第4節 需要側における原油依存度低減
将来の石油需給ひっ迫によるエネルギー安全保障への影響や、経済への悪影響を回避するために、上流開発投資の強化(第2節)、油価変動リスクへの対応(第3節)に加え、需要側における原油依存の低減を図る必要があります。
特に、エネルギー消費量の増大が予測される新興国におけるエネルギー利用効率を高め、その消費を抑制することができれば、国際的なエネルギー需給の緩和につながり、ひいては我が国のエネルギー安全保障にも貢献することになります。このため、我が国として、新興国におけるエネルギー源の多様化や、電力以外の分野も含めた幅広い省エネルギーの取組を支援するため、様々な協力を進めています。また、我が国自身においても、エネルギー源の多様化や省エネルギーをさらに加速するための取組を進めていきます。
1.エネルギー源の多様化投資
石油・天然ガスをはじめとする一次エネルギーは、世界経済の重要な要素として、国際政治経済の中に組み込まれています。特に、今後エネルギー需要の大幅な増加が見込まれるアジア地域の需給変動は、将来的に見込まれるであろう石油の需給ひっ迫に大きな影響を与え、市場経済にも影響を及ぼすことになります。そこで、我が国がアジア地域をはじめとする新興国に対して、その国の実情と将来像を十分理解した上で、エネルギー源の多様化を促し、効率的なエネルギー利用の体制づくりを支援することが求められています。こうした貢献は、相手国の経済発展や世界のエネルギー需給ギャップの緩和に寄与するとともに、一次エネルギーのほとんどを輸入に頼る我が国のエネルギー安全保障に貢献することにもつながります。
(1)エネルギーとりわけ電力需要が急増するアジア
世界のエネルギー需要は、工業化の進展や人口増加に伴う家庭用燃料需要の増加、さらに二輪車・自動車向け燃料需要の増加等により、2040年にかけて年平均1.0%の伸びとなり、2013年比で32.3%増加することが見込まれています。
なかでも電力は、未電化地域の電力供給やエネルギー利用の電力化等に伴い、今後も堅調に増加し、2040年にかけて年平均2.0%の伸びとなり、2013年比で71.0%増加することが見込まれています。2013年から2040年にかけて増加する電力量(以下「増加電力量」という。)を国・地域別にみると、中国が最も多く増加電力量全体の33%を占め、以下インドが17%、東南アジアが9%を占め、アジア・オセアニア合計では世界全体の65%を占めています。
【第114-1-1】世界のエネルギー需要見通し(2013-2040年)
- 出典:
- IEA「World Energy Outlook 2015」 New Policy Scenario1を基に作成
【第114-1-2】世界の電力需要見通し(2013-2040年)
- 出典:
- IEA「World Energy Outlook 2015」 New Policy Scenarioを基に作成
【第114-1-3】増加電力量の国・地域別シェア(2013-2040年)
- 出典:
- IEA「World Energy Outlook 2015」 New Policy Scenarioを基に作成
電力分野の投資額をみると、2015-2040年に全世界で19.7兆ドル、年平均で7,600億ドルと見込まれています。このうち発電プラントへの投資は11.3兆ドルと全体の58%を占め、残り8.4兆ドルは送配電網への投資となっています。発電分野の投資内訳をみると、再生可能エネルギーへの投資が7.1兆ドルと発電分野全体の62%を占め、風力が2.5兆ドル(全体の22%)、太陽光が2. 0兆ドル(同17%)、水力が1. 5兆ドル(同14%)となっています。火力分野への投資では、石炭が1.6兆ドル(同14%)、ガスが1.1兆ドル(同10%)となっています。
【第114-1-4】世界の電源別投資額(2015-2040年)
- 出典:
- IEA「World Energy Outlook 2015」
(2)アジアにおけるエネルギーの選択と「多様化」の意義
エネルギー需要の大きな伸びが見込まれる東南アジアを例にとると、これまで新興国の多くは自国の需要を賄うのに十分な資源を国内に有しており、国内資源の最大限の利用がエネルギーの安定供給と経済効率性の面で最も合理的な選択でした。ところが、経済の発展や人口の増加にともなって、エネルギー消費量が急速に増えるようになり、東南アジアの新興国では自国の資源だけで国内の需要を満たすことが困難となってきています(例えば、マレーシアは現在、石油を国内で自給していますが、2035年にはその自給率が約50%に低下すると見込まれています)。こうしたことから、エネルギーの輸入依存が高まっている東南アジアの新興国では、エネルギーの輸入にともなうエネルギー安全保障上のリスクに対処することが重要課題となっています。
【第114-1-5】東南アジアの輸出入バランス見通し2
正は純輸出、負は純輸入を表す。
- 出典:
- IEA「Southeast Asia Energy Outlook 2015」を基に作成
【第114-1-6】ASEANのエネルギー自給率の推移
【第114-1-7】ASEANの石油の需給バランス
【第114-1-8】ASEANの天然ガスの需給バランス
【第114-1-9】ASEANの石炭の需給バランス
- 出典:
- 全てIEA「 Southeast Asia Energy Outlook 2013」より
このような流れを受けて、東南アジアの新興国ではエネルギーの多様化に向けた取組が進んでいます。例えば、天然ガスを産出するタイでは、発電に占めるガス火力発電の比率が6割以上ですが、エネルギー需要の増加及び産出量の減少にともない、2000年に天然ガスの輸入を開始しました。こうした中、特定の燃料への依存によるエネルギー安全保障上のリスクを緩和するため、タイ政府はガス火力発電の比率を2036年までに37%まで下げ、他の電源比率を高める計画を掲げています。また、マレーシアでは、国内の天然ガス生産量が伸び悩む中、国内の電力供給を確保する方策として、第10次マレーシア計画等において、新規の石炭火力発電の開発等を行うことが国家計画として掲げられています。
【第114-1-10】東南アジア各国の主電源と発電量に占める比率
- 出典:
- ジェトロ「アジア・オセアニア各国の電力事情と政策」(2015年5月)を基に作成
【第114-1-11】タイの電源構成の現状と将来計画
- 出典:
- タイ エネルギー省「電力開発計画2015」
新興国がエネルギー源を選択する上で、経済効率性は極めて重要な要素です。国民の所得水準は国によってばらつきが大きい一方、国際市場から調達する化石燃料の価格は、その国の貧富に関わりなく概ね同じ水準であることから、所得水準の低い国ほどエネルギー輸入の負担感が大きくなる傾向にあります。また、多くの新興国では、エネルギー補助金によって意図的にエネルギー価格を抑えていますが、補助金が国の財政に与える影響は決して小さくありません。さらには、産業振興や産業競争力を高める上で、エネルギー価格を低く抑えることが必要になっています。そのため、低廉にエネルギーを調達することが、新興国にとっての重要な課題になっています。
一方、新興国では環境問題に対する関心も高まっています。都市部における大気汚染問題等、日本も高度経済成長期に苦しんだ公害問題が顕在化し、これに対処することが求められています。
【第114-1-12】主要都市のPM10による大気汚染(2008-2013年平均)
- 出典:
- WHO
これらの問題に対処し、新興国が抱える様々な問題を解決する方策の一つがエネルギーの「多様化」であり、新興国においてもその重要性が認識されつつあります。エネルギーの「多様化」、すなわち、様々なエネルギーを組み合わせてバランスよく利用することによって、それぞれのエネルギーが持つメリットを取り込み、逆にデメリットを分散、相殺することが可能となります。
(3)新興国のエネルギー及び電源の多様化に向けた我が国の貢献
