第3節 電力分野の新たな仕組み~電力分野の革新~
1.電気事業分野の温暖化対策
エネルギー起源CO2は我が国の温室効果ガスの9割を占め、そのうちの転換部門、特に電力部門は、自らの事業所から排出するCO2の抑制に加えて、提供する電力の低炭素化によって、電力使用者のCO2排出抑制に貢献するなど、大きな役割を果たしています。
【第133-1-1】我が国の温室効果ガス排出量とその内訳
このような観点から、電力業界では、京都議定書の第一約束期間におけるCO2排出削減の自主目標として、1990年度比で20%程度削減のCO2排出係数0.34kg-CO2/kWhを掲げ、他国と比べても低いCO2排出係数を維持しておりました。しかしながら、震災後の原子力発電所の停止等の影響により、CO2排出係数は大幅に増加しています。
【第133-1-2】各国のCO2排出係数実績と日本の2030年度目標
- ※出典:
- CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION 2015より作成
各国の火力発電効率と比較しても、日本の火力発電効率は最上級であるが、エネルギーミックスを達成するためには更なる高効率化や低炭素化を進める必要がある。
その後、長期エネルギー需給見通しにおいて2030年度の電力需給構造が示され、これに合わせて、2015年7月に主要な事業者が参加する電力業界の自主的枠組み(国のエネルギーミックス及びCO2削減目標とも整合する二酸化炭素排出係数0.37kg-CO2/kWhを目標)が発表されました。2016年2月には、電気事業低炭素社会協議会が発足し、個社の削減計画を策定し、業界全体を含めてPDCAを行う等の仕組みやルールが発表されたところです。
この自主的枠組みの目標達成に向けた取組を促すため、省エネ法・高度化法に基づく政策的対応を行うことにより、電力自由化の下で、電力業界全体の取組の実効性を確保していくこととしています。省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)は石油危機を契機に制定された、エネルギー需要サイドの化石燃料の使用の合理化を求める法律です。
省エネ法においてこれまでも火力発電設備の性能に関するベンチマーク指標が設けられてきましたが、エネルギーミックスの実現に向けて、これを実際の運転時の発電効率を評価する厳しい指標に見直すこととしました。これによって、発電段階で、エネルギーミックスと整合的な発電効率の向上を求めていきます。
また、高度化法(エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律)では、エネルギー供給サイドにおける非化石エネルギー利用等を促してきた法律です。今回、これをエネルギーミックスの改訂にあわせて、小売電気事業者に非化石電源比率44%を求めることとします。これによって、小売段階で、エネルギーミックスと整合的な販売電力の低炭素化を進めていきます。
これを踏まえ、以下の事項を含め、引き続き「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ」(2013年4月 経済産業省・環境省。以下「局長級取りまとめ」という。)に沿って実効性ある対策に取り組みます。
<自主的枠組みについて>
・引き続き実効性・透明性の向上を促すとともに、掲げた目標の達成に真摯に取り組むことを促す。・国の審議会(産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会資源・エネルギーワーキンググループ)においても電力業界の自主的枠組みにおける取組等をフォローアップする。
<政策的対応>
・省エネ法に基づき、発電事業者に、新設の発電設備について、発電設備単位で、エネルギーミックスで想定する発電効率の基準を満たすこと(石炭42.0%以上、LNG50.5%以上、石油等39.0%以上)を求める。
また、既設の発電設備について、発電事業者単位で、エネルギーミックスで想定する発電実績の効率(火力発電効率A注指標について目指すべき水準を1.00以上(発電効率の目標値が石炭41%、LNG48%、石油等39%(いずれも発電端・HHV)が前提)、火力発電効率B注指標について目指すべき水準を44.3%(発電端・HHV)以上)の基準を満たすことを求める。
