講義風景の写真1
大学での講座・ワークショップ

弘前大学でのエネルギー
政策に関する講義

2024.05.18弘前大学

実施概要

弘前大学の学生を対象に、資源エネルギー庁からエネルギー政策に関する講義と、ワークショップを開催した。

講義「エネルギー政策の動向」(資源エネルギー庁 須山 照子)

弘前大学の大学生62人に対して、日本のエネルギー政策に関する講義を行った。エネルギーを取り巻く世界情勢、今後期待される「GX(グリーントランスフォーメーション)」などについて須山氏が最新の知見を紹介した。

S+3Eを念頭に、エネルギー価格を抑える

1973年のオイルショックを機に、石油に依存しないエネルギー資源の多様化が進められてきた。2011年の福島第一原子力発電所の事故により、原子力発電に対する信任が低下。それを契機に再生可能エネルギーの導入拡大に向けた動きが加速化され、現在に至っている。これからのエネルギー政策を考えるうえで重要な視点が、「S+3E(Safety + Energy Security, Economic Efficiency, Environment)」だ。日本のエネルギー自給率は13%。不安定な社会情勢の中で、今後どのようにしてエネルギーの安定供給を行うか、自給率を高めていくかが重要なポイントだ。

講義風景の写真1

GXを推進し、脱炭素社会を実現する

講義風景の写真2

日本はCO2の排出量を2030年度には46%減(2013年を基準として)、2050年には実質0を目指すという目標を立てている。今後、DX(デジタルトランスフォーメーション)により電力消費量が増えると予想されており、GXに向けて取組みを加速すると同時に、電力の安定供給を確保していくためにも、AIを含めたDXの動きについて注視が必要。
GXに向けて具体的には、主力電源としての位置づけである再生可能エネルギーでは、太陽光発電と風力発電に注力する。太陽光発電にはたくさんの土地が必要とされていたが、軽くて柔軟な「ペロブスカイト太陽電池」の開発を進めることで平地が少ない日本でも発電量を増加させる。風力発電では、日本の地理を活かした洋上風力発電は、主力電源化に向けた切り札とされており、導入拡大に向け、今国会ではEEZ(排他的経済水域)における洋上風力発電設備についての設置を認める制度を創設。また、原子力発電の再稼働も重要な選択肢の一つとして、革新的な安全メカニズムを持つ「革新炉」の開発を進めている。さらに、水素やアンモニアは、電力分野の脱炭素化に貢献するだけでなく、電化が難しい産業部門にも注目を集めており、サプライチェーンや法律の整備が進められている。CCS(Carbon Capture and Storage)というCO2を回収して地中に貯留する技術の開発も期待されている。これらの最先端の技術を用いて、日本は脱炭素社会の実現を目指す。

参加者の声

  • 日本は国土面積が狭いにもかかわらず再生可能エネルギーの取り組みを推進していることに驚いた。
  • S+3Eという言葉をはじめて聞いた。これからニュースを見る際はS+3Eの観点を意識したい。
  • 福島第一原発の件を知って、原子力発電について関心を持っていた。使用済燃料リサイクルなどさまざまな知識を学ぶことができて勉強になった。
  • ペロブスカイトという新しい太陽光発電の方法があることを知った。EVのように、いずれは一般家庭に普及することを期待したい。
  • 世界各国の電源構成を学んだことで、エネルギー資源が少ない日本がこれからどのような電源構成を目指すべきか考えながら聞くことができた。

ワークショップ

「S+3Eを目指した 2040年度の電源構成を考えよう」

2050年のカーボンニュートラルを見据えた際、2040年度の日本ではどのような電源構成を目指せば良いのか。グループディスカッションを行い、電源構成の展望について発表・質疑応答を行った。

ワークショップの写真1
ワークショップの写真2

Aグループ

電力の安定供給と脱炭素の両立に向けて
2013年度比で温室効果ガス55%削減

安全性を大前提に、再生可能エネルギーや原子力発電を最大限活用して火力発電の割合を減少させることを追求した。
再生可能エネルギー(40%):太陽光発電の割合を増加。ペロブスカイト太陽電池を利用し、平地以外での発電量を増加させる。
原子力発電(24%):現在の施設を最大限利用しながらも安全性に優れた次世代炉の開発を行い、少しずつ割合を増やしていく。
火力発電(31%):最もCO2を多く排出している石炭の割合を削減。中東情勢を考慮し、石油の割合もあわせて削減した。
その他(5%):CO2を排出しない水素やアンモニアなどを用い、さまざまな発電方法を組み合わせたエネルギーミックスなどの新たなイノベーションに期待。

