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科学館職員・教職員向け研修会

科学館職員を対象に魅力的なサイエンスショーを考えるワークショップや防災に関する施設見学を実施

2024.6.17~18

実施概要

北は北海道から、南は鹿児島まで日本全国から集まった科学館職員23人を対象に、兵庫県神戸市にて研修会を開催した。科学館職員がエネルギーに関する理解を深め、次世代層に対して広く知識を普及させる活動に活かせるスキルを身につけることが研修の目的だ。1日目には資源エネルギー庁からエネルギー政策に関する講義や、サイエンスパフォーマー:すずきまどか先生によるサイエンスショーの実演、魅力的なサイエンスショーを実際に企画するワークショップを実施。2日目は、「人と防災未来センター」を訪れ、施設見学を行った。

講義「エネルギー政策の現状と今後の方向性について」
(資源エネルギー庁 須山 照子)

参加者に対して、日本のエネルギー政策に関する講義を実施。今後日本が目指す電源構成や、脱炭素社会を実現するための最先端技術について資源エネルギー庁の須山氏が展望を語った。

CO2排出量削減のため、脱炭素電源への転換を目指す

日本のエネルギー政策を考える上で重要なキーワードが「S+3E(Safety + Energy Security, Economic Efficiency, Environment)」だ。安全性を大前提として、安定供給を第一とし、経済効率と環境適合の両立を図りつつ政策の策定を行っている。戦後から現代まで、電力需要の拡大やオイルショック、地球温暖化等、さまざまな出来事や社会の変化を背景としてエネルギー資源の多様化が進められてきた。現在、世界で脱炭素社会の実現に向けた潮流が加速化しており、日本は、2030年度に温室効果ガス排出量46%減(2013年度を基準として)を目指している。地政学リスクによるエネルギー価格の上昇や、DX(デジタルトランスフォーメーション)による電力消費量の増加を考慮し、目標達成のためには脱炭素電源をいかに確保するかが重要である。

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脱炭素社会実現のため、最先端技術の開発に注力

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脱炭素化に向けて日本は、化石エネルギーへの依存を脱却し、脱炭素エネルギーの割合を拡大する方向で動き始めており、中でも、再生可能エネルギーは主力電源として期待されている。その一つとして、軽量で柔軟性のある「ペロブスカイト太陽電池」が実用化されれば、平地の少ない日本でも発電量が確保できる。また、洋上風力発電もさまざまな取り組みが進行している。今国会では、日本の広大なEEZ(排他的経済水域)において洋上風力発電設備の設置を認める制度が創設された。「再生可能エネルギーのパートナー」として、火力発電の代わりに原子力発電を活用する動きが検討されている。革新的な安全メカニズムを持つ「革新炉」の開発により、安全性を担保しながら原子力発電を活用していくこともトピックスの1つだ。他にも、火力発電のエネルギー資源としてCO2を排出する化石燃料ではなく水素やアンモニアを活用する手法や、CO2を回収して地中に貯留するCCS(Carbon Capture and Storage)、バイオ燃料、合成燃料(e-fuel)など、さまざまな技術の開発が進められている。日本が強みを有するGX(グリーントランスフォーメーション)関連技術の知見を生かし、経済成長の実現と脱炭素社会の実現を目指す。

参加者の声

  • 【SDGsの目標達成が2030年】【脱炭素社会の実現が2050年】という目標に対して、今までの自分の知識だと「無理じゃないか?」と考えていましたが、今回様々なデータを見せていただきながらお話を聞いて「無理じゃないかもしれない!」と思えるようになりました。
  • 短時間の講義の中に多くの情報が盛り込まれていて、自力で勉強するよりも効率よくエネルギー政策の現状を知ることができた。
  • 今後エネルギーに関する企画を行う際に、脱炭素社会だけでなく、再生可能エネルギーや二酸化炭素の再利用など、さまざまな方向から企画や展示を検討したい。
  • 科学館は脱炭素に関する情報発信を行う役割も担っており、職員自身が正しい知識を身につけることは極めて重要だと感じた。

