつ、託送料金を最大限抑制しつつ必要な投資を確保すべく、①送配電設備を利用する者の受益や送配電関連費用に与える影響に応じた公平、適切な費用負担の実現、②一般送配電事業者だけでなく、送配電設備の利用者である発電側・需要側両方に対して合理的なインセンティブが働く制度設計、といった2点を基本的な視座として、以下の4点を柱とする制度見直しの方向性を示しています。

(i)発電側基本料金の導入

現行の託送料金原価の範囲を変えないことを前提に、従来、小売電気事業者側(需要側)にのみ負担を求めていた託送料金の一部について、その受益に応じて発電側にも負担を求めること

(ii)送配電関連設備への投資効率化や送電ロス削減に向けたインセンティブ設計

需要地近郊や既に送配電網が手厚く整備されている地域など、送配電網の追加増強コストが小さい地域の電源について発電側基本料金の負担額を軽減すること

(iii)電力需要の動向に応じた適切な固定費の回収方法

送配電関連費用のうち固定費に関する部分については、原則として基本料金で回収する方向で託送料金を見直すこと

(ⅳ)送電ロスの補填に係る効率性と透明性の向上

一般送配電事業者に送電ロスに係る情報の公表、送電ロスの削減に向けた取組を促すとともに、送電ロスの調達・補填主体を小売電気事業者から一般送配電事業者へ移行することを基本として検討を深めること

発電側基本料金の導入を軸とする制度見直しについては、2020年以降できるだけ早い時期を目途に導入することを目指して、今後、制度の詳細について検討を深めていくこととしています。

(5)容量市場の創設に向けた検討

かつての総括原価方式の枠組みの下では、発電投資は規制料金を通じて安定的に回収されてきました。総括原価方式と規制料金の枠組みによる投資回収の枠組みがない中では、原則として、発電投資は市場取引を通じて、または市場価格を指標とした相対取引の中で投資回収されていく仕組みに移行していくと考えられます。このため、固定価格買取制度の対象となる再生可能エネルギー電源を除けば、大部分の電源に係る投資回収の予見性は、従来の総括原価方式下の状況と比較して、低下すると考えられます。

また、固定価格買取制度等を通じて、再エネが拡大することになれば、従来型電源の稼働率が低下するとともに、再エネ電源が市場に投入される時間帯においては市場価格が低下し、全電源にとって売電収入が低下すると考えられます。その結果、電源の将来収入見通しの不確実性が高まり、事業者の適切なタイミングにおける発電投資意欲を更に減退させる可能性があります。

今後、仮に電源投資が適切なタイミングで行われなかった場合、電源の新設やリプレース等が十分になされない状態で、既存発電所が閉鎖されていくこととなります。そのような場合には、中長期的に供給力不足の問題が顕在化し、更に電源開発に一定のリードタイムを要することから、①需給が逼迫する期間にわたり、電気料金が高止まりする問題や、②再エネを更に導入した際の需給調整手段として、必要な調整電源を確保できない問題等が生じると考えられます。

こうした状況を踏まえると、単に卸電力市場(kWh価値の取引)等に供給力の確保・調整機能を委ねるのではなく、一定の投資回収の予見性を確保する施策である容量メカニズムを追加で講じ、電源の新陳代謝が市場原理を通じて適切に行われることを通じて、より効率的に中長期的に必要な供給力・調整力が確保できるようにすることが求められます。

貫徹小委中間とりまとめにおいては、こうした観点から検討を進めた結果、一定量の供給力を確保することができる「容量市場」は、①予め必要な供給力を確実に確保することができること、②卸電力市場価格の安定化を実現することで、電気事業者の安定した事業運営を可能とするとともに、電気料金の安定化により需要家にもメリットがもたらされること、③再エネ拡大等に伴う売電収入の低下は全電源に影響していること等を踏まえると、最も効率的に中長期的に必要な供給力等を確保するための手段であるとされました。

