Hy touch 神戸 液化水素運搬船“すいそ ふろんてぃあ”前で集合写真
科学館職員・教職員向け研修会

科学館職員・教職員を対象に、水素エネルギー技術の社会実装に向けた講義・施設見学を実施

2025.11.11

実施概要

次世代層への教育・知識普及を担う、関西地域の科学館職員・教職員を対象に兵庫県神戸市にて研修会を開催した。2050年に向けてのエネルギー政策の講義や「川崎重工業株式会社の水素の大量輸送実証プロジェクト荷役ターミナル:Hy touch 神戸、水素CGSスマートコミュニティ実証設備」を訪問し、最先端の水素エネルギー研究開発・実証の現場を見学。最後は、「人と防災未来センター」を訪れ、施設見学を行った。

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講義「エネルギー政策の今後と方向性について」
(資源エネルギー庁 須山照子)

日本の エネルギー安全保障を考える!

日本のエネルギーを巡る状況は大変厳しく、その構造は極めて脆弱な状況にある。2023年度のエネルギーの自給率は、15.3%と石油危機前の水準に戻っており、火力発電の依存度が69%と石油危機前の水準とほぼ同程度の状況にある。2021年度に策定された第6次エネルギー基本計画策定以降、ロシアのウクライナ侵略、中東情勢の緊迫化など地政学のリスクやDXやGXに伴い電力需要は減少から急増傾向へと転換していく中で、エネルギー安全保障についての要請が高まっている。輸入依存率を下げエネルギー自給率の向上は必須で、本年2月18日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーと原子力はともに最大限活用と明記された。一方で、脱炭素へのトランジションに向け、化石資源の安定的な調達は依然として重要であり、比較的CO2排出量が少ないLNG火力の確保や水素・アンモニア、CCUS等を活用した火力の脱炭素化を進めていく。

カーボンニュートラルに向けての2040年度の目標は?

今回、2040年度の温室効果ガス排出削減目標とエネルギー需給見通しも示された。今までは、エネルギー政策の積み上げで削減目標を示してきたが、2050年のカーボンニュートラルからバックキャストして考える方法を採用し2040年度削減目標73%を示したのも今回の特色といえる。エネルギー需給見通しは複数シナリオから導きだし最終エネルギー消費量は1~2割減る一方、電力電力量は1~2割増加、電源構成は再エネ4~5割程度、原子力2割程度、火力3~4割と幅を持たせた見通しとなっている。複数シナリオから見通しを示した理由としては、現時点での技術での目標達成は難しく革新技術の確立が必須であるからだ。

講義風景1

革新的技術の社会実装に向けての挑戦

カーボンニュートラルの実現に向けてエネルギー構造は大きく転換していく。その転換は、社会行動変容が求められていくとともに産業構造も大きく変わっていく。今まで、化石エネルギーを海外から調達していたが、水素、アンモニア、合成メタン、合成燃料などの輸入や自国内での製造の機会もでてくるだろう。そのためのサプライチェーンの整備も必要となる。太陽電池では、高変換効率と製造コストの低減が可能な次世代型太陽電池としてペロブスカイトに注目が集まっている。ビルの壁面で発電も可能となり、都心部でも太陽電池の設置面積の可能性が広がる。国土での適地が減少していく中で海に囲まれた地の利を活かした洋上風車、世界の潮流である大型風車の設置も可能となる。より安全性の向上を追求していく次世代革新炉など、社会実装に向けての取り組みが産業構造の強靱化、強いては、国内経済成長のつながることになるだろう。脱炭素、エネルギーの安全保障、経済成長の同時実現を目指していく。

参加者の声

  • エネルギー情勢を概説した上で基本計画を説明いただき、理解が深まった。
  • 第7次エネルギー基本計画の内容や各国の情報などがあり、日本の状況を改めて学ぶことができた。
  • 正確なデータと、「なぜか」という説明が非常に理解の助けになった。

施設見学
川崎重工業株式会社

川崎重工業株式会社が進める水素サプライチェーン構築の取り組みについて、約40年にわたる研究開発の歩みと、世界に先駆けた大規模実証の実態を解説いただいた。その後、実証試験を行う施設を見学し、その規模感や細かな工夫を自らの目で確認することができた。

なぜ川崎重工業はカーボンニュートラルに「水素」を選んだのか

川崎重工業はカーボンニュートラルの実現に向けて、燃焼時にCO2を排出しない「水素」を選択した。「水素」を活用する決め手になったのは、安定性および安全性。水素は世界各地の資源国から比較的安価に調達でき、アンモニアなどと異なり毒性が無く大量輸送も可能なことから、将来のエネルギー安全保障において重要な選択肢とされている。
水素をエネルギーとして利用する技術自体は既に確立されている一方で、課題となるのは大量輸送と大量貯蔵の技術だ。川崎重工業は水素ガスを体積が800分の1となる液化水素に変換し、輸送、貯蔵する技術の開発を1980年代から進めてきた。液化するためには大気圧でマイナス253℃まで冷却する必要があり、液化プロセスは高度な技術を要する。川崎重工業はこうした安価で大量の水素を海外の資源国で製造し、液化して運ぶ国際的なサプライチェーンを構築することを目指しており、長年の研究開発の成果が現在の先進的な取り組みにつながっている。