各国が自国の国民生活や国の経済発展に不可欠な電力を含むエネルギーをいかに供給するかを考えるにあたっては上述したように「多様化」が非常に重要な視点となります。我が国がこれまで、石油危機等の状況を乗り越え、それに対処するため培ってきたエネルギーに関すると豊富な知見を伝え、共有していくことは、今後電力需要が急増する国々に対して非常に有意義で参考になるものと考えられます。
そこで、経済産業省では2015年5月に「Enevolution(エネボルーション)3イニシアチブを新たに立ち上げました。その趣旨は、我が国が有する豊富なエネルギー政策立案の経験や全分野での優れた技術を総動員することにより、まさにアジアの新興国の実情に合ったエネルギー戦略及びエネルギーミックスの策定とその実現を支援することで、エネルギー源多様化、エネルギー安定供給を通して人々の「生活の質」の改善を目指すものです。
とりわけ、現下の資源価格の下落局面においては、新興国のエネルギー源多様化に向けた取組を戦略・政策の策定という「上流」からアプローチすることで、その国のエネルギー面での強靱化と将来的な資源の需給ひっ迫や価格高騰の回避の両面を実現することになります。経済産業省は相手国政府のエネルギー官庁のカウンターパートであることから、政策対話を通じ相手国政府と直接議論することによりエネルギー課題の解決に向け、相手国のエネルギー戦略・政策づくり等を支援します。同時に、その結果策定された戦略・政策を実施するため、すなわち具体的なエネルギーインフラの導入促進を支援するために、我が国企業や政府機関と連携して資金的・人的支援ツールの提供も合わせた具体的な技術提案を行います。さらに、こうした取組を1か国に留めることなく、地域レベルを対象とした仕組みとして形成していくために、国際会合等を活用した質の高いエネルギーインフラを普及させるための活動を行っていきます。
【第114-1-13】「Enevolution(エネボルーション)」の仕組み(イメージ図)
- 出典:
- 経済産業省「インフラ輸出等を通じたエネルギー産業の国際展開に係る協議会」(2015年6月)
①主要な新興国と官民一体の政策対話の実施と具体的なエネルギーインフラプロジェクトの実現
上述の通り、新興国のエネルギー課題の解決においては、政策レベルからその実現に向けた具体的プロジェクトレベルまで多岐にわたる協力を一貫して実施していく必要があります。そこで、相手国のエネルギー官庁との間で官民一体の政策対話を実施することにより、総合的な解決策を提示・議論しています。
具体的には、政策対話において、以下の流れに基づき、政策レベルでの協力からその実現を担保する具体的なインフラ協力へと議論を深掘りしています。
- (ⅰ)相手国のエネルギー政策上の課題やインフラニーズを深く理解し、我が国の有するエネルギー戦略・政策立案のノウハウを官民連携して相手国に展開。
- (ⅱ)相手国の求めるエネルギー戦略・政策や具体的制度の設計を支援するため、具体的な解決策(人材育成、制度整備等)を議論。
- (ⅲ)エネルギー戦略や政策を通じて今後具体化が見込まれるインフラプロジェクトについて、高い質(性能、耐久性、ライフサイクルコスト等)を担保することの重要性について議論するとともに、エネルギー課題解決に貢献できる我が国のエネルギー技術を紹介。
- (ⅳ)相手国政府とエネルギー技術を持つ我が国企業の対話を促進し、具体的なプロジェクトの成立を支援。
- (ⅴ)進行中のエネルギーインフラプロジェクトを円滑に実施するための議論。 2015年は同イニシアチブの立ち上げ1年目として、インド、インドネシア、タイと政策対話を実施しました。今後、この政策対話を繰り返すことで相手国と強固な政策協力と具体的なエネルギーインフラプロジェクトの実現を進めていきます。
(ア)インド政府との政策対話
2016年1月、インド政府と「第8回日印エネルギー対話」を開催し、日印間のエネルギー分野での包括的な協力を深化させることに合意し、両国議長の林経済産業大臣とインド・ゴヤル電力・石炭・新・再生可能エネルギー大臣が、以下の電力・再生可能エネルギー・省エネルギー・石油天然ガス分野での協力を含む共同声明に署名しました。
インドでは今後2022年までに175GWもの大量の再生可能エネルギーの導入を計画していることから、この導入にとって不可欠な系統安定化について我が国に対する期待が表明されています。一方で、インドにおける旺盛な電力需要を満たすためには外資も活用した独立発電事業者(IPP)の参入を促進していく必要があると考えられます。インドでは現在その促進が十分でないことから、燃料変動費の売電価格への転嫁や燃料・土地の確保等IPPの事業環境をさらに整備しIPPを促進する必要が高まっています。そこで、これまで別々に開催されていた本対話に位置づけられている電力作業部会と再生可能エネルギー作業部会を今後合同で開催することに合意し、両部会の知見を活かして系統安定化への対策について効果的に議論を行うこととしました。また、伸びる電力需要を満たすために石炭火力の導入が不可欠であることから、インドの経済発展と環境対策の両立に貢献するため、上記のIPPの事業環境整備に係る議論に加えて、クリーンな石炭利用技術に関する協力を進めることとしました。更に、インドでの膨大なエネルギー需要を抑える観点から、インドでのPAT(省エネルギー証書取引)制度の運用強化の支援を進めるとともに、今後需要が拡大する天然ガスに関しては、仕向地条項の緩和を通じた柔軟かつ流動的なLNG市場構築のための協力を確認しました。
【第114-1-14】インド政府との政策対話の様子
(イ)インドネシア政府との政策対話
インドネシア政府は増大する電力需要を満たすために、2015年から2019年までの5年間で、石炭火力、ガス火力、水力、地熱等を含む35GWの電源を整備するとの計画を発表し、現在国内の電力整備を進めています。2015年3月の安倍首相とジョコ大統領による共同声明では、「両首脳は、インドネシアの「35GW計画」に基づく地方を含む電力整備等、質の高いインフラ整備を進めるための協力を深めていくことが重要であると確認した」との内容が盛り込まれ、両国が35GWプログラムに協力することが合意に至りました。
本合意を受け、2015年6月には日本から官民のチームがジャカルタを訪問し、更に同月、第3回日インドネシアエネルギーフォーラムを東京で開催しました。これらの機会を通して、我が国が貢献できるエネルギー関連技術の紹介や、円滑に発電所を建設し安定した電力供給を行うために必要な制度に関してインドネシア政府と議論を行いました。例えば、インドネシアでは現在、発電所建設の際にはその設備等に一定の割合の現地生産品を使用することが義務づけられていますが、この比率が高すぎると海外の効率の高い発電技術の導入が困難となり、インドネシアにおける「経済効率性」、「環境適合性」を満たした電源の多様化の妨げとなります。このため、2016年1月には、ローカルコンテンツ規制を所管するインドネシア工業省職員を日本に招聘しました。発電設備の製造等に関する研修の実施を通じ、適切なインドネシア国内の制度構築に貢献しました。また、電力の大消費地であるジャカルタはジャワ島西部に位置しますが、島の東部から電力を送るための送電線の容量が十分ではありません。電力の安定供給のためには発電所の建設とともに、これにあわせた送電線の整備が重要である点についてインドネシア政府と議論を深め、認識を共有しました。
(ウ)タイ政府との政策対話
2015年7月、バンコクで第1回日タイ・エネルギー政策対話を開催しました。タイでは国産ガスの残可採埋蔵量・生産量の減少を受け、これまでの主力である国産ガスによる火力発電所からエネルギー源の多様化を計画しています。しかし、過去の公害の経験から石炭火力に対して世論が厳しい状況にあります。
これを受け政策対話では、我が国からクリーンな石炭利用として、NEDOにおいてタイでの実現可能性調査を用意しつつ、最先端高効率石炭火力技術(IGCC)を紹介するとともに、電源開発におけるパブリックアクセプタンス向上に向けた政策的取組を共有しました。さらに、タイ側は、ガス需要が伸びる中で効率的にガスを供給するためのガス市場の自由化についても、日本の知見の共有を求めており、その後のハイレベルでの議論を通して、政策面での協力を進めています。
②エネルギー分野の「インフラの質」向上に向けた国際的制度の整備加速