また、こうした措置は、投資回収の予見性を高めるための措置であり、必要な電源投資等のための総コストは変わらない、もしくはリスクプレミアム等の金利分が減少することから、中長期的に見た小売事業者の負担はむしろ抑えられると評価されています。

ほとんどの自由化先進国において、前述した意義に基づき、容量メカニズム等の投資回収の予見性を高める施策が措置されています。一般に、容量メカニズムは供給信頼度確保を目的として導入され、容量市場は、長期的に必要な供給力を確保する観点からは、他の同種の制度よりも、より良いと考えられています。

制度検討作業部会においては、貫徹小委中間とりまとめを受け、容量市場の詳細制度設計について、本作業部会におけるヒアリングや、広域機関における検討も踏まえつつ、検討を行っています。検討されている容量市場は、広域機関がピーク需要時に必要な容量を確保し、小売事業者がピーク需要時の需要の比率に従って費用を負担する仕組みが想定されています。容量市場は2020年度から取引を開始し、2024年度に容量契約の発効を行うべく詳細検討を行っています。

【第361-5-2】容量市場創設後の収入

出典:
資源エネルギー庁作成

(6)需給バランス調整のための調整力確保

①調達力の調達・運用の改善

2016年4月1日に、電力小売全面自由化や新たなライセンス制の導入を定めた第2弾改正法が施行され、これまで旧一般電気事業者(以下「旧一電」という。)が自社の発電設備を用いて行ってきた、系統全体の周波数維持などの高品質な電力供給を確保する業務であるアンシラリーサービスは、一般送配電事業者が担うこととなりました。また、一般送配電事業者は、アンシラリーサービスの実施に必要な電源などを調整力として発電事業者などから調達するとともに、その調整力の確保に必要なコストは託送料金で回収される仕組みとなりました。この仕組みにより、発電事業者などによる競争が進み、多様な発電事業者などの参画による調達が可能な調整力の量の増大や、質の向上、一般送配電事業者による更なる効率的な調整力の活用が期待されています。

この仕組みは、一般送配電事業者による調整力の調達が公平性・透明性を確保した上で行われることを前提として機能するものであることから、2016年度から行われている一般送配電事業者による調整力の調達は、原則として、公募などの公平性かつ透明性が確保された手続により実施する必要がありますが、その手続の具体的な内容は各一般送配電事業者に委ねられていました。

このため、事前に一般送配電事業者による適切な調整力の調達の在り方について基本的な考え方を示し、調整力の公募調達が公平性・透明性を確保した形で円滑に開始できるよう、電力・ガス取引監視等委員会の下に設置した制度設計専門会合において、公募調達の公平性・透明性を担保するための考え方、望ましいと考える公募調達の実施方法などをその内容とする「一般送配電事業者が行う調整力の公募調達に係る考え方」を取りまとめ、2016年9月26日に電力・ガス取引監視等委員会として経済産業大臣に対して建議を行いました。

その後、本建議を踏まえ、経済産業大臣により、「一般送配電事業者が行う調整力の公募調達に係る考え方」(以下「公募ガイドライン」という。)が制定され、一般送配電事業者は当該考え方に基づき、調整力の公募調達を実施しています。

