第2節 原子力被災者支援

東京電力福島第一原子力発電所事故の発生から7年が経過しました。政府は2015年6月、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を改訂し、国として取り組むべき方向性を提示しました。その後、福島の復興・再生に向けた取組は着実な進展を見せています。

一方で、復興の進捗にはいまだばらつきがあり、長期にわたる避難状態の継続に伴って、新たな課題も顕在化してきました。住民の方々が復興の進展を実感できるようにするためには、被災地域の実情を踏まえて、対策をさらに充実させていく必要があります。このような状況を踏まえ、原子力災害からの福島の復興・再生を一層加速していくため、2016年12月に「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」を閣議決定し、必要な対策の追加・拡充を行うこととしました。具体的には、早期帰還支援と新生活支援の両面の対策のより一層の深化、事業・生業や生活の再建・自立に向けた取組の拡充等を行うこととしています。また、帰還困難区域については、可能なところから着実かつ段階的に、政府一丸となって、一日も早い復興を目指して取り組んでいく方針を示し、特定復興再生拠点1の整備に向けた制度の構築を行うこととしました。

また、同指針を踏まえて、第193回国会に「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律案」を提出、成立しました。同法案には、特定復興再生拠点区域の復興及び再生を推進するための計画制度の創設、福島相双復興官民合同チームの体制強化、「福島イノベーション・コースト構想」の推進、風評被害払拭への対応の4つの柱に加え、被災12市町村が帰還環境整備に取り組むまちづくり会社等を「帰還環境整備推進法人」に指定できる制度、子どもへのいじめの防止のための対策、地域住民の交通手段の確保についても、その後押しを行うため、法律に位置づけることとされました。さらに、本法律を踏まえ、2017年6月には「福島復興再生基本方針」を改訂しました。

1.避難指示区域等

(1)避難指示解除区域等における取組

事故から6年後の2017年春までに、大熊町・双葉町を除き、全ての居住制限区域、避難指示解除準備区域を解除しました。避難指示の解除はゴールではなく、復興に向けたスタートであり、解除後の本格的な復興のステージにおいても、政府一丸となって、市町村ごとの課題にきめ細かく対応するとともに、国・県・市町村が連携しながら、産業の再生や雇用創出、インフラ・生活環境の整備等、当該区域の復興及び再生をさらに進めていきます。

(2)帰還に向けた安全・安心対策

国としては、「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」において、以下のような総合的・重層的な防護措置を講じることとしています。

・女性や子どもを含む住民の方々の放射線不安に対するきめ細かな対応

・避難生活の長期化等や放射線による健康不安への適切な対応

・関係省庁におけるリスクコミュニケーションの取組の強化

・生活支援相談員について、帰還後も支援を継続できるよう支援対象の明確化や関係省庁との連携促進

こうした取組を通じ、住民の方々が帰還し、生活する中で、個人が受ける追加被ばく線量を、長期目標として、年間1ミリシーベルト以下になることを引き続き目指していくこととしています。また、線量水準に関する国際的・科学的な考え方を踏まえた我が国の対応について、住民の方々に丁寧に説明を行い、正確な理解の浸透に努めています。

2.帰還困難区域の復興への取組等

帰還困難区域は、2011年12月に警戒区域と計画的避難区域の見直しを行った際、「将来にわたって居住を制限することを原則とした区域」として設定されました。一方、事故後5年が経過し、一部では放射線量が低下していることや、地元の強い要望を踏まえ、2016年8月31日に原子力災害対策本部・復興推進会議で「帰還困難区域の取扱いに関する考え方」を決定し、帰還困難区域のうち、5年を目途に、線量の低下状況も踏まえて避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す特定復興再生拠点の整備等について、基本的な考え方を示しました。

この考え方を具体化するため、「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」において、特定復興再生拠点を整備する計画を県と協議した上で市町村が策定し、国の認定を受けた場合、一団地の復興再生拠点整備制度や道路の新設等のインフラ事業の国による事業代行、事業再開に必要な設備投資等に係る課税の特例を特定復興再生拠点においても活用できるようにする等の方針を示し、その実現に必要な措置を盛り込んだ福島特措法の改正法案を第193回通常国会に提出し、成立しました。加えて、2017年度から、特定復興再生拠点の復興事業に要する予算・税制等の措置を講じることとしました。