サイエンスショー「エネルギー知って体感」

サイエンスパフォーマーであるすずきまどか先生をお招きし、サイエンスショーの実演を交えながら、ショーの見せ方や話し方のポイントを解説いただいた。

ショーを通じて、子どもたちに「エネルギー」を実感させる

すずきまどか先生は挨拶代わりの実験として、「気合で変わる色水」を披露。ヨウ素を含んだ水の色が、ビタミン剤によって鮮やかな色に変化する様子を見せた。その後、エネルギーに関する実験として、風船とマフラーを用いて発生させた静電気を中心に、手作りコンデンサー等と絡めたさまざまな実験を紹介。実験をするだけでなく、子どもたちが理解しやすいショーの展開について解説した。また、手回し発電機を用いて、白熱電球を点灯させる実験では、エネルギー変換効率の差を参加者が身をもって体感する実験が披露された。手回し発電機を回す人数を1人、2人、3人と人数を増やすことで、電球を光らせた。電球をLEDに変えると1人でも点灯できることから、省エネルギーについて子どもたちに実感してもらいやすい実験だという。さらに、エネルギーに関連して火力発電の話題に移り、石灰水を用いることで火を燃やすと二酸化炭素が発生することを見せた。そこから、エネルギーを生産する際に排出される二酸化炭素が地球温暖化の原因になることを子どもたちに伝えられる。このように、一連のショーを通じて、どのようにすれば子どもたちにエネルギーについて分かりやすく教えられるかを紹介。参加者は子ども役として実際にパフォーマンスを体験しながら、すずき先生から直接ノウハウを学んだ。

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参加者の声

  • 伝え方や準備について意識していることが非常に参考になった。全国レベルのパフォーマーであるすずき先生と同じ価値観の部分もあり、自信を持つこともできた。
  • エネルギーという目に見えないものをどのようにしてショー形式で子どもたちに見せるか、イメージができた。
  • 一見エネルギーとは関係なさそうな実験から、地球温暖化に結び付いていくストーリーは、目からうろこだった。
  • どのような見せ方をすれば子ども達の心を引き付けられるのか非常に参考になった。実験道具の説明などは普段サラッと通しがちな部分ではあるが、詳細に話すことも対象年齢によっては非常に重要なことであると学んだ。

ワークショップ 「めざせ離席ゼロ!見続けられるサイエンスショーって?」

子どもたちを対象に行うサイエンスショーでは、いかに離席を防ぐかが科学館職員にとって重要なテーマだ。第2部のワークショップでは、サイエンスショーで離席を無くす方法について、すずきまどか先生が講義を行った。その後、参加者はグループに分かれてディスカッションを行い、サイエンスショーの組み立て方を学んだ。

子どもたちのストレスを解消し、離席ゼロを目指す

子どもが離席する理由は、「見えない」「聞こえない」「存在の肯定感の欠如」「年齢に合わない」「流れがない」などさまざまだ。ゆっくりと話すこと、マイクを使用すること、実験で使用する物の姿を細かく解説すること、子どもたちと目を合わせることなどにより、子どもたちとって分かりやすく楽しいサイエンスショーを実現できれば、自然と離席は少なくなる。これらの点について、すずき先生がラムネロケットの実験などを通じて解説した。科学館職員である参加者にとっては見慣れた実験内容であったが、子どもにとってストレスになり得る要素を解消する手法について、参加者はうなずきながら聞き入っていた。
「流れがない」という課題を解決するためには、伝えたい内容を1つに絞ってショーを構成することが重要だ。そこで、伝えたい内容を絞ったサイエンスショーを企画するワークショップを開催した。

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“流れのある”ショーを考案し、発表

まず、すずき先生から提示されたテーマリストの中から、サイエンスショーの「テーマ」と「伝えたいこと」を1つずつ選択。その後、ショーをどのような内容で構成するのかについてグループで話し合った後、全員の前で発表し、すずき先生から講評をいただいた。

〈テーマリスト〉

  • テーマ①空気 伝えたいこと:重さがある/膨張する/粘性がある
  • テーマ②水 伝えたいこと:状態変化/膨張する/屈折する
  • テーマ③地震 伝えたいこと:発生理由/発生後事象/対策
  • テーマ④その他
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サイエンスショーの写真2

グループA

【テーマ】空気
【伝えたいこと】膨張する

  1. つかみ:ゴミ袋を温めて気球のように飛ばし、子どもたちに興味を持たせる。
  2. 展開:袋に入った空気を温めたり冷やしたりして、袋が膨らんだりしぼんだりする様子を見せ、温度によって空気の体積が変わることを伝える。
  3. 締め:牛乳ビンを温めたり冷やしたりすることによって、触らずに卵をビンの中に入れる実験を行い、空気は膨張することを伝える。

講評:ゴミ袋気球は視覚的にインパクトがあるので、子どもたちの興味を引きやすく、つかみにぴったり。締めでは、なぜ卵が牛乳ビンの中に入ったのかをきちんと説明するとさらに良くなると思う。

グループAのメンバー写真

グループB

【テーマ】音
【伝えたいこと】音の正体は振動

  1. つかみ:のどに手を当てて声を出してみると、震えていることが分かる。音の正体は振動であり、実は目で見ることができると伝える。
  2. 展開:音叉や楽器などを用いて、音が鳴っているものは振動しているという共通点を見せる。
  3. 締め:鳴っている音叉の振動を止めることで音も止まるところを見せ、音の正体が振動であることを念押しする。