(i)2019年向けの公募調達の実施に向けた改善
2019年度の公募に向け、電力・ガス取引監視等委員会では更なる改善の必要性などについて、発電、小売事業者やディマンドリスポンス事業者などに対してアンケートを実施し、その結果を踏まえた公募の改善要請を一般送配電事業者に対して実施しました。
その結果、2018年6月の制度設計専門会合において、最低容量の引き下げ、ペナルティ要件の緩和等の改善策が了承され、2018年秋に実施される公募から当該改善策が実施されることとなりました。
(ii)2017年度の調整力の稼働実績に係る分析
2017年度は公募により調達された調整力の運用が開始された初年度であったことから、2017年度1年間分の調整力の稼働データを用い、2018年5月、大きな不足インバランスが発生した回数とその要因、それに対して一般送配電事業者が調整力を用いてどのように対応したかを分析しました。また、合わせてH3需要の7%を超える不足インバランスが発生した主要因の分析を行った結果、九州及び四国エリアにおいて、FIT特例①(太陽光)予測外れを主要因とするものが多くあることを確認しました。今後、太陽光発電はさらに増加すると見込まれ、太陽光の発電計画の予測精度を高めていくことが重要であることから、発電計画の予測精度改善に向けた方策等について検討していくこととしました。
(iii)電源Ⅱの事前予約の適正化
太陽光発電等の大きな予測外れが発生した際、エリア内に電源Ⅱ余力が残っていなければ対応できないケースがあり、そうしたケースにおいて、一部の一般送配電事業者は、スポット市場前にエリア内の旧一電(発電・小売部門)に一定量の電源Ⅱを確保しておくよう要請(電源Ⅱの事前予約)していることが判明しました。電力・ガス取引監視等委員会は、こうした電源Ⅱの事前予約について、透明性・公平性等の観点で望ましい方法について検討を求めていました。
電力広域的運営推進機関における検討の結果、2021年度に予定される需給調整市場開設までの暫定対応として、必要なケースには電源Ⅱの事前予約を認めるべきとの結論が得られたことを踏まえ、制度設計専門会合において、電源Ⅱの事前予約における市場支配力を有する者への規律の必要性の検討を行い、発電機の選定や精算における規律を導入することが決定されました。

②需給調整市場の創設

一般送配電事業者が電力供給区域の周波数制御、需給バランス調整を行うために必要な調整力を調達するにあたっては、特定電源への優遇や過大なコスト負担を回避しつつ、実運用に必要な量の調整力を確保することが重要となります。

このような観点から、一般送配電事業者による調整力の公募が2016年から実施されることとなり、ディマンドリスポンス(DR)等の調整力も調達されるようになっています。

貫徹小委中間とりまとめにおいては、今後、公募結果を踏まえつつ、需給調整市場の詳細設計を行い、一般送配電事業者が調整力を市場で調達・取引できる環境を整備することが適当であるとされました。また、電力システム改革専門委員会報告書においても、系統運用者が供給力を市場からの調達や入札等で確保した上で、その価格に基づきリアルタイムでの需給調整・周波数調整に利用するメカニズムを送配電部門の一層の中立化に伴い導入することが適当であると記載されています。

諸外国においても需給調整市場を開設し、調整力を市場の仕組みを活用して前週や直前に調達しています。同時に、欧米においては需給調整の広域化にも取り組んでおり、例えば欧州は卸電力市場の広域統合から、需給調整市場の広域統合へ、ルール整備と実証を加速しています。

我が国においても、再エネの導入が進む中で、調整力を効率的に確保していくことは重要な課題です。調整力公募は各エリアの一般送配電事業者がエリア内の調整力のみを調達していますが、効率的に調整力を調達するためには、エリアを超えて広域的に調整力を確保することも課題となっています。他方で、各一般送配電事業者のシステムは、現状において、広域的な調整力の市場調達やその運用を前提として構築されておらず、こうしたシステムの改修や、実運用の変更を、日々の需給調整に支障を生じさせない形で行うためには、ルール検討やシステム構築を慎重に行っていく必要があります。

現在、関係者間において、需給調整市場の詳細設計が進められており2021年からは再生可能エネルギーに対応する調整力が、2024年までにはすべての調整力が需給調整市場を通した調達に切り替わる予定です。また各一般送配電事業者のシステム改修にむけた検討や調整力の広域運用に向けた準備も並行して進められております。

【第361-6-1】需給調整市場の概要

出典:
資源エネルギー庁作成

(7)非化石価値取引市場の創設に向けた検討

エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(以下、「高度化法」という。)により、小売電気事業者は、自ら調達する電気の非化石電源比率を2030年度に44%以上にすることが求められています。

