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「2018年5月から始まる『非化石証書』で、CO2フリーの電気の購入も可能に?」でご紹介したように、2018年、「非化石証書」の取引市場が創設され、5月から取引が始まりました。これは、石油や石炭などの化石燃料を使っていない「非化石電源(電気をつくる方法)」で発電された電気が持つ「非化石価値」を取り出し、証書にして売買する制度です。市場創設からしばらく経ちましたが、取引はどのようにおこなわれているのでしょう?今回は、非化石証書と非化石価値取引市場の実際を見てみましょう。

CO2を出さない電源を支援することにもつながる、非化石証書のしくみ

再生可能エネルギー(再エネ)や原子力発電などの非化石電源は、化石燃料を使う化石電源にくらべ、地球温暖化の原因となるCO2の排出量が少ないというメリットがあります。そこで、さまざまな制度やしくみにより、非化石電源の利用が促進されています。

非化石証書と非化石価値取引市場のしくみも、そのひとつです。CO2を出さない電気には、「環境価値」があります。その環境価値のひとつである「非化石価値」を取り出し、証書のかたちにして売買を可能にしたのが「非化石証書」です。非化石電源を使って電気をつくる発電事業者は、この証書を取引市場でオークションにかけます(現時点では固定価格買取制度(FIT)対象となっている電源のみ可能)。電気を小売する事業者がこの証書を購入すると、「販売する電気のCO2排出量が少ない」と見なされるようになります。

非化石市場の開設から約8ヶ月が経過し、オークションはすでに3回おこなわれています(2019年1月時点)。オークションが開催されるごとに取引量は増加しており、2018年11月に開催された3回目のオークションでは、前回対比で約10倍の取引量(2,100万kWh)を記録しました。この2,100万kWhという取引量は、一般的な規模の住宅用太陽光発電に置き換えると約3,400戸分の年間発電量に相当(※1)します。つまり、今回の非化石証書の取引を通じて、一般的な規模の住宅用太陽光発電約3,400戸分の年間発電量に相当する再生可能エネルギーが活用されたことになります。

※1 一般的な規模の住宅用太陽光発電の設備容量を5kW、年間平均設備利用率を14%として算出

非化石証書オークション約定量
2018年5月 2018年8月2018年11月
約500万kWh約200万kWh約2,100万kWh

取引量が順調に増えている背景には、「非化石証書を活用して、CO2排出ゼロの電力を小売電気事業者から調達し、自社のCO2排出量削減に役立てよう」と考える企業が現れ始め、大口の需要家となっているということがあります。

今、日本企業は、CO2排出削減に向けどのような取り組みをおこない、その中でどのように非化石証書を活用し始めているのでしょうか。2018年10月から非化石証書の活用を自社の環境活動に取り入れている企業のひとつ、花王株式会社にお話をうかがいました。

大量の電気を使う工場では非化石証書の活用がCO2削減に有効

お話をおうかがいした方
リストアイコン 花王株式会社 ESG部門 ESG活動推進部 マネジャー 柴田学氏
リストアイコン 花王株式会社 購買部門 購買部 課長職 大河内秀記氏

―花王では、これまでどのような環境への取り組みをおこなわれていたのでしょうか。

柴田 当社の環境対応の取り組みは、当初は「省エネ」という文脈の中でおこなわれてきました。第2次オイルショックが起こった1979年頃には、各工場で省エネの取り組みを始めていました。

その後、気候変動枠組条約締約国会議(COP) が始まり(1995年~)、京都議定書が採択されるなど(1997年)、「CO2削減」が環境への取り組みにおいて重要な位置を占めるようになってきました。当社でも、省エネの取り組みとCO2削減の取り組みを結びつける動きが出てきました。また、京都議定書を受け、「チーム・マイナス6%」といった国の目標を守ることはもちろん、さらに積極的な環境対応の目標を自社でつくろうという声があがりました。

しかし、当社の事業は成長し生産量は増えていく一方でした。その中で、CO2排出量だけを削減しようとすると、通常の環境活動よりも、さらに踏み込んだ取り組みが必要となりました。そこで、工場すべてを統括する部署を作り、その部署で省エネやCO2削減の取り組みを進めることとしました。

―現在は、どのような取り組みをなさっているのでしょうか。

柴田 エネルギーを供給する供給側と、エネルギーを消費する需要側の両方に対して、さまざまな取り組みをおこなっています。たとえば、前者に対しては、利用するエネルギーのグリーン化をはかること、後者に対しては、消費するエネルギーを減らす取り組みなどです。

供給側について例をあげると、現在、都市ガスのインフラがない地域を除く全ての工場で、燃料には都市ガスを利用しており、石炭はもちろんのこと重油などCO2排出量の多い液体燃料は使用していません。また、太陽光発電設備の導入や低CO2排出係数の電力調達も進めています。コジェネや高効率ターボ冷凍機の導入も積極的におこなっています。

需要側については、草の根活動を始め徹底的な省エネ活動を進めています。無駄の削除や消費する蒸気の低温化、圧縮空気やポンプの低圧化など、広く世の中でおこなわれている省エネ活動を徹底的に導入していっています。

当社の製品について、資材調達から廃棄までのライフサイクルを通じたCO2排出量の評価をおこなっています。実は、ライフサイクルで見た場合、工場が占める排出量の割合は10%未満で、もっとも高い割合を占めるのは、ご家庭で製品を使用される際のCO2排出量なのです。

―それはどういうことですか?