エネルギー源多様化、エネルギー安定供給を通して人々の「生活の質」を改善するためには、ライフサイクルコスト、環境への配慮、優れた安全性等、「質の高い」エネルギーインフラを導入することが重要となります。こうした考えを我が国が率先して世界に提示するとともに、国際会合を通じたルール作り及びアジアを中心とする新興国への普及活動に注力しています。
(ア)質の高いインフラパートナーシップ
2015年5月、東京都内で開催された「第21回国際交流会議 アジアの未来」において、安倍首相より「質の高いインフラパートナーシップ」を発表し、エネルギー分野をはじめとするアジアの膨大なインフラ需要に応えるため、アジア開発銀行(ADB)と連携し、今後5年間で従来の約30%増となる約1,100億ドルの「質の高いインフラ投資」をアジア地域に提供することを掲げました。
同パートナーシップの下、我が国は、「質の高いインフラ投資」を国際的スタンダードとして定着させるための取組を展開しています。例えば、国連、G20、G7、APEC、ASEAN等各国の首脳・閣僚会合において質の高いインフラ投資の重要性を発信し、成果文書等で確認されています。
2016年5月には、日本が議長国として北九州市で開催したG7エネルギー大臣会合において、強くバランスのとれた成長を行うためにもインフラの効率性、耐久性、信頼性、復元力、環境への配慮、ライフサイクルコストの重要性が認識され、質の高いエネルギーインフラへの投資が奨励されました。
また、日本の支援による「質の高いインフラ投資」のグッド・プラクティス集を作成し、世界中の国々と共有したほか、在京外交団向けのインフラ視察ツアーを開催し、我が国の優れた技術を視察する機会を提供し、「質の高いインフラ」の理解促進を行っています。
さらに、2015年11月にマレーシアで開催された、ASEANビジネス投資サミットでは、「質の高いインフラパートナーシップ」のフォローアップに際し、①国際協力機構(JICA)の支援量の拡大・迅速化、②ADBとの連携、③国際協力銀行(JBIC)等によるリスクマネーの供給拡大の柱に基づき、公的金融の抜本的な制度拡充も公表しています。これらの取組を通じ、民間の更なる資金・ノウハウを呼び込みながら、質・量ともに十分なインフラ投資の実現を目指していきます。
(イ)APEC質の高い電力インフラ・イニシアチブ
APECにおいて、中長期的に電力インフラニーズの大幅な増加が見込まれるアジア太平洋地域において、質の高い電力インフラを普及させることを目的に、2015年に我が国が主導して「APEC質の高い電力インフラ・イニシアチブ」を立ち上げました。初期性能やこれを長期に渡り維持する能力、復元力、環境・社会への配慮、安全性、ライフサイクルコストといった発電所の質を担保するための評価指標や測定方法を示したガイドライン策定に向けた取組を推進しています。2016年度中にガイドラインを取りまとめ、その普及に向けたキャパシティビルディングを実施するとともに、ガイドラインをベースとした国際標準の策定に向けた検討も進めていく予定です。
2.新興国や産油国におけるエネルギー効率の向上に向けた支援
世界のエネルギー需要の動向を見ると、2013年時点で中国が世界の一次エネルギー消費の21%を占めるなど、世界のエネルギー消費に占める新興国・産油国の存在感が高まっています。国内にエネルギー資源を保有している国であっても、経済成長に伴って増大するエネルギー消費を賄いきれずにエネルギーの純輸入国に転じる国も出て来ています。こうした国々に対し、世界最高水準のエネルギー効率を実現している我が国の省エネルギー制度を輸出することによりエネルギー消費の伸びを抑制することができれば、国際的なエネルギー需給の緩和に繋がり、ひいては我が国のエネルギー安全保障にも貢献することになります。このため、我が国としても、新興国・産油国に対する省エネルギー支援に積極的に取り組んでいます。加えて、産油国に対しては産業協力を行うことで、産業構造の多角化を推進し、原油価格の変動による産油国経済への影響の緩和に繋げるとともに、産油国との関係強化を実現することができます。
こうした取組を進めるにあたり、資源価格の下落に伴い各国で省エネルギー意欲の低下を招きやすい環境下であることを踏まえつつ、国・地域毎の制度の熟度やエネルギー需給構造の違いに応じていくことが重要です。経済発展による第三次産業への移行や国民生活水準の向上により民生部門のエネルギー消費量が伸びていく中国及びインド、高い経済成長を牽引していく産業部門のエネルギー消費量が増大していくASEAN、資源価格の下落の反動として国内エネルギー価格を上昇させ省エネルギーの機運が高まりつつある中東産油国のそれぞれにおいて、その特色に対応した実効性ある対策を促していきます。
(1)新興国への省エネルギー制度の輸出
①中国及びインド
(ア)中国及びインドにおけるエネルギー消費の変遷
世界人口の3分の1を擁する中国及びインドでは、人口の著しい増加と急速な経済成長を背景に、エネルギー需要が大幅に増加しています。
中国では1990年以降大幅にエネルギー消費を増大してきており、2010年に米国を抜いて世界一のエネルギー消費大国となりました。また、自国内に豊富なエネルギー資源を有しているにも関わらず、1993年には石油の純輸入国に転じ、現在では世界第2位の輸入国となっています。石炭についても、2009年に純輸入国に転じるなど、資源の海外依存度は高まっており、エネルギー消費抑制の必要性が顕在化してきています。
インドも同様に、2000年以降にエネルギー消費は大幅に増加しています。石炭及び天然ガス資源の一部を自国内に保有していますが、世界第4位の石油輸入国になるなど、多くの資源を大きく海外からの輸入に依存しており、経済成長に伴う資源の輸入量は拡大の一途を辿っています。急激なエネルギー需要の増加により、電力供給が制限される等の社会的影響も拡大してきています。
このため、中国・インドの両国では、主たる要因である産業部門におけるエネルギー消費の拡大を抑えるため、特にエネルギー多消費産業部門における省エネルギー対策の重要性が高まっており、火力発電所や工場からの排ガスによる大気汚染問題の解消や、世界的な課題である地球温暖化対策の観点からも省エネルギー対策の重要性は拡大しています。
【第114-2-1】世界の一次エネルギー消費の各国割合(2013年)
- 出典:
- IEA Energy Balance
【第114-2-2】中国のエネルギー資源生産量及び輸入量(BAUケース)
- 出典:
- APERC「Energy Demand and Supply Outlook 5th Edition」
【第114-2-3】中国における部門別エネルギー消費量の推移
- 出典:
- IEA Energy Balance
【第114-2-4】インドにおける部門別エネルギー消費量の推移
- 出典:
- IEA Energy Balance
このような背景を踏まえ、中国では、1997年に省エネルギー法を制定し、省エネルギー対策取組の第一歩となる法的枠組を構築しました。その後、2008年には改正省エネルギー法が施行され、各部門の具体的達成目標等を策定するなど、省エネルギーの実効性を高めるための取組が強化されました。国家政策としても、第11次五カ年計画(2006年~ 2010年)において、2010年にGDP当たりのエネルギー消費量を2005年比で約20%引き下げるという具体的目標を初めて設定し19.1%の改善を達成しました。また、第12次五カ年計画(2011年~ 2015年)及び現在検討中の第13次計画(2016年~ 2020年)に、同様に目標を設定することにより更なる省エネルギー対策の強化を図っています。更にこの省エネルギー達成目標は地方政府に割り当てられ、地方政府幹部の業績評価制度には省エネルギーの目標達成度が導入されています。これにより、エネルギー消費量の削減成果は出ていますが、目標の達成のために工場の生産を強制的に一旦停止するなど、エネルギー消費活動を停止するとの方法も省エネルギー目標の達成に向けてとられているため、実質的なエネルギー効率は、エネルギー管理のノウハウの向上等により改善の余地があるものと考えられます。
