第3節 原子力被災者支援
東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故の発生から5年が経過しましたが、福島県内の避難状況については、2016年3月31日時点で、福島県全体の避難者数は約10万人であり、このうち、避難指示区域からの避難者数は約7.0万人という状況です。
政府は2013年12月に「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を策定し、早期帰還支援と新生活支援の両面での支援、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策の強化、国と東京電力の役割分担の明確化について、方向性を提示しました。その後、指針に沿って取組を進め、福島の復興・再生は着実な進展を見せています。具体的には、田村市及び川内村について避難指示の解除が実現し、住民の方々の故郷への帰還が可能となりました。
このように具体的な進展が見られるものの、復興の進捗にはばらつきがあり、未だ復興に向けた道筋が見えないとの声が依然として地元に存在していることも現実です。また、事故発生から長期にわたり避難状態が継続していることに伴う課題も顕在化してきていました。一日も早い住民の方々の生活再建や地域の再生を可能にしていくためには、こうした実態に向き合い、これまで以上に対策を加速・充実し、様々な課題に迅速に対応していく必要があります。このような状況を踏まえ、原子力災害からの福島の復興・再生を一層加速していくため、2015年6月に「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を改訂し、必要な対策の追加・拡充を行うこととしました。具体的には、早期帰還支援と新生活支援の両面の対策を深化させるとともに、事業・生業や生活の再建・自立に向けた取組を拡充することとしています。
1.避難指示区域等
2014年4月1日に田村市で初の避難指示区域の解除を行い、同年10月1日に川内村の一部でも避難指示区域の解除を行いました。また、2015年9月5日には、全町避難している自治体としては初となる、楢葉町の解除を行っております。
故郷への帰還を望む住民の方々の思いに応えるため、引き続き、他の市町村についても避難指示区域の解除に向けた調整を行っていくこととしています。
【第123-1-1】避難指示区域の概念図(2015年9月5日現在)
【第123-1-2】市町村の避難指示区域の見直し及び解除について(2015年9月5日現在)
2.帰還に向けた安全・安心対策
国としては、2013年12月に閣議決定された「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」において、住民の方々の自発的な活動を支援する以下を柱とした総合的・重層的な防護措置を講じることとしています。
- 国が率先して行う個人線量水準の情報提供、測定の結果等の丁寧な説明なども含めた個人線量の把握・管理
- 個人の行動による被ばく低減に資する線量マップの策定や復興の動きと連携した除染の推進などの被ばく低減対策の展開
- 保健師等による身近な健康相談等の保健活動の充実や健康診断等の着実な実施などの健康不安対策の推進
- 住民の方々にとって分かりやすく正確なリスクコミュニケーションの実施・帰還する住民の方々の被ばく低減に向けた努力等を身近で支える相談員制度の創設、その支援拠点の整備
このような対策を通じ、住民の方々が帰還し、生活する中で、個人が受ける追加被ばく線量を、長期目標として、年間1ミリシーベルト以下になることを引き続き目指していくこととしています。また、線量水準に関する国際的・科学的な考え方を踏まえた我が国の対応について、住民の方々に丁寧に説明を行い、正確な理解の浸透に努めています。2015年6月に閣議決定した「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」の改訂においても、前述の総合的・重層的な防護措置の取組を今後とも国が、将来にわたり責任をもって、きめ細かく着実に講じていくこととしています。
【第123-2-1】避難指示解除に向けた環境整備等
3.除染の実施
東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じており、これによる人の健康または生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となっています。こうした状況を踏まえ、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)が可決・成立し、2011年8月30日に公布されました。
2011年11月11日には「放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針」が閣議決定され、環境の汚染の状況についての監視・測定、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理、土壌等の除染等の措置等に係る考え方が取りまとめられ、関係者の連携の下、事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康または生活環境に及ぼす影響が速やかに低減されるよう、また、復興の取組が加速されるよう、同方針に基づき取り組むこととしています。