川崎重工業 講義風景

豪州と連携した大量水素輸送実証プロジェクトの荷役ターミナル:Hy touch 神戸

水素社会の実現には、水素を電力やガスと同様に「大量に安定して供給する」仕組みが欠かせない。川崎重工業はその鍵となる国際水素サプライチェーン構築に向けて、豪州と連携し、世界で初めて液化水素を本格的に積み込み・揚げ荷できる液化水素荷役ターミナルを建設した。
この施設では、液化水素を扱うための極低温技術や配管・ポンプなどの安全システム、作業員が積荷・揚荷の双方を安全に行える荷役の実証が行われた。
特に液化水素はマイナス253℃の極低温を保つ必要があるため、断熱構造や安全装置など技術的課題が多い。担当者からは、開発過程で直面した課題や、運用上の工夫について詳しい説明があった。

川崎重工業  見学の様子1

当日は、液化水素運搬船 “すいそ ふろんてぃあ”(SUISO FRONTIER)が港に停泊しており、参加者は実際の船を間近で見る貴重な機会を得た。船名をひらがな表記にした背景には、日本が水素技術の先端を担うという思いが込められているという。

水素を燃料とする水素発電コジェネレーションシステム:水素CGSスマートコミュニティ実証設備

世界初の市街地で水素による電気と熱を近隣の公共施設に供給するシステムの実証試験を神戸ポートアイランドで開始した。
水素CGSでは、水素を燃焼して電気を生み出すだけでなく、その過程で生じる熱エネルギーも地域の施設に供給することで、エネルギーの利用効率を最大化する。
見学では、水素CGSの設備と仕組みについて説明を受けた。この取り組みは、将来の水素社会に向けて、水素を「作る」「運ぶ」だけでなく「使う」部分でも新たなエネルギー利用の可能性を広げるものとなっている。

川崎重工業  見学の様子2

参加者の声

  • 今後のエネルギー情勢は私たちの生活に大きく関わり、とても大切な分野であると思っている。それをどう学校現場に伝え、子どもたちにその意識を育てるかという切り口として、とても良い機会をいただいた。
  • 水素事業について基礎知識から最先端の取り組みまで説明いただき、勉強になった。ガスタービン機器や荷役船などを実際に見ることができ、貴重な機会であった。
  • 水素は注目されながらもサプライチェーンの構築が難しいと聞いており、そこを先進的に取り組まれていることがよく分かった。
  • 実験室、資料からは得られない、社会実装に向けての取り組みが概観でき、印象的であった。

施設見学
人と防災未来センター

人と防災未来センターは、阪神・淡路大震災の経験と教訓を継承し、防災・減災の実現を目指す施設だ。参加者はボランティア解説員の案内を受けながら西館の展示ゾーンを巡り、震災の記録や当時の暮らしを見学し、防災について多角的に学んだ。

阪神・淡路大震災の記録から当時の状況を知る

はじめに訪れたのは、西館4階の震災追体験フロア。大型映像と重低音の音響により、震災がもたらした破壊の規模を全身で感じ取った。続いて鑑賞したドラマ映像では、被災の直後から街が復興へ歩み出すまでが描かれ、困難な状況下で支え合った人々の姿から、コミュニティのつながりの重要さが伝わってきた。その後に見学した西館3階・2階の展示では、震災当時の写真や資料が並び、生活環境が突然一変した様子が生々しく伝わる。解説員の方は、避難所生活は周囲が知らない人ばかりで、地域のまとまりが断たれた不安感をご自身の体験として語られ、参加者は深く聞き入っていた。

展示の中でも、震災のエネルギー規模を示す球体モデルが印象的だった。マグニチュードは数字が1増えるだけでエネルギーが約32倍になることが視覚的に理解でき、南海トラフ巨大地震ではM9を超える可能性も示唆されていることから、将来の災害に備える必要性を改めて実感した。こうした具体的な数値や科学的な視点を踏まえながら学ぶことで、防災は“知って終わり”ではなく、日頃から備えるべき現実的な課題であることが強く心に刻まれた。

人と防災未来センター 見学の様子1
人と防災未来センター 見学の様子2

参加者の声

  • 漠然と断片的な情報しか知らず、体験したリアルさを感じた。
  • 阪神・淡路大震災を知らない教員が増えている中、教員の研修にも役立つと思った。
  • 現在の先端技術だけでなく、背景となる過去の体験を知ることも重要だと感じた。

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