第5節 国民、自治体、国際社会との信頼関係の構築
東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、国民の多くがこれまでの原子力政策に不信を抱き、また、原子力政策を担う行政や原子力発電所の運営を行う事業者に対する信頼が失墜しているという現状を真摯に受け止め、今後、国民、自治体との信頼関係を構築していくことが重要です。
また、事故の経験から得られた教訓を国際社会と共有することで、世界の原子力安全の向上や原子力の平和的利用に貢献していくとともに、核不拡散及び核セキュリティ分野において積極的な貢献を行うことは我が国の責務であり、世界から期待されることでもあります。
<具体的な主要施策>
1.原子力利用における取組
(1)国民、自治体との信頼関係の構築
① 原子力総合コミュニケーション事業【2017年度当初:4.6億円】
2014年に閣議決定されたエネルギー基本計画に基づき、我が国のエネルギー、原子力、放射線等に関する基礎知識等について、科学的根拠や客観的な事実に基づく的確な情報を提供する取組を行いました。具体的には、次世代層を対象とした体験型の実験教室の開催、地域のイベント等による広報活動、大学生等を対象とした説明会・ワークショップ等の開催、全国の自治体等の講演会等にエネルギー、原子力、放射線の専門家を派遣したほか、教育職員を対象としたセミナーの開催などを行いました。
核燃料サイクル施設の立地地域等に対して は、原子力を含むエネルギー政策や核燃料施設等の新規制基準、核燃料サイクル施設の現状、放射線の基礎知識等について、科学的根拠や客観的事実に基づく情報を提供しました。具体的には、2017年度は、定期刊行物の発行、地域住民が多く訪れる場所や各種イベントを活用した広聴・広報活動を実施しました。
また、高レベル放射性廃棄物の最終処分について幅広い層の国民と対話を行っていくため、全国の各地域に根ざした活動を行っているNPO法人等と連携し、地層処分に関する様々なテーマについてグループワークなどを行う、少人数規模のワークショップも実施しました。
さらに、エネルギー・原子力政策について、立地地域のみならず、電力消費地域をはじめとした国民への理解を一層進めるため、エネルギー・原子力政策に関する説明を全国各地で開催しました。
② 原子力発電施設等立地地域基盤整備支援事業【2017年度当初:49.0億円】
原発等を取り巻く環境変化が立地地域に与える影響を緩和するため、地域資源の活用とブランド力の強化を図る産品・サービスの開発、販路拡大、PR活動等の地域の取組支援、交付金の交付等を実施し、中長期的な視点に立った地域振興に取り組みました。
③ 地域担当官事務所等による広聴・広報
東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、国民の間に原子力に対する不信・不安が高まっており、エネルギーに関わる行政・事業者に対する信頼が低下しています。この状況を真摯に受け止め、その反省に立って信頼関係を構築するためにも、原子力に関する丁寧な広聴・広報が必要であることから、予算を活用した事業のほか、地域担当官事務所等も活用して、地域のニーズに応じた、双方向のコミュニケーションに関する取組を実施しました。
④ 原子力教育に関する取組
原子力についてエネルギーや環境、科学技術や放射線等幅広い観点から総合的にとらえ、適切な形で学習を進めるため、全国の都道府県が主体的に実施する原子力を含めたエネルギーに関する教育の取組(教材の整備、教員の研修、施設見学、講師派遣等)に必要な経費を交付する「原子力・エネルギー教育支援事業交付金」を運用しました(2017年度交付件数:27都道府県)。
⑤ 立地自治体等との信頼関係の構築に向けた取組
原子力発電所の立地自治体等との信頼関係の構築に当たっては、政府職員が立地自治体等に赴いたり、要望に応じて自治体主催の説明会に参加したりして、国の方針や対応を説明するなど、丁寧な理解活動を進めました。
⑥ 電源立地地域との共生
電源立地地域対策交付金については、交付金の使途を従来の公共用施設の整備に加え、地場産業振興、福祉サービス提供事業、人材育成等のソフト事業にも拡充するなど、立地自治体のニーズを踏まえた電源立地対策を実施してきています。再稼働や廃炉など原子力発電所を取りまく環境変化は様々であり、今後も、立地地域の実態に即したきめ細やかな取組を進めていきます。
⑦ 原子力発電所の再稼働に向けた取組