・高度化法に基づき、小売電気事業者に、販売する電力のうち、非化石電源が占める割合を44%以上とすることを求める。
・電力の小売営業に関する指針上でCO2調整後排出係数の記載を望ましい行為と位置づける。
・地球温暖化対策推進法政省令に基づき、すべての小売電気事業者に、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度のためのCO2排出係数の実績の報告の協力を要請し、公表する(更に、報告対象に前々年度の実績等を追加し、報告内容の充実を図る。)当面、以上により取り組んでいくことにより、電力業界全体の取組の実効性・透明性を確保します。
また、2030年度の削減目標やエネルギーミックスと整合する2030年度に排出係数0.37kg-CO2/kWhという目標を確実に達成していくために、これらの取組が継続的に実効を上げているか、毎年度、その進捗状況を評価します。
電気事業分野からの排出量や排出係数等の状況を評価し、0.37kg-CO2/kWh の達成ができないと判断される場合には、施策の見直し等について検討します。
- 注
- 事業者単位で、火力発電効率A指標については目指すべき水準を1.00以上(発電効率の目標値が石炭41%、LNG48%、石油39%(いずれも発電端・HHV)が前提)、火力発電効率B指標については、目指すべき水準を44.3%以上(発電端・HHV)とし、両方の目指すべき水準を満たすことを求めている(エネルギーミックスで想定する発電実績の効率と同等)。
【第133-1-3】電気事業者の自主的な火力効率化の枠組と支える仕組み
2.世界最高水準の火力の高効率化に向けて
エネルギーミックスと整合する2030年度の排出係数の目標達成のためには、石炭火力などの火力発電分野において、USC(超々臨界圧)やコンバインドサイクルなどの最新の高効率火力発電技術の導入を進めていくことが必要です。我が国の高効率火力発電技術は現在でも世界最高水準ですが、石炭火力、LNG火力それぞれの分野において、燃料電池と組み合わせたトリプルコンバインドサイクル発電技術など、発電効率を飛躍的に向上させ、二酸化炭素排出量を削減する次世代技術の開発がさらに進められています。
【第133-2-1】火力発電の発電効率の各国比較
- 出典:
- 「IEA ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES」等より作成
2015年7月に官民協議会で策定した「次世代火力発電に係る技術ロードマップ」においては、こうした次世代の火力発電技術の開発目標やスケジュールを定めており、今後、次世代技術の早期の技術確立、実用化に向けて取組みを加速していきます。
また、高効率の火力発電技術については、我が国のみならず海外の新興国においても、その重要性が高まっています。とりわけ石炭火力発電についてはCO2排出量が多い一方で、経済性や供給安定性に優れた電源であることから、アジアを中心とした新興国ではエネルギー供給を石炭に依存する国々も多く、今後も地域の石炭火力発電の需要が伸びていくことが見込まれています。
これら国々においても、我が国と同様に、可能な限り低効率の既存技術に替えて最新の高効率火力発電技術の導入を進めることが、CO2の排出削減につながる実効的な気候変動対策になるものと考えられます。2015年11月には、OECD(経済協力開発機構)において、石炭火力発電の輸出に係る先進国から新興国に対する公的輸出信用による支援のルールについて、低効率技術への支援を制限し、高効率技術への支援を促進する内容に見直しが行われました。
我が国としては、現在の最新技術のみならず、技術開発を進める次世代技術を含めて高効率火力発電技術の普及展開を促進し、国際的な課題である途上国で増大する電力需要への対応と気候変動対策への貢献を両立してまいります。
3. 低炭素な電源の価値が適切に評価される市場環境整備に向けて
