第1節 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策に関する取組等
1. 東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ
東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策については、関係省庁等において定めた「東京電力㈱福島第一原子力発電所廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下「中長期ロードマップ」という。)に基づき、取組が進められています。
この中長期ロードマップでは、廃止措置終了までの30年から40年の期間を3つに区分し、各期間の目標工程を設定しています。また、東京電力福島第一原子力発電所の状況や、廃炉に関する研究開発成果等を踏まえ、継続的に見直していくことを原則としており、2011年12月21日の初版の策定から随時改訂しています。具体的には、2012年7月、2013年6月、2015年6月に改訂しています。
2015年6月の改訂のポイントは以下のとおりです。
(1)リスク低減の重視:長期的にリスクが確実に下がるよう、優先順位をつけて対応
(2)目標工程(マイルストーン)の明確化:地元の声に応え、今後数年間の目標を具体化
(3)徹底した情報公開を通じた地元との信頼関係の強化等
(4)作業員の被ばく線量の更なる低減・労働安全衛生管理体制の強化
(5)原子力損害賠償・廃炉等支援機構(廃炉技術戦略の司令塔)の強化
【第121-1-1】 中長期ロードマップ改訂のポイント
【第121-1-2】 目標工程(マイルストーン)の明確化
【第121-1-3】 中長期ロードマップにおける廃止措置終了までの期間区分
2.汚染水対策等
原子炉建屋内では、原子炉に水をかけて冷却を続けることで、低温での安定状態を維持していますが、この水が建屋に流入した地下水と混ざり合うことで、日々新たな汚染水が発生しています。このため、2013年9月には、原子力災害対策本部において「汚染水問題に関する基本方針」が決定され、①汚染源に水を「近づけない」、②汚染水を「漏らさない」、③汚染源を「取り除く」という3つの基本方針に沿って、予防的・重層的に対策を進めているところです。
汚染源に水を「近づけない」対策は、汚染水発生量の低減を目的としており、建屋への地下水流入を抑制するための多様な対策を組み合わせて進めています。具体的には、建屋山側でくみ上げた地下水を海洋に排出する地下水バイパスを2014年5月から運用していることに加え、建屋のより近傍で地下水をくみ上げ、浄化して海洋に排出するサブドレン及び地下水ドレンの運用を2015年9月から開始しました。また、2016年3月には凍土方式の陸側遮水壁の凍結を開始しました。さらに、雨水の土壌浸透を防ぐ広域的な敷地舗装(フェーシング)についても、2015年度内に施工予定箇所の9割のエリアで工事を完了しました。
汚染水を「漏らさない」対策は、海洋へ放射性物質が流出するリスクの低減を目的としています。具体的には、信頼性の高い溶接型の貯水タンクの設置や、フランジ型タンクから溶接型タンクへのリプレースを進めているとともに、万一の漏えいにも備えてタンク周囲には二重の堰を設置しています。2015年10月には、建屋の海側に、深さ約30m、全長約780mの鋼管製の杭の壁(海側遮水壁)を設置する工事が完了したことで、放射性物質の海洋への流出量が大幅に低減し、港湾内の水質の改善傾向が確認されています。
汚染源を「取り除く」対策としては、多核種除去設備(ALPS)をはじめ、ストロンチウム除去装置などの複数の浄化設備により汚染水の浄化を行い、ストロンチウムを多く含む高濃度汚染水(RO濃縮塩水)の処理については2015年5月に一旦完了しました。さらなるリスク低減の観点から、ストロンチウム除去装置で処理した汚染水の多核種除去設備による再浄化や、継続的に日々発生する汚染水の浄化などに取り組んでいます。また、原子炉建屋の海側の地下トンネル(海水配管トレンチ)には高濃度汚染水が溜まっており、万一漏えいした場合のリスクが大きいとされていたため、2014年11月からポンプで汚染水を抜き取り、トレンチ内を充填・閉塞する作業を進めてきました。2015年12月には、高濃度汚染水の除去・トレンチ内の充填を全て完了し、リスクの大幅な低減が図られました。
これらの予防的・重層的な取組により汚染水対策は大きく前進していますが、汚染水問題の最終的な解決のため、引き続き次の対策に取り組んでいきます。まず、多核種除去設備等で浄化処理した水の長期的取扱いについては、有識者からなる「汚染水処理対策委員会」の下に「トリチウム水タスクフォース」を設置し、その取扱いに関する様々な選択肢の総合的な評価を実施するとともに、トリチウムの分離技術についての検証試験事業の国際公募を実施し、技術検証を進めてきました。また、建屋からの汚染水の漏えいリスクを完全になくすためには、建屋内滞留水中の放射性物質の量を減らす必要があるため、汚染源に「水を近づけない」対策によって地下水位を徐々に下げながら、これに合わせて建屋内滞留水の除去や浄化を進めていくこととしています。
このほか、2015年2月には、発電所構内を流れる「K排水路」から比較的低濃度の放射性物質を含む水が外洋に流出していたことを受けて、国も主体的に関与しながら、東京電力福島第一原子力発電所の敷地境界外に影響を与えるリスクの総点検を実施しました。2015年4月28日に取りまとめられた点検結果を踏まえ追加対策が必要なものについては順次着手しつつ、継続的に対応状況のフォローアップを行っています。
3.使用済燃料プールからの燃料取出し
当面の最優先課題とされていた4号機使用済燃料プールからの燃料取出しについては、2014年12月22日に燃料1,533体全てを共用プールへ移送しました。
1号機については、2015年7月から10月にかけて建屋カバーの屋根パネルを取り外し、2016年夏頃に予定している壁パネルの取り外しに先立って、2016年2月4日より放射性物質を含んだダスト等の飛散防止のための散水設備の設置を開始しています。2号機については、2015年11月26日に建屋上部の解体範囲を決定し、燃料取り出し工法について検討が進められています。3号機については、2015年8月2日に使用済燃料プール内に落下していた最大のガレキである燃料取扱機が撤去され、11月20日にはプール内の主な大型ガレキの撤去が完了し、燃料取り出し装置の設置に向け小型ガレキの撤去等の準備が進められています。