インドにおいても、2001年に省エネルギー法を制定し、省エネルギー対策の取組を本格的に開始しています。国家政策としても、第11次五カ年計画(2007年~ 2012年)において2016年までにエネルギー効率を20%改善するという具体的目標を策定するなどの取組を進めています。このように、我が国に類似した法的枠組が構築されていますが、事業者は省エネルギー対策ではなく新規事業や事業拡大に向けて投資を行う傾向にあり、まだまだ省エネルギー対策は緒に着いたばかりと言えます。
【第114-2-5】中国及びインドにおける主な省エネルギー対策
(イ)我が国の省エネルギー協力
中国に対しては2000年代以降、執行につながる規定の整備に向けた中央政府向けの人材育成研修を実施し、2008年の省エネルギー法改正の支援を行いました。また、同改正省エネルギー法の実効性を高めるため、中央政府、地方政府及び省エネルギー監督機関等に対し、定期報告・計画策定等の法執行に関する研修を実施しました。さらに、セメント排熱回収技術等の実証事業を行い、先進的な省エネルギー技術の普及支援を実施しました。
また、インドに対しても、2006年以降、中央政府や地方政府に対して省エネルギー法に関する省エネルギー政策研修を実施し、法体系構築に向けた支援を行っています。特に、2012年より開始されたエネルギー多消費産業の省エネルギー対策を促進する制度である、「省エネルギー達成認証スキーム(PAT)」制度の構築・実効性の確保に向け、省エネルギー診断マニュアル作成の支援や州指定機関に対する研修を実施しました。さらに、インドに対しても、省エネルギー技術の普及を目的とした実証事業を実施しています。
(ウ)今後の変化と更なる取組
長期に亘り我が国から省エネルギー制度等の制度構築等の支援を実施したことにより、中国・インドにおいては我が国の法体系に類似した省エネルギー法体系が整備され、同法体系に基づく省エネルギー対策の実効性を高める活動を行うことにより、実効性も高まってきています。しかしながら、両国では今後も人口増加や経済発展に基づきエネルギー消費量が増加し、資源の輸入への依存が高まっていくと予測されており、資源の国際獲得競争は更に厳しくなると見込まれています。また、両国にとっても、資源の対外依存度の抑制やパリ協定の約束草案の達成のためには、更なる省エネルギー対策の実施が必要となってきます。特に、経済発展により第二次産業から第三次産業への移行や国民の快適性を志向する生活行動の変化から民生部門のエネルギー消費は拡大すると見込まれており、民生分野の取組が更に必要となります。
民生部門の省エネルギー対策は、多くの異なる需要家が省エネルギー対策に協力することが不可欠であり、一朝一夕に達成できるものではありませんが、我が国がこれまで取り組んできたトップランナー基準等のエネルギー消費機器の効率改善や建築物の省エネルギー化は一つの具体的な解決方法となり得ます。また、家庭エネルギー管理システム(HEMS)やビルエネルギー管理システム(BEMS)等のICT技術を用いたエネルギーを有効活用する技術も効果的です。
これまで、主にエネルギー消費が多く規制の行き届きやすい産業分野の省エネルギー対策に資する、制度構築や人材育成等の支援を行ってきましたが、今後は、エネルギー消費機器の効率改善に資する手法や建築物の省エネルギー手法など、不特定多数の需要家の省エネルギーを推進する法体系の立案についての支援を行っていく必要があります。我が国の持つ制度的知見を幅広く活用することが不可欠となるため、必要に応じ関係省庁が連携して進めていくことが重要です。
【第114-2-6】中国の2035年までのエネルギー需要見通し(BAUケース)
- 出典:
- APERC「Energy Demand and Supply Outlook 5th Edition」
また、産業部門についても引き続き多くのエネルギーを消費すると見込まれているため、継続的な省エネルギー対策が重要です。
特に、中国、インド等の新興国においては、初期投資費用の多寡により機器の選別が行われる傾向が強く、投資回収年数の短いものを好んで採用するといった状況にあるため、初期投資が高いエネルギー効率の高い製品は選択されにくいという課題があります。このため、維持管理費用を含めたライフサイクルコストによる評価基準を調達基準に導入することや、省エネルギー基準の更なる強化など、省エネルギー製品が選択され易い環境整備に向けた支援を進めていく必要があります。
さらに、政府間の協力のみならず、民間企業の活動を促進していくことも省エネルギーの推進には重要です。この観点から、中国とは2006年以降開催してきました日中省エネルギー・環境総合フォーラムをプラットフォームとして、日中企業間で進められている協力をより一層推進することにより、優れた省エネルギー技術の導入を促進していきます。
②ASEAN
(ア)ASEANにおけるエネルギー消費の変遷
ASEANのエネルギー消費は、堅調な経済成長により1990年から2013年の間で約2.5倍となり、増加の一途を辿っています。ASEANは、一次エネルギーの需要が2035年に2013年の約3 倍になると予測されており、またIEAによると、2013年から2040年の一次エネルギー需要の年平均増加率は2.2%と、インドの3.4%に次ぐ増加率となっています。
これに伴い、ASEANでは電力供給の不足が問題となっています。インドネシアでは、過去5年間(2007年〜 2012年)の電力需要と電力供給量の伸びは、それぞれ年率7.5%、6.5%と供給を上回りました。インドネシア電力公社(PLN)によると、2013年から2022年のインドネシアの電力需要は年率8%と高い伸びが予想されており、既に一部のエリアでは電力供給が追いつかず計画停電が実施されるなど、電力不足が発生しています。
このように急伸するASEANのエネルギー需要の増加に対して供給が追いつかず、エネルギー需給がひっ迫する状況にあり、持続的な経済成長を達成するためにもエネルギー需給バランスの安定化は喫緊の課題となっています。
【第114-2-7】ASEANの部門別最終エネルギー消費と実質GDPの推移
- 出典:
- 世界銀行 「World Development Indicators」、IEA 「Energy Balances of Non-OECD Countries」
(イ)ASEANにおける省エネルギー政策の動向
ASEANにおける省エネルギー政策の動向は、資源国と非資源国、そして省エネルギー政策準備国に大別されます。資源国は、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの6か国、非資源国はシンガポール、準備国は、カンボジア、ラオス、ミャンマーの3か国です。
ASEANの資源国においては、経済発展による国内のエネルギー需要の増加などの理由から、これまでエネルギー純輸出国であった国々がエネルギーの純輸入国に転換しています。これら資源国の財源の中核を担っていた資源の輸出が減少したことに加え、石油の純輸入国への転換と同時期に起こった原油価格の高騰は各国の財政に大きな影響を与えました。こうした背景からASEANの資源国では、省エネルギーの重要性に対する認識が高まり、省エネルギー政策の導入が進められています。例えば、インドネシアは、2004年に石油の純輸入国に転じ、2009年に省エネルギー制度が制定され、ベトナムも同様に、2011年に石油の純輸入国に転じ、同年に省エネルギー法が制定されています。
また、アジア太平洋エネルギー研究所(APERC)によると、インドネシアとベトナムが生産する天然ガスにおいても2025年にはそれぞれ純輸入国に転じると予測されているなど、ASEANの資源国では各資源の生産量の減少や輸入量の増加が見られ、省エネルギー対策の実施が急務となっています。
【第114-2-8】ASEAN資源国の資源の生産及び輸出動向と見通し
- 出典:
- アジア太平洋エネルギー研究所(APERC)「エネルギー需要と供給見通し 第5版」