温暖化対策を進めていく前提として、低炭素の電源が、市場の中でその価値が適切に評価され、導入が円滑に進むよう、市場環境を創出していくことが必要となります。本年2月に閣議決定された改正FIT法案が国会において可決、成立し、施行された場合における施行後の新規の買取契約においては、買取義務者が小売電気事業者から送配電事業者(一般送配電事業者及び特定送配電事業者)に変更されるため、FIT電気は送配電事業者がその全量を買取りし、原則として卸電力取引市場での取引を通じて小売電気事業者に供給されることとなります。FIT電気の卸電力取引市場への供出により、2016年4月に全面自由化された電力小売市場において、新規参入を含む事業者の電源調達の選択肢が拡大し、その結果として消費者・需要家への多様なサービスの提供につながることが期待されます。
【第133-3-1】FIT電気が卸取引所を通じて需要家に届くまで
他方、卸電力取引市場での取引においては、例えば火力発電といったFIT電気以外の電気も一緒に扱われるため、市場で調達した電気がFIT電気であるのか、あるいは、火力発電の電気であるのかが判明しない状態となります。このため、卸電力取引市場で調達する電気を需要家に販売する際に、需要家に対して「FIT電気」として表示することができません。
現在、小売電気事業者が買い取っているFIT電気についても、今後、送配電事業者による買取に切り替わっていく可能性があるため、将来的には、我が国で発電されたFIT電気のかなりの部分が卸電力取引市場で扱われるようになることも考えられます。
こうした中で、小売電気事業者や需要家がFITにより買い取られた再生可能エネルギーを選択することが出来る仕組みを構築することが必要となります。この検討にあたっては、現在、FITに基づく再エネ電気の低炭素の価値が賦課金を支払っている全需要家に帰属することを踏まえ、低炭素電源が市場の中でその価値が適切に評価され、導入が円滑に進むよう、市場環境の創出をはじめ、小売全面自由化後の市場の在り方やルール整備等制度設計について2016年度中を目途に一定の結論を得ることが必要です。
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電力小売全面自由化について
2016年4月1日、電気の小売業への参入が全面自由化されました。これまで、家庭や商店向けの電気は各地域の電力会社(東京電力株式会社、関西電力株式会社等)だけが販売しており、家庭や商店では電気をどの事業者から買うか選ぶことはできませんでしたが、小売全面自由化を受けて、家庭や商店も含む全ての消費者が電気事業者や料金メニューを自由に選択できるようになりました。すなわち、ライフスタイルや価値観に合わせ、電気の売り手やサービスを自由に選べるようになりました。
電力小売自由化の歴史と意義
電気の小売事業の自由化は、2000年3月以降、段階的に実施されてきました。まず、「特別高圧」区分の大規模工場やデパート、オフィスビルが電気事業者を自由に選ぶことができるようになり、新規参入した電気事業者(特定規模電気事業者)からも電気を購入することが可能になりました。 その後、2004年4月・2005年4月には、小売自由化の対象が「高圧」区分の中小規模工場や中小ビルへと拡大していきました。今般、2016年4月1日から、「低圧」区分の家庭や商店などにおいても電気事業者(小売電気事業者)が選べるようになりました。
段階的に実施されてきた電力小売自由化
電力小売全面自由化によって新たに開放される電力市場は、年間約8兆円の市場規模があり、多くの事業者が、新たな需要の獲得を目指して参入するとともに、既存の電力会社同士の競争も活発化しています。これにより、電気料金の抑制、新しいサービスの提供といった消費者の利益がもたらされ始めています。また、活発な競争によって新たに生み出される事業者の創意工夫・イノベーションが、エネルギー産業の競争力強化にとどまらず、国内産業全体を活性化し、成長戦略を実現していくための原動力になると期待されます。
電力小売全面自由化の現状
小売全面自由化に先立って、2015年8月から小売電気事業者の事前登録受付を開始し、順次審査を行ってきました。4月1日現在において、小売電気事業329件、小売供給11件の申請を受け付け、審査の結果、小売電気事業280件(みなし小売電気事業者(旧一般電気事業者小売部門)10件を含む)、小売供給16件(みなし登録特定送配電事業者(旧特定電気事業者)5件を含む)が登録されました。また、電力広域的運営推進機関が発表した4月1日時点のスイッチング開始申請件数は、約53万件となっています。