しかし、卸電力取引所では、非化石電源と化石電源の区別がされないため、非化石電源の持つ価値が埋没し、非化石電源比率を高める手段として活用ができません。結果、取引所取引の割合が比較的高い新規参入者にとっては特に、非化石電源を調達する手段が限定される状況になっており、高度化法の目標達成が困難な面があります。

また、FIT電気(固定価格買取制度に基づき買い取られた電気)の持つ環境価値(非化石価値を含む)については、現状、賦課金負担に応じて全需要家に均等に帰属するものと整理されており、国民負担の軽減を図る観点から、その価値を顕在化するような制度設計のあり方についてのさらなる検討が求められているところです。

このような状況を踏まえ、新たな市場である非化石価値取引市場を創設することによって非化石価値を顕在化し、取引を可能とすることで、小売電気事業者の非化石電源調達目標の達成を後押しするとともに、需要家にとっての選択肢を拡大しつつ、FIT制度による国民負担の軽減を促すこととされました。

FIT電気に由来する非化石証書(FIT非化石証書)の取引については、2018年5月に初回オークションを開始し、四半期に一度の頻度でオークションを実施しています。

また、FIT電気以外の再生可能エネルギー等の電気に由来する非化石証書(非FIT非化石証書)については、2020年5月に取引を開始すべく、詳細設計の検討を進めているところです。

なお、、本市場の創設に当たっては、上記の制度趣旨を踏まえ、非化石価値を顕在化し、その価値に適切な評価を与えることができるよう、以下のとおり、非化石証書の有する環境価値と、需要家にとっての選択肢拡大という非化石証書の主な役割について基本的な考え方を整理しました。

(i)非化石証書の有する環境価値
電気の持つ環境価値としてはいくつかの概念が考えられますが、①非化石価値(高度化法上の非化石比率算定時に非化石電源として計上できる価値)以外に、②ゼロエミ価値(CO2排出係数が0kg-CO2 /kWhであることの価値)や③環境表示価値(小売電気事業者が需要家に対しその付加価値を表示・主張する権利)が主なものとして挙げられます。
なお、非化石証書の購入者は販売する電気に非化石証書を使用することで、こうした価値を需要家に訴求することが出来ます。電力の小売営業に関する指針において、電源構成表示に関しては、実際に受電した電源の構成を表示するとの整理がなされており、非化石証書を使用しても電源構成は変わらない点に留意が必要ですが、同指針において、再エネ由来の証書に関しては、電源構成外にて「実質再エネ100%」等の表示することは許容することとしています。
(ii)需要家の選択肢の拡大
証書を購入した小売電気事業者は、非化石価値(再エネ由来の価値)を電気とともに需要家に販売することが可能となります。従って、例えば再エネの推進に貢献したいと考える需要家は、数ある料金メニューから、こうした小売電気事業者が提供する再エネ価値付きのメニューを選択することで、実際に貢献することが可能となります。需要家のニーズが高ければ、非化石価値取引市場が積極的に活用され、小売電気事業者のサービス多様化が図られることが期待されます。
なお、2019年2月のオークションでは、非化石証書に発電所情報等を付与した証書を調達できるよう、実証実験を実施しました。

【第361-7-1】市場創設効果(イメージ)

出典:
資源エネルギー庁作成

(8)自由化の下での財務会計面での課題解決に向けた取組

2016年4月の小売全面自由化以降、総括原価方式による料金規制の撤廃に伴い、電気事業の財務・会計上の特性にも変化が生じました。このため、電力分野の自由化を進めるに当たっては、これら制度変更に伴う課題として、一般の事業においては問題とならないような、例えば、制度変更により事後的に費用が増大する場合の対応費用をどのように回収するかが課題となり得ます。このため、財務・会計制度や負担のあり方について、具体的な措置の検討・審議を行うため、貫徹小委の下に「財務会計ワーキンググループ」を設置し、小売全面自由化の下での原子力事故に係る賠償への備えに関する負担や廃炉に係る会計制度のあり方に関する議論を行い、2017年2月に結果をとりまとめました。