ASEANの非資源国に位置づけられ、一次エネルギーの100%を輸入に依存しているシンガポールのエネルギー需要は、その経済成長とともに急伸し1990年から2013年の約20年で4倍となっています。このため、2012年に施行された省エネルギー政策は、シンガポールにとって持続的な経済発展を維持するためにも重要な国家政策の一つに位置づけられ、積極的な省エネルギーの導入が進められています。
ASEANの省エネルギー政策準備国であるカンボジア、ラオス、ミャンマーは、「チャイナプラスワン」として企業の進出が増加し、エネルギー需要増に伴い各国では省エネルギーへの関心が高まり、省エネルギー法導入に向けた検討が行われています。
(ウ)ASEANの省エネルギー対策とエネルギー価格
ASEANでは、早い国で1990年代後半から省エネルギー政策が導入されていたにも関わらず、資源国を中心にエネルギー補助金によってエネルギー価格が低く抑えられていたため、省エネルギーのインセンティブが働かず需要家側の省エネルギー対策が積極的に実施されてきませんでした。
このエネルギー補助金は、特に2000年代後半の原油価格の高騰局面においては各国の財政に大きな影響を与えたことから、近年では削減する取組が進められています。例えば、インドネシアの場合、2014年にはGDPの3.1%がエネルギー補助金に充てられています。2012年から2014年の各国の補助金額の推移をみると、インドネシアでは約303億ドルから約277億ドル、マレーシアでは約67億ドルから約54億ドル、タイでは約90億ドルから約24億ドル、ベトナムでは約54億ドルから約10億ドルと総じて補助金の引き下げが実施されています。
ASEANの中でも特に補助金額が大きいインドネシアでは、電力補助金を2016年以降は低所得者向けのみを対象とし、2014年時点で84億ドルから26億ドル程度まで引き下げる計画を発表しています。
エネルギー補助金の引き下げの影響から、ガソリンや電力などの価格が上昇傾向にあります。例えば、電力価格においては、2012年から2014年の3年間でインドネシアは30%、マレーシアは10%、タイは11%、ベトナムは12%も平均電力価格が上昇しています。このため、これらの国では省エネルギーへの関心が高まっています。政府は、補助金引き下げにより圧迫されていた財政を緩和するとともに、更なる省エネルギー設備導入などの支援策を検討しています。
【第114-2-9】ASEAN 主要資源国の平均電力価格の推移
- 出典:
- インドネシア国営電力公社(PLN)「PLN Statisticss 2013, 2014」、マレーシアエネルギー委員会(Suruhanjaya Tenaga Energy Commission)「Electricity Supply Industry in Malaysia Performance and Statistical Information 2014」、タイ発電公社(EGAT)「EGAT Annual Report 2012、2013、2014」、ベトナム電力公社(EVN)「Vietnam Electricity Annual Report2012-2013、2015」
【第114-2-10】ASEAN主要資源国のエネルギー補助金の推移
- 出典:
- IEA「化石燃料補助金データベース2014」
(エ)我が国の省エネルギー協力
世界最高水準のエネルギー効率を実現している我が国は、ASEANの省エネルギー政策の構築に関し、各種ノウハウの共有等を通じて深く関わっています。我が国は、2007年のASEAN+3エネルギー大臣会合において省エネルギー分野の協力を発表し、域内の省エネルギー推進と省エネルギー対策の格差是正に向けた協力を多国間、二国間の枠組みで実施してきました。このため、ASEANの省エネルギー政策は、各国の産業構造に適合した仕様となっているものの、省エネルギー政策の対象事業者の基準、対象事業者のエネルギー管理士の選任義務、ラベリング制度の導入などの基本的な体系は日本の省エネルギー政策に近似しています。
具体的には、二国間の協力では、各国の産業構造などを考慮した、省エネルギー政策の策定支援を目的とし、我が国の先進的な政策共有などの支援、そして、ASEAN全体を対象とした多国間の協力では、ASEAN域内の省エネルギー格差の是正を主要な目的として支援を進めてきました。
例えば、1992年に域内で最初に省エネルギー法が施行されたタイにおいては、2009年に日本の省エネ法を参考にした改正が行われました。類似点としては、(ⅰ)2段階のエネルギー管理規制の指定基準、(ⅱ)機器のエネルギー効率基準とエネルギー効率を表示するラベリング制度、(ⅲ)石油基金等を原資とした省エネルギー促進基金などが挙げられます。
特に、(ⅱ)機器のエネルギー効率基準とエネルギー効率を表示するラベリング制度においては、機器のエネルギー効率基準として世界的に採用されている最低エネルギー性能基準(MEPS)に加え、任意との位置づけではあるものの、我が国のトップランナー制度に類似した高エネルギー性能基準(HEPS)が設けられています。
このようにタイでは、省エネルギーの規制から導入支援の財源確保まで執行体制が整っており、体系的には世界的に最高水準にある我が国の省エネルギー政策に非常に近いものとなっています。
多国間の協力では、省エネルギーに関する推奨技術の要覧や総合エネルギー管理ハンドブックを作成しました。また、域内の省エネルギー格差の是正を図るため、省エネルギー政策の導入後進国であるカンボジア、ラオス、ミャンマーに対して、省エネルギー政策導入に向けたロードマップとアクションプランの策定に協力し、現在はこのロードマップに基づいた省エネルギー政策の導入に向けた取組への支援を実施しています。
【第114-2-11】ASEAN10か国の省エネルギー政策導入状況
- 出典:
- 省エネルギーセンター「平成28年度国際エネルギー使用合理化等対策事業(省エネルギー人材育成事業)報告書」
(オ)今後の変化と更なる取組
ASEANは省エネルギー中期目標(2016年〜2020年)と長期目標(2015年〜2025年)を、それぞれエネルギーのGDP原単位で2005年度比20%、30%削減することを掲げており、エネルギー需給のひっ迫問題やエネルギー補助金の引き下げによるエネルギー価格や電気料金の上昇など、省エネルギー対策が推進され易い環境が整いつつあります。
しかし、ASEANでは資源国を中心に省エネルギー政策の導入が進められ、省エネルギーの執行のための基本体系は整ってはいるものの、エネルギーのGDP原単位を確認すると域内で最初に省エネルギー政策が導入されたタイを始めASEAN各国のエネルギーのGDP原単位は相対的に高く、未だに省エネルギーの余地が大きいことが分かります。特に、中長期的に、ASEANのエネルギー需要は産業部門が牽引していくことから、産業部門の原単位の改善が必要です。
【第114-2-12】GDP当たりの一次エネルギー消費量(2013年)
- 出典:
- World Bank 「World Development Indicators」、IEA 「Energy Balances of Non-OECD Countries」
ASEANにおける産業部門の省エネルギーの課題は、政策面と省エネルギーを執行する人材などの体制面にあることが指摘されています。政策面では、省エネルギーの判断基準(エネルギー消費原単位1%の削減義務など)やエネルギー管理を行う上で指標となる詳細な数値基準の未整備であったり、MEPS基準が低く設定されていたり、また、体制面では省エネルギー対策の提案が出来るエネルギー管理士などが不足しています。インドネシアでは、エネルギー管理義務の対象事業者数約827社に対してエネルギー管理士は227人と、カバー率は27%となっており、省エネルギーを推進する人材が不足しています。また、タイにおいては、エネルギー管理士の事業者に対するカバー率は高いものの、省エネルギー対策の提案が可能なエネルギー管理士は不足しています。
このため、政策面ではエネルギー管理の判断基準の導入、体制面では省エネルギー提案が可能なエネルギー管理士の育成システムの構築を促していく必要があります。
