第2節 地球温暖化の本質的解決に向けた我が国のエネルギー関連先端技術導入支援を中心とした国際貢献

世界のエネルギー需要の重心がアジアにシフトしていることや、エネルギー源の多様化、地球環境問題への対応など、世界のエネルギーを巡る課題が拡大、深化し、一層複雑化してきています。

こうした状況の中、我が国が厳しいエネルギー制約の中で蓄積してきた技術やノウハウを世界に普及していくため、こうした技術やノウハウを統合化して、再エネ及び省エネ技術、スマートコミュニティ等のインフラという形で国際展開を推進していくことが重要です。

2016年においては、案件形成や実証事業を進めることで、こうしたエネルギー・環境分野での国際展開の取組を進めました。

また、途上国への温室効果ガス削減技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の削減目標の達成に活用するため、二国間オフセット・クレジット制度(JCM)の構築・実施に取り組みました。

さらに、気候変動問題の解決に向けて世界の産官学のリーダーがイノベーションの創出に向けた議論を行い、協力を促進するための国際的プラットフォームである「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」の第3回年次会合を2016年10月に開催しました。

<具体的な主要施策>

1.案件形成・実証等の支援

(1)案件形成、事業実施可能性調査

質の高いエネルギーインフラシステム海外展開促進事業【2016年度当初:13.5億円】

省エネ・再エネ等に関する我が国の質の高いエネルギーインフラ技術の導入を通じて、世界のエネルギー起源二酸化炭素の排出量を削減するために、同インフラの導入に係る事業実施可能性調査を実施しました。

(2)人材育成等

国際エネルギー使用合理化等対策事業委託費
【2016年度当初:10.0億円】

省エネ・再エネに係る我が国の技術・システムの普及に向けた環境を整備するため、新興国等を中心に、人材育成を通じた省エネ対策や再エネ導入に関する制度構築支援や、各国動向調査、政策共同研究等を実施しました。

(3)我が国の技術・システムの実証

国際エネルギー消費効率化等技術・システム実証事業
【2016年度当初:40.0億円】

省エネ・再エネの国際的な普及の観点から、我が国の技術・システムについて、相手国政府・企業との共同実証を実施しました。さらに、実証成果を商業ベースでの普及拡大につなげるため、相手国政府による我が国の技術・システムの採用・活用を促す等の各種普及支援についても実施しました。

(4)官民連携を核とした推進体制の強化

①スマートコミュニティ・アライアンス

「スマートコミュニティ」の取組が国際的に拡大する中で、我が国の優れたスマートグリッド関連技術を中核としたスマートコミュニティ等の国際展開を促進することは、我が国としての新たな成長産業の育成にもつながります。このような背景から、海外展開や国際標準を業種横断的に官民が連携して推進していくため、2010年に民間協議会団体の「スマートコミュニティ・アライアンス」(事務局: 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))が設立されました。具体的取組としては、国際戦略や国際標準の観点からワーキンググループを設置し、国別や技術分野ごとのアプローチによる国内外の普及・啓発や、スマートコミュニティ関連イベントでの出展・講演、GSGF(Global Smart Grid Federation)などの国際機関との連携を強化しています。

②世界省エネルギー等ビジネス推進協議会

「世界省エネルギー等ビジネス推進協議会」は、2008年、省エネ・再エネ分野での優れた技術を有する我が国の企業・団体により発足しました。本協議会は、48企業・20団体(2017年3月時点)で構成されており、設立以来、政府と経済界が一体となって、関連製品・技術を基にしたビジネスの国際展開を推進しています。

具体的な活動内容としては、地域別・テーマ別にワーキンググループ等を組織し、ア 官民ミッション派遣等によるビジネス機会の獲得、イ 市場分析やプロジェクト発掘に向けた調査、ウ 海外及び国内での展示会出展、エ 関連製品・技術を取りまとめた「国際展開技術集」の作成及び周知等を行っています。