我が国は、エネルギー基本計画において、いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進めることとしています。その際、国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組むこととしています。
そのような方針の下で、これまで川内原発1・2号機が2015年8月と10月に、高浜原発3・4号機がそれぞれ2016年1月と2月、伊方原発3号機が2016年8月に再稼働に至っています(2018年3月現在、伊方原発3号機、川内原発1号機は定期検査中です。なお、伊方原発3号機については、2017年12月広島高裁において運転差止仮処分命令の判決を受けています)。
玄海原発3・4号機については、2017年1月に原子炉設置変更許可がなされ、3号機については、2018年3月に再稼働に至りました。再稼働に至る過程においては、地元自治体が主催する住民説明会や県議会の場で、政府の担当者が、原発の安全対策やエネルギー・原子力政策などについて説明を行い、2017年3月に岸本玄海町長が、4月に山口佐賀県知事が再稼働について理解を表明しました。
大飯原発3・4号機については、2017年5月に原子炉設置変更許可がなされ、3号機については、2018年3月に再稼働に至りました。再稼働に至る過程においては、地元市町が主催する住民説明会や県議会の場で、政府の担当者が、原発の安全対策やエネルギー・原子力政策などについて説明を行い、2017年9月に中塚おおい町長が11月に西川福井県知事が再稼働について理解を表明しました。
柏崎刈羽原発6・7号機については、2017年12月に原子炉設置変更許可がなされました。
⑧ 原子力防災体制の充実・強化に向けた取組
地域全体の避難計画を含む緊急時対応については、内閣府が設置する地域原子力防災協議会の枠組の下、国と自治体が一体となって策定しています。2017年度には、福井エリア地域原子力防災協議会において「大飯地域の緊急時対応」が、具体的かつ合理的なものであると確認され、原子力防災会議でその確認結果が了承されました。また、福井エリア地域原子力防災協議会において「高浜地域の緊急時対応」を泊地域原子力防災協議会において「泊地域の緊急時対応」を、川内地域原子力防災協議会において「川内地域の緊急時対応」を策定しました。
(2)原子力発電に係る国際枠組みを通じた協力
① 国際原子力機関(IAEA)での協力
(ア)原子力発電の利用と放射性廃棄物の管理に関する理解促進への取組
国際原子力機関(IAEA)への拠出を通じ加盟国政府や電力会社等の原子力広報担当者を対象としたワークショップを開催するとともに、出版物の作成等を通じて、原子力発電の役割や安全性、放射性廃棄物管理の重要性に関する正確な情報の提供、透明性の高い情報公開による、原子力発電と放射性廃棄物に対する一般公衆の理解を増進する活動に協力、貢献しました。
(イ)原子力発電導入のための基盤整備支援への取組
IAEAへの拠出を通じ、原子力発電導入を検討している国へIAEA及び国際的な専門家グループによるレビューミッション派遣等の支援を行い、その評価を通じて当該国の制度整備等が確実になされ、核不拡散、原子力安全等への対応がなされることに協力、貢献しました。
(ウ)原子力関連知識の継承への取組
IAEAへの拠出を通じ、原子力発電を導入・検討している国を対象としたセミナー・ワークショップの開催、大学における国際原子力マネジメントコースの認定、出版物の作成等を通じて、我が国及びIAEA加盟国が持つ、原子力に関する知識・技術を適切に継承するための活動に協力、貢献しました。
(エ)核不拡散への取組
IAEAが行う核拡散抵抗性、保障措置、核セキュリティに関する検討、安全性の調査・評価の事業等に拠出を行い、ワークショップ等を開催しました。また、国際的核不拡散体制に貢献するため、アジアの国々等を対象にした核不拡散・核セキュリティ等に関するトレーニングコースをIAEAと連携して実施しました。
② 経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)での協力
