第1節 エネルギー国際協力体制の拡大・深化

世界のエネルギー情勢が大きく変化する中、各国のエネルギー需給構造をより安定化・効率化するためには一国での取組だけでなく、多国間及び二国間のエネルギー協力を戦略的に組み合わせつつ、国際的な協力を拡大することが重要となってきています。

そのため、2015年度においては、多国間の国際エネルギー枠組みを活用し、エネルギーの安定供給確保に向けた取組を進めるとともに、二国間の協力を通じて、アジア各国等との国際協力やエネルギー供給国との関係強化を行いました。

<具体的な主要施策>

1.多国間枠組みを通じた協力

(1)主要消費国における多国間協力

①国際エネルギー機関(IEA)における協力

IEAは、1974年11月、第一次石油ショックを契機として、米国の提唱により石油消費国間の協力組織として設立されました。当初は、国際エネルギー計画(IEP)協定に基づく石油の90日備蓄義務及び緊急時対応を始めとするエネルギー問題解決のための国際協力が主な活動内容でしたが、現在では、エネルギー安全保障、経済成長、環境保全(3E)の同時達成という観点から、①低炭素技術の開発促進・省エネ、低炭素技術の開発・普及のための政策提言、低炭素技術R&Dのための技術協力、②国際石油市場、世界エネルギー需給、エネルギー技術等の見通しの策定、公表、③中国、インド、ロシアを含む新興途上国、産油国等との協力の構築、④国別エネルギー政策の審査、勧告の実施など幅広い活動を展開しています。現在の加盟国は、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、韓国、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国、スロバキア、ポーランド、エストニアの計29か国です。

2015年9月には、親日家であるファティ・ビロル氏がIEA事務局長に就任し、同年11月には同事務局長の下で初めてとなるIEA閣僚理事会が行われ、我が国からは鈴木経済産業副大臣及び武藤外務副大臣が出席しました。同会合では、ガスセキュリティの強化や共同石油安全保障制度、技術協力プログラムの強化の拡大を柱とする議長総括の発出に加え、IEAが新興国等のIEA非加盟国との連携強化を図る上で重要な制度的枠組である「アソシエーション」が始動しました。

○国際エネルギー機関拠出金

【2015年度当初:3.6億円】

「世界エネルギー展望(WEO)」を始めとするエネルギー市場の分析、エネルギー技術ロードマップの策定、低炭素エネルギー技術プラットフォームの構築などを行うと同時に、IEAが知見を有するエネルギー安全保障にかかる緊急時対応審査(ERR)の実施や、これに関連するワークショップの開催等を支援するために、国際エネルギー機関加盟国として拠出を行いました。

②国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)における協力

IPEECは、我が国のイニシアチブにより2009年に設立された、参加各国の省エネルギー対策の自主的な取組を支援するための国際協力枠組みです。現在の加盟国は、G8、中国、韓国、ブラジル、メキシコ、インド、オーストラリア、南アフリカ、トルコ、EUであり、IEAに加盟していない中国やインドといった新興国も加盟していることが特徴です。我が国は、省エネルギー制度や先進的なエネルギー管理事例の情報提供を通じて各国との協力関係を築くとともに、特に、産業分野のエネルギー管理を推進するタスクグループである「エネルギー管理行動ネットワーク(EMAK)を中国とともに主導しています。

③G7における協力

G7エネルギー大臣会合は先進主要7カ国(日・米・加・独・仏・英・伊。一昨年まではロシアを含めてG8)のエネルギー担当大臣による閣僚会合として、1998年より不定期にG7サミット議長国が開催しています。2015年5月に行われたG7エネルギー大臣会合では、エネルギーの政治的利用へのけん制、エネルギー安全保障の確保、ウクライナ支援等が共同声明に盛り込まれました。我が国の主張により、LNG市場柔軟化に向けて仕向地条項の緩和が明記されるとともに、原子力を含むエネルギー源の多様化、ウクライナへの石炭火力効率化支援等が共同声明に反映されています。

ウクライナ協力については、当該共同声明を受け、2015年2月と9月に岩井経済産業大臣政務官がウクライナを訪問し、プローダン 前エネルギー・石炭産業大臣と会談を行い、ウクライナの老朽石炭火力発電の効率向上やエネルギー政策のマスタープランづくり等、幅広い協力を進めていくことを確認した共同声明を発出しました。

④G20における協力

2015年10月に、トルコ(イスタンブール)において、G20で初となるエネルギー大臣会合が開催され、我が国からは高木経済産業副大臣が出席しました。エネルギー大臣会合では、「包摂性のあるエネルギー協力とG20エネルギー原則の実行」をテーマに、出席閣僚等とアフリカのエネルギーアクセス改善等について議論が行われました。共同声明には、我が国の主張により、高効率石炭火力の有用性、将来の安定供給に向けた上流投資の継続、エネルギー源の多様化の重要性とエネルギー市場の機能向上が明記されました。

2015年11月に、トルコ(イスタンブール)において開催されたG20首脳会合では、エネルギー大臣会合の成果を踏まえつつ、安倍総理から、世界のエネルギーアクセス向上のため、利用可能な現地産の化石燃料を含む多様なエネルギー資源のクリーンで安全な利用を促進する必要があること、エネルギー安全保障の確保のため、調達先の多角化と、現実的でバランスの取れたエネルギーミックスの実現が重要であること、透明で競争的なLNG市場の構築が重要であることを指摘しました。また、日本は、世界最高レベルの高効率火力発電技術や省エネ機器の普及を通じ、世界のエネルギー効率向上と気候変動対策に貢献し続けていく旨を説明しました。また、同会合の機会に合わせて「G20サブサハラ・アフリカに於けるエネルギー・アクセス会合」が開催され、我が国からは薗浦外務大臣政務官が出席しました。