Aグループの円グラフ画像

Bグループ

脱炭素化!~再生可能エネルギー爆増~
2013年度比で温室効果ガス60%削減

火力発電の割合を大幅に減らし、CO2を削減。エネルギー自給率を高めて生産効率を向上させ、化石燃料に頼りすぎないことで電力供給を安定させる。
再生可能エネルギー(48%):太陽光パネルを家やオフィスの壁にも設置し、供給割合を増加させる。
原子力発電(30%):安全対策が強化されたものの、国民のマイナスイメージを変えるためには時間がかかるだろう。
火力発電(20%):2030年度より割合を減らしCO2排出量の少ないLNGについて一定の割合を維持させた。
その他(2%):水素やアンモニアが例に挙げられるが、さらなる研究に時間が必要だと考えられる。

Bグループの円グラフ画像

Cグループ

S+3Eの達成と新たなイノベーション
2013年度比で温室効果ガス50%削減

安全性を大前提に、自給率の向上や安定供給の確保につとめながらCO2排出量の削減を目指す。技術のさらなる発展を見越して、イノベーションによるカーボンニュートラルへの貢献に期待を込めた。
再生可能エネルギー(37%):水力発電と太陽光発電の割合を少し増加させ、リスクを分散。CO2を排出しない環境にやさしい発電方法のため、全体的に割合を増加させた。
原子力発電(29%):CO2の排出量を減らすため利用量を増やすが、災害時のリスクを考えてあまり依存しすぎないようにする。
火力発電(29%):LNGを利用してCO2の排出を抑えつつ、石油による中東依存を減らす。
その他(5%):水素・アンモニア発電というイノベーションの確立によりCO2の排出量が減少する。

Cグループの円グラフ画像

Dグループ

S+3Eからの発展
2013年度比で温室効果ガス60%削減

S+3Eの確立を前提として、エネルギー変換効率の向上を追求することでCO2排出量の削減を目指す。
再生可能エネルギー(47%):EEZにおいての洋上風力やペロブスカイトの技術力向上により、風力・太陽光発電の割合が増加。
原子力発電(30%):いくつかの地域で稼働が始まると有用性が再認識され、普及が進むと予想。
火力発電(20%):他の発電方法の増加により割合が減少するものの、電力安定供給のためにある程度は維持。
その他(3%):海底に存在するメタンハイドレート等の研究が進み、実用化が可能になると思われる。

Dグループの円グラフ画像

Eグループ

環境への配慮~供給もあるよ~
2013年度比で温室効果ガス77%削減

温室効果ガスを削減し環境への負荷軽減を大前提に、安定的かつ大きな供給量を確保することを追求した。
再生可能エネルギー(40%):ペロブスカイト太陽電池の商業化を踏まえ、太陽光発電の割合を増加。
原子力発電(45%):環境への影響が少ない原子力発電を主要電源とする。安全性向上のため、革新的な安全メカニズムを備えた「革新炉」の開発を進め、確立する。
火力発電(10%):火力発電の割合を削減し、温室効果ガスの排出量減少や火力発電への依存脱却を目指す。
その他(5%):海を利用した発電が効果的であると考え、波力発電や海洋温度差発電などの運用を想定。

Eグループの円グラフ画像

参加者の声

  • 原子力発電における新しい発電方法:次世代軽水炉が開発され、政府も支援を進めていく方針であることが分かった。
  • 再生可能エネルギーは資源が枯渇することなく供給できるので、自給率を上げるうえでも有用だと感じた。一方で、太陽光や風力発電だけに依存しすぎると安定性に難があるため、エネルギーミックスが大切だということが実感できた。
  • 海を利用した発電ということを発言しているグループがあり、新たに知った知識なのでとても興味深かった。
  • メタンハイドレートについての内容が印象深かった。S+3Eを目標にすることも大事だが、今後新たな持続可能エネルギーが発見され、より効率良くエネルギーの配給が行われる可能性を感じた。
  • 火力発電を最小限に抑えるグループがあったり、イノベーションの部分でメタンハイドレートに着目するグループがあったりと、自分たちのグループとは異なる意見をたくさん聞くことができてとても面白かった。