OECD/NEAへの拠出を通じ、原子力発電及び核燃料サイクルの技術的・経済的課題、放射性廃棄物、原子力発電の安全確保に関する技術基盤、産業基盤の調査検討活動、原子力研究開発の推進に必要な物性データや計算コードの整備を行うデータバンクや、優秀な若い世代の原子力科学技術への興味関心を高めるための枠組み(NEST)の構築や、東京電力福島第一原子力発電所事故をベースとしたNEAのベンチマーク研究等に協力、貢献しました。加えて、OECD/NEAでは、原子力政策の意思決定におけるステークホルダーインボルブメントに関して問題意識を強く有し、ワークショップの開催など関連する活動を強化しており、我が国も積極的に参画しました。
③ 国際原子力エネルギー協力フレームワーク(IFNEC)
原子力安全・核セキュリティ・核不拡散の最も高い水準を確保しながら、効率的に原子力の平和利用を促進することを目的とするIFNEC(International Framework for Nuclear Energy Cooperation)の枠組みを通じて、2017年度は、原子力発電の供給国と需要国の対話に関するアドホックな活動の立ち上げに協力し、ローカル及びグローバルなサプライチェーンの観点から見た安全性や品質、コスト、雇用といった様々な論点に係る議論に参画しました。
④ 原子力発電導入国等との協力
原子力発電を新たに導入・拡大しようとする国に対し、我が国の原子力事故から得られた教訓等を共有する取組を行っています。2017年度はトルコ、ポーランド、UAE、カザフスタン等の国について、研修生の受入れや我が国専門家等の派遣等を通じて、原子力発電導入に必要な法制度整備や人材育成等を中心とした基盤整備の支援を行いました。
原子力発電導入基盤整備事業補助金【2017年度当初:3.3億円】
東京電力福島第一原発事故の経験から得られた教訓を共有し、世界の原子力安全の向上や原子力の平和的利用に貢献すべく、原子力発電を導入しようとする国々において、導入のための基盤整備が安全最優先で適切に実施されるよう、原子力専門家の派遣や受入等により、法制度整備や人材育成等を行いました。
(参考)原子力規制
原子力規制委員会では、「原子力規制委員会設置法案に対する附帯決議」(平成24年6月20日参議院環境委員会)等に基づき、原子力規制委員会の取組を公表しており、以下に平成29年度におけるその概要を示します。
1.原子力規制行政に対する信頼の確保
(原子力規制行政の独立性・中立性・透明性の確保)
原子力規制委員会は、これまでに引き続き、組織理念に基づいて、公開議論の徹底など透明性の確保に努めつつ、科学的・技術的見地から、公正・中立に、かつ、独立して意思決定を行いました。
原子力規制委員会が設置されて5年が経過したことを受け、現在の原子力規制委員会のありようについて議論を行い、「委員による現場視察及び地元関係者との意見交換」の方針を第49回原子力規制委員会(平成29年11月15日)において決定しました。
また、更田原子力規制委員会委員長が田中前委員長とともに福島県内の13市町村を訪問し、首長との意見交換を行ったほか、新たな取組として委員による現場視察及び地元関係者との意見交換等を開始しました。
ホームページのアクセシビリティ(年齢等に関係なく、誰でも必要とする情報に簡単にたどり着けるようにすること)の向上にも引き続き取り組み、外部とのコミュニケーションの改善等を図りました。
(組織体制及び運営の継続的改善)
平成29年4月の法改正を踏まえ、新検査制度等に対応するため、原子力規制庁の組織を再編し、必要な体制を整備しました。
原子力規制委員会の施策については、内部監査や、原子炉安全専門審査会・核燃料安全専門審査会、政策評価懇談会等国内外の有識者・専門家等のチェックを受けつつ、PDCAサイクルを回しながら改善を進めています。
IAEAの総合規制評価サービスについては、フォローアップミッションを平成31年の夏以降の適切な時期に受け入れるべく、IAEAに要請し、了承されました。
(国際社会との連携)
引き続き、東京電力福島第一原子力発電所の事故から得られた知見や教訓などを国際社会と共有するとともに、情報収集や意見交換を行うなど、国際機関や諸外国の原子力規制機関との連携を図りました。なお、平成29年は、日本が議長国となり、日中韓原子力安全上級規制者会合(TRM)第10回会合を東京で開催し、山中委員が議長を務めました。また、OECD/NEA/CNRAに新たに設置された安全文化ワーキンググループの議長に伴委員が選出されました。
2.原子力施設等に係る規制の厳正かつ適切な実施
(原子炉等規制法に係る規制制度の継続的改善)