(2)アジア地域における多国間協力

①ASEAN+3・東アジア地域における協力

アジア地域におけるエネルギー需要の急増を踏まえ、アジア規模でのエネルギーの安全保障と持続可能性を確保するため、2004年より、ASEAN+3エネルギー大臣会合(ASEAN、日中韓13か国の代表が出席)、2007年より、東アジアサミット(EAS)エネルギー大臣会合(ASEAN、日中韓、豪、印、ニュージーランド、米、露18か国の代表が出席)が開催されています。

2015年10月に、マレーシア(クアラルンプール)において第12回ASEAN+3エネルギー大臣会合及び第9回EASエネルギー大臣会合が開催されました。今回の会合で、工業団地でのエネルギー安定供給や離島でのディーゼル発電の置き換えに向けた協力として、我が国から「分散型エネルギーシステム・イニシアティブ」を提案し、各国から歓迎されました。また、エネルギー政策の基盤となるアジアワイドでの政策研究を強化していくため、「EAS中長期エネルギー政策調査研究ロードマップ」を作成することについても我が国から提案を行い、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)がロードマップを作成することで合意しました。

さらに、我が国が、省エネルギーや原子力安全の分野での人材育成や、石油セキュリティ構築支援研修を実施してきたことについて、参加国から感謝の意が示されました。この他、参加国は、ガスセキュリティの強化や柔軟なLNG市場の推進の重要性に留意するととともに、多くの国が原子力を現実的なベースロード電源の選択肢と考え続けていることを再認識しました。

○東アジア経済統合研究協力拠出金

【2015年度当初:4.7億円】

運輸部門における燃料消費の抑制に向けたロードマップの策定や、石油備蓄を推進するにあたっての各国制度等の課題の分析、我が国の省エネルギー・再生可能エネルギー関連設備等の導入促進を図るための研究・政策提言、東アジア各国の研究機関ネットワーク(ERIN)と連携した原油・LNG調達を中心とするシーレーン安全保障の分析等を実施するためにERIAに拠出を行いました。

②日ASEANにおける協力

日・ASEANエネルギー協議を2000年度から毎年開催し、2015年6月に第16回協議を開催しました。本協議では、日本のエネルギー政策の動向及びASEAN各国の省エネルギー政策の進捗について情報交換を行うとともに、省エネルギー協力、電力インフラ整備の課題について議論を行いました。

③アジア太平洋経済協力(APEC)における協力

1989年11月にオーストラリア・キャンベラで開催された第1回APEC閣僚会議において、エネルギー問題に対する域内協力の重要性と、これを専門に議論する場を設定することで一致しました。これを受けて、1990年にエネルギー作業部会(EWG)が設立され、さらに1996年には、よりハイレベルなエネルギー政策対話を行うため、シドニーにおいて第1回APECエネルギー大臣会合が開催され、以後ほぼ隔年に開催されています。

これまでのAPECエネルギー大臣会合において我が国が提案し、合意された事項に基づき、①APECメンバーのエネルギー効率向上に向けた取組状況をレビューする「エネルギー効率ピアレビュー」、②低炭素エネルギー供給を促進するための「低炭素エネルギー供給政策ピアレビュー」、③急速な都市化に直面するAPEC地域において、都市レベルで低炭素技術を統合的に導入することを目指す「APEC低炭素モデルタウンプロジェクト」、④石油及びガスの供給途絶時の対応能力の強化を図るための「APEC石油ガス・セキュリティエクササイズ」を着実に実施しました。また、2015年10月にセブ(フィリピン)で開催された第12回APECエネルギー大臣会合において、質の高い電力インフラの普及を通じてAPEC地域における安定的な電力供給を実現するため、我が国は発電所の質を担保するために考慮すべき事項をまとめたガイドラインの作成を提案し、合意を得ました。

(ア)アジア太平洋経済協力拠出金

【2015年度当初:1.1億円】

アジア太平洋地域におけるエネルギー効率の向上やエネルギー源の多様化、低炭素技術の開発・普及のため、新興国・途上国を対象とした低炭素化促進プロジェクト(低炭素モデルタウンプロジェクト等)を支援するために、APEC事務局に拠出を行いました。

(イ)アジア太平洋エネルギー研究センター拠出金

【2015年度当初:6.5億円】

APECにおける省エネルギー・低炭素化政策の相互審査(ピアレビュー)や「APEC長期エネルギー需給見通し」の作成、エネルギー統計の専門家育成のための研修生受入・専門家派遣、「LNG産消会議」の開催、エネルギーと競争力に関する調査研究、石油及びガスの供給途絶時におけるAPEC各エコノミーの対応能力強化に向けたエクササイズやワークショップ開催のために、アジア太平洋エネルギー研究センターに拠出を行いました。

(3)その他の多国間協力( 生産国と消費国の対話等)

①国際エネルギーフォーラム(IEF)における対話

IEFは、世界の石油・ガス等の産出国と消費国のエネルギー担当大臣及びIEA、OPECを始めとする国際機関の代表が一堂に会する重要な「産消対話」の場です。産消対話を行うことにより、産消国双方が相互に理解を深め、健全な世界経済の達成や供給と需要の安定確保のために安定的かつ透明性のあるエネルギー市場を促進することを目的として、1991年に第1回会合をパリで開催し、以降1 ~ 2年ごとに開催されています。

また、IEFではエネルギー関連の7つの国際機関(APEC、EU、IEA / OECD、IEF、OLADE(中南米エネルギー機関)、OPEC、国連)で協力をし、石油と天然ガスの統計を整備する国際機関共同データイニシアチブ(JODI:Joint Organizations DataInitiative)を進めています。

○国際エネルギーフォーラム拠出金

【2015年度当初:0.3億円】

約90か国の産油国・消費国の閣僚がエネルギー市場の安定等について議論するIEF閣僚会合の開催支援を行うとともに、国際機関共同データイニシアチブ(JODI)事業を実施するために、国際エネルギーフォーラムに拠出を行いました。

②国際機関共同データイニシアチブ(JODI)の整備

また、IEFではエネルギー関連の7つの国際機関(APEC、EU、IEA / OECD、IEF、OLADE(中南米エネルギー機関)、OPEC、国連)で協力をし、石油と天然ガスの統計を整備する国際機関共同データイニシアチブ(JODI)を進めています。2005年にJODI-Oil(石油の統計データベース)、2014年5月にJODI-Gas(天然ガスの統計データベース)を開始しました。

