第1節 エネルギーミックス実現による排出量原単位大幅改善への挑戦
1. 国際枠組み参加カバー率の拡大と 各国の自主的な目標
(1) 国際枠組みに参加する国の範囲の拡大
温室効果ガスの排出削減が喫緊の課題となる中、世界の温室効果ガス排出量は、2000年から2010年の10年間で、日本の年間排出量の約7倍にあたる約90億トン-CO2もの増加を見せています。
【第131-1-1】世界の温室効果ガスは増加傾向
- 出典:
- IPCC第5次報告書第三作業部会報告書
日本は、中国、米国、EU、インド、ロシア等に次ぐ主要排出国のひとつです。排出量は世界の約3%です(【出典】IEA CO2 Emissions from FuelCombustion(2014))。そのため、世界の温室効果ガス排出量を削減するためには、日本国内での削減を進めるだけでなく、全ての国が参加する公平かつ実効的な国際枠組みを構築することが不可欠であり、その鍵を握っていた、昨年12月のCOP21でそうした枠組みの構築が目指されていました。結果として、京都議定書において世界の排出量の約13%~ 22%分の国々しか削減義務を負っていなかった状況から脱し、全ての国が削減目標を設定するパリ協定が採択されました。
【第131-1-2】全ての国が参加する枠組みに発展(パリ協定、京都議定書において削減目標を有する国の温室効果ガス排出量シェア)
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- ここでいう参加国は、削減義務を負っている国を指す
- 出典:
- IEA CO2 Emissions from Fuel Combustion(2014)
(2) 各国自らによる目標提出への転換
COP21において、主要排出国を含む全ての国が参加するパリ協定は各国が自ら目標を提出、実施状況について報告し、レビューを受ける仕組みです。これは、各国の国内政策を起点としてそれを国際合意に位置づけるという国内政策先行の考え方であり、パリ協定において結実しました。具体的には、各国が自ら取り組む目標を国際的に約束し、その達成度合いを国際社会が評価、検証する仕組みになります。
国際交渉で削減目標を先に定めてから、それを達成するための国内政策を各国が整備するという京都議定書のアプローチとは異なります。
【第131-1-3】全ての国が自ら目標を提出
2.日本の温室効果ガス削減目標
(1) 国際的にも遜色ない野心的な削減目標
我が国では、震災以降、温室効果ガス排出量は増加傾向にあります。2013年度にエネルギー起源CO2排出量は、12.35億トン-CO2となり過去最高となりました。直近の2014年度(速報)では4年ぶりに減少に転じ、エネルギー起源CO2排出量は11.9億トン-CO2となりました。前年度から、省エネルギーの進展や再生可能エネルギーの導入拡大、火力発電内の燃料転換・高効率化の取組等により、4500万トン-CO2減となりました。一方で、震災前に比べると、原発代替のための火力発電の焚き増しにより、電力分で2010年度比8300万トン-CO2増加し、全体でも5100万トン-CO2の増加となります。
【第131-2-1】近年の我が国の温室効果ガス排出量は電力分を中心に増加傾向
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- 「電力分」は、一般電気事業者による排出量
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- 赤字・青字は2010年度比
- 出典:
- 総合エネルギー統計、環境行動計画(電気事業連合会)、日本の温室効果ガス排出量の算定結果(環境省)を基に作成
このような状況を踏まえつつも我が国の温室効果ガス排出削減目標は、欧米と比べても野心的なものです。2020年以降の温室効果ガス排出削減に向けた我が国の約束草案は、エネルギーミックスと整合的なものとなるよう、技術的制約、コスト面の課題などを十分に考慮した裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによる実現可能な削減目標として、国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年度に2013年度比マイナス26.0%の水準にすることとしております。エネルギー起源CO2排出量については、2013年度の温室効果ガス総排出量比でマイナス25.0% (2015年度比マイナス24.0% )の水準となり、マイナス26.0%の内数としては、マイナス21.9%分がエネルギー起源CO2排出量削減分となります。マイナス26.0%は、エネルギー起源CO2に、メタン等のその他温室効果ガス削減対策分、吸収源対策分が加わったものです。