「原子力利用における安全対策の強化のための核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等の一部を改正する法律案」が、第193回通常国会で可決され、平成29年4月14日に公布されました。
同法の成立に伴い、核燃料物質の使用者及び国際規制物資使用者に係る規制の適正化、廃止措置実施方針に係る制度整備、廃棄物埋設に係る規制制度の見直しに係る検討及び検査制度の見直しに係る検討を行い、順次関係政令、規則等の整備を行いました。
(原子炉等規制法に係る規制の厳正かつ適切な実施)
原子力規制委員会は、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓等を踏まえて策定した新規制基準に照らし、事業者からの設置変更許可申請等について、科学的・技術的に厳格な審査・検査を行っているところです。
平成29年度は、実用発電用原子炉については、関西電力株式会社大飯発電所3号炉及び4号炉並びに東京電力ホールディングス株式会社柏崎刈羽原子力発電所6号炉及び7号炉の設置変更の許可をしました。また、廃止措置計画については、九州電力株式会社玄海原子力発電所1号炉、日本原子力発電敦賀発電所1号炉、関西電力株式会社美浜発電所1号炉及び2号炉、中国電力株式会社島根原子力発電所1号炉及び四国電力株式会社伊方発電所1号炉に対して認可を行いました。核燃料施設等については、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構原子力科学研究所の定常臨界実験装置及び原子炉安全性研究炉の設置変更の許可をしました。また、廃止措置計画については、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構JRR-4及びTRACYに対して認可を行いました。さらに、グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン、日本原燃株式会社濃縮・埋設事業所、三菱原子燃料株式会社並びに原子燃料工業東海事業所及び熊取事業所に対して事業変更を許可しました。法令報告事象に関しては、実用発電用原子炉において2件、核燃料施設等において2件の合計4件が発生しました。
このほか、使用前検査、施設定期検査、保安検査等の着実な実施、原子力施設で発生したトラブルの原因究明や再発防止策の確認、発電用原子炉の運転延長認可に係る審査、火山活動のモニタリングに係る検討、震源を特定せず策定する地震動に関する検討、高速増殖原型炉もんじゅの廃止措置に係る対応、東海再処理施設廃止等への対応、審査結果等の丁寧な説明、安全性向上評価に係る対応等を行いました。
(放射線障害防止に係る規制制度の継続的改善)
放射性同位元素等の使用等に伴う放射線障害を防止するための規制を行う放射線障害防止法について、IRRS報告書の指摘事項等を踏まえて第193回国会に提出した改正法が、平成29年4月に成立・公布されました。廃棄に係る特例を含む改正法第4条については、平成29年12月に関係政令を交付し、平成30年1月に関係規則等を公布しました。また、これに伴い、平成29年12月に事故等の報告に関する解釈、放射線障害予防規定に定めるべき事項に関するガイド及び登録機関に対する立入検査ガイド等の審査基準を決定しました。
(放射線障害防止に係る規制の厳正かつ適切な実施)
原子力規制委員会は、放射線障害防止法に基づき、放射性同位元素の使用をしようとする者からの許可申請の審査及び届出の受理、許可届出使用者等及び登録認証機関等への立入検査等を実施しています。平成28年度放射線管理状況報告書を取りまとめたところ、全ての許可届出使用者等において、放射線業務従事者の受けた線量は法令に定める年間線量限度を下回っていました。また、平成29年度の法令報告事象は2件、危険時の措置は届出は0件でした。これら法令報告事象に対する原因究明や再発防止策の確認も引き続き行っています。
3.東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組の監視等
(東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組の監視)
原子力規制委員会は、東京電力から提出される実施計画の変更認可申請について厳正な審査を行い、今年度は29件認可しました。
認可した実施計画の遵守状況について、現地に駐在する原子力運転検査官による日常的な巡視活動、保安検査、使用前検査、溶接検査及び施設定期検査を実施するなど、東京電力の取組を監視しています。