また、産業部門の対策と同時に、中長期的にエネルギー消費量が増加していく家庭部門への対策も必要です。このためには、エネルギー効率の悪い機器を市場から駆逐させるための最低エネルギー効率基準(MEPS)の引き上げや省エネルギー性能の適正な評価手法の導入、対象機器の拡大やエネルギー効率の高い機器を市場に流通させるための高エネルギー性能(HEPS)の導入が重要な鍵となります。例えば、ASEAN主要国におけるエネルギー効率の高いインバーターエアコンの導入割合は30%未満に留まっています。これは、MEPSの基準が緩く市場にエネルギー効率の悪い製品が流通していることが原因の一つとして挙げられます。省エネルギーセンターによると、ASEAN主要国におけるインバーターエアコンの導入による省エネルギー効果は、普及が進まないシナリオとの比較で約39%の削減と試算されており、大きな省エネルギーのポテンシャルがあります。
これらの課題解決に向けて我が国では、ASEAN向けのエネルギー関連の調査実績のあるERIAとの情報共有等を行いながら事業を進めていきます。
(2)産油国との省エネルギー・産業協力
中東GCC諸国(Gulf Cooperation Council、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートが加盟)は、石油埋蔵量約5000億バレル(世界の埋蔵量の約30%)、石油生産量約2100万バレル/日(世界の生産量の約25%)を誇る巨大な産油国から構成されています。これらの国は、程度の差はあるものの総じて自国経済の大部分を石油や天然ガス資源からの収入に依存している傾向があります。
特にサウジアラビアは、国家歳入の8割程度を石油収入に依存しており、約3000万人とGCC諸国の中で突出して人口が多く、そのうち約67%以上を自国民が構成していいます。同国では、若年層の失業率が高く、社会的な不満が潜在的に高まらないよう、潤沢な石油収入を背景に公共料金の無償化など低所得者への優遇策を採ってきました。他方、こうした政策は、原油価格のボラティリティ(価格変動の程度)による影響を大きく受けることから、資源価格の変動が間接的に社会生活に影響を与える可能性があります。
他方、石油・天然ガスは採取と同時に減耗していく資源であるため、長期的に産油国は、石油・天然ガス以外の産業の多角化を進めて行くことが必要となります。そのため、中東産油国は、医療、バイオテクノロジー、自動車など産業多角化を推進しており、我が国も資源外交の一環として官民を通じた協力を実施しています。
【第114-2-13】ASEAN主要国のインバーターエアコン導入割合(2013年)
- 出典:
- 省エネルギーセンター
【第114-2-14】サウジアラビアのGDP内訳(2014年)
- 出典:
- Saudi Arabia Monetary Agency
①中東産油国におけるエネルギー消費の変遷
サウジアラビアを中心とする中東産油国は、最近まで継続していた高水準の原油価格に支えられた経済成長と人口増加により、国内のエネルギー需要が増加傾向にあります。
同地域におけるエネルギー需要の97 〜 100%は、石油又は天然ガスにより供給されています。国内エネルギー消費の拡大は、石油・天然ガスの輸出余力を圧迫することから、増加を続ける消費をどのように抑制していくかが喫緊の課題となっています。
なお、サウジアラビアにおいては、2004年から2014年の10年間で、石油生産量に占める国内消費量の割合が18%から28%に増加しており、サウジアラビア政府は、2028年の化石燃料の国内消費量は2010年比で約2.5倍になると指摘しています。
年間を通じて高温の中東産油国では、冷房需要が高く家庭・業務部門が電力需要の多くを占めており、その消費量は増加し続けています。サウジアラビアでは、2013年の電力需要のうち、家庭・業務部門が約8割を占めています。アラブ首長国連邦(UAE)においても、同年の電力需要のうち、家庭・業務部門が約7割を占めています。
【第114-2-15】中東産油国におけるエネルギー消費量の推移
- 出典:
- World Bank「World Development Indicator」
【第114-2-16】主な中東産油国の部門別電力消費量の割合(2013年)
- 出典:
- IEA「Energy Balances of Non-OECD Countries 2015」
中東産油国においては、豊富な資源の輸出による潤沢な利益を背景に、ガソリンや電力等のエネルギー価格は政府による補助金により国際価格と比較して極めて低く抑えられ、エネルギーの国内消費を増大させる一因となっています。例えば、サウジアラビアの電気料金は、我が国と比較して、家庭用で20分の1以下、産業用で3分の1以下の価格となっています。
2015年には、こうした低価格政策の見直しが始まり、サウジアラビアでは50%~ 67%のガソリン価格の引き上げが行われました。しかし、安価なエネルギー供給と石油や天然ガスの輸出による利益による高福祉の提供は、社会生活に直結する国民の関心事項であり、エネルギー価格を引き上げることは必ずしも容易ではありません。
【第114-2-17】中東産油国の化石燃料補助金額及びGDPに占める割合(2014年)
- 出典:
- IEA化石燃料補助金データベース2015
【第114-2-18】主な中東産油国の家庭用及び産業用電気料金
- (注1)
- 家庭用電気料金は、300kWh/月の電力料金単価
- (注2)
- イランの産業用電気料金は、2013年の平均電力料金
- 出典:
- バーレーン産業商務省(MOIC)、イラン電力公社(Tavanir)、クウェート電力水省(MEW)、マスカット配電公社(MEDC)、カタール電力水公社(Kahramma)、ドバイ電力水公社(DEWA)、サウジ電力会社(SEC)、IEA「Energy Prices and Taxes 1st Quarter 2015」
こうした状況を受け、貴重な輸出資源である石油や天然ガス資源の国内需要の抑制のため、国によって強弱はあるものの、2010年頃からサウジアラビアを始めとする中東産油国においても省エネルギーへの取組が実施されるようになってきました。
サウジアラビアでは、2012年に設立された省エネルギー政策形成を担うSEEP(Saudi EnergyEfficiency Programme)が主体となって、機器の省エネルギー基準策定やラベリング制度、乗用車の燃費規制等が導入されました。UAEにおいても、2010年以降に建築物・省エネルギー機器に対するラベリングシステムが開始されました。しかし、こうした省エネルギーに対する取組は中東産油国の中では依然限定的であり、かつ需要行動面での省エネルギーの対策が中心となっており、我が国の省エネ法のような全ての部門を網羅する体系的な省エネルギー施策は導入されていません。
なお、産業部門の電力需要が多く、自動車などの製造業を抱えるイランでは、1990年代から省エネルギーに関する取組を開始し、機器の省エネラベリング制度などに加え、工場のエネルギー管理人材育成制度も整備されています。また、2011年には、エネルギー消費パターン改善法を制定し、特定規模の事業者に対するエネルギー需給の管理やエネルギー消費の最適化を図る取組実施を義務化しています。さらに、経済制裁下では、国外の高効率な省エネルギー設備導入が適わなかったため、海外からの省エネルギーへの投資に期待が高まっています。
②我が国の省エネルギー協力
サウジアラビアにおいては、JICAを通じて、電力需要改善対策を取りまとめた「電力省エネルギー・マスタープラン」(2007年~ 2009年)を作成するとともに、2009年10月より水電力省向けの同マスタープラン実施支援にかかるコンサルティングを実施しました。また、SEEP設立により省エネルギー対策の強化を図るサウジアラビア政府からの要請に応じる形で、2013年5月より経済産業省が定期的な意見交換やセミナー開催、専門家派遣を通じて、民生部門の省エネルギー施策のみならず、産業部門及び運輸部門の全ての部門を網羅する体系的な省エネルギー施策導入に向けた支援を実施しています。
