
関西地域の大学生を対象に、エネルギー政策の最先端を学び、体感する講義・施設見学を実施
2024.9.4
実施概要
次世代を担う関西地域の大学生等を対象に研修会を実施し、10名が参加した。研修会では、大阪府大阪市にあるカーボンニュートラル技術の研究拠点である「大阪ガス株式会社 Carbon Neutral Research Hub」、および原子力プラントや関連機器などの製作を行う兵庫県神戸市の「三菱重工業株式会社 神戸造船所」を訪問し、エネルギー研究・開発、製造の現場を体感した。併せて、資源エネルギー庁からエネルギー政策に関する講義を実施。参加した大学生が、自分たちの生きる日本社会をめぐるエネルギーの現状と目指すべき未来について共に考える場を提供した。
講義「エネルギー政策を考える~現状と今後の方向性~」
(資源エネルギー庁 須山 照子)
参加者に対して、日本のエネルギー政策に関する講義を実施。今後日本が目指す電源構成や、脱炭素社会を実現するための最先端技術について資源エネルギー庁から展望を語った。
現在のエネルギー情勢と日本が目指す「S+3E」

エネルギー政策における基本的な思想が「S+3E」という考え方だ。Safety + Energy Security, Economic Efficiency, Environmentの頭文字をとったこの思想に基づき、安全性を大前提に、安定供給を第一とし、経済効率と環境適合の両立を図りつつ政策の策定を行っている。特に、日本にとって3Eの追求においてカギとなるのが、脱炭素電源への転換である。2022年時点で電源の約7割以上を化石火力が占め、燃料となる石炭・LNG・石油等のほぼ全てを海外に依存している。今後、化石燃料の割合を減らし、脱炭素エネルギーへシフトしていく必要がある。また、近年の世界情勢の悪化によるエネルギー価格の高騰や、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による電力需要の増加もあり、安定的な脱炭素電源の確保はさらに重要度が上がったと言える。こういった状況の中、日本は、2030年度までに化石火力の割合を4割程度まで減らし、脱炭素電源(再生可能エネルギー、原子力、水素・アンモニア)へとシフトしていくことを目指している。
多様な技術革新を通して実現するカーボンニュートラルな世界
今後のエネルギー政策において、電力の安定供給と、更なる脱炭素・将来的にゼロエミッションの実現を担う電源構成を目指すことになる。その一つとしてゼロエミッションに必要不可欠となるのが水素・アンモニアである。水素・アンモニアは、電力分野の脱炭素化のみならず、電化による脱炭素化が困難な産業部門(原料利用、熱需要)等にも貢献する。また、工場などで排出されるCO2を資源として捉え、分離・回収して燃料等に再利用する開発が進められている。それが、合成燃料(e-fuel)や合成メタン(e-methane)などである。その研究が、大阪ガス株式会社のCarbon Neutral Research Hubで進められている。また、午後の見学先である三菱重工業株式会社では、世界最高水準の安全性を実現する「革新軽水炉」の開発が進んでいる。GX(グリーントランスフォーメーション)においての次世代革新炉開発の意義、原子力の可能性を広げる革新炉、競争力を確保するコストダウンへの取り組みなどカーボンニュートラルの実現に向けて日本が強みを有するGX関連技術を追求している現場をみてほしい。
参加者の声
- エネルギーについてもっと考えて、自分の意見を持ちたいと感じました。これから学びをより一層深めていきたいです。
- 日本は再生可能エネルギーについて意外と考えていることが分かり、学びになった。
- 普段の活動では知ることの出来なかった知識を得ることができた。
施設見学
大阪ガス株式会社 Carbon Neutral Research Hub

CO2排出量削減と2050年のカーボンニュートラル実現に挑む大阪ガス株式会社のCarbon Neutral Research Hubは、2025年に開催される大阪・関西万博の会場からほど近い、大阪市の酉島に位置している。長年、石炭・石油等から都市ガスを製造してきたこの酉島地区は、ガス合成・触媒に関する技術開発から天然ガスの高度利用、石炭化学から派生した材料分野など多様な技術開発の知見が集約されている。このような長年蓄積されたナレッジを活用し、カーボンニュートラル実現に向けた様々な研究・技術開発が行われているのがCarbon Neutral Research Hubだ。日常生活でも聞く機会の増えたカーボンニュートラルがどのように実現されるのか。参加者は興味津々な様子で、研究開発の最前線に触れていた。
最先端技術の実用化で、カーボンニュートラルを実現する