国際機関が協力して需給ファンダメンタルズに関する情報共有を進め、エネルギー需給の動向についての正確かつタイムリーな情報が市場に提供されることで、市場の透明性が増し、過度の価格乱高下を抑制できると考えられています。JODIは、IEFにとって最も重要でかつ最も大きな成果をおさめてきた活動であり、我が国は,資金面のみならず人材面でもJODIの発展に寄与してきました。JODIのデータベースは年々着実に充実しており、世界の石油・ガス需給の9割以上を網羅しています。より一層のデータ拡充に向けて、関係機関が協力して取組を続けています。

③アジア・エネルギー産消国閣僚会合

アジア・エネルギー産消国閣僚会合は、アジアの主要な資源国と消費国が一堂に会し、国際的なエネルギー問題、アジア地域のエネルギー安全保障の課題等に焦点を当て率直な議論を行い、信頼関係構築を図ることを目的として、2005年以降、隔年で開催されています。

2015年11月には、第6回アジア・エネルギー産消国閣僚会合がドーハで開催され、我が国からは北村経済産業政務官が出席しました。同会合では、「新たなエネルギー情勢におけるアジアの役割」をテーマに、参加国のエネルギー市場の現状と見通し並びにその課題等を議論しました。我が国からは①より良く機能するLNG市場の重要性、②将来の安定供給に向けた上流投資の継続、③省エネルギーの促進を主張し、各国の共通理解を得ました。

④国際再生可能エネルギー機関(IRENA)における協力

IRENAは、再生可能エネルギーの普及・利用促進を目的として設立された、IEA、IAEAに次ぐ第3のエネルギー分野の国際機関であり、我が国は、2010年7月から正式に加盟しました。事務局はUAEのアブダビに設置されています。IRENAの主な活動は、①加盟国の政策、制度、技術、成功事例の分析・体系化、②他の政府・非政府機関等との協力、③政策助言、④技術移転、⑤人材育成、⑥資金に関する助言、⑦研究ネットワークの展開、⑧国際的技術基準の作成等です。

2015年1月には、IRENAの第5回総会がアブダビで開催され、宮沢経済産業大臣及び中山外務副大臣が共同議長として、アドナン・アミン事務局長の再選手続を含む、議事を進行しました。また、同総会を通じて、日本が先進技術を持つ再生可能エネルギー分野において世界に貢献していく姿勢を示しました。

2016年1月に開催された第6回総会には山田外務大臣政務官が出席し、開会時に議長を務め、第6回総会議長国(エジプト)に議長を引き継ぐとともに、冒頭挨拶を行い世界の再生可能エネルギー普及に向けた日本の取組強化の姿勢を表明しました。

さらに日本政府は、島嶼国における再生可能エネルギー普及の観点から、人材育成とプロジェクト形成支援を目的とし、IRENAとの共催により、アジア太平洋地域等の島嶼国の行政官を対象として、国際ワークショップ(2015年8月、クアラルンプール)及び訪日研修(2016年2月、東京)を実施しました。

(ア) 国際再生可能エネルギー機関分担金

【2015年度当初:1.4億円】

IRENAを通じ、我が国単独では十分な成果が見込めない大規模な調査や普及活動を実施することにより、再生可能エネルギーを国際的に普及させるため、同機関の活動・運営費用を、各国分担率に基づき、外務省、農林水産省、経済産業省、環境省の4省共同で分担しました。

(イ) 国際再生可能エネルギー機関拠出金

【2015年度当初:0.8億円】

IRENAが調査や普及活動を実施する際に、我が国に強みのある再生可能エネルギー関連技術を取り上げるよう働きかけ、蓄電池等の我が国技術の海外展開の環境整備や食料供給と競合せずに地域の特性を活かす「日本型バイオマス利活用システム」を広く国際的に普及させるため、分担金に加え、経済産業省と農林水産省から拠出を行いました。

⑤クリーンエネルギー大臣会合

クリーンエネルギー大臣会合(CEM)は、世界の主要24か国及び地域から構成される、クリーンエネルギーの普及促進を目的とした唯一の国際会合です。2015年度も5月に第6回会合がメキシコ・メリダで開催されました。

本会合では発足後5周年を迎え、世界的な気候変動対策の重要性が高まる中、本会合の閣僚級議論のレベルの向上や民間の巻き込みを図り、CEMの更なる活性化の為のCEM組織運営改革論が主題となりました。具体的改革案として、今後各会において閣僚向けに3つの重点イニシアチブに絞り効率的な議論をすること、民間巻き込みの更なる加速を慫慂すること等が挙げられ、我が国としても本改革案に賛同するとともに、我が国からは民間企業の巻き込みの重要性を発信しました。

また、電力システム変革に係る重点イニシアチブに参加することを表明し、他の参加国・地域とともに共同声明を発出しました。本イニシアチブは、我が国が参加する国際スマートグリッドアクションネットワーク(ISGAN)、風力・太陽エネルギーワーキング・グループ(Multilateral Solar and WindWorking Group)、電気自動車イニシアチブ(EVI)の共通テーマでもあり、世界的に再生可能エネルギーの導入、普及を促進する上での電力システム改革の必要性、スマートグリッド技術の重要性を各国で認識し、各国内に於ける活動や国際協力を通じて電力システム改革、それに係る技術普及を進めて行くものです。

⑥エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ(GSEP)