4.燃料デブリ取出し
燃料デブリのある1 ~ 3号機の原子炉建屋内は線量も高く、容易に人が近づける環境ではないため、遠隔操作機器・装置等による除染や調査を進めています。
1号機では、2015年2月から9月にかけて、宇宙線ミュオンを利用して燃料デブリの所在を透視する装置が設置され、原子炉内部の状況が測定されました。この調査では、元々燃料が配置されていた炉心位置に、1mを超えるような大きな燃料の塊は確認できなかったことが報告されています。
また、2015年4月には、原子炉格納容器内・1階部分に初めて遠隔調査ロボットが投入され、内部の撮影や線量の計測等が行われました。この調査で得られた情報等を踏まえ、地下階ペデスタル(原子炉本体を支える基礎)外側における燃料デブリの拡がり状況等の調査が計画されています。
2号機では、原子炉格納容器内・1階部分のペデスタル内側の調査をするための準備が進んでいます。原子炉格納容器内部に通ずる配管前にあるブロックの撤去が完了し、現在、極めて高い放射線量の低減対策が進められています。また、調査用の小型遠隔操作ロボット(サソリ型)の開発も完了しました。
3号機では、2015年10月、原子炉格納容器内部に調査装置(カメラ、温度計、線量計)が挿入され、内部の状況が計測・撮影されました。この調査で、3号機の原子炉格納容器内の水位は、推定どおり、炉底部から約6.5mであることが確認されました。
また、2015年12月より、3号機の原子炉建屋内1階(天井高7 ~ 8m)において、強い放射線源となっている高所部分(ダクト、配管等)を遠隔操作で除染できるロボットの実証試験を実施しているところです。この他にも、原子炉格納容器の止水技術の開発など、除染・調査以外の研究開発も進められています。
廃炉に関する技術基盤を確立するための拠点整備も進めており、遠隔操作機器・装置の開発・実証施設(モックアップ施設)として「楢葉遠隔技術開発センター」(福島県双葉郡楢葉町)の建設が、2014年9月から開始され、2015年10月には開所式が実施されました。2016年3月には完成式を実施し、4月より本格運用を開始しています。
研究開発の実施にあたっては、有望な技術を有する海外企業も参画できるようにするなど、国内外の叡智を結集するための取組も進めています。2015年度には、燃料デブリ取り出しのための基盤技術の研究開発に、フランスの企業が参加しています。また、廃炉に関する研究開発を進めている政府機関、民間企業、大学などの連携強化の観点から、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に「廃炉研究開発連携会議」を設置しました。2015年7月には第1回、同年12月には第2回の会議をそれぞれ開催し、研究ニーズとシーズのマッチングなど、研究開発連携強化に向けた具体的取組と課題等について議論を行いました。
5.労働環境の改善
東京電力福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水対策では、高い放射線環境下における高度な技術を要する作業も多いため、専門性の高いより多くの人材が安心して長期間、働くことができる環境を整備することが重要です。東京電力は、これまで継続的に福島第一原子力発電所における労働環境改善に取り組んで来ており、2015年度には大型休憩所の設置、全面マスク着用を不要とするエリア、一般服エリアの構内面積の約9割まで拡大といった取組が行われました。
これまで福島第一原子力発電所では温かい食事を取ることができず作業員の方々は通勤途中のコンビニ等で購入した御弁当を休憩所で食べていましたが、大型休憩所の設置後は、近隣の大熊町大川原地区にある福島給食センターにて地元福島県産の食材を用いて調理された温かい食事を取ることが可能になりました。
また、全面マスクについては装着すると息苦しい、作業時に同僚の声が聞こえづらい、防護服については動きづらい、通気性がなく熱がこもるといった課題があり、作業時の大きな負担になるとともに、安全確保にあたっての課題ともなっていました。建屋内及び建屋周辺を除いた構内面積の約9割が全面マスク着用を不要とするエリア、一般服エリアとなったことから、労働環境が大幅に改善し、作業の安全性向上に結びつきました。
6.国内外への情報発信
東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた取組は、周辺地域の住民の安心・安全に深く関わるものです。また、風評被害を払拭するという観点からも、国内外の叡智を結集して、活用するという観点からも、国内外に対して正確な情報を発信し、また、国内外からのご意見を伺い、コミュニケーションを充実させることが重要です。
国際社会とのコミュニケーションとしては、例えば、2015年9月にオーストリア(ウィーン)において開催されたIAEA総会をはじめとして、政府要人との面談時等に、福島の現状を伝える映像を上映または手渡しし、理解促進を訴えました。さらに、原子力施設の廃止措置の経験を有する国との間では、政府、研究機関及び事業者の各層において協力関係を構築しており、継続的に情報交換を行っています。
周辺地域とのコミュニケーションの一環として、関係省庁、周辺地域の首長や関係団体等を構成員とする廃炉・汚染水対策福島評議会において、周辺地域の方々のご意見をも聞いた上で、廃炉・汚染水対策の進捗状況をわかりやすく伝えるためのパンフレット1や映像2を作成する等に取り組んでいます。
また、2016年4月に、福島県いわき市内において、国際原子力機関(IAEA)及び経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)等の国際機関や国内外の関係機関の協力を得つつ、国内外の専門家や地元の方々、学生等に参加いただき、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の共催で、第1回福島第一廃炉国際フォーラムを開催しました。