第1節 石油備蓄等による海外からの供給危機への対応の強化

石油備蓄政策については、かつては量的な充実を第一に進めてきましたが、近年では、国内の石油需要動向やリスク等を勘案して、備蓄総量や国家備蓄における原油・製品の比率を見直しつつ、危機発生時における機動力を向上することに重点をおいています。具体的には、国家備蓄原油の油種を我が国の製油所設備により適合したものに入れ替えることや、ホルムズ海峡の封鎖等の具体的緊急時を想定した対応訓練の強化、産油国や東アジア消費国との協力強化等を進めています。 既に、「産油国共同備蓄事業」として、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)の国営石油会社に対し、商用原油の東アジア向け中継・在庫拠点として我が国国内の石油タンクを貸し出し、供給危機時には我が国に優先して供給を受ける枠組みを開始しており、2014年には、エネルギー基本計画において、産油国共同備蓄を国家備蓄や民間備蓄に準じる「第三の備蓄」として明確に位置づけています。直近では、2016年10月にサウジアラビアの国営石油会社と事業の延長及び拡充について合意を行うなど、我が国と産油国双方の利益となる関係強化策として強力に推進しています。LPガス備蓄については、2013年3月に2つの国家備蓄基地が完成し、5基地体制となりました。同年8月末には、これら2基地に備蓄するため、米国からシェールガス随伴のLPガスを積んだ第一船が入港しました。今後も着実に、国家備蓄LPガスの購入・蔵置を進めていきます。

<具体的な主要施策>

(1)国家石油備蓄の管理委託等
【2016年度当初:825.0億円】

約5,000万klの国家備蓄石油及び国内10か所の国家備蓄基地について、国から委託を受けた独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が一元的に管理を行い、緊急時における国家備蓄原油の機動的な放出を可能にすべく、緊急放出訓練等も実施しました。

(2)産油国共同備蓄の増強
【2016年度当初:37.0億円】

国家備蓄のほか、我が国は、主要な原油輸入先であるアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油会社(以下「ADNOC社」という。)とサウジアラビア国営石油会社(以下「サウジアラムコ社」という。)に対して国内の原油タンクを貸与し、両国営石油会社が所有する原油を我が国国内に蔵置しています(2009年12月から、鹿児島県のJX喜入(きいれ)基地にてADNOC社との事業を開始(開始当時約60万kl)、2011年2月から、沖縄県の沖縄石油基地にてサウジアラムコ社との事業を開始(開始当時約60万kl))。

平時には、両国営石油会社の東アジア向けの供給・備蓄拠点として当該タンクとタンク内の原油は商業的に活用される一方、我が国への石油供給量が不足するような危機時には、タンク内の原油を我が国石油会社が優先的に購入できることとなっています。

本プロジェクトは、産油国との関係を強化することや、沖縄等の地域が産油国にとっての東アジア向け原油供給拠点になること等の様々な副次的な意義も有するプロジェクトであることに鑑み、これまでも事業の延長や拡充を行っており、直近では、サウジアラムコ社との間で、2016年10月に事業の延長及び拡充について合意し、今後130万klの原油タンクを貸与する体制となります。ADNOC社との間でも、2017年1月に事業の延長に合意し、これまでに続き100万klの原油タンクを貸与する体制となります。

(3)国家石油ガス備蓄の管理委託等
【2016年度当初:471.9億円】

石油ガスの安定供給確保の観点から150万トンの国家備蓄を達成すべく、国内5か所に国家備蓄基地の建設を行い、このうち地上3基地(茨城県神栖市、石川県七尾市、長崎県松浦市)が2005年中に完成し、地下2基地(岡山県倉敷市、愛媛県今治市)が2013年に完成しました。

これら国家備蓄基地について、国から委託を受けたJOGMECが一元的に管理を行い、緊急時における国家備蓄石油ガスの機動的な放出を可能にすべく、緊急時放出訓練等を実施しました。

また、地下2基地については、石油ガス備蓄の積み増しを行いました。

(4)備蓄石油・石油ガス購入資金に係る利子補給
【2016年度当初:2.8億円】

石油備蓄法に基づき、石油精製業者、特定石油販売業者、石油輸入業者、石油ガス輸入業者に対して備蓄義務(石油:70日、石油ガス:50日)を課していますが、当該備蓄義務はこれらの民間企業に対して膨大なコスト負担を強いるものであることから、JOGMECが備蓄石油・石油ガス購入資金の低利融資を行っており、所要の貸付規模を維持するとともに、借入金にかかる利子負担の軽減を図る措置を講じました。