まず導入として、職員からCarbon Neutral Research Hubの「Daigasグループ内での技術連携を進め、コア技術を進化させる」という設立の目的についてご説明いただいた。また、大阪ガスの研究拠点としてだけではなく、大阪ガスの取り組みや独自技術を発信することで他のプレイヤーとアライアンスを組み、仲間づくりを進める拠点でありたいという思いも込められているようだ。
次に紹介を受けたのは、大阪ガスが研究・開発を進める最新の技術について。水素とCO2から都市ガスの主成分であるメタンを合成する、カーボンニュートラル化のキーテクノロジー「メタネーション」をはじめとし、カーボンニュートラルな燃料の原料となる水素とCO2と熱(電気)を生成する「ケミカルルーピング燃焼技術」、エネルギーの最適利用を実現する「バーチャルパワープラント」等の最新テクノロジーを学んだ。大阪ガスが蓄積してきた独自の触媒技術やエンジニアリング技術を活用した取り組みに、参加者は熱心にメモを取っていた。
その後、職員の先導のもと実際の研究施設を見学。広大な敷地内を車で移動し、事前に説明を聞いた大阪ガスの研究の最前線を自身の目で見て体感した。従来技術を活用し、非化石燃料のメタンを生成するサバティエメタネーションの説明では、都市ガスと新技術を用いて生成されたeーメタンの燃焼比較実験を実施。都市ガスと同様に燃えるeーメタンの様子を目にすることで、カーボンニュートラル社会が現実のものになろうとしていることを感じることができた。
参加者の声
- 色々な技術のお話を聞いて、コストへの配慮そして先読みが最も印象に残りました。
- バイオマスから水素、電気、酸化炭素を生み出す工程に、酸化鉄を触媒とすることで、3種類の反応を無駄なく起こせているケミカルルーピング技術のお話が特に印象に残りました。
- 実用化をしっかりと見据え、本格的に取り組まれていることが大変印象的でした。
施設見学
三菱重工業株式会社 神戸造船所
1905年の設立以来、常に最新の技術を駆使し、優れた製品を数多く社会に送り出してきた神戸造船所。時代の流れと共に進化し続けてきた神戸造船所が今目指すのが、2050年のカーボンニュートラルとエネルギー安定供給の実現への貢献だ。神戸造船所の生産高の半分強を占め、カーボンニュートラル社会実現の鍵となる原子力事業の現場を見学した。技術者から直接話を聞くことで、原子力発電を実現する三菱重工の技術の高さ、そして安全への飽くなきこだわりを実感する貴重な機会となった。

世界最高水準の安全性を誇る原子力プラントで、カーボンニュートラルとエネルギーの安定供給の実現に貢献する

時代の流れと共に常に進化し続けてきた神戸造船所に原子力専門工場が設立されたのは、1972年のこと。以来、原子力プラントの開発から製造・運転・保守まで一貫したサービスを供給できる総合プラントメーカーとしての三菱重工の姿の説明があった。また、最新の取り組みとして革新軽水炉「SRZ-1200」が取り上げられた。2030年に温室効果ガスの排出量を46%削減するためには、原子力発電の割合を20~22%に高める必要があり、原子力プラント25~28基の稼働が必要だと見込まれている。また、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて貢献すべく開発されているのが、世界最高水準の安全性を実現する革新軽水炉「SRZ-1200」なのだ。
三菱重工が製造する原子力プラントの主要機器である蒸気発生器、使用済み核燃料の輸送・保管に使用するキャスク、安全性を担保する各種検査技術、そして安全・運転・制御等幅広い知識を持った技術者を養成することを目的としたシミュレータセンター等の施設を見学。蒸気発生器を製造するための加工技術や溶接技術、キャスクを9mの高さから落として構造健全性を確認する落下試験の紹介などを通じて、高い安全性を実現するための大小様々な取り組みを目の当たりにした。
参加者の声
- 様々な材料の特性や使い方などについて考え、その製品の精度を上げる工夫が様々なところでなされていることがとても印象的でした。そういった工夫によって私たちの生活を支えているライフラインが出来上がっているということにありがたさを感じました。
- 非破壊検査とシミュレータセンターの部分が印象に残りました。元より施設や設備の安全性の維持に興味があったので、実際にどういった仕事を行うのかについて垣間見ることができとても参考になりました。
- キャスクの製造設備が自動化され、ヒューマンエラーを極力抑える形式にしていることが印象深かったです。
