
教職員を対象に、エネルギー政策の現在と将来を考える講義・施設見学を実施
2024.8.19
実施概要
次世代層への教育の最前線に立つ、関西地域の教職員を対象に研修会を実施。小学校・中学校・高校・支援学校等から様々な科目を担当する教員10名が参加した。研修会では、兵庫県尼崎市の「岩谷産業株式会社 中央研究所・岩谷水素技術研究所」および大阪府堺市の「大阪公立大学 植物工場研究センター」を訪問し、それぞれの施設で最先端の研究活動の場を見学。併せて、資源エネルギー庁からエネルギー政策に関する講義を実施し、各教員がエネルギー政策の現在と将来への理解を深め、自校での教育を通して次世代層へと還元できるようになることを目的としてプログラムを実施した。
講義「エネルギー政策を考える~現状と今後の方向性~」
(資源エネルギー庁 須山 照子)
参加者に対して、日本のエネルギー政策に関する講義を実施。今後日本が目指す電源構成や、脱炭素社会を実現するための最先端技術について資源エネルギー庁から説明。
不安定的な電源構成からの脱却

エネルギー政策における基本的な思想が「S+3E」という考え方だ。Safety + Energy Security, Economic Efficiency, Environmentの頭文字をとったこの思想に基づき、安全性を大前提に、安定供給を第一とし、経済効率と環境適合の両立を図りつつ政策の策定を行っている。特に、日本にとって3Eの追求においてカギとなるのが、脱炭素電源への転換である。2022年時点では、電源の約7割以上を化石火力が占め、燃料となるLNG・石炭・石油等のほぼ全てを海外に依存している。資源に乏しい日本は、化石燃料の割合を減らし、脱炭素エネルギーへシフトしていく必要がある。また、近年の世界情勢の悪化によるエネルギー価格の高騰や、急激なDX(デジタル・トランスフォーメーション)による電力需要の増加もあり、安定的な脱炭素電源の確保はさらに重要度が上がったと言える。こういった状況の中、日本は世界の動向に併せ2030年度までに化石火力の割合を4割程度まで減らし、脱炭素電源(再生可能エネルギー、原子力、水素・アンモニア)へとシフトしていくことを目指している。
脱炭素エネルギーへのシフトを目指して進む技術開発
今後のエネルギー政策において、既存電源の安定供給と、更なる脱炭素・将来的なゼロエミッションの実現を担う新電源の開発の共存が重要である。2030年度の電源構成では、再生可能エネルギー:36~38%、原子力:20~22%を予定している。これらのエネルギーが将来、電力の安定供給力を支える重要な役割を担うこととなると言えよう。また、2050年までに火力発電は脱炭素エネルギーである水素・アンモニアの割合を1~2割程度まで増加させ、残った化石火力に対してはCUS(※CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略で、CO2を回収・利用・貯留するという取り組み)の導入を目指している。
これらの脱炭素エネルギーへのシフトに向け、新技術の開発や多くの議論が進められている。形成の自由度が高く、今までは設置が難しかったビルの壁面等にも設置できるペロブスカイト太陽光電池の活用や、排他的経済水域での洋上風力発電施設の整備、革新的な安全メカニズムを持つ原子力「革新炉」の開発などがその一例だ。また、発電量が変動する再生可能エネルギーの余剰分を貯蓄しておけるインフラの整備だけでなく、原子力発電所を有する地域や消費地域への知識普及・理解促進などソフトの面でも脱炭素に向けた活動を進めている。エネルギーの約9割を海外に頼る日本にとって、あらゆる選択肢を追求し検討していくことが、今後の脱炭素化、ひいては電力の安定供給につながる。
施設見学
岩谷産業株式会社 中央研究所・岩谷水素技術研究所
岩谷産業株式会社の中央研究所・岩谷水素技術研究所は、長年培ってきたガスを中心としたエネルギーに関する独自の技術力をベースに、パートナー企業・大学・公的機関・行政機関との連携によって新しい技術や商品を開発することを目的とした研究所だ。将来的な脱炭素社会の実現に向けて、水素や再生可能エネルギーの技術開発や事業化検証にも力を入れている。参加者は、最新の研究活動の現場に触れ知見を深めた。
エネルギーをコアとして、多様な共創や新たな創造を実現

