第2節 現在の資源調達環境の基盤強化
1.石油・天然ガスの安定的かつ低廉な確保に向けた取組
石油・天然ガスの安定的かつ低廉な確保に向けて、新たな資源供給国との関係を強化するのみならず、現在の資源調達国との関係を深化することも、同様に重要です。特に、石油については、2014年の我が国の原油輸入における中東依存度は約8割と依然として地域偏在性が高くなっており、石油の安定的かつ低廉な供給の確保を実現するためには、供給源の多角化を進めるとともに、中東産油国との関係維持・強化に向けた取組を進めています。
2014年5月には、我が国の原油輸入の約3割を占めるサウジアラビアに、茂木経済産業大臣が訪問しました。アブドルアジーズ石油鉱物資源副大臣、タウフィーク商工大臣、ジャーセル経済企画大臣等と会談し、国際的なエネルギー情勢について意見交換を行うとともに、貿易・投資を含めた幅広い協力を推進していくことを確認しました。
また、2015年1月には、宮沢経済産業大臣がアラブ首長国連邦を訪問し、ハーミド皇太子府長官(殿下)、スウェイディ・アブダビ国営石油会社(ADNOC)総裁等と会談を行い、石油権益の獲得延長の働きかけや安定供給に関する意見交換を行うとともに、石油をはじめとするエネルギー分野を基礎としつつ、投資、教育や医療等の幅広い分野で協力を一層推進することで一致しました。同年4月には、これまでの資源外交の大きな成果として、世界屈指の巨大油田であるアブダビ陸上油田について、我が国企業がアジア企業として初めて権益(5%)を獲得しました。
天然ガスの分野においても、現在の調達国との関係強化は重要です。
2014年7月には、我が国のLNGの最大の輸入相手国であるオーストラリアを安倍総理が訪問しました。その際、アボット首相と会談し、エネルギー・鉱物資源分野での関係を強化していくことに加え、市場原理に基づいた競争力ある価格によるLNGの安定的で安全な貿易等の重要性を確認しました。さらに、2014年11月には、LNG産消会議参加のために来日したマクファーレン産業大臣と宮沢経済産業大臣が会談し、宮沢大臣より安定的かつ低廉なLNG調達に向けた協力を要請しました。
我が国のLNG輸入第2位を占めるカタールとの間では、2014年11月、宮沢経済産業大臣、中山外務副大臣、アル・サダ・カタール・エネルギー工業大臣出席の下、第8回日カタール合同経済委員会を開催しました。日カタール双方において、幅広い分野で両国関係が一層強固になりつつあることを歓迎するとともに、更なる関係強化に向けて一層協力を深めていく意思を改めて表明しました。エネルギーの分野では、日本側よりLNG供給源の多角化等に向けた我が国の取組やLNG市場の変化に触れつつ、競争力のある価格でのLNGの安定供給を要請しました。
2.鉱物資源の確保に向けた取組
鉱物資源については、その供給のほぼ全てを海外に頼っている一方、省エネルギー・再生エネルギー機器等のものづくり産業に必要不可欠な原材料であり、その安定的な供給確保のため、将来的に新たな供給源になり得るアフリカを始めとする資源国との継続的な関係構築に加え、現在の資源調達国との関係維持・強化に取り組んでいます。
現在、我が国の銅精鉱輸入量の約5割を占めるチリについては、2014年7月の安倍総理訪問の際、バチェレ・チリ共和国大統領との会談において鉱業分野における二国間協力を一層強化していくことを確認するとともに、日本企業が100%権益を有するカセロネス銅鉱山の開所式にも出席するなど、積極的な資源外交を展開しました。また、安倍総理のチリ訪問に併せて、日チリ間の鉱業分野における関係強化のため、経済産業省とチリ鉱業省との間で鉱業分野に関する覚書(MOU)に署名しました。
また、我が国の鉛精鉱の約4割、亜鉛精鉱の約3割をしめる豪州についても、2014年7月の安倍総理訪問の際、アボット首相との共同声明において、資源分野における両国の協力関係を確認しました。
<具体的な主要施策>
