
関東地域の大学生を対象に、日本のエネルギー事情について、実際に触れて学ぶ講義・施設見学を実施
2025.3.7
実施概要
関東地域の大学生を対象にエネルギー施設見学会を実施し、工学部や理工学部を中心に11名の学生が参加した。神奈川県川崎市の臨海部に位置する環境学習施設「かわさきエコ暮らし未来館」およびエネルギー関連機器製造を行う「東芝エネルギーシステムズ株式会社 京浜事業所」を訪問し、実際の太陽光発電所で使われるソーラーパネルや原子力発電所などで使われる蒸気タービンの製造工程などを間近で見学。併せて、日本のエネルギー政策の現状について資源エネルギー庁による講義を実施し、幅広くエネルギー政策について考える機会を提供した。
施設見学
かわさきエコ暮らし未来館
かわさきエコ暮らし未来館は、経済産業省が推進する「次世代エネルギーパーク」の一つ、CCかわさきエネルギーパークの中心施設として、川崎市の再生可能エネルギーや資源循環などについて広く発信している環境学習施設だ。敷地内に併設された浮島太陽光発電所は、年間約842万kwhの発電量があり、市内の約2700世帯の使用電力を賄うソーラーパネルを有している。太陽光発電をはじめとする川崎市南部の埋め立て地を利用したエネルギー事業について、土地の利活用などの面からも学びを深めた。

川崎市の環境とエネルギー事業の関係性を学ぶ

まず、かわさきエコ暮らし未来館のエントランスの床部分に印刷された川崎市を一望できる航空写真をもとに、川崎市で行われているエネルギー事業についての説明を受けた。
次に、資源化処理施設の屋上と発電所構内の2つの視点からかわさきエコ暮らし未来館に併設する浮島太陽光発電所のメガソーラーパネルを見学。約11haの敷地に約3万8000枚のソーラーパネルが設置されている浮島太陽光発電所は、2011年に川崎市と東京電力の共同事業に端を発する。焼却灰を埋めたことによって地盤が不安定となった土地の利活用のために建設され、太陽光発電のデメリットである雨天時には焼却灰に雨水が流れることで土地の浄化作用が働くという仕組みがある。
太陽光発電による発電量は、火力発電の発電量と比較すると、はるかに少ない。一方で、二酸化炭素を排出しない再生可能なエネルギーであり、雨水で汚れを洗い流すためメンテンナンスに人員を割かずに運営できるといった持続可能性の面でのメリットもある。浮島太陽光発電所の見学は、地域や条件に合わせて工夫された発電方法を学ぶ機会となった。
最後は、かわさきエコ暮らし未来館2階の展示室を紹介いただいた。小学校高学年にも分かりやすい展示物で川崎市のエネルギー事業や身近なエネルギーについて楽しく学ぶことができる展示室では、直前に見学したソーラーパネルの実物に触れることもでき、再生可能エネルギーをより身近に感じられた時間であった。
参加者の声
- 自然の力を使って浄化を試みる例は今まで聞いたことがなかったため、埋め立て地の浄化方法が印象に残りました。
- 太陽光電池の土台が四角形に切り抜かれて雨の効果を受けられるなど、設備に少しずつ工夫がされている点が面白かったです。
- ソーラーパネルによる太陽光発電と火力発電との効率の比較が興味深かった。
- これまで太陽光パネルを用いた発電は、使用後の処分時の問題やエネルギー密度の小ささから、前向きに考えることが難しいと感じていました。しかし、ゴミを焼却処分した灰を用いた埋め立て地には非常に有効であるという事が分かりました。
施設見学
東芝エネルギーシステムズ株式会社 京浜事業所
エネルギーを「つくる・おくる・つかう・ためる」全ての事業に関わり、低炭素省エネ社会と電力安定供給に貢献する東芝エネルギーシステムズ株式会社。その中でも、1925年に設立された京浜事業所は、エネルギーをつくる大型発電設備の製造を手掛けている。火力発電所や原子力発電所、水力発電所、地熱発電所などあらゆる発電所で使用される発電機器の製造・組み立てを行う現場を見学し、その規模の大きさや技術力を実感した。