とりまとめで示された方向性を踏まえ、財務会計面での課題解決に向け、2017年10月、2018年4月に制度改正を実施しました。

①原子力事故に係る賠償への備えに関する負担のあり方

東京電力福島第一原子力発電所の事故後、原子力事故に係る賠償への備えとして、従前から存在していた原子力損害賠償法に加えて新たに原子力損害賠償・廃炉等支援機構法が制定され、現在、同法に基づき、原子力事業者が毎年一定額の一般負担金を原子力損害賠償・廃炉等支援機構に納付しています。原子力損害賠償法の趣旨に鑑みれば、本来、こうした万一の際の賠償への備えは、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から確保されておくべきでしたが、政府は何ら制度的な措置を講じておらず(:制度の不備)、事業者がそうした費用を料金原価に算入することもありませんでした。従来、総括原価方式の下で営まれてきた電気事業においては、一般の事業と異なり、将来的な費用増大リスクを見込んだ自由な価格設定を行うことはできず、料金の算定時点で合理的に見積もられた費用以外を料金原価に算入することは認められていませんでした。これは、規制料金の下では、全ての需要家から均等に費用を回収することとなるため、同じ電気を利用した需要家間では不公平は生じないということを前提として、その電気を利用した時点で現に要した費用(合理的に見積もられた費用)のみ料金原価への算入を認めるという考え方に基づいています。

しかし、2016年4月に小売が全面自由化され、新電力への契約切替えにより一般負担金を負担しない需要家が増加していることを踏まえ、賠償の備えを小売料金のみで回収するとした場合、過去に安価な電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担していくことになります。こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、全需要家が等しく受益していた賠償の備えについて、全ての需要家が公平に負担することが適当であり、また、そうした措置を講ずることが、福島の復興にも資するものとの考えに立ち、負担のあり方について、貫徹小委で検討を進めました。その結果、回収する金額の規模は、現行の一般負担金の算定方法を前提とすることが適当と考えられ、現在の一般負担金の水準をベースに、1kWあたりの単価を算定した上で、これを前提に、2010年度までの我が国の原子力発電所の毎年度の設備容量等を用いて算出した金額から、回収が始まる前の2019年度末時点までに納付した又は納付することになると見込まれる一般負担金の合計額を控除した約2.4兆円としました。回収方法については、電源構成に占める原子力の割合は供給区域ごとに異なる一方で、賠償の備えの負担は、過去の原子力の電気の利用に応じて行うべきものであることや、現状、一般負担金は小売規制料金に含まれ、供給区域ごとに異なる水準となっていること等を踏まえると、賠償の備えを国民全体で負担するに当たっては、特定の供給区域内の全ての需要家に一律に負担を求める託送料金の仕組みを利用することが適当と考えられました。

こうした検討を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から確保されておくべきであった賠償の備えを託送料金で回収する仕組みを可能とする制度改正(電気事業法施行規則の改正)を2017年9月に実施しました(施行は2020年4月1日)。

なお、留意点として、本来、発電部門の原価として回収されるべき賠償の備えについて、託送料金の仕組みを通じて広く全需要家に負担を求めるに当たっては、その額の妥当性を担保する措置を講ずるとともに、個々の需要家が自らの負担を明確に認識できるよう、指針等を通じ、小売電気事業者に対し、需要家の負担の内容を料金明細票等に明記する措置を講じることとされました。また、原子力に関する費用について、託送料金の仕組みを通じた回収を認めることは、結果として、原子力事業者に対し、他の事業者に比べて相対的な負担の減少をもたらすものであり、競争上の公平性を確保する観点から、原子力事業者に対しては、例えば、原子力発電から得られる電気の一定量を小売電気事業者が広く調達できるようにするなど、一定の制度的措置を講じることとしています。