GSEPは、クリーンエネルギー大臣会合とIPEECの下、官民双方が参加する、最先端の省エネルギー・低炭素技術の発展・普及に関する日米共同イニシアチブとして2010年に設立されました。日本が議長国を務めるセクター別ワーキング・グループ(WG)のうち、電力WGでは、2014年11月のG20ブリスベンサミットで合意された「省エネ行動計画」のうち発電分野の活動推進のため、2015年5月にトルコにて高効率低排出(HELE)に資するクリーンコール技術についての知見の共有を図るワークショップを開催しました。また、2015年7月にはトルコにてHELE発電技術促進に関するベストプラクティスの共有を図るワークショップを開催するとともに、石炭火力発電所における省エネ診断を実施しました。これらの成果は2015年10月のG20エネルギー大臣会合に報告され、活動の進捗が歓迎されました。鉄鋼WGでは、2016年2月に東京にて会合を開催し、参加各国の官民によるエネルギー管理に関する知見について記載されたブックレットを作成・採択を行い、併せて当該WGの活動終了を決定しました。

⑦エネルギー憲章条約

エネルギー憲章条約(ECT:Energy CharterTreaty)は、エネルギー分野における長期の協力を促進するための法的枠組みの提供を目的とした条約であり、投資の自由化・保護の仕組みを持ち、2016年3月現在、世界で49か国・機関が締結しています。2015年5月、新興国の台頭及びそれに伴う世界のエネルギー需給構造の変化、気候変動問題への危機感の高まり等を踏まえ、条約の基礎となった1991年の政治宣言「欧州エネルギー憲章」を近代化した「国際エネルギー憲章 (International Energy Charter)」が採択されました。その署名には、既存の条約締約国のみならず、中国、韓国、カンボジア、チリ、コロンビア、タンザニア、ニジェール等、まだ条約を批准していない新しい国が20か国以上も参加し、これまでの旧ソ連及び東欧諸国、EU諸国中心のものから、まさに地理的な広がりを持ちつつあります。(第391-1-1)

2016年は我が国が議長国となります。民間企業の投資活動のために安定的な法的基盤を提供する議論を引き続き進めていくとともに、エネルギーアクセスや気候変動対策等の国際的に関心の高い主要課題の解決にも取り組んでいきます。また、アジア諸国等新興国のエネルギー憲章条約(ECT)締結に向けた動きをサポートし、地理的広がりを持ちつつあるECTの締約国拡大に向けた動きをさらに加速していきます。

【第391-1-1】①「エネルギー憲章条約」締約国【赤】と②新しい政治宣言「国際エネルギー憲章」署名国【黄色】

①「エネルギー憲章条約」締約国【赤】と②新しい政治宣言「国際エネルギー憲章」署名国【黄色】

⑧多国間枠組を通じた人材育成等

2015年7月に中東欧地域環境センター(REC)との共催で、ハンガリーにおいて「低炭素技術セミナー」を開催し、中東欧地域における低炭素技術普及に関する見通しや課題、二国間オフセット・クレジット制度(JCM)に関する制度概要や適用技術を共有しました。

⑨証券監督者国際機構(IOSCO)との連携

経済産業省は、商品取引所及び取引所外取引における相場操縦行為等の不公正取引の監視強化や透明性向上のために、証券監督者国際機構(IOSCO)の活動に積極的に参画しています。IOSCOはG20の要請に基づき策定した「商品デリバティブ市場の規制及び監督に関する原則」の遵守に向けた取組への評価を2014年に引き続き実施し、結果を「『石油価格報告機関に関する原則』の実施状況に関する第2次報告書」として2015年9月に公表しました。

⑩商品先物市場監督当局間の協力

経済産業省は、各国の先物監督当局間で行われる会合に定期的に参加するなどして、積極的に情報交換、協力を行っています。また、IOSCOの包括的な協議・協力及び情報交換に関する多国間覚書の枠組みに参加し、これに基づいて、市場監視のために各国の当局との情報交換を実施する体制を整えています。

2.二国間協力の推進

(1)先進諸国との協力

①日米協力

2015年4月、安倍総理とオバマ大統領は日米首脳会談において発出された日米共同ビジョン声明において日米エネルギー協力の重要性について再確認しました。それに伴い発出された、より繁栄し安定した世界のための日米協力に関するファクトシートにおいては、将来の米国産LNG輸出の見通しを歓迎する旨、原子力は温室効果ガスの排出削減に貢献する重要なベースロード電源であるとの共通認識に基づき、日米二国間委員会を通じて民生用原子力協力をさらに強化していく旨、さらには、低炭素社会構築のためのクリーンエネルギー技術分野における二国間及び多国間の協力を強化していく旨を盛り込みました。また、2015年末には、米国議会で長らく輸出が制限されてきた米国産原油の輸出を認める法律が成立し、今後我が国にも米国産原油が輸入されることが期待されます。

天然ガス分野については、安倍総理を筆頭とするハイレベルな資源外交の結果、FERC(米国連邦エネルギー規制委員会)によるLNG輸出施設の建設・操業の承認(環境審査)も取得し、米国から日本へのLNGの輸出が2016年に開始されます。東日本大震災以降、天然ガスへの依存が急増している中、新たに米国からまとまった供給を受けることは、我が国のエネルギーの安定供給に貢献するものであり、高く評価するものです。また、2015年10月のTPPの合意により、今後TPPが発効すれば日本へのLNG輸出の承認がさらに迅速化されることが期待されます。また、JOGMECと米国国立エネルギー技術研究所(NETL)との間で締結されたメタンハイドレートの日米共同研究に関する覚書に基づき、日米両国ではメタンハイドレートについての技術協力が着実に進んでおり、2016年にはアラスカ州での生産試験の実施に向けた試掘を予定しています。

原子力分野では、2015年11月に、ワシントンにおいて、日米二国間委員会の第4回会合を開催し、核セキュリティ・核不拡散対策、廃炉・廃棄物管理等福島事故対応協力、原子力安全規制、原子力防災、民生原子力エネルギーの研究開発に関する二国間の協力等につき意見交換を実施しました。

クリーンエネルギー分野においては、国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)等と米国エネルギー省国立研究所等の間で人工光合成、地熱、スマートグリッドなど基礎的なクリーンエネルギー技術分野で様々な協力が進展していることから、両国の研究開発協力を円滑に促進させるべく、主に知財の取扱い、研究開発費用の負担、人材交流や使用機材の取扱について規定する実施取極を経済産業省と米国エネルギー省との間で2015年4月に締結しました。また、同時に、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)においても、米国との技術協力関係をさらに強化するべく経済産業省と米国エネルギー省との間で覚書を作成しました。