2016年3月に実施したWEBアンケート※1では、消費者の96.5%が電力の小売自由化について聞いたことがあると回答し、そのうち、内容を知っている※2と回答した人は76.7%でした。また、全体の約80%が契約先の切替え(スイッチング)を検討する意向を示しました。
小売電気事業者の切替えを希望する場合は、切替えようとする先の小売電気事業者に連絡します。切替えに必要な期間は、切替日が、①スマートメーターへの取替工事が必要となる場合は2週間程度(8営業日に2暦日を加えた日)以降の日、②取替工事が不要である場合は4日程度(1営業日に2暦日を加えた日)以降の日とされています。具体的な切替え日については切替え先の小売電気事業者に確認することになります。
電力小売事業における競争
これまで、電気料金は規制料金とされ、生活必需品的性格を有することや、省エネルギーの推進のため、1974年以来、使用量に応じて料金単価が上昇する3段階料金制度※が採用されてきました。東日本大震災後の2012年の東京電力の料金値上げ時には、第1段階及び第2段階の値上げ幅を抑制することで、生活に必要不可欠な電気の使用への影響を軽減するよう配慮がなされました。
※3段階料金
①第1段階:ナショナルミニマムに基づく低廉な料金
②第2段階:ほぼ平均費用に対する料金
③第3段階:限界費用の上昇傾向を反映した料金
東京電力における3段階料金(従量電灯B・C、2012年9月料金改定時)
新たに参入した事業者は、この3段階料金をメルクマールにしつつ、新たな料金プランを設定しています。 新規参入者のうち、石油、ガス、商社等のエネルギー産業に関連する事業者は、自ら保有する電源などを活用しながら、3段階料金の中でも特に料金単価の高い、電力使用量の多い需要家に対して、従来の規制料金よりも5 ~ 10%程度、割安なプランを提示するケースが多くなっています。また、通信、鉄道等の消費者の生活インフラに関連する産業の事業者は、主力事業とのシナジー効果を期待し、値下げ幅は小さいものの、電力使用量に関わらず、全ての需要家に対して割安なプランを提示するケースが多くなっています。
これに対して、既存の大手電力会社(旧一般電気事業者)は、新規参入者に対抗し、主に電力使用量の多い需要家に対して従来料金よりも割安な料金プランを提示するケースが目立ちます。また、これまで培ってきた知見を活かし、時間帯別料金といった、新たな料金プランのバリエーションも揃えています。これらの既存の大手電力会社同士の競争も始まっており、例えば、東京電力が中部、関西地域に進出する一方で、複数の電力会社が関東地域で供給を開始する等、競争が活性化しつつあります。
料金プラン以外の点で、需要家に対して価値を訴求する事業者も登場しています。具体的には、FIT電源も含めた再生可能エネルギー電源から電気を調達し、環境への意識が高い需要家を対象に電気を供給する事業者や、地元で発電した電気を地元の需要家向けに供給する地産地消を志向する事業者などが挙げられます。こういった事業者のなかには、地方自治体等が出資・運営するものも見受けられます。また、ビルや家庭などのエネルギーマネジメントに関連する事業者は、電気料金自体の割引幅はわずかですが、エネルギー制御による省エネにより、電力使用量を抑制して電気料金の抑制につなげることで、需要家の獲得を目指しています。
今後の展望
電力小売事業の競争は今後、さらに活発になっていくと期待されています。
競争の鍵を握るのは、消費者の選択です。現在、我が国全体で、約4,700万kW分の火力発電所の新設が計画されており、この中には、既存の大手電力会社ではない、新たな事業者によって計画されているものが、約1,800万kW含まれています。今後、新規参入者が供給力を高めていく中で、多様な消費者のニーズに対応すべく、価格以外のサービスの充実や新たな技術革新(イノベーション)がなされ、これらを通じて、ダイナミックな電力関連市場が実現すると考えられます。
