グループワークの様子1
大学での講座・ワークショップ

弘前大学でのエネルギー政策に関するワークショップ

2025.10.17弘前大学

実施概要

弘前大学の学生を対象に、資源エネルギー庁から「エネルギー政策の今後の方向性について」と題して、エネルギー政策に関する講義およびワークショップを実施した。

講義

「エネルギー政策の今後の方向性について」

(資源エネルギー庁 須山 照子)

資源エネルギー庁から弘前大学の大学生31人に対して、日本のエネルギー政策に関する講義を行った。2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、現在までのエネルギー情勢の変化や背景について須山氏から解説した。

エネルギー安全保障の危機とカーボンニュートラルへの政策転換

講義では、日本のエネルギー政策の現状と課題を解説した。エネルギー政策は、安全性を大前提に「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)の同時達成を基本とするが、日本は資源に乏しく、エネルギー自給率はG7最低水準の約15%に留まっている。電源構成においても、現在、火力発電の比率が約7割であり、CO2排出量が多い化石燃料への依存が継続している状況である。
このような中、政府は2020年に、2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)を宣言し、翌年の2021年には2030年度の温室効果ガス削減目標を46%へと大幅に引き上げた(2013年度を基準として)。一方で、2022年のウクライナ侵攻による国際的なLNG価格の高騰と円安の進行は、日本の貿易収支を過去最悪の赤字に追い込み、エネルギー安全保障と経済への甚大な影響が顕在化している。そのような状況の中、2025年2月にエネルギー基本計画も改訂され、再生可能エネルギーと原子力を共に「最大限活用」へと位置づけた。あわせて、2040年度の温室効果ガス73%削減目標が示され、更なる温室効果ガス削減の強化を図っていく中で、CO2排出量の約4割を占める電力部門の脱炭素化は喫緊の課題であり、鉄鋼業の「水素還元」や自動車の「2035年度ガソリン車の新車販売終了」など、産業構造全体の変革が必須である。

講義風景1

脱炭素実現のための技術戦略と「不確実性の時代」の対応

カーボンニュートラル達成という現行技術では不可能な目標をクリアするため、日本は技術革新と多角的なシナリオ検討を推進している。将来的なデータセンターや半導体工場の建設、電気自動車の普及による電力需要の増加を見据え、脱炭素電源の確保が急務である。
技術戦略においては、ペロブスカイト太陽電池や洋上風力(浮体式)など、国土制約を克服する再エネ技術の開発が加速している。また、CO2を排出しない水素・アンモニアの火力発電での活用、CO2を回収・貯留・利用するCCUS(e-メタン、合成燃料等)技術の実装が産業部門の脱炭素化を牽引する。原子力についても、建て替えされる原子力発電所には次世代革新炉の開発が重要視されており、「再エネか、原子力か」といった二項対立を避け、全ての電源の強みを活かす政策が採られている。
なお、目標達成の道筋には、地政学や技術の不確実性が高く、現時点で2040年度の73%削減を可能とする技術は存在しない。このため、政策では技術進展の度合いに応じた複数のシナリオ(ゴールデンシナリオからリスクシナリオまで)を検討し、国民に対し情報開示や透明性を高めつつ、エネルギー問題の重要性を共有していく必要性が強調された。

講義風景2

参加者の声

  • 今後のエネルギーについての話がとても面白かった。個人的には原子力が段々増えていくのかと思っていたが、実際の計画ではあまり割合は変わらず、他のエネルギーが増えるというのが自分の中で新鮮で面白かった。水素を燃料にするという計画があったが、水素を作り出すときにCO2がまた発生する可能性があるのではないのかと疑問に思った。
  • 海外ではそれぞれの国で発電の⽐率が違ったり、国内で⻘森は風力発電が盛んだったり、エネルギーという視点でもっと地元や日本について知らなければいけないことがたくさんあったと感じた。発電量と消費量が同じ時に同じ量にイコールに保っていることも初めて知った。カーボンニュートラルの実現に向けて、私たちにできることをもっと考えていきたい。
  • カナダが水資源に優れているということが分かった。優れている発電方法は国によって異なりそれぞれに強みがあるということを学んだ。
  • 世界的な面で見た原子力などのエネルギー問題を聞いて改めて日本が改善していかなければいけない課題を確認できた。今後の講義を通してより理解を深めていきたい。
  • グラフや図表で可視化しながら、講義前の自分の考えと⽐較して聞けるのがよかった。
  • 現在の認識度を確認しつつ、進行していく講義形式がわかりやすく、正しい知識が身についていくことを感じられたので良かった。
  • 現在日本が置かれている状況や目標としていることなどが詳しく分かって良かった。