なお、2011年以降、日米両国は日米クリーンエネルギー政策対話を6回開催し、今後の日米クリーンエネルギー協力の在り方について議論しました。また、クリーンエネルギー分野の日米官民協力枠組みである、日米再生可能エネルギー等官民ラウンドテーブルについても、これまでに3回開催し、日米両国の企業及び政府関係者が出席し、再生可能エネルギー、省エネルギー及びスマートコミュニティ等の普及拡大に向けた課題等について議論しました。

また、昨今の日米エネルギー協力は化石燃料分野や電力システム分野、クリーンエネルギー分野まで幅広く拡大してきていることを踏まえ、上記政策対話の名称を「日米エネルギー政策対話」に改称し、日米間のエネルギー協力を広く議論する場として、今後とも継続開催していくことを、日米間で合意しました。

②日加協力

カナダは、西部のブリティッシュコロンビア州でLNGプロジェクトが複数検討されており、日本にとって、地理的な近接性を含め、供給源の多角化を進めていく上で期待している供給元の一つです。2014年11月に、カナダ天然資源省との間で、第1回政策協議を東京にて開催して以降、カナダからのLNGの輸入を実現する上での、LNG課税、労働力不足、迅速な許認可手続き等の課題について協議を継続しています。

③日仏協力

日仏両国は、石油・天然ガスの多くを輸入に依存する点、今後のエネルギー源の多様化を追求する点等、エネルギー構造、エネルギー政策に多くの共通点が存在します。この観点から、日仏両国では高級事務レベル対話である日仏エネルギー政策対話を設置しています。2012年以降、これまでに政策対話を3回開催し、両国の最新のエネルギー政策についてアップデートするとともに、エネルギー安全保障の強化策について議論しました。また、2015年12月には、両国間の友好関係の強化と、国際及び国内レベルにおける低炭素社会の構築を目指した環境協力の覚書への署名が行われました。

原子力分野においては、2015年10月に安倍総理とヴァルス首相との間で日仏原子力協力に関するハイレベル対話が開催され、原子力を含む両国のエネルギー政策全般とともに、これまで両国で進められてきた原子力協力の現状を踏まえた二国間の今後の協力について意見が交わされました。また、2011年10月の東京での日仏首脳会談における両国首脳の主導により設置された原子力エネルギーに関する日仏委員会の第5回会合を2015年11月に東京にて開催し、両国の原子力エネルギー及び核燃料サイクルに係る政策、高速炉協力、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・除染等に係る協力、原子炉の第三国展開に係る産業協力、原子力安全規制に係る二国間の協力等につき、意見交換を行いました。

④日英協力

2014年5月、安倍総理が訪英し、キャメロン首相との間で日英首脳会談を実施しました。その際、両首脳は「気候変動とエネルギー協力に関する日英共同声明」を発出し、日英両国は、日英エネルギー対話及び国際会議などを通じ、国際的な気候変動及びエネルギー安全保障に関する問題について引き続き緊密に協力することを確認しました。

2015年12月には第7回日英エネルギー対話をロンドンにて開催し、両国のエネルギー政策、電力システム改革、石油・天然ガス調達戦略、再生可能・省エネルギー政策、さらには多国間枠組みにおける日英協力のあり方について議論しました。

原子力分野については、2012年4月に発出された日英両国首相による共同声明に基づき、日英原子力年次対話を設置しています。2015年11月にロンドンで開催した第4回日英原子力年次対話では、両国の原子力政策、廃炉及び除染等の東京電力福島第一原子力発電所事故対応、原子力研究開発政策、リスクコミュニケーションを含む広報の在り方等について、意見交換を行いました。

⑤欧州委員会との協力

日EUエネルギー政策対話は、2007年1月に行われた安倍総理とバローゾ欧州委員会委員長との会談の際に、日EUエネルギー協力の強化の必要性が認識されたことを受け、2007年4月にブラッセルで初めて開催され、これまで4回開催されてきました。2015年9月に東京で開催した第5回日EUエネルギー政策対話では、エネルギー政策、天然ガス市場、再エネ・省エネ等技術協力、エネルギー安全保障等の幅広い協力について議論しました。

⑥日ウクライナ協力

2015年5月のG7エネルギー大臣会合及びG7サミットにて、各国がウクライナに対してエネルギー効率の向上を含めエネルギー分野での様々な形の支援を継続することで一致しました。また、2015年6月に安倍総理とポロシェンコ大統領との首脳会談において、安倍総理より、日本として進めてきたエネルギー支援の一環であるエネルギー政策マスタープランの提示と高効率の石炭火力発電の更なる協力について言及しました。これを受けて、2015年10月、岩井経済産業大臣政務官がウクライナを訪問し、デムチシン・エネルギー石炭産業大臣と会談を行い、エネルギー政策マスタープランの成果の報告と引渡しを行ったとともに、石炭火力の高効率化などウクライナのエネルギー安全保障強化のために今後も継続してエネルギー支援に取り組むことを表明しました。会談後、協力関係の着実な進展と今後の協力推進を確認するための共同声明を発出しました。

⑦日豪協力

日豪両国は、石炭、LNG、ウラン等の資源エネルギーの分野において重要なパートナーであり、1985年以来、国際エネルギー情勢や両国のエネルギー政策等を議論する二国間対話の場として、日豪エネルギー高級事務レベル協議(HLG)を開催しています。2014年6月には、第35回日豪HLGをブリスベンにて開催し、両国のエネルギー・鉱物資源政策や電力市場改革、エネルギー技術等について意見交換を行いました。

また、2015年9月に東京にて開催されたLNG産消会議にオーストラリア政府のハイレベルが出席し、LNG市場の発展等に向けた議論をしました。

(2)アジアとの協力

①日インド協力

インドは、2013年時点で米中に次ぐ世界第3位のエネルギー消費国であり、電力需要は2040年までに2013年比で3倍以上に増加することが見込まれています。インドのエネルギー資源の安定供給確保とエネルギー効率化の向上は、日本のエネルギー安全保障の上でも重要であり、両国の経済発展にも直結する重要な政策課題になっています。また、インドの電力構成は、石炭火力発電が約7割を占めており、発電効率の向上や環境対策も重要な課題となっています。