②福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保のあり方

東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に必要な資金については、東京電力が負担することが原則であり、東京電力にグループ全体で総力を挙げて捻出させる必要があるとの考え方の下、「国民負担増とならない形で廃炉に係る資金を東京電力に確保させる制度」について、2016年10月に東電委員会から国に対して検討要請がなされました。

この要請を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉の円滑かつ着実な実施を担保するため、長期間にわたり必要となる巨額の資金の管理を担保する制度として、事故炉の廃炉を行う原子力事業者(事故事業者)に対し、廃炉に必要な資金を機構に積み立てることを義務付ける等の措置を講じることを内容とする廃炉等積立金制度を2017年10月より開始し、2018年4月に政府は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構から申請のあった廃炉等積立金を認可しました。

【第361-8-1】全ての需要家から公平に回収する賠償の備えのイメージ

出典:
資源エネルギー庁作成

また、発電・送配電・小売に分社化されている東京電力において、グループ全体で総力を挙げて捻出する資金が自由化の下でも確実に廃炉に充てられるための制度として、東京電力パワーグリッド(送配電部門、以下「東電PG」という。)が親会社(東京電力ホールディングス)に対して支払う東京電力福島第一原子力発電所の廃炉費用相当分について、超過利潤と扱われないように費用側に整理して取り扱われるようにするとともに、乖離率の計算に際して実績単価の費用の内数として扱われるようにする制度的措置を2018年3月に実施しました。なお、この措置を講ずるに当たっては、東電PGの託送料金の値下げ機会が不当に損なわれないよう、東電PG自体の超過利潤・乖離率の代わりに、他の一般送配電事業者の効率化達成状況によって値下げ命令の要否を判断するとともに、東電グループ全体の中で東電PGの負担が過大なものとならないよう、例えば収益性や資産状況を参考に、グループ各社との負担の程度を比較し、著しく不適当な分担となっていないかどうかを確認する措置についても併せて講じています。

③廃炉に関する会計制度の扱い

(ア)廃炉会計制度について

従前の電気事業会計制度の下では、廃炉に伴う資産の残存簿価の減損等により、一時に巨額の費用が生じることで、(i)事業者が合理的な意思決定ができず廃炉判断を躊躇する、(ii)事業者の廃炉の円滑な実施に支障を来す、との懸念がありました。このため、2013年と2015年に、設備の残存簿価等を廃炉後も分割して償却(=負担の総額は変わらないが、負担の水準を平準化)する会計制度が措置されました。こうした制度整備を受けて、2015年に5基、2016年に1基の原子炉について、廃炉決定が行われています。

廃炉会計制度は、計上した資産の償却費が廃炉後も着実に回収される料金上の仕組みが併せて措置されることを前提としており、現在は小売規制料金により費用回収することが認められています。したがって、現在経過的に措置されている小売規制料金が原則2020年に撤廃されることを見据えた場合、今後も制度を継続するには、着実な費用回収を担保する措置を講ずることが不可欠です。この点、2015年3月の廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ報告書(「原発依存度低減に向けて廃炉を円滑に進めるための会計関連制度について」)においては、競争が進展した環境下においても制度を継続させるためには、「着実な費用回収を担保する仕組み」として、総括原価方式の料金規制が残る送配電部門の託送料金の仕組みを利用することとされていました。

制度創設の経緯・趣旨を踏まえれば、廃炉会計制度は、原発依存度低減というエネルギー政策の基本方針に沿って措置されたものとして、本制度を継続することが適当であるとされました。本制度を継続するために必要となる着実な費用回収の仕組みについては、小売規制料金が原則2020年に撤廃されることから、自由化の下でも規制料金として残る託送料金の仕組みを利用することが妥当と考えられます。