2. 二国間オフセット・クレジット制度(JCM)の推進

(1)JCMの構築・実施【制度】

2013年1月に、モンゴルとの間で初めてJCM実施に係る二国間文書に署名したことを皮切りに、2016年12月までに16か国(モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、タイ)との間で、JCMを構築しました。これによって2013年11月からの3年間で署名国を倍増させる目標を1年前倒しで達成しました。また、2017年1月には、新たにフィリピンとの間でJCMの構築に合意し、17か国目のJCM署名国となりました。

【第392-2-1】JCMの構築と2015(平成27)年度における主な取組一覧

2016年11月に開催された国連気候変動枠組条約第22回締約国会合(COP22)では、16か国の代表が一堂に会したJCMパートナー国会合が開催され、JCMの進捗を歓迎するとともに、引き続き協力してJCMをさらに推進していくことを確認しました。

(2)JCMプロジェクトの形成の支援

①地球温暖化対策技術普及等推進事業
【2016年度当初:24.0億円】

JCMの導入に関する二国間文書に署名した相手国において、優れた低炭素技術・製品等の導入による温室効果ガス排出削減プロジェクトを実施し、削減効果を測定・報告・検証することで、地球温暖化対策技術の有効性を実証するとともに、排出削減プロジェクトの発掘・組成を行い、相手国での普及につなげるための事業を行いました。

②二国間クレジット取得等インフラ整備調査事業
【2016年度当初:5.8億円】

JCMの意思決定機関である二国間合同委員会の運営やクレジットを管理する登録簿等の制度の基盤整備・運用を行うとともに、制度の円滑な運営のため、国内外の類似制度の調査や人材育成等の事業を実施しました。

③二国間クレジット制度(JCM)基盤整備事業のうち制度構築・案件形成支援
【2016年度当初:11.9億円】

JCMの本格的な運用のための制度構築、JCMに関する国際的な理解の醸成やJCMの実施対象国の拡大に向けた取組、途上国における排出削減プロジェクトの組成支援、及びアジア等の途上国における都市間連携を活用した実現可能性調査を行いました。

④二国間クレジット制度(JCM)資金支援事業
【2016年度当初:87.0億円】

JCMに署名済み、または署名が見込まれる途上国において、優れた低炭素技術等を活用したCO2排出削減設備・機器の導入プロジェクトへの資金支援(国際協力機構(JICA)等との連携事業への支援を含む)を実施しました。また、導入コスト高から採用が進んでいない優れた低炭素技術がアジア開発銀行(ADB)のプロジェクトで採用されるように、ADBの信託基金を通じて、その追加コストを軽減する支援を実施しました。

3. イノベーションによる気候変動問題解決に向けた国際協力体制の強化

Innovation for Cool Earth Forum( ICEF)の開催

気候変動問題の解決と経済成長を両立するための鍵であるイノベーションを促進するため、安倍総理の提唱により、世界の産官学のリーダーの英知を結集させて議論を行い、国際的な協力を促進するため、「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」を2014年に創設し、東京で開催することとしました。

2016年10月に開催した第3回年次総会は、人為的CO2のネット・ゼロ・エミッションをメインテーマとし、3つの本会議と16の分科会を開催しました。各国政府機関、産業界、学界、国際機関等の約80か国・地域から1000名以上が参加しました。本会議では、「CO2ネット・ゼロ・エミッションの重要性と実現に向けたイノベーション」、「気候変動問題解決に向けたイノベーション戦略の今後の展望」及び「パリ協定の評価と実施に向けて」について講演とパネルディスカッションを実施しました。分科会では、「スマートグリッド」、「二酸化炭素回収貯留(CCS)」、「水素」といった個別技術に加え、「民間投資のあり方」や「革新的技術の研究開発の在り方と国際連携の可能性」等の分野横断的テーマで議論を行いました。さらに、「宇宙太陽光」等の長期的なテーマについてのイノベーションの可能性も議論しました。