各国の基準年を2013年度比に揃えれば、米国はマイナス18 ~ 21%(2025年)、EUはマイナス24%(2030年)です。なお、削減目標の基準年について、米国は2005年、EUは1990年であり、基準年によって削減率が変わるため、削減率のみで評価することには留意が必要です。
【第131-2-2】主要国の約束草案の比較
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- 下線は各国の基準年
- 出典:
- 各国の約束草案を基に作成
(2)エネルギーミックス実現による排出量原単位大幅改善への挑戦
我が国において、GDP1ドル当たりの温室効果ガス排出量は0.29 kg-CO2/米ドル(2013年)であり、既に先進国で最高水準にあります。一般に、我が国が温室効果ガスの排出を削減するための限界費用は、これまでの取組等により高いレベルにあると分析されておりますが、我が国は、エネルギーミックス実現に向けた取組などをさらに進める結果、上記の指標についても2030年時点では4割程度の改善を見込んでおります。まさに、世界最高水準を維持する排出量原単位(0.16kg-CO2/米ドル)への挑戦となります。
【第131-2-3】主要国の比較(GDP1米ドル当たり温室効果ガス排出量)
- 出典:
- IEA2015、国連統計、各国統計等に基づき経済産業省作成
また、我が国の約束草案は、主要セクターの具体的な対策・施策の積み上げに基づいて作成し、その内訳を明らかにした、透明性、具体性の高いものとなっております。例えば我が国の産業部門について、鉄鋼(転炉鋼生産)、セメント(クリンカ生産)におけるエネルギー効率は、いずれも世界トップ水準にありますが、低炭素社会実行計画の推進・強化などにより、一層の改善を見込んでおります。
【第131-2-4】主要セクターのエネルギー効率は日本がトップ水準
- 出典:
- WBCSD/CSIデータ等をベースにRITE推計
3. エネルギー起源CO2 の急増と目標達成の鍵となるエネルギーミックス実現
(1)温室効果ガスの大半を占めるエネルギー起源CO2
我が国の温室効果ガス排出量に占めるエネルギー起源CO2は、日本の約束草案の基準年である2013年度において、14.08億トン-CO2中の12.35億トン-CO2と約9割(87.7%)を占めるように、大部分を占めます。我が国の削減目標は、エネルギーミックスと整合的なものとなるよう、裏付けのある施策等を積み上げたものであり、この削減目標の達成に達成に向けては、エネルギーミックスの実現が強く求められます。
【第131-3-1】温室効果ガス排出量の内訳(排出量の大部分はエネルギー起源CO2)
- 出典:
- 環境省2013年度(平成25年度)の温室効果ガス排出量(確報値)より
(2) 削減目標と整合的なエネルギーミックスとその実現に向けた取組
エネルギーミックスの実現に向けては、エネルギー革新と資源戦略、原子力の3つの柱に基づいて、取り組んでいます。
エネルギー革新戦略は、強い経済とCO2抑制の両立を目指し、省エネルギーや再生可能エネルギーを最大限導入するための制度や、新たなエネルギーシステムの構築として新規参入とCO2の抑制の両立を目指し、電力業界の自主的枠組みとそれを後押しする制度など、関連する制度を一体的に整備していくものになります。
資源戦略については、エネルギーミックスにおいて2030年度に一次エネルギーの約75%を化石燃料として輸入することになっていることからも重要性が高く、資源価格の急変動下での資源安全保障の強化として、グローバルリスクに対応した安定的かつ低廉な資源確保のための戦略や流動性の高い国際LNG市場の形成といったところに取り組むものになります。
原子力については、前章で紹介したとおり、原子力政策に対する社会的な信頼を高めていくため、自主的な安全性向上や防災対策の強化、使用済燃料の再処理や高レベル放射性廃棄物の最終処分などの諸課題への対応に取り組んでいます。
CO2を削減するためのエネルギー政策の変革という観点からは、エネルギー革新戦略が特に期待されており、政府の成長戦略や、日本の約束草案やパリ協定を踏まえて策定する、我が国唯一の地球温暖化に関する総合的な計画である「地球温暖化対策計画」にも反映するものです。次節以降では、エネルギー革新戦略の具体的な内容について説明していきます。
【第131-3-2】エネルギーミックス実現に向けた取組におけるエネルギー革新戦略の位置づけ