こうした検討を踏まえ、廃炉を行う際の設備の残存簿価等について、引き続き小売料金での償却等を認め、2020年4月以降に託送料金での回収を可能とする制度改正(電気事業会計規則等の改正)を2017年10月に実施しました。なお、発電、送配電、小売の各事業が峻別された自由化の環境下で、発電に係る費用の回収に託送料金の仕組みを利用することは、原発依存度低減や廃炉の円滑な実施等のエネルギー政策の目的を達成するために講ずる例外的な措置と位置付けられるべきと考えられます。

(イ)原子力発電施設解体引当金について

原子炉の運転期間中に廃炉に必要な費用を着実に積み立てるため、原子力事業者は、毎年度、原子力発電所一基ごとの廃止措置に要する総見積額を算定し、経済産業大臣の承認を得た上で、各原子炉の発電実績に応じて原子力発電施設解体引当金として積み立てることが義務付けられています。解体引当金は、東京電力福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電所の長期にわたる稼働停止が続き、従来の生産高比例法では引当が進まないといった課題が生じたことから、2013年、引当方法を定額法に、引当期間を運転期間40年に廃炉後の安全貯蔵期間10年を加えた原則50年に変更する制度改正が行われ、今後、競争が進展した環境下でも本制度を継続し、廃炉後の安全貯蔵期間中も引当を継続させるためには、廃炉会計制度と同様、費用回収が着実に行われる仕組みが必要となっています。

その引当期間については、事業者が負担するという原則に立てば、着実な費用回収が前提となる安全貯蔵期間に入る前、すなわち、廃炉前に引当を完了していることが廃炉を円滑に実施する観点からより適切な制度のあり方であり、原則50年としている引当期間を原則40年に短縮することとしました。

引当期間の見直しを行った場合、2013年の制度改正以降に廃炉決定し、解体引当金の残額を10年間に分割した引当を現在行っているものや、今後早期廃炉するものについては、解体引当金の未引当分を一括して引き当てる必要が生じます。しかし、制度の事後的な変更によって、事業者の財務に影響を与えることは適当でないことに加え、こうした費用の発生が早期廃炉を志向する事業者の判断を歪めるようなことがあれば、廃炉会計制度の趣旨にも反するので、2013年の制度改正以降に廃炉決定したものや今後早期廃炉するものに限り、廃炉に伴い一括して計上することが必要となる費用を廃炉会計制度の対象とすることで、一括して発生する費用を分割して計上する仕組みとすることとしました。

解体引当金の基礎となる原発の解体に必要な費用は、1985年及び1999年の総合資源エネルギー調査会原子力部会において示された算定式に基づき、毎年度、物価変動や廃棄物量の変動を加味し、炉ごとに総額(:総見積額)を算定しています。この算定式は、原子力部会において技術的な検討を行った結果として導き出されたものであり、その前提に大きな変更はないことから、現時点で合理的に見積もることできる費用が不足なく含まれているものと評価できます。一方で、この算定式は、モデルとなるプラントの廃炉工程を前提としたものであるため、今後、個々のプラントにおいて廃止措置を実施していく過程等で、例えば、多数の炉が設置されている原子力発電所では、設備の共有等による効率化などにより、総見積額の見直しが必要となり得ます。こうしたことを踏まえ、自由化の下でも廃炉に必要な費用があらかじめ確実に確保されるよう、個別の炉・発電所ごとに固有の事情(規制変更などにより算定式の前提を大幅に変更する必要がある場合を除く)が生じた場合に、当該事象を速やかに総見積額に反映させることが可能な仕組みを導入することが必要と考えられます。ただし、総見積額の妥当性を確保するため、これまでと同様に、総見積額を経済産業大臣が承認する仕組みとすることとしました。

これらの検討を踏まえ、引当期間を原則40年することに加えて、2013年の制度改正以降に廃炉決定したものや今後早期廃炉するものに限り、廃炉に伴い一括して計上することが必要となる費用を廃炉会計制度の対象とする等の制度改正(解体引当金省令の改正)を2018年4月に実施しました。