ワークショップ
「エネルギー紙芝居」

グループワークでは13枚の紙芝居用イラストの中から7枚程度を選び、紙芝居を制作。「エネルギーとは何か」というテーマで、子どもたちに読み聞かせをする紙芝居を作り、発表を行った。

グループワークの様子2
グループワークの様子3

グループ①

対象層:幼児~小学校低学年

登場人物は少年とエネルギーの妖精「えみたん」。エネルギーの歴史を原始時代から現代まで振り返り、木→石炭→化石燃料への依存の変遷を辿った。現状の課題として地球温暖化と電力不足を指摘し、未来に向けて再生可能エネルギーの活用が不可欠であることを訴えた。歴史から学び、今後の世の中を作っていくことの大切さを伝える内容であった。

グループ1の紙芝居画像

グループ②

対象層:幼児~小学校低学年

少年と案内役の「ドラミちゃん」が、火を使っていた原始時代から産業革命、エジソンの電気の発明といった歴史を旅した。未来では空飛ぶ車など便利な生活が待っているが、エネルギーの使いすぎで地球が苦しむ「悪い未来」も提示。最終的に現代に戻り、「エネルギーを正しく学んで使えば素晴らしい未来が作れる」と訴え、教育的な役割を重視した内容となった。

グループ2の紙芝居画像

グループ③

対象層:小学校高学年~中学生

少年「デン君」と妖精「エネコちゃん」が、エネルギーの過去、現在、未来を学ぶ構成。人類が火や水車を使っていた時代から、エジソンの白熱電球の発明に至るまでを追った。現在の生活がエアコンや車など全てエネルギーに依存していることを確認。しかし、エネルギーを使いすぎることにより温暖化や異常気象、海面上昇が起きている現状を強調した。快適な生活と環境を守るため、一人ひとりが節電や再エネ導入に努めるよう訴える内容であった。

グループ3の紙芝居画像

グループ④

対象層:幼児~小学校低学年

少年が未来から来た孫に連れられ、エネルギーについて学ぶ設定。孫が暮らす未来都市では車が空を飛ぶなど非常に便利だが、エネルギーを使いすぎることにより地球が温暖化となり、動物が苦しむ「暑い未来」も体験した。この経験から少年は「使いすぎに注意しなくてはいけない」と気づき、最終的に地球の未来を守る研究者になったという結末で、現在の私たちの行動が未来の行方を左右する重要性を訴えた。

グループ4の紙芝居画像

グループ⑤

対象層:幼児~小学校低学年

少年とエネルギーの妖精が、宇宙から地球の光を見てエネルギーの存在を知るという幻想的な始まり。火→ろうそく→蒸気機関と、より便利なエネルギーを求めてきた歴史をたどり、その過程でCO2が増え、地球の空気が苦しくなっている現状を描いた。最終的に、現代人が自然の力(風車や太陽光)で電気を作るようになり、無駄をなくす工夫をすることで「地球が元気になる」という希望的なメッセージで締めくくった。

グループ5の紙芝居画像
グループワーク発表の様子1
グループワーク発表の様子2

学生たちの投票の結果、最も多くの票を集めたのはグループ4で、続いてグループ2が2番目に多い得票数となった。

グループワーク発表の様子3
グループワーク発表の様子4

参加者の声

  • 幼児や小学校低学年に伝える時に難しい言葉を使わずに説明をすることは難しかった。
  • 紙芝居は感情移入がしやすくて楽しかった。
  • 同じ題材でも個性が出ていて面白かった。
  • 当事者意識を持ち、深く考えるきっかけになった。
  • 未来の絵を見た時に、授業前では気づけなかっただろう点がいくつかあった。
  • 地球を良くしようという気持ちが起こった。

「広報・教育」TOPに戻る