第3節 エネルギーコスト低減のための資源調達条件の改善等

東日本大震災後、原子力発電所の停止により、火力発電(特にLNG火力発電)の稼働率が大幅に上昇しています。こうした中、燃料調達費の削減が重要な課題となっています。

燃料調達費の削減に向けて、米国からのシェールガス・LNG輸入の実現や日本企業の上流権益の確保などを通じた供給源の多角化を進め、消費国間の連携強化などを通じた買主側の交渉力の強化が重要です。足下ではLNG価格は低下傾向ですが、こうした買手優位の状況を十分に活用すべきとも言えます。

産消国間の連携強化をすすめるため、2015年9月に「LNG産消会議2015」を東京で開催し、カタールや韓国など主要国の閣僚級を含め、世界約50カ国・地域から1,000人を超える関係者が参加しました。会議冒頭の開会挨拶において宮沢経済産業大臣(当時)から、緊急時においてはガスセキュリティの強化、平時においては産消双方がリスクを低減できる柔軟で流動的な市場の実現の加速化が重要であることを世界に発信いたしました。また、生産者、消費者の最新の取組に加え、新しい視点として、①ガスセキュリティの強化、②船舶やトラックなど輸送部門のLNG利用、③世界のシェールガスのポテンシャルについて活発な議論が行われました。会議の結果、足下でLNGの需給が緩和基調にある中、柔軟な契約、短中期取引の増加、多様な価格決定方式など「より良く機能するLNG市場」に向かっているとの認識を共有し、また生産者や消費者の行動・戦略の変化を見据えつつ、ガスセキュリティの強化を促すことで、LNGのエネルギー源としての魅力を高めていくことで一致しました。

LNG産消会議2015

LNG産消会議2015(2015年9月)

現在、LNG市場では15 ~ 20年に及ぶ長期契約に基づく売買契約が大半を占めており、我が国のLNGバイヤーはLNGの需給に合わせてその都度、必要な量を調達することが困難です。

加えて、長期契約には転売を禁止する仕向地条項をはじめとする制限条項が付されているため、我が国のLNG市場は流動性が低く、また、透明性の高い価格指標が確立されていないためにスポット市場が未成熟な状態です。

これらにより、我が国は裁定取引が確立している欧米市場と比較し、液化や輸送のコストを勘案してもなお割高なLNGを輸入しています。

そのため、仕向地条項の緩和等によるLNGの流動性向上や LNG需給を反映した透明で信頼性の高い価格指標を確立することで、需給に即した調達行動や投資活動が促され、その結果、安定的なLNGの供給確保につながると考えられます。

このように、安定的かつ低廉なLNGの調達のためには、透明で流動的な「より良く機能する」 LNG市場の構築が必要不可欠です。そのため、我が国は主要な国際会議の共同声明へこうしたLNG市場の創設に向けた働きかけを実施しています。2015年5月には、ドイツ・ハンブルクで開催されたG7エネルギー大臣会合において、多様化がエネルギー安全保障の中核的要素であると共通認識を持ち、エネルギーミックス、エネルギー燃料、資源、調達ルートの更なる多様化において、世界のガス供給安全保障への LNG の価値ある貢献を認識しながら、よりよく機能する市場を達成するため、さらなるステップを取ることを共同声明で合意しました。

また、10月にトルコ・イスタンブールで開催されたG20エネルギー大臣会合や11月にトルコ・アンタルヤで開催されたG20サミットにおいては、透明性のある、競争的な、かつ、よく機能するエネルギー市場を引き続き推進するとともに、エネルギー源の多様化及び継続的な投資が、エネルギー安全保障の拡大のために重要であることを共同声明で確認しました。

加えて、10月にフィリピン・セブで開催されたAPECエネルギー大臣会合や11月にフィリピン・マニラで開催されたAPEC閣僚会議および首脳会議において、多様で柔軟かつ統合されたLNG市場の構築に向けた、各国による良好なLNG貿易投資環境の整備の進展が評価されました。

また、消費国間連携強化の取組として、2015年9月には、世界第2位のLNG輸入国である韓国との間で、第5回日韓ガス対話を開催しました。資源エネルギー庁、韓国の産業通商資源部が参加し、両国のLNG・天然ガス政策、消費国間の連携強化によるLNG調達コストの低減、LNG売買契約における仕向地条項の緩和に向けた取組等について議論を交わしました。

さらに、日中韓3か国での国際会議が3年半ぶりに開催されました。2015年10月に開催された日中韓貿易経済大臣会合においては、日中韓の3カ国が世界のLNG需要の約6割を占めていることに触れ、3か国がLNG分野において協力していく重要性を議論しました。その直後に開催された日中韓サミットにおいても同様に、北東アジアにおけるLNG市場の流動性及び効率性を高めるため、LNGに関する協力を強化することを確認しました。

<具体的な主要施策>

○LNG先物市場、電力先物市場の創設に向けた取組

現行のLNG取引の大半は、原油価格に連動する価格方式による長期・相対契約です。原油価格は2000年代半ばから金融危機や中東の地政学的リスク等により不安定に推移してきたため、我が国が輸入するLNG価格はLNGの需給に関係無く大きく変動しています。そして、その価格変動リスクをヘッジする手段が不十分であることが指摘されてきました。LNGのスポット取引の価格等を集計・公表すべきとのLNG先物協議会報告書の提言を受けて、経済産業省は2014年4月から、スポットLNG価格調査を実施し、統計値を公表しています。同協議会報告書ではリスクヘッジの場としてのLNG先物市場の創設についても提言され、経済産業省は第1種特定商品市場類似施設においてLNGを取引対象商品に追加する許可を2014年9月に行い、LNGの店頭取引が開始されました。その後、海外事業者を含めた取引参加者の増加やシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)による清算機能の提供の開始などにより市場機能が強化されつつあります。

また、電力システム改革の第2段階の改正として、先物取引の対象に「電力」を追加することを内容とした改正法が、2016年4月1日に施行され、かかる改正により、電力先物取引が可能となりました。かかる改正を見据え、我が国における電力先物市場の望ましい枠組みについて、諸外国の先行事例も参考にしつつ、検討・協議するために、電気事業者、電力需要家、金融機関、商品取引所等の実務担当者から構成される「電力先物市場協議会」が、2015年3月より計5回開催され、同年7月に報告書が取りまとめられました。当該報告書においては、今後、本協議会の検討を踏まえ、商品取引所や各事業者において電力の先物市場への上場に向けた準備を進めたうえ、電力の小売全面自由化後、可能な限り速やかに、電力の先物市場への上場がされるべきとの提言がなされています。