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大学での講座・ワークショップ

東京都市大学での
エネルギー政策に関する
講義

2024.8.6~8東京都市大学

実施概要

東京都市大学の学生を対象に、資源エネルギー庁から3日間にわたりエネルギー政策に関する講義と、ワークショップを実施した。

講義①「エネルギー政策を考える~地球環境・地球温暖化について~」
(資源エネルギー庁 須山 照子)

東京都市大学の大学生53人に対して、日本のエネルギー政策に関する講義を行った。1日目の内容は地球温暖化の現状とエネルギー政策の変遷などについてである。

科学の進展とともに進む温暖化

エネルギー政策について議論をするためには、「なぜエネルギーについて考える必要があるのか」を明確に理解しておくことが必須だ。そのために、まずはエネルギー利用の歴史と、現代社会が抱える環境問題についての説明から始まった。
近代の環境問題を語るうえで、主題となるのはCO2である。太陽の発した熱が地球に長く留まるのは、CO2を始めとする温室効果ガスによるところが大きい。時代が進むにつれて人口も増え、石炭、石油、天然ガスなどの化石エネルギーの使用によるCO2排出量は今なお増え続けている。特に18世紀から19世紀の産業革命以降、地球全体のCO2濃度は上昇。地球は温暖化し、降水量の変化をはじめ環境や生態系へ影響を及ぼしている。

世界各国の脱炭素社会への取り組み

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1988年に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)」が設立され、世界各国の技術者、研究者が集まった。目的は、参加各国が環境問題に関する最新の知見や技術を持ち寄ることだ。それらを踏まえて、喫緊の課題に対する自国の考えや行動指針を発表し、お互いの取り組みを評価する。その後1990年代に入り、国連の中で国連気候変動枠組条約が締結。この条約から、COP(Conference of the Parties)と呼ばれる新たな集まりが生まれる。IPCCと異なり、ここでは国際的なルールや取り決めがなされる。第3回となるCOP3は京都で開かれ、先進諸国に対してCO2の削減目標を設けた(京都議定書)。また、COP21で採択されたパリ協定で、京都議定書に参加していなかった新興国などを含めたCO2削減目標が定められた。しかし、新興国の人口は増え続け、今なお火力がエネルギー源として活用されている。CO2も多く排出しているこれらの国が、急激に排出量を削減することは難しく、他国がどのような形で支援するかが今後の議題の一つとなっている。
こういった国際情勢の中で、日本の目標は2030年度にCO2排出量を46%減(2013年を基準として)、2050年には実質0としている。

講義②「エネルギー政策を考える~現状と今後の方向性~」
(資源エネルギー庁 須山 照子)

2日目は1日目の内容を受けて、各国が行っているCO2削減のための施策や今後の対策について紹介した。

新エネルギーに求めること

1日目の内容から、CO2を排出しないエネルギーが世界的に求められているという現状が明らかになった。そのため、従来の石油、石炭や天然ガスに代わる、CO2を排出しない脱炭素に向けて加速的に進めていかなければならない。そのうえでも重要な視点が、「S+3E(Safety + Energy Security, Economic Efficiency, Environment)」だ。安全性(Safety)をしっかりと担保しながら、自給率が高く(Energy Security)、コストが低く(Economic Efficiency)、CO2排出量が少ない(Environment)、これらの要件を満たすエネルギー政策が求められている。
日本のエネルギー自給率は13%。不確実性な社会情勢の中で、今後どのようにしてエネルギーの安定供給を行うか、自給率を高めていくかが重要なポイントだ。

日本のエネルギー政策のこれから

2021年10月「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定された。これは各国のエネルギー需給を含む諸情勢や、国内の技術開発の進捗などを含めて総合的に判断し、「エネルギー政策をどのように進めて行くべきか」という方向性を示したものである。特に「2050年を見据えた2030年に向けた政策対応」の章には、全13の項目で、「国家として何をすべきか」がまとめられている。エネルギーのおよそ9割を輸入に頼る日本だが、第6次の制定後にも日本を取り巻く状況は大きく変化している。ロシアによるウクライナ侵攻などの世界情勢の変化や、生成AIなどによるDXの推進によって電力需要も増加していくことが指摘されている。また、脱炭素に向けての開発や研究は日夜進められているため、すでに策定から3年が経とうとしている現在、改めて検討する必要に迫られている。

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ワークショップ

「S+3Eを目指した2040年度の電源構成を考えよう」

2050年のカーボンニュートラル達成を見据えた際、第6次エネルギー基本計画内の「2050年を見据えた2030年に向けた政策対応」の13項目はどのように改善する必要があるのか。第7次エネルギー基本計画を策定する上でアップデートするべき項目をピックアップし、その更新内容についてグループディスカッションを行い、その結果を発表した上で学生同士の質疑応答を行った。