放射性物質汚染対処特措法に基づき、国が除染を実施する除染特別地域においては、市町村ごとに策定する特別地域内除染実施計画に従って事業を進めることとしており、福島県の11市町村(田村市、楢葉町、川内村、南相馬市、飯舘村、川俣町、葛尾村、浪江町、大熊町、富岡町及び双葉町)について、同計画を策定しました。
国が行う除染特別地域の除染については、2016年3月末までに、田村市、川内村、大熊町、楢葉町、葛尾村、川俣町及び双葉町について、同計画に基づく面的除染が完了しました。残りの除染についても、同計画に基づき実施中であり、2016年度末までの完了を目指しています。
市町村等が除染等の措置を行う汚染状況重点調査地域については、2016年3月に茨城県鉾田市と栃木県佐野市が指定解除となり、8県93市町村が除染実施計画に基づき除染作業を実施しています。子供の生活環境を含む公共施設等の除染については、福島県内で約9割(2016年2月末現在)、福島県外でほぼ終了(2015年12月末現在)となり、予定した除染が完了に近づいています。その他、住宅、農地・牧草地、道路の除染についても、引き続き除染を進めています。
なお、福島県外の57市町村のうち、約9割の市町村は、除染等の措置の進捗について、完了(22市町村)または概ね完了(27市町村)としています。特に2015年11月には、群馬県において、除染実施計画が策定されたすべての市町村で除染等の措置が完了しました。
引き続き、国直轄・市町村除染の実施対象である全ての地域で2016年度末までに除染実施計画に基づく面的除染を完了させるべく、自治体とも連携して全力で取り組むとともにフォローアップ除染を行うなど、必要な措置を確実に実施していきます。
また、福島県内の除染に伴い発生した放射性物質を含む土壌や福島県内に保管されている10万ベクレル/kgを超える指定廃棄物等を最終処分するまでの間、安全に集中的に管理・保管する施設として中間貯蔵施設を整備することとしています。
中間貯蔵施設については、候補地におけるボーリング調査等の結果や、学識経験者から構成される検討会での議論、大熊町及び双葉町の住民を対象とした住民説明会での意見等を踏まえて、2014年7月~8月に国の考え方の全体像を提示しました。これを受けて、同年9月に福島県知事より、施設の建設受入れを容認する旨、大熊町長及び双葉町長は知事の考えを重く受け止め、地権者への説明を了承する旨が国に伝達され、2015年2月に福島県並びに大熊町及び双葉町より施設への除去土壌等の搬入受入れが容認されました。その後、施設予定地内に除去土壌等を一時的に保管する保管場の整備を進め、同年3月から安全かつ確実に輸送を実施できることを確認するため、福島県内43市町村から、概ね1年程度かけてそれぞれの現地状況に応じて約1,000㎥程度ずつ輸送するパイロット輸送を実施しました。
こうした取組と並行して、施設整備に必要な用地を取得するため、環境省として連絡先を把握している全ての地権者に連絡を取り、個別訪問や物件調査を行い、その結果に基づいて順次、補償額の算定作業と提示を進めています。また、連絡先が不明の地権者についても戸籍簿等による調査を進めています。さらに、2015年11月に、用地交渉の加速化を図るため「地権者説明の加速化プラン」をとりまとめ、補償額の算定作業のスピードアップや人員体制の更なる拡充などを行いました。
2016年2月に、パイロット輸送の検証内容も踏まえ、[1]2016年度から本格施設の整備に着手し、用地取得を加速化して施設を順次、拡張していくこと、[2]2016年度から段階的に輸送量を増加していくこと等を内容とする「平成28年度を中心とした中間貯蔵施設事業の方針」を公表しました。さらに、同年3月には、中間貯蔵施設に係る「当面5年間の見通し」を公表しました。この見通しでは、用地取得や施設整備に全力を尽くすことにより、「復興・創生期間」の最終年である2020年度までに、500万~ 1,250万㎥程度の除去土壌等を搬入できる見通しとしています。引き続き、地元のご理解をいただきながら、取組を進めていきます。
4. 原子力災害の被災事業者等のための自立支援策
住民の方々が帰還して故郷での生活を再開するためには、また、外部から新たな住民を呼び込むためには、働く場所、買い物をする場所、医療・介護施設、行政サービス機能といった、まちとして備えるべき機能が整備されている必要があります。しかしながら、こうした機能を担っていた事業者の多くは、住民の避難に伴う顧客の減少、長期にわたる事業休止に伴う取引先や従業員の喪失、風評被害による売上減少といった苦難に直面しており、こうした状況を克服するためには、生活、産業、行政の三位一体となった政策を進めていく必要があります。
こうした背景を踏まえ、2015年6月12日に閣議決定された「原子力災害からの福島復興の加速に向けて(福島復興指針)」改訂において、今後2年間にわたり、被災事業者の自立へ向けた支援策を集中的に展開していく方針が示され、その実施主体として、同年8月24日に、国(原子力災害対策本部)、福島県、民間(一般社団法人福島相双復興準備機構)からなる「福島相双復興官民合同チーム」が創設されました。
官民合同チームの主な活動内容は、避難指示の対象である12市町村の被災事業者の方々を個別に訪問し、事業再開等に関する要望や意向を把握するとともに、その結果を踏まえ、専門家を交えたチームにより、事業再建計画の策定支援、支援策の紹介、生活再建への支援などを実施していくことです。
チーム発足翌日から事業者訪問を開始しており、これまでの約7か月の間において、5735件の事業者に対し連絡を行い、3,513件の事業者に訪問しています(2016年3月31日時点)。チームは現在総勢178名体制(2016年3月31日時点)で、県内(福島、郡山、いわき)及び都内の計4拠点に常駐しており、商工会議所、商工会、東京電力等の協力を得ながら、個別訪問を実施しています。