イランにおいては、JICAを通じて、ボイラー等の工場機器の効率的な利用に関する専門技術者を育成する省エネルギー訓練センターの構築支援(2003年~ 2007年)、ビル分野の省エネルギー推進のためのロードマップ及びアクションプランの策定支援(2010年~ 2011年)を実施しました。また、2014年からは政府系ビルを対象としたESCO導入パイロットプロジェクトを実施しています。
③今後の変化と更なる取組
近年の原油価格急落に伴う国家財政悪化を受けて、財政収入の多くを原油に依存する中東産油国では、エネルギーや水などの補助金の削減とともに、国内エネルギー消費を減らす観点から、省エネルギーの導入への関心が高まっています。
サウジアラビアでは、2015年12月に、今後5年間にわたって、燃料価格、電力価格及び水道の補助金削減を行うことを発表しました。これに伴い、ハイオクガソリンの価格を0.6レアル(約18円)から0.9レアル(約27円)、レギュラーガソリンは0.45レアル(約13円)から0.75レアル(約23円)に引き上げることを決定しました。イランでは、2010年12月に補助金合理化法を制定し、段階的に補助金を削減し、エネルギー価格を引き上げていくこととしています。
また、サウジアラビアでは、2012年のSEEP設立以降、省エネルギー余地の大きい民生部門(空調・建築)を中心とした省エネルギー施策の導入に取り組んでいます。加えて、中東各国の政府は、ソーシャル・ネットワークや新聞・テレビ広告等のさまざまな形で、国民に対する省エネルギーを訴えるキャンペーンを実施し、国民の関心・意識向上を図るため啓発活動にも力を入れており、民生部門への省エネルギー機運が高まっています。
こうした民生部門での取組に加えて、サウジアラビアでは今後は産業部門のエネルギー効率ベンチマークの設定、エネルギー管理士制度の導入に向けた検討も進められています。省エネルギー施策に長年の知見のある我が国は、民生部門のみならず産業部門、運輸部門の体系的な省エネルギー制度の構築に向けた支援を実施していきます。
また、イランにおいては、2016年の経済制裁解除を受けて、インフラへの投資とともに省エネルギーの進展が期待されます。我が国が持つ高効率の発電所や廃熱回収技術等などの省エネルギー技術の展開を積極的に進めていきます。
④その他の協力
その他我が国としては、官民一体となって中東産油国と様々な協力事業を行っています。
(産油国との協力事業の具体例)
■サウジアラビア
2007年の両国首脳間(日本側:安倍総理、サウジ側アブドラ国王)での共同声明に基づき、日本・サウジアラビア産業協力タスクフォースを設立し、産業協力とエネルギー協力を両輪として二国間関係を強化してきました。
2013年2月、茂木経済産業大臣(当時)とタウフィーク商工大臣との会談においてタスクフォースの5年間の延長を決定し、これまで産業協力では、サウジアラビア側の若年層の雇用創出ための産業多角化というニーズを踏まえ、産業人材の育成等が柱とし、電子機器・家電製品研修の自立運営への協力支援や自動車技術高等研修所への支援等を実施しています。また、エネルギー分野では、サウジアラビア国内で原油消費が上昇していることを踏まえ、前述のとおり、省エネルギー協力を実施してきました。
特に最近の原油価格の下落により、サウジアラビア政府は各種国内改革を実施しており、産業多角化へ取組にも熱心非常に熱心です。同国はさらなる中小企業協力など我が国へ寄せる期待は大きいものがあります。
■アラブ首長国連邦(UAE)
アラブ首長国連邦とは、「医療協力」、「産業協力」、「教育交流」の3つの分野で協力を行っています。具体的には、現地での日本の医療技術の指導、新たな産業創出を担う人材育成事業(インターンシップ等)への支援、アブダビの日本人学校にUAEナショナ性のキャリア開発に関する協力支援も石油関連分野において実施するなど多面的な協力関係を構築しています。
(3)制度輸出と一体となった省エネルギー技術の海外展開
エネルギー利用の効率化を進めるためには、法制度の構築や高度化を契機として、優れた省エネルギー技術を広く社会に普及させていくことが必要です。我が国では、1979年に制定されたエネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)を基本としつつ、企業の創意工夫の蓄積により優れた省エネルギー技術が数多く開発され普及が進んでおり、海外においても幅広く活用される可能性を持っています。
エネルギー供給インフラに加え、こうしたエネルギー需要側に関する技術を海外に展開していくことにより、世界のエネルギー需給の緩和を通じた我が国のエネルギー安全保障の向上とともに、経済的側面からも我が国にプラスの効果をもたらすことが期待出来ます。省エネルギーを促す法制度の構築により新しい市場が開拓され、また、我が国の優れた省エネルギー技術が市場を通じて普及していくことで更なる法制度の構築・高度化につながります。このため、制度面のみならず、技術面からもそれぞれの国・地域の特性に応じて、日本の優れた技術に対する認知を高め、実績を形成していきます。
中国・インドについては、今後エネルギー消費量の伸びが最も見込まれている民生部門への対策として、大型冷凍機、断熱材等のエネルギー効率の高い機器を単体で展開していくことのみならず、各機器を効率良く運用するエネルギー管理システム(BEMS等)とパッケージ化した展開を進めていくことなどが考えられます。日中省エネルギー・環境総合フォーラム等を通じて官民一体でこうした省エネルギー技術の周知を図るとともに、現地での実証事業を通じて実績の形成を図っていきます。
ASEANについては、エネルギー消費量の増加が見込まれる産業部門、特にセメント等の製造業への対策として、エネルギー効率の高い設備の新規導入や改修等を進めていくことが考えられます。一方で、特に製造業においては、エネルギー効率の向上のために大規模な投資が必要となりながら、自国内で実績のない技術に大きな設備投資をすることに対する不安があり、また、我が国の優れた省エネルギー技術を有する企業も、省エネルギー技術は気候条件や操業条件、サプライチェーンなどの事業環境に大きく依存するため、現地への適合性に大きな技術リスクを抱えています。そのため、現地での実証事業を通じて実績の形成と技術リスクの払拭を図っていくとともに、省エネ診断などによる意識喚起を進め、産業部門における省エネルギー技術の導入を加速化していきます。
【第114-2-19】ビルのエネルギー管理システム(BEMS)の例
【第114-2-20】セメント排熱発電の例(左)と高効率冷凍機の例(右)
中東産油国については、冷房需要が電力需要の多くを占める民生部門への対策として、インバーターエアコンやビル用マルチエアコン、大型冷凍機等を導入していくことが考えられます。また、水資源に乏しく造水プロセスに多くのエネルギーを投入している同地域において、日本の優れた膜技術を用いた省エネ型の海水淡水化システムや排水再生システムを導入していくことが考えられます。他方、同地域においては、一部の国において、エネルギー補助金の引き下げ、機器の省エネルギー基準策定、ラベリング制度などの省エネルギーに係る取組が始まったばかりであり、企業とのビジネスマッチングやセミナー開催等を通じて、現地のニーズや適用可能な日本の技術を促していきます。
【第114-2-21】排水再生型造水プラント(排水の再利用プラント)の例
3.日本における中長期を見据えた省エネルギー・エネルギー源多様化の政策
エネルギー安全保障の観点から、省エネルギーやエネルギー源の多様化が必要なのは、我が国も同様です。我が国は、エネルギー資源の大半を輸入に頼っています。こうした中、東日本大震災後の原子力発電所の稼働停止に伴い、火力発電による発電量を増加させる必要が生じた結果、LNGをはじめとしたエネルギー資源の輸入が急増しました。この結果、一次エネルギー国内供給に占める化石エネルギーの割合は92%(2014年)、電源構成に占める化石燃料依存度は88%(2014年)にまで高まってしまいました。