ワークショップ 「エネルギー紙芝居」

13枚の紙芝居用イラストの中から7枚を選び、紙芝居を制作。「エネルギーとは何か」というテーマで、子どもたちに読み聞かせをする紙芝居を作り、発表を行った。

ワークショップ「エネルギー紙芝居」の写真1
ワークショップ「エネルギー紙芝居」の写真2

グループ1

対象層:小学校高学年~中学生

時は30XX年。タイムマシンを利用し、ある夫婦がひ孫の様子を見に未来を訪れた。30XX年の街では、気温の上昇や降雨量の減少が社会問題になっている。原因を探るため、過去に戻る二人。縄文時代から人間はエネルギーを利用していた。産業革命を機に石炭や石油を燃やすことでCO2の排出量が増加し、地球温暖化につながっていたのだ。二人は日々の積み重ねが未来につながると実感し、エネルギーの使い方を見直すことで未来を変えた。

グループ1の紙芝居画像

グループ2

対象層:小学校高学年~中学生

空から日本を見ているひろしくんとウインディちゃん。日本が明るく見えるのは、多くのエネルギーを消費しているからだという。エアコンや車などさまざまな場面で、人間はエネルギーを利用している。日本は石油やLNGなどを海外から輸入してエネルギーを生産しているが、輸送の過程でたくさんのCO2が発生する。CO2を排出すると、気温の上昇や干ばつなどが起こってしまう。そうならないために、環境保全とエネルギー利用を両立しよう。

グループ2の紙芝居画像

グループ3

対象層:小学校高学年~中学生

にこちゃんが、エネルギーについてたくみくんに説明する。人間は昔からエネルギーを利用してきた。石炭を燃やすことで得た熱を運動や光に変換するなど、エネルギーは別のエネルギーに変換できる。この性質を応用して、人類は現代まで技術を発展させてきたのだ。世界中でたくさんのエネルギーが利用されていることが、宇宙から地球を見ると分かる。日本は主に火力発電を利用しているが、CO2を排出すると気温の上昇や異常気象など地球に悪影響を及ぼしてしまう。理想的な未来を実現できるよう、電気をこまめに消すなど小さなことから実践していこう。

グループ3の紙芝居画像

グループ4

対象層:幼児~小学校低学年

エネルギーの妖精・エネ子は、日常生活でさまざまなものにエネルギーが利用されていると教えてくれる。世界では、先進国を筆頭にたくさんのエネルギーを利用している。タイムマシンで過去へと遡ると、水道や電気のない時代から、産業革命を経て、人間社会は発展を遂げたことが分かった。しかし、それに伴いCO2の排出量が増加。そのため、海面上昇などの問題が起こっている。このことから、二人は自然とのバランスを考えながらエネルギーを利用する必要があると学んだ。

グループ4の紙芝居画像

グループ5

対象層:幼児~小学校低学年

エジソンの本を読んでいるライトくんは、「エネルギーについて教えて」とポップちゃんにお願いする。過去に遡った二人は、火や水を利用していた時代と現代社会を比較。現代社会では、車やエアコンなどあらゆるものがエネルギーを消費している。しかし、エネルギーの生産過程でたくさんのCO2が排出されるため、気温の上昇や海水面の上昇などの問題が起こってしまう。「暑い中、学校に通うのは嫌だ」と言うライトくん。風や水の力を利用したクリーンなエネルギーを利用すれば、異常気象は起こらないことを理解した。

グループ5の紙芝居画像

参加者の声

  • 普段使っている言葉よりも簡単な言葉で説明することを意識した。皆で協力しながら短時間で完成させることができ、自信になった。
  • 紙芝居をする中で、どうしたらエネルギー問題という難しい問題を小さな子供に伝えられるかを考えることができ、教育的な面でも考えを深めることができた。
  • 同じ絵の中からでも、選ぶ絵、ストーリーの作り方がさまざまで、聞いていて面白かった。
  • 他のグループの発表を聞いて、対象層を意識することの大切さを知った。エネルギーとは何かを伝える難しさを実感した。

「広報・教育」TOPに戻る