確かな技術で、世界のエネルギー供給に貢献する

まずは京浜事業所の概要について説明を受けた。京浜事業所は、1925年の設立から高い技術力で日本の電力の安定供給を支え、今ではCO2の削減に貢献する新たなエネルギー機器やヘルスケア関連機器の研究開発なども行っている。
その後は、広い敷地内をバスで本工場へ移動。タービン発電機モデルの模型を前に、作業員の方から大型機器を扱う上で課題となる冷却技術の変遷などの解説を受け、実際の作業場を見学した。組立ピット内に置かれた機器や、世界有数の加工機を間近で見学し、扱う発電機器の規模の大きさや高い技術力といったものづくりの現場を目の当たりにした。
次に、蒸気タービンの製造・組み立てが行われているタービン工場まで10分ほどバスで移動。各発電機に使われる蒸気タービンの羽根の大きさを比較した展示室を通り、実際に蒸気タービンの製造・組み立て工程の解説を受けた。原子力発電に使われる52インチのタービンの羽根はひときわ大きく、これから発電所への出荷を待つタービンは圧巻のサイズであった。機器輸送の手法や、タービンの種類やサイズによって使い分けられるバランス試験の違いなど、現場で働く作業員の方に対して積極的に質問が飛び交った。
広大な工場の敷地内には過去に八幡製鉄所で使用されていた蒸気タービンなども展示されており、今年で設立100周年となる京浜事業所で作られた大型機器が、長年に渡り全国のエネルギー創出に役立っていることを実感できる体験となった。
参加者の声
- 火力、原子力での発電の原理が同じことは知っていたが、タービンの大きさなどの相違点を体感できたことが印象に残りました。
- 発電機やタービンを間近で見学することができ、発電所に使用される機械(発電機、タービン)の大きさや、それらの非常に大きく重い機械を製造するための工夫された製造工程や工場の仕組みを知ることができました。
- 原子力発電所などで使用されているタービンなどは非常に大きいため、「加工が難しく、一部分ごとに製造している」と考えていたが、京浜事業所では軸を一括で製造していたことに驚いた。
- 実際に使われているコイルの冷却方法を知ることができて良かったです。
- 工場見学の中でも発電機の原理や実際の加工工程が印象に残りました。実際にタービン設備の製作過程が想像できて興味深かった。
講義「エネルギー政策を考える~現状と今後の方向性~」
(資源エネルギー庁 須山 照子)
参加者に対して、日本のエネルギー政策に関する講義を実施。各国の電力供給状況などを比較しつつ、日本におけるエネルギー政策の考え方やポイントについて資源エネルギー庁から解説を行った。
予測不可能な社会の中で、安定した電力需給の必要性が増大

日本のエネルギー資源の現状として、化石資源の多くを海外からの輸入に依存しており、諸外国に比べて自給率の低さが課題となっている。このような状況から、国際的な情勢の変化が私たちの暮らしや産業に大きな影響を与えてしまう可能性を孕んでいると言える。
また、対外的な課題だけでなく、国内の電力需給構造にも脆弱性が指摘される。電力供給の約8割を火力発電に依存する東日本(東京・東北エリア)の火力発電所の多くは東京湾岸や太平洋沿岸に集中し、自然災害等に脆弱な構造にある。さらに、DXの進展に伴うデータセンターや半導体産業の拡大などにより、今後の電力需要の増加が見込まれている中、脱炭素電源のニーズは更に高まっている。
日本におけるエネルギー政策の展望
今後のエネルギー政策の方向性として、2040年度のエネルギー需給に向けた見通しをまとめた第7次エネルギー基本計画とエネルギーミックスの内容を押さえておきたい。まず、ポイントとなるのが、「S+3E」の原則である。Sと3Eはそれぞれ安全性(Safety)、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合性(Environment)の頭文字を指し、これらを前提としてエネルギー政策が進められる。次に、「脱炭素電源」の活用である。DXの発展によりますます増加が見込まれる電力需要を前に、電力資源の乏しい日本が安定したエネルギー供給を手に入れるためには、再生可能エネルギーの最大限の活用が不可欠だ。技術自給率を向上させ、国産再生可能エネルギーの普及拡大を図ることは、日本の産業競争力の強化にもつながる。そのため、地域との共生も図りながら、次世代再生可能エネルギーの開発と社会実装を進めていく必要性が叫ばれている。一方で、脱炭素化を推進しつつも特定の電源に依存しないバランスの取れた電源構成を目指し、原子力などの電源の最大限活用も視野に入れている。
参加者の声
- エネルギー政策では経済や技術面だけでなく、安定供給など政治面も考えることが必要だと感じました。
- 大学では電気回路、電子回路、プログラミングなどを学んでおり、エネルギー自体に触れる機会が少なかったため、エネルギーについて詳しく学ぶことができて良かったです。
- エネルギー基本計画を踏まえて新しくできたプロジェクトや、経済産業省が技術的支援などをしているプロジェクトについても今後聞いてみたいと思いました。