また、今回自由化された低圧部門に留まらず、既に自由化されている特別高圧・高圧部門を巻き込みながら、供給区域を越えた既存の大手電力会社同士の競争、発電分野での競争、ガス小売全面自由化を視野にいれた電気事業者とガス事業者の連携、国内市場に留まらず海外市場をにらんだ総合エネルギー企業の出現等が期待されています。
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熊本地震におけるエネルギーインフラ(電力、ガス、燃料)の復旧対応(2016年4月28日時点)
2016年4月16日午前1時25分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.3の地震(以下「熊本地震」という。)が発生しました。熊本地震は多数の死傷者を出すとともに、多くの家屋倒壊や道路等の損壊など、熊本県を中心に九州地方に大きな被害をもたらしました。
経済産業省では、電気・ガス・燃料の各関係業界と連携しつつ、現場の声を聞きながら、一刻も早い被災地の復旧及び被災者の方々の支援に全力で対応しています。特に、病院・福祉施設等の重要施設のニーズを積極的に把握し、必要な電気・燃料等を供給しました。また、東日本大震災以降、整備を進めてきた電力会社間の相互応援の仕組みやガス供給車の貯蔵能力の上限引上、中核サービスステーション(SS)の整備強化等を活かしながら対応しています。
今後も、関係機関と自治体、関係省庁が連携し一体となって、現場の声を聞きながら、災害復旧及び被災者の方々の支援に全力で取り組んでいくことが重要です。
1.電気
崖崩れ等による水力発電所の損壊が発生したものの、九州電力管内において大規模な供給力の脱落は発生せず、地震直後の急激な需要低下も乗り切り、需給バランス上の問題は生じませんでした。
他方で、地震が発生した直後には最大で約47万7000戸の停電が発生し、役場、避難所、病院、社会福祉施設といった重要施設から産業、業務、一般の住宅等に至るまで、電気の復旧が急務な状況となったことを踏まえ、経済産業省、電力広域的運営推進機関、北海道から沖縄までの全ての一般送配電事業者が連携・協調し、電源車や高所作業車、復旧作業要員等の応援派遣を実施しました。この結果、大規模停電発生から5日後の4月20日には停電を解消させました(がけ崩れや道路の損壊等により復旧が困難な箇所を除く)。とりわけ、送電鉄塔が使用不能となり、本格的な復旧に長期間を要することとなった阿蘇地方を中心に、全国から110台の電源車のほか150台を超える高所作業車やタンクローリーなどの車両が集結し、電源車を高圧配電線に複数台連系させる方法等により、停電解消に大きく貢献しました。また、個別の重要施設から寄せられた電源車の派遣要請に応じて、順次、電源車を派遣する等の対応を行いました。
こうした経過を踏まえると、以下のような課題と教訓が浮かび上がります。
①電源車等の応援については、被災地に電力供給している電力会社からの要請を待つことなく、関係事業者が先手先手を打って対応すべき
②電源車のニーズと配備のマッチングを上手に図る体制を早期に構築すべき
③電源車への燃料供給についても燃料供給事業者との連携体制を早期に構築すべき
今回の地震への対応では、阪神大震災や東日本大震災の際にも行われなかった全ての一般送配電事業者による電源車等の応援派遣が実施され、また、電源車への燃料の供給に当たっては、石油連盟のほか多くの石油製品販売事業者や石油輸送事業者の協力も得られ、その結果、停電復旧が実現しました。災害の多い我が国において、電力の供給を確保していくためには、上記の課題や教訓に加えるべきものがないかも含め、改めて検証が必要です。そして、事業者においては、その検証を踏まえ、災害時の対応体制を強化していくことが必要です。
【電源車による通電作業の様子】
- ※
- 電源車(高圧発電機車):1台当たり100~150戸程度の一般住宅に電気を供給することが可能。このため、町役場や小学校、体育館などの施設については十分に電気を供給することができる。大規模な施設である場合には、複数の高圧電源車を利用して電気を供給する。
2.ガス
4月16日の発災後、熊本市周辺の西部ガス管内においては約10万5千戸の都市ガスの供給停止が発生しました。