また、特定復興再生拠点の整備に係る除染・解体事業については、避難指示解除後の土地利用を想定した整備計画の下で実施することとし、除染とインフラ整備を一体的に行う仕組みを整えることとしました。なお、特定復興再生拠点の整備は、国の新たな政策的決定を踏まえ、復興のステージに応じた新たなまちづくりとして実施するものであるため、国の負担において行うこととしました。

こうした中、2017年9月以降、双葉町、大熊町、浪江町、富岡町における特定復興再生拠点区域復興再生計画について内閣総理大臣が認定しました。現在、国と自治体が連携してこれらの計画に基づく事業を進めるとともに、それ以外の自治体についても、計画の策定に向けた取組を進めています。

3.除染の実施

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じており、これによる人の健康または生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となりました。こうした状況を踏まえ、「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下、「放射性物質汚染対処特措法」という。)が可決・成立し、2011年8月30日に公布されました。

放射性物質汚染対処特措法は、除染の対象として除染特別地域と汚染状況重点調査地域を定めています。除染特別地域は、警戒区域又は計画的避難区域の指定を受けたことがある地域で、国が除染実施計画を策定し、除染事業を進めてきました。他方、汚染状況重点調査地域は、地域の空間放射線量が毎時0.23マイクロシーベルト以上の地域がある市町村について、当該市町村の意見を聴いた上で国が指定し、各市町村で除染を行ってきました。

除染特別地域(帰還困難区域を除く)については2017年3月末に、汚染状況重点調査地域については2018年3月19日に除染実施計画に基づく面的除染が完了しました。

また、福島県内の除染に伴い発生した放射性物質を含む土壌や福島県内に保管されている10万ベクレル/kgを超える指定廃棄物等を最終処分するまでの間、安全に集中的に管理・保管する施設として中間貯蔵施設を整備することとしています。

中間貯蔵施設整備に必要な用地は、全体面積約1,600haを予定しており、予定地内に占める登記記録人数は2,360人となっています。昨年度までに地権者の連絡先を把握した面積は約1,210ha、1,160haに達しており、契約済み面積は約874ha(全体の約54.6% )、1,419人(全体の約60.1% )の方と契約に至るなど、着実に進捗してきています。

中間貯蔵施設の整備については、2016年11月から受入・分別施設と土壌貯蔵施設の整備を進めています。受入・分別施設では、福島県内各地にある仮置場等から中間貯蔵施設に搬入される除去土壌等を受け入れ、搬入車両からの荷下ろし、容器の破袋、可燃物・不燃物等の分別作業を行います。土壌貯蔵施設では、受入・分別施設で分別された除去土壌等を放射能濃度やその他の特性に応じて安全に貯蔵します。2017年6月に除去土壌等の分別処理を開始し、2017年10月には分別した土壌の貯蔵を開始しました。除去土壌等の処理・貯蔵を更に進めるために、引き続き、これらの施設の整備を進めています。

また、中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送については、2017年度までに累計で73万m3程度の除去土壌等の輸送を目標としており、2018年3月末までに累計で約76万m3の輸送を実施しました。また、今後の輸送に向けて、輸送実施計画を更新するとともに、中間貯蔵施設の輸送ルートで必要な箇所について舗装厚の改良等の道路交通対策を実施しました。

4.原子力災害の被災事業者等のための自立支援策、風評被害対策

住民の方々が帰還して故郷での生活を再開するためには、また、外部から新たな住民を呼び込むためには、働く場所、買い物をする場所、医療・介護施設、行政サービス機能といった、まちとして備えるべき機能が整備されている必要があります。しかしながら、こうした機能を担っていた事業者の多くは、住民の避難に伴う顧客の減少、長期にわたる事業休止に伴う取引先や従業員の喪失、風評被害による売上減少といった苦難に直面しており、こうした状況を克服するためには、生活、産業、行政の三位一体となった政策を進めていく必要があります。