(1)石油・天然ガスに係る探鉱出資・資産買収等出資
(再掲 本章第1節(1) 参照)
(2)石炭及び金属鉱物に係る探鉱出資・債務保証等
(再掲 本章第1節(2) 参照)
(3)産油国開発支援等事業【2014年度当初:26.2億円】
資源国との戦略的かつ重層的な関係を構築するため、資源国のニーズに対応して、人材育成・交流、先端医療、環境対策技術など、幅広い分野での協力事業を日本企業等の強みを活かし実施するとともに、資源国に対する日本からの投資促進等について支援しました。2014年度は、アラブ首長国連邦(アブダビ)における我が国先端医療技術の導入支援、日アブダビ教育・交流センター運営等の留学促進事業等のプロジェクトを実施しました。
(4)産油国等石油交流人材育成事業、産油国等石油関連産業基盤整備・国際共同研究事業及び国際石油交流連携促進事業【2014年度当初:25.0億円】
石油精製分野において、産油国からの要請に応じ、研修や専門家派遣事業、技術協力事業、国際会議・要人招聘事業等を実施しました。特に2014年度は、アラブ首長国連邦(UAE)との間で、2013年5月の日UAE共同声明に基づき強化された人材育成事業を開始したほか、2015年1月には、アブダビにおいて、本事業の卒業生が集う産油国ネットワーク会議が開催され、宮沢経済産業大臣出席の下、今後の協力関係強化に関する書簡の交換を行いました。
(5)海外炭開発支援事業【2014年度当初:17.0億円】
我が国企業の権益獲得を支援し、自主開発比率の向上を図るため、海外の産炭国において、我が国企業が行う探鉱活動等への支援や炭鉱開発に不可欠なインフラ調査等を実施しました。
(6)低品位炭ガス化多用途利用技術実証【2014年度当初:5.0億円】
有効に活用されてこなかった低品位炭をガス化して、エネルギー資源や化学原料として活用することを目指した技術の実証事業を実施しました。
(7)低品位炭利用促進技術開発等事業【2014年度補正:7.0億円】
有効に活用されてこなかった低品位炭をガス化して、エネルギー資源や化学原料として活用することを目指した技術の実証事業を実施しました。また、低品位炭から製造したスラリーによる発電実証のための、実証設備の建設、試運転を実施しました。
(8)産炭国低品位炭利用技術最適化実証事業【2014年度当初:3.7億円】
産炭国を中心とした、低品位炭の発電分野における有効利用を目的として、低品位炭の前処理・燃焼技術等の最適化をめざす実証事業を実施しました。
(9)産炭国石炭採掘・保安技術高度化事業等【2014年度当初:22.5億円】
我が国の優れた炭鉱技術を、採掘条件の悪化が予想される海外産炭国へ移転するため、海外研修生の受入研修事業、我が国炭鉱技術者の海外炭鉱派遣研修事業等を実施しました。
(10)大型船の受け入れ機能の確保・強化
国土交通省では、2014年度に、資源・エネルギー等の海上輸送ネットワークの拠点となる埠頭の荷さばき施設等に係る税制の特例措置を延長するなど、資源・エネルギー等の安定的かつ効率的な海上輸送網の形成に向けた取組を推進しました。
(11)JICAの機能強化【制度】
2014年6月に、「インフラシステム輸出戦略」を改訂し、円借款については迅速化をさらに押し進めるべく、円借款事業の実施に当たっての事前資格審査(P/Q)と本体入札とを一本化しました。また、同一セクターの複数案件に包括的に円借款を供与する「セクター・プロジェクト・ローン」の本格活用を開始しました。海外投融資については海外インフラ事業に参画する日本企業の為替リスクを低減するべく、現地通貨建ての融資スキームを創設しました。また、同年12月には、PPPインフラ整備に向けた円借款による包括的支援を表明し、その一環として「PPPインフラ信用補完スタンド・バイ借款」を創設しました。この制度改善により、途上国におけるPPPインフラ整備において、オフテイカーの契約履行を保証すべく、途上国政府に円借款を供与することが可能になりました。