柴田 当社のシャンプーや洗剤などの製品を使う際に水やお湯を利用することで、多くのエネルギーを消費し、CO2を排出しているのです。そこで、水やお湯の使用量を減らせるよう、たとえばすすぎが1回で済む洗剤の開発などを進めています。

花王の製品ライフサイクル各段階で排出されるCO2の割合
花王の製品ライフサイクルの各段階(原材料調達から廃棄・リサイクルまで)で排出されるCO2の割合を示した表です。

(出典)花王株式会社「サステナビリティ データブック2018」P28(PDF形式:1.44MB)

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活動の指標としては、グローバル企業にはグローバルな指標に沿って事業活動をおこなうことが求められていると考え、国際NGO「CDP」(※2)などのグローバルな環境調査内容を社内の活動指標として利用しています。環境やESG(環境、社会、ガバナンス)に関する世界的な先進企業にはネスレやユニ・リーバなど当社の類似業界の企業も多いため、グローバルな指標を使うことで、グローバル先進企業と当社とのギャップの見える化もできます。

※2 CDP:気候変動問題などの環境問題に取り組むため、企業に情報開示を促す活動をおこなう国際NGO CDP Webサイト(英語)

―そうした中で、非化石証書に着目されたのには、どのような経緯があったのでしょうか。

大河内 まず背景にあったのは、電力の小売完全自由化です。それまでは、各工場は拠点ごとに、そのエリアの電力会社と契約していました。しかし新電力会社が参入して、さまざまな事業者から調達することが可能になった。そのため、購買部門で、工場の電力契約を一括して管理することにしました。それで分かってきたのは、小売電気事業者によって「CO2排出係数」(一定量の電気をつくるためどの程度のCO2を排出したかを示す数値)が異なるということです。

これを受け、電力調達におけるCO2排出量削減のためにどのような手段を採ることができるか模索しました。「グリーン電力証書」や「J-クレジット」、「水力発電由来の電力メニュー」などさまざまな方法を調べた結果、当社の工場のように比較的大きな電力のCO2排出量を削減する場合には、市場流通量の多い非化石証書が有力な手段の一つであるという結論に達しました。

そこで、愛媛工場の電力を、非化石証書を活用した電気に切り替えました。愛媛を選んだのは、当社が購入電力のCO2削減を進めようと踏み出したタイミングと、電力契約の切り替えタイミングがちょうど合致したこと、また、工場消費エネルギーの主体が電力であり、太陽光発電設備を導入し、電力の再エネ化を積極的に進めていたためです。小売電気事業者はまだ非化石証書の取り扱い実績はありませんでしたが、当社が依頼したところ、協力を得ることができました。

―非化石証書と取引市場の制度について、今後、どのようなことを期待していますか。

大河内 制度は走り始めたばかりで、問題が残っていると思います。1つには、非化石証書では、どのような電源でつくられた電力なのかトラッキングできないということです。

非化石証書の購入が確実に環境対策になっていることを示すには、電源の種類といった情報が得られることが必要です。現在は、取引対象となるのは「FIT制度の対象となっている電源」、つまり再エネ由来電力に限られているため、ある程度の選別はなされていると信頼はできます。しかし、たとえばどこにある発電所で作られたかといったことも分かれば、地域への貢献といった意味でも活用できるかもしれません。

―そうした声に応えるべく、現在、トラッキング付非化石証書に関する実証も始まっていますね。

大河内 そうですね。そうした実証の中で、我々のような事業者のニーズも捉えられていくことを期待しています。

ただ、そうした情報の開示をあまりに多く求めてしまうと、発電事業者の負担が増えてしまい、参加する発電事業者が減り制度自体がうまく回らなくなくなったり、非化石証書を活用した電気にプレミアがついてしまって、取引価格が高騰する恐れを感じます。そのあたりのバランスをうまく取りながら、取引市場が活発化されることを期待しています。

―現場で環境活動を進めておられる実務家からの貴重なお話を、ありがとうございました。

トラッキング付非化石証書の販売にかかる実証実験について

インタビュー中にも話がありましたが、2018年12月、経済産業省は、「トラッキング付非化石証書の販売にかかる実証実験」をおこなうこととしました。

トラッキング付非化石証書を活用した電気を小売電気事業者が販売し、需要家が調達した場合、その電気は「再エネ由来」とみなされ、需要家による 「RE100」(事業で使用する電気の100%を再エネ由来電気でまかなうこと)の取り組みにも活用できます。これにより、非化石証書の利便性がさらに向上し、日本における再エネ由来電気の調達のための選択肢が広がることが期待されます。

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