(中期的リスクの低減目標マップ)
原子力規制委員会は、平成27年2月に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ」を策定し、定期的に見直しを行っています。今年度は、ダスト飛散防止・抑制と労働環境改善の項目において進展を確認したことから、平成29年7月12日に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(平成29年7月版)」に改正しました。
これまでの進捗を踏まえ、東京電力の廃炉作業の工程管理を厳格に行う観点から、現在、改正中です。
(東京電力福島第一原子力発電所の事故分析)
事故についての継続的な分析は、原子力規制委員会の重要な所掌事務の一つであり、技術的な側面から検証を進めている。平成25年3月の原子力規制委員会において、技術的に解明すべき論点については、「東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会」で扱うこととし、同5月から検討会を開催しています。特に、東京電力福島第一原子力発電所事故調査委員会で未解明問題として規制機関に対し実証的な調査が求められている7つの事項については、原子力規制委員会がプラントデータ、解析、現地調査等により技術的な観点からの分析を行い、平成26年10月の原子力規制委員会において、「東京電力福島第一原子力発電所 事故の分析 中間報告書」として見解を取りまとめました。
平成29年度は、日本原子力学会において、福島第一原子力発電所構内及び3号炉オペレーティングフロアにおける線量分布測定と線量低減について発表等を行いました。
(東京電力福島第一原子力発電所事故後のモニタリング)
原子力規制委員会は、「総合モニタリング計画」(平成23年8月2日モニタリング調整会議決定、平成29年4月28日改正)に基づき、東京電力福島第一原子力発電所事故後のモニタリングとして、福島県全域の環境一般モニタリング、東京電力福島第一原子力発電所周辺海域及び東京湾のモニタリング等を実施し、解析結果を毎月公表しました。
4.原子力の安全確保に向けた技術・人材の基盤の構築
(最新の科学的・技術的知見に基づく規制基準の継続的改善)
安全研究、審査等で得られた知見に基づき、有毒ガス防護、高エネルギーアーク損傷(HEAF)対策、降下火砕物対策、格納容器代替循環冷却系の設置等に係る規則等の改正を行い、規制基準の継続的改善を行いました。
また、平成28年度に引き続き、炉内等廃棄物の規制基準について検討しました。埋設終了後の放射線防護基準についてALARA(As Low As Reasonably Achievable)の考え方を取り入れて、今後規制基準及び審査ガイドの骨子案を策定する予定です。
(安全研究の実施等による最新の科学的・技術的知見の蓄積)
「原子力規制委員会における安全研究の基本方針」に基づく安全研究プロジェクトの企画、実施及び評価、JAEA安全研究センターとの人事交流、OECD/NEA及びIAEA国際共同研究プロジェクトへの参画並びに国内外のトラブル情報の収集・分析を通して、最新の科学的・技術的知見の蓄積を行いました。蓄積された知見については、論文誌、国際会議プロシーティング、学会発表等により公表しました。
(原子力規制人材の確保及び育成の仕組みの確立)
安全審査・検査、原子力防災、安全研究等の業務を中心に職員の公募を行い、実務経験者を採用しました。また、将来の原子力規制行政を担う職員の確保のため積極的な採用活動を行い、原子力規制庁独自の採用試験も有効活用して、新人職員の採用を行いました。
原子力規制委員会職員の人材育成については、これまでに引き続き、原子力安全人材育成センターにおいて、重大事故等への対応能力向上のためのプラントシミュレータ等を活用した実践的な研修等の各種研修を整備し、計画的に実施するとともに、強化・充実を図りました。
また、改正原子炉等規制法による新しい規制制度等に的確に対応するため、平成29年の7月、原子力検査、原子力安全審査、保障措置査察、危機管理対策及び放射線規制の5分野において、高度の専門的な知識及び経験が求められる職に就くための資格制度を導入するとともに、これに対応した新たな教育訓練体制の整備を行いました。
5.核セキュリティ対策の強化及び保障措置の着実な実施
(核セキュリティ対策の強化)