グループ1

水素社会の実現に向けた取り組みは必要なのか

現在新エネルギーの一つとして研究対象となっている水素。その活用についてメリット・デメリットを踏まえて検討した。水素は他エネルギーと比べて、取り出す際に電気を使う。また、燃費と単価から、電気やガソリンといった他エネルギーよりコストパフォーマンスが悪い。これらのデメリットを持つ水素に対し、改善のために予算を割くべきでないとした。海外で開発された再生可能エネルギーを取り入れることに予算を使うべき、というのが彼らの主張だ。

グループ1の発表資料

グループ2

第7次エネルギー基本計画に向けて~国際協調と日本~

第6次エネルギー基本計画が閣議決定されてから、本講義が行われるまでの世界情勢における大きな変化(ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエル・ガザ戦争、新興国の人口増加)を受け、国際的な状況の変化にも柔軟に対応できるものにバージョンアップすべきだというのがグループ2の意見だ。具体的には、テロ行為や他国からの攻撃による原発事故への対策、新興国との連携もエネルギー供給の体制から見直すことなどを目指し、これらを文言として明記する必要性があるとした。

グループ2の発表資料

グループ3

2050年電源構成に対する提言

2050年に向けた目標として掲げられているものの一つが「国内で発電に使うエネルギーの50%を再生可能エネルギーに置き換える」というものだ。この目標の実現は面積の狭い日本では難しいと判断し、既存の再生可能エネルギーによる発電と並行して、ナトリウム冷却小型高速炉であるNatriumを導入することを提言した。Natriumであれば比較的小さな面積で設置が可能であるため、現在老朽化した火力発電所を取り壊した跡地に建設することが可能であると考えた。

グループ3の発表資料

グループ4

我が国における国内再エネ産業
サプライチェーンの確保と発展

再生可能エネルギーのうち、太陽光発電、風力発電、地熱発電に着目し、具体的な支援について追記することを提言した。太陽光発電については、2005年から発電パネルの国内生産シェアが減り続け、中国からの輸入が増えている。エネルギー自給率向上のためにも、国策としてメーカーを支援する旨を明記することが必要であると考えた。風力発電についてもメンテナンスの必要性などから新規参入のハードルが高く、これも国による支援が必要であると結論付けた。また、地熱発電については技術的にも実用可能、かつまだ利用されていない土地も潤沢であることから注力すべき発電である。しかし、土地の開発が必要となるため、本発電においても法整備を含む国による支援の必要性を訴えた。

グループ4の発表資料

グループ5

ウクライナ侵攻におけるエネルギー・セキュリティについて

第6次エネルギー基本計画が策定された際、考慮されていなかった国際的な戦争状態に備え、3つの施策を追加するよう提言した。一つ目は、国家石油備蓄の見直し。現在の日本は240日分の備蓄があるが、燃料を輸入できなくなった場合に備え、備蓄量を増やす必要があるとした。二つ目は、安全に取引できる工夫を行うこと。現在日本は石油の約9割、天然ガスの約1割を中東地域から輸入している。これらの地域が紛争地帯となった場合に備え、中東以外の情勢が安定している国や地域からも輸入できる体制へと移行するよう提言した。そして、3つ目がエネルギー自給率の増加だ。海外に依存せざるを得ない現在主流のエネルギーではなく、再生可能なものや原子力、そしてメタンハイドレードなどの新たなエネルギー活用についての研究を進めるべきであると主張した。

グループ5の発表資料

グループ6

エネルギー安定供給とカーボンニュートラル時代を見据えたエネルギー・鉱物資源確保の推進

第6次エネルギー基本計画において、目標や目的、取り組みが明示されていない部分を具体化すべく、3つの改善案を挙げた。1つめは、水素やアンモニアを生成する際、 CO2が排出されない方法を明記すること。水素とアンモニアは火力発電の燃料として使用すると、化石燃料を使用した場合と比べCO2の排出量が少なくなる。一方、CO2が発生してしまう生成方法もあるため、最適な手法を提示してカーボンフリーを実現することが目的だ。2つめは、日本で採れた鉱物資源の活用方針を明文化すること。南鳥島で見つかった大量のコバルトなどを蓄電池として利用し、再生可能エネルギーの利用拡大などを提言した。3つめは水素利用拡大のために、水素ステーションの設置目標数を明記することである。