こうした状況を踏まえ、2015年8月24日に、国(原子力災害対策本部)、福島県、民間からなる官民合同チームが創設されました。その主な活動内容は、避難指示等の対象となった12市町村の被災事業者を個別に訪問し、事業再開等に関する要望や意向を把握するとともに、その結果を踏まえ、専門家を交えたチームにより、事業再建計画の策定支援、支援策の紹介、生活再建への支援などを実施していくことです。国、県、民間が一体となって腰を据えた支援を行うため、福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律(2017年5月19日公布・施行)に、官民合同チームの中核である公益社団法人福島相双復興推進機構へ国の職員の派遣を可能とするなどの措置を盛り込み、2017年7月から経済産業省及び農林水産省の職員を派遣するなど、体制強化を図りました。現在、チームは総勢270名の体制(2018年3月31日時点)で、県内(福島、いわき、南相馬)と都内の計4拠点に常駐しており、地元商工会議所、商工会、及び東京電力等の協力を得ながら、個別訪問等を実施しています。

商工業分野において、チーム発足翌日から事業者訪問を開始し、これまでの約2年7か月の間に、約5,000事業者に訪問し、そのうち約960の事業者に、専門家によるコンサルティングを実施しています(2018年3月31日時点)。また、被災事業者の自立等に対する支援や新規創業等へ向けた支援に取り組むべく、2018年度予算において約16億円を計上しています。引き続き、官民合同チームと連携しつつ、きめ細かな支援を実施していきます。

農業分野についても、速やかな営農再開に向けて、官民合同チームが約1,200回にわたって被災市町村等を訪問し、集落座談会における営農再開支援策の説明等を行うとともに、地域農業の将来像の策定やその実現に向けた農業者の取組を支援しています。個別の農業者に対しては、2016年度第二次補正予算において、農業用機械・施設、家畜の導入等に対する支援を措置しました。2016年7月から実施している国と県による認定農業者への個別訪問に加え、今後、官民合同チームも参画し、対象を拡大して行う個別訪問を通じて、課題を把握し、支援の充実を図っていきます。

こうした取組もあり、事業・生業の再建は徐々に進みつつありますが、地域によって復興の状況は異なります。今後とも、官民合同チームは、事業者の帰還、事業・生業の再建を進め、まちの復興を後押しすべく、個々の実情を踏まえたきめ細かな対応を粘り強く続けていきます。

このように、事業者の方々による取組をサポートする体制が整いつつある一方で、事故発生後未だに継続している風評被害の存在は、農林水産業をはじめとして、福島の産業・生業の復興の大きな妨げとなっています。放射線に関する正しい知識、福島の復興の現状や農林水産物をはじめとする県産品の安全性や質の高さを国内外に正しく発信し、風評を払拭していくことが大きな課題です。各種の国際会議等を含めて、あらゆる機会を活用し、風評対策を強力に推進していきます。特に農林水産物については、生産段階における第三者認証取得や安全性検査への支援、流通・販売段階における販路開拓への支援等、あらゆる段階で風評払拭に必要な支援を行うことにより、安全性についての消費者の正しい理解を促進し、県産品のブランド力の回復を後押ししていきます。

こうした取組をより実効的なものとしていくために、流通段階における風評被害の実態や要因の調査を行い、その結果に基づく指導・助言等の適切な措置を国が講ずることを2017年5月に改正された福島復興再生特別措置法において位置づけました。また、2017年2月には国、県、農業関係団体等が参画して「福島県産農林水産物の風評払拭対策協議会」を立ち上げ、風評被害の実態や施策の効果を継続的に検証する体制を構築しています。

さらに、2017年12月に策定された「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」に基づき、関係府省庁が連携して風評払拭に向けて、工夫を凝らした情報発信等に取り組んでいくこととしています。

【第122-4-1】福島相双復興推進機構(官民合同チーム)の概要

122-4-1

【第122-4-1】福島相双復興推進機構(官民合同チーム)の概要(ppt/pptx形式:67KB)

出典:
経済産業省

5.福島・国際研究産業都市構想(福島イノベーション・コースト構想)

福島県浜通り地域において、かつては原子力関連企業の事業活動が地域経済の大きな部分を担ってきましたが、震災や原子力災害によって産業基盤の多くが失われました。今後、地域経済の復興を実現していくためには、その大前提となる東京電力福島第一原子力発電所事故の収束はもちろんのこと、原子力発電に代わる新たな産業基盤を構築することが必要です。東日本大震災や原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指す取組が「福島イノベーション・コースト構想」であり、浜通り地域等の復興の柱として、全力で実現に向けて取り組んでいきます。