こうした背景を踏まえ、エネルギー分野における両国の協力拡大を図る観点から、2007年の首脳合意を踏まえ、閣僚級の枠組みである「日印エネルギー対話」を立ち上げ、両国閣僚の相互訪問により、2007年以降、計8回の対話を実施しました。

第8回日印エネルギー対話は、2016年1月に開催され、林経済産業大臣とインド・ゴヤル電力・石炭・新・再生可能エネルギー大臣が共同議長を務めました。両大臣は、電力、再生可能エネルギー、省エネルギー、石油・天然ガス、石炭の各分野における日印間の協力の進展を確認し、今後も包括的に協力を深化させていくことに合意し、共同声明「日印エネルギーパートナーシップイニシアティブ」に署名しました。

また、2015年12月には安倍総理が訪印し、モディ首相との会談で、インドにおける気候変動問題の解決への協力を約束するとともに、共同声明において、民生用原子力、高効率石炭火力、再生可能エネルギー、スマートコミュニティ、モデル事業、LNG、政策研究の各分野での協力について合意しました。

②日インドネシア協力

インドネシアは、日本にとって有数の天然ガス及び石炭の輸入相手国であり、複数の日本企業が多くの上流開発プロジェクトやLNGプロジェクトに参画しています。また、インドネシア政府は2015年から2019年までに35GWの電源整備を計画しており、2015年3月の日インドネシア首脳会談での共同声明において、両首脳が同計画への協力を深めることの重要性を確認したところです。

こうした状況を踏まえ、2015年6月に東京で第3回日インドネシアエネルギーフォーラムを開催しました。同フォーラムでは、天然ガス、電力、再生可能エネルギーなどの分野における、政策、金融制度、個別案件や技術動向等について、官民による情報共有と意見交換を行いました。これに加え、35GW計画への協力を推進するため、官民ミッションを2回派遣し、日本企業が個別案件についてインドネシア政府と協議する場を設定しました。

10月には、高木経済産業副大臣がスディルマン・エネルギー鉱物資源大臣と会談し、35GW計画の着実な実施や天然ガス協力など、今後のエネルギー協力の強化について議論しました。石炭分野においては、我が国炭鉱技術移転のための専門家の派遣を実施し、また、2009年より「石炭政策対話」を実施し、個別具体的な協力案件を醸成してきたところです。

また、インドネシアは有望な地熱発電市場であることから、同国の政府関係者向けに、地熱発電分野を中心とした再生可能エネルギーに係る研修事業を行いました。

環境エネルギー協力としては、JCMの下で2015年3月に2件のJCMプロジェクト登録を行い、2015年5月、11月には第4回、第5回合同委員会を開催し、6件の方法論を採択しました。

③日ベトナム協力

ベトナムは、石炭、石油・天然ガス、鉱物資源を豊富に保有する資源国であり、日本にとって良質な無煙炭の重要な供給国です。現在、両国間においては、第七次電力マスタープランの実現に向けた協力、原子力発電導入に向けた人材育成などを含む基盤整備、日ベトナム共同での石炭地質構造調査、日越石炭政策対話の開催、省エネルギー促進のための長期専門家の派遣及び受入研修等、多岐の分野にわたる協力関係が進展しています。

我が国との具体的なエネルギー協力として、原子力分野では、2010年10月の日越首脳会談において我が国がニントゥアン省原子力発電所第2サイト建設計画のパートナーとなることが確認されており、安全な原子力発電の導入に向けた制度整備や人材育成等の基盤整備協力などを行っています。

石炭分野では2013年より「日越石炭政策対話」を実施しています。また、国営石炭鉱物工業グループ(VINACOMIN)と共同で地質構造調査や我が国炭鉱技術移転のための専門家の派遣や研修生受入れを行っております。さらには商工省をはじめとする政府関係者に対して、我が国のクリーン・コール・テクノロジーの導入を促進するための派遣・招聘技術交流を実施しました。

環境エネルギー協力については、2015年1月、8月にJCMの第3回、第4回合同委員会を開催し、5件の方法論の採択及び2件のJCMプロジェクトの登録を行いました。

④日タイ協力

タイでは、2015年、電源開発計画の改定などエネルギー政策の見直しが行われました。この政策の推進にあたり、我が国が知見や技術を活用して協力することが期待されます。

こうした状況を踏まえ、2015年2月の日タイ首脳会談での共同声明における合意に基づき、7月にバンコクで第1回日タイ・エネルギー政策対話を開催しました。対話では、石油・天然ガス分野における二国間協力の取組状況や、我が国の最先端の高効率石炭火力技術、電源開発におけるパブリックアクセプタンス向上の取組、ディマンド・レスポンスの取組を紹介し、タイにおける取組拡大に向けた議論を行いました。

環境エネルギー協力については、2015年11月19日、東京にてJCMに関する二国間文書に署名しました。また、2016年1月には第1回JCM合同委員会を開催し、ガイドライン類の採択を行いました。

⑤日カンボジア協力

カンボジアは石油の輸入、精製、販売といった石油産業の下流分野の法律を持っておらず、現在鉱業エネルギー省で法律案を検討しています。鉱業エネルギー大臣からの要請に応え、我が国の石油備蓄や揮発油等の品質確保に関する法律について、法律の逐条解説やカンボジア政府の法律案との比較分析を行い、同国の法律に規定されていない内容の指摘や我が国の石油政策を紹介することにより、同国の石油下流分野における法令構築を支援しました。

環境エネルギー協力については、2015年1月に第1回JCM合同委員会を開催し、ガイドライン類の採択を行いました。

⑥日中協力

中国は、世界最大のエネルギー消費国であり、2040年までのエネルギー需要が約3割伸びると見込まれていることから、中国のエネルギー効率の向上は、日本のエネルギー安全保障にとって重要な課題です。また、中国においては、近年、石炭火力発電や自動車等を由来とした大気汚染が大きな問題となっており、その解決策の一つとして、省エネルギー対策に取り組んでいるところです。