グループ6の発表資料

グループ7

原子力発電の必要性

第7次エネルギー計画では、「原子力発電を積極的に取り入れる」という文言を追加すべきと主張した。現在の日本のエネルギー自給率は13%と低く、再生可能エネルギーは環境の変化による影響を受けやすい。原子力発電を推進するにあたって、リスク回避の観点で、新規建設のための原子力経済特区を決めることを進言。人口、高齢化率、面積、海の近さ、地震のリスクなどから総合的に判断し、具体的に国内のとある自治体が候補として挙がった。その土地に住む人々に移住してもらい、そこには各電力会社が共同で原子力発電所を建設できる特区として扱うことを提案した。

グループ7の発表資料

グループ8

制度の具体化と原子力の果たす役割

新興国にも国土面積上の課題があり、再生可能エネルギーを低コストで導入できる国は限りがある。天然資源も有限であることなどを考慮し、原子力発電の導入を世界的に取り組むべき課題とした。これを踏まえ、新興国に対する日本の技術支援を更に推進するべきとした。また、国内においては原子力発電にくわえ、太陽光発電を積極的に取り入れるべきとした。発電パネルの寿命は30年程であり、国内で太陽光発電が普及した2000年代に設置したものは再設置の必要がある。そこで、新しく設置するものと再設置するものとを合わせデザイン的にリニューアル。視覚的に周囲の環境と合わせ、多くの場所に設置できるようにして普及させる案を提示した。

グループ8の発表資料

グループ9

第7次計画のアップデート(更新)案

第6次エネルギー基本計画策定時の意図や踏襲すべき部分は残しつつ、変更が必要な部分を洗い出した。その結果、経済的な面からの検討が不十分とし、研究に多額の費用がかかりすぎていると指摘。コスト面でのリスクを考慮し、常に計画変更を行えるよう柔軟性を持たせるべきだと進言。
また、第7次エネルギー基本計画に新エネルギーへの移行方法も明示すべきとした。具体的には地中深くにCO2を貯留・圧入するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の取り組みや、CO2を積極的に利用するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の取り組みを具体的に明示し、石油による発電を順次撤廃する。同時進行で水素社会実現に向けた具体的な取り組み事例を記載し、企業や自治体からの幅広い認知を獲得する。くわえて、戦争などの危機に備えた自給率の向上についても明言すべきとした。

グループ9の発表資料

グループ10

水素とアンモニアの必要性

第6次基本計画策定時と比較し、水素とアンモニアの活用について研究が進んでいると予想。これらの現況について調査し、結果を踏まえ変更案を検討した。明らかになった点の1つが、水素は現在の技術をもってしてもコスト面での不安があるということだった。一方、アンモニアは実用化ができそうであった。諸外国に技術提供を行い、JCM制度(新興国に対し技術支援などを行った場合、削減されたCO2を自国の削減分としてカウントするもの)を活用することを提案した。

グループ10の発表資料

グループ11

2050年カーボンニュートラル実現に向けたエネルギー基本計画改善案

水素社会の実現に向け、高圧ガス保安法の規制を緩和し水素ステーションの設置数を増やし、ひいては水素自動車の普及を促進させることが重要と提言した。また、ケミカルリサイクル(廃プラスチックの再利用)の推進や、陶磁器など工業製品の焼成炉を熱効率の高いものへ交換することについても追記する必要があるとした。
くわえて、原子力発電を「可能な限り低減させる」という目標は、「最大限活用」へと変更することも必要であるとした。

グループ11の発表資料

参加者の声

  • エネルギー基本計画をアップデートするために、追加できそうな部分や修正が必要となる箇所をくまなく探したがとても大変だった。グループワークを通して、基本計画は緻密に作られていることを知った。
  • 特に印象に残ったのは、再生可能エネルギーと原子力のバランスについての議論。再生可能エネルギーの潜在能力や発展の可能性と、原子力の安定した供給能力や低炭素性についての考察が、カーボンニュートラル達成に向けた具体的な戦略を深めるうえで非常に重要だと感じた。
  • 原子力経済特区という制度を考えていた班があったことに感銘を受けた。そのような考えをもったことがなかったため、特に印象に残った。
  • エネルギーについて考える中で、安全性の確保はもちろん大切だが経済的な観点も持つ必要性があることについて考えさせられた。
  • 同じ課題の中でも様々意見があるのはもちろんのこと、視点が同じでも同じ目標でも様々なやり方があることを感じた。
  • 何処から燃料を得るのか、再生可能エネルギーであれば何処に置くのか、日本のエネルギー自給率から諸外国に頼らざるを得ないため、どの様な関係を構築しなければならないのかが気になった。

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