グループワークの様子
大学での講座・ワークショップ

弘前大学での
エネルギー政策に関する
ワークショップ

2024.10.18弘前大学

実施概要

弘前大学の学生を対象に、資源エネルギー庁から「エネルギー政策の現状と今後」と題して、エネルギー政策に関する講義およびワークショップを実施した。

講義「エネルギー政策の現状と今後」
(資源エネルギー庁 須山 照子)

講演の様子

講義風景の写真1

エネルギー政策の指針となる大前提は、『S+3E』(安全性(Safety)、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment))である。3つのEの全てを満たす完璧なエネルギー源は存在せず、1つに頼ることはリスクが高くなる。そこで、多層的な供給構造を実現する必要がある。ロシアによるウクライナ侵攻や中東をめぐる情勢の緊迫化などにより、エネルギーの安全保障や安定供給の現状をあらためて認識する中で、世界的な二酸化炭素排出削減の潮流などの国際情勢を踏まえての検討が必要不可欠である。
また、今年に入り、半導体工場の新規立地やデータセンター需要に伴い、国内の電力需要が約20年ぶりに増加していく見通しであり、長期的にみても電力需要の増加が予想される。そこで、我が国としては、脱炭素時代における電力の安定供給のために脱炭素電源の拡大が鍵となる。今後、脱炭素電源である再生可能エネルギー、安全性を大前提とした原子力、水素やアンモニア、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)などが期待されている。しかし、それぞれに技術開発やコストなどを踏まえた対応が必要となる。現在、2040年を見据えたエネルギー供給構造の検討が行われている。今後もS+3Eの原則はエネルギー政策の検討を行う上で重要なポイントとなる。

学生は、2040年、2050年に思いを馳せ、日本の将来の電源構成を考えるワークショップに臨んだ。

グループワーク

参加学生は9グループに分かれ、2050年度のカーボンニュートラル達成に向けた「2040年度または2050年度の日本の電源構成及び目標とするCO2排出削減量(2013年度比)」の2点について議論した。また、ディスカッションでまとめた結論をグループでまとめ、発表を行った。

グループワークの様子
グループワークの様子2
グループワークの様子3
グループワークの様子4
グループワークの様子5

グループ発表の様子

Aグループ

「再生可能エネルギーの発展と大幅な実現」

現在の課題として「火力発電への依存、エネルギーの海外依存」を挙げたAグループ。これらを踏まえて、2050年度の電源構成を考えた。再生可能エネルギー発電が70%を占める構成とし、宇宙太陽光発電システムの開発に期待をかけて太陽光発電の割合を25%と大きく設定した。「再生可能エネルギーの技術革新によって、先に挙げた2つの課題は解決されるのでは」というのが彼らの考えであり、「2013年度比でCO2排出量を60%削減したい」と述べた。

Aグループの発表の様子
Aグループの作成資料

Bグループ

「S+3Eの実現」

安全性の重視とCO2排出量を67%削減すること(2013年度比)を掲げ、2050年度の電源構成を考えたBグループ。洋上風力発電に期待をかけ、全体の10%程の割合に拡大させることを目指すプランを提言した。また、火力発電も20%と比較的大きな割合を占めているが、CO2排出量の少ないLNGを活用した発電の割合を最も大きくしてCO2排出量の削減を狙う。原子力については25%に増やす。この電源構成を実現するためには、「技術向上によって安全性を高めること」「それによって多くの人の理解を得る必要があること」の2点を達成する必要があるとした。

Bグループの発表の様子
Bグループの作成資料

Cグループ

「原子力発電を中心とした、S+3E!!」

2050年度の電源構成として、発電効率の高い原子力発電に大きな割合(35%)を設定したCグループ。化石燃料の使用率を下げ、再生可能エネルギーによる発電を促進し、2013年度比でCO2排出量を65%削減することを目指す。また、水素・アンモニアによる発電については、国の支援を受けての技術発展に期待をかけて、やや強気の割合設定をした。

Cグループの発表の様子
Cグループの作成資料

Dグループ

「INNOVATION~技術革新~」

Dグループは2013年度比で70.4%のCO2排出量削減を目標に掲げた、大胆な2050年度の電源構成案を発表した。再生可能エネルギーだけで56%、原子力発電が25%程を占める構成で、火力発電の比率を16%と大きく抑えた。原子力発電については、これまでの発電量を鑑み、より大きな割合を賄うべきだと考えながらも、発電所周辺住民の不安解消も必要になるという意見を述べた。