こうした状況の中、2015年11月、日中の官民による省エネ・環境協力のプラットフォームである「第9回日中省エネルギー・環境総合フォーラム」が東京で開催されました。今次フォーラムには、日本側からは林経済産業大臣、高木経済産業副大臣、丸川環境大臣を、中国側からは張勇国家発展改革委員会副主任、高燕商務部副部長を始めとして、両国の官民関係者合わせて約750の参加がありました。また、今次フォーラムでは、26件の協力プロジェクト文書が交換され、2006年5月の第1回開催以来の協力プロジェクト数の累計は285件となりました。

今回調印された協力案件では、IoTを活用した製造業の省エネルギー化や電力需要側管理システムに係る協力など、新たな分野の協力も進んできています。さらに、今次フォーラムでは、日中双方が関心を持つ「スマートシティ」、「次世代型自動車」等の6分野で、政策や技術等に関して実務レベルで意見交換を行う分科会を開催し、具体的なビジネス及び協力の機会の拡大を図りました。

(3)エネルギー供給国等との関係強化

①日サウジアラビア協力

サウジアラビアは、世界有数の産油国かつ日本にとって第1位の原油供給国です。また大きな余剰生産能力を持つことから、国際原油市場の安定にも大きな影響力を有しています。2010年からは石油の共同備蓄事業を開始するなど協力関係を進展させてきました。

また、近年、同国はエネルギー消費の急速な伸びが課題となっており、我が国の有する省エネルギーの経験を活かした協力が重要となっています。2007年に立ち上げた投資促進、人材育成、中小企業支援を柱とした日サ産業協力タスクフォースを通じて、エネルギー分野にとどまらない幅広い協力・関係強化を官民一体となって推進しています。

2015年11月には、北村経済産業政務官がアブドゥラジス石油鉱物資源副大臣と会談を行い、国際石油市場の安定化に向けた協力や省エネルギー協力について意見交換を行いました。

2016年1月には、高木経済産業副大臣がサウジアラビア(リヤド)を訪問し、サウジ政府要人等との会談等を行いました。ナイミ石油鉱物資源大臣との会談では、国際石油市場及び両国のエネルギー事情等について意見交換を行うとともに、原油の安定供給の確保に向けた協力の重要性を確認したほか、人材育成や中小企業支援を含めた産業協力や省エネルギー等の分野における協力強化を図ることで一致しました。加えて、タウフィーク商工大臣、ファキーフ経済企画大臣及びファラジKACARE(KingAbdullah City for Atomic and Renewable Energy)副総裁と二国間の協力関係強化に向けて意見交換を行いました。

環境エネルギー協力については、2015年5月13日に、JCMの構築に合意し、サウジアラビアが中東初のJCMパートナー国となりました。また、10月には第1回JCM合同委員会を開催し、ガイドライン類の採択を行いました。

②日UAE協力

アラブ首長国連邦(UAE)は、日本にとって第2位の原油調達国であり、我が国の自主開発原油の約4割が存在する資源国です。我が国との間では、要人の往来が活発に行われており、様々な分野での協力を推進してきました。

2015年11月には、高木経済産業副大臣がUAEを訪問し、アブダビ国際石油会議(ADIPEC)に出席するとともに、アブダビ政府要人等との会談等を行いました。ハーミド・アブダビ皇太子府長官とは、我が国企業が保有する石油権益の延長を働きかけたほか、エネルギーをはじめ、産業、投資、先端技術など、幅広い分野における両国間の協力の重要性について意見交換を行い、そうした協力の更なる進展に向けて取り組んでいくことで一致しました。スウェイディADNOC総裁とは、原油の安定供給、石油分野での人材育成の重要性などについて確認するとともに、我が国企業が保有する石油権益の延長を働きかけました。加えて、ハルドゥーン・アブダビ執行関係庁長官、マンスーリ・アブダビ経済開発庁長官とは二国間関係の更なる強化に向けて意見交換を行いました。また、マズルーイUAEエネルギー大臣及びスウェイディ・アブダビ国営石油会社総裁の同席の下、石油・ガス分野における包括的・戦略的パートナーシップの強化に関する国際協力銀行(JBIC)とアブダビ国営石油会社(ADNOC)の覚書の署名に立ち会いました。

2015年12月には、スウェイディADNOC総裁が来日しました。林経済産業大臣と会談が行われ、石油分野を始め、幅広い協力を継続していくことを確認しました。

また、2016年1月には、高木経済産業副大臣がワールド・フューチャー・エナジー・サミット(WFES)及びアブダビ省エネルギーフォーラム、日UAE宇宙シンポジウムに出席するためにUAEを訪問しました。キンディUAE中央銀行会長及びスウェイディ・アブダビ国営石油会社(ADNOC)総裁との会談では、原油の安定供給、石油分野での人材育成の重要性等を確認するとともに、我が国企業が保有する石油権益延長の働きかけを行ったほか、エネルギー分野における協力関係の更なる進展に向けて意見交換を行いました。また、キンディUAE中銀会長及びスウェイディ総裁の同席の下、原油の安定的な確保を目的として国際協力銀行(JBIC)がADNOCに対して行う融資に係る契約の署名式に立ち会いました。マズルーイUAEエネルギー大臣とは、国際石油市場の動向及び見通しを始め、低油価による中東地域の経済や石油開発への影響、省エネルギー分野における協力等について意見交換を行うとともに、我が国企業が保有する石油権益の延長を働きかけました。加えて、ハルドゥーン・アブダビ執行関係庁長官とは、エネルギー協力を基礎としつつ、産業、先端技術、医療、インフラなど、幅広い分野における協力を一層推進していくことで一致しました。