講評:いろいろと内容を詰め込みたくなるところをぐっと思いとどまり、対象である小学校1~2年生が理解できるようなシンプルな構成にできている。

グループBのメンバー写真

グループC

【テーマ】水
【伝えたいこと】状態変化

  1. つかみ:水はどこにあるかを子どもたちに質問する。
  2. 展開:ペットボトルで雲を作る実験や過冷却実験を行う。
  3. 締め:温度以外の要素によっても、水の状態変化が起きることを伝える。

講評:水の状態変化というと温度をイメージしがちだが、それ以外の新しい発見を与えることができる、新たな視点が素晴らしい。実験を子どもたちに体験させてあげられるとさらに良くなると思う。

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グループD

【テーマ】空気
【伝えたいこと】重さがある

  1. つかみ:少ない空気を入れたボールとたくさんの空気を入れたボールを、子どもたちに触ってもらう。
  2. 展開:5回空気を入れた風船と10回空気を入れた風船を用意する。天秤に吊るすと、あまり重さには差がないことが分かる。
  3. 締め:片方の風船を割ると、割っていない風船の方に天秤が傾く。そのため、空気には重さがあることが分かる。

講評:「重さが変わらない」ことを展開の中に入れる点や最後に風船を割る点など、さまざまな点が画期的なショーだった。ぜひ私も考え方を参考にしたい。

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グループE

【テーマ】空気
【伝えたいこと】重さがある

  1. つかみ:新聞紙でわりばしを割る実験や、ゴム板を持ち上げる実験を通して、空気には重さがあるのではないかと思わせる。
  2. 展開:2つの風船を天秤に吊るした後、片方の風船の空気を抜き、再度天秤に吊るす。空気が入っている風船の方に天秤が傾くので、空気に重さがあることを目で確かめられる。
  3. 締め:大小二つの風船を子どもたちに向かって投げ、空気の重さを体で実感させる。

講評:明日からすぐに実践できるサイエンスショーである。②や③で子どもたちが実際に体験できるタイミングがあるので、確実に盛り上がるだろう。

グループEのメンバー写真

参加者の声

  • 自分の意見を真っ向からぶつけて、高いレベルで会話できた。他館の取り組みから学ぶことも多く、自分の価値観が変わる良い機会であった。
  • 複数の科学館職員でグループをつくり意見交換することで新しい発見があった。
  • 他館のサイエンスショーを担当している方々と意見交換できたのは貴重な体験だった。また、すずきまどか先生ご自身がショーで大切にしていること・心掛けていることを伺うことができ、早速実行しようと感じた。
  • さまざまな所属の方々が集まって経験談を交えながらひとつのサイエンスショーを作りあげたので、一人でサイエンスショーを企画するよりも視野を広く持てた。

施設見学 人と防災未来センター

人と防災未来センターは、阪神・淡路大震災の経験と教訓を継承し、防災・減災の実現を目指す施設だ。参加者は西館と東館を見学し、震災や防災について学ぶと共に、展示方法など自身の所属する科学館の業務につながる点についても知見を深めた。

阪神・淡路大震災の記録から当時の状況を知る

はじめに、西館4階の震災追体験フロアで2つの映像作品を鑑賞した。震災発生時の様子と、街が復興に至るまでの様子を描いた映像から、震災の悲惨さや絆の大切さについて学んだ。その後、西館3階・2階で震災の資料や記録を閲覧。被災者の声を収めたビデオをじっくりと足を止めて観覧したり、ボランティアスタッフからの解説を聞いたりと、参加者同士でも意見を交わしながら理解を深めていた。参考資料として、リーフレットなどの配布物を集める様子も見られた。

施設見学の様子
施設見学の様子

防災・減災について体験しながら学ぶ

東館1階の「こころのシアター」では、オリジナル映像作品を通じて災害に遭遇した際にどのように行動すればよいかを学んだ。東館3階の「BOSAIサイエンスフィールド」には、災害が起こる仕組みを体験できるコーナーや、VRで津波を体験できるコーナーなど、工夫を凝らしたさまざまな展示が設置されていた。参加者は積極的に多くのコーナーを体験して回り、多様な展示方法に対する見識を広げた。

施設見学の様子
施設見学の様子

参加者の声

  • 最新の技術を活用したリアルな映像にハッとさせられた。大人にも子どもにも伝わる工夫がなされていて、強烈な災害の記憶を多くの人々に伝えていく使命を感じられた。未来に向けて防災と減災を呼びかける活動はすぐにでも自身の生活に活かせると感じた。
  • 所属する科学館では防災の実験ショーを行っている。伝える自分自身が災害の恐ろしさやすさまじさを知ることが大切だと考えるので、このような施設に訪れたいとずっと思っていた。実際に震災を経験した兵庫県の思いを背負った施設だからこそ、伝えるものの重さが違うと感じた。そして、改めて防災や減災の大切さを深く実感する機会となった。この機会で得たものを仕事に生かしたいと思う。
  • プロジェクターやパソコン、タッチパネル、壁面の使い方など展示の方法に興味がわいた。所属する科学館のリニューアルの際には参考にしたいと思った。

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