福島イノベーション・コースト構想の実現に向けて、多岐にわたる課題を政府全体で解決していくため、福島復興再生特別措置法を改正し、同法に福島イノベーション・コースト構想を位置づけました。また、関係省庁による具体的な連携体制の構築等を進めるため、福島イノベーション・コースト構想関係閣僚会議を設置し、2017年7月に第1回を開催しました。さらに、関係省庁、関係自治体等が参画して同構想の推進に関する基本的な方針を共有する場として福島イノベーション・コースト構想推進分科会を設置し、2017年11月に第1回の分科会を開催しました。

廃炉やロボット等の分野における技術開発・拠点整備等のプロジェクトは、現在着々と具体化が進められています。

ロボットの使用が想定される多様な環境を模擬できる大規模な実証フィールドである、福島ロボットテストフィールドについては、国と福島県が共同して整備・運営に向けた検討を進めてきました。2017年度より整備に着手し、2017年11月には福島ロボットテストフィールドの各施設の開所時期が公表され、2018年度以降順次開所されることが決まりました。2018年2月には福島ロボットテストフィールドの安全祈願祭・起工式が開催され、福島ロボットテストフィールドの整備が着実に進んでいます。また、2020年には、国内外から最先端のロボット技術を集めて課題に挑戦する「ワールドロボットサミット」の一部競技が福島ロボットテストフィールドで開催される予定です。

また、「福島浜通りロボット実証区域」として、2017年度末までに10の実証区域が決定され、25件の実証試験が実施されています。2017年3月、10月には、日本無人機運行管理コンソーシアムが福島ロボットテストフィールドにおいて、物流や災害での対応を想定し、多数のドローンを同時に飛行させて、その運行を管理するシステムの実験を実施したほか、2017年10月には、南相馬市において、国内で初めてドローン配送とコンビニエンスストアの移動販売を連携させたサービスを開始しました。

廃炉関連分野では、2016年4月から、遠隔操作機器・装置の開発・実証施設(「楢葉遠隔技術開発センター」(福島県双葉郡楢葉町)モックアップ施設)の本格的な運用が開始されています。

また、2017年4月には、廃炉に向けて国内外の英知を結集する拠点である廃炉国際共同研究センター国際共同研究棟(福島県双葉郡富岡町)の運用が開始されました。さらに、2018年3月には、放射性物質分析・研究施設(「大熊分析・研究センター」(福島県双葉郡大熊町))の一部施設の運用が開始されました。

復興や廃炉対策の進捗状況、災害がもたらした被害・教訓等を国内外に正しく伝えていく「情報発信(アーカイブ)拠点」については、福島県において2016年8月に同拠点の双葉町への立地を決定、2017年3月にアーカイブ拠点施設基本構想を策定し、2017年度より施設整備に着手しています。

環境・リサイクル分野では、2015年以降、福島県が環境・リサイクル産業の集積を図るため立ち上げた「ふくしま環境・リサイクル関連産業研究会」の会員によって、小型家電、太陽光パネル、石炭灰のリサイクルや浜通りにおける廃棄物処理システム構築などのテーマについて、事業化に向けた検討が進められています。

再生可能エネルギー等のエネルギー分野では、福島イノベーション・コースト構想の取組を加速し、その成果も活用しつつ、福島全県を未来の新エネ社会を先取りするモデル創出拠点とする「福島新エネ社会構想」(2016年9月7日決定)を推進していきます。(福島新エネ社会構想については、第3節参照)

福島イノベーション・コースト構想の実現に向けた道筋は、拠点の整備や主要プロジェクトの具体化にとどまりません。

これらの拠点やプロジェクト等も活用しながら、地元企業と浜通り地域の外から進出してくる企業とが一体となって、重点分野における実用化技術開発を進めていくことが必要です。このため、民間企業が主体となって行う実用化開発等を支援する「地域復興実用化開発等促進事業」を進めており、2017年度及び2018年度予算案においてそれぞれ69.7億円を措置しています。また、福島相双復興官民合同チームとも連携しながら、地元企業と進出企業の連携による新たなビジネス創出を後押しするため、「ふくしま未来ビジネス交流会」等を開催しています。

さらには、拠点の強みを活かした交流人口の拡大や、生活環境の整備、高等教育機関等における研究活動の促進、初等中等教育機関と大学、企業等とが連携した構想を支える人材の育成等を推進しています。

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帰還困難区域のうち、5年を目途に、線量の低下状況も踏まえて避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す復興拠点