③日カタール協力

カタールは、世界第3位の天然ガス埋蔵量を有する資源国であるとともに、日本にとって第3位の原油輸入国、第2位の天然ガス輸入国です。カタールとは、2006年11月に第1回日・カタール合同経済委員会(麻生外務大臣及び甘利経済産業大臣とアティーヤ第二副首相兼エネルギー工業大臣が出席)を開催し、その後毎年委員会を開催し、二国間経済関係をさらに幅広く包括的なものにしていくために協議を重ねてきました。

2015年9月には、経済産業省主催の第4回目となるLNG産消会議2015出席のため、アル・サダ・エネルギー工業大臣が来日し、LNG市場の発展に向けた議論が行われました。また宮沢経済産業大臣との会談が行われ、LNGの低廉かつ安定的供給について協議しました。さらに、第9回日・カタール合同経済委員会が併せて開催され、日本側は、LNG供給源の多角化をはじめとする我が国の取組やLNG市場の変化に触れつつ、競争力のある価格でのLNGの安定供給を要請した一方、カタール側は、エネルギーの安定供給を通じた日本のエネルギー安全保障へのコミットメントを確認しました。

④日クウェート協力

クウェートは我が国にとって第4位の原油輸入相手国です。原油の安定供給確保のため同国との関係を緊密にすることは非常に重要であり、同国との関係強化を推進しています。

2015年5月には、山際経済産業副大臣がクウェートを訪問し、日本・クウェート間の電力・水分野における協力覚書作成のための署名式及びジャサール電力・水大臣との会談を実施しました。

2015年11月には、高木経済産業副大臣がクウェートを訪問し、ブーシャハリー電力・水省次官と会談し、電力・水関連プロジェクトにおいて、我が国企業の一層の参画への期待を表明するとともに、同分野における協力を進めることで一致しました。

⑤日オマーン協力

オマーンは我が国にとって第8位の原油輸入相手国であり、また、我が国企業が石油開発・生産事業に参画していることから、同国との間で石油・ガス分野での協力を進めてきています。

2015年5月には、山際経済産業副大臣がオマーンを訪問し、ルムヒー石油・ガス大臣と会談を行いました。原油の上流開発における関係強化について協議したほか、これまでの友好関係を基にさらに関係を強化していくことで認識が一致しました。

⑥日イラン協力

イランは世界有数の原油及びガスの埋蔵量を持つ資源国であり、日本にとって第6位の原油輸入先です。

2015年7月14日、イランとEU3(英仏独)+3(米中露)による核問題に関する最終合意(包括的共同作業計画:Joint Comprehensive Plan of Action)がなされ、長年続いていた欧米による経済制裁の緩和への計画が定まりました。こうした中、2015年8月、山際経済産業副大臣がイラン石油省等を訪問し、同国要人と会談をしました。ザンギャネ石油大臣との会談では、制裁緩和後の日イラン間の経済関係強化に向けた期待を示すとともに、今後経済制裁が緩和された際の両国間のエネルギー分野におけるビジネス機会や人材に関する協力の可能性を伝えました。

さらに、2016年1月、イランの核問題に関する最終合意が「履行の日」に至ったことを受け、欧米による経済制裁の緩和や、我が国による措置の解除等が行われました。今後は、エネルギー分野を始めとした幅広い分野でのより強い協力関係の構築を進めていきます。

⑦日トルコ協力

近年、我が国とトルコの間では、要人の往来が非常に活発に行われており、インフラ案件を始め、様々な分野での協力を推進しています。

2015年10月、高木経済産業副大臣はG20エネルギー大臣会合に出席するため、トルコを訪問し、エルドアン大統領、アラボユン・エネルギー大臣と会談しました。原子力や石炭火力での協力を始め、幅広い分野での協力について意見交換を行ったほか、二国間の更なる経済関係の進展に取り組むことで一致しました。また、2015年11月、安倍総理のG20サミット出席に際し行われた日トルコ首脳会談時に両首脳は原子力分野での協力を含む二国間のさらなる関係強化に向けた意見交換を行いました。

⑧日露協力

ロシアはサウジアラビアに肩を並べる世界有数の産油国であるとともに、世界第2位の産ガス国でもあります。サハリンにおける石油・天然ガス開発には、我が国企業も参加しています。またエネルギー協力の実現のため、資源エネルギー庁とガスプロムとの間で共同調整委員会を継続しています。

⑨日カザフスタン協力

カザフスタンは、世界第2位のウラン資源埋蔵量を有する資源国であり、カザフスタンから我が国へのウラン供給拡大の潜在性は大きなものがあります。また、ウラン鉱山開発のみならず原子力産業・技術の高度化等広範囲な分野への協力関係拡大を目指しているほか、同国は原始埋蔵量が350億バレルを有する世界有数のカシャガン油田の開発を進めており、日本企業がその開発に参画し、石油ガス分野での協力も行われています。2015年10月の日カザフスタン首脳会談において、両首脳は、カシャガン油田にかかる一層の協力の重要性を指摘するとともに、原子力分野での協力を強化していくことで合意しました。

⑩日モザンビーク協力

モザンビークは、優良な原料炭、天然ガス、レアメタル等の天然資源が豊富に埋蔵されており、日本への新たな供給源として期待されています。

⑪日メキシコ協力

メキシコは、原油、天然ガス、シェールガス等のエネルギー資源が豊富に埋蔵しています。現在メキシコ政府は、75年以上にわたり国家独占とされていた石油・ガス産業について、外資を含む民間企業に開放するエネルギー改革を進めており、日系企業の上流開発への参画や、日本への新たなエネルギー資源の供給源として期待されています。

2015年2月の関経済産業大臣政務官のメキシコ訪問では、ローゼンウェイグ経済省副大臣との会談で、石油天然ガス分野における両国の一層の関係強化に合意しました。エルナンデス・エネルギー省電力担当副大臣との会談では、日本企業の有する優れた発電・変電技術や資金力、IPPの運営能力が、メキシコの電力改革推進や電力コスト削減に貢献し得るとの認識を共有しました。

環境エネルギー協力については、2015年2月にJCMの第1回合同委員会を開催し、ガイドライン類の採択を行いました。