Dグループの発表の様子
Dグループの作成資料

Eグループ

「再生可能エネルギーのイノベーション」

再生可能エネルギーのイノベーションをテーマに、2050年度の電源構成を考えたEグループ。火力を10%、原子力発電を20%にしたうえで、技術革新によって水力発電や風力発電の発電効率が底上げされ、大きな役割を担うようになるというシナリオを描いた。国土面積における平地の割合が少ない日本では発電所を設置できる面積が小さいため、発電所を新規で設置することは難しい。この現状を踏まえて、今ある発電所でより多くの電力を賄えるような技術の開発にリソースを割くべきだという考えを述べた。また、洋上での太陽光発電などを皮切りに、太陽光を活用する発電技術は今後さらに増えていくと予想し、27%と大きく設定した。CO2排出量を、2013年度比で90%減という目標を掲げた。

Eグループの発表の様子
Eグループの作成資料

Fグループ

「新技術への期待」

Fグループは2040年度の電源構成を考えた。新技術を活用して太陽光発電や風力発電の発電量を増やすことを目指し、それに伴って全体の再生可能エネルギーによる発電割合も引き上げた。また、原子力発電については2030年度までに割合が大きく増えると予想。2030年度以降はその割合を維持する方向で考え、22%程度とした。これらの施策を実現し、CO2排出量は2013年度比で63%削減することができると考えた。

Fグループの発表の様子
Fグループの作成資料

Gグループ

「S+3Eの成功」

2050年度の電源構成について、CO2排出量を2013年度比で80%減にできると考えたGグループ。実現の鍵は「技術革新」だ。「火力発電量を0にすることは難しい」という考えから議論をスタートさせたこのグループ。CO2排出量の削減や安全な供給体制の実現はもちろんのこと、コストの観点からも考える必要があるという意見で一致した。太陽光発電、風力発電は新技術の開発により大きく発電量を伸ばすと予想し、コストパフォーマンスにおいて少し劣ると予想される水素・アンモニア発電は割合を低めに設定した。

Gグループの発表の様子
Gグループの作成資料

Hグループ

「実質CO2排出量0に向けた道」

Hグループは、2050年度の電源構成と2013年度比のCO2排出量削減目標を考案した。再生可能エネルギーの割合を増やすことを目指しつつも、水力発電は日本の地形的な特性を考えると増やしづらいと予想。風力発電や太陽光発電の発電量増加に期待を寄せた。また、火力発電が完全になくなることは難しいと予想し、化石エネルギーで最もCO2排出量の少ないLNGを主な燃料とすることでCO2排出量の削減を狙う。2013年度比でのCO2削減比は68%減とした。

Hグループの発表の様子
Hグループの作成資料

Iグループ

「技術革新」

Iグループは「2050年度にCO2排出量を0にするためには、2040年度にはどのような電源構成になっているべきなのか?」をコンセプトに電力構成を考えた。今後DXなどの推進により、ますます電力需要が高まることも見据えて算出したことがポイントだ。再生可能エネルギーが占める割合は40%で、そのうち水素・アンモニアなどの新しい発電方法を10%と他のグループより高く設定。これは、既存の火力発電所の施設は活用しつつ、燃料を置き換えることでCO2削減を実現していくのであれば、全体に占める割合は増えていくと予想したためである。また、2013年度比でのCO2排出量は70%減とした。

Iグループの発表の様子
Iグループの作成資料

参加者の声

  • 講義の良かった点は、発電方法の現状や課題について学べたこと。普段はあまり考えたことがなかった内容だったが、講義を通じて考えるきっかけになった。
  • 太陽光発電においては自分の知らない新たな技術革新があったことや、持続可能なエネルギー供給の難しさについて考えさせられた。また、ワークショップにて自分たちでエネルギー政策を考えてみる経験により、その難しさを改めて感じた。
  • アンモニアや水素を利用した新たな火力発電について初めて学び、より詳しく知りたいと興味が湧いた。
  • 太陽光パネルは大きくて硬いものしか知らなかったため、小型で軽量のペロブスカイト太陽電池の話が特に印象に残った。
  • 原子力発電について、メリットやリスク、今後の発展についてさらに細かく知りたい。
  • 電源構成の割合をどのように配分するかは、様々な要因を踏まえて考える必要があり難しかった。また、各グループで構成がそれぞれ違っているのも強く印象に残っている。
  • CCUSという技術についての学びが、最も印象に残っている。「二酸化炭素を埋める」ということもできると知り面白かった。
  • 具体的な技術とともに今後の発展を見据えた講義内容だったので、将来が楽しみになった。

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