LNG価格はスポット市場で調達することになりましたが、基本的に他に有効な代替手段が無い我が国にとっては、電力需要を賄うためには高くてもLNGを買わざるを得ず、石油や石炭の輸入増加も相まって、最大で年間約12.8兆円にも及ぶ貿易赤字が発生する結果となりました。足下では原油価格が低水準になっており、これに伴ってLNGの価格も低下傾向にありますが、本章第1節で述べたとおり、中長期的には新興国の需要の伸びを反映して、再び資源価格が高騰することが予想されます。
再び資源価格が上昇した局面において、我が国が資源国との交渉を有利に進めるためには、我が国のエネルギー需給構造全体を原油価格の影響を受けにくい構造にすることが有効です。特に、①省エネルギーを進めることで需要自体を抑制した上で、②再生可能エネルギーの導入をはじめ、バランスの取れた最適なエネルギー・電源構成を実現することが、資源外交におけるバーゲニング・パワーにもつながります。
経済産業省は、2015年7月に長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)を決定しました。エネルギーミックスは、安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)について達成すべき政策目標を想定した上で、政策の基本的な方向性に基づいて施策を講じたときに実現されるであろう将来のエネルギー需給構造の見通しであり、あるべき姿です。具体的には、①震災後に6%まで低下しているエネルギー自給率を東日本大震災以前を更に上回る水準(おおむね25%程度)まで改善する、②経済効率性については電力コストを現状(2013年度)よりも引き下げる、③環境への適合については欧米に遜色ない温室効果ガス削減目標を掲げ世界をリードする、との政策目標を同時に達成するよう、検討を行ったものです。
このエネルギーミックスの実現に向けて、①省エネルギーについて、2030年度にかけて35%の大幅なエネルギー効率の改善(石油危機後並の効率改善)を図るとともに、②電源構成に占める再生可能エネルギーの比率を現状(2013年度に12%)から約2倍となる22-24%に引き上げることが必要です。このため、経済産業省はこれらの関連制度を一体的に整備する「エネルギー革新戦略」を2016年4月に決定しました。また、資源外交におけるバーゲニング・パワー向上のためにも、中長期を見据えた省エネルギーや、再生可能エネルギーや原子力を含めたエネルギー源の多様化に向けた総合的な対策が重要です。各分野での取組については、第1部第2章、第3章で詳述します。
【第114-3-1】我が国の一次エネルギー供給構成の推移
- ※
- ( )内は2010年度
- ※
- 再生可能エネルギー等の内訳は、太陽光(0.1%)、風力(0.2%) 、地熱(0.1%)、バイオマス等(3.6%)。
- 出典:
- 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」
【第114-3-2】発電電力量(一般電気事業用)の推移と構成割合
- 出典:
- 資源エネルギー庁「電源開発の概要」等
COLUMN
8年ぶりのサミット日本開催に併せたG7北九州エネルギー大臣会合開催
G7サミット は、日、米、英、仏、独、伊、加の首脳に加え、欧州理事会議長、欧州委員会委員長が参加して開催される会議です。(2014年までは、ロシアを含めてG8。) 日本が議長国を務める2016年は、三重県伊勢志摩でサミットを開催します。日本が議長国を務めるのは、2008年の「洞爺湖サミット」以来です。サミットでは首脳会議だけでなく、重要課題ごとの大臣会合も開催され、エネルギー分野では、エネルギー大臣会合が2016年5月1日、2日に北九州市にて開催をされました。
G7エネルギー大臣会合は、1998年より不定期にG7サミット議長国が主催し、これまでに7回開催されています。我が国においては、2008年の洞爺湖サミットに際して青森県で開催され、原油価格の高騰などについて議論されました。直近では、2014年にロシア・ウクライナ情勢等を踏まえ、急遽イタリアで5年ぶりに開催され、天然ガスの安全保障を中心にエネルギー安全保障を強化する方策について議論されました。この背景としては、欧州においては、ロシアとウクライナ間でのガス供給停止問題に端を発したガス安定供給が、日本においては、震災後のガス需要の増大からLNGの仕向地条項の緩和などによる柔軟で流動性のある市場形成が重要な課題となっているためです。2015年のドイツでの会合においては、こうしたエネルギー安全保障の議論に加えて、COP21を見据えた持続可能なエネルギーについて議論が行われており、北九州会合では両議題を踏まえたG7での更なる議論の深化及び具体的な成果を目指すこととなりました。
【G7エネルギー大臣会合の経緯】
5月1日から2日に、経済産業省はG7北九州エネルギー大臣会合を開催しました。先進主要7か国(日・米・加・独・仏・英・伊)、EU、国際エネルギー機関(IEA)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)から閣僚等の出席を得、林経済産業大臣が議長を務めました。
世界経済の見通しに不透明さが増す中、エネルギーは経済活動の基盤であるとの認識に立ち、「グローバル成長を支えるエネルギー安全保障」を大きなテーマに据え、多様で重要なエネルギーの課題と対応について議論を深めました。世界の成長に向けた「エネルギー投資の促進」、エネルギーを巡る市場や地政学的な変化を踏まえた「エネルギー安全保障の強化」、そして、COP21後初のG7エネルギー大臣会合として、その成果を受けた「持続可能なエネルギー」について議論を行い、具体的なメッセージやアクションを共同声明「グローバル成長を支えるエネルギー安全保障のための北九州イニシアティブ」にとりまとめました。本共同声明は月末のG7伊勢志摩サミットに報告され、首脳間の議論の基盤となります。
共同声明のポイントは以下のとおりです。
(1)成長を支えるエネルギー投資の促進
世界経済の成長を支えるためのエネルギー投資を促進する取組を主導していくことで一致しました。エネルギー価格安定のための上流投資、再エネを始めとしたクリーンエネルギーの技術開発投資、そして、エネルギー効率向上のための質の高いインフラ投資、この3点の重要性について認識を共有しました。エネルギー投資の促進は、雇用や経済を支えるために重要であり、伊勢志摩サミットの主要テーマである世界経済の安定にもつながります。
(2)天然ガスセキュリティ
アジアを中心に利用が急拡大する天然ガスについて、国際的な緊急時対応力を強化するため、IEAが中心となり、緊急時訓練を行う等の具体的な行動を取ることに合意しました。また、仕向地条項の緩和に加え、LNGに関する価格指標の確立、LNG基地等のインフラの開放といった包括的な取組を通じ、国際的なLNG市場の確立を目指すことに合意しました。日本としては、本日発表した「LNG市場戦略」に従い、LNG市場の確立に向けた取組を進め、11月に東京で開催予定のLNG産消会議も活用し、生産国、消費国双方との連携を強化していきます。
(3)原子力安全
福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水対策の着実な進展を歓迎しました。原子力利用国において、原子力政策に対する社会的理解を高めるために、科学的知見に基づく対話と透明性の向上が極めて重要との認識を共有しました。原子力の利用を選択する全ての国に対し、高いレベルの原子力安全、核セキュリティ及び核不拡散を確保し、その専門的知見や経験を共有することを要請しました。
(4)サイバーセキュリティ、電力安定供給
G7が協働し、エネルギー分野におけるサイバーセキュリティの調査を実施し、地域と分野を超えた専門家の連携を加速することで一致しました。さらに、再エネの拡大や自由化が進む中での電力安定供給対策については、広域系統運用に対応した新たな電力市場のデザインを目指していくことで一致し、IEAやIRENAに対し、引き続き質の高い分析や政策提言を行うことを要請しました。
(5)エネルギー技術の革新
G7が「ミッション・イノベーション」を通じて、クリーンエネルギーの技術革新を後押しすることで一致するとともに、IEAのエネルギー技術ロードマップ第二弾の開始を歓迎しました。
【G7北九州エネルギー大臣会合の様子】