はじめに、講義室にてイントロダクション映像を鑑賞し、岩谷産業の現在の技術力や、将来を見据えた取り組みについて学んだ。その後、研究員の方の先導のもと実際の研究施設を見学。そこは、多種多様なパートナーとの共創の場となっており、さまざまなテーマの研究開発が行われていた。岩谷産業のコアであるガス技術を活かしたガス溶接の研究室では、人と協働できるロボットアームやガスを任意の配分割合で調整できる設備などを観察し、研究員に質問を投げかける参加者も見られた。また、酸素ガスの技術を利用したバナメイエビの屋内養殖実験を見学した際には、酸素ガスの研究が養殖という一見すると無関係に思える分野にも深くかかわっているということに驚きの声が上がった。
また、日本トップクラスの設備を誇る水素技術の開発現場も見学。液化水素や超高圧水素ガスの実験室では、最新の研究内容について説明を受け、今後の水素社会の実現に向けた課題や取り組みに関する質疑が盛んに行われていた。また、研究所には実際に水素ステーションや水素発電機を設置している。社会への普及を見越した実装実験の場に、参加者からは「水素エネルギーの将来性を感じられた。」という声が上がっていた。
参加者の声
- 脱炭素社会の実現に向け企業と手を組んで次世代の車や医療などの開発に取り組んでいること、既存のエネルギーに水素エネルギーをうまく取り入れて開発していることが分かった。
- 金属に水素が入り込んで劣化させることや燃焼炉実験ではLPガスに水素を混ぜて燃焼させLPガスの使用量を減らし二酸化炭素の排出を減らすことなど、研究現場でなければなかなか聞けない話を伺うことができた。
- 授業でエネルギーについて取り扱う際の参考となった。
施設見学
大阪公立大学 植物工場研究センター・農学部附属教育研究フィールド
大阪公立大学植物工場研究センターは、完全人工光型植物工場に特化した先進的な研究・実証の拠点として整備された施設だ。モデル施設として、完全人工光型植物工場の将来を見据えた技術開発・人材育成・普及活動を推し進めている。参加者は、最先端の植物生産の施設や研究現場の見学・説明を通し、その活動やエネルギーに関する取り組みに触れた。
植物生産の場においても重要視されるエネルギー利用の効率化

本センターに関する説明動画を視聴した後、実際の研究施設を見学した。完全人工光型植物工場では、閉鎖空間において、空調、照明、水・養分、栽培パネルの搬送を完全に制御して作物の栽培が行われる。参加者は、各工程の検証を行っている実験室を順番に視察。研究内容や設備に関して、センター担当者と参加者で議論を交わす場面もあった。特に、1日に6,600株のリーフレタスを生産する能力を持つ巨大な栽培室を見学した際には、使用電力量について多くの質問が飛び交った。人工光型植物工場では照明と空調に大きく依存した栽培をしており、総コストの約3割を電気コストが占めると言われている。大量の電力を消費するからこそ、省エネルギーに関する取り組みも活発に行われている。電力需要と植物の生育を鑑みて、照明は夜を明期・昼を暗期と設定。また施設屋上に設置された太陽光発電とエアコンの効率化を行うハイブリッドシステムも導入し、エネルギー利用の最適化を目指しているという。その後、併設されている農学部附属教育研究フィールドも見学。エネルギー利用(空調、水・養分)の最適化を行う各種センシング機器や、それらで利用する電力を賄う太陽光発電設備を導入したハウス栽培施設について説明を受けた。
参加者の声
- 災害や気候変動があっても、安定した供給が出来ることがわかった。
- コストはかかるが、計画的に生産できること、虫がつかないことなどメリットも多いので、今後に期待したい。
- エネルギーについて、食料生産について、次世代の児童生徒たちが自分事として考えることが大切であり、そのためには教職員の知識が必要だと思います。