IAEAの国際核物質防護諮問サービス(IPPAS)ミッションで示された勧告事項や助言事項については、関係省庁と協議しつつ、関係規則の改正等継続的な改善に取り組んでいる。また、我が国はIAEAに対しIPPASフォローアップミッションを要請し、IAEAから平成30年秋を目途に同ミッションを実施する旨の回答がありました。
個人の信頼性確認制度については、対象となる発電用原子炉設置者、再処理事業者等から申請された核物質防護規定の変更を、原子力規制委員会が平成29年10月31日付けで認可したことに伴い、翌日より運用が開始されました。
核物質防護検査においては、個人の信頼性確認制度の開始に当たっての取組状況やサイバーセキュリティ対策を含めた防護措置等の確認を行いました。
(保障措置の着実な実施)
IAEAが実施した平成28年の我が国における保障措置活動に関する報告において、国内のすべての核物質が平和的活動にとどまっているとの結論を得ました。
立入りが困難で、通常の査察が実施できない福島第一原子力発電所1~3号炉については、使用済燃料の取出しが予定されている3号炉使用済燃料プール近傍に新たに監視装置を設置するなどIAEAとの継続的な協議を通して、必要な措置を講じました。
IAEAの、限られた資源の中で効率的、効果的な保障措置を維持しようとする取組を受けて、国内の各原子力施設等に適用される施設別保障措置手法について、IAEAと必要な検討・協議を実施しました。また、保障措置に係る各種国際会議への参加や、保障措置人材の教育、保障措置技術開発支援等を通じて、我が国の保障措置に対する国際社会の理解増進を図るとともに、国際的な保障措置の強化・効率化に貢献しました。
国内保障措置制度の一翼を成す、指定情報処理及び保障措置検査等実施機関の業務の適確な遂行を確保するため、必要な指導・監督を行いました。
6.放射線防護対策及び放射線モニタリングの実施
(放射線防護対策の充実)
放射線障害防止の技術的基準の斉一を図ることを目的とする放射線審議会の所掌事務に自ら調査・審議すること等を追加するため、平成29年4月に法改正を行いました。同審議会において、「放射線防護の基本的考え方の整理」を取りまとめたほか、眼の水晶体に係る放射線防護の在り方について関係行政機関に意見具申を行いました。また、ICRP2007年勧告の国内制度等への取入れの進め方についても審議しました。
原子力災害対策指針については、最新の国際的知見を積極的に取り入れる等、充実を図っており、実用発電用原子炉施設、核燃料施設等のEAL(緊急時活動レベル)の検討を行い、平成29年7月5日に原子力災害対策指針を改正しました。
研究事業としては、平成29年度より、放射性同位元素等に係る規制の根拠となる調査研究を体系的・効率的に推進するための「放射線安全規制研究戦略的推進事業」を開始しました。
放射線モニタリングについては、緊急時モニタリングセンターに係る訓練等を行うとともに、実効性のある緊急時モニタリングの体制整備等、測定体制の更なる充実強化を図っています。平成29年度は、地方放射線モニタリング対策官事務所を原子力規制事務所に統合し、上席放射線防災専門官を配置しました。また、原子力艦放射能調査専門官の増員等、原子力艦寄港地の緊急時モニタリング体制の充実を図りました。
(危機管理体制の充実・強化)
東京電力福島第一原子力発電所事故の経験と教訓を踏まえて原子力災害対策の充実を図るため、事故の発生を想定し、緊急時の危機管理体制を整備するとともに、平時から国、自治体及び原子力事業者が緊急時対応能力の強化に努めることが重要です。
原子力規制委員会は、平成29年7月の組織再編において、原子力規制庁長官官房に緊急事案対策室を設置し、緊急時には迅速に対応し、平時には組織としての緊急時対応能力の強化のための取組を担当する職員を配置しました。緊急事案対策室は、原子力規制委員会の緊急時対応能力の強化のため、危機管理対応に関するマニュアル等の整備、訓練の実施及び評価、訓練を通じて得られた課題の抽出及び改善、通信ネットワーク設備・システムの強化に努めました。また、原子力事業者の緊急時対応能力の強化のため、原子力事業者防災訓練及び評価の充実を図りました。
さらに、宿日直の体制を強化・維持することにより、原子力施設において事故・トラブルが発生した際には、情報発信等の初動対応に万全を期すとともに、初動対応後には、原子力規制部等と連携し、事故・トラブルの原因究明、再発防止対策等まで一貫して対応しました。