役場や避難所、病院や福祉施設等の重要施設や生活支援設備等へのガスの供給を続けるため、経済産業省は日本ガス協会に対して、応援派遣を含めて、ガス供給車(移動式ガス発生設備)を活用するよう要請し、4月25日までに約130台のガス供給車が熊本を中心に派遣されました(うち、西部ガス約10台、域外からの応援が約120台)。これらガス供給車は災害時に、被災地の役場、避難所、病院など重要施設や銭湯などの生活支援施設に対し、機動的にガスを臨時供給するなど、被災地における生活支援への貢献を行うなどの役割を担いました。
ガスの復旧に当たっては、導管に損傷がないかを確認した上で慎重な復旧再開をする必要があることから、復旧までには一定程度の時間と人手を要します。一日も早い復旧を図るために、西部ガスは約2000名のガス復旧体制を整えるとともに、東京ガスや大阪ガス、東邦ガスを中心に全国のガス会社から約2600名の「復旧応援隊」を受け入れ、約4600名の復旧体制で、安全を確認しながら、慎重な復旧対応を行い、4月30日中に復旧が完了しました。
また、4月15日に熊本県内全45市町村に対して、災害救助法の適用が決定されました。これを受け、4月18日に西部ガスから、熊本市等の供給区域におけるガス料金等についての特別措置(料金の支払期日の延長、ガス料金の免除等)に関する申請があり、同日、経済産業省は認可しました。
東日本大震災の後、経済産業省では、ガス供給車の貯蔵能力の上限を引き上げることで病院等ガス消費量の大きな施設への継続的な臨時供給を可能とする省令改正等を行いました。また、東日本大震災の後、西部ガスを含むガス事業者各社は、基幹となる導管(高圧・中圧導管)全ての耐震化に取り組んできました(2014年末までに完了)。さらに、末端の導管(低圧導管)については2025年度末までに90%を耐震化する目標を設定して取り組んでいます。
【ガス供給車(移動式ガス発生設備)】
- ※
- ガス供給車(移動式ガス発生設備):圧縮天然ガス、LPガスまたは液化天然ガスを容器に充填して、ガスを供給する設備。災害時には、病院や福祉施設等の需要家に対して、直接、ガスの臨時供給を行うことが出来る。
- 出典:
- 一般社団法人日本ガス協会
3.燃料
経済産業省は4月16日7時43分、石油備蓄法に基づく「災害時石油供給連携計画」を発動しました。これを受けて、石油連盟は共同供給オペレーションルームを設置し、石油元売各社が連携して燃料の安定供給維持に努めました。元売各社による熊本県内へ継続的な配送に加え、タンクローリーの追加投入、SSの営業再開などにより、災害発生直後はSSに行列ができるなど一部で混乱が生じましたが、4月17日時点においてガソリンの品薄問題はほぼ解消しました。さらに、経済産業省のHPに熊本県内の営業中SSの一覧を公表するなど消費者に対する情報提供に万全を尽くしました。
また、資源エネルギー庁がプッシュ型で熊本県内の病院や福祉施設に対して、自家発電用の燃料等の配送ニーズを確認し、これに基づき、全国石油商業組合連合会及び全国石油業共済協同組合連合会(全石連)は、県内の小口燃料配送拠点として指定されているSSなどから軽油等の燃料配送を行うなどの対応を行いました。阿蘇地域を中心に展開された電源車配備に対しては、燃料供給拠点となるSSからピストン輸送用ミニローリーを拡充しながら燃料供給を行い、各地における停電の解消に向けて連携した取り組みを行いました。
そうした中、中核SSは、自家発電を用いて営業を継続するとともに、消防車、救急車、パトカーなどの災害応急活動に必要な車両への優先給油を行いました。また、資源エネルギー庁から元売各社に対して、中核SSに途切れることなく燃料補給が継続される体制(重点継続供給)の構築を要請しました。
今後、より一層の災害に備えた各種取組や石油連盟や全石連、関係省庁等との連携強化等、災害時の迅速な復旧・安定供給体制の構築が求められます。
【中核SS】
【電源車への給油の様子】
- ※中核SS:
- 2011年の東日本大震災以降、災害時に自家発電により営業を続け、特に自治体や自衛隊等の緊急車両に優先的に燃料の供給を行うために積極的に整備が進められてきたものです。
- 出典:
- 全石連より提供