2015年11月には、それまでの官民合同チームの被災事業者訪問の結果を踏まえ、自立支援に係る取組の点検を行いました。これを受け、支援策を抜本的に強化することとし、官民合同チームの専門家による相談体制の強化、中小事業者への設備投資等の支援を図るため、2015年度補正予算で228億円を計上するとともに(「原子力災害による被災事業者の自立支援事業」、2016年1月20日成立)、人材確保のためのマッチングなどについて、2016年度予算で13億円を計上しました。
今後も官民合同チームの個別訪問を継続しながら、これらの支援策の実施を通じて、事業者の自立を図ります。そして事業者の帰還、事業・生業の再建を通じ、まちの復興を後押しすることとしています。
【第123-4-1】福島相双復興官民合同チームの概要
5. 福島・国際研究産業都市構想(イノベーション・コースト構想)
福島浜通り地域の多くでは、これまで原子力関連企業の事業活動が地域経済の大きな部分を担ってきましたが、震災、原子力災害により産業基盤の多くが失われました。今後、住民の経済的自立と地域経済の復興を実現していくため、その前提となる東京電力福島第一原子力発電所事故の収束なども進めながら、廃炉の研究拠点、ロボットの研究・実証拠点などの新たな研究・産業拠点を整備することで、世界に誇れる新技術や新産業を創出し、イノベーションによる産業基盤の構築を図るとともに魅力あふれる地域再生の実現を目指すイノベーション・コースト構想を推進しています。
構想の具体化に当たっては、国、福島県、市町村が単独で成し遂げることは難しく、この3者をはじめ関係者が一体となって取組を進めていく必要があります。このため、構想具体化に向けた進捗状況を共有しつつ、構想の実現に向けた方策について検討を行うため、原子力災害現地対策本部長を座長として、福島県知事、地元市町村長、有識者、関係省庁で構成される「イノベーション・コースト構想推進会議」を開催し、これまで6回にわたり議論を行っています。2015年6月1日の第5回においては、ロボット研究・実証拠点、国際産学連携拠点、スマート・エコパークに係る個別検討会の結果を踏まえ、それまでの議論を整理し、各プロジェクトの概要及び目標スケジュール、構想実現に向けた考え方をとりまとめました。この内容は、7月30日に、福島12市町村の将来像に関する有識者検討会において取りまとめられた提言にも盛り込まれました。
こうした全体構想に基づいて、各プロジェクトの事業化が進んでいます。まず、福島浜通りロボット実証区域については、2015年8月12日、南相馬市下太田工業用地で実証区域の第1号案件を実施しました。現在(2016年4月5日)までに4件の実証区域を決定し、9件の実証試験を実施しています。放射線物質分析・研究施設については、大熊町への立地が決定されました。遠隔操作機器・装置の開発・実証施設(モックアップ施設)については、楢葉町にて、2015年10月19日に開所式が実施され、2016年4月より本格運用を開始しています。また、廃炉国際共同研究センター国際共同研究棟については、8月28日に、富岡町が候補地に決定されました。
続いて、2016年度予算においては、ロボットテストフィールドや、ロボット技術等の共同利用施設の整備等に加え、イノベーション・コースト構想の重点分野を対象とした地域振興に資する実用化開発等を支援するため、2016年度経済産業省関係予算として計143億円を計上しました。情報発信(アーカイブ)拠点については、福島県が有識者会議を5回開催し、施設の機能、内容等を取りまとめ、2015年9月10日に報告書を知事へ提出しました。スマート・エコパークについては、福島県が2015年8月10日に「ふくしま環境・リサイクル関連産業研究会」の設立総会を開催し、130事業者、団体等が参加しました。同研究会を3月までに4回開催するとともに、2016年1月からは研究会活動の一環として事業化推進会議も開催しました。3月末時点で153事業者・団体等が参加しており、新たなリサイクル事業の創出に向けた取組を推進しています。また、ロボットテストフィールド及び国際産学官共同利用施設(ロボット)の整備・運営に向けて、国と福島県が共同して2015年12月にロボットテストフィールド・国際産学官共同利用施設(ロボット)活用検討委員会を立ち上げ、国と福島県が共同して、両施設の機能等に関する議論が行われ、3月に中間整理が取りまとめられました。その後、同中間整理において示された候補地選定の指定を踏まえ、4月20日、「第51回新生ふくしま復興推進本部会議」において、「ロボットテストフィールド及び国際産学官共同利用施設(ロボット)」は南相馬市に、「無人航空機を活用した物流試験のための滑走路」については浪江町に立地場所が決定されました。
さらに、こうしたプロジェクトによる拠点整備の効果を地域全体に波及させるため、2016年2月に「拠点を核とした産業集積及び周辺環境整備の課題に係る検討会」を立ち上げ、拠点を核とした関連産業の育成・集積や、各拠点や関連産業に集まる人々に対して利便性の高い生活を提供していくための周辺環境整備など、ソフト面の課題について検討を行っています。
また、新エネルギー分野については、イノベーション・コースト構想を加速し、その成果も活用しつつ、福島全県を未来の新エネ社会を先取りするモデル創出拠点とするための取組を推進する「福島新エネ社会構想」を検討、実現に向けた取組を進めて行くこととしています。
【第123-5-1】イノベーション・コースト構想について